特許第5671198号(P5671198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5671198手持ち式作業機および電動モータの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671198
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】手持ち式作業機および電動モータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   H02P5/00 U
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2007-328321(P2007-328321)
(22)【出願日】2007年12月20日
(65)【公開番号】特開2008-161048(P2008-161048A)
(43)【公開日】2008年7月10日
【審査請求日】2010年11月19日
(31)【優先権主張番号】102006062354.1
(32)【優先日】2006年12月22日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598052609
【氏名又は名称】アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ロスカンプ
【審査官】 田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−314227(JP,A)
【文献】 特開平08−085468(JP,A)
【文献】 特表昭63−501999(JP,A)
【文献】 特開平11−353029(JP,A)
【文献】 特開平10−080872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
H02P 6/00−6/24
H02P 7/00−7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業、林業、または園芸に適用される手持ち式作業機(10)であって、電動モータ(M)と、電気エネルギー貯蔵手段(A)と、前記エネルギー貯蔵手段(A)から供給を受ける前記電動モータ(M)用の制御装置(S)とを有する駆動機構(20)を備え、
前記電動モータ(M)は、当該電動モータ(M)が消費する電流(i)と、当該電動モータ(M)の出力シャフト(22)の回転速度(n)との間に、低い回転速度(n)で高い電流消費量を示し、高い回転速度(n)で低い電流消費量を示すモータ特性曲線(30)を有し、
前記制御装置(S)は、前記電動モータ(M)を過負荷から保護し、前記電動モータ(M)を流れる前記電流(i)を最大値に制限するために、低回転速度領域における前記電動モータ(M)の電流(i)を、前記回転速度の関数として、前記モータ特性曲線(30)がこれらの回転速度に対して与える特性曲線値よりも少なくとも15%小さい値に制限する制御特性曲線(34IV)を前記電動モータ(M)に付与し、
前記制御特性曲線(34IV)は、前記電動モータ(M)の電流(i)が制限される低回転速度領域において、前記回転速度の関数として前記モータ特性曲線(30)の勾配とは逆符号の勾配を持つ制御特性曲線部(37IV)を有し、その結果、前記制御特性曲線(34IV)は、中間回転速度領域において最大トルクを示すことを特徴とする、手持ち式作業機。
【請求項2】
前記電流消費量は前記電動モータ(M)の温度とは無関係に制限されることを特徴とする、請求項1に記載の手持ち式作業機。
【請求項3】
前記制御装置(S)は、前記電動モータ(M)の前記モータ特性曲線(30)によってあらかじめ規定される前記回転速度領域を、少なくとも3つの複数の回転速度領域に分割し、前記電動モータ(M)の前記モータ特性曲線(30)よりも勾配の緩い制御特性曲線部が、少なくとも中間回転速度領域に形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の手持ち式作業機。
【請求項4】
前記電流消費量は高回転速度領域において実質的に制限されないことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の手持ち式作業機。
【請求項5】
前記制御装置(S)は前記低回転速度領域における前記電動モータ(M)の前記電流(i)を、前記電動モータ(M)の前記モータ特性曲線(30)がこれらの回転速度に対して与える特性曲線値よりも少なくとも20%低い値に全体的に制限することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の手持ち式作業機。
【請求項6】
農業、林業、または園芸に適用される持ち運び可能な作業機(10)の駆動機構(20)用の、電気エネルギー貯蔵手段(A)から供給を受ける電動モータ(M)を制御する方法であって、
前記電動モータ(M)は、当該電動モータが消費する電流(i)と当該電動モータの出力シャフト(22)の回転速度(n)との間に、低い回転速度(n)で高い電流(i)を示し、高い回転速度(n)で低い電流消費量を示すモータ特性曲線(30)を有し、
前記電動モータ(M)を過負荷から保護し、前記電動モータ(M)を流れる前記電流(i)を最大値に制限するために、低回転速度領域における前記電動モータ(M)の電流(i)を、前記回転速度の関数として、前記モータ特性曲線(30)がこれらの回転速度に対して与える特性曲線値よりも少なくとも15%低い値に制限する制御特性曲線(34IV)を前記電動モータ(M)に付与し、
前記制御特性曲線(34IV)は、前記電動モータ(M)の電流(i)が制限される低回転速度領域において、前記電流(i)が、前記回転速度の関数として前記モータ特性曲線(30)の勾配とは逆符号の勾配を持つ制御特性曲線(37IV)で表され、その結果、前記制御特性曲線(34IV)は、中間回転速度領域において最大トルクを示すことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記回転速度は、前記電動モータの電気的変数から導出されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業、林業、および園芸に適用される移動式、特に手持ち式または持ち運び可能な作業機用の駆動機構であって、電動モータと、電気エネルギー貯蔵手段と、前記エネルギー貯蔵手段から供給を受ける前記電動モータ用の制御装置とを備えた駆動機構に関する。前記電動モータは電動モータ自身が消費する電流と、電動モータの出力シャフトの回転速度との間に特定の、特に線形の特性曲線を有し、前記制御装置は、前記電動モータを過負荷から保護するために、前記電動モータを流れる電流を最大値に制限する電流制限手段を有している。
【0002】
本発明はまた、対応する電動モータの制御方法と、この種の駆動機構を備えていて、農業、林業、および園芸に適用される手持ち式の作業機とに関する。
【背景技術】
【0003】
電気工学のほぼ全分野で、通電部品を過負荷から保護するために電流制限手段を使用することが知られている。これら電流制限手段は電流がある所定の許容限度を超えたとき(例えば他の部品の不具合や、操作者の不適切な制御操作等のため)に初めて効力を発する。したがって換言すれば、電流は印加された電圧および/またはそれぞれの電気抵抗に関係なく一般的に最大値に制限されている。
【0004】
下記特許文献1には温度補償型電流制限手段を手動工具等の駆動用の電動モータに使用することが開示されている。同文献ではモータを流れる電流を電流直列分流器を用いて計測することが提案されている。次いで、直列分流器の温度をNTC抵抗を用いて計測し、電動モータの温度は直列分流器の温度から間接的に検出される。臨界モータ温度に達すると、電流供給はユーザが知覚可能な方法で連続的に低減される。これに応じてユーザは工具から負荷を取り除き、その結果電動モータは再度速やかにクールダウンすることができる。
【0005】
農業、林業、および園芸に適用される作業機の分野では、内燃機関によって駆動される機器がまず第1に知られている。これらの機器は業務用に頻用されている。さらに、電気駆動される作業機が知られている。この場合、特に個人使用の分野では、コンセントから電動モータに電源供給することが公知である。このためには、ケーブルを介して固定コンセントプラグを作業機に接続する必要がある。適切な距離内に利用できるコンセントプラグがないため、この種の機器は一般に業務用には使用できない。電気駆動される作業機の場合、電気エネルギー貯蔵手段(例えば、NiCd充電池)から電力供給を受ける作業機が個人および業務用の両方の分野で知られている。しかしながら、リチウム系充電池が数年前から使われてきている。この種の充電池は一般に業務用の作業機にも適している(下記特許文献2参照)。この文献では電流制限器を使用してリチウム系電池を保護することが提案されている。
【特許文献1】独国特許出願公開第3422485号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/053915号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この様な背景のもとに、本発明の目的は手持ち式作業機のための駆動機構の改良、この種の駆動機構用の電動モータの制御方法の改良、ならびに農業、林業、および園芸に適用される手持ち式作業機の改良を詳細に説明することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、農業、林業、および園芸に適用される移動式、特に手持ち式または持ち運び可能な作業機用の前記駆動機構であって、電動モータと、電気エネルギー貯蔵手段と、前記エネルギー貯蔵手段から供給を受ける前記電動モータ用の制御装置とを備え、前記電動モータが当該電動モータが消費する電流と、当該電動モータの出力シャフトの回転速度との間に特定の、特に線形の特性曲線を有し、前記制御装置が、前記電動モータを過負荷から保護するために、前記電動モータを流れる前記電流を最大値に制限する電流制限手段を有する前記駆動機構において、前記制御装置が低回転速度領域における前記電動モータの電流消費量を、前記電動モータの前記特性曲線がこれらの回転速度に対して与える特性曲線値よりもかなり小さい値に制限することによって達成される。
【0008】
電動モータは一般に、低回転速度で高い電流消費量を示し、高回転速度で低い電流消費量を示す特性曲線を有している。この場合、電流消費量が高いということはまた一般的に、電動モータが発するトルクも高いということを意味している。
これに対し、内燃機関は低回転速度で比較的低いトルクを示し、中間回転速度領域で比較的高いトルクを示し、かつ高回転速度領域で比較的低いトルクを示す特性曲線を有している。
【0009】
一般に、電動モータの低回転速度領域で高いトルクを示す特性は全面的に望ましい。
しかしながら、本発明は電流消費量を特に低回転速度領域において全体的に、つまり他のパラメータとは無関係に制限することを提案する。換言すると、制御装置は電動モータに新規な特性曲線を付与し、この特性曲線によって低回転速度領域における電流消費量が低減される。
【0010】
この結果、作業機が低回転速度領域において供給するトルクは、使用される電動モータによって供給可能なトルクよりも一般に低くなる。これは一見不利であるように見えるが、一連の利点を伴う。
農業、林業、および園芸に適用される作業機において、作業機は大抵の場合、基本回転速度に設定される。次いで電動モータにかかる負荷は、特に例えばユーザの動作の変化や状態の変化(例えば枝の太い/細いなど)に起因して、連続的に変化する。
【0011】
負荷が大きく増加すると、モータの回転速度が減少する。その結果、電流がかなり大幅に増加し、よって電流消費量がかなり高くなる。これによって持ち運び可能なエネルギー貯蔵手段の動作時間が減少し、モータの効率もまた低減される。
低回転速度領域における「動的な」電流制限の結果、このような状況下での電流消費量が低減される。これよってエネルギー貯蔵手段の動作時間が長くなる。ユーザもまた、作業機に過大な力をかけると、より良好な「フィードバック」を受ける。従来の電動モータ付駆動機構の場合、電動モータは低回転速度領域においてより高いトルクを発生していたため、このことはユーザにとってそれほど明白ではなかった。これに対し、本発明による駆動機構を備えた作業機のユーザは自身の行った動作に対してより良好な反応を受ける。
【0012】
概して、これにより電動モータの急速すぎる過熱を防ぐことができる。従来のように電流を最大値に制限する代わりに、電流消費量を全体的に制限することが可能である。しかしながら、例えばヒュージブルリンク等、電動モータの過負荷を防止するために追加の電流制限デバイスが設けられてもよいことは言うまでもない。しかしながら、この種の追加の電流制限デバイスの最大電流は一般に、本発明の全体的な電流制限手段によって許容される最大電流よりも高い。
【0013】
この場合、本発明によると、電流消費量は低回転速度領域において回転速度に応じて制限される。換言すると、この低回転速度領域内での電流消費量は、単一の固定電流値に制限されない。その代わり、この回転速度領域内での電流制限に、回転速度が異なれば強度が異なるという特性を付与することができる。その結果、この様にして生じた制御特性曲線は低回転速度領域において非ゼロ勾配を有するか、または勾配の異なる複数の部分を有することが可能である。この回転速度領域において非線形制御特性曲線部を実現することも可能である。
【0014】
さらに本発明は、作業機の電力特性を用途に応じて最適化するよう設定することが可能である。
前記目的はまた、電動モータの対応する制御方法および本発明による駆動機構を備えた手持ち式作業機によっても達成される。
上述の通り、低回転速度領域における電流消費量は全体的、つまり前記駆動機構の他の動作パラメータとはほぼ無関係に制限される。
【0015】
特に、前記電流消費量は、前記電動モータの温度とは無関係に全体的に制限される必要がある。
さらに好ましい実施形態によると、前記制御装置は前記電動モータの前記特性曲線によってあらかじめ規定される前記回転速度領域を少なくとも3つの複数の回転速度領域に分割し、前記電動モータの前記特性曲線よりも勾配の緩い(浅い)制御特性曲線部が少なくとも中間回転速度領域に形成される。
【0016】
本実施形態においては、「動的な」電流制限が、中間回転速度領域におけるのと同程度に早く確立される。
その結果、制御装置の中間回転速度領域における制御特性曲線を、例えば定性的および/または定量的に内燃機関の特性曲線に一致させることが可能となる。これにより特定の種類の作業機を、本発明による駆動機構による駆動または内燃機関を備えた駆動機構による駆動の別にかかわりなく動作させることが可能となる。したがってユーザは、異なった種類の動作に備える必要がなくなる。
【0017】
ここで、前記中間回転速度領域における前記制御特性曲線部よりも勾配の緩い制御特性曲線部が前記低回転速度領域に形成されると特に有利である。
これにより、低回転速度において中間回転速度におけるよりもさらに強度の動的な電流制限を実現することができる。
さらに、電流制限を一つの制御特性曲線部から他の制御特性曲線部へほぼ連続的に変化させることが可能となる。安定した制御曲線プロフィルを形成することができ、その結果作業機の円滑動作が可能となる。
【0018】
特に好ましい実施形態によると、前記制御曲線部の前記勾配は前記低回転速度領域においてゼロである。
この様にして電流を超低回転速度領域においてかなり厳密に制限することができ、こうしてモータの過負荷や持ち運び可能なエネルギー貯蔵手段からの過剰電力引き出しに対抗することができる。
【0019】
制御特性曲線部は通常、任意の所望の形状を取ることが可能であるが、いずれの場合も線形であることが好ましい。一般に、制御特性曲線領域は正の勾配かまたはゼロ勾配を有することが好ましい。しかしながら、超低回転速度領域において負の勾配を有する制御特性曲線部を形成することも一般的に可能である。
また、概して、電流消費量は高回転速度領域において実質的に制限されないことが好ましい。
【0020】
この領域で提供されるトルクは、いずれにしても低電流のため、より正確には電動モータの特性曲線のため比較的低いので、この回転速度領域では電流消費量を制限しないことが好ましい。
概して、前記制御装置は少なくとも前記低回転速度領域における前記電動モータの前記電流消費量を、前記電動モータの前記特性曲線がこれらの回転速度に与える特性曲線値よりも少なくとも20%低い値に全体的に制限することが好ましい。
【0021】
この結果、エネルギーはこの回転速度領域において効果的に節減される。
概して、制御特性曲線は作業機の各用途に合わせ、電動モータが同一でも作業機が異なれば異なった制御特性曲線が与えられるようにすることが好ましい。
また、電流制限を電圧調整に基づき行うことも好ましい。この場合、制御変数として、計測された回転速度かまたは各電動モータに固有の特性図のいずれかを用いることができる。
【0022】
本発明による方法において、前記電流は効率最適化のために制限されることが好ましい。換言すればこれは、この種の電流制限によって手持ち式作業機の全体的な効率が改善され、その結果、所定の充電池による充電で概ねより長い動作時間が達成できるということを意味している。
さらにユーザを、最適効率かまたはそれに近い効率で作業機を操作するように、電流制限およびトルクプロフィルを用いて「制御」することが可能である。
【0023】
さらに好ましい実施形態によると、電流制限により生じる前記制御特性曲線は、電流が制限される領域にヒステリシス部を包含している。
言い換えると、ヒステリシス部内の電流は回転速度が増加するか減少するかにより異なる方法で制限される。
この場合、前記回転速度の増加時に比較的高い電流が消費され、かつ前記回転速度の減少時に比較的低い電流が消費されるよう前記ヒステリシス部が設計されていると特に有利である。
【0024】
換言すればこの結果、回転速度の減少時に(例えば高負荷などにより)電流消費量をかなり大幅に抑えることができ、相当なエネルギー節減を行うことができる。
一方、例えば前記電動モータの静止状態からの始動時など回転速度が増加する場合、高始動トルクが望ましい用途(例えば電動鋸または刈り込み鋏)もある。そのため、回転速度の増加時に電流がほんのわずかだけ制限される。
【0025】
さらに別の実施形態によると、前記電流制限により生じる前記制御特性曲線は、電流が制限される領域に負の勾配を有する部分を包含している。
この実施形態において制御特性曲線は、一般に中間回転速度領域においてさえ最大トルクを有し、特に低回転速度領域においては低トルクのみを提供することが可能な内燃機関の典型的な特性曲線に、さらにはっきりと近似している。
【0026】
この措置により、手持ち式作業機の動作を内燃機関による駆動または電動モータによる駆動の別にかかわらず、ユーザにとって概ね同様とすることができる。
あるいは、前記電流制限により生じる前記制御特性曲線は、電流が制限される領域に、前記電動モータの静止状態からの始動時に極めて高い電流が消費される始動部を包含することも可能である。
【0027】
前述したように、この様にして発生した始動トルクが用途によっては極めて有利である場合もある。一般に、始動部はかなり狭く設計することが可能であり、その結果高始動トルクが実際には超低回転速度領域においてのみ提供されるが、電流の制限は制御特性曲線部の他のすべての回転速度領域において効率が最適化されるように行われる。
電流消費量は電動モータの回転速度に応じて制限されるが、電動モータの回転速度は例えば回転速度センサによって計測可能である。
【0028】
ただし、前記回転速度は電動モータが消費する電圧および/または電流などの前記電動モータの電気的変数から導出されることが好ましい。
本実施形態においては別体の回転速度センサを必要としない。
前記特徴および以下に説明する特徴を、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれ記載した組み合せのみならず他の組み合せにおいても、または単独ででも用いることができることは言うまでもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態の例を以下に詳述し、図に示す。
図1において、農業、林業、および園芸に適用される作業機が参照符号10により模式的に示されている。
作業機10は、この場合には刈り込み鋏の刃14として模式的に示される工具12と、全体を参照符号20で示す駆動機構とを有している。
【0030】
刃14が示すように、作業機は刈り込み鋏であってもよい。本発明による作業機10の他の例としてはトリマ、芝生の縁刈り機、チェーンソー、地面穿孔機、送風機、真空破砕機、電動鎌、切断鋸、真空装置(湿式または乾式)、噴霧機、および送風機、高圧クリーナ、芝刈機などがある。
作業機10は、操作者による移動または案内が可能な手持ち式作業機の形をとることが好ましい。作業機10は概して業務用に設計されている。
【0031】
駆動機構20は電動モータMと、制御装置Sと、充電式で交換可能な充電池パックAの形をとる電気エネルギー貯蔵手段とを有している。
エネルギー貯蔵手段Aは、より正確には制御装置S用に電源電圧Uを供給している。制御装置Sは電動モータMに電流iを供給している。電動モータMは出力シャフト22を有している。出力シャフト22は工具12に直接接続されているか、または、例えば回転/並進コンバータおよび/またはステップダウンギヤ機構等の任意の所望のコンバータによって接続されている。この種のコンバータは図1に参照符号24によって示されている。
【0032】
制御装置Sはまず、それ自体が公知のパワーエレクトロニクスシステム28を電動モータMの起動用に有している。パワーエレクトロニクスシステム28は制御装置Sとは別体に形成することも可能である。制御装置Sはまた、電流制限手段26を有している。
電流制限手段26は電動モータMに、電動モータM自身の電流消費量が低回転速度および場合により中間回転速度領域において全体的に制限される制御特性曲線を付与する働きをする。電流制限手段26はその入力端に出力電圧Uを受ける。電流制限手段26にはまた、出力シャフト22の回転速度nに関する情報が供給される。
【0033】
電流制限手段26は任意の所望の方法で電動モータMに制御特性曲線を付与することができる。これは、例えば回転速度nを制御変数として含み得る電圧調整手段により行われることが好ましい。
あるいは、電動モータMそれぞれに固有の特性図であって、回転速度と、電流と、電圧との間に固定的な関係が成立する特性図を制御装置Sに記憶させることも可能である。
【0034】
図2はモータ電流iの回転速度nに対するグラフである。電動モータMのモータ特性曲線30が、まず図2のグラフにプロットされている。モータ特性曲線30は電動モータの通常の特性曲線であり、低回転速度における比較的高い電流から高回転速度における低い電流へと、概ね直線状に延びている。
図2はまた、農業、林業、または園芸に適用される作業機に通常用いられる内燃機関の特性曲線32を点線で示している。ある無負荷の回転速度から始動した内燃機関はまず、当初はかなり低いトルクを無負荷の回転速度領域において生ずることが可能である。このトルクは次いで、中間回転速度領域においてある程度増加し、高回転速度において再び減少する。内燃機関の特性曲線32は高回転速度においては電動モータMの特性曲線30と実質的に一致するものの、中間および低回転速度において特性曲線30および32の特性は全く異なっている。電動モータにおいては、低回転速度でエネルギー所要量が大幅に増加し、その結果生ずるトルクも大幅に増加する。内燃機関においては、発生するトルクが低回転速度で減少する。この状況下で、特性曲線32においてはy軸が内燃機関が生ずるトルクと一致する、つまり、例えばスロットルバルブ位置に比例することは言うまでもない。通常の電動モータにおいては、モータ電流が同様に所定のトルクに比例する。
【0035】
電流制限手段26は、ここでは図2に参照符号34で示される制御特性曲線を電動モータMに付与する。
制御特性曲線34は複数の制御特性曲線部から構成されている。この場合、モータ特性曲線30がカバーする回転速度領域は複数の個別の回転速度領域に分割されている。具体的には低回転速度を包含する第1回転速度領域36、いくぶん高い回転速度を包含する第2回転速度領域38、前記回転速度領域38に続く第3回転速度領域40であって、中間回転速度を包含する第3回転速度領域40、前記回転速度領域40に続く第4回転速度領域42であって、同様に中間回転速度を包含する第4回転速度領域42、および前記第4回転速度領域42に続く第5回転速度領域44であって、最大回転速度までの高回転速度を包含する第5回転速度領域44である。
【0036】
第1回転速度領域36において、制御特性曲線34は、直線形状、より正確にはゼロ勾配の制御特性曲線部37を有している。制御特性曲線部37は、例えば通常の特性曲線30のときに本回転速度領域36内で到達する電流よりも少なくとも15%、20%、または30%低い最大モータ電流imaxを示している。
第2回転速度領域38において、制御特性曲線34は、直線形状であって、モータ特性曲線30の勾配にほぼ一致する第2制御特性曲線部38を有している。第3回転速度領域40において、制御特性曲線34は、また直線形状で、モータ特性曲線30よりも勾配のかなり緩い第3制御特性曲線部41を有している。第4回転速度領域42において、制御特性曲線34は、また直線形状の制御特性曲線部43を有している。第4制御特性曲線部43の勾配は、制御特性曲線部41の勾配と制御特性曲線部39の勾配との中間である。
【0037】
ここで、比較の対象となるのは通常各勾配の大きさであることは言うまでもない。
第5回転速度領域44において、制御特性曲線34はモータ特性曲線30の対応部と同一の制御特性曲線部45を有している。
換言すると、第5回転速度領域44においてモータ電流iは、与えられた制御特性曲線34による制限を全く受けない。第4回転速度領域42においてモータ電流iは、ある程度の制限を相対的に受ける。第3回転速度領域40においてモータ電流iは、より強い制限を相対的に受ける。第2回転速度領域38において電流は再び、いくぶん程度の低い制限を相対的に受ける。第1回転速度領域36において、モータ電流iは常に固定電流imaxに制限される、つまり相当強い制限を相対的に受ける。
【0038】
したがって、電流消費量を特に低回転速度領域において低減するために、モータ電流iは制御特性曲線34により「動的に」制限されている。さらに、ユーザが作業機に「過大な圧力をかけ」た場合に、「フィードバック」を受け取ることが可能である。
さらにまた電動モータMの効率は、通常、低回転速度においていくぶん低くなっている。したがって、本発明による制御特性曲線34は電流消費量を低減して作業機10の効率を全体的に上げることができる。さらに、エネルギー貯蔵手段Aの動作時間を特に長くすることが可能である。
【0039】
これらは全て、モータ電流を適正なトルク特性値に電子的に制限することによって達成される。適正なトルク特性値は、例えば作業機の典型的な用途によって異なるため、図2の制御特性曲線34は単なる一例であると理解すべきである。
図3もモータ特性曲線30に加えて、2つの代替的な制御特性曲線34’および34”を示している。
【0040】
制御特性曲線34’は、図2の制御特性曲線34と定性的にほぼ同等の5個の制御特性性曲線部37’、39’、41’、43’、および45’に分割されている。
制御特性曲線34”は、利用可能な回転速度領域において3つの回転速度領域にのみ分割されている。そのうち、第1制御特性曲線部37”においてモータ電流iは固定値に制限され、最後の制御特性曲線部45”において制御特性曲線34”はモータ特性曲線30と一致し、中間制御特性曲線部39”はモータ特性曲線30よりもいくぶん緩い勾配を有している。
【0041】
以下の説明は一般に、制御特性曲線部34、34’および34”に当てはまる。中間回転速度領域において、制御特性曲線34は好ましくは内燃機関32の特性に近似する。低回転速度領域においては、電気モータMの一般的な長所、つまり低回転速度領域において比較的高いトルクを一般に供給することができるという長所が活用されている。しかしながら、この領域においては既に、かなり強い電流制限が行われている。その結果、エネルギー貯蔵手段Aの動作時間、すなわちエネルギー貯蔵手段Aが放電して充電が必要となるまでの時間は相対的に長くなる。
【0042】
図4および図5は、本発明による制御特性曲線のさらに他の実施形態を示している。上述の制御特性曲線に関する上記の情報が、これらの制御特性曲線にも当てはまる。しかしながら、以下に説明する制御特性曲線は、次に述べる固有の特徴を有している。
図4は、制御特性曲線部45’’’と第1電流制限制御特性曲線部41’’’とを有する制御特性曲線部34’’’を示している。さらに第2電流制限制御特性曲線部がヒステリシス部37a’’’,37b’’’として形成されている。前記ヒステリシス部は、回転速度の増加時に比較的高い電流37b’’’が消費されるように設計されている。回転速度の減少時には、比較的低い電流37a’’’が消費される。
【0043】
言うまでもなく、この種のヒステリシス部は好ましくはゼロ回転速度を含む回転速度限界域に隣接するが、これは必ずしも必要ではない。始動時に比較的高いトルクが与えられるとき、ゼロ回転速度における最大電流が電動モータMの発生する最大電流と一致することも有利であるが、これも必須ではない。
一般に、電動モータの通常の特性曲線30が始動時に一般に「用いられ」、回転速度が減少する逆方向のみにおいて電流が制限されるようにヒステリシス部を形成することも可能である。
【0044】
図5は本発明によるさらに2つの制御特性曲線34IV,34を示している。
制御特性曲線34IVは第1の「通常の」制御特性曲線部41IVと、制御特性曲線34IVの勾配が負となる第2の制御特性曲線部37IVとを有している。
したがって、制御特性曲線34IVの形状は概して、図2の参照符号32によって示されるような内燃機関の特性曲線の形状と一致している。
【0045】
ゼロ回転速度と隣接する領域50において、制御特性曲線34は急勾配を有するため、始動トルクとして用いることができる比較的高い駆動トルクを電動モータの始動時に発生することが可能である。
上記説明における勾配の大きさとは、言うまでもなく、通常、特性曲線または特性曲線部の勾配に言及するときに意味するものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明による駆動機構を備えていて、農業、林業、および園芸に適用される作業機の模式図である。
図2】電動モータの特性曲線、内燃機関の特性曲線、および本発明による制御特性曲線を示す、電流の回転速度に対するグラフである。
図3図2と対応する、本発明による異なる特性曲線を示すグラグである。
図4】ヒステリシス部を有する本発明の他の制御特性曲線を示すさらなるグラフである。
図5】本発明による制御特性曲線を示すさらなるグラフである。
図1
図2
図3
図4
図5