特許第5671204号(P5671204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5671204カルバペネム抗生物質中間体の改良された晶析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671204
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】カルバペネム抗生物質中間体の改良された晶析方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/553 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   C07F9/553
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2008-513151(P2008-513151)
(86)(22)【出願日】2007年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2007058404
(87)【国際公開番号】WO2007125788
(87)【国際公開日】20071108
【審査請求日】2010年2月23日
【審判番号】不服2013-12268(P2013-12268/J1)
【審判請求日】2013年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2006-125478(P2006-125478)
(32)【優先日】2006年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】西野 敬太
(72)【発明者】
【氏名】古賀 照義
(72)【発明者】
【氏名】深江 正文
(72)【発明者】
【氏名】上田 恭義
【合議体】
【審判長】 井上 雅博
【審判官】 中田 とし子
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−311092(JP,A)
【文献】 特開2000−44587(JP,A)
【文献】 特開平4−330085(JP,A)
【文献】 特開平6−321946(JP,A)
【文献】 特開平1−268688(JP,A)
【文献】 特開2003−26680(JP,A)
【文献】 特開昭64−79180(JP,A)
【文献】 特表2005−508321(JP,A)
【文献】 特開平10−195076(JP,A)
【文献】 化学同人編集部編,続・実験を安全に行うために,化学同人,1994年10月10日,新版,第10刷,p.81−85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/90
C07D 477/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
で表される化合物が溶解した溶液に、炭化水素系溶媒を混合して種晶を析出し、10分以上の熟成を行って、前記種晶の量が、前記式(1)で表される化合物重量に対して5重量%以上200重量%以下となるようにし、
その後、炭化水素系溶媒を添加し晶析することを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
晶析によって得られた前記式(1)で表される化合物の結晶中、粒径が350μm以上である結晶の重量比率が31%以上であることを特徴とする請求項1に記載の晶析方法。
【請求項3】
炭化水素系溶媒を連続添加または分割添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の晶析方法。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が溶解した溶液において、前記式(1)で表される化合物を溶解する溶媒が、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素類からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の晶析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の晶析方法により得られた一般式(1):
【化2】
で表される化合物の結晶であって、その結晶中、
粒径が350μm以上である結晶の重量比率が31%以上であり、
粒径が177μm未満である結晶の重量比率が24%以下であり、
粒径が500μm以下である結晶の嵩密度が0.39以上であることを特徴とする前記式(1)で表される化合物の結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1β−メチルカルバペネム化合物の共通合成中間体として極めて有用なアゼチジノン化合物の改良された晶析方法、及び不純物の含有量が少ない高純度アゼチジノン化合物、及び結晶の粒径分布が制御され、操作性、安定性が向上したアゼチジノン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
1β−メチルカルバペネム化合物は、広範囲の病原菌に対して優れた抗菌作用を示し、かつ、生体内での安定性にも優れていることから最も注目されている抗菌剤の一つである。上記1β−メチルカルバペネム化合物を合成するための有用な中間体として、一般式(1):
【0003】
【化5】
【0004】
で表されるアゼチジノン化合物が知られている(特許文献1、2、3)。前記式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略す場合がある)は、通常、特許文献4に記載されているように、化合物(1)とチオール化合物とのカップリング工程と、得られた中間体の脱保護工程の、わずか2つの工程で1β−メチルカルバペネム化合物を合成できるため、非常に重要でかつ有用な中間体である。
【0005】
化合物(1)の晶析方法として、化合物(1)を含有する塩化メチレン溶液にn−ヘキサンを滴下する晶析方法が開示されている(特許文献1)。また、合成反応で得た化合物(1)を含有する酢酸エチルやメチルイソブチルケトンなどの有機溶媒溶液に水を添加して混合溶媒とし、これに貧溶媒を添加する晶析方法が開示されている(特許文献2)。また、合成反応で得た化合物(1)を含有する酢酸エチルやメチルイソブチルケトンなどの有機溶媒溶液を、メチルエチルケトンの存在下で水洗し、分液操作により水溶性成分を除去した後、濃縮などの後処理操作を経て貧溶媒を添加する晶析方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、本発明者らによりこれらの方法を追試したところ、(A)得られる結晶には、不純物として、一般式(2):
【0006】
【化6】
【0007】
で表される化合物、一般式(3):
【0008】
【化7】
【0009】
で表される化合物及び/又は一般式(4):
【0010】
【化8】
【0011】
で表される化合物の含有量が0.4%以上であり、品質として十分満足できるものではなく、医薬品バルクを短段階で合成可能な有用な中間体としての位置付けを考慮すると、これらの不純物量をより少なく制御する必要がある、(B)晶析したスラリーを固液分離して結晶を取得する際、濾過性が悪いため、工業規模で生産を行う場合に濾過時間が長くなり、生産性の低下に繋がり、さらには、化合物(1)は溶液状態では分解が起こりやすく不安定であるため、濾過時間が長時間となる場合には不純物の増加に伴う品質の低下に繋がる、等の問題があることがわかった。さらに、(C)結晶形態の化合物(1)は40℃で20日経過しても分解がなく、その安定性は極めて良好であることが開示されているが(特許文献4)、本発明者らにより(特許文献4)に記載の方法と同様の方法で取得した結晶形態の化合物(1)について60℃での保存安定性を調べたところ、8日間で20%の分解が認められ、60℃といった過酷条件では安定性が悪く、工業規模での流通、保管を考える場合に、必ずしも長期間の保存に適していない、等の実用面での問題を有していることがわかった。
【特許文献1】特許3479720号公報
【特許文献2】特開平8−311092号公報
【特許文献3】特開2000−44587号公報
【特許文献4】特許3080417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、従来の晶析方法は、1)品質として十分満足できるものではない、2)結晶取得時の濾過性が悪く、工業規模での生産では濾過時間が長くなり生産性の低下や品質の低下に繋がる、3)過酷条件では取得した結晶の安定性が悪く長期間の保存には問題がある、といった課題を有しており、化合物(1)の晶析方法として十分であるとは言えず、これらの課題を解決する晶析方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記現状に鑑み、上記課題を解決する晶析方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、前記式(1)で表される化合物が溶解した溶液に、該化合物重量に対して200重量%以下の種晶の存在下、炭化水素系溶媒を添加することを特徴とする前記式(1)で表される化合物の晶析方法に関する。
【0014】
また、本発明は、不純物として、一般式(2):
【0015】
【化9】
【0016】
で表される化合物、一般式(3):
【0017】
【化10】
【0018】
で表される化合物及び/又は一般式(4):
【0019】
【化11】
【0020】
で表される化合物の含有量が0.3%以下に抑制された前記式(1)で表される化合物に関する。
【0021】
また、本発明は、前記式(1)で表される化合物の結晶中、粒径が350μm以上である結晶の重量比率が31%以上であることを特徴とする前記式(1)で表される化合物に関する。
【0022】
また、本発明は、前記式(1)で表される化合物の結晶中、粒径が177μm未満である結晶の重量比率が24%以下であることを特徴とする前記式(1)で表される化合物に関する。
【0023】
さらに、本発明は、前記式(1)で表される化合物の結晶中、粒径が500μm以下である結晶の嵩密度が0.39以上であることを特徴とする前記式(1)で表される化合物に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる方法によれば、1β−メチルカルバペネム化合物の共通合成中間体として極めて有用なアゼチジノン化合物に関して、従来よりも高品質で、高い安定性を有していて、さらに結晶取得時の濾過性に優れた結晶を取得できる。また、このようにして得られる化合物は、不純物の含有量が少なく、また、結晶の粒径分布が制御され、操作性、安定性が向上したアゼチジノン化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明を詳しく述べる。
【0026】
本発明は、一般式(1):
【0027】
【化12】
【0028】
で表される化合物が溶解した溶液に、前記式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と略す場合がある)重量に対して200重量%以下の種晶の存在下、炭化水素系溶媒を添加することを特徴とする。
【0029】
まず、化合物(1)が溶解した溶液について説明する。
【0030】
化合物(1)が溶解した溶液とは、後述する富溶媒に、化合物(1)が溶解した溶液を指す(以下、化合物(1)の富溶媒溶液と略す場合がある)。富溶媒とは、化合物(1)の溶解度が高い溶媒であり、以下に具体的な例を挙げて説明する。
【0031】
富溶媒としては特に制限されないが、例えば、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、3−メチル−2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン)、2−ヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル等のエステル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;n−ブタノール、n−ペンタノール、2−ブタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。上記の溶媒の中で好適にはケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素類またはそれらの混合溶媒であり、より好ましくは酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、アセトン、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノンまたはそれらの混合溶媒である。
【0032】
本発明で用いる化合物(1)の富溶媒溶液は、化合物(1)を公知の方法で合成した富溶媒を含む粗反応液でもよいし、一旦単離した化合物(1)を富溶媒に溶解してもよい。また、化合物(1)の粗反応液を必要に応じて水(酸、塩基、塩などを含んでいてもよい)による洗浄、濃縮による濃度調整、不溶物の濾過処理、活性炭による吸着処理等の後処理を行って調製した溶液であってもよい。また、言うまでもなく、富溶媒以外の溶媒が悪影響のない範囲で存在してもよい。例えば、化合物(1)の富溶媒溶液に水溶性成分を除去するための水を添加して、結果的にエマルジョンを形成した層を含んでいてもよいし、二層に分離していてもよい。また、後述する炭化水素系溶媒が混入していてもよい。
【0033】
化合物(1)の富溶媒溶液の濃度は、使用する富溶媒により異なり、特に制限されないが、生産性や回収率などを考慮して通常は5wt%以上であることが好ましく、8wt%以上が更に好ましい。また、富溶媒溶液の濃度の上限は、操作性を考慮して、通常は、使用する富溶媒に対する化合物(1)の飽和溶解度以下であることが好ましいが、過飽和の溶液であっても構わない。
【0034】
次に、化合物(1)が溶解した富溶媒溶液に添加する炭化水素系溶媒について説明する。
【0035】
炭化水素系溶媒としては特に制限されないが、炭素数5〜20の鎖状または環状の脂肪族炭化水素類、炭素数6〜20の芳香族炭化水素類、及び炭化水素類を混合した溶媒としてエクソン化学株式会社製アイソパーE、アイソパーG等が挙げられる。炭素数5〜20の鎖状または環状の脂肪族炭化水素類としては、例えば、ペンタン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン等の鎖状飽和炭化水素類;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、プロピルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類;2−ペンテン、1−ヘキセン、シクロヘキセン等の不飽和炭化水素類等を挙げることができる。炭素数6〜20の芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも鎖状または環状の飽和炭化水素類が好ましく、安価で入手が容易である点からn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンが特に好ましい。
【0036】
次に、種晶及びその調製方法について説明する。
【0037】
種晶とは、一般に、飽和あるいは過飽和の溶液や過冷却の溶液から結晶化を誘起するために用いられる小結晶を指し、結晶化を誘起するために系外から添加することもできるし、自然発生したり、濃度勾配、温度勾配、外部からの刺激により過飽和溶液から作り出すこともでき、晶析に際して、系内で発生させた結晶核も、系外から添加した結晶核も新たな結晶核の発生を促す役目を果たす。過飽和溶液から結晶のできる過程は、まず核が発生し、次いで、その核が成長するという二つの段階に分けてとらえられ、晶出は結晶核の発生と結晶核からの成長の両現象が相伴って起こる。通常、晶析を実施したい化合物の過飽和溶液に対して種晶を添加することで結晶の析出が促される。本発明においては、通常種晶として用いられる量よりも多量に使用することで、核の発生よりも核の成長を促すことにより、高純度で、安定性および操作性等のあらゆる面で従来よりも有用な結晶が取得できる。
【0038】
種晶は、系外で別途調製したものを化合物(1)の富溶媒溶液に添加してもよいし、予め系内で調製してもよい。好ましくは、予め系内で調製したものである。
【0039】
本発明において、種晶の系内での調製は、自然発生や、濃度勾配、温度勾配、外部からの刺激等により実施される。系内で調製する方法としては、化合物(1)の富溶媒溶液と炭化水素系溶媒を混合することにより化合物(1)を析出させる方法が挙げられ、化合物(1)の富溶媒溶液に炭化水素系溶媒を添加し、化合物(1)を析出させる方法でもよいし、炭化水素系溶媒に化合物(1)の富溶媒溶液を一括添加、連続添加または分割添加して化合物(1)を析出させる方法でもよい。また、化合物(1)の富溶媒溶液を濃縮や昇温、冷却などの操作に付して化合物(1)を析出させる方法でもよい。さらにこれらの方法を組み合わせて行ってもよい。
【0040】
炭化水素系溶媒と混合して種晶を予め系内で調製する場合、化合物(1)の濃度としては特に制限されないが、富溶媒と炭化水素系溶媒を含有する溶液中、化合物(1)が過飽和となる濃度であればよい。これにより、通常2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内に種晶の析出が開始する。
【0041】
種晶の添加及び/又は調製を行う際の温度としては特に制限されないが、富溶媒溶液中での化合物(1)の安定性を考慮して、上限は60℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下であり、下限は−30℃以上、好ましくは−25℃以上、より好ましくは−20℃以上である。
【0042】
種晶の添加及び/又は調製には、通常撹拌を行いながら実施される。その際の撹拌の強さは特に制限されないが、単位体積当たりの撹拌所要動力として、通常0.01kW/m3以上であり、好適には0.05kW/m3以上であり、より好ましくは0.1kW/m3以上であり、更に好ましくは0.3kW/m3以上である。
【0043】
種晶の添加及び/又は調製に際して、種晶の添加途中及び/又は添加後、及び/又は種晶の調製途中及び/又は終了後に熟成工程を含むことが、結晶核の成長を促すことができる点で好ましい。熟成工程とは、具体的には、別途調製した種晶の添加や、化合物(1)の富溶媒溶液への炭化水素系溶媒の添加、あるいは、化合物(1)の富溶媒溶液の炭化水素系溶媒への添加等の操作を行わず、上記の攪拌操作、または、静置を行う工程を示し、結晶核の成長を促す工程である。熟成工程の時間としては特に制限されないが、1分以上であることが好適であり、10分以上が好ましく、より好ましくは20分以上であり、30分以上であることが更に好ましい。
【0044】
添加及び/又は調製した富溶媒溶液中の種晶の量は、富溶媒溶液中に溶解している化合物(1)が結晶化する際に結晶核の成長を促す量である必要がある。晶析に際して、晶析を実施したい化合物の過飽和溶液に対して種晶を極力少量添加することで結晶化させることが一般的であるが、本発明では多量の種晶存在下で結晶化を行う。本発明において、化合物(1)の富溶媒溶液中の種晶の存在量としては、富溶媒溶液中に溶解した化合物(1)の重量に対して200重量%以下、好ましくは150重量%以下、さらに好ましくは100重量%以下である。また、下限は、富溶媒溶液中に溶解している化合物(1)が結晶化する際に結晶核の成長を促す量として、1重量%以上、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上である。なお、基準となる富溶媒溶液中に溶解した化合物(1)の重量は、系内で種晶を調製する場合は、種晶を調製した後に溶液中に溶解した化合物(1)の量である。このようにして、富溶媒溶液中に溶解した化合物(1)が結晶化する際に、結晶核を成長させることにより、濾過性を改善することでき、濾過時間を短縮することが可能となる。さらに、得られる結晶形態の化合物(1)を高品質にコントロールでき、更に化合物(1)の安定性をも向上させることが可能となる。
【0045】
次に、本発明において化合物(1)の富溶媒溶液に炭化水素系溶媒を添加して晶析を行う際の操作条件について説明する。
【0046】
添加する炭化水素系溶媒の液量については、使用する富溶媒との組み合わせにより富溶媒と炭化水素系溶媒の混合溶媒に対する化合物(1)の溶解度が異なるため、特に制限されず、高い回収率を維持しつつ、且つ高純度で不純物の少ない結晶が取得できるように適宜設定するのが好ましいが、通常化合物(1)の富溶媒溶液に対し、下限は0.01v/v倍量以上が好ましく、0.03v/v倍量以上がさらに好ましく、0.05v/v倍量以上が特に好ましい。上限は10v/v倍量以下が好ましく、5v/v倍量以下がさらに好ましく、3v/v倍量以下が特に好ましい。なお、炭化水素系溶媒の量は、炭化水素系溶媒を添加することにより系内で種晶を調製する場合は、この際に加えた炭化水素系溶媒も含む。
【0047】
化合物(1)の富溶媒溶液に炭化水素系溶媒を添加する際の温度は特に制限されないが、富溶媒溶液中での化合物(1)の安定性を考慮して、上限は60℃以下、より好ましくは50℃以下であり、下限は−30℃以上、好ましくは−25℃以上、より好ましくは−20℃以上である。
【0048】
炭化水素系溶媒を添加する方法は特に制限されず、一括添加でも逐次添加でもよい。逐次添加は炭化水素系溶媒を連続的に添加することによって行ってもよいし、炭化水素系溶媒をいくつかに分割してそれらを順次添加することによって行ってもよい。逐次添加にかける時間は、添加時の温度、濃度や攪拌状態によって異なり、特に制限されないが、生産性などの観点から、上限は3時間以内が普通であり、2時間以内で行ってもよく、更に1時間以内で行ってもよい。
【0049】
炭化水素系溶媒の添加は、通常撹拌を行いながら実施される。その際の撹拌の強さは特に制限されないが、単位体積当たりの撹拌所要動力として、通常0.01kW/m3以上であり、好適には0.05kW/m3以上であり、より好ましくは0.1kW/m3以上であり、更に好ましくは0.3kW/m3以上である。
【0050】
炭化水素系溶媒を添加した後、晶析回収率を高めるため、冷却晶析や濃縮晶析を実施してもよい。言うまでもなく、化合物(1)の富溶媒溶液に炭化水素系溶媒を添加する方法と、冷却晶析や濃縮晶析を適宜組み合わせて実施してもよい。富溶媒の沸点が添加する炭化水素系溶媒の沸点よりも低い場合には、濃縮晶析を組み合わせることにより晶析回収率を高めることができる。また、富溶媒の沸点が添加する炭化水素系溶媒の沸点よりも高い場合でも冷却晶析を組み合わせることにより、富溶媒と炭化水素系溶媒の混合溶媒に対する化合物(1)の溶解度を低下させ、晶析回収率を高めることができる。
【0051】
本発明の晶析方法で得られた結晶形態の化合物(1)は、一般的な固液分離操作により単離することができる。本発明の晶析方法で得られたスラリーを固液分離操作に付す際、従来の晶析方法で得られたスラリーを固液分離操作に付す際と比較して、濾過性が非常に良好であり、化合物(1)の工業規模での製造を考慮すると、濾過時間を大幅に短縮することができ、非常に有効である。
【0052】
また、本発明の晶析方法で取得された化合物(1)の結晶には、不純物として、一般式(2):
【0053】
【化13】
【0054】
で表される化合物、一般式(3):
【0055】
【化14】
【0056】
で表される化合物及び/又は一般式(4):
【0057】
【化15】
【0058】
で表される化合物の含有量が0.3%以下に抑制され、非常に高品質であり、医薬品バルクを短段階で合成できる有用な中間体としての位置付けを考慮すると、これらの不純物量をより少なく制御できており非常に有用である。
【0059】
また、本発明の晶析方法によれば、従来の方法で取得された化合物(1)の結晶と比較して、粒径の大きな結晶の重量比率を上げることが可能になる。本発明の晶析方法で取得された化合物(1)の結晶と従来の方法で取得された化合物(1)の結晶について粒径分布を測定したところ、従来の方法で取得された結晶に比べて、本発明の晶析方法で取得された結晶の方が、粒径の大きな結晶の重量比率が多くなっていた。これは、多量の種晶存在下で結晶化させて、特に、種晶を添加及び/又は系内で調製する工程で熟成工程を行うことにより、新たな結晶核の発生ではなく、結晶核の成長を促すことができたためであると考えられる。本発明の晶析方法に従えば、粒径の大きな結晶の重量比率を上げることができ、化合物(1)の結晶中、粒径が350μm以上である結晶の重量比率が31%以上である化合物(1)を取得できる。なお、粒径が350μm以上である結晶の重量比率は、濾過等の取り扱い性の点から、好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは45%以上である。また、本発明の晶析方法に従えば、化合物(1)の結晶中、粒径が177μm未満である結晶の重量比率が24%以下である化合物(1)を取得できる。なお、粒径が177μm未満である結晶の重量比率は、濾過等の取り扱い性の点から、好ましくは20%以下、さらに好ましくは18%以下である。本発明の晶析方法で取得された化合物(1)の結晶と従来の方法で取得された化合物(1)の結晶について結晶の大きさを光学顕微鏡で確認したところ、従来の方法で取得された結晶よりも、本発明の晶析方法で取得された結晶の方が大きいことがわかった。このように結晶が大きくなるように、及び/又は、上述のように粒径分布を制御した結果、結晶取得時の濾過性を改善でき、化合物(1)の工業規模での生産を行う場合において、生産性の低下や、濾過時間延長による不純物増加に伴う品質の低下といった問題を回避することができる。
【0060】
また、本発明の晶析方法に従えば、従来の晶析方法で取得した結晶よりも粒径の大きな結晶が相対的に多くなり、それに伴い、嵩密度も大きくなる。本発明の晶析方法に従えば、例えば、化合物(1)の結晶中、粒径が500μm以下である結晶の嵩密度が0.39以上である化合物(1)を取得できる。結晶の嵩密度は、以下の観点から、より好ましくは0.40以上である。従来の晶析方法で取得された結晶に比べて、より小さい体積で取り扱うことができるため、市場での流通を考慮すると、容器数や運搬費の削減に繋がり、非常に有効である。
【0061】
さらに、本発明の晶析方法で取得された化合物(1)の結晶と従来の方法で取得された化合物(1)の結晶について60℃での保存安定性を測定したところ、従来の方法で取得された結晶に比べて、本発明の晶析方法で取得された結晶の方が、より安定であることがわかった。工業規模での製造では長期保管が必要な場合もあるため、保存安定性がより高い結晶は、より有用である。
【0062】
以上のように、本発明の晶析方法によれば、従来よりも高品質で、高い安定性を有していて、さらに結晶取得時の濾過性に優れ、嵩密度の大きい、有用な化合物(1)の結晶を取得できる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例、比較例、参考例を用いて、本発明をより一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(参考例1) p−ニトロベンジル (4R,5R,6S)−1−アザ−3−ジフェニルオキシホスホリルオキシ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−7−オキソビシクロ−[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボキシレート(1)の富溶媒溶液の調製
【0065】
【化16】
【0066】
窒素雰囲気下、(3S,4R)−3−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−(p−ニトロベンジルオシカルボニル)−2−オキソプロピル]−2−アゼチジノン21.6gをジクロロメタン500mlに溶解した溶液に、ロジウムオクタノエート135mgをジクロロメタン20mlに溶解した液を添加して、40℃で6時間反応させた。この反応液を−15℃に冷却し、同温度にてジフェニルクロロホスフェート16.4gを加えた。その後、この反応液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン9.5g、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン140mgをジクロロメタン110mlに溶解した溶液を、−15℃にて30分かけて滴下し、30分間反応させた。この反応液を10℃以下に保ちながら0.3規定塩酸水溶液216ml、5%炭酸水素ナトリウム水溶液216mlで順次、洗浄・分液した。得られた有機層を濃縮し、表記化合物(1)30.5gを含むジクロロメタン溶液150mlを得た。
【0067】
(実施例1)
参考例1で得た化合物(1)15.3gを含むジクロロメタン溶液に、n−ヘキサン10mlを15℃で3分かけて添加した。添加5分後には結晶が析出し、その後同温度で30分間熟成した。熟成後の結晶の析出量は、富溶媒に溶解している化合物(1)の量に対して25重量%であった。次いで、この富溶媒溶液に、n−ヘキサン100mlを15℃で30分かけて滴下し、同温度で1時間熟成させた。熟成後、60mm径の濾紙(フィルター4μm)を用いて得られたスラリーを濾過した。濾過に要した時間は50秒であり、以下に示す比較例1よりも短時間で濾過が終了した。得られた結晶ケーキを、ジクロロメタン15mlとn−ヘキサン60mlの混合溶液、及びn−ヘキサン75mlで順次洗浄した後、減圧下乾燥させて、表記化合物(1)の結晶15.2g(純度99%)を得た。得られた結晶を任意に取り出して光学顕微鏡で結晶の大きさを確認したところ、比較例1で得られた結晶よりも大きいことがわかった。
【0068】
(比較例1)
参考例1で得た化合物(1)15.2gを含むジクロロメタン溶液に、n−ヘキサン110mlを15℃で30分かけて滴下し、同温度で1時間熟成させた。熟成後、60mm径の濾紙(フィルター4μm)を用いて得られたスラリーを濾過した。濾過に要した時間は130秒であった。得られた結晶ケーキを、ジクロロメタン15mlとn−ヘキサン60mlの混合溶液、及びn−ヘキサン75mlで順次洗浄した後、減圧下乾燥させて、表記化合物(1)の結晶15.1g(純度99%)を得た。得られた結晶を任意で取り出して光学顕微鏡で結晶の大きさを確認した。
【0069】
(参考例2)
p−ニトロベンジル (4R,5R,6S)−1−アザ−3−ジフェニルオキシホスホリルオキシ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−7−オキソビシクロ−[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボキシレート(1)の富溶媒溶液の調製
【0070】
【化17】
【0071】
窒素雰囲気下、(3S,4R)−3−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−(p−ニトロベンジルオキシカルボニル)−2−オキソプロピル]−2−アゼチジノン21.7gを4−メチル−2−ペンタノン200mlに加え、メタンスルホン酸41mg、ロジウムオクタノエート132mgを順次添加して、52℃で1時間反応させた。この反応液を−10℃に冷却し、同温度にてジフェニルクロロホスフェート16.4g、2−ブタノン120mlを順次加えた。この反応液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン9.5g、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン140mgを2−ブタノン120mlに溶解した溶液を、−10℃にて30分かけて滴下し、30分間反応させた。反応後、この反応液を30℃以下で0.3規定塩酸水溶液200ml、5%炭酸水素ナトリウム水溶液200mlで順次、洗浄・分液し、表記化合物(1)27.8gを含む4−メチル−2−ペンタノン/2−ブタノンの混合溶液を得た。
【0072】
(実施例2)
参考例2で得た化合物(1)13.9gを含む4−メチル−2−ペンタノン/2−ブタノン溶液を、30℃を保ちながら、170mlとなるまで濃縮した。この溶液にヘキサン5mlを30℃で3分かけて添加した。添加後すぐに結晶が析出し、同温度で30分間熟成した。熟成後の結晶の析出量は、富溶媒に溶解している化合物(1)の量に対して194重量%であった。次いで、この富溶媒溶液にn−ヘキサン140mlを30℃で40分かけて滴下し、同温度で1時間熟成させた。熟成後、60mm径の濾紙(フィルター4μm)を用いて、得られたスラリーを濾過した。濾過に要した時間は60秒であり、以下に示す比較例2よりも短時間で濾過が終了した。得られた結晶ケーキを、4−メチル−2−ペンタノン36mlとn−ヘキサン36mlの混合溶液、及びn−ヘキサン72mlで順次洗浄した後、減圧下乾燥させて、表記化合物(1)の結晶12.2g(純度99%)を得た。
【0073】
(比較例2)
参考例2で得た化合物(1)13.9gを含む4−メチル−2−ペンタノン/2−ブタノン溶液を、30℃を保ちながら、170mlとなるまで濃縮した。この溶液にn−ヘキサン145mlを30℃で40分かけて滴下し、同温度で1時間熟成させた。熟成後、60mm径の濾紙(フィルター4μm)を用いて得られたスラリーを濾過した。濾過に要した時間は190秒であった。得られた結晶ケーキを、4−メチル−2−ペンタノン36mlとn−ヘキサン36mlの混合溶液、及びn−ヘキサン72mlで順次洗浄した後、減圧下乾燥させて、表記化合物(1)の結晶12.4g(純度98%)を得た。
【0074】
(参考例3)
p−ニトロベンジル (4R,5R,6S)−1−アザ−3−ジフェニルオキシホスホリルオキシ−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−7−オキソビシクロ−[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボキシレート(1)の富溶媒溶液の調製
【0075】
【化18】
【0076】
窒素雰囲気下、(3S,4R)−3−[(R)−1−ヒドロキシエチル]−4−[(R)−1−メチル−3−ジアゾ−3−(p−ニトロベンジルオキシカルボニル)−2−オキソプロピル]−2−アゼチジノン25.0gを酢酸エチル215mlに溶解し、メタンスルホン酸45mg、ロジウムオクタノエート152mgを順次添加して、52℃で2時間30分反応させた。この反応液を−7℃に冷却し、同温度にてジフェニルクロロホスフェート18.9g、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン117mgを順次添加し、N,N−ジイソプロピルエチルアミン9.3gを2時間かけて添加した。−7℃で30分間反応させた後、リン酸二水素ナトリウム5.0gと炭酸水素ナトリウム0.6gを水96mlに溶解させた水溶液を、10℃以下で10分かけて添加した。添加後45℃に昇温して、表記化合物(1)29.8gを含む酢酸エチルと水との混合溶液を得た。
【0077】
(実施例3)
参考例3で得た化合物(1)14.9gを含む酢酸エチルと水との混合溶液を20℃に冷却し、n−ヘプタン10mlを同温度で10分かけて添加した。添加後すぐに結晶が析出し、30分間熟成した。熟成後の結晶の析出量は、富溶媒に溶解している化合物(1)の量に対して150重量%であった。次いで、この富溶媒溶液にn−ヘプタン30mlを20℃で30分かけて滴下した後、5℃に冷却して1時間熟成させた。熟成後、60mm径の濾紙(フィルター4μm)を用いて得られたスラリーを濾過した。濾過に要した時間は5分であり、以下に示す比較例3よりも短時間で濾過が終了した。得られた結晶ケーキを、酢酸エチル11mlとn−ヘプタン9mlの混合溶液、及び水50mlで順次洗浄した後、減圧下乾燥させて、表記化合物(1)の結晶13.3g(純度98%)を得た。
【0078】
(比較例3)
参考例3で得た化合物(1)14.9gを含む酢酸エチルと水との混合溶液を20℃に冷却し、ヘプタン40mlを同温度で30分かけて添加した。添加中に結晶が析出し、添加終了後5℃に冷却して1時間熟成させた。熟成後、60mm径の濾紙(フィルター4μm)を用いて得られたスラリーを濾過した。濾過に要した時間は8分であった。得られた結晶ケーキを、酢酸エチル11mlとn−ヘプタン9mlの混合溶液、及び水50mlで順次洗浄した後、減圧下乾燥させて、表記化合物(1)の結晶13.3g(純度98%)を得た。
【0079】
(実施例4)不純物量の測定
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、及び比較例3で取得した結晶形態の化合物(1)を以下の2種類の分析条件で分析した。それぞれで取得された結晶中の化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)の不純物量の合計を表1に示す。本発明の晶析方法で得られる化合物(1)の不純物量は、従来の方法で得られる化合物(1)の不純物量よりも少なくなることがわかった。
[HPLC分析条件1]
機種 :(株)島津製作所製 LC−10Aシリーズ
カラム:(株)ジーエルサイエンス製ODSカラム
Inertsil ODS−2(4.6mm×150mm)
溶離液:アセトニトリル/酢酸緩衝液(pH6.0)=1/1(v/v)
流速 :1.0ml/min
検出 :254nm(UV検出器)
温度 :25℃
[HPLC分析条件2]
機種 :(株)島津製作所製 LC−10Aシリーズ
カラム:YMC製順相系カラム
YMC−Pack SIL A−003(4.6mm×250mm)
溶離液:酢酸エチル/n−ヘキサン=2/1(v/v)
流速 :0.5ml/min
検出 :270nm(UV検出器)
温度 :25℃
【0080】
【表1】
【0081】
(実施例5)結晶安定性の分析
実施例1、及び比較例1で取得した結晶形態の化合物(1)約500mgをそれぞれガラス瓶に秤量、密栓して、60℃の恒温室にて8日間放置した。初日の活性を100%としてHPLCにて残存活性を測定した結果を表2に示す。実施例1で取得した結晶の安定性は比較例1で取得した結晶の安定性よりも極めて良好であることがわかった。
【0082】
【表2】
【0083】
(実施例6)結晶粒径分布の測定
実施例2、比較例2、実施例3、及び比較例3で取得した結晶形態の化合物(1)を任意に3.0gとり、日本工業規格(JIS Z 8801)に準じた目開きの試験用ふるい(500μm、420μm、350μm、250μm、177μm、149μm、125μm、74μm、44μmの目開きのふるい[内径8cm])を用いて、JIS Z 8901で定められた標準ふるい法の測定順序にしたがって手動で振動させた。「実施例2の結晶」対「比較例2の結晶」、及び「実施例3の結晶」対「比較例3の結晶」について、粒径分布を比較した結果を表3に示す。「実施例2の結晶」の方が「比較例2の結晶」よりも、また「実施例3の結晶」の方が「比較例3の結晶」よりも、目開きの大きいふるいに残留した重量比率が大きく、本発明の晶析方法で取得される結晶の方が従来の方法で取得される結晶よりも、相対的に粒径が大きい結晶の割合が多いことがわかった。
【0084】
【表3】
【0085】
(実施例7)結晶の嵩密度の測定
実施例1、比較例1、実施例2、及び比較例2で取得した結晶形態の化合物(1)を任意に3.0gとり、日本工業規格(JIS Z 8801)に準処した目開き500μmの試験用ふるい(直径8cm)を用いてふるいにかけ、通過した結晶の嵩密度を測定した。嵩密度の測定は、上述のふるいにかけた結晶10mLをメスシリンダーにはかり取り、容積が変わらなくなるまでタッピングすることにより実施した。嵩密度の計算方法として「結晶重量」/「結晶容積」より算出した。その結果を表4に示す。「実施例1の結晶」対「比較例1の結晶」、及び「実施例2の結晶」対「比較例2の結晶」について比較したところ、「実施例1の結晶」「実施例2の結晶」の方が、それぞれ「比較例1の結晶」「比較例2の結晶」よりも大きく、本発明の晶析方法で取得される結晶の方が従来の方法で取得される結晶よりも、嵩密度が大きくなることがわかった。
【0086】
【表4】