【実施例】
【0033】
[試験1]
以下、溶射皮膜と基材を備えた溶射部材を試験体とし、当該試験体の腐食層の厚さを同定する試験を示す。試験体は、比較用の熱処理試験体と、腐食層を有する腐食試験体とを用いており、熱処理試験体は、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を550℃、200時間熱処理して作成されたものである。また腐食試験体は、600μmの溶射皮膜と6mmの基材とを備えた溶射部材を、H
2S濃度4000ppmの条件下で、550℃、200時間熱処理して作成されたものである。なお腐食試験体は、マスキングした後、表面中央部にスリットを入れ、腐食層を生じるようにしている。また熱処理試験体は、熱処理により組織を緻密にして安定な状態にしたものであり、内部には、大気中での熱処理により多少の酸化層を生じている。
【0034】
初めに熱処理試験体及び腐食試験体を補助厚さ同定工程で面積比を求めるまでの処理を示す。最初に、熱処理試験体に10MHzの超音波探触子から超音波を発振し、基材底面の反射信号を含む全体信号を取得し、
図3(a)のグラフを得た。次に熱処理試験体の反射信号を高速フーリエ変換してスペクトル波形を求め、
図3(b)のグラフを得た。ここで
図3(a)のXは厚さ同定工程で利用する範囲であり、
図3(b)のYはスペクトル波形が形成される周波数帯域0.5−15MHzであり、
図3(b)のZはスペクトル波形(周波数のパラメータ)が大きく変化する周波数帯域5−12.5MHzである。続いて熱処理試験体のスペクトル波形から周波数帯域0.5−15MHzの基準面積(
図3(b)のYの領域における面積)を計算し、更に熱処理試験体のスペクトル波形から周波数帯域5−12.5MHzの比較面積(
図3(b)のZの領域における面積)を計算し、熱処理試験体の面積比(比較面積/基準面積)を求めた。
【0035】
更に熱処理試験体を厚さ同定工程でピーク周波数を求めるまでの処理を示す。最初に、熱処理試験体に10MHzの超音波探触子から超音波を発振し、基材底面の反射信号を含む全体信号を取得し、
図3(a)のグラフを得た。そしてその
図3(a)の基材底面の反射信号の範囲(Xの範囲)を拡大した
図4(a1)のグラフを得た。次に熱処理試験体の反射信号を連続ウェーブレット変換した場合には、
図4(b1)のグラフになり、当該グラフから約7.5MHzの前後にピーク周波数を生じることが明らかとなった。
【0036】
一方、腐食試験体を補助厚さ同定工程で面積比を求めるまでの処理を示す。最初に、腐食試験体に10MHzの超音波探触子から超音波を発振し、基材底面の反射信号を含む全体信号を取得し、
図5(A)のグラフを得た。なお、この時点では腐食層による反射信号は送信パルスに隠れており、腐食層のピークを認識することはできない。次に腐食試験体の反射信号を高速フーリエ変換してスペクトル波形を求め、
図5(B)のグラフを得た。このことから
図3(b)と比較して腐食層の発生に伴って5−12.5MHzの周波数帯域で周波数のパラメータが大きく変化していることが明らかである。ここで
図5(A)のXは厚さ同定工程で利用する範囲であり、
図5(B)のYはスペクトル波形を形成する周波数帯域0.5−15MHzであり、
図5(B)のZはスペクトル波形(周波数のパラメータ)が大きく変化する周波数帯域5−12.5MHzである。続いて熱処理試験体のスペクトル波形から周波数帯域0.5−15MHzの基準面積(
図5(B)のYの領域における面積)を計算し、更に熱処理試験体のスペクトル波形から周波数帯域5−12.5MHzの比較面積(
図5(B)のZの領域における面積)を計算し、熱処理試験体の面積比(比較面積/基準面積)を求めた。
【0037】
更に腐食試験体を厚さ同定工程でピーク周波数を求めるまでの処理を示す。最初に、腐食試験体に10MHzの超音波探触子から超音波を発振し、基材底面の反射信号を含む全体信号を取得し、
図5(A)のグラフを得た。そしてその
図5(A)の基材底面の反射信号の範囲(Xの範囲)を拡大した
図6(A1)のグラフを得た。次に熱処理試験体の反射信号を連続ウェーブレット変換した場合には、
図6(B1)のグラフになり、当該グラフから約1.5MHzの前後にピーク周波数を生じることが明らかとなった。
【0038】
[試験2]
以下、試験1で求めた熱処理試験体及び腐食試験体の面積比と共に、他の条件下で処理した熱処理試験体及び腐食試験体から求めた面積比をプロットし、
図7のグラフを得た。ここで他の条件下の熱処理試験体は、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を550℃で100時間熱処理して作成されたものであり、他の1つは、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を450℃で2000時間熱処理して形成されたものである。また腐食試験体の1つは、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を、H
2S濃度4000ppmの条件下で、550℃、100時間熱処理して作成されたものであり、他の1つは、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を、H
2S濃度700ppmの条件下で、450℃、2000時間熱処理して作成されたものである。なおエコー高さは、温度、時間の増加に伴って増大する傾向があることから、
図7の横軸では、当該温度の違いを一つのグラフで整理するためにラーソンミラー(C=5)で整理し、450℃換算での熱時効時間を表している。
【0039】
この結果、腐食層の発生等の条件を合わせるように並べると、複数の熱処理試験体の面積比は同程度の値になる一方で、腐食試験体の面積比は、熱処理試験体の面積比に比べて低下し、腐食層の厚さに対応していると想定できた。
【0040】
[試験3]
以下、試験1で求めた熱処理試験体及び腐食試験体のピーク周波数と共に、他の条件下で処理した熱処理試験体及び腐食試験体から求めたピーク周波数をプロットし、
図8のグラフを得た。ここで試験2と同様に、他の条件下の熱処理試験体は600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を550℃で100時間熱処理して作成されてものであり、他の1つは、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を450℃で2000時間熱処理して形成されたものである。また腐食試験体の1つは、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を、H
2S濃度4000ppmの条件下で、550℃、100時間熱処理して作成されたものであり、他の1つは、600μmの溶射皮膜と6mmの基材を備えた溶射部材を、H
2S濃度700ppmの条件下で、450℃、2000時間熱処理して作成されたものである。なお
図8の横軸では、
図7と同様に、当該温度の違いを一つのグラフで整理するためにラーソンミラー(C=5)で整理し、450℃換算での熱時効時間を表している。
【0041】
この結果、腐食層の発生等の条件を合わせるように並べると、複数の熱処理試験体のピーク周波数は同程度の値になる一方で、腐食試験体のピーク周波数は、熱処理試験体のピーク周波数に比べて低下し、腐食層の厚さに対応していると想定できた。
【0042】
[試験4]
以下、試験1−3で求めた腐食試験体の面積比と、実際の腐食層の厚さの相関を試験した。ここで腐食層の厚さは、電子顕微鏡等の検査手段により実際に測定したものであり、試験1で示すH
2S濃度4000ppmの条件下で作成された腐食試験体の腐食層は平均10.7μmであった。また試験2で示すH
2S濃度4000ppmの条件下で作成された腐食試験体の腐食層は平均13.7μmであり、更に試験2で示すH
2S濃度700ppmの条件下で作成された腐食試験体の腐食層は平均6.6μmであった。
【0043】
この結果、腐食層の厚さと面積比の低下量をプロットすると、
図9に示す如く一定の直線性のある相関(補助相関データ)が示された。腐食層の厚さを同定する際には、このような相関のグラフから求めても良いし、グラフの直線の傾きから求めても良い。
【0044】
[試験5]
以下、試験1−3で求めた腐食試験体のピーク周波数と、実際の腐食層の厚さの相関を試験した。ここで腐食層の厚さは、電子顕微鏡等の検査手段により実際に測定したものである。試験4と同様に、試験1で示すH
2S濃度4000ppmの条件下で作成された腐食試験体の腐食層は平均10.7μmであった。また試験3で示すH
2S濃度4000ppmの条件下で作成された腐食試験体の腐食層は平均13.7μmであり、更に試験3で示すH
2S濃度700ppmの条件下で作成された腐食試験体の腐食層は平均6.6μmであった。
【0045】
この結果、腐食層の厚さとピーク周波数の低下量をプロットすると、
図10に示す如く一定の直線性のある相関(相関データ)が示された。腐食層の厚さを同定する際には、このような相関のグラフから求めても良いし、グラフの直線の傾きから求めても良い。
【0046】
而して、このように実施の形態例によれば、基準面積と比較面積の面積比に基づいて腐食層の厚さを同定するので、腐食層の厚さを一層適切に決定し、溶射部材Aの健全性を評価することができる。
【0047】
実施の形態例において、基準面積と比較面積の面積比に基づいて腐食層の厚さを同定し、当該腐食層の厚さを補助的に利用し得るので、腐食層の厚さを一層適切に決定し、溶射部材Aの健全性を評価することができる。
【0048】
実施の形態例において、連続ウェーブレット変換は、基材底面からの反射信号をフーリエ変換したスペクトル波形と、マザーウェーブレットをフーリエ変換した波形とを積算し、該積算データを逆フーリエ変換して行うので、連続ウェーブレット変換を好適に為し、結果的に腐食層の厚さを一層適切に決定し、溶射部材Aの健全性を評価することができる。
【0049】
実施の形態例において、補助厚さ同定工程で、フーリエ変換により求めたスペクトル波形を、連続ウェーブレット変換に用いると、補助厚さ同定工程及び腐食層の厚さ同定工程を、同じ条件のデータを基準にして処理し得るので、腐食層の厚さを一層適切に決定し、溶射部材Aの健全性を評価することができる。
【0050】
尚、本発明の溶射部材の腐食評価方法及び腐食評価装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。