(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671305
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 19/00 20060101AFI20150129BHJP
G03F 1/60 20120101ALI20150129BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20150129BHJP
【FI】
C03C19/00 Z
G03F1/60
B24B37/00 N
【請求項の数】16
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-250246(P2010-250246)
(22)【出願日】2010年11月8日
(65)【公開番号】特開2012-101959(P2012-101959A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】小池 今朝広
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−141984(JP,A)
【文献】
特開2004−303280(JP,A)
【文献】
特開2010−086597(JP,A)
【文献】
特開2005−149668(JP,A)
【文献】
特開2007−260884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B24B 37/00−37/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された主表面の形状が矩形状である基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記研磨パッドは、
少なくとも、基材と、
前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上であり、
前記圧縮変形量は、前記研磨パッドの厚さ方向に対して1120g/cm2の荷重を掛けたときの前記研磨パッドの厚さから、前記研磨パッドの厚さ方向に対して100g/cm2の荷重を掛けたときの前記研磨パッドの厚さを差し引くことで得られる数値であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.5MPa以上40MPa以下である
ことを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された主表面の形状が矩形状である基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッド研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記研磨パッドは、
基材と、
前記基材上に形成される緩衝層と、
前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上であり、
前記圧縮変形量は、前記研磨パッドの厚さ方向に対して1120g/cm2の荷重を掛けたときの前記研磨パッドの厚さから、前記研磨パッドの厚さ方向に対して100g/cm2の荷重を掛けたときの前記研磨パッドの厚さを差し引くことで得られる数値であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.5MPa以上40MPa以下である
ことを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
前記研磨液は、酸化セリウム砥粒を含有していることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、合成石英ガラスまたは低熱膨張ガラスであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
前記ナップ層の厚さは、300μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項6】
前記ナップ層の開孔の径は、40μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項7】
前記ナップ層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項8】
前記緩衝層の厚さは、100μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項2記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項9】
前記緩衝層は、前記ナップ層の厚さの1/10以上1/2以下の厚さであることを特徴とする請求項2記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項10】
前記緩衝層は、発泡した樹脂からなることを特徴とする請求項2記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項11】
前記緩衝層およびナップ層のいずれか一方又は双方の層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることを特徴とする請求項2記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項12】
前記基材は、樹脂フィルム、又は、不織布であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項13】
前記基材は、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項14】
前記研磨工程で研磨された基板の両主表面に対し、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液による研磨を行う超精密研磨工程を有することを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスクブランク用基板の製造は、大まかに分けて、(1)合成石英インゴットからマスクブランク用基板の形状に切り出す工程、(2)切り出した基板の主表面、端面および面取り面に対して研削を行う研削工程、(3)研削工程後の基板の主表面、端面および面取り面に対して研磨を行う工程を経て製造される。
主表面の研磨は、両面研磨装置を用いて両面同時に行われる。また、主表面の研磨は多段階の研磨工程を経て、表裏2つの主表面が所定値以下の平坦度、表面粗さを有し、所定値以上の大きさの表面欠陥(凸状欠陥または凹状欠陥)のないマスクブランク用基板が製造される。主表面の研磨では、酸化セリウム等の研磨剤を用いる粗研磨および精密研磨が行われ、さらにコロイダルシリカ等の研磨剤を用いる超精密研磨が1〜2段階行われる。
両面研磨装置の上下研磨定盤の研磨面には研磨パッド(研磨布)が貼り付けられている。研磨される基板は、キャリアに保持され、上下定盤の両研磨パッド間に所定の圧力で挟まれる。そして、キャリアによって、基板は定盤上を自転かつ公転させられ、両主表面が研磨される。
【0003】
超精密研磨工程後、すなわち所定の研磨がすべて行われた基板の主表面には、所定値以下の高い平坦度、所定値以下の高い表面粗さ、所定値以上の大きさの表面欠陥が存在しないことが求められる。また、この基板から製造されたフォトマスクが、露光装置で使用されるとき、すなわち露光装置のマスクステージにセット(チャック)されたときに基板が変形することは以前より知られている。近年では、その変形後の基板主表面にも高い平坦度が求められる。そして、マスクステージにセットされたときに基板主表面の平坦度が高くなるようにするには、セット前の基板主表面の表面形状が、基板中心付近から外周に向かって高さが下がっていく凸形状が望ましいとされている。ただし、マスクステージのセット後の基板主表面の平坦度がいかに良好でも、セット前の基板主表面の平坦度が悪ければ、セット前後の主表面の変形量が大きいことになる。このような基板から製造されたフォトマスクは、基板主表面上にある転写パターンのセット前後の移動量が大きい。このような基板は、非常に微細な転写パターンを有するフォトマスクを作製するには適さない。よって、セット前の基板主表面においても、所定値以下の高い平坦度であることも、凸形状であることと同時に求められる。
【0004】
一般に、マスクブランク用基板の主表面は矩形や方形が主流である。主表面の研磨時、基板は、主表面の中心を軸に自転する。通常、研磨レートは、定盤研磨面に対する被研磨面の相対移動速度が速くなるほど大きくなる。基板の中心から最も遠い基板外周側、特に隅部近傍は、相対移動速度が大きくなる傾向があり、優先的に研磨されやすい傾向がある。前記の複数段階の研磨工程の全てで、基板外周側が研磨されやすい傾向の研磨の仕方を行ってしまうと、所望の高い平坦度に仕上げることが難しい。このため、特許文献1に記載のように、複数段の研磨工程のうちの中間の段階では、基板主表面の形状を主表面の外周側、特に4隅が高くなる形状である凹形状にしておき、超精密研磨の段階で、所望の高い平坦度を有する凸形状に仕上げることが行われている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−43830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板主表面の形状を凹形状にするのは、精密研磨の段階で行うことが望ましい。精密研磨後の基板主表面の形状における対称性(基板の中心を通る端面に平行な仮想線に対する線対称性)が高いことが望ましい。コロイダルシリカ砥粒による超精密研磨では、研磨取り代が比較的少ない。精密研磨後の基板が主表面形状の対称性が低い場合(例えば、基板主表面が捩じれた形状)、超精密研磨で基板の対称性を修正することは難しい。
【0007】
従来、マスクブランク用基板を製造する際、精密研磨工程で使用されている研磨パッドは、基材である不織布の上に、発泡させた樹脂の表面をバフ研磨して開孔を露出させてナップ層を形成させたものが用いられる場合が多い。しかし、前記の研磨パッドは、研磨時の加工圧力で基板主表面に押されたときの沈み込み量(圧縮変形量)が大きい。また、経時変化によるナップ層や不織布のへたれ(劣化により意図した規格から外れてしまうこと)が早い。これらの要因が、対称性の高い主表面形状の基板を安定して製造することを容易ではなくしていることを本発明者は突き止めた。
圧縮変形量が大きくなる要因には、ナップ層に起因する部分と不織布に起因する部分がある。
【0008】
ナップ層に使用する樹脂のモジュラスを高くする(硬さを上げる)と、ナップ層自体の沈み込み量が小さくなり、また耐久性も向上する。しかし、研磨剤が固化した異物や研磨によって生ずる加工片をナップ層内に取り込むことが難しくなる。異物や加工片が基板主表面に強く接触し、傷等の表面欠陥の発生率が増大してしまい、問題となることを本発明者は突き止めた。
一方、基材を樹脂シートに代えた場合、基材のへたれを抑制できる。しかし、樹脂シートは弾性が低いため、前記の異物や加工片が基板主表面に接触したときに掛かる力を吸収する特性に欠け、傷等の表面欠陥の発生率が増大してしまい、問題となることも本発明者は突き止めた。
【0009】
本発明は、所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することができるマスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ナップ層と基材からなる研磨パッド(研磨布)の各種物性と、ナップ層の各種物性と、その研磨パッドを用いて両面研磨された基板の主表面の平坦度(TIR)との関係を調べた。
その結果、ナップ層を形成する樹脂のモジュラスと、研磨パッドの圧縮変形量との組み合わせを適正に選定することによって、平坦度(TIR)を極めて高く正負に制御できることを見出した。
また、ナップ層のモジュラスと、研磨パッドの圧縮変形量との組み合わせを選定することにより、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することができる研磨パッド、並びにこの研磨パッドを用いたマスクブランク用基板の製造方法等が得られることを見出した。
【0011】
本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記研磨パッドは、
少なくとも、基材と、
前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.5MPa以上である
ことを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【0012】
(構成2)
研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記研磨パッドは、
基材と、
前記基材上に形成される緩衝層と、
前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上であり、
前記緩衝層およびナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.5MPa以上である
ことを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【0013】
(構成3)
前記研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上であることを特徴とする構成1または2のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成4)
前記研磨液は、酸化セリウム砥粒を含有していることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0014】
(構成5)
前記基板は、主表面の形状が矩形であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成6)
前記基板は、合成石英ガラスまたは低熱膨張ガラスであることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0015】
(構成7)
前記緩衝層の厚さは、100μm以上700μm以下であることを特徴とする構成2から6のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成8)
前記ナップ層の厚さは、300μm以上1000μm以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0016】
(構成9)
前記ナップ層の開孔の径は、40μm以上100μm以下であることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成10)
前記緩衝層およびナップ層のいずれか一方又は双方の層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0017】
(構成11)
前記基材は、樹脂フィルム、又は、不織布であることを特徴とする構成1から10のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成12)
前記基材は、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムであることを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0018】
(構成13)
前記研磨工程で研磨された基板の両主表面に対し、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液による研磨を行う超精密研磨工程を有することを特徴とする構成1から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成14)
構成13に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0019】
(構成15)
構成14に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスおよび圧縮変形量と基板主表面の平坦度(TIR)との関係を示す図である。
【
図2】研磨パッドの圧縮変形量の測定方法を説明するための模式図である。
【
図3】両面研磨装置の一態様を説明するための模式的断面図である。
【
図4】実施例で使用した研磨パッドの模式的断面図である。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、
研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記研磨パッドは、
少なくとも、基材と、
前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.5MPa以上である
ことを特徴とする(構成1)。
上記構成により、所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することが可能となる。
【0024】
本発明者らは、研磨装置で研磨された後における基板の主表面の形状および平坦度を制御するには、研磨面に装着されている研磨パッドの特性を調整することが重要と考えた。特に、ナップ層を有する研磨パッドを用いる場合においては、ナップ層の100%モジュラスと圧縮変形量の調整が必要と考えた。そこで、ナップ層を有する研磨パッドについて、ナップ層の100%モジュラスと、研磨パッド全体での圧縮変形量のパラメータを様々な数値に変えたものを準備した。そして、準備した各研磨パッドを研磨装置の定盤研磨面に装着し、複数の基板について主表面の研磨を行った。さらに、研磨された各基板の主表面の平坦度を測定して平均の平坦度を算出した。その上で、ナップ層の100%モジュラスと、研磨パッドの圧縮変形量と、研磨後における基板の主表面の平坦度について、相関性の有無を検証した(
図1)。なお、
図1において、基板の平坦度(TIR)を円の大きさで示した。
【0025】
ここでは、基板の平坦度をTIR(Total Indicated Reading)で示した。TIRは、基板表面の反り(変形量)を表す値で、基板表面を基準として最小自乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。この検証では、研磨対象の基板には、半導体デバイス用のマスクブランク基板で広く用いられている6インチ角(約152mm角)のガラス基板(合成石英基板)のを使用した。そして、基板の平坦度(TIR)は、基板の外周縁5mmを除く142mm角内の領域で算出されたものである。また、平坦度(TIR)が正(+)の場合は、主表面の形状が外周側の高さよりも中央側の高さの方が高い凸形状であることを示す。逆に、平坦度(TIR)が負(−)の場合は、主表面の形状が外周側の高さよりも中央側の高さの方が低い凹形状であることを示す(以下、本発明において同様)。
【0026】
また、研磨パッドの圧縮変形量とは、
図2の下側の図に示すように、研磨パッドの厚み方向に、F
1=100g/cm
2の荷重をかけたときの研磨パッドの厚みをt
0とし、次いで、F
2=1120g/cm
2の荷重をかけたときの研磨パッドの厚みをt
1としたときに、圧縮変形量(μm)=t
0−t
1で表されるものである。また、圧縮率(%)=[(t
0−t
1)/t
0]×100で表される
このとき、
図2の上側の図に示すように、定盤上に研磨パッドを載置し、研磨パッド上部から圧子(φ10mm)をストロークスピード0.1mm/minで押圧する、圧縮試験器を用いて測定を行う。なお、この検証の上記以外の条件については後述する。
【0027】
この検証の結果、ナップ層の100%モジュラスが14.5MPa以上であると、基板の主表面の平坦度(TIR)が−0.6μm以上となり、主表面の平坦度が悪い凹形状にはならないという相関性があることが判明した。また、ナップ層の100%モジュラスが16.5MPa以上であると、基板の主表面の平坦度(TIR)が−0.5μm以上となり、主表面の平坦度が悪い凹形状にはならないという相関性があることも判明した。さらに、ナップ層が同じ100%モジュラス(24MPa)であっても、研磨パッドの圧縮変形量によって、基板の主表面の平坦度が変化することも同時に判明した。通常、この研磨パッドによる基板の主表面の平坦度を制御することを主目的とする研磨工程(精密研磨工程)後に、基板の主表面の表面粗さを向上することを主目的とする研磨工程(超精密研磨工程)が行われる。この超精密研磨工程では、研磨速度は遅いが、基板の中央側よりも外周側の方が研磨されやすい傾向がある。この点を考慮すると、この研磨パッドによる研磨工程で研磨された基板の主表面は、凸形状であれば、その平坦度が少なくとも+0.3μm以下となるように制御することが望まれる。また、一方、研磨パッドの圧縮変形量が小さくなり過ぎると、研磨パッドと基板との間に入り込んだ研磨砥粒由来の異物や加工片等が基板の主表面に接触したときの当たりが強くなり、表面欠陥の発生率が上昇してしまうという問題もある。これらのことを総合的に考慮すると、研磨パッドの圧縮変形量は、少なくとも40μm以上は必要である。
【0028】
発明者らは、以上のような仮説と検証を行った結果、マスクブランク用基板を製造するにあたって、ナップ層を有する研磨パッドに求められる条件として、ナップ層の100%モジュラスが14.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上あることが必要であることを見出し、前記の発明を完成させるに至った。
なお、このマスクブランクの製造方法において、精密研磨後の基板主表面の平坦度(TIR)を−0.5μm以上とすることが望まれる場合には、ナップ層を有する研磨パッドに求められる条件としては、ナップ層の100%モジュラスが16.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上あることが必要である。
また、ナップ層の100%モジュラスが高すぎると、研磨パッドの圧縮変形量を40μm以上にしても、基板の主表面に生じる表面欠陥の発生率を下げることが難しくなる。この点を考慮すると、ナップ層の100%モジュラスは、40MPa以下とすることが望ましい。
【0029】
本発明において、発泡した樹脂としては、例えば、合成樹脂中にガスを細かく分散させ、内部に細かな泡を無数に含む、発泡状または多孔質形状に成形されたものを指し、固体である合成樹脂と気体の不均一分散系とも定義できる。
本発明において、発泡樹脂(ナップ層)としては、ウレタンが広く利用されている。
発泡樹脂(ナップ層)がポリウレタン樹脂である場合は、ポリウレタン樹脂を構成する原料樹脂として、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂や、これらの樹脂をブレンドした樹脂を用いることができる。
【0030】
樹脂モジュラスとは、樹脂自体の硬さを表す。
無発泡の樹脂フィルムを2倍に伸ばした際にかかる力(引張り応力)で表し、硬い樹脂ほど、伸ばすのに力が必要なので数値が大きくなる。柔らかい樹脂ほど、数値が小さくなる。
モジュラスの測定方法を以下に示す。
(1)樹指溶液を薄く引き延ばし熱風乾燥し、50μm程度の厚みの乾式フィルムを作製する。
(2)フィルム作製後しばらく養生する。
(3)測定部の長さ20mm、幅5mm、厚さ0.05mmの短冊状試料を、引っ張り速度300mm/分で引っ張る。
(4)100%伸長特(2倍延伸時)の張力を試料の初期断面積で割り、100%モジュラス(MPa表示)を求める。
(5)試料数n=7の平均値を求める。
【0031】
樹脂モジュラスは、樹脂の系統(ポリカーボネート、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂の種類)ではなく、基本的にハードセグメントの含有量で決まる。詳しくは、ポリウレタンは、ソフトセグメントとハードセグメントにミクロ相分離構造をとっているため、そのハードセグメントの割合(量)で樹脂の硬さは決まる。
ハードセグメントは、イソシアネートおよび低分子ジオールであり、樹脂(高分子)が強く凝集している箇所で、高分子=ソフトセグメントの動きが固定されている箇所である。
ソフトセグメントは、高分子ポリオールであり、樹脂(高分子)が弱く凝集している箇所である。ソフトセグメントは、樹脂の系統(ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂の種類)と樹脂のブレンド比で調整できる。
【0032】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、上記の研磨パッドを用いた両面研磨装置によって、基板の両主表面を研磨することを特徴としており、この構成によって初めて本願発明の効果が発揮される。
上記構成1のマスクブランク用基板の製造方法では、本願発明の研磨パッドを用いて、基板の両主表面を両面研磨すると、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、基板の中心から外周縁に向かって高くなる凹形状であり、かつ所定値以下の高い平坦度であり、さらに、主表面の表面欠陥が抑制された基板を製造することができる。これによって、次工程の超精密研磨工程を行って製造されたマスクブランク用基板は、主表面が対称性の高く、基板の中心から外周縁に向かって低くなる凸形状であり、かつ所定値以下の高い平坦度であり、さらに、主表面の表面欠陥が抑制されたものにできる。
【0033】
なお、本発明において、上記構成1で説明した事項は、後述する構成2〜15に記載の発明においても同様に適用される。
また、後述する構成2〜15で説明した事項は、上記構成1に記載の発明においても同様に適用される。
【0034】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、
研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記研磨パッドは、
基材と、
前記基材上に形成される緩衝層と、
前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.5MPa以上である
ことを特徴とする(構成2)。
上記構成により、所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、平坦度の正負を制御しつつ安定して製造することが可能となる。
【0035】
本発明において、緩衝層は、選定するナップ層の物性の違いによって変化する研磨パッド全体の圧縮変形量を40μm以上になるように調整するために基層とナップ層の間に設けられている。緩衝層は、研磨パッド全体の圧縮変形量が40μm以上という条件を満たすのであれば、どのような材料で形成してもよい。緩衝層は、好ましくは発泡した樹脂で形成される。発泡した樹脂としては、例えば、合成樹脂中にガスを細かく分散させ、内部に細かな泡を無数に含む、発泡状または多孔質形状に成形されたものを指し、固体である合成樹脂と気体の不均一分散系とも定義できる。発泡した樹脂で形成される緩衝層によって、研磨パッドの圧縮変形量を上げる方向に調整するには、緩衝層に用いる樹脂の100%モジュラスがナップ層に用いる樹脂の100%モジュラスよりも低くする、あるいは緩衝層の発泡度を上げる(緩衝層の密度を下げる)ようにすることが望ましい。
【0036】
本発明において、発泡樹脂層としては、ウレタンが広く利用されている。基層(基材)と発泡樹脂層を備える研磨パッドとしては、スウェードタイプや、発泡ウレタンタイプが挙げられる。スウェードタイプ研磨パッドは、例えば、
図4(1)、(2)に示すように、基層(ベース層)にポリウレタンをコート(積層)し、ポリウレタン内に発泡層を成長させ、表面部位を除去し発泡層に開口部を設けたものである。発泡の跡である空孔をポアと呼び、ポリウレタン層におけるポアの存在する部分をナップ層、基層付近のポアの存在する部分をマイクロレイヤと呼ぶ。発泡ウレタンタイプの研磨パッドは、発泡したウレタンのブロックをスライスしたもので、これを基層と接合することによって、基層と発泡樹脂層を備える研磨パッドとする。
発泡樹脂層が複数層である場合は、各発泡樹脂層どうしを接合する。
発泡樹脂層がポリウレタン樹脂である場合は、ポリウレタン樹脂を構成する原料樹脂として、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂や、これらの樹脂をブレンドした樹脂を用いることができる。
【0037】
なお、この構成2のマスクブランクの製造方法においても、精密研磨後の基板主表面の平坦度(TIR)を−0.5μm以上とすることが望まれる場合には、ナップ層を有する研磨パッドに求められる条件としては、ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが16.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上あることが必要である。
【0038】
本発明において、前記研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上であることが好ましい(構成3)。
上記の研磨パッドを用いて、研磨された基板は、次工程で超精密研磨工程が行われることになる。超精密研磨工程では、基板の中央側よりも外周側の方が研磨されやすい傾向がある。このことを考慮すると、精密研磨工程では、基板の主表面の形状を凸形状にならないように、すなわち凹形状(平坦度が−0.6μm以上0μm以下)になるように制御するとより望ましい。この場合、
図1の結果を考慮すると、ナップ層を有する研磨パッドに求められる条件としては、ナップ層の100%モジュラスが14.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上あることが必要となる。
また、凹形状(平坦度が−0.5μm以上0μm以下)になるように制御することが望まれる場合においては、ナップ層を有する研磨パッドに求められる条件としては、ナップ層の100%モジュラスが16.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上あることが必要となる。
【0039】
本発明において、前記研磨液は、酸化セリウム砥粒を含有している場合が含まれる(構成4)。
酸化セリウム砥粒を含有する研磨液は、超精密研磨工程の前の精密研磨工程で用いられる。
【0040】
両面研磨の代表的なものとしては、
図3の両面研磨装置を用い、粗研磨工程、精密研磨工程、超精密研磨工程を行う。
キャリア31の保持孔に保持された角型の基板27を挿入保持して、キャリア31の外周歯を両面研磨装置の太陽歯車64と内歯歯車63にかみ合わせて、キャリア31を自転及び公転させ、研磨砥粒を供給しながら互いに逆回転する上下定盤に貼着した研磨パッド2との間に形成される相対摺動運動により基板27の両主表面の両面研磨を行う。
使用する研磨剤の種類や粒径は、基板材料や得ようとする平坦度に応じて適宜選定することができる。研磨剤としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカなどが挙げられる。研磨剤の粒径は、数十nmから数μmである。
【0041】
粗研磨工程は、研削工程で形成された基板主表面の傷を除去し、研削工程で得られた平坦度を維持する目的として行われるもので、研磨砥粒の平均粒径が約1〜3μmの比較的大きな研磨砥粒を用いて研磨する工程である。研磨砥粒の材質は、基板の材料に応じて適宜選択される。
粗研磨工程で使用する研磨パッドは、平坦度の維持の点から、硬質ポリシャを使用することが好ましい。
【0042】
精密研磨工程は、傷等の表面欠陥がなく、基板の鏡面化を目的として行われるもので、研磨砥粒の平均粒径が約1μm以下(例えば、10nm〜1μm)の比較的小さな研磨砥粒を用いて研磨する工程である。研磨砥粒の材質は、上述と同様に基板の材料に応じて適宜選択される。平均粒径が小さく平滑な基板表面が得られる点から酸化セリウムが好ましい。
精密研磨工程で使用する研磨パッドは、鏡面化の点から、軟質または超軟質ポリシャを使用することが好ましい。
【0043】
超精密研磨工程は、基板の更なる鏡面化(表面粗さの向上)を目的として行われるもので、研磨砥粒の平均粒径が約500nm以下(例えば、10nm〜500nm)の非常に小さな研磨砥粒を用いて研磨する工程である。研磨砥粒の材質は、上述と同様に基板の材料に応じて適宜選択される。平均粒径が小さく平滑な基板表面が得られる点からコロイダルシリカが好ましい。
超精密研磨工程で使用する研磨パッドは、更なる鏡面化の点から、軟質または超軟質ポリシャを使用することが好ましい。
【0044】
本発明において、最終的な完成段階のマスクブランク用基板として求められる主表面における平坦度の所望の値は、露光光を透過させる光透過型マスクに用いられるマスクブランク用基板と、露光光を反射させる反射型マスクに用いられるマスクブランク用基板とでは異なる。光透過型マスクに用いられるマスクブランク用基板の場合では、平坦度が0μmを超え+0.4μm以下(0.0<平坦度≦+0.4μm)の範囲とすることが求められる。さらに、基板主表面の平坦度が0μmを超え+0.3μm以下(0.0<平坦度≦+0.3μm)であると好ましく、基板主表面の平坦度が0μmを超え+0.2μm以下(平坦度<0.0<平坦度≦+0.2μm)であるとより望ましい。また、露光光を反射させる反射型マスクに用いられるマスクブランク用基板の場合では、平坦度が0μmを超え+0.1μm以下(0.0<平坦度≦+0.1μm)の範囲とすることが求められる。さらに、基板主表面の平坦度が0μmを超え+0.05μm以下(0.0<平坦度≦+0.05μm)であると好ましい。
基板の平坦度の絶対値が小さくなるに従って、フォトマスクにしたときのパターン位置精度が向上し、フォトマスクを使ってパターン転写したときのパターン転写精度が向上する。所望の値は、これらの要求されるパターン位置精度、パターン転写精度に応じて決めることができる。
【0045】
本発明において、前記基板は、主表面の形状が矩形であることが好ましい(構成5)。
前記基板の主表面の形状が矩形である場合に上述した本発明の課題が特に問題となるからであり、また、本発明は、主表面の形状が矩形である基板の研磨に適しているからである。
【0046】
本発明において、前記基板は、合成石英ガラスまたは低熱膨張ガラスであることが好ましい(構成6)。
本発明は、合成石英ガラスや低熱膨張ガラスからなる基板の研磨に特に適しているからである。
なお、本発明は、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ソーダライムガラス等の基板の研磨に適用できる。また、本発明は、例えばアモルファスガラスであれば、SiO
2−TiO
2系ガラス、結晶化ガラスであれば、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス等の基板の研磨に適用できる。
【0047】
本発明において、前記緩衝層の厚さは、100μm以上700μm以下であることが好ましい(構成7)。
所定値以下の高い平坦度(TIR)(−0.6μm以上+0.3μm以下、好ましくは、−0.5μm以上+0.3μm以下、さらに望ましくは、−0.5μm以上0μm以下)であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、安定して製造するためである。
【0048】
本発明において、前記ナップ層の厚さは、300μm以上1000μm以下であることが好ましい(構成8)。
所定値以下の高い平坦度(TIR)(−0.6μm以上+0.3μm以下、好ましくは、−0.5μm以上+0.3μm以下、さらに望ましくは、−0.5μm以上0μm以下)であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、安定して製造するためである。
【0049】
本発明において、前記ナップ層の開孔の径は、40μm以上100μm以下であることが好ましい(構成9)。
所定値以下の高い平坦度(TIR)(−0.6μm以上+0.3μm以下、好ましくは、−0.5μm以上+0.3μm以下、さらに望ましくは、−0.5μm以上0μm以下)であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、安定して製造するためである。
【0050】
本発明においては、例えば、前記緩衝層の厚さは前記ナップ層の厚さの約1/2〜1/10程度にできる。前記緩衝層の空孔の平均孔径は、前記ナップ層の空孔の平均孔径より小さく(例えば1/2〜1/30程度に)できる。
【0051】
本発明において、前記緩衝層およびナップ層のいずれか一方又は双方の層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることが好ましい(構成10)。
前記ナップ層の100%モジュラス、並びに、前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御しやすいためである。
【0052】
本発明において、前記基材は、樹脂フィルム、又は、不織布であることが好ましい(構成11)。
前記基材が樹脂フィルムであると、前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御しやすいためである。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。
前記基材が不織布であっても、不織布にボンド剤等の樹脂を含浸させることによって、前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御することは可能である。
【0053】
本発明において、前記基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂フィルムであることが好ましい(構成12)。
前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御しやすいためである。
【0054】
本発明において、前記研磨工程で研磨された基板の両主表面に対し、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液による研磨を行う超精密研磨工程を有することが好ましい(構成13)。
前記のとおり、精密研磨工程で研磨された基板の主表面を鏡面化するには、超精密研磨工程を行うことが望ましいためである。
【0055】
本発明のマスクブランクの製造方法は、上記構成13に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を形成することを特徴とする(構成14)。
上記構成により、所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を有するマスクブランクを製造することが可能となる。
【0056】
本発明の転写用マスクの製造方法は、上記構成14に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法(構成15)。
上記構成により、所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を有する転写用マスクを製造することが可能となる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
【0058】
(1)粗研磨工程
端面を面取加工し、両面ラッピング装置によって研削加工を終えた合成石英ガラス基板(約152mm×約152mm×約6.3mm)を、上述の両面研磨装置に12枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨工程を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液 :酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)+水
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
上記粗研磨工程後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。実施例1〜11、比較例1〜8でそれぞれ12枚ずつ使用するため、このガラス基板12枚を19セット研磨した。
【0059】
(2)精密研磨工程
上述の両面研磨装置に12枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨工程を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液 :酸化セリウム(平均粒径1μm)+水
研磨パッド:研磨パッドとしては、表1〜表3に記載の実施例1〜11、比較例1〜8の研磨パッドを各々使用した。
ナップ層はポリウレタン樹脂からなり、ポリウレタン樹脂を構成する原料樹脂として、表1〜表3に示す、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系の樹脂を使用した。
【0060】
実施例1〜11、および比較例2、3、6〜7は、PET(基材)上に緩衝層とナップ層をこの順で積層した研磨パッドである(
図4(3)参照)。なお、各緩衝層の材質や厚さは、研磨パッド全体の圧縮変形量が求められる数値になるように適宜調整した。
比較例1は、不織布(基材)上にナップ層(単層)を積層した研磨パッドである(
図4(1)参照)。
比較例4、5、8は、PET(基材)上にナップ層(単層)を積層した研磨パッドである(
図4(2)参照)。
上記精密研磨工程終了後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
精密研磨工程が行われた後の実施例1〜11、および比較例1〜8の基板(各12枚)について、主表面の142mm角内の領域における平坦度(TIR)を平坦度測定器(Corning Tropel社製 UltraFlat200M)で測定した。測定した基板12枚の平均値の平坦度をそれぞれ表1〜表3に示す。また、この各実施例・比較例の研磨パッドのナップ層における100%モジュラスを横軸に、研磨パッドの圧縮変形量を縦軸にとり、基板の平坦度(TIR)を円の大きさで示したバブル図を作成(
図1)し、相関性を調べた。
その結果、
図1から、ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが14.4MPa以上であると、平坦度(TIR)が−0.6μm以上となり、さらにナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが16.5MPa以上であると、平坦度(TIR)が−0.5μm以上となる(実施例1〜11)ことがわかった。また、100%モジュラスが12.3Mpa以下であると、平坦度(TIR)−0.9μm以上と良くない(比較例1〜7)、こともわかった。
【0065】
また、ナップ層の100%モジュラスが同じ24MPaの場合(実施例1〜4、比較例8)で比較すると、圧縮変形量が40μm以上であると、平坦度(TIR)が−0.5μm以上+0.3μm以下となることがわかった。さらに、圧縮変形量が70μm以上であると、平坦度(TIR)が−0.5μm以上0μm以下となることがわかった。
以上のことから、精密研磨工程で基板を研磨するために用いる研磨パッドは、ナップ層の100%モジュラスが14.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上であることが必要条件であることが確認された。また、精密研磨工程との基板主表面に求められる平坦度が−0.5μm以上である場合には、研磨パッドは、ナップ層の100%モジュラスが16.5MPa以上であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が40μm以上であることが必要条件であることも確認された。さらに、研磨パッドの圧縮変形量が70μm以上であると、精密研磨工程で研磨された基板の平坦度が凸形状になることを抑制できることも確認された。
【0066】
この精密研磨工程における加工特性について調べた。具体的には、各実施例および比較例において、まず、予め精密研磨工程前のガラス基板の主表面について、主表面の142mm角内領域における高さ分布を測定しておいた。正方形状である142mm角内領域の一方の平行な2辺に対して平行であって、142mm角内領域の中心を通る第1軸を設定し、142mm角内領域の他方の平行な2辺に対して平行であって、142mm角内領域の中心を通る第2軸を設定し、第1軸および第2軸を基準にグリッド上に測定点を配置し、各測定点で高さ情報を取得し、これらを集約したものを主表面の142mm角内領域における高さ分布とした。次に、精密研磨工程後のガラス基板の主表面について、主表面の142mm角内の領域における高さ分布を同様に測定した。次に、精密研磨工程後における主表面の高さ分布から、精密研磨工程前における主表面の高さ分布を差し引くことで、主表面内の精密研磨工程での加工量分布を算出した。
【0067】
さらに、算出した加工量分布について、その対称性を検証した。第1軸を対称線とした線対称性と、第2軸を対称線とした線対称性と、142mm角の中心を軸として90度回転させた場合の点対称性について、それぞれ算出して平均化し、対称性指標を算出した。その結果、実施例1では対称性指標が64.2%、実施例2では対称性指標が60.2%、実施例3では対称性指標が71.4%、実施例4では対称性指標が69.0%、実施例5では対称性指標が77.3%、実施例6では対称性指標が71.9%、実施例7では対称性指標が76.0%と、いずれの精密研磨工程においても、加工量分布の対称性指標が60%と高い対称性を示していた。これに対し、たとえば、比較例3では対称性指標が51.0%、比較例4では対称性指標が55.3%、比較例5では対称性指標が50.0%、比較例6では対称性指標が41.0%と、加工量分布の対称性が軒並み低いという結果であった。これらの比較例の精密研磨工程の場合、粗研磨工程後の段階では主表面の対称性が高い基板であっても、精密研磨工程によって主表面の対称性が悪化させてしまう傾向が強いといえる。
【0068】
(3)超精密研磨工程
上述の両面研磨装置に12枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨工程を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液 :コロイダルシリカ(平均粒径100nm)+水
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
精密研磨工程終了後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。この超精密研磨工程は、実施例1〜11、比較例1〜8の各研磨パッドで研磨された各12枚の基板に対して行われた。
【0069】
(4)平坦度測定工程
超精密研磨工程が行われた後の実施例1〜11、および比較例1〜8の基板(各12枚)について、主表面の142mm角の領域における平坦度(TIR)を平坦度測定器(Corning Tropel社製 UltraFlat200M)で測定した。その結果、実施例1〜11の基板については、主表面の形状は、いずれも平坦度が0μm以上かつ+0.2μm以内の範囲の凸形状となっていた。これに対し、比較例1〜7の基板については、主表面の形状は、平坦度(TIR)が+0.2μmよりも大きい凸形状のものが大多数を占め(平均9枚)、歩留りが悪いという結果となった。
【0070】
平坦度測定工程が行われた後の実施例1〜11、および比較例1〜8の基板(各12枚)について、欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)で主表面の表面欠陥の検査を行った。その結果、実施例1〜11、比較例1〜7の各基板では、深さが0.5μm以上の表面欠陥が見つかった基板は、12枚中あっても1枚であった。これに対し、比較例8の基板では、深さが0.5μm以上の表面欠陥が見つかった基板は、12枚中7枚もあった。この表面欠陥の存在する基板は、マスクブランク用基板としては使用不適であり、歩留りが非常に悪いという結果となった。
【0071】
(マスクブランクおよびフォトマスクを作製しての評価)
上記の実施例1〜11の基板について、主表面の平坦度が0μm以上かつ+0.2μm以下であり、表面欠陥が検出されなかったものからそれぞれ1枚ずつ選定した。選定した各ガラス基板の一方の主表面上に、モリブデン、ケイ素および窒素を含有する遮光層(MoSiN膜)と、モリブデン、ケイ素および窒素を含有する反射防止層(MoSiN膜)が2層積層した構造の遮光膜(合計膜厚60nm)をそれぞれスパッタリング法によって形成し、バイナリ型のマスクブランクを製造した。
次に、製造した各マスクブランクの遮光膜上にスピンコート法でレジスト膜を塗布形成した。続いて、レジスト膜に所望の微細パターンを露光・現像することで形成した。さらに、レジスト膜をマスクとして、遮光膜に対してドライエッチングを行うことで、遮光膜に転写パターンを形成し、バイナリ型の転写用マスクを作製した。
【0072】
実施例1〜11の基板から作製された各転写用マスクを用い、露光装置のマスクステージにセットし、転写対象物(ウェハ上のレジスト膜等)にArFエキシマレーザー光を照射する露光転写を行った。その結果、転写対象物に所望のパターンが正常に転写されていることが確認された。
【0073】
(反射型マスクブランクおよび反射型マスクを作製しての評価)
上記の実施例1〜11の基板について、主表面の平坦度が0μm以上かつ+0.05μm以下であり、表面欠陥が検出されなかったものからそれぞれ1枚ずつ選定した。選定した各ガラス基板の一方の主表面上に、モリブデン(Mo層)とケイ素(Si層)を交互に積層した多層反射膜を形成した。具体的には、ガラス基板側からSi層を4.2nm、Mo層を2.8nmそれぞれ成膜し、これを40周期繰り返し、最後にSi層を4.0nm成膜して多層反射膜を形成した。次に、多層反射膜上に、ルテニウムを含有する材料からなる保護膜を2.5nm形成した。最後に、保護膜上に、タンタルを主成分とする吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。
【0074】
次に、製造した各反射マスクブランクの遮光膜上にスピンコート法でレジスト膜を塗布形成した。続いて、レジスト膜に所望の微細パターンを露光・現像することで形成した。さらに、レジスト膜をマスクとして、吸収体膜に対してドライエッチングを行うことで、吸収体膜に転写パターンを形成し、反射型マスクを作製した。
【0075】
実施例1〜11の基板から作製された各反射型マスクを用い、露光装置のマスクステージにセットし、転写対象物(ウェハ上のレジスト膜等)にEUV(Extreme Ultra Violet)光を照射する露光転写を行った。その結果、転写対象物に所望のパターンが正常に転写されていることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
2 研磨パッド
27 基板