【0026】
ポリアセタール樹脂のメルトボリュームフローレイト(以下、「MVR」と呼ぶ)は通常は1.0cm
3/10min以上である。ポリアセタール樹脂のMVRは、より優れた耐衝撃性、機械特性をポリアセタール樹脂組成物に付与するという観点からは、好ましくは2.0cm
3/10min以上である。但し、ポリアセタール樹脂のMVRは、25.0cm
3/10min以下であることが好ましい。この場合、MVRが25.0cm
3/10minを超える場合に比べて、より優れた耐衝撃性及び機械特性が得られたり、セルロースアセテートブチレートの分散性がより高くなったりする。
【0029】
またセルロースアセテートブチレートの数平均分子量は通常、12,000〜70,000であり、より優れた耐衝撃性、機械特性及び耐熱性をポリアセタール樹脂組成物に付与するためには、好ましくは30,000〜60,000であり、より好ましくは35,000〜50,000である。ここで、ポリアセタール樹脂(A)のMVRが2.0〜25cm
3/10minである場合には、セルロースアセテートブチレート(B)の数平均分子量は30,000〜60,000であることが好ましい。この場合、セルロースアセテートブチレートの数平均分子量が上記範囲を外れる場合に比べて、ポリアセタール樹脂組成物の強度をより高くすることができる。またポリアセタール樹脂のMVRが2.0cm
3/10min未満である場合に比べて、ポリアセタール樹脂組成物の流動性がより向上し、25.0cm
3/10minを超える場合に比べて、より優れた耐衝撃性及び機械特性が得られたり、セルロースアセテートブチレートの分散性がより高くなったりする。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1〜11)
(A)ポリアセタール樹脂(POM)、(B)セルロースアセテートブチレート(CAB)および(C)加水分解抑制剤を表1及び表2に示す配合量(単位は質量部)で、タンブラーにて20分間混合した。得られた混合物を押出機(池貝鉄工社製、型式:PCM−30)を用いて、シリンダ温度190℃、吐出速度10kg/hrで溶融混練し、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0038】
(比較例1)
(A)POM、ポリ乳酸(PLA)および(C)加水分解抑制剤を表2に示す配合量(単位は質量部)で混合したこと以外は実施例1と同様にしてポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0039】
(比較例2)
(A)POM、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)および(C)加水分解抑制剤を表2に示す配合量(単位は質量部)で混合したこと以外は実施例1と同様にしてポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0040】
なお、表1及び表2に示すポリアセタール樹脂(POM1〜4)、ポリ乳酸(PLA)、CAB(CAB1〜6)、CAPおよび加水分解抑制剤としてはそれぞれ、以下のものを使用した。
1)ポリアセタール樹脂
POM1:F20−03(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
POM2:F10−02(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
POM3:F30−03(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
POM4:V20−HE(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
2)ポリ乳酸(PLA)
テラマックTE−2000(ユニチカ社製)
3)CAB
CAB1:CAB 531−1(商品名、イーストマンケミカル社製)
CAB2:CAB 381−20(商品名、イーストマンケミカル社製)
CAB3:CAB 381−2(商品名、イーストマンケミカル社製)
CAB4:CAB 551−0.01(商品名、イーストマンケミカル社製)
CAB5:CAB 551−0.2(商品名、イーストマンケミカル社製)
CAB6:CAB 500−5(商品名、イーストマンケミカル社製)
4)CAP
CAP482−0.5(商品名、イーストマンケミカル社製)
5)加水分解抑制剤
カルボジライトLA−1(商品名、日清紡ケミカル社製)
【0041】
[特性評価]
(1)耐衝撃性
ポリアセタール樹脂組成物の耐衝撃性は、ポリアセタール樹脂組成物のノッチなしシャルピー衝撃強度を測定し、その測定値に基づいて評価した。
【0042】
ノッチなしシャルピー衝撃強度については以下のようにして測定した。
<ノッチなしシャルピー試験用試験片の作製>
まず東芝機械社製射出成形装置EC−100Sを用い、シリンダ温度195℃、金型温度90℃にて、実施例1〜11及び比較例1〜2で得られたポリアセタール樹脂組成物のペレットを射出成形し、JIS K 7113に記載された4mm厚ISO1号ダンベル試験片を作製し、これをノッチなしシャルピー試験用試験片とした。
【0043】
<ノッチなしシャルピー衝撃強度の測定>
上記ノッチなしシャルピー試験用試験片を用い、ISO−179に記載の方法に準拠してエッジワイズ平行試験方法によりノッチなしシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、表1において「NB」とは、最も重い秤量(15J)でノッチなしシャルピー衝撃強度を測定しても試験片が破壊しなかったことを表す。ノッチなし衝撃強度の合格基準は以下の通りとした。
・87.0kJ/m
2以上
【0044】
(2)機械特性
ポリアセタール樹脂組成物の機械特性は、ポリアセタール樹脂組成物からなる試験片について引張試験を行って算出された引張弾性率、引張降伏強度、引張破壊点呼び歪の値に基づいて評価した。ここで、ポリアセタール樹脂組成物からなる試験片は、以下のようにして成形した。すなわち、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを、射出成型機(東芝機械社製射出成形装置EC−100S)を使用して、シリンダ温度195℃、金型温度90℃の条件で成形した。こうして試験片を得た。また引張試験は具体的には、ISO527−1,527−2に記載の方法に従って、引張試験速度50mm/分で行った。結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2において、引張弾性率、引張降伏強度、引張破壊点呼び歪の合格基準は、以下の通りとした。
1)引張弾性率:1980MPa以上
2)引張降伏強度:50MPa以上
3)引張破壊点呼び歪:9.0%以上
【0045】
(3)耐熱性
耐熱性は、ISO多目的試験片(4mm)を用い、ISO75−1及びISO75−2に準拠して荷重1.80MPaの条件で測定した荷重たわみ温度(DTUL:Distortion Temperature Under Load)に基づいて評価した。なお、耐熱性の合格基準は以下の通りとした。
・DTULが69.0℃以上
【0046】
(4)分散性
ノッチなしシャルピー衝撃強度の測定に使用した結果、破断されたノッチなしシャルピー試験用試験片について、その破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。結果を表1及び表2に示す。なお、分散性については以下の基準を設け、A〜Cについては合格とし、Dについては不合格とした。
・A:粒状物が全く確認されない
・B:2μm以下の小さい粒径を有する粒状物が確認される
・C:2μmより大きく3μm以下の粒径を有する粒状物が確認される
・D:3μmを超える粒径を有する粒状物が確認される
【表1】
【表2】
【0047】
表1及び表2に示すように、実施例1〜11はすべて、耐衝撃性、機械特性、耐熱性および分散性の点で合格基準を満たすことが分かった。これに対し、比較例1は、耐熱性の点では合格基準を満たさないことが分かった。また比較例2は、構成成分の分散性の点で合格基準を満たさないことが分かった。
【0048】
従って、本発明のポリアセタール樹脂組成物によれば、優れた耐衝撃性、機械特性及び耐熱性を有しつつ、構成成分の分散性を向上させることができることが確認された。