(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中心電極の先端から前記接地電極までの前記軸線に沿った最短距離をK(mm)としたとき、K≦3.0を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプラズマジェット点火プラグ。
前記軸孔のうち、前記中心電極の先端面よりも前記軸線方向先端側で、かつ、前記拡径部よりも前記軸線方向後端側の部位には、前記軸線方向先端側に向けて内径が徐々に縮径する縮径部が設けられることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプラズマジェット点火プラグ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃費や出力の向上を図るべく、高圧縮比のエンジン等が開発されているが、このようなエンジンに対してプラズマジェット点火プラグを用いた場合には、絶縁体のうちキャビティ部を形成する部位(キャビティ部の外周に位置する部位)に割れが生じてしまうことがある。この点、本願発明者が鋭意検討したところ、高圧縮比のエンジンにおいては、燃焼室内の圧力によりプラズマの噴出が押さえつけられる形となり、その結果、プラズマの膨張によりキャビティ部(絶縁体)の内周面に加わる圧力が著しく増大してしまうことが原因であることが判明した。
【0008】
絶縁体の割れを防止するためには、キャビティ部の内径を増大させ、キャビティ部(絶縁体)の内周面に加わる圧力を低減させることが考えられるが、この場合には、プラズマの噴出速度が低下してしまい、着火性が低下してしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な着火性を維持しつつ、絶縁体の割れを効果的に防止することができるプラズマジェット点火プラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成のプラズマジェット点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
自身の先端面が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向後端側に位置するようにして前記軸孔に挿設される中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記主体金具の先端部に固定され、前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に配置される接地電極とを備え、
前記軸孔の内周面及び前記中心電極により形成されるキャビティ部を有するプラズマジェット点火プラグであって、
前記軸孔のうち前記中心電極の先端面よりも前記軸線方向先端側の部位には、前記軸線方向先端側に向けて内径が徐々に拡径する拡径部が設けられ、
前記キャビティ部の最小内径が1.2mm以下であり、
前記中心電極の先端面から前記キャビティ部の開口縁までの前記軸線に沿った距離をH(mm)としたとき、H≧0.5を満たすことを特徴とする。
【0012】
上記構成1によれば、中心電極の先端面からキャビティ部の開口縁までの距離Hが0.5mm以上と十分に大きなものとされている。従って、プラズマの生成量を十分に確保することができる。また、キャビティ部の最小内径が1.2mm以下とされているため、プラズマの外周側への膨張を抑制することができ、先端側に向けたプラズマの噴出力を高めることができる。その結果、良好な着火性を実現することができる。
【0013】
一方で、キャビティ部の最小内径が1.2mm以下と小さくされることで、絶縁体のうちキャビティ部を形成する部位に割れが生じてしまうことが懸念される。この点、上記構成1によれば、軸孔のうち中心電極の先端面よりも先端側の部位(すなわち、キャビティ部の形成された部位)に、先端側に向けて内径が徐々に拡径する拡径部が設けられている。従って、拡径部においてプラズマの外周側に向けた膨張力を先端側に逃がすことができ、絶縁体の内周面に加わる圧力を緩和することができる。その結果、良好な着火性を維持しつつ、絶縁体の割れを効果的に防止することができる。
【0014】
構成2.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1において、前記拡径部の最先端の内径をD1(mm)とし、前記拡径部の最後端の内径をD2(mm)とし、前記拡径部の前記軸線に沿った長さをL(mm)としたとき、
0.4≦(D1−D2)/L
を満たすことを特徴とする。
【0015】
上記構成2によれば、(D1−D2)/Lが0.4以上とされており、先端側に向けた拡径部の拡径率が十分に大きなものとされている。従って、拡径部において、プラズマの膨張力をより確実に先端側へと逃がすことができる。その結果、絶縁体の割れをより確実に防止することができる。
【0016】
構成3.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1又は2において、前記軸孔には、前記中心電極の先端面から前記軸線方向先端側に向けて延び、略同一の内径を有するストレート部が設けられ、
前記ストレート部の前記軸線に沿った長さをh(mm)としたとき、
1/4≦h/H≦4/5
を満たすことを特徴とする。
【0017】
尚、「略同一の内径」とあるのは、軸線方向に沿ってストレート部の内径が厳密に一定のものだけでなく、軸線方向に沿って内径が若干変動しているものも含むという趣旨である。従って、軸線を含む断面において、ストレート部の内周面の外形線が軸線に対して若干(例えば、±5°まで)傾いていてもよい。
【0018】
上記構成3によれば、キャビティ部の奥側にはストレート部が設けられており、キャビティ部の長さHに対するストレート部の長さhの比(h/H)が1/4以上とされている。従って、ストレート部において、プラズマの外周側に向けた膨張力を先端側に向けたプラズマの噴出力へと効果的に変換することができ、プラズマの噴出距離をより増大させることができる。その結果、着火性の更なる向上を図ることができる。
【0019】
一方で、絶縁体の内周面のうちストレート部を形成する部位は、プラズマが外周側に向けて膨張した際に大きな圧力を受け得るため、割れの発生が特に懸念されるが、上記構成3によれば、h/H≦4/5を満たすように構成されており、キャビティ部に対してストレート部が過度に長くならないように構成されている。従って、プラズマ生成に伴い絶縁体の内周面に加わる力を十分に低く抑えることができ、絶縁体の割れを一層確実に防止することができる。
【0020】
構成4.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成3において、前記ストレート部における前記絶縁体の肉厚が1.5mm以上であることを特徴とする。
【0021】
絶縁体のうちストレート部を形成する部位は、プラズマ膨張時に大きな圧力を受け得るが、上記構成4によれば、前記部位の肉厚が1.5mm以上とされている。従って、前記部位に十分な強度をもたせることができ、絶縁体の割れをより一層確実に防止することができる。
【0022】
構成5.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記拡径部は、前記軸孔の最先端部に設けられており、
前記拡径部の最先端の内径をD1(mm)とし、前記拡径部の最後端の内径をD2(mm)とし、前記拡径部の前記軸線に沿った長さをL(mm)としたとき、
(D1−D2)/L≦1.4
を満たすことを特徴とする。
【0023】
上記構成5によれば、(D1−D2)/Lが1.4以下とされており、先端側に向けた拡径部の拡径率が過度に大きなものとならないように構成されている。従って、拡径部においてプラズマが外周側に向けて過度に膨張してしまい、ひいては先端側に向けたプラズマの噴出力が低下してしまうという事態をより確実に防止することができる。その結果、着火性の一層の向上を図ることができる。
【0024】
構成6.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至5のいずれかにおいて、前記中心電極の先端から前記接地電極までの前記軸線に沿った最短距離をK(mm)としたとき、K≦3.0を満たすことを特徴とする。
【0025】
上記構成6によれば、中心電極及び接地電極間の最短距離Kが3.0mm以下とされているため、火花放電に要する電圧(放電電圧)を比較的低く抑えることができる。従って、放電電圧の増大に伴う放電異常(失火)の発生をより確実に防止することができる。
【0026】
尚、火花放電に伴い絶縁体の内周面が削られる現象(いわゆるチャンネリング)が生じるが、放電電圧が小さいほど絶縁体は削られにくい。従って、上記構成6により放電電圧の低減を図ることとすれば、チャンネリングの急速な進展も防止することができ、ひいてはチャンネリングの進展に伴う着火性の低下等を長期間に亘って抑制することができる。
【0027】
構成7.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至6のいずれかにおいて、前記軸孔のうち、前記中心電極の先端面よりも前記軸線方向先端側で、かつ、前記拡径部よりも前記軸線方向後端側の部位には、前記軸線方向先端側に向けて内径が徐々に縮径する縮径部が設けられることを特徴とする。
【0028】
上記構成7によれば、縮径部の存在により、プラズマがその生成中にキャビティ部の開口側へと漏れ出しにくくなり、一層高温のプラズマを生成することができる。従って、キャビティ部の開口から噴出するプラズマをより高温とすることができ、着火性をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、プラズマジェット点火プラグ(以下、「点火プラグ」と称す)1を示す一部破断正面図である。尚、
図1では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0031】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0032】
絶縁碍子2は、絶縁性セラミック(例えば、アルミナや窒化珪素等)を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0033】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる銅や銅合金等からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金〔例えば、インコネル(商標名)600や601等〕からなる外層5Bを備えている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端面が絶縁碍子2の先端面よりも軸線CL1方向後端側に配置されている。加えて、耐消耗性の向上を図るべく、中心電極5のうち、その先端から軸線CL1方向後端側に少なくとも0.3mmまでの部位には、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により形成された電極チップ5Cが設けられている。
【0034】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0035】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状のガラスシール層9が配設されている。当該ガラスシール層9により、中心電極5と端子電極6とがそれぞれ電気的に接続されるとともに、中心電極5及び端子電極6が絶縁碍子2に固定されている。
【0036】
加えて、主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0037】
尚、点火プラグ1は、燃焼装置のうち特に高圧縮比のエンジン(例えば、燃焼室内の圧力が2MPa以上となるもの)に好適に用いられる。
【0038】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0039】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0040】
また、主体金具3の先端部内周には、絶縁碍子2の先端よりも軸線CL1方向先端側に位置するようにして、円板状をなす所定厚さ(例えば、0.3mm以上1.0mm以下)の接地電極27が接合されている。接地電極27は、自身の絶縁碍子2側の面が絶縁碍子2の先端面に接触するとともに、自身の中央に板厚方向に貫通する貫通孔27Hを有している。そして、軸孔4の内周面と中心電極5の先端面とにより形成され、軸孔4の先端を開口端とする空間であるキャビティ部28が、貫通孔27Hを介して外部へと連通されている。尚、本実施形態において、接地電極27は、耐消耗性の向上を図るべく、W、Ir、Pt、Ni、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により構成されている。また、貫通孔27Hは軸線CL1に沿って略同一の内径を有し、貫通孔27Hの内径は軸孔4の先端の内径と等しくされている。
【0041】
加えて、本実施形態では、
図2に示すように、中心電極5の先端面からキャビティ部28の開口縁(軸孔4の先端)までの軸線CL1に沿った距離をH(mm)としたとき、H≧0.5を満たすように、すなわち、キャビティ部28の軸線CL1方向に沿った長さが十分に大きくなるように構成されている。一方で、中心電極5の先端から接地電極27までの軸線CL1に沿った最短距離をK(mm)としたとき、K≦3.0を満たすように、すなわち、中心電極5と接地電極27とが極端に離間しないように構成されている。尚、本実施形態では、上述の通り、接地電極27の絶縁碍子2側の面が絶縁碍子2の先端面と接触しているため、前記距離Hと前記距離Kとは等しい長さとなっており、結果として、0.5≦H≦3.0を満たすこととなっている。
【0042】
また、キャビティ部28は、その最小内径D
min(本実施形態では、後述する内径D2と等しい)が1.2mm以下とされている。さらに、キャビティ部28の最大内径(本実施形態では、後述する内径D1と等しい)は、所定値(例えば、4.5mm)以下とされている。
【0043】
加えて、軸孔4のうち中心電極5の先端面よりも軸線CL1方向先端側の部位(本実施形態では、軸孔4の最先端部)には、軸線CL1方向先端側に向けて内径が徐々に拡径するテーパ状の拡径部4Eが設けられている。また、拡径部4Eの軸線CL1方向先端側に向けた拡径率が0.4以上1.4以下とされている。尚、「拡径率」とあるのは、拡径部4Eの最先端の内径をD1(mm)とし、拡径部4Eの最後端の内径をD2(mm)とし、拡径部4Eの軸線CL1に沿った長さをL(mm)としたとき、(D1−D2)/Lで表される値をいう。
【0044】
さらに、軸孔4のうち、中心電極5の先端面と拡径部4Eの後端との間には、軸線CL1方向に沿って略同一の内径を有するストレート部4Sが形成されている。そして、ストレート部4Sの軸線CL1に沿った長さをh(mm)としたとき、1/4≦h/H≦4/5を満たすように構成されている。
【0045】
併せて、
図3に示すように、ストレート部4Sにおける軸線CL1と直交する方向に沿った絶縁碍子2の肉厚をT(mm)としたとき、T≧1.5を満たすように構成されている。
【0046】
以上詳述したように、本実施形態によれば、中心電極5の先端面からキャビティ部28の開口縁までの距離Hが0.5mm以上と十分に大きなものとされている。従って、プラズマの生成量を十分に確保することができる。また、キャビティ部28の最小内径D
minが1.2mm以下とされているため、プラズマの外周側への膨張を抑制することができ、先端側に向けたプラズマの噴出力を高めることができる。その結果、良好な着火性を実現することができる。
【0047】
さらに、軸孔4には拡径部4Eが設けられており、当該拡径部4Eにおいてプラズマの外周側に向けた膨張力を先端側に逃がすことができる。従って、絶縁碍子2の内周面に加わる圧力を緩和することができ、絶縁碍子2の割れを効果的に防止することができる。
【0048】
加えて、(D1−D2)/Lが0.4以上とされているため、プラズマの膨張力をより確実に先端側へと逃がすことができ、絶縁碍子2の割れを抑制する効果をより高めることができる。
【0049】
併せて、h/H≦4/5を満たすように構成されており、キャビティ部28に対してストレート部4Sが過度に長くならないように構成されている。従って、プラズマ生成に伴い絶縁碍子2の内周面に加わる力を十分に低く抑えることができ、絶縁碍子2の割れを一層確実に防止することができる。
【0050】
さらに、ストレート部4Sにおける絶縁碍子2の肉厚Tが1.5mm以上とされているため、ストレート部4Sにおける絶縁碍子2の強度を十分に確保することができ、絶縁碍子2の割れ抑制をより確実に図ることができる。
【0051】
また、1/4≦h/Hを満たすように構成されているため、ストレート部4Sにおいて、プラズマの外周側に向けた膨張力を先端側に向けたプラズマの噴出力へと効果的に変換することができる。その結果、プラズマの噴出距離をより増大させることができ、着火性の更なる向上を図ることができる。
【0052】
加えて、(D1−D2)/Lが1.4以下とされており、拡径部4Eの拡径率が過度に大きなものとならないように構成されている。従って、拡径部4Eにおいてプラズマが外周側に向けて過度に膨張してしまい、ひいては先端側に向けたプラズマの噴出力が低下してしまうという事態をより確実に防止することができる。その結果、着火性の一層の向上を図ることができる。
【0053】
また、中心電極5及び接地電極27間の最短距離Kが3.0mm以下とされているため、放電電圧を比較的低く抑えることができる。従って、放電電圧の増大に伴う放電異常(失火)やチャンネリングの進展をより確実に抑制することができる。
【0054】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、軸孔にストレート部と拡径部とを設けるとともに、キャビティ部の最小内径D
min(ストレート部の内径と等しい)と、距離H(キャビティ部の軸線に沿った長さ)とを種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについて着火性評価試験を行った。着火性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを所定のチャンバーに取付けた上で、チャンバー内の圧力を0.4MPaとし、チャンバー内の雰囲気を標準ガス雰囲気(大気雰囲気)とした。次いで、所定のトリガー電源(負極性電圧を出力するCDI)によりサンプルに火花放電を生じさせた上で、所定の電源(電圧550V)とコンデンサ(静電容量0.68μF)とを有する所定のプラズマ電源(投入エネルギー100mJ)によりプラズマを生成させ、火花放電から100μs後に、キャビティ部から噴出したプラズマ(フレーム)のシュリーレン画像を得た。そして、得られたシュリーレン画像を所定の閾値で二値化して、高密度の部分のサンプル先端からの噴出長をフレーム噴出距離として測定した。
図4に、当該試験の試験結果を示す。尚、フレーム噴出距離が大きいほど、着火性に優れることを意味し、十分な着火性を得るためには、少なくとも0.3mmのフレーム噴出距離が必要である。
【0055】
また、
図4においては、最小内径D
minを0.5mmとしたサンプルの試験結果を丸印で示し、最小内径D
minを1.0mmとしたサンプルの試験結果を三角で示し、最小内径D
minを1.2mmとしたサンプルの試験結果を正方形で示し、最小内径D
minを1.3mmとしたサンプルの試験結果を菱形で示し、最小内径D
minを1.5mmとしたサンプルの試験結果をバツ印で示す。尚、各サンプルともに、距離Hに対するストレート部の長さhの比(h/H)を0.5とし、ストレート部における絶縁碍子の肉厚Tを1.5mmとし、拡径部の拡径率を1.0とした。
【0056】
図4に示すように、距離Hを0.5mm以上とするとともに、最小内径D
minを1.2mm以下としたサンプルは、良好な着火性を実現できることが分かった。これは、距離Hを0.5mm以上としたことでプラズマが十分に生成されるとともに、最小内径D
minを1.2mm以下としたことでプラズマの外周側への膨張が抑制され、先端側に向けたプラズマの噴出力が十分に確保されたことによると考えられる。
【0057】
上記試験の結果より、絶縁碍子の割れ防止を図るべく拡径部を設けた場合において、良好な着火性を実現するためには、距離Hを0.5mm以上とするとともに、キャビティ部の最小内径D
minを1.2mm以下とすることが好ましいといえる。
【0058】
次に、軸孔にストレート部と拡径部とを設けるとともに、キャビティ部の最小内径D
minを1.2mm又は1.3mmとし、距離Hを一定(1.0mm)とした上でストレート部の長さhを変更することにより、h/Hを種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについて、絶縁体耐久試験と、上述の着火性評価試験とを行った。絶縁体耐久試験の概要は次の通りである。すなわち、最小内径D
min及び長さhを同一としたサンプルを10本ずつ用意し、各サンプルを所定のチャンバーに取付けた上で、チャンバー内の圧力を3.0MPaの高圧力とし、チャンバー内の雰囲気を標準ガス雰囲気(大気雰囲気)とした。次いで、着火性評価試験と同様のトリガー電源及びプラズマ電源により、印加電圧の周波数を60Hzとして(すなわち、毎分3600回の割合で)、10時間に亘って各サンプルにおいてプラズマを生成させ続けた。そして、10時間経過後にサンプルの絶縁碍子における割れの有無を確認し、10本中における割れの発生した本数の割合(割れ率)を算出した。ここで、割れ率が50%以上100%未満となったサンプルは、耐久性にやや劣るとして「△」の評価を下し、割れ率が100%となったサンプルは、耐久性に劣るとして「×」の評価を下した。一方で、10本中全てのサンプルにおいて割れの発生が確認されなかったサンプルは、優れた耐久性を有するとして「○」の評価を下すこととした。
【0059】
表1に、絶縁体耐久試験の試験結果を示し、
図5に、着火性評価試験の試験結果を示す。尚、
図5においては、最小内径D
minを1.2mmとしたサンプルの試験結果を正方形で示し、最小内径D
minを1.3mmとしたサンプルの試験結果を菱形で示す。また、各サンプルともに、ストレート部における絶縁碍子の肉厚Tを1.5mmとし、拡径部の拡径率を1.0とした。
【0061】
表1に示すように、最小内径D
minが小さいほど絶縁碍子に割れが生じやすいが、良好な着火性を確保すべく最小内径D
minを1.2mmとしたサンプルであっても、h/Hを0.8(4/5)以下とすることで、絶縁碍子に割れが生じることなく、優れた耐久性を実現できることが明らかとなった。これは、プラズマが膨張する際の圧力が大きく加わり得るストレート部を過度に長くすることなく構成したことで、プラズマ生成に伴い絶縁碍子の内周面に加わる力を低減できたためであると考えられる。
【0062】
また、
図5に示すように、最小内径D
minを1.2mmとした上で、h/Hを0.25(1/4)以上としたサンプルは、フレーム噴出距離が0.4mm以上となり、一層優れた着火性を有することが分かった。これは、ストレート部の長さを十分に確保したことで、ストレート部において、プラズマの外周側に向けた膨張力を先端側に向けたプラズマの噴出力へと効果的に変換できたことによると考えられる。
【0063】
上記両試験の試験結果より、着火性の更なる向上を図りつつ、絶縁碍子の割れをより確実に防止するためには、1/4≦h/H≦4/5を満たすように構成することが好ましいといえる。
【0064】
次いで、軸孔にストレート部と拡径部とを設けるとともに、拡径部の最後端の内径D2最小内径D
minと等しい)を0.5mm又は1.2mmとし、拡径部の軸線に沿った長さLを一定(0.5mm)とした上で、拡径部の最先端の内径D1(mm)を種々変更することにより、(D1−D2)/Lの値(拡径率)を種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについて、上述の絶縁体耐久試験及び着火性評価試験及を行った。
【0065】
表2に、絶縁体耐久試験の試験結果を示し、
図6に、着火性評価試験の試験結果を示す。尚、
図6においては、最小内径D
minを0.5mmとしたサンプルの試験結果を丸印で示し、最小内径D
minを1.2mmとしたサンプルの試験結果を正方形で示す。また、各サンプルともに、距離Hを1.0mmとし、ストレート部における絶縁碍子の肉厚Tを1.5mmとし、h/Hを0.5とした。
【0067】
表2に示すように、最小内径D
minが0.5mmとされ、プラズマの膨張に伴う絶縁碍子の割れが極めて懸念されるサンプルであっても、拡径率を0.4以上とすることで、
絶縁碍子の割れを防止できることが分かった。これは、拡径率を0.4以上と十分に大きくしたことで、拡径部において、プラズマの外周側に向けた膨張力を効果的に先端側へと逃がすことができたことに起因すると考えられる。
【0068】
また、
図6に示すように、拡径率を1.4以下としたサンプルは、フレーム噴出距離が0.5mmを超え、極めて優れた着火性を有することが分かった。これは、拡径部においてプラズマが外周側に向けて過度に膨張してしまうことが抑制されたためであると考えられる。
【0069】
上記両試験の結果より、着火性の一層の向上を図りつつ、絶縁碍子の割れをより一層確実に防止するという観点から、拡径率を0.4以上1.4以下とすること、すなわち、0.4≦(D1−D2)/L≦1.4を満たすように構成することが好ましいといえる。
【0070】
次に、軸孔にストレート部と拡径部とを設けるとともに、ストレート部における絶縁碍子の肉厚Tを種々変更した点火プラグのサンプルについて、上述の絶縁体耐久試験を行った。表3に、当該試験の試験結果を示す。尚、各サンプルともに、キャビティ部の最小内径D
minを1.2mmとし、距離Hを1.0mmとし、h/Hを0.5とした。
【0072】
表3に示すように、絶縁碍子の肉厚Tを1.5mm以上とすることで、絶縁碍子の割れを防止できることが確認された。
【0073】
上記試験の結果より、絶縁碍子の割れ防止をより確実に図るべく、ストレート部における絶縁碍子の肉厚Tを1.5mm以上とすることが好ましいといえる。
【0074】
次いで、中心電極の先端から接地電極までの軸線に沿った最短距離K(mm)を種々変更したサンプルについて、放電電圧測定試験を行った。放電電圧測定試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを試験用のチャンバーに取付けた上で、チャンバー内の圧力を0.8MPaとして標準ガス雰囲気(大気雰囲気)で火花放電に必要な放電電圧を測定した。尚、放電電圧が過度に大きいと、一般に使用される電源の電源能力を超えてしまい、異常放電(失火)が生じてしまうおそれがある。そのため、放電電圧は25kV以下であることが好ましいといえる。
図7に、当該試験の試験結果を示す。尚、当該試験においては、軸孔に拡径部を設けることなく、ストレート部のみを設けた(つまり、軸線方向に沿った全域においてキャビティ部の内径を一定とした)。
【0075】
図7に示すように、最短距離K(mm)を3.0mm以下とすることで、放電電圧を25kV以下とできることが確認された。
【0076】
上記試験の結果より、放電電圧を抑制し、放電異常等の発生をより確実に防止するためには、最短距離Kを3.0mm以下とすることが好ましいといえる。
【0077】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0078】
(a)上記実施形態では、軸孔4の最先端部に拡径部4Eが設けられているが、拡径部4Eは、軸孔4のうち、中心電極5の先端面よりも軸線CL1方向先端側の部位に形成されていればよい。従って、例えば、
図8に示すように、キャビティ部28の略中央に拡径部34Eを設けることとしてもよい。また、軸孔4に複数の拡径部を設けることとしてもよい。従って、例えば、
図9に示すように、キャビティ部28の略中央に拡径部35Eを設けるとともに、軸孔4の最先端部に拡径部36Eを設けることとしてもよい。
【0079】
(b)上記実施形態では、拡径部4Eはテーパ状をなし、軸線CL1を含む断面において、その外形線が直線状とされているが、
図10(a),(b),(c)に示すように、拡径部37E,38E,39Eの外形線が湾曲状や屈曲状をなすように構成してもよい。
【0080】
(c)上記実施形態では、軸孔4にストレート部4Sが設けられているが、ストレート部4Sを設けることなく構成してもよい。
【0081】
(d)上記実施形態では、軸孔4のうち、中心電極5の先端面よりも軸線CL1方向先端側で、かつ、拡径部4Eよりも軸線CL1方向後端側の部位は、軸線CL1方向に沿って略同一の内径を有するストレート部4Sとされている。これに対して、
図11に示すように、軸孔4のうち、中心電極5の先端面よりも軸線CL1方向先端側で、かつ、拡径部4Eよりも軸線CL1方向後端側の部位に、軸線CL1方向先端側に向けて内径が徐々に縮径する縮径部4Rを設けることとしてもよい。この場合には、縮径部4Rの存在により、プラズマがその生成中にキャビティ部28の開口側へと漏れ出しにくくなり、一層高温のプラズマを生成することができる。従って、キャビティ部28の開口から噴出するプラズマをより高温とすることができ、着火性をより一層向上させることができる。
【0082】
(e)上記実施形態では、絶縁碍子2の先端面に対して接地電極27が接触するように構成されているが、
図12に示すように、絶縁碍子2の先端面と接地電極27とを接触させることなく、両者の間の若干の隙間を設けることとしてもよい。但し、接地電極27の耐熱性を鑑みれば、接地電極27を絶縁碍子2に接触させることが好ましい。
【0083】
(f)上記実施形態では、貫通孔27Hは軸線CL1に沿って略同一の内径を有するように構成されているが、接地電極27における貫通孔27Hの形状は特に限定されるものではない。従って、例えば、
図13に示すように、貫通孔37Hの内径が軸線CL1方向先端側に向けて徐々に拡径するように接地電極37を構成してもよい。また、上記実施形態では、貫通孔27Hの内径が軸孔4の先端の内径と等しくされているが、
図14に示すように、貫通孔38Hの内径を軸孔4の先端の内径よりも大きくなるように接地電極38を構成してもよい。
【0084】
(g)上記実施形態では、中心電極5の先端部に電極チップ5Cが設けられているが、電極チップ5Cを設けることなく、中心電極5を構成することとしてもよい。
【0085】
(h)上記実施形態では、接地電極27がWやIr等により構成されているが、接地電極27を構成する材料はこれに限定されるものではなく、その他の材料により接地電極27を構成してもよい。
【0086】
(i)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。従って、例えば、工具係合部19をBi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等としてもよい。