【実施例】
【0067】
(実施例1−尿のエキソソームの精製)
標準化された方法を、使用し、細胞培養物の上清からのエキソソーム精製のために設計し、そしてエキソソーム供給源としての新鮮な尿に適用した。この方法を用いて、エキソソームをその浮力特性に基づいて単離する(Raposoら(1996)J.Exp.Med.183:1161−1172)。精製を通しての複数の工程における、尿のタンパク質含有量の分析により、この方法は、主な非エキソソーム混入物を除去し(
図1a)、(例えば、80Kdにおけるバンド)、他方、分子量スペクトル全体にわたって別個のタンパク質レパートリーを有する小胞を顕著に濃縮するのにこの方法が効果的であることが、示された(
図1a)。並行ゲル(parallel gel)上で免疫ブロット法分析を行うことにより、エキソソームの典型的なタンパク質が最終エキソソーム産物においてのみ検出されることが示された(
図1b)。
【0068】
この方法をまた、細胞培養物の上清(
図1c)または健康なドナーの尿(
図1d)を供給源物質として用いて、Pisitkunら((2004)PNAS 101:13369−13373)の方法と直接比較した。後者のこの方法は、17,000gで残屑をペレットにすること、その後、上清を200,000gで回転してエキソソームをペレットにすることを含む。本発明者らのスクロース法は、エキソソームがより濃縮されたペレットを生じる。このことは、CD9、TSG101およびLAMP−1などのエキソソームマーカーについての強いバンド強度によって明白である。重要なことには、このスクロース法は、腫瘍関連抗原(この場合は5T4)の良好な濃縮を生じた(
図1c)。このことは、ペレットにした沈殿物に対するエキソソームの分析における重要な利点を示した。多くのマーカーが上記の比較対象(comparator)調製法において検出されたが、これらは、より低いレベルであった。カルネキシン(エキソソームにおいて発現されないマーカー)についてのより強いバンドは、上記の比較対象(comparator)方法を用いた場合の、より多い非エキソソーム混入物を直接実証するものである(
図1c)。上記のスクロース−クッション法を用いることの同様の利点が、供給源物質として新鮮尿を用いて(
図1d)、より高いレベルの、エキソソームにより発現されるタンパク質群と、タム・ホースフォール(Horfsall)タンパク質(THP)の混入の減少とが示されたことにより、明白であった。このデータは、新鮮な尿標本からエキソソームを濃縮するためのこのアプローチを支持する;そしてこのアプローチは、以前に公開された尿−エキソソームプロトコールを超えるいくつかの利点を与える。
【0069】
(実施例2−PCa療法の間の尿エキソソーム量における変化)
それぞれの調製物に存在するエキソソームの量を測定し、開始時の尿体積に対する補正を行った。健康なドナー群および患者群の間で比較した値を
図2に示す。前立腺癌患者は(ADT
4において)、健康な男性と比較して平均で1.2倍の高さのレベルの尿エキソソームを有した(
図2A)。エキソソーム含有量において、健康なドナー(366.8±92.56、n=10 平均±標準誤差(SE))および患者(443.2±109.7、n=10、ADT
4)の両方の間で、広いばらつきがあった。従って、この差は、有意には達しなかった。エキソソームレベルを、3ヶ月間のアンドロゲン除去療法(androgen deprivation therapy)の後(ADT
12)(224.9±82.7、n=10)、そして20回分割分(fraction)の放射線療法(RT
20)(499.6±225.6、n=9)の後にもまた測定した。12週間のホルモンに対する処置の後、エキソソームの平均のレベルは半分に減少し、10人中8人の患者が尿のエキソソーム量の減少を示した。放射線処置に関しては、ADT
4またはADT
12と比較して有意差はなかった。これは、9人中3人の患者がエキソソームレベルのさらなる減少を実証し、他方、9人中6人が増加した尿のエキソソームレベルを有したからである。血清のPSAレベルを前立腺癌の転帰についての代用マーカー(surrogate marker)として用いることによって、10人中9人の患者において、ADTおよびRTの上記標準的な治療によって腫瘍の体積の減少に成功したことが示された。
【0070】
結論として、局所的に進行したPCaと、尿中に存在するエキソソームの量との間に相関関係を実証し得ず、そして血清のPSAと、尿のエキソソームレベルとの間に相関関係はない。しかしながら、上記データセットから、ADT
12において、存在するエキソソーム量の減少が存在するという示唆がいくらか存在する。
【0071】
(実施例3−前立腺癌細胞系統は、前立腺関連抗原および癌関連抗原について陽性である、典型的なエキソソームを産生する)
2つの十分に特徴付けされた前立腺癌細胞系統をPCaのエキソソームの供給源として培養状態で維持し、そして典型的なエキソソームマーカー(例えば、テトラスパニン(tetraspanin)CD9)およびいくつかの公知の前立腺マーカー(PSAおよびPSMA)の発現を試験した。LNCaP細胞(全細胞溶解物)をLNCaPのエキソソームと、免疫ブロット法により直接比較した。これによって、PSAおよびPSMAの、エキソソームによる発現が陽性であることが示された。LNCaPエキソソームによる、5T4のエキソソームによる発現もまた、明らかな陽性であった。PSAおよび5T4の両方は、上記の親細胞と比較して、エキソソームにおいて特に濃縮されていた(
図3A)。PSAもPSMAも発現しないDU145細胞系統を、特異的な染色を実証する対照として役立たせた。GAPDHについて染色すると、ウェル群の等しい充填が示された。PCa細胞から単離されたエキソソームは、他の細胞供給源由来のエキソソームに典型的な分子を、前立腺マーカーおよび(複数の)腫瘍関連抗原とともに発現すると結論付けられた。それゆえに、単純なこの免疫ブロット法のパネルは、以下の研究における尿のエキソソームの分析に適切である考えられた。
【0072】
(実施例4−健康なドナーの尿のエキソソームの表現型)
健康なドナー(HD)由来の尿のエキソソームについて類似の分析を行い、そして、これらの分子についての発現レベルをLNCaP由来のエキソソームの発現レベルと比較した。LNCaP標準物と比較して低いレベルではあったが、TSG101およびCD9などのマーカーが、ウエスタンブロットによってほとんどのHD標本において検出された。前立腺マーカー(PSAおよびPSMA)は、ドナーの年齢とは関係なく、どの健康なドナーの標本においても発現されていなかった。このことは、健康なドナーの尿中のエキソソームは、もしあるとしてもほとんど前立腺から生じないことを示している。腫瘍抗原である5T4は、上記HD標本のどれにおいても見つからなかった(
図4)。
【0073】
結論として、異なるドナーから得られた尿エキソソームをこの方法によって試験することによって、上記サンプル群の間でエキソソームの質におけるばらつきが示される。エキソソームの質が中程度であった/良好であった(すなわち、LNCaPのエキソソームに匹敵した)場合、健康なドナーの尿エキソソームはPSA、PSMA、および5T4について陰性であることが確証され得た。
【0074】
(実施例5−PCa患者の尿のエキソソームの表現型、および処置に伴う変化の評価)
PCa患者由来のエキソソームを、類似の方法でウエスタンブロットによって試験した。8人の個々の患者からのデータを示す(
図5)。全体としては、サンプルシリーズの間で(複数のマーカーについての)バンドの強度が変動し、ほとんどの場合において、LNCaPエキソソームと比べて弱い染色であった。弱かったが、24サンプルのうち20サンプルにおいて、エキソソームマーカーについての陽性の証拠(例えば、CD9)が存在した。上記患者コホートの間でのばらつき、および個体のサンプルシリーズ(ADT
4、ADT
12、およびRT
20)の範囲内でのばらつきが存在した。1ウェルにつき5μgのサンプルを充填することに対して大きな注意を払ったので、本発明者らは、上記結果が、サンプルの充填についての技術的問題よりむしろ、そのサンプルの可変的なエキソソームの含有量を反映している可能性が高いと考える。
【0075】
前立腺が尿のエキソソームプール全体にいくらかでもエキソソームを与え得ることは、以前には公知でなかった。健康なドナーにおいて、前立腺マーカーであるPSAまたはPSMAについて陽性の染色は全く存在せず、そして腫瘍マーカーである5T4もまた陰性であった。上記患者コホートにおいて、PSAは20個中8個の標本において明白であり、そしてPSMAは20個中9個の標本において存在した(ここで、24個中20個の標本が、1つまたはそれより多いエキソソームマーカーについて陽性であった;すなわち、エキソソーム−陽性として評価し得た)。5T4についての染色は、20個中14個のサンプルにおいて陽性を示した。総合して、このことは、尿のエキソソームによる、前立腺関連マーカーおよび癌関連マーカーの発現を初めて実証する。
【0076】
1人の特定の患者(p8)は、上記3つの時点のそれぞれにおける同等のエキソソームの存在、および治療に応じてのエキソソームのPSAの明瞭な減少を示した。このことは、ADT
4におけるPSAについての強いバンドが処置に伴って減少し、RT
20において検出することができなくなったことを示している。しかしながら、思いがけなく、5T4は、20回分割分の放射線療法の後でさえ強く発現されたままであった。このことは、これが、アンドロゲン除去または放射線療法の効果に応じて治りにくい、残存の悪性の細胞の存在を評価するための候補マーカーであり得ることを示唆している。データを
図6において要約する。
【0077】
(実施例1から実施例5のための材料および方法)
(前立腺癌患者および健康なドナー)
実地で第2相臨床試験に参加した10人のPCa患者を、10人の健康な男性ボランティアと一緒に勧誘した。これらの患者は、生体組織検査によってPCaについて陽性であると確認された。そして腫瘍の病期、グリソンスコア、血清PSA、および年齢を表2において要約する。患者に、根治的放射線療法(RT)の前に3−6ヶ月の術前補助アンドロゲン除去療法(ADT)を受けさせた。このRTは、前立腺に55Gyを20分割にして送達し、そして骨盤の節(node)に44Gyを20分割にして送達する、単一の段階からなった。患者に臨床の必要性に応じて補助ADTを継続させた。上記試験は、South East Wales Ethics Committeeによって承認された。そして、インフォームド・コンセントを、本研究に参加する患者およびボランティアから得た。
【0078】
健康なドナーから収集された尿標本の詳細を表3において提供する。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
(尿サンプルの収集)
200mlの体積までの尿標本を、無菌のプラスチック容器(Millipore)の中に収集し、30分以内に処理するために研究室に持っていった。サンプルを午前の真中から終わりごろに収集した。これらは朝一番の尿ではなかった。尿を血液、タンパク質、グルコース、およびケトンについて試験し、そしてpHを測定した;(Combur
5 Test(登録商標)D、ディップスティック(Roche)による)。この結果を表4において示す。PCa患者の尿を以下の3つの時点において収集した:「ADT
4」(ADTの開始後0〜4週間)、「ADT
12」(ADTの3ヶ月後)、および「RT
20」(20回分割分の放射線療法の後)。処置(ADT
4、ADT
12、および放射線療法後の4週間目)の間、間隔を空けて、血清PSAレベルを測定した。
【0081】
【表4】
(エキソソームの精製)
新鮮な尿を連続的な遠心分離に供し、細胞を除去し(300g、10分間)、非細胞残屑を除去した(例えば、円柱(cast)、結晶、膜断片など)(2000g、15分間、目に見えるペレットが全く存在しなくなるまで反復した)。その次に、30%のスクロース/D2Oクッションを上清の下に置き、100,000gで2時間、超遠心分離に供した(SW32ローター、Optima LE80K超遠心分離機、Beckman Coulter)。上記クッションを収集し、少なくとも7倍容量のPBS中に希釈し、そしてエキソソームを、70Tiローター(Beckman Coulter)を用いた2時間の100,000gでのさらなる超遠心分離工程によって、ペレットにした。エキソソームのペレットを100μl〜150μlのPBS中に再懸濁し、そして−80℃で凍結した。それぞれのペレット中に存在するエキソソームの量を微量BCAタンパク質アッセイ(Pierce/Thermo Scientific)によって決定した。
【0082】
(細胞培養)
LNCaP前立腺癌細胞系統およびDU145前立腺癌細胞系統(ATCCから得た)をバイオリアクターフラスコ(Integraから得た)の中に播き、そしてエキソソーム産生のために高密度培養で維持した。このバイオリアクターフラスコに、7日毎に、上記のようなエキソソーム精製のために保たれた馴化培地を供給した。
【0083】
(電気泳動および免疫ブロット法)
細胞溶解物を免疫ブロット法によってエキソソームと比較した。手短に言えば、等しい量のタンパク質(1ウェルにつき5μg)を、6M尿素、50mM Tris−HCl、2%SDS、および0.002%w/vブロモフェノールブルーを30%容量添加することによって可溶化した。サンプルを10%のポリアクリルアミドゲルに通して電気泳動し、そしてポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜へと転写し、この膜を、PBS中の3%w/vの無脂肪乳、0.05%v/vのTween−20(PBS−T)の中で一晩ブロックした。一次抗体を、PBS−T中での5回の洗浄の後、1時間インキュベートし、そしてSanta Cruzからのヤギ抗マウス−Ig−HRP複合体を(1:35,000希釈で)30分間添加した。PBS−T中での5回の洗浄の後、バンドをECL+システム(Amersham/GE healthcare)を用いて検出した。一次モノクローナル抗体は、マウス抗ヒトPSA(Atilla Turkes博士(Cardiff and Vale NHS Trust、カーディフ)からの寄贈物)、抗TSG101、抗LAMP−1、抗HSP90、抗カルネキシン、抗CD81、および抗PSMA(Santa Cruz Biotechnologyから)、抗GAPDH(BioChain Institute、Incから)、抗CD9(R&D systemsから)を含んだ。抗5T4はR Harrop博士(Oxford BioMedica UK Ltd)からの寄贈物であった。ヤギポリクローナル抗タム・ホースフォールタンパク質(THP)はSanta Cruzから得た。バンドを抗ヤギHRP(Dako)を用いて検出した。膜をRestore Plus(商標)ウエスタンブロットのストリップ(stripping)緩衝液(Pierce/Thermo Scientific)を用いてストリップし、一晩ブロックし、そしてリプローブ(re−probe)した。
【0084】
(エキソソーム膜の完全性の試験)
尿がエキソソーム膜に損傷を与えるかどうかを調査するために、B細胞系統から単離されたエキソソームを、抗MHCクラスIIでコーティングされたdynalビーズ(Dynal/Invitrogen)上で固定した。エキソソーム−ビーズ複合体を25mMカルセイン−AM中で37℃で一晩インキュベートした。カルセインを負荷されたエキソソーム−ビーズ複合体を、1時間室温で、種々の塩溶液に曝露するか、または新鮮な尿に曝露した。蛍光を、Cell Questソフトウェア(BD)を実行するフローサイトメトリー(FACScan、BD)によって分析した。カルセインの蛍光を、並列したチューブ中で、抗クラスI(RPE)で染色されたエキソソーム−ビーズの蛍光と比較した(エキソソームがビーズ表面に付着したままであるかどうかの尺度)。結果を、カルセイン:クラスIの蛍光の比として表す。
【0085】
(尿によるエキソソームのタンパク質分解性損傷の試験)
LNCaP細胞から精製されたエキソソームを、プロテアーゼ阻害薬(EDTA、ペプスタチン−A、ロイペプチン、およびPMSFを含む)の存在下または非存在下で、新鮮な尿で処理した。2時間または18時間後、サンプルを、CD9、PSA、およびTSG101の発現についてウエスタンブロットにより試験した。タンパク質分解についての陽性対照として、エキソソームをトリプシン(Cambrex)で処理した。
【0086】
(実施例6−膀胱癌のエキソソームのプロテオーム解析)
(6.1 HT1376エキソソームの特徴付け)
培養されたHT1376細胞(典型的なそして十分に特徴付けされた、移行上皮癌(TCC)系統)が、本研究のためのエキソソームの供給源であった。本発明者らは、分画超遠心分離すると、30%のスクロース/D2Oクッション上で浮遊することを利用する、以前に開発された方法を使用して、細胞馴化培地からエキソソームを単離した(Lamparskiら(2002)I Immunol Methods 270、211−226)およびAndre(2002) Lancet 360、295−305)。この方法によって、以前に定義されたエキソソーム浮遊特性に基づいて、非エキソソーム物質からエキソソームを分離する(上記のようなRaposoら(1996))。この方法で精製されたエキソソームを、プロテオームワークフローを用いた分析の前に、いくつかの形態の分析に供してサンプルの質/純度を評価した。最初に、ウエスタンブロットを行って、エキソソームと全細胞溶解物を比較して、(他のエキソソームの型を記載している公開された報告(Theryら(2006)Curr Protoc Cell Biol、UNIT 3.22)に従って)予期されたエキソソームマーカーの発現を試験し、そして全体としての親細胞と比較したこれらのマーカーの相対的発現を評価した。予期されたように、多小胞体マーカーであるTSG101は、細胞溶解物と比較して、エキソソーム調製物において強く濃縮されていた(
図7A)。
【0087】
その上、MHCクラスI、テトラスパニンCD9、テトラスパニンCD81、リソソームタンパク質LAMP−1、および、(ある程度までは)GAPDHを含むいくつかの他の分子は、同じように濃縮された。そのような特徴は、種々の細胞の型によって産生されるエキソソームについて典型的である(上記のようなTheryら(2006))。熱ショックタンパク質hsp90はエキソソームにおいて濃縮されなかった。このことは、細胞ストレス条件下にない細胞について典型的である(Mitchellら(2008)J.Immunol Methods 335、98−105、Claytonら(2005)J Cell Sci 118.3631−3638、およびDaiら(2005)Clin Cancer Res 11、7554−7563)。サイトケラチン18についての染色は、細胞溶解物において強いバンドを示したが、エキソソームにおいては、ほとんど検出できないかまたは全く検出できないバンドを示した。同様に、小胞体に内在するgp96が、細胞溶解物において容易に検出されたが、エキソソームにおいては検出されなかった。これは、そのエキソソーム調製物中に混入している細胞残屑がもしあるとしてもほとんど存在しないことを示した。エキソソーム表面の表現型をまた、ラテックスビーズに連結後に、フローサイトメトリーによって試験した(
図7B)。これは、エキソソーム表面での正しく方向付けたタンパク質の発現を実証するために行った。テトラスパニンは、このために選択されたマーカー(choice marker)であった。それは、テトラスパニンの発現が複数の細胞型由来のエキソソームについての十分に記録された特徴であるからである。これらの分析は、細胞系統および他の癌細胞系統について典型的なCD9>CD81>CD63の順での、テトラスパニンの非常に強い発現を示した(公開されていない観察記録)(
図7B)。さらに、このアッセイはまた、上記調製物中での顕著な混入タンパク質の存在を強調し得る。ここで、エキソソームよりもむしろ混入物が、上記連結の反応の間にビーズ表面に結合し、続いて、CD9のようなエキソソームマーカーについての低い蛍光シグナルをもたらす(
図7B 線グラフ)。精製されたエキソソームについての(本システムにおける混入物の最も可能性が高い供給源である)FBSによる意図的な混入により、0.01%のFBSを添加することがCD9特異的な染色を約30%減少させるのに十分であることが示される。(CD9染色について)5000メジアン蛍光単位より低く染色しているエキソソーム調製物を、低い質と見なし、これ以上利用しなかった。典型的なエキソソーム分子プロファイルの発現およびエキソソームの別の重要な特徴もまた調査した;つまりエキソソームの密度特性である。70,000×gでペレットにされたHT1376エキソソームをリニアなスクロース勾配に重層し、18時間、超遠心分離に供した。15個の画分を収集した。ウエスタンブロットによる分析により、約1.1g/ml〜約1.19g/mlの密度範囲で浮遊するTSG101の存在が示された(
図7C)。このような分析により、HT1376細胞が他の細胞型由来のエキソソームについて記載された密度と類似する典型的な密度のエキソソームを産生することが実証される(上記のようなRaposoら(1996))。(上記の)ラテックスマイクロビーズアッセイと組み合わせた、この方法をまた、本明細書の後半のセクションにおいてMSタンパク質同定を有効にするためのツールとして使用した。調製物についての電子顕微鏡検査法もまた、行った(
図7D)。それは、エキソソームとしての定義について一致する大きさの範囲(30nm〜100nm)内にナノ小胞構造を示した。総合すると、このデータにより、HT1376膀胱癌細胞が、他の細胞型のエキソソームと類似する、分子特性および生物物理学特性を有するエキソソームを産生すること、ならびにこの供給源由来の本エキソソーム調製物が、高品質であり、かつ混入している細胞残屑が少ない/存在しないことが、示される。
【0088】
(8.2 ナノLC−MALDI TOF/TOFによるエキソソームタンパク質の同定)
ナノLCについて、エキソソーム由来のトリプシン消化ペプチドを得るために、本発明者らは、膜タンパク質を可溶化するための1%(w/v)SDS抽出を含む標準プロトコールのバージョンを改変した(Tanら(2008)Proteomics 8,3924−3932)。この改変型プロトコールは、前もって調製されたHT1376エキソソームを超遠心分離によりペレットにすること、ならびにこのペレットを1%(w/v)SDSおよび20mM DTTを含むTEAB緩衝液中で沸騰することを、包含した。ここで、可溶化を高めるためにDTTを含むことを追加した。この後、残留するあらゆる不溶性物質および/または不溶性凝集物を取り除くために追加的な超遠心分離工程(118,000g/45分での回転)をまた、含んだ。その上清を溶媒ベースの沈殿法に供し、SDS、塩、および脂質を取り除いた(2D cleanup、GE Healthcare)。結果として生じるエキソソームタンパク質ペレットを、トリプシン消化の前のタンパク質アッセイ、およびナノLCにより、定量した。このプロセスは、353個のタンパク質(2個のペプチドまたはそれより多くのペプチド)の同定という結果になった。同定物の全セットを表6に列挙する。確実性の高いタンパク質同定(高品質のMS/MSデータによる、2個のペプチドまたはそれより多くのペプチド)のみが報告されていることに注意のこと。これらの選択基準に起因して、このFDRは0%であった。他の多くのプロテオミクス研究所と共通して、その単一ペプチドは、同定を報告されていないが、これらの割り当てのいくつかは必ず有効である。上記ナノLC/MS同定を調べることにより、エキソソーム生合成と一致する数個のタンパク質が示された。例えば、ユビキチン依存性複合体ESCRT(輸送に必要とされるエンドソームの選別(sorting)複合体)のメンバーが存在した。そのメンバーとしては、液胞タンパク質選別(sorting)関連タンパク質28のホモログ(vsp−28)ならびに液胞タンパク質選別(sorting)関連タンパク質4B(vsp−4B)、ユビキチン様修飾因子活性化酵素およびユビキチンが挙げられる。これらの同定により、分析されたサンプルについての多小胞体由来であることが示唆される。膜輸送プロセスおよび膜融合プロセスに関わるタンパク質もまた、明らかであった(クラスリン重鎖1、Rab−11B、Rab−5A、Rab−6a、Rab−7a、Rab GDP解離抑制因子β、アネキシンAl、アネキシンA2、アネキシンA3、アネキシンA4、アネキシンA5、アネキシンA6、アネキシンA7、アネキシンA8様タンパク質およびアネキシンAll)。エンドソーム/リソソームのマーカー(EHドメイン含有タンパク質1および2、リソソーム膜タンパク質2、リソソーム関連膜タンパク質−2、トリペプチジルペプチダーゼ1、カテプシン−D、シークエストソーム(sequestosome)−1)もまた、存在した。そして、シャペロン機能を有する数個のタンパク質(hsp70、hsc70、hsp90、ストレス誘導性リンタンパク質1、T−複合体タンパク質1、エンドプラスミン)を同定した。細胞質ゾルの構成要素がエキソソーム内腔内で見出されることがまた予期される。これは、多小胞体形成の間の膜の出芽プロセスについての自然な結果である。そして、ここではまた、多様な類別の細胞質ゾル酵素(グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ、細胞質ゾルアミノペプチダーゼ、細胞質ゾルアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、ニコチネートホスホリボシルトランスフェラーゼ)および細胞骨格の構成成分(アクチン、α−アクチン−4、サイトケラチン、エズリン、チューブリン、ミオシン)が見出された。(複数のインテグリン(β1、β4、α3、α6、αv)、MHC分子、CD9、EGFレセプター、MUCIN−1、CD44、シンデカン−1を含む)多様な膜貫通タンパク質および種々の膜輸送体(溶質キャリアファミリー2および3、4F2細胞表面抗原重鎖、コリン輸送体様タンパク質、ナトリウム/カリウム−14トランスポーティングATPアーゼサブユニットβ−3)もまた、豊富であった。従って、ここで同定されたプロテオームは、エキソソームについて予期されたプロテオームと広く一致する。そして、他の細胞供給源または他の生理学的供給源由来のエキソソームを調査している他の研究者によって強調されるプロテオームの同定物と同等である(
図8A)(Simpsonら(2009)Expert Rev Proteomics 6、267−283)。
【0089】
(8.3 Exocartaおよび遺伝子オントロジーの分析)
タンパク質同定セット全体の解釈を援助するために、本MSデータについての簡単なバイオインフォマティクス分析に着手した。まず第一に同定物をExocartaデータベース(エキソソームについての先行するプロテオーム研究に関する情報庫)と比較し、第二に上記データにおける重要な生物学的テーマをGeneGo Metacore(Version5.4)を用いて同定した。Exocartaデータベースは、エキソソーム研究の刊行物から抜粋されてきたEntrezGene IDのリストを照合する。Exocarta遺伝子セットと重複する遺伝子が偶然に予期され得るよりも多く存在するかどうかを調べるために、超幾何学分布(hypergeometic distribution)を用いるオーバーリプレゼンテーション分析(ORA;Over−representation analysis)を適用した。複数の試験について管理するために、本発明者らは、その比較を、MSベースのプロテオミクスアプローチを利用する研究ならびに少なくとも10個の適合する(Wubboltsら(2003)J Biol Chem 278、10963−10972)同定物および結果を補正されたFDRを有する研究との比較に限定した。その研究結果についての要約プロットを含んだ(
図8A)。これらの結果は、このデータセットが他のエキソソーム研究と一致するものであると示す。しかしながら、重要なことには、本データを結腸直腸癌細胞から単離されたエキソソームと比較した場合に非常に顕著なデータ適合が見られた。従って、上記データセットにおいて、癌腫に関連するタンパク質は、大いに特徴となるべきである。それは、新生物性上皮を非新生物性上皮と区別することができるタンパク質同定物を含む。バイアスをかけていない同様のオーバーリプレゼンテーション分析(overrepresentation analysis)をまた、遺伝子オントロジーおよびGeneGo Metacore内での私有のキュレーテッド遺伝子セット(proprietary curated gene set)の両方を用いて行った。それは、疾患バイオマーカー、疾患全般、生物学的プロセスおよび細胞区画という4つのカテゴリーの下で問い合わせ(query)を行った。疾患バイオマーカーについて、本データは、膀胱癌との最も顕著な関連性を示した。従って、このことは、エキソソーム分析が疾患特異的なバイオマーカーの同定のための有用なツールであり得るという前提を支持する。他のバイオマーカーの関連性は、結腸癌および乳癌を含んだ(
図8B)。同様に、全般的な疾患の関連性を試験する問い合わせ(query)は、胃腸管の癌、転移性の癌、(肺癌を含む)気道の疾患、および癌腫に関連する特徴を示した(
図8C)。上位40位の顕著な関連性において尿生殖路(膀胱新生物を含む)との顕著な関係が存在したが、(示された)上位10位内で特徴をなしている泌尿器科の管に関連する疾患が見られないことは、驚くべきことであった。従って、上記ORA分析により、HT1376エキソソームが新生物性疾患全般および特に癌腫に強く関連するタンパク質を発現することが、示される(
図8Bおよび
図8C)。このプロテオームに関連する生物学的プロセスを試験することにより、細胞骨格の制御、細胞間接着、マトリックス接着プロセス、およびタンパク質のフォールディングに関連プロセスとの顕著な関連性が示された(
図8D)。細胞区画に関して、上記プロテオームは、細胞質内の膜小胞、細胞質および細胞骨格に強く関連した。しかしながら、上記上位の関連性は、メラノソーム区画および色素顆粒区画を特定した(
図8E)。核、小胞体およびミトコンドリアは、顕著に関連する区画としての特徴をなさなかった。結論として、ここで提示された、統計を基にしたバイアスのない分析により、他の供給源由来のエキソソームに類似する、膀胱癌のエキソソームプロテオームの局面が実証され、さらに、特に癌腫に関与するプロテオームが強調される。
【0090】
(8.4 2次元電気泳動(2DE)を用いたナノLCアプローチの確認)
本発明者らは、MS同定物についてのランダムスポットを選択する目的で2次元電気泳動(2DE)を行った。そして、主要な同定物リスト(表6)におけるこれらのタンパク質の非存在/存在を確かめた。約100μgの精製されたエキソソームを用いて、そのようなゲルを試みたが、スポット選択物はほとんど物質を含まなかったので確実なタンパク質同定は得られず、試みたうちの10%未満しか成功しなかった。しかしながら、1ゲルにつき約500μgのエキソソームを用いてこのプロセスのスケールを大きくすることにより、53%より高い同定ヒット率という結果になった。(銀染色された)中程度の染色強度の17個のスポットが、MS分析により首尾よく同定された。これらは、インテグリンα3およびインテグリンα6、ゲルソリン(Gelsonin)、細胞質ゾル酵素LDHおよびGAPDH、細胞骨格タンパク質アクチンおよびサイトケラチン、エズリンなどを含んだ。このゲルベースのアプローチによる21個の同定物中19個をまた、ナノLC法により同定した。これにより、エキソソームタンパク質/ペプチドを解析するためのこれらの異なる方法の間での優れた一致(90%)が実証された(
図10においてデータを要約する)。
【0091】
(8.5 同定されたタンパク質の確認:異常なMHCクラスI同定物)
そのようなあらゆるプロテオームデータセットの場合と同様に、あらゆる、予期しないMS同定物または説明できないMS同定物についてそのリストを人力により評価すること、およびそのデータ中に発見されるあらゆる異常の妥当性を問うことが重要である。上記分析において、そのナノLC/MSデータは、16個のHLA分子についての複数の同定物を含んだ。それは、本発明者らの品質基準(期待値<0.05、および1個より多くのペプチドに基づくID)を通過した。しかしながら、これらの同定物は、生理学的に可能ではなかった。これらは、5つのHLA−B対立遺伝子および5つのHLA−C対立遺伝子を含んだ(表5)。このことについての説明としては、供給源細胞系統への異なる(複数の)ドナー由来の他の細胞による混入、研究者による標本の不注意なコンタミネーション、またはMSから生み出されるペプチド配列に基づいて、どのようにMASCOTがHLA−ハプロタイプの命名法を指定したかに関連する問題が挙げられ得る。これらの可能性に取り組むために、臨床診断サービス(Welsh Blood Service、Llantrisant、Wales、UK)を用いて、上記研究者およびHT1376細胞系統をハプロタイプに関して特徴付けた。その研究者は、MSリストにおけるHLA対立遺伝子に対応するHLA対立遺伝子を有さなかったが、HT1376は、HLA−A*24;B*15(62);Cw*03(9)としてハプロタイプに関して特徴付けられた。従って、HT1376は、相同細胞系統であると確かめられる。これにより、本発明者らは、得られたペプチド配列をより詳細に試験し、MASCOTによってどのようにこれらが所定のHLA命名法に割り当てられたかを評価した(表5)。数個のペプチド配列が複数のHLA型に割り当てられたことは明白であった。例えば、配列FDSDAASPRは、HLA−B15、HLA−B52、HLA−B54、HLA−B59ならびにHLA−C01、HLA−C12、HLA−C17およびHLA−C03に指定された。しかしながら、対照的に、単一の指定にのみ現れる数個のペプチドが存在した。これらの特有な配列は、HLA−A24(APWIEQEGPEYWDEETGK、AYLEGTCVDGLRおよびWEAAHVAEQQR)、HLA−C03(GEPHFIAVGYVDDTQFVR)およびHLA−G(APWVEQEGPEYWEEETR、FIAMGYVDDTQFVRおよびTHVTHHPVFDYEATLR)に割り当てられた。いかなるHLA−B対立遺伝子に対して特有なペプチドも存在しなかったが、同定されたHLA−Bサブタイプのうち、HLA−B15に最も多くのペプチドが割り当てられた。結論として、そのようなMASCOT結果から生じる潜在的な混乱を明らかにするための、MHCクラスI同定物として指定されたペプチドについての人力による分析が薦められる。
【0092】
(8.6 同定されたタンパク質のエキソソームによる発現の確認)
MSにより同定された数個のタンパク質の妥当性を、他の技術を用いてサンプル中にそのタンパク質の存在を同定することにより、決定することもまた、重要である。353個ものタンパク質の大きなリストなので、大規模にこれを行うことが可能ではなかったので、本発明者らは、生物学的に関心があり得るタンパク質セットにそのような確認を限定した。一連のウエスタンブロットパネルを行い、1ウェルにつき20μgまでのHT1376エキソソームを分析し、MSにより同定されたいくつかのタンパク質が本発明者らのエキソソーム調製物中で検出できるかどうかを決定した。本発明者らは、多小胞体(従って、エキソソーム)についての選択されたマーカー(choice marker)としてTSG101について染色した。これは、単一のペプチド配列のみによるMSにより偶然検出され、それゆえにこのことを基に本発明者らのデータから除外されたタンパク質である。エキソソーム中に存在することが予期された分子であるリソソーム関連膜タンパク質−2(LAMP2)がMSによりサンプル中に検出され、ウエスタンブロットにより強く陽性であることがここで確かめられた(
図8A)。MS同定物の中には、数多くのサイトケラチン同定物(I型の細胞骨格のケラチン1、7、13、14、16、17、18、19)が存在した。他のエキソソームプロテオームの研究において見出されたが、エキソソームへのそのような細胞骨格の成分の積み荷は、エキソソームの生物学的特性として特に強調されてこなかった局面である。本発明者らは、上記調製物中におけるサイトケラチン17およびサイトケラチン18の発現を確かめた。この発現は、エキソソームによるサイトケラチン17の豊富な発現を示した。しかしながら、サイトケラチン18は、1ウェルにつき20μgのエキソソームで検出できただけであった。このことは、エキソソームが複数の細胞骨格構成成分を本当に発現すること、およびこのナノLC/MSアプローチが伝統的なウエスタンブロット法では示すことが難しいCK18などの分子を検出するのに十分に感度がよいことを示唆する。MHC同定物を取り巻く異常な問題が原因で、HLA−Gが実際にHT1376エキソソームによって発現されるか否かを決定することが重要であった。これは、HLA−Gが、HT1376細胞についてのPCRハプロタイプ決定に含まれていなかったからである。HLA−Gは、ウエスタンブロットにより、疑う余地なく陽性であることがここで確かめられた。癌生物学の種々の局面において記録された関連性を有する、他の膜関連分子(ガレクチン−3、BasiginおよびCD73)または可溶性分子(hnRNPK、β−カテニン)は、HT1376エキソソームにより陽性に発現されることが確かめられる。ここで用いられる標準のエキソソーム精製方法は、確固不動であるが、いくらかの非エキソソーム混入物質が上記調製物中に存在すること、およびこれらのMS同定物のいくつかが、本当にエキソソームにおいて発現されるタンパク質ではないことの可能性が依然としてある。この問題に取り組もうと試みるために、HT1376細胞馴化培地由来の、リニアなスクロース勾配の調製物を、同定されたタンパク質がエキソソームの密度で浮遊する能力を決定するために行った。15個の収集された画分のそれぞれを、その1/3は(エキソソームでコートされたビーズの)フローサイトメトリーによる分析用に、2/3はウエスタンブロット用に分けた。前者の方法は、エキソソーム表面での候補タンパク質についての可能性のある発現を示し、他方、ウエスタンブロットのためにエキソソームを可溶化することにより、表面の構成成分および腔内の構成成分が明らかにされた。フローサイトメトリーアッセイにおいて、HT1376エキソソームの表面上で発現されることが知られるテトラスパニンCD9およびテトラスパニンCD81ならびにMHCクラスIについての強い染色によりエキソソームを含む画分が同定され、1.12g/mlの密度で明らかな(および主な)ピークを示した(
図9B)。これは、予期されるエキソソームの密度の範囲内である(
図7C)。従って、上記エキソソームのほとんどを含むこの画分はまた、MSで同定されたタンパク質であるβ1インテグリンおよびα6インテグリン、CD36、CD44、CD73、CD10、MUC1、栄養芽層糖タンパク質(5T4)ならびにBasiginについて陽性の表面染色を示した。同じ画分はまた、カルネキシン特異的抗体により染色され、大部分はそのエキソソームを含む画分よりも高い密度で低いレベルの発現を示し、試験された他のマーカーに関しての陽性染色について特異性を強調し、エキソソームを含む画分において、予期したようにこのタンパク質の非存在を示した(
図8B)。ウエスタンブロットパネルにおいて関連する画分を明らかにするために、本発明者らはTSG101について染色した。エキソソームを含む画分として1.12g/ml〜1.2g/mlの密度が強調された。過剰密度の画分(>1.2g/ml)において、いくらかの陽性染色が存在したが、これは比較的弱く、これは、エキソソーム凝集物またはタンパク質凝集物に起因し得る。タンパク質5T4、CD44、Basigin、ガレクチン−3、およびβ−カテニンは、同じ密度範囲で全て共局在した。これは、それらのタンパク質のエキソソームによる発現に一致する。これらのデータは、本研究において達成されたMS同定物がHT1376エキソソームによって発現されること、および可溶化し、MSアプローチにより同定することがしばしば難しい膜関連分子が、エキソソーム膜に局在するとして首尾よく同定され、かつ確認されていたことを示す。要約すると、本発明者らは、非常に純粋なエキソソーム調製物、正確な標本の品質管理、厳しいMSの基準および実質的な確認を用いて、膀胱癌細胞由来のエキソソームについての初めての高品質なプロテオームの解説を達成した。このシステムを用いて集められた情報は、結局、この疾患の診断およびモニタリングに現在利用されている非常に侵襲的な手順を、完全に非侵襲的な尿のエキソソームを基にした技術で置き換えるために使用し得る。
【0093】
(実施例6のための材料および方法)
(細胞培養)−HT1376は、膀胱の原発性移行上皮癌(TCC)に由来する細胞系統である(ステージ T2、グレードG4)(Gardnerら(1997)J Natl Cancer Inst 58、881−890)。これらの細胞を、本研究のためのエキソソームの供給源として使用した。それは、これらが以前に広く特徴付けられており、TCC(上記のようなGardnerら(1997);およびMastersら 1986 Cancer Res 46、3630−3636)の挙動および表現型をよく表すものであるからである。上記細胞をDMEM(ペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep)および(100,000gで一晩、超遠心分離し、その後、0.2μmのバキュームフィルター(Millipore)を通して濾過し、次に0.1μmのバキュームフィルター(Millipore)を通して濾過することによりエキソソームを除去させてある)5%のFBSを補充した)中で維持した。記載された(MitchellらImmuno Methods 335、98−105)ように、上記細胞をバイオリアクターフラスコ(Integraから得た)の中に播き、そしてエキソソーム産生のために高密度培養で維持した。毎月のスクリーニングにより、細胞がマイコプラズマ混入について陰性であることを確かめた(mycoalert、Lonza)。
【0094】
(エキソソームの精製)−細胞培養培地を連続的な遠心分離に供し、細胞を除去し(300g、10分間)、細胞残屑を除去した(2000g、15分間)。その上清を次に10,000gで30分間遠心分離し、そしてその上清を保持した。30%のスクロース/D2Oクッションをこれの下に置き、100,000gで2時間、超遠心分離に供した。記載された(Lamparskiら(2002)Immunol Methods 、270、211−226;Andreら(2002)Lancet 360、295−305;およびClaytonら(2007)Cancer Res 67、7458−7466)ように、上記クッションを収集し、エキソソームをPBS中で洗浄した。エキソソームのペレットを100μl〜150μlのPBS中に再懸濁し、そして−80℃で凍結した。エキソソームの量を微量BCAタンパク質アッセイ(Pierce/Thermo Scientific)によって決定した。記載された(上記のようなClaytonら(2007))ように、調製物についての透過電子顕微鏡検査法を行った。
【0095】
(エキソソーム密度の決定)−HT1376により産生されるエキソソームの密度を定量するために、リニアなスクロース勾配における超遠心分離に基づき、以前に記載されたプロトコールと同様のプロトコールを用いた(Raposoら(1996)J.Exp.Med.183、1161−1172およびTheryら(2006)Curr Protoc Cell Biol、UNIT 3.22)。手短に言えば、細胞培養上清を分画遠心分離に供し、70,000gでペレットにされたペレットをリニアなスクロース勾配(0.2M〜2.5Mまでのスクロース)に重層した。標本を、Optima−Max超遠心分離機(Beckman Coulter)においてMLS−50ローターを用いて4℃で、210,000gで一晩遠心分離した。収集された画分の屈折率を自動屈折計(J57WR−SV、Rudolph Scientific)を用いて(20℃で)測定し、これから、記載された(上記のようなRaposoら(1996))ように、密度を計算した。画分を緩衝液(下記で論じられるPBSまたはMES緩衝液)中で、(TLA−110ローター、Optima−Max超遠心分離機において)150,000gで超遠心分離により洗浄し、ペレットを、マイクロビーズに連結するためにMES緩衝液中に再懸濁するか、またはウエスタンブロットによる分析のためにSDSサンプル緩衝液中に再懸濁した。
【0096】
(エキソソームでコートされたビーズのフローサイトメトリー分析)−MES緩衝液(0.025M MES、0.154M NaCl、pH6)中で2回洗浄した精製エキソソーム1μgを1μlのラテックスビーズ(界面活性剤を含まない、アルデヒド−サルフェート3.9μmビーズ、Interfacial Dynamics、Oregon)とともにインキュベートした。スクロース勾配画分の分析のために、各画分の30%を0.5μlのストックビーズに連結した。エキソソーム−ビーズを最終容積100μlのMES緩衝液中で、室温で1時間、振とうする台の上でインキュベートし、その後、4℃で一晩回転した。ビーズを、1%のBSA/MES緩衝液とともに室温で2時間インキュベートすることによりブロックした。ブロッキング緩衝液を洗い流し、ビーズを0.1%のBSA/MES緩衝液中に再懸濁した。4℃で1時間、(2μg/ml〜10μg/mlで)一次抗体を添加した。1回の洗浄後、0.1%のBSA/MES緩衝液中のヤギ抗マウスAlexa−488結合体化抗体(200:1、Invitrogen)を1時間添加した。洗浄後、ビーズを、高スループットサンプリングモジュールで設定され、FACSDiva v6.1.2ソフトウェア(Becton Dickinson)を実行するFACSCanto装置を用いて、フローサイトメトリーによって分析した。
【0097】
(1次元(1D)電気泳動および免疫ブロット法)−細胞溶解物を、記載された(Claytonら(2003)Eur.J.Immunol 33、552−531)ように、免疫ブロット法によってエキソソーム溶解物と比較した。ここで、タンパク質(1ウェルにつき20μgまで)を、6M尿素、50mM Tris−HCl、2%SDS、20mM DTTおよび0.002%w/vブロモフェノールブルーを30%容量添加することによって可溶化した。サンプルを4〜12%のBis−Trisゲル(Invitrogen)に通して電気泳動し、そしてポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜へと転写し、この膜を、Qdot(登録商標)システム(Invitrogen)を用いてブロックし、抗体でプローブした。MiniBIS Proイメージングシステム(DNR Bio−Imaging Systems)を用いて、バンドを可視化した。TSG101、LAMP−1、HSP90、カルネキシン、HLA−G、ガレクチン−3、Basigin、hnRNPK、サイトケラチン18およびサイトケラチン17ならびにCD44に対して特異的な一次モノクローナル抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから得た。抗GAPDH(BioChain Institute、Incから)、抗CD9(R&D systemsから)および抗CD81(Serotecから)。抗5T4はR Harrop博士(Oxford BioMedica UK Ltd)からの寄贈物であった。
【0098】
(2次元(2D)電気泳動およびMS)−ゲルベースのアプローチを使用し、標準2次元電気泳動(2DE)プロトコールを用いてエキソソームタンパク質プロフィールを試験した。手短に言えば、エキソソーム(750μg)を、150μlの溶解緩衝液(7M尿素、2Mチオ尿素、20mM DTT、4%(w/v)CHAPS、0.005%(w/v)ブロモフェノールブルーおよび0.5%(v/v)固定化pH勾配(IPG)緩衝液pH3〜10NL(GE Healthcare))中で1時間、室温で可溶化した。抽出されたタンパク質を、次に、溶解緩衝液中にそのペレットを再懸濁する前に2D−Clean Upキット(GE Heathcare)を用いて溶媒沈殿した。18cm pH3〜10NL IPG再水和済みストリップ、Ettan IPGphor III IEFシステム(GE Healthcare)および推奨電圧を用いて、そのサンプルの等電点電気泳動を行った。続いて、そのIPGストリップを15分間、1%(w/v) DTTを含む平衡緩衝液(50mM Tris−HCl pH8.8、6M尿素、2%(w/v)SDS、30%(v/v)グリセロール、0.002%(w/v)ブロモフェノールブルー)中で平衡化し、その後、2.5%(w/v)ヨードアセトアミドを含む平衡緩衝液中で15分間、平衡化した。平衡化されたIPGストリップを、Ettan(商標)DALTsixシステム(GE Healthcare)を用いて、2次元分離に供した。以前に記載された(Brennanら(2009)Proteomics−Clin Apps 3、359−369)ように、銀染色を行い、ランダムに選択されたゲルスポットを切り出し、トリプシン消化およびMALDI−TOF/TOF質量分析法の分析に供した。使用したデータベース検索設定は、50ppmの前駆体質量許容誤差(precursor mass tolerance)を使用したことを除き、LC−MALDIタンパク質同定のために記載されたものと同じであった。
【0099】
(ナノLCのためのエキソソーム由来のペプチドの調製)−HT1376由来のエキソソーム調製物をTLA−110ローター、Optima−Max超遠心分離機(Beckman Coulter)において、118,000gで45分間、4℃で再びペレットにした。そのペレットを、20mM DTTおよび1%(w/v)SDSを含む100μlのトリエチルアンモニウムバイカーボネート(TEAB)溶解緩衝液(20mM TEAB)中で、室温で10分間、その後、95℃で10分間可溶化し、さらに10分間、室温で放置した。そのサンプルを、追加の超遠心分離工程(室温で、118,000gで45分間)に供し、(今では不溶性物質を含まない)上清を(2D clean−up、GE Healthcareを用いて)溶媒沈殿に供し、塩、脂質および界面活性剤を取り除いた。そのペレットを、20mM TEAB中に再懸濁し、4℃で一晩放置した。そのタンパク質含有量を、次に、BCAタンパク質アッセイキット(Sigma)を用いて決定した。サンプルを、次に、Applied Biosystems iTRAQ標識キットおよび標準プロトコールを用いて還元し、変性し、そしてアルキル化した。そのタンパク質を、1サンプルにつき0.8μgのトリプシンを用いる消化に供し、37℃で12時間〜16時間インキュベートした。そのサンプルを、次に、乾燥し、0.1%(v/v)TFAを含む水に再懸濁した。
【0100】
(LC−MALDIおよびタンパク質同定)−消化されたペプチドを、以前に記載された(Brennanら(2009)Proteomics−Clin Apps 3、359−369)ように、2次元塩プラグ法を用いて、ナノLCシステム(UltiMate 3000、Dionex、Sunnyvale、USA)で分離した。Brennanら(2009)に記載されたように、Applied Biosystems 4800 MALDI TOF/TOF質量分析計を用いて質量分析法を行った。そのMS/MSデータを使用し、Swiss−Protデータベース(Version 57.1;公開日2009年4月14日;462764配列;ヒト分類学)を検索した。その検索には、GPS Explorerソフトウェアv3.6 Build 327(Applied Biosystems)に組み込まれたMASCOT Database検索エンジンv2.1.04(Matrix Science Ltd、London、UK)(デフォルトGPSパラメーター、1つの許容されるmissed cleavage、MMTS(C)の固定された改変、酸化(M)、ピログルタミン酸(N末端E)およびピログルタミン酸(N末端Q)の可変性の改変、MSにおける150ppmの質量許容誤差およびMS/MSについての0.3Daの質量許容誤差)を用いた。タンパク質を同定するために、0.05未満のMSCOTのe値を伴う、最小限2個のペプチドを必要とした。配列全体をランダムにした同じSwissProtデータベースを用いて決定された0%のフォルスディスカバリレート(FDR)が存在した。2つの生物学的反復を用いてその分析を行い、それぞれは技術的反復を含んだ。
【0101】
(MSデータ分析)−その結果として生じるタンパク質のリストを、Metacore GeneGO(Version 5.4)を用いて、選択されたExoCartaサブミッション(10またはそれより多くの適合する遺伝子識別名を含むMSベースのデータ)から定義されたリストに対してのあらゆる生物学的濃縮について分析した。Exocarta遺伝子セットを用いた分析のために、本発明者らのタンパク質リストを、BioMartを用いてSwissProt AccessionからEntezGene IDへと変換した。この変換は、EntezGene IDを有する全ヒト遺伝子のバックグラウンドに対する、Rにおける超幾何学分布(hypergeometic distribution)を用いたオーバーリプレゼンテーション分析(ORA;over−representation analysis)の前に行った。MetaCoreにおけるORAのために、分析前にデータを最初にSwissProt ID(BioMartを用いて)へと変換した。ここでまた、超幾何学(hypergeometic)試験を用いた。
【0102】
(実施例7−エキソソームによる5T4発現のELISAによる検出)
捕捉抗体CD9((クローン209306−IgG2b)精製されたマウス抗ヒト(キャリアタンパク質を含まない)抗体(R&D Systems、US))を10μg/mlの有効濃度までdPBS(Lonza、UK)に希釈し、それぞれのウェルに100μl添加し、使用する(1μg/ウェル)。捕捉抗体をELISAプレート(96ウェル平底F−ストリップ型、高結合ELISAプレート(Greiner bio9−oine Ltd、UK))上で、4℃で18時間インキュベートする。そのプレートのウェルを次に、300μl/ウェルのDELFIA(商標)(Perkin Elmer)洗浄溶液で3回洗浄する。
【0103】
非特異的結合をブロックするために、試薬希釈剤(10x concentrate 2(10% BSA)(R&D Systems、US))を、dPBS(10%)で10倍希釈し、1%BSAを生成する。次に、それぞれのウェルに300μlを添加し、ブロックし、2時間室温でインキュベートする。そのプレートのウェルを次に、300μl/ウェルのDELFIA洗浄溶液で3回洗浄する。
【0104】
エキソソームを捕捉するために、100μl〜200μlのエキソソーム含有サンプル(例えば、生物学的流体または細胞馴化培地)をそれぞれのウェルに添加し、室温で2時間インキュベートする。そのプレートのウェルを300μl/ウェルのDELFIA洗浄溶液で3回洗浄する。
【0105】
検出は、5T4抗体(5T4(クローンH8)−ビオチン結合体化抗体(Oxford BioMedica、Oxford UK))を用いて、5T4抗体をDELFIAアッセイ緩衝液で0.1μg/mlの有効濃度まで希釈すること、検出のためにそれぞれのウェルに100μl添加すること(0.01μg/ウェルまたは10ng/ウェル)、室温で2時間インキュベートすること、その後、そのプレートのウェルを300μl/ウェルのDELFIA洗浄溶液で洗浄することにより、行い得る。
【0106】
5T4−ビオチン抗体を、ユーロピウム−ストレプトアビジンをDELFIAアッセイ緩衝液で1/1000希釈すること、それぞれのウェルに100μl添加すること、室温で45分間インキュベートすること、そして、そのプレートのウェルを300μl/ウェルのDELFIA洗浄溶液で6回洗浄することにより、ユーロピウム−ストレプトアビジン標識し得る。
【0107】
そのユーロピウムのシグナルを、100μlのDELFIA濃縮溶液をそれぞれのウェルに添加すること、プレートを混合し、Wallac Victor 2 Multi−label Counterプレートリーダー(Perkin Elmer)上でそのプレートを読み取りながら室温で5分間インキュベートすることにより、取得する。その結果を
図11に示す。
【0108】
上記の明細書において言及された全ての刊行物は、本明細書中において、参考として援用される。本発明の記載された方法およびシステムの種々の改変および変更は、本発明の範囲および趣旨からはずれることなく、当業者に明らかである。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して記載されてきたが、特許請求される本発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、本発明を実施するための、記載された様式の種々の改変は、フローサイトメトリーを用いた細胞研究または関連する分野における当業者に明らかであり、以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。