特許第5671512号(P5671512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671512
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】ボンディング用ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20150129BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20150129BHJP
   C22F 1/14 20060101ALN20150129BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
   C22C5/06 Z
   !C22F1/14
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 650C
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 661A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-245424(P2012-245424)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-96403(P2014-96403A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年9月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 裕司
【審査官】 井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−151350(JP,A)
【文献】 特開2012−182205(JP,A)
【文献】 特開2003−059964(JP,A)
【文献】 特開平11−288962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C22C 5/06
C22F 1/00
C22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子(5、13)のNi/Pd/Au被覆電極(a)又はAu被覆電極(a)と回路配線基板(3、15)の導体配線(c)とをボールボンディング法によって接続するためのボンディング用ワイヤ(W)であって、
Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を合計で1.0質量%以上、4.0質量%以下、Ca、希土類元素から選ばれる1種以上の元素を合計で20質量ppm以上、500質量ppm以下含み、
残部がAgおよび不可避不純物からなり、
そのワイヤ(W)の常温での引張強度が18〜32kgf/mmであり、ワイヤを250℃の炉中で加熱した後、そのまま250℃炉中で試験を行う引張試験での引張強度が14kgf/mm以上であることを特徴とするボンディング用ワイヤ。
【請求項2】
上記ワイヤ(W)のCa、希土類元素から選ばれる1種以上の元素の含有量が20質量ppm以上、100質量ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のボンディング用ワイヤ。
【請求項3】
上記ワイヤ(W)の常温での引張強度が18〜25kgf/mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のボンディング用ワイヤ。
【請求項4】
上記ワイヤ(W)の250℃炉中での引張強度が15kgf/mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のボンディング用ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワーIC、LSI、トランジスタ、BGA(Ball Grid Array package)、QFN(Quad Flat Non lead package)、LED(発光ダイオード)等の半導体パッケージにおける半導体素子上のニッケル・パラジウム・金(Ni/Pd/Au)被覆電極又はAu被覆電極と、リードフレーム、セラミック基板、プリント基板等の回路配線基板の導体配線とをボールボンディング法によって接続するためのボンディング用ワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記BGA等の半導体パッケージは、例えば、図1に示すように、配線板1上にはんだボール2を介してパッケージ基板3を設け、さらに、そのパッケージ基板3にダイボンディング材4を介して半導体素子(チップ)5を設けて、その半導体素子5を封止材6によって封止した構造である。この半導体パッケージにおける半導体素子5の電極aとパッケージ基板3の導体配線(端子)cとの電気接続は、上記ボールボンディング法によって行われる。
【0003】
また、上記半導体素子の一つであるLEDのパッケージにおいては、例えば、図2に示すように、ケースヒートシンク11にダイボンディング材12を介してLED13を設けて、蛍光体eを混ぜ合わせた封止材14によってLED13を封止した構造である。このパッケージにおけるLED13の電極aとケース電極15の導体配線(端子)cとの電気接続は、BGA等の半導体パッケージと同様に上記ボールボンディング法によって行われる。図中、16は樹脂製ケースボディである。
【0004】
これらのボールボンディング法による接続方法は、図3(a)〜(h)に示す態様が一般的であり、同図(a)に示す、ワイヤWがキャピラリー10aに挿通されてその先端にボール(FAB:Free Air Ball)bが形成された状態から、クランプ10bが開いて、キャピラリー10aが集積回路素子上の電極aに向かって降下する。このとき、ボール(FAB)bはキャピラリー10a内に捕捉される。
【0005】
ターゲットである電極aに溶融ボールbが接触すると(キャピラリー10aが電極aに至ると)キャピラリー10aが溶融ボールbをグリップし、溶融ボールbに熱・荷重・超音波を与え、それによって溶融ボールbが圧着されて(圧着ボールb’となって)電極aと固相接合され、1stボンドが形成されて電極aと接着する(1st接合、図3(b))。
1stボンドが形成されれば、キャピラリー10aは、一定高さまで上昇した後(同図(c))、導体配線cの真上まで移動する(同図(d)〜(e))。このとき、安定したループを形成するため、キャピラリー10aに特殊な動きをさせてワイヤWに「くせ」を付ける動作をする場合がある(同図(d)の鎖線から実線参照)。
【0006】
導体配線cの真上に至ったキャピラリー10aは、導体配線cに向かって降下し、ワイヤWを導体配線(2ndターゲット)cに押付ける(同図(e)〜(f))。これと同時に、その押付け部位に熱・荷重・超音波を与え、それによってワイヤWを変形させ、ワイヤWを導体配線c上に接合させるためのステッチボンドと、次のステップでテイルを確保するテイルボンドを形成する(2nd接合、同図(f))。
【0007】
その両ボンドを形成した後、キャピラリー10aはワイヤWを残したまま上昇し、キャピラリー10aの先端に一定の長さのテイルを確保した後、クランプ10bを閉じて(ワイヤWをつかんで)、テイルボンドの部分からワイヤWを引きちぎる(同図(g))。
【0008】
キャピラリー10aは、所要の高さまで上昇すると停止し、そのキャピラリー10aの先端に確保されたワイヤWの先端部分に、放電棒gでもって高電圧を掛けて放電し(スパークし)、その熱でワイヤWを溶かし、この溶けたワイヤ素材は表面張力によって球状に近い溶融ボールbになって固まる(同図(h))。
【0009】
以上の作用で一サイクルが終了し、以後、同様な作用によって、電極aと導体配線cとのボールボンディング法による接続がなされる。
【0010】
このボールボンディング法に使用されるボンディング線(ワイヤ)Wの材質としては、4N(純度:99.99質量%以上)〜2Nの金が使用されている。このように金が多用されるのは金ボールbの形状が真球状となるとともに、形成される金ボールbの硬さが適切であって、接合時の荷重、超音波によってチップ5を損傷することがなく、確実な接合ができ、その信頼性が高いからである。
一方、BGA等の半導体パッケージにおいては、金ボンディングワイヤWは高価であることから、安価な銅(Cu)ボンディングワイヤへの置き換えもなされている。さらに、その銅ボンディングワイヤ表面にパラジウム(Pd)等を被覆することによって、銅ボンディングワイヤで課題となる2nd接合性を高め、生産性を改善したPd表面被覆銅ボンディングワイヤが開発され、一部では使用されている(特許文献1)。また、銀(Ag)ボンディングワイヤについても開発され、一部では使用されている。(特許文献2、3、4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−123597号公報
【特許文献2】特開昭57−194232号公報
【特許文献3】特開昭58−6948号公報
【特許文献4】特開平11−288962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
金ボンディングワイヤは高価である。その代替材である銅ボンディングワイヤは安価ではあるが、金ボンディングワイヤに比べてFABが硬く、電極aのチップが脆弱であるとチップダメージ発生の恐れが高くなる。また、金ボンディングワイヤに比べて2nd接合性が悪く、連続ボンディング性に問題がある。
Pd表面被覆銅ボンディングワイヤは、銅ボンディングワイヤに比べて2nd接合性がよく、連続ボンディング性がよいが、FABが銅ボンディングワイヤよりもさらに硬くなるため、チップダメージ発生の問題がある。
【0013】
また、従来、BGA等の半導体パッケージの電極aにはAl合金(Al−Si−Cu等)パッドが用いられていたが、高温信頼性、例えば150℃以上における信頼性が求められる車載などの用途ではNi/Pd/Au(ニッケル/パラジウム/金)被覆した電極aが検討されている。さらに脆弱なチップ5に対するダメージ低減の必要もある。
このNi/Pd/Au被覆電極aに対し、上記Pd表面被覆銅ボンディングワイヤは接合し難いという問題があり、銅ボンディングワイヤは、脆弱なチップ5に対してダメージを与えないような条件でボンディングしようとすると、十分な接合ができないという問題がある。
【0014】
さらに、従来、LEDパッケージにおいてはAu被覆した電極aのLED13が用いられ、電極aとの接続には金ボンディングワイヤが用いられている。この金を用いた組み合わせではコストダウンができないため、LED13用にも安価なボンディングワイヤが望まれている。しかし、銅ボンディングワイヤは連続ボンディング性に難があり、Pd表面被覆銅ボンディングワイヤではFABが硬くなるため、チップダメージが発生する恐れがある。また、銅ボンディングワイヤ又はPd表面被覆銅ボンディングワイヤを用いると、ボンディングワイヤ自体の反射率が低いため、ワイヤ部分が影になることからLED13の種類によってはLED13そのものの輝度を低下させることもある。
【0015】
また、従来の銀ボンディングワイヤでは、ボールbを形成する際に窒素(N)ガスを吹き付けて不活性雰囲気で放電するのが一般的である。これに対し、特許文献2、3に、Ag(銀)にAl(アルミニウム)もしくはMg(マンガン)を添加することにより、Nガスを吹き付けることなく大気中で放電しても形状のよいボールbを得ることができることが記載されている。
しかし、近年、BGAの半導体パッケージでは、電極aが小さくなり、また、電極a同士の距離も近くなっているので、より安定した真球状のボールbを得る必要があるため、銀ボンディングワイヤにおいても、一般的なNガスを吹き付けて放電する方が好ましくなっている。このNガスを吹き付けて放電した場合、周囲からの酸素の侵入は防ぐことができるが、ワイヤ先端が溶融した際にワイヤ表面の酸化銀から上記添加したAlもしくはMgが酸素を奪い、AlもしくはMgOができる。このとき、AlもしくはMgを多量に含有していると、このAlもしくはMgOがボールb表面に大量に生成してしまい、電極aとの接合の際に硬質なAlもしくはMgOが電極aを損傷する問題がある。
【0016】
同様に、特許文献4にワイヤ強度や耐熱性を向上させるために、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Eu(ユウロピウム)、Be(ベリリウム)、Ge(ゲルマニウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)等の元素を添加することが記載されているが、これらの元素については多量に添加すると、ボールbの硬度が上がって電極aを損傷する問題がある。
また、特許文献4にはワイヤの接合信頼性を高めるために、Pt(白金)、Pd、Cu、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Auを添加することが記載されている。しかし、このような元素を多量に添加すれば、ワイヤ自体の電気抵抗が上がり、ボンディングワイヤWとしての性能を損なう問題が生じる。すなわち、上述のとおりBGA等の半導体パッケージでは、電極aはより小さく、その電極a間の距離もより近くなっているため、1st接合部を小さくすることが求められている。そのためには、ボンディングワイヤの直径を小さくする必要があるが、ワイヤの電気抵抗が高くなると、ワイヤの直径を小さくすることができなくなる問題がある。また、LED13においては、輝度を上げるために動作電流が高くなってきているが、ワイヤの電気抵抗が高いと発熱の問題が生じ、封止樹脂の寿命を縮める不具合が生じる。
【0017】
さらに、昨今、車載用途を中心にして、半導体パッケージの信頼性評価の基準は厳しくなってきており、特に低温・高温保持を繰り返す耐熱衝撃性についてはその要求が高くなってきたりしている。
上記の銀ワイヤを用いて組み上げた半導体パッケージをより厳しい熱サイクル試験にかけると、基板の反りや樹脂の膨張収縮の影響でワイヤが破断する場合があった。
【0018】
因みに、金ボンディングワイヤとNi/Pd/Au被覆電極a又はAu被覆電極aとの接合であれば、高い耐熱衝撃性は得られるが、材料費が高価になるという問題がある。
【0019】
この発明は、以上の実状の下Ni/Pd/Au被覆電極a又はAu被覆電極aとの接合性がよく、耐熱衝撃性に優れ、金ボンディングワイヤより安価なボンディング用ワイヤとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を達成するため、この発明は、半導体素子のNi/Pd/Au被覆電極又はAu被覆電極と回路配線基板の導体配線とをボールボンディング法によって接続するためのボンディング用ワイヤにおいて、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を合計で1.0質量%以上、4.0質量%以下、Ca、希土類元素から選ばれる1種以上の元素を合計で20質量ppm以上、500質量ppm以下含み、残部がAgおよび不可避不純物からなり、そのワイヤ(W)の常温での引張強度が18kgf/mm以上32kgf/mm以下、好ましくは18kgf/mm以上25kgf/mm以下とし、ワイヤを250℃炉中で引張試験を行う高温引張試験での引張強度が14kgf/mm以上、より好ましくは15kgf/mm以上とした。このとき、その250℃炉中の高温引張試験は、ワイヤを250℃で20秒間加熱した後、そのまま250℃で行なうことが好ましい。
【0021】
Agを主体とするボンディングワイヤは、Auを主体とするボンディングワイヤに比べれば、安価なものとし得る。
因みに、Agを主体とするボンディングワイヤは、Ni/Pd/Au被覆電極又はAu被覆電極との接合箇所の耐食性は高いが、Al電極との接合箇所は耐食性が低い。
【0022】
Pd、Auから選ばれる1種以上の元素は、耐食性及び良好な電気特性を得るために添加する。Pd、Auから選ばれる1種以上の元素が1.0質量%未満であると、ワイヤの耐硫化性が問題になることがあり、大気中もしくは封止樹脂中に硫化を促進する物質(硫化水素等)が存在すると、ワイヤ表面に硫化銀が生成することで、接続部の信頼性が低下する。
一方、4.0質量%を超えた量を添加すると、ワイヤの電気抵抗が高くなりすぎるため、ワイヤの直径を小さくすることが難しくなる。
【0023】
Ca、希土類元素から選ばれる1種以上の元素は、ワイヤ強度や耐熱性を向上させるために添加するが、20質量ppm未満であると、そのワイヤの耐熱性が低くなって実用上の問題が生じる。また、500質量ppmを超えて添加すると、ボールbの硬度が高くなり、1st接合時に電極aが損傷する。よって、Ca、希土類元素から選ばれる1種以上の元素の合計添加量は20質量ppm以上500質量ppm以下とする。また、より好ましくは20質量ppm以上100質量ppm以下であり、この範囲であれば、ワイヤの耐熱性が高く、1st接合時の電極aの損傷の度合いもより低く抑えることができる。
ここで、希土類元素は入手性に難があるため、Caの添加が最も好ましい。
【0024】
このワイヤWの線径はボンディングワイヤとして使用し得れば任意であるが、例えば、12μm以上50.8μm以下とする。50.8μm以下とすると溶融ボールbをより小さくでき、12μm未満であると、ボンディング前にオペレータがワイヤWをキャピラリー10aに通すのが困難になり、作業性が悪くなるうえに、空気圧によりワイヤに十分な張力をかけることができなくなり、ループ制御が困難になる恐れがある。
【0025】
上述のボンディングワイヤWの製造方法には種々のものが採用できるが、例えば、純度99.99質量%以上のAgにPd、Auから選ばれる1種以上の元素を1.0〜4.0質量%、Ca、希土類から選ばれる1種以上の元素を合計で20〜500質量ppm添加し、連続鋳造法で大きな線径のその化学組成のロッドを作製し、線径50.8μm以下までダイスに順次貫通させていくことにより、所定の線径に伸線する。その後、ワイヤWに調質熱処理を施す。
【0026】
その調質熱処理は、所定の線径まで伸線を行いリールに巻きとられたワイヤWを、巻き戻して管状の熱処理炉中に走行させ、再び巻き取りリールで巻き取ることによって連続熱処理を行う。管状の熱処理炉中にはNガスもしくはNに微量の水素を混合させたガスを流す。また、その炉温度は350℃以上600℃以下として、ワイヤ走行速度は30〜90m/分で熱処理を行う。このとき、例えば、炉長:50cmであれば、ワイヤ走行速度:30〜90m/分の場合、調質熱処理時間は0.33〜1秒となる。
【0027】
ボンディングワイヤWの「常温引張強度」は、15〜25℃の室温中で長さ100mmの試料を引張試験し、ワイヤWの破断した荷重を断面積で除した値を示す。
また、ボンディングワイヤWの「高温引張強度」は長さ100mmの試料を250℃の炉中で加熱し、その後250℃の炉中で引張試験し、ワイヤWの破断した荷重を断面積で除した値を示す。
ここで、常温引張強度が18kgf/mm未満であるとワイヤ強度が不足して、ワイヤボンディング後の樹脂封止の際に流入してきた樹脂によってワイヤループが変形するワイヤフローが発生する。また、32kgf/mmを超えると、2nd接合性が悪くなり、マシンストップの原因となる。さらに好ましくは、25kgf/mm以下であると、2nd接合性が高く、ステージ温度が150℃のような低温設定でも安定した生産が可能になる。
また、高温引張強度が14kgf/mm未満であると、樹脂封止後の製品を熱サイクル試験に曝した時の寿命に問題が生じるが、より好ましくは15kgf/mm以上であるとより高い熱サイクル特性が得られる。
【0028】
なお、調質熱処理において、炉温度を350℃以上600℃以下、ワイヤ走行速度を30〜90m/分としたのは、その熱処理温度とワイヤ走行速度の範囲内であると、上記Pd、Au:1.0〜4.0質量%等の化学組成のワイヤWにおいて、常温引張強度が18〜32kgf/mm、高温引張強度が14kgf/mm以上となるように調整することができたからである。
【発明の効果】
【0029】
この発明は、以上のようにAgを主体としたので、Auを主体としたボンディングワイヤに比べれば、安価なものとし得て、かつ、Pd、Au、Ca、希土類元素の適量の添加によって、適度な強度のワイヤとなってNi/Pd/Au被覆電極又はAu電極との接合性が良いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】半導体パッケージの概略図
図2】LEDパッケージの概略図
図3】ボールボンディング法の説明図であり、(a)〜(h)はその途中図
【発明を実施するための形態】
【0031】
純度が99.99質量%以上(4N)の高純度Agを用いて、表1に示す化学成分の銀合金を鋳造し、8mmφのワイヤロッドを作成した。そのワイヤロッドを伸線加工し所定の最終線径(12〜50μmφ)の銀合金線とし、窒素雰囲気中で種々の加熱温度・加熱時間にて連続焼鈍した。その連続焼鈍による調質熱処理は、炉長:50cmの炉において、その炉温度を350℃以上600℃以下、ワイヤ走行速度を30〜90m/分で行なった。なお、化学成分の定量はICP−OES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により行った。
【0032】
その連続焼鈍した各ワイヤWを15〜25℃の常温で引張試験を行なって常温引張強度(kgf/mm)を測定した。その引張試験は試料長さ:100mmのワイヤWを引張速度10m/分の速度で引張り、破断に至る時の破断荷重を測定し、その破断荷重/断面積として算出した。表1においては、その常温引張強度を「常温破断荷重」としている。
また、250℃での引張強度についてはワイヤWを250℃の炉中で20秒間加熱し、そのまま250℃に保持した状態で引張速度10m/分の速度で引張り、破断に至る時の破断荷重を測定し、その破断荷重/断面積として算出した。表1においては、その引張強度を「高温破断荷重」としている。
【0033】
【表1】
【0034】
この各実施例及び各比較例に対し、それぞれ下記の試験を行った。
『評価項目』
各ワイヤWについて、自動ワイヤボンダで、図3に示すボールボンディング法による接続を行った。すなわち、放電棒gによるアーク放電によりワイヤW先端にFAB(ボールb)を作製し、それを半導体素子(チップ)5、13上のNi/Pd/Au被覆電極a又はAu被覆電極aに接合し、ワイヤ他端をリード端子(導体配線)cに接合した(図1図2参照)。なお、FAB作製時にはワイヤW先端部に窒素(N)ガスを流しながらアーク放電を行った。リード端子cにはAg被覆42%Ni−Fe合金を使用した。
評価に用いたボンディング試料における連続ボンディング性、熱サイクル試験、1st接合部のチップ損傷、電気抵抗、樹脂封止時のワイヤフロー、ワイヤの耐硫化性及び総合評価を表2に示す。それらの評価方法等は以下の通りである。
【0035】
『評価方法』
(1)「連続ボンディング性」
ボンディングマシンで10,000回の連続ボンディングを行い、マシンストップが発生しなければ「A」、1回のマシンストップが発生すれば「B」、2回以上のマシンストップが起これば「D」とした。このとき、ステージ温度が低くなれば、その連続ボンディングが困難になることから、175℃(±5℃)、150℃(±5℃)の2水準で行った。
【0036】
(2)「熱サイクル試験」
ボンディングを行った後、樹脂封止をした半導体試料を市販の熱サイクル試験装置を用いて評価した。温度履歴は−40℃/30分〜125℃/30分を1サイクルとして、1000サイクルの試験を行った。試験後に電気的測定を行い、導通評価をした。評価したワイヤ数は500本であり、不良率が0の場合は熱サイクルへの耐性が高いことから「A」、不良率が1%以下の場合は「B」、1%を超える場合は耐性が低いことから「D」とした。
【0037】
(3)「ボンディング後、1st接合部直下のチップ損傷の評価」
1st接合部および電極膜を王水で溶解し、半導体素子5、13のクラックを光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。100個の接合部を観察して3μm未満の微小なピットが1個もしくはまったく見られない場合は「A」、3μm以上のクラックが2個以上5個未満認められた場合は使用上問題はないと考えて「B」、3μm以上のクラックが5個以上認められた場合は「D」とした。
【0038】
(4)「電気抵抗」
4端子法を用いて室温での電気抵抗を測定した。3試料の固有抵抗の平均が4.0μΩ・cm以下であれば「A」、4.0μΩ・cmを超えれば「D」とした。
【0039】
(5)「樹脂封止時のワイヤフローの評価」
ワイヤ長:5mmのボンディング試料をエポキシ樹脂で封止した後で、X線非破壊観察装置にて最大ワイヤフロー量を測定した。測定は20本行い、その平均値をワイヤ長5mmで除した割合をワイヤフロー率とした。このワイヤフロー率が7%未満なら「A」、7%以上では実用上の問題があると考えて評価を「D」とした。
【0040】
(6)「ワイヤの耐硫化性」
容器中で5%硫化アンモニウム溶液を60℃に加熱し、気化させた環境下にワイヤサンプルを放置し、5分間経過後の表面分析をオージェ分光分析法(AES)で測定した。
オージェ分光分析法はArイオンで深さ方向に単位時間のスパッタを行い、その都度硫黄濃度を測定していき、最外層の硫黄濃度の1/2の濃度になったところまでを硫化層の厚みとした。厚さの換算には一般的なSiO換算を用いた。ここで、硫化層の厚みが200Å以下なら「A」、200Åを超えると実用上の問題があると考えて評価を「D」とした。
【0041】
「総合評価」
各評価において、すべてが「A」であるものを「A」、「A」と「B」が混在するものを「B」、一つでも「D」があるものは「D」とした。
【0042】
【表2】
【0043】
この表1、2において、Ca、Y、Sm、La、Ceから選ばれる1種以上の元素の合計が500質量ppmを超えると、比較例8、10からFAB表面に析出物の生成が確認され、1st接合部のチップ損傷が発生するために「1st接合部のチップ損傷」が「D」となり、総合評価でも「D」となっている。一方、これらの元素合計が20質量%ppm未満であると、比較例5、6、9から、耐熱性が低くなり、熱サイクル試験で「D」となって総合評価で「D」となっている。
【0044】
また、Pd、Auの合計が1.0質量%未満であると、比較例1から、ワイヤの耐硫化性において「D」、4.0質量%を超えると、比較例8〜10から、電気抵抗の評価において「D」となって、共に、総合評価で「D」となっている。
【0045】
さらに、常温での引張強度(常温破断荷重)が18kgf/mm未満であると、比較例1、4、7から、樹脂封止時のワイヤフローの評価において「D」となって総合評価で「D」となっている。一方、32kgf/mmを超えると、比較例8〜10から、2nd接合性が悪化するため、連続ボンディング性が「D」となって総合評価で「D」となっている。
また、250℃炉中で試験を行う引張試験での引張強度(高温破断荷重)が14kgf/mm未満であると、比較例2、3、5、6、9から、熱サイクルへの耐性が低く、熱サイクル試験で「D」となって総合評価で「D」となっている。
【0046】
これに対し、各実施例1〜10は、いずれも、Pd、Auの合計が1.0〜4.0質量%、Ca、Y、Sm、La、Ceから選ばれる1種以上の元素の合計が20質量ppm以上、500質量ppm以下含み、常温での引張強度が18〜32kgf/mm、250℃炉中で試験を行う引張試験での引張強度が14kgf/mm以上であることから、連続ボンディング性、熱サイクル試験、1st接合部直下のチップ損傷の評価、電気抵抗、樹脂封止時のワイヤフローの評価、ワイヤの耐硫化性の各評価において、「A」又は「B」を得ており、総合評価においては、「B」以上を得て、実用上問題ないことがわかる。
【0047】
また、Ca、Y、Sm、La、Ceから選ばれる1種以上の元素を含み、その合計が100質量ppm以下であれば、実施例1〜3、5〜7、9、比較例1〜3、6、7、9から、1st接合部直下のチップ損傷の評価において「A」となり、高い信頼性を有することが理解できる。さらに、常温での引張強度が18〜25kgf/mmであると、実施例1、2、5〜7、比較例2、3、5、6から、150℃における連続ボンディング性評価において「A」となり、低いステージ温度での良好な作業性を得られることが理解できる。また、250℃炉中での引張強度が15kgf/mm以上であると、実施例2、4、5、7、9、10、比較例1、7、8、10から、熱サイクル試験において「A」となっている。
【0048】
以上から、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を合計で1.0質量%以上、4.0質量%以下、Ca、希土類元素から選ばれる1種以上の元素を合計で20質量ppm以上、500質量ppm以下含み、残部がAgおよび不可避不純物からなり、ワイヤWの常温での引張強度が18〜32kgf/mmであり、ワイヤを250℃の炉中で20秒間加熱した後、そのまま250℃炉中で試験を行う引張試験での引張強度が14kgf/mm以上であると、連続ボンディング性、熱サイクル試験、1st接合部直下のチップ損傷の評価、電気抵抗、樹脂封止時のワイヤフローの評価、ワイヤの耐硫化性の各評価において、実用上問題ないものとなり、また、そのCa、希土類元素から選ばれる1種以上の元素の含有量が20質量ppm以上、100質量ppm以下であると、1st接合部直下のチップ損傷の評価において「A」となって高い信頼性を有するものとなり、常温での引張強度が18〜25kgf/mmであると、150℃における連続ボンディング性評価において「A」となり、良好な作業性を得られるものとなり、さらに、250℃炉中での引張強度が15kgf/mm以上であると、熱サイクルへの耐性が高いものとなる。
【符号の説明】
【0049】
3、15 回路配線基板
5 半導体素子
13 LED
W ボンディング用ワイヤ
a 半導体素子(LED)の電極
b 溶融ボール
b’ 圧着ボール
c 回路配線基板の導体配線(リード端子)
図1
図2
図3