特許第5671566号(P5671566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671566
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】表面処理鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 9/10 20060101AFI20150129BHJP
   C25D 21/00 20060101ALI20150129BHJP
   C25D 7/06 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   C25D9/10
   C25D21/00 G
   !C25D7/06 K
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-37451(P2013-37451)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-162978(P2014-162978A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2014年5月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 国浩
(72)【発明者】
【氏名】田口 直美
(72)【発明者】
【氏名】福冨 聡子
(72)【発明者】
【氏名】黒川 亙
(72)【発明者】
【氏名】弘津 宗光
(72)【発明者】
【氏名】金澤 清太郎
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−297397(JP,A)
【文献】 特開2002−167695(JP,A)
【文献】 特開2004−331991(JP,A)
【文献】 特開2004−060036(JP,A)
【文献】 特開2010−121218(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/149047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00− 9/12
13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含む処理液と電極とを備える電解処理槽を、複数有する電解処理ラインを用いて、鋼板を各前記電解処理槽中に連続的に送り、各前記電解処理槽中において、前記鋼板と前記電極との間に直流電流を流すことで電解処理をそれぞれ行うことにより、前記鋼板の表面に金属酸素化合物を含む皮膜を形成する工程を有する表面処理鋼板の製造方法であって、
前記鋼板は、複数の前記電解処理槽のそれぞれに対して設けられた、前記鋼板を前記電解処理槽中に送るためのロール、および前記鋼板を前記電解処理槽から引き上げるためのロールにより、前記電解処理ラインを構成する各前記電解処理槽中に連続的に送られ、
前記電解処理ラインに設けられた複数の前記ロールは、前記鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールと、電源に接続されていない非通電ロールとであり、
前記鋼板の前記通電ロールに接する面の前記金属酸素化合物を含む皮膜の抵抗値と、当該通電ロールに印加される電圧と、配置する前記通電ロールの数と、を制御することで、前記鋼板と前記通電ロールとが接触したときにアークスポットを発生させないようにすることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記処理液が、Zr、Al、およびTiのうち、少なくとも1種の金属のイオンを含むことを特徴とする請求項に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記処理液のpHが2〜5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板の表面に形成される前記皮膜表面の電気抵抗値を0.1Ω以上とすることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記鋼板の表面に形成される前記皮膜中の金属のモル量を0.5mmol/m以上とすることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼板の表面に形成される前記皮膜厚みを15nm以上とすることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜の何れかに記載の表面処理鋼板の製造方法を用いて作製されることを特徴とする金属缶用表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材上にZr、Al、またはTiなどの金属酸素化合物を主成分とする皮膜を形成する方法として、化成処理を用いる方法が広く用いられている。化成処理を用いる方法においては、金属基材を処理液に浸漬させ、金属基材表面にエッチング処理を施し、金属基材表面近傍におけるpHを上昇させることで、金属基材表面に金属酸素化合物が析出し、金属基材上に金属酸素化合物皮膜が形成される。
【0003】
しかしながら、このような化成処理を用いる方法では、金属酸素化合物皮膜が形成される速度は、処理液中における化学反応速度に依存するため、金属基材上に金属酸素化合物皮膜を形成するために長時間を要するという問題がある。
【0004】
これに対し、たとえば、特許文献1では、陰極電解処理により金属酸素化合物皮膜を形成する方法、すなわち、金属酸素化合物を含む電解処理液を用い、金属基材表面近傍において、電解処理液中に含まれる水を電気分解することで水素を発生させ、金属基材表面近傍におけるpHを上昇させて、金属基材上に金属酸素化合物を析出させる方法が開示されている。この特許文献1に開示された陰極電解処理を用いることにより、化成処理を用いた方法と比較して、より短い時間で金属酸素化合物皮膜を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−121218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている陰極電解処理では、複数の電解処理槽を備える構成とし、かつ、金属基材を電解処理槽中に送るためのロール、および金属基材を電解処理槽から引き上げるためのロールのうち、全てのロールを電源と電気的に接続された通電ロール(コンダクターロール)とし、このような通電ロールを用いて金属基材に通電させて陰極電解処理を行っているため、次のような問題が生じる。
【0007】
すなわち、上記特許文献1に開示されている陰極電解処理においては、電解処理により形成される金属酸素化合物皮膜は、絶縁性の皮膜であるため、金属酸素化合物皮膜が形成された金属基材を電解処理槽から引き上げるために用いられる通電ロールから、金属基材に通電させるために通電ロールに過剰な電圧が印加されることとなる。そして、この場合において、この通電ロール上に、金属基材に形成された金属酸素化合物皮膜の剥離物や、電解処理液の析出物などが堆積することがあり、上述したように通電ロールには過剰な電圧が印加されているため、このような堆積物に起因する凹凸により、通電ロール上で局所的に高電圧放電が起こってしまい、これにより、金属基材に放電跡(アークスポット)等の外観不良が発生してしまうという問題がある。加えて、上記特許文献1に開示されている陰極電解処理においては、通電ロールに過剰な電圧が印加されることにより、通電ロールが破損してしまうという問題や、局所的な高電圧放電が発生した場合には、その都度、通電ロールのメンテナンスをする必要があるという問題もある。更に、アークスポットが発生した鋼板を金属缶等に用いると、アークスポット部が表面処理の欠陥部となるため、缶の内面側では耐食性不良を生じる他、缶の外面側では外観不良を誘発する。加えて、アークスポットがひどい場合には、缶に孔が空いて内容品の漏洩にも繋がることとなる。
【0008】
特に、金属基材上に形成する金属酸素化合物皮膜の厚みが厚くなるほど、その絶縁性は高くなるため、このような通電ロールに印加される電圧も高くなる傾向にあり、そのため、金属酸素化合物皮膜の厚みを厚く形成するほど、このような問題は顕著になる傾向にある。そのため、上述したような問題を生じることなく、金属酸素化合物皮膜の厚みを厚くすることは困難であった。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、金属基材におけるアークスポット等の外観不良の発生を防止しながら、金属基材上に形成する金属酸素化合物皮膜の厚膜化を可能とし、製造される表面処理鋼板の生産性を向上させることができる表面処理鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金属イオンを含む処理液と、電極とを備える電解処理槽中で、陰極電解処理により、鋼板上に金属酸素化合物を含む皮膜を形成する場合において、鋼板を前記電解処理槽中に送るためのロールを、鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールとし、一方、鋼板を電解処理槽から引き上げるためのロールを、電源に接続されていない非通電ロールとすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
また、本発明によれば、金属イオンを含む処理液と電極とを備える電解処理槽を、複数有する電解処理ラインを用いて、鋼板を各前記電解処理槽中に連続的に送り、各前記電解処理槽中において、前記鋼板と前記電極との間に直流電流を流すことで電解処理をそれぞれ行うことにより、前記鋼板の表面に金属酸素化合物を含む皮膜を形成する工程を有する表面処理鋼板の製造方法であって、前記鋼板は、複数の前記電解処理槽のそれぞれに対して設けられた、前記鋼板を前記電解処理槽中に送るためのロール、および前記鋼板を前記電解処理槽から引き上げるためのロールにより、前記電解処理ラインを構成する各前記電解処理槽中に連続的に送られ、前記電解処理ラインに設けられた複数の前記ロールは、前記鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールと、電源に接続されていない非通電ロールとであり、前記鋼板の前記通電ロールに接する面の前記金属酸素化合物を含む皮膜の抵抗値と、当該通電ロールに印加される電圧と、配置する前記通電ロールの数と、を制御することで、前記鋼板と前記通電ロールとが接触したときにアークスポットを発生させないようにすることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の製造方法において、前記処理液が、Zr、Al、およびTiのうち、少なくとも1種の金属のイオンを含むことが好ましい。
本発明の製造方法において、前記処理液のpHが2〜5であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記鋼板の表面に形成される前記皮膜表面の電気抵抗値は、好ましくは0.1Ω以上,より好ましくは0.3Ω以上である。
本発明の製造方法において、前記鋼板の表面に形成される前記皮膜中の金属のモル量は、好ましくは0.5mmol/m以上,より好ましくは0.7mmol/m以上である。
本発明の製造方法において、前記鋼板の表面に形成される前記皮膜厚みは、好ましくは15nm以上である。
【0016】
また、本発明によれば、上記の製造方法を用いて作製される金属缶用表面処理鋼板が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属基材におけるアークスポット等の外観不良の発生を防止しながら、金属基材上に形成する金属酸素化合物皮膜の厚膜化を可能とし、製造される表面処理鋼板の生産性を向上させることができる表面処理鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態に係る表面処理ラインの構成の一例を示す図である。
図2図2は、本実施形態に係る電解処理槽の構成の一例を示す図である。
図3図3は、従来例に係る電解処理槽の構成の一例を示す図である。
図4図4は、本実施形態に係る電解処理槽の別の例を示す図である。
図5図5は、本実施形態に係る電解処理槽のさらに別の例を示す図である。
図6図6は、本実施形態に係る表面処理ラインの構成の別の例を示す図である。
図7図7は、本実施形態に係る表面処理ラインの構成のさらに別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明の実施形態は、金属イオンを含む処理液と電極とを備える電解処理槽を、複数有する電解処理ラインを用いて、鋼板を各前記電解処理槽中に連続的に送り、各前記電解処理槽中において、前記鋼板と前記電極との間に直流電流を流すことで電解処理をそれぞれ行うことにより、前記鋼板の表面に金属酸素化合物を含む皮膜を形成する工程を有する表面処理鋼板の製造方法であって、前記鋼板は、複数の前記電解処理槽のそれぞれに対して設けられた、前記鋼板を前記電解処理槽中に送るためのロール、および前記鋼板を前記電解処理槽から引き上げるためのロールにより、前記電解処理ラインを構成する各前記電解処理槽中に連続的に送られ、前記電解処理ラインに設けられた複数の前記ロールは、前記鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールと、電源に接続されていない非通電ロールとであり、前記鋼板の前記ロールに接する面に電解処理により前記金属酸素化合物が形成された後は、当該金属酸素化合物と前記通電ロールとが接触しないように前記通電ロールを配置することで、アークスポットを発生させないようにすることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法である。
図1は、本実施形態の製造方法に用いられる表面処理ライン100の構成を示す図である。本実施形態の表面処理ライン100は、基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成するためのラインであり、図1に示すように、酸洗処理槽10、酸洗液リンス処理槽20、第1電解処理槽30、第2電解処理槽40、電解液リンス処理槽50、キャリアロール61,63,65,67,69,71、およびシンクロール62,64,66,68,70を備えている。なお、これらのキャリアロールのうち、基材1を第1電解処理槽30に搬送する際に用いられるキャリアロール65は、後述する整流器を介して、外部電源と電気的に接続されることにより通電しており、基材1を搬送しながら通電させることが可能なコンダクターロールとしての機能を有する。また、図1に示すアノード80a〜80hは、整流器を介して外部電源と電気的に接続されることにより通電しており、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40において基材1に対して電解処理を施す際に電極として作用する。
【0021】
本実施形態においては、基材1は、表面処理ライン100において、各キャリアロールにより、酸洗処理槽10、酸洗液リンス処理槽20、第1電解処理槽30、第2電解処理槽40、および電解液リンス処理槽50に、この順で送られ、各処理槽において各種処理が施される。具体的には、まず、基材1は、酸洗処理槽10内において、酸洗処理液により酸洗され、次いで、酸洗液リンス処理槽20内において、基材1に付着した酸洗処理液が水洗される。そして、基材1は、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40内において、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40に満たされた電解処理液中で、アノード80a〜80hとそれぞれ対峙した際に、通電したキャリアロール65を介して電源から印加された直流電流の作用により、電解処理が施され、表面に金属酸素化合物皮膜が形成される。その後、基材1は、電解液リンス処理槽50内において、基材1に付着した電解処理液が水洗される。
【0022】
基材1としては、特に限定されず、たとえば、アルミキルド鋼連鋳材などをベースとした熱延鋼板、これらの熱延鋼板を酸洗して表面のスケール(酸化膜)を除去した後に冷間圧延した冷延鋼板、これらの熱延鋼板や冷延鋼板にZn、Sn、Ni、Cu、Alなどを含むめっき層を備えた鋼板などを用いることができる。また、これらの鋼板を脱脂水洗したものを基材1として用いてもよい。
【0023】
酸洗処理槽10は、酸洗処理液で満たされており、基材1に対して電解処理の前処理としての酸洗処理液を施すための処理槽である。キャリアロール61により基材1が酸洗処理槽10中に送られると、基材1が酸洗処理液に浸漬されることで、基材1表面のスケール(酸化膜)が除去される。酸洗処理液としては、特に限定されず、基材1の種類に応じて酸の種類や、酸洗処理液の濃度、温度などを適宜選択することができる。
【0024】
酸洗液リンス処理槽20は、基材1を水洗するための処理槽であり、たとえば、水で満たされた槽が挙げられる。酸洗液リンス処理槽20として、水で満たされた槽を用いる場合には、キャリアロール63により基材1が酸洗液リンス処理槽20中に送られると、基材1が水に浸漬されることで、基材1表面に付着した酸洗処理液が洗い流される。あるいは酸洗液リンス処理槽20としては、基材1を水洗するために、基材1に対して水をスプレーする設備としてもよい。この場合には、酸洗液リンス処理槽20に水を満たさなくても、基材1表面に付着した酸洗処理液をスプレーされた水で洗い流すことが出来る。
【0025】
第1電解処理槽30および第2電解処理槽40は、電解処理液で満たされており、電解処理により基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成するための処理槽である。第1電解処理槽30および第2電解処理槽40では、まず、キャリアロール65により基材1が第1電解処理槽30中に送られると、電解処理液中において、アノード80a〜80dの作用により基材1に対して電解処理が施される。次いで、キャリアロール67により、基材1が、第1電解処理槽30から引き上げられるとともに、第2電解処理槽40中に送られ、同様に、電解処理液中において、アノード80e〜80hの作用により基材1に対して電解処理が施される。なお、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の詳細な構成については後述する。
【0026】
電解液リンス処理槽50は、基材1を水洗するための処理槽であり、水で満たされていてもよいし、スプレー装置で基材1に水を噴きかけてもよい。キャリアロール69により基材1が電解液リンス処理槽50中に送られると、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40を通過する際に基材1表面に付着した電解処理液が洗い流される。また、電解液リンス処理槽50を複数槽とし、前段の槽では電解処理液で洗浄し、後段の槽では水で水洗してもよい。電解液リンス処理槽50で用いる電解処理液もしくは水は、それぞれ、電解液リンス処理槽50に満たしておいて、基材1を浸漬させる態様で用いてもよいし、電解液リンス処理槽50に設置されたスプレー装置で基材1に噴きかけてもよい。水洗の前に電解処理液に浸漬或いはスプレーすることで、基材1上に形成された余分な皮膜を落とすことが出来る。また、電解液リンス処理槽50は、電解処理を行うための最初の第1電解処理槽30と最後の第2電解処理槽40との間にも追加して設けることができる。
【0027】
本実施形態では、前記電解処理ラインに設けられた複数の前記ロールのうち、前記鋼板の前記ロールに接する面を最初に電解処理する電解処理槽中に送るためのロールが、前記鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールである。
ここで、図2は、図1に示す第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の構成を詳細に示す図である。図2に示すように、第1電解処理槽30は、電解処理液31で満たされており、そして、電解処理液31には4本のアノード80a〜80dが浸漬されている。また、第1電解処理槽30の周辺および内部には、キャリアロール65,67、およびシンクロール66がそれぞれ配置されている。
【0028】
キャリアロール65は、基材1を、上述した酸洗液リンス処理槽20から引き上げるとともに、第1電解処理槽30中に送るためのロールであり、また、後述する整流器90を介して外部電源と電気的に接続されており、基材1を搬送しながら、基材1に通電させることが可能なコンダクターロールとしての機能を有する。シンクロール66は、電解処理液中において、基材1の進行方向を変えるためのロールである。キャリアロール67は、基材1を、第1電解処理槽30から引き上げるとともに、第2電解処理槽40中に送るためのロールである。なお、キャリアロール67は、上述したキャリアロール65と異なり、電源に接続されていない非通電ロールである。
【0029】
また、第2電解処理槽40も、第1電解処理槽30と同様に、電解処理液41で満たされており、そして、電解処理液41にはアノード80e〜80hが浸漬されており、第2電解処理槽40の周辺および内部には、キャリアロール67,69、およびシンクロール68がそれぞれ配置されている。なお、キャリアロール69は、キャリアロール67と同様に、電源に接続されていない非通電ロールである。
【0030】
そして、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の外部には、複数の整流器90が設置されており、複数の整流器90は、外部電源(不図示)と接続されている。複数の整流器90は、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40中に浸漬されているアノード80a〜80hのそれぞれに対して、電気的に接続されており、これにより、各アノードは通電し、電解処理を施す際において、基材1に対して、酸化極(電子が引抜かれる極)として作用する。
【0031】
また、各アノードと接続されたすべての整流器90は、キャリアロール65とも電気的に接続されている。これにより、キャリアロール65は通電し、基材1を搬送しながら、基材1に電流を流すことができるコンダクターロールとして働く。そのため、基材1はキャリアロール65により通電し、通電した状態で各キャリアロールにより第1電解処理槽30および第2電解処理槽40に送られることで、アノード80a〜80hの作用により電解処理が行われ、基材1上に金属酸素化合物皮膜が形成される。
【0032】
なお、アノード80a〜80hとしては、電気化学的安定性が高いという点より、白金、ステンレス鋼などの不溶性金属、または酸化イリジウムを蒸着させたチタンなどのコーティング金属を用いるのが好ましい。また、整流器90としては、特に限定されず、キャリアロール65およびアノード80a〜80hに供給する電力の大きさに応じて、公知の整流器を用いることができる。
【0033】
電解処理液31および電解処理液41は、基材1上に形成される金属酸素化合物皮膜を形成するための金属のイオンを含む水溶液である。ここで、電解処理液31および電解処理液41に含まれる金属のイオンは、基材1上に良好に金属酸素化合物皮膜を形成することができるという点より、Zr、Al、およびTiのうち、少なくとも1種の金属のイオンとするのが好ましく、Zrとするのが特に好ましい。なお、このような電解処理液を電解処理に使用し続けると、電解処理液中の不純物量が増加し、電解処理の効率や品質が低下してしまうため、電解処理槽中に新たな電解処理液を適宜循環させながら電解処理を行ってもよい。たとえば、予め第1電解処理槽30の容量より多くの量の電解処理液31を準備し、準備した電解処理液31のうち一部を、第1電解処理槽30の外部に設置した処理液槽(不図示)内に入れておき、処理液槽と、第1電解処理槽30との間をポンプなどにより循環させながら電解処理を行ってもよい。また、第2電解処理槽40についても、同様に、電解処理液41を循環させるような構成としてもよい。
【0034】
本実施形態においては、このような第1電解処理槽30および第2電解処理槽40により、以下のようにして、基材1に電解処理が施され、基材1上に金属酸素化合物皮膜が形成される。
【0035】
すなわち、まず、基材1は、キャリアロール65により第1電解処理槽30中に送られ、第1電解処理槽30の電解処理液31中において、電解処理液31に浸漬されているアノード80a,80b間へ搬送される。そして、基材1は、アノード80a,80b間を通過する際にアノード80a,80bと対峙し、通電したキャリアロール65を介して電源から印加された直流電流の作用により、陰極電解処理が施され、表面に金属酸素化合物皮膜が形成される。
【0036】
具体的には、陰極電解処理においては、基材1とアノード80a,80bとの間に電流が流れることにより、基材1表面近傍において、電解処理液31中の水が電気分解されて水素が発生し、これにより、基材1表面近傍におけるpHが上昇し、pHが上昇することにより、電解処理液31中に含まれる金属イオンが酸素化合物となって析出することで、基材1上に金属酸素化合物皮膜が形成される。たとえば、電解処理液31,41がZrのイオンを含むものである場合には、基材1上に、Zrの酸素化合物を含む金属酸素化合物皮膜が形成される。同様に、電解処理液31,41が、たとえば、Alのイオンを含むものである場合には、基材1上にAlの酸素化合物を含む金属酸素化合物皮膜が形成され、さらに、Tiのイオンを含むものである場合には、基材1上にTiの酸素化合物を含む金属酸素化合物皮膜が形成される。
【0037】
そして、基材1は、アノード80a,80bの作用により陰極電解処理が施された後、シンクロール66により進行方向を変えられ、電解処理液31中において、アノード80c,80dとそれぞれ対峙することで、再度、陰極電解処理が施され、基材1上にさらに金属酸素化合物皮膜が形成される。次いで、基材1は、キャリアロール67により、第1電解処理槽30から引き上げられるとともに、第2電解処理槽40中に送られる。そして、基材1は、第2電解処理槽40の電解処理液41中において、同様に、アノード80e,80fの作用により陰極電解処理が施され、次いで、アノード80g,80hの作用により陰極電解処理が施され、基材1上にさらに金属酸素化合物皮膜が形成される。その後、基材1は、キャリアロール69により、第2電解処理槽40から引き上げられる。本実施形態では、このようにして、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40による基材1に対する電解処理が行われる。
【0038】
本実施形態においては、図2に示すように、キャリアロール65を通電したコンダクターロールとし、一方、キャリアロール67,69を非通電ロールとして、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40を用いて、基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成する。そのため、以下のように、基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成する際において、キャリアロールに印加される電圧を抑え、基材1に発生する放電跡(アークスポット)等の外観不良の発生を防止することができる。なお、本実施形態の一例として、電解処理槽が2槽の場合を示したが、必要な皮膜量を得ることを目的に電解処理槽を3槽以上にしても、本発明の効果が得られる。
【0039】
すなわち、まず、電解処理により形成される金属酸素化合物皮膜は、絶縁性の皮膜であるため、金属酸素化合物皮膜が厚く形成されている基材1に、通電したコンダクターロールを用いて直流電流を流す場合には、コンダクターロールに過剰な電圧が印加されることとなる。そして、この場合において、このコンダクターロール上に、基材1に形成された金属酸素化合物皮膜の剥離物や、電解処理液の析出物などが堆積することがあり、コンダクターロールに過剰な電圧が印加されていると、このような堆積物に起因する凹凸により、コンダクターロール上で局所的に高電圧放電が起こってしまい、これにより、基材1にアークスポット等の外観不良が発生してしまうという問題がある。
【0040】
ここで、キャリアロール67,69は、金属酸素化合物皮膜が形成されている基材1を搬送するロールであるため、仮にキャリアロール67,69が通電したコンダクターロールである場合には、キャリアロール67,69に過剰な電圧が印加され、基材1にアークスポットが発生するおそれがある。特に、キャリアロール69は、キャリアロール67と比較して、より厚い金属酸素化合物皮膜が形成された基材1を搬送するロールであり、このような厚い金属酸素化合物皮膜を介して基材1に通電させるためには、より高い電圧の印加が必要となるため、キャリアロール69においては、基材1におけるアークスポットの問題は顕著になる。
【0041】
これに対し、本実施形態においては、キャリアロール67,69を非通電としているため、金属酸素化合物皮膜が形成されている基材1を搬送する際においても、キャリアロール67,69に過剰な電圧は印加されない。そのため、キャリアロール67,69上に金属酸素化合物皮膜などが堆積して表面に凹凸が形成された場合であっても、局所的な高電圧放電は起こらず、基材1におけるアークスポットの発生を有効に防止することができる。
【0042】
なお、電解処理により基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成する方法としては、従来、図3に示すように、電解処理槽の周囲に配置されたすべてのキャリアロールを通電したコンダクターロールとして、電解処理を施す方法が用いられている。図3に示す第1電解処理槽30および第2電解処理槽40は、キャリアロール65,67a,69aが、すべて通電したコンダクターロールである点以外は、図2と同様に、電解処理液31,41、シンクロール66,68、アノード80a〜80h、および整流器90を備えている。
【0043】
このような図3に示す構成においては、キャリアロール67a,69aから基材1に通電させる際に、上述したように、キャリアロール67a,69aに過剰な電圧が印加されることとなり、キャリアロール67a,69a上に金属酸素化合物皮膜などが堆積して表面に凹凸が形成された場合には、基材1にアークスポットが発生するおそれがある。特に、キャリアロール69aは、キャリアロール67aと比較して、より厚い金属酸素化合物皮膜が形成された基材1を搬送するロールであるため、キャリアロール69aから基材1に通電させる際には、さらに過剰な電圧が印加され、このようなアークスポットの問題は顕著になる。加えて、キャリアロール69aにおいては、過剰な電圧が印加されることにより破損してしまうという問題や、局所的な高電圧放電が発生した場合には、その都度、メンテナンスをする必要があるという問題もある。従来、金属酸素化合物皮膜は皮膜量が少ない範囲で検討がされており、これらの通電方法に関する問題は生じなかった。しかしながら、金属缶の耐内容物特性向上など表面処理鋼板の用途によっては、さらに皮膜量を多くする必要が生じてきた。この場合には上記通電方法に関する問題が顕著となり、生産性,品質面で大きな問題となる。
【0044】
さらに、電解処理により金属酸素化合物皮膜が形成される速度は、基材1表面近傍において、電解処理液中の水を電気分解して水素を発生させた際における、基材1表面近傍におけるpHの上昇速度に依存するものである。そのため、基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成する速度を上げるためには、水の電気分解を起こすためにロールに高い電圧を印加する必要があり、金属酸素化合物皮膜を形成する速度を上げるほど、また、金属酸素化合物皮膜を厚膜化しようとするほど、このような問題は顕著となる。
【0045】
これに対し、本実施形態においては、図2に示すように、キャリアロール65を通電したコンダクターロールとし、一方、キャリアロール67,69を非通電ロールとして、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40を用いて、基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成するものである。特に、本実施形態では、キャリアロール65を通電したコンダクターロールとする一方で、キャリアロール67,69を非通電としているため、キャリアロール67,69により金属酸素化合物皮膜が形成されている基材1を搬送する際においても、キャリアロール67,69に過剰な電圧が印加されることがない。そのため、キャリアロール67,69上に金属酸素化合物皮膜などが堆積して表面に凹凸が形成された場合であっても、キャリアロール67,69上で局所的な高電圧放電は起こらず、基材1におけるアークスポットの発生を有効に防止することができる。
【0046】
以上のようにして、本実施形態の製造方法によれば、基材1におけるアークスポット等の外観不良の発生を防止しながら、基材1上に形成する金属酸素化合物皮膜の厚膜化を可能とする。加えて、本実施形態の製造方法によれば、キャリアロールに過剰な電圧は印加されないため、キャリアロールの破損を防止し、キャリアロールのメンテナンスの頻度を低減させることができるため、製造される表面処理鋼板の生産性を向上させることができる。
【0047】
また、基材1上に金属酸素化合物皮膜を形成して作製される表面処理鋼板を、シームレス缶やスリーピース缶の材料として用いる場合には、表面処理鋼板上にさらに有機樹脂層が形成され、缶の形状に加工されることとなる。シームレス缶やスリーピース缶を作製するにあたっては、表面処理鋼板は絞り加工や絞りしごき加工、ネッキング加工、フランジ加工などにより、引張りや圧縮など様々な力を受ける。また、製缶後においても、食品や飲料などが充填され、レトルト処理などの熱処理を受ける場合や、コーヒーなどの内容物ではベンダーで加温された状態で保存されるなど、金属表面にとっては過酷な状況に置かれることとなる。したがって、かかる表面処理鋼板を缶用に用いる場合には、金属酸素化合物皮膜の割れを抑制し、基材1の鋼板の露出を極力抑える必要がある。基材1の鋼板の露出の抑制が十分でない場合には、シームレス缶やスリーピース缶は基材1の鋼板が露出した部分の有機樹脂層が剥離を生じ易く、耐内容物性(耐食性)が低下したり、缶外面側では印刷外観品質の低下を誘発することとなる。特に、基材1の鋼板の露出の抑制が十分でない場合には、内容物を充填しレトルト殺菌処理後に保管された缶が、落下衝撃などの缶変形を受け、更に経時保管された際に、有機樹脂層が剥離を生じ易くなり、耐内容物性(耐食性)が低下や、缶外面側の印刷外観品質の低下が顕著に認められることとなる。
【0048】
これに対し、本実施形態の製造方法によれば、基材1上に形成する金属酸素化合物皮膜を厚膜化することができるため、得られる表面処理鋼板をシームレス缶やスリーピース缶の製造に用いる場合であっても、基材1の露出を抑制し、耐内容物性(耐食性)や印刷外観に優れた缶を製造することが可能となる。
【0049】
そして、このような本実施形態によれば、基材1上に形成される金属酸素化合物皮膜の厚みを、好ましくは15nm以上、より好ましくは25nm以上と厚膜化でき、これにより、得られる表面処理鋼板を金属缶として適用した際に優れた耐内容物性(耐食性)や印刷外観を付与することができる。
【0050】
また、金属酸素化合物皮膜として好適な皮膜量は、金属酸素化合物皮膜に含まれる金属のモル量で、好ましくは0.5mmol/m以上、より好ましくは0.7mmol/m以上である。例示すると、金属酸素化合物皮膜の皮膜量は、金属酸素化合物がZrのみからなる場合には、重量膜厚で、好ましくは約46mg/m以上、より好ましくは約64mg/m以上、Alのみからなる場合には、重量膜厚で、好ましくは約14mg/m以上、より好ましくは約19mg/m以上、Tiのみからなる場合には、重量膜厚で、好ましくは約24mg/m以上、より好ましくは約34mg/m以上、であり、もちろん、金属酸素化合物はZr、Al、Tiの2種以上の混合物であってもよい。
金属酸素化合物皮膜に含まれる金属のモル量で、好ましくは0.5mmol/m以上、より好ましくは0.7mmol/m以上とすることにより、得られる表面処理鋼板を金属缶として適用した際に優れた耐内容物性(耐食性)や印刷外観を付与することができる。
【0051】
また、金属酸素化合物皮膜として好適な電気抵抗は、好ましくは0.1Ω以上、より好ましくは0.3Ω以上である。金属酸素化合物皮膜表面の電気抵抗を上記範囲とすることにより、得られる表面処理鋼板は絶縁性に優れたものとなり、金属缶として適用した際に優れた耐内容物性(耐食性)や印刷外観を付与することができる。
【0052】
また、本実施形態は、金属イオンを含む処理液と、電極とを備える電解処理槽中に、鋼板を連続的に送り、前記電解処理槽中において、前記鋼板と前記電極との間に直流電流を流すことで電解処理を行い、前記鋼板の表面に金属酸素化合物を含む皮膜を形成する工程を有する表面処理鋼板の製造方法であって、前記鋼板は、前記鋼板を前記電解処理槽中に送るための第1のロール、および前記鋼板を前記電解処理槽から引き上げるための第2のロールにより、前記電解処理槽中に連続的に送られ、前記第1のロールは、前記鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールであり、前記第2のロールは、電源に接続されていない非通電ロールであることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法である。
すなわち、上述した実施形態においては、キャリアロール65を通電したコンダクターロールとし、キャリアロール67,69を非通電ロールとする構成を例示したが、たとえば、図4に示すように、キャリアロール65に加えて、基材1を第1電解処理槽30から引き上げるとともに、第2電解処理槽40に搬送するためのロールであるキャリアロールを、通電したコンダクターロール(図4中、符号「67a」で示した。)としてもよい。電解処理槽が複数の場合、通電したコンダクターロールがキャリアロール65の1つのみでは、キャリアロール65には電解処理に必要な全電流が流れることになる。高電流になりすぎると、前工程からの異物の持込みなどにより、キャリアロール65でもアークスポットの発生やロール表面のめっきが剥離し、表面処理鋼板の表面欠点が生じることがある。そのため、必要に応じてキャリアロール67aを通電したコンダクターロールとすることで、これらの課題を回避することが出来る。その場合、キャリアロール67aに流れる電流値は、実際の操業にあわせて調整を行えばよく、たとえば、その電流値に応じて形成される金属酸素化合物皮膜の皮膜量、すなわち、キャリアロール67aを通じてアノード80a及び80dに流れる電流値に応じて形成される金属酸素化合物皮膜の皮膜量が、該金属酸素化合物皮膜とキャリアロール67aとが接する際においてアークスポットを発生させない程度にすればよい。また、電解処理液面とキャリアロール67aあるいは69との間にスプレー設備あるいは絞りロールを設置することで、基材1上に形成された余分な皮膜を減らして、アークスポット発生を抑制するための役割を担わせることもできる。
【0053】
図4に示す構成によれば、基材1への通電は、キャリアロール65,67aによりそれぞれ行われる。ここで、キャリアロール67aは、金属酸素化合物皮膜が形成されている基材1を搬送するロールであるため、このような金属酸素化合物皮膜を介して基材1に通電させる際に、大きな電圧が印加されることとなる。しかしながら、基材1がキャリアロール67aに到達する際においては、基材1は第2電解処理槽40による電解処理が施される前の状態であるため、基材1上に形成されている金属酸素化合物皮膜は比較的薄く、図4に示すキャリアロール67aから基材1に通電させるために必要な電圧は、上述した図3に示すキャリアロール69aから基材1に通電させるために必要な電圧と比較すると、小さいものとなる。
【0054】
そのため、図4に示すように、キャリアロール65,67aを通電したコンダクターロールとし、キャリアロール69を非通電ロールとした場合には、第1電解処理槽30で基材1上に形成される金属酸素化合物皮膜の厚みや、キャリアロール67aに流す電流の大きさによっては、キャリアロール67aに過剰な電圧が印加されることを防止することができ、印加される電圧を小さいものとすることができ、これにより、キャリアロール67a上において各キャリアロールには過剰な電圧が印加されず、局所的な放電が起こり、基材1にアークスポット等の外観不良が発生することを防止することができる。発生するアークスポット等の外観不良の発生を有効に防止することができる。したがって、本実施形態においては、図4に示すような構成の電解処理槽を用いた場合においても、基材1におけるアークスポット等の外観不良の発生を防止しながら、基材1上に形成する金属酸素化合物皮膜の厚膜化を可能とし、加えて、製造される表面処理鋼板の生産性を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態においては、図5に示すように、第1電解処理槽30のアノードをキャリアロール67aと直接接しない側に2本配置し、第2電解処理槽40のアノードを通常通り4本配置して、キャリアロール65及び67aを通電したコンダクターロールとし、キャリアロール69を非通電ロールとしてもよい。
また、図5と同様にアノードを配置した形態のもう一つの例としては、キャリアロール67aのみを通電したコンダクターロールとし、キャリアロール65及び69を非通電ロールとすることも可能である。
【0056】
特に、本実施形態においては、図5に示すように、基材1の各キャリアロールと接する面(以下、キャリアロール面という)に金属酸素化合物皮膜が形成された後には、当該金属酸素化合物皮膜と、通電したコンダクターロールとが接触しないような構成とすることにより、アークスポット等の外観不良の発生を適切に防止することができる。すなわち、図5に示す構成においては、アノード80b、80cが基材1のキャリアロール面の反対面に配置されているため、基材1が第1電解処理槽30を通過してキャリアロール67aに到達する際には、基材1におけるキャリアロール67aと接する面に形成される金属酸素化合物皮膜の皮膜量を比較的少なくすることができ、これにより、キャリアロール67aへの過剰な電圧の印加を防ぐことができ、アークスポット等の外観不良の発生を適切に防止することができる。
【0057】
なお、図5に示す構成においては、基材1のキャリアロール面を最初に電解処理する電解処理槽(第2電解処理槽40)に送るためのキャリアロール67aを、通電したコンダクターロールとしているため、第2電解処理槽40に隣接するキャリアロール67aから、第2電解処理槽40内の基材1に電流が良好に伝わり、第2電解処理槽40において電解処理が効率的に行われることとなる。
【0058】
さらに、上述した実施形態においては、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の2基の電解処理槽を用いて、基材1に電解処理を施す構成を例示したが、たとえば、図6に示すように、第2電解処理槽40を用いることなく、第1電解処理槽30を単独で用いて基材1に電解処理を施してもよい。なお、この際においては、図7に示すように、第1電解処理槽30に備えられたアノードの数を減らし、アノードを2本とした構成としてもよい。
【0059】
あるいは、上述した図1に示す表面処理ライン100においては、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の2基の電解処理槽が備えられている例を示したが、表面処理ライン100に備えられる電解処理槽の数は特に限定されず、2基より多くてもよい。また、図1に示す表面処理ライン100においては、酸洗処理槽10、酸洗液リンス処理槽20、および電解液リンス処理槽50がそれぞれ1基ずつ備えられている例を示したが、表面処理ライン100に備えられる酸洗処理槽10、酸洗液リンス処理槽20、および電解液リンス処理槽50の数は特に限定されず、それぞれ2基以上であってもよい。
【0060】
なお、本実施形態においては、電解処理液31および電解処理液41を構成する金属化合物としては、特に制限はないが、電解処理液31および電解処理液41にZrのイオンを含ませる場合には、たとえば、KZrF、(NHZrF、(NHZrO(CO、ZrO(NO、ZrO(CHCOO)などを用いることができる。また、Alのイオンを含ませる場合には、たとえば、Al(NO・9HO、AlK(SO・12HO、Al(SO・13HO、Al(HPO、AlPO、〔CHCH(OH)COO〕Alなどを用いることができる。そして、Tiのイオンを含ませる場合には、たとえば、KTiF、(NHTiF、NaTiF、KTiO(C・2HO、TiCl、TiClなどを用いることができる。本実施形態においては、電解処理液31および電解処理液41は、上述した化合物などを、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせ用いてもよい。また、電解処理液31と電解処理液41とは、同一の水溶液であってもよいが、それぞれ異なる金属化合物を用いて作製したものであってもよいし、あるいは、同じ金属酸素化合物を異なる配合比で配合したものであってもよい。
【0061】
また、電解処理液31および電解処理液41には、液中におけるZr、Al、またはTiなどの金属のイオンの溶解性を高めるために、フッ化物やシアン化物などの錯化剤が含まれていてもよい。なお、電解処理液31および電解処理液41に含まれる金属のイオンや錯化剤の濃度は、特に限定されず、処理液中における導電率および電流密度の調整や、金属酸素化合物皮膜の形成量の調整のために適宜設定することができる。
【0062】
あるいは、電解処理液31および電解処理液41には、処理液中における導電率を向上させるため、金属酸素化合物皮膜の形成を阻害しない範囲で、硝酸イオンやアンモニウムイオンなどの電解質を添加してもよい。
【0063】
また、電解処理液31および電解処理液41のpHは、好ましくは2.0〜5.0であり、より好ましくは2.5〜4.0の範囲である。pHが低すぎると、基材1表面がエッチングされすぎてしまい、金属酸素化合物皮膜が形成され難くなってしまう。一方、pHが高すぎると、電解処理液31および電解処理液41において不必要な金属酸素化合物が析出するようになり、基材1上への金属酸素化合物の析出が阻害されてしまう傾向にある。
【0064】
あるいは、電解処理液31および電解処理液41には、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、フェノール樹脂、ヒドロキシ酸などの有機酸が添加されていてもよい。このような有機酸を添加することにより、金属酸素化合物皮膜上に有機樹脂層を形成する場合に、金属酸素化合物皮膜と有機樹脂層との密着性を向上させることができる。なお、このような有機樹脂層は、たとえば、表面に金属酸素化合物皮膜を形成した表面処理鋼板をシームレス缶やスリーピース缶の材料として用いる際に、金属酸素化合物皮膜上に形成される。
【0065】
また、図1に示す表面処理ライン100に備えられた各キャリアロールは、1つのロールで構成されている例を示したが、各キャリアロールは2以上のロールで構成されたものであってもよい。たとえば、基材1を、第1電解処理槽30から引き上げるとともに、第2電解処理槽40中に送るためのロールであるキャリアロール67について、基材1を第1電解処理槽30から引き上げるためのロールと、基材1を第2電解処理槽40中に送るためのロールとが別々のロールで構成されていてもよい。また、各キャリアロールの材質は特に限定されないが、たとえば、非通電ロールとするキャリアロールについては、ゴムなどの電気的に絶縁性を示す材質としてもよい。
【0066】
さらに、各キャリアロールには、基材1を搬送する際に基材1を押さえるためのニップロールや、基材1のキャリアロールと対向しない側の面に付着した各種処理液を除去し、処理槽外への処理液の持出しを防止するためのリンガーロールが、それぞれ備えられていてもよい。
【0067】
<金属缶用表面処理鋼板の製造>
本発明の製造方法により作製した表面処理鋼板は、金属缶を構成する部材(金属缶用表面処理鋼板)として用いることができる。金属缶用表面処理鋼板としては、前述したように、基材1の鋼板の露出を抑制することが重要となる。
即ち、金属缶用表面処理鋼板としては、Zr、Al、およびTiの少なくとも1種以上の金属イオンを含む金属酸素化合物皮膜を有する表面処理鋼板であって、
1.皮膜の厚みが、好ましくは15nm以上、より好ましくは25nm以上であって、160nm以下であること
2.金属酸素化合物皮膜に含まれる金属のモル量で、好ましくは0.5mmol/m以上、より好ましくは0.7mmol/m以上であって4.4mmol/m以下であること
3.金属酸素化合物皮膜の電気抵抗が、好ましくは0.1Ω以上、より好ましくは0.3Ω以上であって3500Ω以下であること
が好適である。
上記1〜3の少なくとも1つを満足することにより、得られる表面処理鋼板を金属缶として適用した際に優れた耐内容物性(耐食性)や印刷外観を付与することができる。金属酸素化合物皮膜が厚すぎると、缶成形やネック加工、フランジ加工等の際に、皮膜が割れ、密着性の低下に繋がるため、皮膜厚さには好適な範囲が存在する。
【0068】
<金属缶用有機樹脂被覆表面処理鋼板の製造>
本発明の製造方法を用いて作製した表面処理鋼板を金属缶に適用する際には、その表面に有機樹脂層を形成することにより、表面処理鋼板を有機樹脂層で被覆してなる部材である金属缶用有機樹脂被覆表面処理鋼板を作製し、これを金属缶の部材として用いることが好ましい。有機樹脂層としては、特に限定はなく、各種熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂被覆層や、熱硬化性塗料又は熱可塑性塗料からなる塗膜を挙げることができ、有機樹脂層の形成に際して、表面処理鋼板と有機樹脂層との間に、従来公知の接着用プライマー或いは接着剤を設けることも可能である。
【0069】
有機樹脂層としては、これらの中でも、容器用素材の用途に好適なポリエステル樹脂からなる熱可塑性樹脂被覆層を用いるのが好ましく、ポリエステル樹脂としては、ホモポリエチレンテレフタレートであっても共重合ポリエステルであってもよく、これらのブレンドであってもよい。また、有機樹脂層を熱可塑性樹脂被覆層とする場合には、熱可塑性樹脂被覆層は、単層の樹脂層であってもよいし、同時押出等による多層の樹脂層であってもよく、また、多層とする場合には、各層を構成する樹脂は異なるものであってもよいし、あるいは、同じものであってもよい。熱可塑性樹脂被覆層を構成するために多層のポリエステル樹脂層を用いると、下地層、即ち表面処理鋼板側に接着性に優れた組成のポリエステル樹脂を選択し、表層に耐内容物性、即ち耐抽出性やフレーバー成分の非吸着性に優れた組成のポリエステル樹脂を選択できるので有利である。
【0070】
さらに、表面処理鋼板の上に設ける有機樹脂層の厚みは、熱可塑性樹脂被覆層で一般に3〜50μm、特に5〜40μmの範囲にあることが望ましく、塗膜の場合には、焼付け後の厚みが1〜50μm、特に3〜30μmの範囲にあることが好ましい。厚みが上記範囲を下回ると、耐腐食性が不十分となり、厚みが上記範囲を上回ると加工性の点で問題を生じやすい。
【0071】
表面処理鋼板への有機樹脂層の形成は従来から公知の任意の方法で行うことができる。例えば、有機樹脂層として熱可塑性樹脂被覆層を形成する場合においては、押出コート法、キャストフィルム熱接着法、二軸延伸フィルム熱接着法等の任意の手段で行う事ができる。
【0072】
<金属缶の作製>
本発明の製造方法を用いて作製した金属缶用有機樹脂被覆表面処理鋼板は、側面継ぎ目を有するスリーピース缶(溶接缶)や、シームレス缶(ツーピース缶)などに好適に用いることができる。シームレス缶は、有機樹脂層が缶内面側になるように、絞り加工、絞り・再しぼり加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工等の従来公知の手段に付すことによって製造されるが、シームレス缶の中でも特に、高度な加工が施される絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工等を利用したシームレス缶に最も好適に用いることができる。
すなわち、かかる金属缶用有機樹脂被覆表面処理鋼板は、加工密着性に優れていることから、高度な加工に賦された場合にも有機樹脂層の密着性に優れ、優れた耐食性を有するシームレス缶を提供することができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0074】
たとえば、上述した実施形態では、図5に示すように、基材1の各キャリアロールと接する面(キャリアロール面)に金属酸素化合物皮膜が形成された後には、当該金属酸素化合物皮膜と、通電したコンダクターロールとを接触させないような構成を例示したが、金属酸素化合物皮膜と、通電したコンダクターロールとを接触させるような構成としてもよく、この際においては、基材1のキャリアロール面に形成された金属酸素化合物皮膜の電気抵抗値と、通電したコンダクターロールに印加される電圧と、配置するコンダクターロールの数とを、適宜制御することで、アークスポットの発生を防止するような構成とすることができる。
【0075】
ここで、基材1のキャリアロール面に形成された金属酸素化合物皮膜の電気抵抗値が低いほど、基材1とコンダクターロールとが接触した場合における、コンダクターロール上における局所的な高電圧放電の発生、およびこれに起因するアークスポットが発生し難くなる傾向にある。さらには、コンダクターロールに印加される電圧が低いほど、基材1とコンダクターロールとが接触した場合における、コンダクターロール上における局所的な高電圧放電の発生、およびこれに起因するアークスポットが発生し難くなる傾向にある。そのため、本実施形態においては、このような金属酸素化合物皮膜の電気抵抗値と、コンダクターロールに印加する電圧とをバランスさせることにより、アークスポットの発生を防止するような構成としてもよい。
【0076】
特に、本実施形態においては、金属酸素化合物皮膜の電気抵抗値は、通常、基材1に形成する金属酸素化合物皮膜の厚みに依存するものである。そのため、たとえば、金属酸素化合物皮膜の厚みが比較的薄い場合には、コンダクターロールに印加する電圧を比較的高くし、一方、金属酸素化合物皮膜の厚みが比較的厚い場合には、コンダクターロールに印加する電圧を比較的低くするように制御すればよい。また、コンダクターロールを複数設ける場合には、比較的薄い金属酸素化合物皮膜が形成された基材1と接触するコンダクターロールの電圧を比較的高くし、比較的厚い金属酸素化合物皮膜が形成された基材1と接触するコンダクターロールの電圧を比較的低くするように制御すればよい。さらに、この場合においては、コンダクターロールに印加する電圧を制御した場合でも、電解処理によって基材1上に形成される金属酸素化合物皮膜の皮膜が所望の厚みとなるように、通電したコンダクターロールの数を増減させることが好ましい。すなわち、たとえば、コンダクターロールに印加する電圧を低く設定した場合には、これに応じて、通電したコンダクターロールの数を増加させることで、電解処理によって基材1上に形成される金属酸素化合物皮膜の皮膜を所望の厚みを有するものとすることができる。
【0077】
すなわち、本実施形態によれば、このように、金属酸素化合物皮膜の電気抵抗値と、通電したコンダクターロールに印加される電圧と、配置するコンダクターロールの数とを、適宜制御することで、アークスポットの発生を有効に防止することができる。
あるいは、本実施形態では、金属イオンを含む処理液と電極とを備える電解処理槽を、複数有する電解処理ラインを用いて、鋼板を各前記電解処理槽中に連続的に送り、各前記電解処理槽中において、前記鋼板と前記電極との間に直流電流を流すことで電解処理をそれぞれ行うことにより、前記鋼板の表面に金属酸素化合物を含む皮膜を形成する工程を有する表面処理鋼板の製造方法であって、前記鋼板は、複数の前記電解処理槽のそれぞれに対して設けられた、前記鋼板を前記電解処理槽中に送るためのロール、および前記鋼板を前記電解処理槽から引き上げるためのロールにより、前記電解処理ラインを構成する各前記電解処理槽中に連続的に送られ、前記電解処理ラインに設けられた複数の前記ロールは、前記鋼板に直流電流を流すための電源と電気的に接続された通電ロールと、電源に接続されていない非通電ロールとであり、前記鋼板の前記通電ロールに接する面の前記金属酸素化合物を含む皮膜の抵抗値と当該通電ロールに印加される電圧とを制御することで、前記鋼板と前記通電ロールとが接触したときにアークスポットを発生させないようにすることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法を提供してもよい。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
以下においては、適宜、キャリアロール65を「第1ロール」、キャリアロール67,67aを「第2ロール」、キャリアロール69,69aを「第3ロール」とする。
【0079】
《実施例1》
原板として、冷延鋼板(厚さ0.2mm、幅200mm)を準備した。
そして、準備した鋼板を電解脱脂した後、水洗し、次いで、図6に示す表面処理ライン100を用いて陰極電解処理を施した。陰極電解処理としては、まず、鋼板をキャリアロール61により、酸洗処理槽10中に送り、酸洗処理槽10に満たされた硫酸で酸洗した後、キャリアロール63により、酸洗処理槽10から引き上げるとともに、酸洗液リンス処理槽20中に送り、酸洗液リンス処理槽20に満たされた水で水洗することで、前処理を行った。次いで、鋼板をキャリアロール65(第1ロール)により第1電解処理槽30に送ることで、アノード80a,80b、80c、80dの作用により鋼板上に陰極電解処理を施し金属酸素化合物皮膜を形成した。この際において、鋼板は、各キャリアロールにより搬送されるとともに、電源と電気的に接続されたキャリアロール65(第1ロール)により通電している。
【0080】
なお、第1電解処理槽30による陰極電解処理は、1500Lの電解処理液31を、第1電解処理槽30の外部に設置した処理液槽(不図示)を用いて、ポンプにより処理液槽と容量250Lの第1電解処理槽30との間で循環させながら、ライン速度(鋼板の移動速度):10m/min、サイクル数:2回、1サイクルあたりの通電時間:1.2秒、鋼板に流れるトータル電気量:10C/dm、キャリアロール65(第1ロール)への電流量:70Aの条件にて実施し、鋼板上に金属酸素化合物皮膜を形成した。なお、サイクル数とは、鋼板に電解処理を施す回数を示している(本実施例では、片面につき、アノード80aもしくは80b、並びに、80cもしくは80dと、アノードを通過する際に2回の電解処理が行なわれているため、サイクル数は2回となる。)。
電解処理液の組成:Zr化合物としてフッ化ジルコニウムアンモニウムを溶解させて得た、Zr濃度6000重量ppm、F濃度7000重量ppmの水溶液
電解処理液のpH:3.0
電解処理液の温度:40℃
【0081】
次いで、鋼板に電解処理を施して金属酸素化合物皮膜を形成した後、鋼板をキャリアロール65(第1ロール)により第1電解処理槽30から引き上げるとともに、電解液リンス処理槽50に送り、電解液リンス処理槽50に満たされた水で水洗することで、表面処理鋼板を得た。
【0082】
この際、キャリアロール(第1ロールまたは第2ロール)に流れる電流値をクランプメーターでそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0083】
次いで、このようにして得られた表面処理鋼板について以下の評価を行った。
【0084】
<アークスポットの有無の評価>
表面処理鋼板を水洗し、熱風乾燥機にて乾燥させた後、表面処理鋼板の表面を目視で観察し、以下の基準でアークスポットの有無を確認した。結果を表1に示す。
○:アークスポットが確認されなかった。
×:アークスポットが発生していた。
【0085】
<金属酸素化合物皮膜の皮膜量の測定>
表面処理鋼板の表面について、蛍光X線分析装置(リガク社製、型番:ZSX100e)によりZrの付着量を測定し、得られたZrの付着量を金属酸素化合物皮膜の皮膜量あるいはモル量として得た。結果を表1に示す。
【0086】
<金属酸素化合物皮膜の厚みの測定>
金属酸素化合物皮膜の厚みはTEM観察により行った。表面処理鋼板の表面にカーボン蒸着を施した後、更にFIB装置内でカーボンを約1μm蒸着し、マイクロサンプリング法によってサンプルを切り出し、Cu製の支持台上に固定した。その後、FIB加工により断面TEM試料を作製し、TEM観察を行い、皮膜の厚みをそれぞれ3点測定し、平均値を厚みとした。
【0087】
<表面処理鋼板の電気抵抗値の測定>
表面処理鋼板の表面について、電気接点シミュレーター(山崎精機研究所社製、型番:CSR−1)を用いて、四端子法により100gの荷重で端子を接触させた際の電気抵抗値を5回測定し、最大値および最小値を除いた3回の測定結果の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0088】
<キャリアロール上における金属酸素化合物堆積量の測定>
表面処理鋼板を作製する際に使用したキャリアロール67(第2ロール)について、ロール表面に付着した堆積物(Zrの酸素化合物)の重量を測定し、以下の基準で評価した。なお、堆積物の重量はロールの表面積の1000cm当たりに換算し、堆積物の採取方法には特に限定されない。
結果を表1に示す。
○:堆積物の重量が0.5g未満
△:堆積物の重量が0.5g以上、1g未満
×:堆積物の重量が1g以上
【0089】
《実施例2,3》
鋼板上に電解処理を施す際における、鋼板に流れるトータル電気量、およびキャリアロール65(第1ロール)への電流量の条件を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
《実施例4》
実施例4においては、図1図2に示す表面処理ライン100を用いて、表面処理鋼板を作製した。なお、実施例4においては、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の電解処理液31,41として、上述した実施例1と同様のものを用い、実施例4〜6においても、電解処理液31,41をそれぞれ循環させながら電解処理を行った。
【0091】
実施例4における電解処理は、鋼板を各キャリアロールにより搬送し、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40において、ライン速度(鋼板の移動速度):10m/min、サイクル数:4回、1サイクルあたりの通電時間:1.2秒、鋼板に流れるトータル電気量:17C/dm、キャリアロール65(第1ロール)への電流量:110Aの条件にて行い、これにより、鋼板上に金属酸素化合物皮膜を形成した。なお、実施例4においては、アノードにより鋼板に電解処理を施す回数であるサイクル数を4回とした(本実施例では、「アノード80a,80b」、「アノード80c,80d」、「アノード80e,80f」、「アノード80g,80h」の4組のアノードにより1回ずつ、合計4回の電解処理を行っているため。)。
【0092】
そして、電解処理により鋼板上に金属酸素化合物皮膜を形成した後、鋼板を電解液リンス処理槽50において水洗し、表面処理鋼板を得て、実施例1と同様に評価を行った。なお、実施例4においては、キャリアロール上における金属酸素化合物堆積量の測定は、キャリアロール67(第2ロール)およびキャリアロール69(第3ロール)の2つのキャリアロールについて、それぞれロール表面の堆積物(Zrの酸素化合物)の重量の合計値を測定することで行った(後述する実施例5,6も同様。)。結果を表1に示す。
【0093】
《実施例5,6》
鋼板上に電解処理を施す際における、鋼板に流れるトータル電気量、およびキャリアロール65(第1ロール)への電流量の条件を表1に示すものとした以外は、実施例4と同様にして表面処理鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
《実施例7》
原板として、冷延鋼板(厚さ0.2mm、幅1000mm)を準備した。そして、準備した鋼板を電解脱脂した後、水洗し、次いで、図6に示す表面処理ライン100を用いて陰極電解処理を施した。電解処理液31の液量は8000L、第1電解処理槽30の容量を2500L、ライン速度(鋼板の移動速度):150m/min、サイクル数:2回、1サイクルあたりの通電時間:0.6秒、鋼板に流れるトータル電気量:9C/dm、キャリアロール65(第1ロール)への電流量:4760Aの条件とした以外は実施例1と同様にして表面処理鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
《実施例8》
実施例8においては、図1に示す表面処理ライン100における第1電解処理槽30および第2電解処理槽40を、図4に示すものに置換してなる表面処理ライン100を用いて、表面処理鋼板を作製した。電解処理液31、41の液量は8000L、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の容量をそれぞれ2500L、ライン速度(鋼板の移動速度):150m/min、サイクル数:4回、1サイクルあたりの通電時間:0.6秒、鋼板に流れるトータル電気量:19C/dmとし、キャリアロール65,67a(第1ロール,第2ロール)は通電したコンダクターロールとする一方、キャリアロール69(第3ロール)は非通電ロールとした。その他は実施例7と同様にして表面処理鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
《比較例1》
比較例1では、実施例1で用いたものと同様の冷延鋼板(厚さ0.2mm、幅200mm)を電解脱脂した後、水洗し、次に示すラインで表面処理を行った。すなわち、図1に示す表面処理ライン100における第1電解処理槽30および第2電解処理槽40を、図3に示すものに置換してなる表面処理ライン100を用いて、表面処理鋼板を作製した。なお、図3に示す第1電解処理槽30および第2電解処理槽40においては、キャリアロール65,67a,69a(第1ロール〜第3ロール)は、全て通電したコンダクターロールである。また、比較例1においても、上述した実施例4と同様に、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40において、電解処理液31,41をそれぞれ循環させながら電解処理を行った。
【0097】
比較例1における電解処理は、鋼板を各キャリアロールにより搬送し、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40において、ライン速度(鋼板の移動速度):20m/min、サイクル数:4回、1サイクルあたりの通電時間:0.6秒、鋼板に流れるトータル電気量:8.6C/dm、キャリアロール65,67a,69a(第1ロール〜第3ロール)への電流量:68A,27A,20Aの条件にて行い、これにより、鋼板上に金属酸素化合物皮膜を形成した。
【0098】
そして、電解処理により鋼板上に金属酸素化合物皮膜を形成した後、鋼板を電解液リンス処理槽50において水洗し、表面処理鋼板を得て、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例1においては、キャリアロール上における金属酸素化合物堆積量の測定は、キャリアロール67a(第2ロール)およびキャリアロール69a(第3ロール)の2つのキャリアロールについて、それぞれロール表面の堆積物(Zrの酸素化合物)の重量の合計値を測定することで行った。結果を表1に示す。
【0099】
《比較例2〜4》
鋼板上に電解処理を施す際における、鋼板に流れるトータル電気量、およびキャリアロール65,67a,69a(第1ロール〜第3ロール)への電流量の条件を表1に示すものとした以外は、比較例1と同様にして表面処理鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
《比較例5》
実施例7で用いたものと同様の冷延鋼板(厚さ0.2mm、幅1000mm)を電解脱脂した後、水洗し、次に示すラインで表面処理を行った。即ち、図1に示す表面処理ライン100において、図2に示す部分を図3のように変更した表面処理ライン100を用いて、表面処理鋼板を作製した。電解処理液31、41の液量は8000L、第1電解処理槽30および第2電解処理槽40の容量をそれぞれ2500L、ライン速度(鋼板の移動速度):150m/min、鋼板に流れるトータル電気量:14C/dmとし、キャリアロール65,67a,69a(第1ロール〜第3ロール)は通電したコンダクターロールとした。その他は比較例1と同様にして表面処理鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
なお、表1中、電気抵抗値の「>20」は、電気抵抗値が20Ωより大きい値となったことを示す。
【0102】
表1に示すように、実施例1〜3,7においては、キャリアロール65(第1ロール)を通電したコンダクターロールとする一方、キャリアロール67(第2ロール)を非通電ロールとしており、いずれも、表面処理鋼板の表面にアークスポットは確認されず、さらに、表面処理鋼板を製造する際におけるキャリアロールへの酸素化合物の付着が有効に防止され、表面処理鋼板を良好に製造することができた。同様に、表1に示すように、実施例4〜6においては、キャリアロール65(第1ロール)を通電したコンダクターロールとする一方、キャリアロール67,69(第2ロール、第3ロール)を非通電ロールとしており、いずれも、表面処理鋼板の表面にアークスポットは確認されず、さらに、表面処理鋼板を製造する際におけるキャリアロールへの酸素化合物の付着が有効に防止されており、表面処理鋼板を良好に製造することができた。
【0103】
実施例8においては、キャリアロール65,67a(第1ロール、第2ロール)を通電したコンダクターロールとする一方、キャリアロール69(第3ロール)を非通電ロールとしており、第1ロール,第2ロールに流れる電流量を調整することにより、表面処理鋼板の表面にアークスポットは確認されず、さらに、表面処理鋼板を製造する際におけるキャリアロールへの酸素化合物の付着が有効に防止されており、表面処理鋼板を良好に製造することができた。
【0104】
一方、表1に示すように、比較例1〜5においては、すべてのキャリアロール(第1ロール〜第3ロール)を通電したコンダクターロールとしており、いずれも、表面処理鋼板にアークスポットが発生し、さらに、表面処理鋼板を製造する際においてキャリアロールに酸素化合物が付着してしまい、表面処理鋼板を良好に製造することができなかった。
【0105】
次いで、後述する実施例9〜11および比較例6〜9において、金属缶を作製し、作製した金属缶に内容物を充填して耐内容物性(耐食性)の評価を行った実験例を示す。
【0106】
《実施例9》
1.表面処理鋼板の作製
鋼板として厚み0.225mm、調質度T3の冷間圧延鋼板を用いた以外は、実施例4と同じ方法で表面処理鋼板を作製し、得られた表面処理鋼板について、実施例1と同様にしてアークスポットの有無の評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
2.樹脂被覆表面処理鋼板の作製
得られた表面処理鋼板を、予め板温度250℃に加熱しておき、缶内面側となる金属板の片面上に、イソフタル酸成分を11モル%含有するポリエチレンテレフタレート/イソフタレートの共重合延伸フィルム(厚さ19μm)、缶外面側となるもう一方の片面上にイソフタル酸成分を12モル%含有するポリエチレンテレフタレート/イソフタレートの共重合延伸ホワイトフィルム(厚さ13μm)を、ラミネートロールを介して熱圧着後、直ちに水冷することにより、樹脂被覆表面処理鋼板を得た。
【0108】
3.金属缶の作製
得られた樹脂被覆表面処理鋼板の両面に、パラフィンワックスを静電塗油後、直径143mmの円形に打抜き、定法に従い、径91mm、高さ36mmの絞りカップを作製し、作製した絞りカップを後述する金属缶(200g用のシームレス缶)の成形に供した。ついでこの絞りカップに同時絞りしごき加工を2回繰り返して径が小さくハイトの大きいカップに成形した。この様にして得られたカップの諸特性は以下の通りであった。
カップ径 52.0mm
カップ高さ 111.7mm
元板厚に対する缶壁部の厚み −30%
このカップはドーミング成形後、樹脂フィルムの歪みをとるために220℃で60秒間熱処理を行い、続いて開口端端部のトリミング加工、曲面印刷し、直径50.8mmにネックイン加工、フランジ加工を行い、金属缶(200g用のシームレス缶)を作製した。
【0109】
4.内容物充填評価(パックテスト(耐デント性))
得られた金属缶に、コーヒー(商品名 Blendy ボトルコーヒー低糖、味の素ゼネラルフーヅ社製)を185ml充填し、常法に従い蓋を巻締めたのち、123℃で20分間のレトルト処理を実施した。蓋を上にした状態で室温にて1日保管し、その後、横向きに静置し、缶体の側壁下面部に、径52.0mmの球面を有する1kgのおもりを40mmの高さから球面が缶に当たるように落とすことにより缶体に衝撃を与え変形させた。蓋が上向きとなるようにして37℃で3カ月間貯蔵後、開缶機で巻締部を切断し、蓋を缶胴から離した後、缶胴内面変形部の腐食状態を顕微鏡で観察し評価した。評価基準は、50缶調べて、いずれの缶内にもブリスターによる腐食が発生していないものを○とした。一方、50缶調べて、ひと缶でも缶内にもブリスターによる腐食が発生していた場合には×とした。評価結果を、表2に示した。
【0110】
《実施例10,11》
鋼板として厚み0.225mm、調質度T3の冷間圧延鋼板を用いた以外は、実施例5,6と同じ方法で表面処理鋼板を作製した。なお、実施例5の方法で作製した表面処理鋼板は実施例10に、実施例6の方法で作製した表面処理鋼板は実施例11にそれぞれ対応する。次いで、得られた表面処理鋼板について、実施例1と同様にしてアークスポットの有無の評価を行った。その後、実施例9と同様に、金属缶を作製し、内容物充填評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
《比較例6〜9》
鋼板として厚み0.225mm、調質度T3の冷間圧延鋼板を用いた以外は、比較例1〜4と同じ方法で表面処理鋼板を作製した。なお、比較例1の方法で作製した表面処理鋼板は比較例6に、比較例2の方法で作製した表面処理鋼板は比較例7に、比較例3の方法で作製した表面処理鋼板は比較例8に、比較例4の方法で作製した表面処理鋼板は比較例9にそれぞれ対応する。次いで、得られた表面処理鋼板について、実施例1と同様にしてアークスポットの有無の評価を行った。結果を表2に示す。なお、比較例6〜9で作製した表面処理鋼板は、表2に示すようにアークスポットの存在が確認され、上述した内容物充填評価を行うまでもなく耐内容物性(耐食性)に劣るものであると判断することができたため、金属缶の作製および内容物充填評価は行わなかった。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すように、実施例9〜11においては、キャリアロール65(第1ロール)を通電したコンダクターロールとする一方、キャリアロール67,69(第2ロール、第3ロール)を非通電ロールとしており、いずれも、表面処理鋼板の表面にアークスポットは確認されず、表面処理鋼板を良好に製造することができた。さらに、これらの表面処理鋼板を加工して作製した金属缶は、内容物が充填された後、レトルト処理が施され、外力により缶変形を受け、更に経時保管された際においても、耐内容物性(耐食性)に優れたものであった。
【0114】
一方、表2に示すように、比較例6〜9においては、すべてのキャリアロール(第1ロール〜第3ロール)を通電したコンダクターロールとしており、いずれも、表面処理鋼板にアークスポットが発生してしまい、表面処理鋼板を良好に製造することができなかった。
【符号の説明】
【0115】
1…基材
100…表面処理ライン
10…酸洗処理槽
20…酸洗液リンス処理槽
30…第1電解処理槽
31…電解処理液
40…第2電解処理槽
41…電解処理液
50…電解液リンス処理槽
61,63,65,67,67a,69,69a,71…キャリアロール
62,64,66,68,70…シンクロール
80a,80b,80c,80d,80e,80f,80g,80h…アノード
90…整流器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7