特許第5671624号(P5671624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5671624情報記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671624
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】情報記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20150129BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   G11B5/73
   G11B5/84 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-536144(P2013-536144)
(86)(22)【出願日】2012年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2012073192
(87)【国際公開番号】WO2013047189
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2014年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-217374(P2011-217374)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 毅
【審査官】 ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/102751(WO,A1)
【文献】 特開2006−228284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/84 − 5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記憶装置の情報記録媒体(1)に用いられ、回転中心(CP)を有する円板状の情報記録媒体用ガラス基板であって、
前記磁気薄膜層(23)が形成される主表面(14,15)と、
前記情報記録媒体用ガラス基板(1G)の縁部に位置する外周端面(12)と、を含み、
前記主表面(14,15)の前記外周端面(12)から前記回転中心(CP)に向かう半径方向距離において、
前記主表面(14,15)上における前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が1.2mmの位置の点(B1)および前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.75mmの位置の点(B2)を結ぶ延長線を基準位置(BP)とし、前記回転中心(CP)を通過する回転軸(CL)が延びる方向において、前記基準位置(BP)と選択された任意の前記主表面上の位置とのずれ量をロールオフ値(RO)とした場合に、
前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.55mmの第1半径位置(P1)における前記ロールオフ値(RO)を第1ロールオフ値(RO1)とし、
前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.45mmの第2半径位置(P2)における前記ロールオフ値(RO)を第2ロールオフ値(RO2)とし、
前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.30mmの第3半径位置(P3)における前記ロールオフ値(RO)を第3ロールオフ値(RO3)とし、
前記第1ロールオフ値(RO1)と前記第2ロールオフ値(RO2)との差(RO1−RO2)を第1ロールオフ変化量(S1)とし、
前記第2ロールオフ値(RO2)と前記第3ロールオフ値(RO3)との差(RO2−RO3)を第2ロールオフ変化量(S2)とした場合に、
前記第1ロールオフ変化量(S1)前記第2ロールオフ変化量(S2)、および、前記第1の半径位置(P1)での前記ロールオフ値は、下記の条件1、条件2、および、条件3を満足する、情報記録媒体用ガラス基板。
250Å≦第1ロールオフ変化量(S1)≦450Å・・・条件1
950Å≦第2ロールオフ変化量(S2)≦1870Å・・・条件2
−220Å≦第1の半径位置(P1)でのロールオフ値≦−120Å・・・条件3
なお、前記基準位置(BP)と選択された任意の前記主表面上の位置とのずれ量である前記ロールオフ値がマイナスとは、任意の前記主表面上の位置が当該情報記録媒体用ガラス基板の厚み方向にずれている場合を意味する。
【請求項2】
前記情報記録媒体用ガラス基板(1G)は、前記主表面(14,15)と前記外周端面(12)とが交わる領域に、前記外周端面(12)からの前記半径方向における幅が0.1mmの傾斜面(1t)を有する、請求項1記載の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項3】
前記外周端面(12)から前記回転中心軸(CL)までの前記半径方向距離は、32.5mmである、請求項1または2に記載の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項4】
情報記憶装置に用いられる情報記録媒体(1)であって、
回転中心(CP)を有する円板状の情報記録媒体用ガラス基板(1G)と、
前記情報記録媒体用ガラス基板(1G)の主表面上に設けられる磁気薄膜層(23)と、を備え、
前記情報記録媒体用ガラス基板(1G)は、
前記磁気薄膜層(23)が形成される主表面(14,15)と、
前記情報記録媒体用ガラス基板(1G)の縁部に位置する外周端面(12)と、を含み、
前記主表面(14,15)の前記外周端面(12)から前記回転中心(CP)に向かう半径方向距離において、
前記主表面(14,15)上における前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が1.2mmの位置の点(B1)および前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.75mmの位置の点(B2)を結ぶ延長線を基準位置(BP)とし、前記回転中心(CP)を通過する回転軸(CL)が延びる方向において、前記基準位置(BP)と選択された任意の前記主表面上の位置とのずれ量をロールオフ値(RO)とした場合に、
前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.55mmの第1半径位置(P1)における前記ロールオフ値(RO)を第1ロールオフ値(RO1)とし、
前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.45mmの第2半径位置(P2)における前記ロールオフ値(RO)を第2ロールオフ値(RO2)とし、
前記外周端面(12)からの前記半径方向距離が0.30mmの第3半径位置(P3)における前記ロールオフ値(RO)を第3ロールオフ値(RO3)とし、
前記第1ロールオフ値(RO1)と前記第2ロールオフ値(RO2)との差(RO1−RO2)を第1ロールオフ変化量(S1)とし、
前記第2ロールオフ値(RO2)と前記第3ロールオフ値(RO3)との差(RO2−RO3)を第2ロールオフ変化量(S2)とした場合に、
前記第1ロールオフ変化量(S1)前記第2ロールオフ変化量(S2)、および、前記第1の半径位置(P1)での前記ロールオフ値は、下記の条件1、条件2、および、条件3を満足する、情報記録媒体。
250Å≦第1ロールオフ変化量(S1)≦450Å・・・条件1
950Å≦第2ロールオフ変化量(S2)≦1870Å・・・条件2
−220Å≦第1の半径位置(P1)でのロールオフ値≦−120Å・・・条件3
なお、前記基準位置(BP)と選択された任意の前記主表面上の位置とのずれ量である前記ロールオフ値がマイナスとは、任意の前記主表面上の位置が当該情報記録媒体用ガラス基板の厚み方向にずれている場合を意味する。
【請求項5】
前記主表面の片面側での記録密度は、500Gbit/inch以上である、請求項に記載の情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD(Hard Disk Drive)などの情報記録装置には、磁気ディスクまたは光磁気ディスクなどの円板状の情報記録媒体が内蔵される。情報記録媒体には、円板状の情報記録媒体用ガラス基板が用いられる。情報記録媒体用ガラス基板の主表面上に、磁気、光、または光磁気等の性質を利用した記録層を含む磁気薄膜層が形成される。磁気薄膜層が磁気ヘッドによって磁化されることによって、所定の情報が情報記録媒体に記録される。
【0003】
情報記録媒体は、HDDなどの情報記録装置の内部において高速で回転する。情報記録媒体への情報の記録および再生のために、情報記録媒体用ガラス基板の主表面に形成された磁気薄膜層上を磁気ヘッドが飛行する。記録密度を高めるために、DFH(Dynamic Flying Height)機構が情報記録装置に採用されている。
【0004】
磁気ヘッドと情報記録媒体の最表面(磁気薄膜層の表面)との間の距離(以下、「浮上高さ」と称する。)は10nmを超える間隔であった。情報記録媒体の中心から半径方向の外端部までの半径長さを100%とした場合、中心から97%を超える領域にまでヘッド走行領域を拡張しても、磁気ヘッドによる情報記録媒体への情報の書込み、および読み出しには問題は生じなかった。
【0005】
近年、記録密度の増加に伴って、浮上高さが小さくなる傾向にある。浮上高さを下げることで、磁気ヘッドでの受信信号のS/N比が向上し、情報記録媒体への記録密度を高めることができる。
【0006】
浮上高さが5nm以下の場合には、情報記録媒体の最表面と磁気ヘッドとの接触(いわゆるヘッドクラッシュ現象)を抑制するために、情報記録媒体用ガラス基板の主表面の平滑度および平坦度に対する要求はますます高くなっている。また、磁気ヘッドが、退避位置から情報記録媒体の記録面に向かって突入する際に、情報記録媒体の外周端面の形状に起因する空気流れの乱れの影響を受け易くなり、磁気ヘッドの浮上が不安定になる(グラインドアバランシェ)ことが考えられる。
【0007】
これにより、退避位置から情報記録媒体の記録面上走行位置への移行において、磁気ヘッドの浮上が不安定になると、記録面上走行での磁気ヘッドの浮上に悪影響を及ぼすことになる。その結果、情報記録媒体への記録密度を効率よく高めることができない。
【0008】
特開2011−000704号公報(特許文献1)および特開2007−257811号公報(特許文献2)には、1枚の情報記録媒体に格納できる情報量を増大させるためには、情報記録媒体の表面における平坦性と同様に、情報記録媒体の外縁近傍においても、同様に平坦性が要求されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−000704号公報
【特許文献2】特開2007−257811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、磁気ヘッドが、退避位置から情報記録媒体の記録面に向かって突入する際に、情報記録媒体の外周端面近傍領域の形状に起因する空気流れの乱れの影響を受け易く、磁気ヘッドの浮上が不安定になる点にある。
【0011】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、磁気ヘッドが、退避位置から情報記録媒体の記録面に向かって突入する際に、情報記録媒体の外周端面近傍領域の形状に起因する空気流れの乱れを発生し難い構造を備える情報記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に基づいた情報記録媒体用ガラス基板においては、情報記憶装置の情報記録媒体に用いられ、回転中心を有する円板状の情報記録媒体用ガラス基板であって、上記磁気薄膜層が形成される主表面と、上記情報記録媒体用ガラス基板の縁部に位置する外周端面とを含む。
【0013】
上記主表面の前記外周端面から前記回転中心に向かう半径方向距離において、前記主表面上における前記外周端面からの前記半径方向距離が1.2mmの位置の点および前記外周端面からの前記半径方向距離が0.75mmの位置の点を結ぶ延長線を基準位置とし、上記回転中心を通過する回転軸が延びる方向において、上記基準位置と選択された任意の上記主表面上の位置とのずれ量をロールオフ値とした場合に、上記外周端面からの上記半径方向距離が0.55mmの第1半径位置における上記ロールオフ値を第1ロールオフ値とし、上記外周端面からの上記半径方向距離が0.45mmの第2半径位置における上記ロールオフ値を第2ロールオフ値とし、上記外周端面からの上記半径方向距離が0.30mmの第3半径位置における上記ロールオフ値を第3ロールオフ値とし、上記第1ロールオフ値と上記第2ロールオフ値との差を第1ロールオフ変化量とし、上記第2ロールオフ値と上記第3ロールオフ値との差を第2ロールオフ変化量とした場合に、上記第1ロールオフ変化量上記第2ロールオフ変化量、および、上記第1の半径位置(P1)での上記ロールオフ値は、下記の条件1、条件2、および、条件3を満足する。
【0014】
250Å≦第1ロールオフ変化量(S1)≦450Å・・・条件1
950Å≦第2ロールオフ変化量(S2)≦1870Å・・・条件2
−220Å≦第1の半径位置(P1)でのロールオフ値≦−120Å・・・条件3
【0016】
他の形態では、上記情報記録媒体用ガラス基板は、上記主表面と上記外周端面とが交わる領域に、上記外周端面からの上記半径方向における幅が0.1mmの傾斜面を有する。
【0017】
他の形態では、上記外周端面から上記回転中心軸までの上記半径方向距離は、32.5mmである。
【0018】
この発明に基づいた情報記録媒体においては、情報記憶装置に用いられる情報記録媒体であって、上述の情報記録媒体用ガラス基板と、上記情報記録媒体用ガラス基板の主表面上に設けられる磁気薄膜層とを備える。
【0019】
他の形態では、上記主表面の片面側での記録密度は、500Gbit/inch以上である。
【発明の効果】
【0020】
この発明に基づいた情報記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体によれば、磁気ヘッドが、退避位置から情報記録媒体の記録面に向かって突入する際に、情報記録媒体の外周端面近傍領域の形状に起因する空気流れの乱れを発生し難い構造を備える情報記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態における情報記録装置の概略構成示す図である。
図2】実施の形態における情報記録媒体用ガラス基板の斜視図である。
図3】実施の形態における情報記録媒体の斜視図である。
図4図2中のIV線矢視部分拡大断面図である。
図5】実施例1および実施例、および比較例1から比較例5の情報記録媒体の、それぞれの第1半径位置P1における第1ロールオフ値RO1、第2半径位置P2における第2ロールオフ値RO2、および第3半径位置P3における第3ロールオフ値RO3の測定値を示す図である。
図6】実施例1および実施例、および比較例1から比較例5における、それぞれの第1ロールオフ値(RO1)、第2ロールオフ値(RO2)、第3ロールオフ値(RO3)、第1ロールオフ変化量(S1)、第2ロールオフ変化量(S2)、ヘッドクラッシュ有無(LU)、外周端面から1.3mm位置における浮上テスト評価(GA1)、外周端面から1.1mm位置における浮上テスト評価(GA2)、および外周端面から0.9mm位置における浮上テスト評価(GA3)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に基づいた実施の形態および実施例について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態および実施例の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態および実施例の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0023】
(情報記録装置2の概略構成)
図1を参照して、情報記録装置2の概略構成の一例について説明する。図1は、実施の形態における情報記録装置2の概略構成示す図である。
【0024】
図1に示すように、情報記録装置2は、矢印DR1方向に回転駆動される情報記録媒体1に対して、磁気ヘッド2Dが対向配置されている。情報記録媒体1の形状については図2および図3を用いて後述する。情報記録媒体1は回転中心CPを中心に高速回転する。
【0025】
磁気ヘッド2Dは、サスペンション2Cの先端部に搭載されている。サスペンション2Cは、支軸2Aを支点として矢印DR2方向(トラッキング方向)に回動可能に設けられている。支軸2Aには、トラッキング用アクチュエータ2Bが取り付けられている。
【0026】
磁気ヘッド2Dは、平面視において、情報記録媒体1から外れる退避位置と情報記録媒体1の上を浮上走行するトラッキング(記録面)位置との間を移動する。
【0027】
(情報記録媒体1の構成)
図2および図3を参照して、情報記録媒体用ガラス基板1Gおよび情報記録媒体1の構成について説明する。図2は、情報記録媒体用ガラス基板1Gの斜視図、図3は、情報記録媒体1の斜視図である。
【0028】
図2に示すように、情報記録媒体1に用いられる情報記録媒体用ガラス基板1G(以下、「ガラス基板1G」と称する。)は、中心に孔11が形成された環状の円板形状を呈している。ガラス基板1Gは、外周端面12、内周端面13、表主表面14、および裏主表面15を有している。ガラス基板1Gとしては、アモルファスガラスを用い、外径約65mm、内径約20mm、厚さ約0.8mmである。
【0029】
図3に示すように、情報記録媒体1は、上記したガラス基板1Gの表主表面14上に磁気薄膜層23が形成されている。図示では、表主表面14上にのみ磁気薄膜層23が形成されているが、裏主表面15上に磁気薄膜層23を設けることも可能である。
【0030】
磁気薄膜層23の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を基板上にスピンコートして形成する方法、スパッタリングにより形成する方法、無電解めっきにより形成する方法が挙げられる。
【0031】
スピンコート法での膜厚は約0.3〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05〜0.1μm程度であり、薄膜化および高密度化の観点からはスパッタリング法および無電解めっき法による膜形成がよい。
【0032】
磁気薄膜層23に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNi、Crを加えたCo系合金などが好適である。近年では、熱アシスト記録用に好適な磁性層材料として、FePt系の材料が用いられるようになってきている。
【0033】
磁気ヘッドの滑りをよくするために磁気薄膜層23の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0034】
必要により下地層、保護層を設けてもよい。情報記録媒体1における下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。
【0035】
下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0036】
磁気薄膜層23の摩耗、腐食を防止する保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。保護層は、下地層、磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構成としてもよい。
【0037】
上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO2)層を形成してもよい。
【0038】
次に、図4を参照して、ガラス基板1Gの外周端面12側における形状、および、ロールオフ値ROについて説明する。ロールオフ値ROとは、表主表面14上における外周端面12からの半径方向距離が1.2mmの位置の点B1、および外周端面12からの半径方向距離が0.75mmの位置の点B2を結ぶ延長線を基準位置BPとし、回転中心CPを通過する回転軸CLが延びる方向における基準位置BPと選択された任意の主表面位置とのずれ量を意味する。なお、裏主表面15上において測定する場合も、表主表面14の場合と同様である。
【0039】
本実施の形態におけるガラス基板1Gは、円板状の形状を有し、半径(R)約32.5mm、厚さ(W)約0.8mmである。外周端面12側には、表主表面14と外周端面12とが交わる領域に、外周端面12からの半径方向における幅(R2)が0.1mmの傾斜面1tが設けられている。裏主表面15と外周端面12とが交わる領域にも、同様の傾斜面1tが設けられている。図中において、R1は約32.4mmとなる。
【0040】
ロールオフ値ROは、主としてガラス基板1Gの製造工程における研磨工程で形成される。このロールオフ値ROが大きくなり過ぎると、磁気ヘッド2Dが、退避位置から情報記録媒体のトラッキング(記録面)位置に向かって突入する際に、空気流れの乱れを発生させて、磁気ヘッド2Dの浮上を不安定にさせる(グラインドアバランシェ)要因となる。
【0041】
そこで、本実施の形態においては、ロールオフ値ROと空気流れの乱れの発生との関係について、磁気ヘッド2Dの浮上テストを行なった。以下に浮上テストの結果を実施例として示す。
【0042】
(実施例)
ガラス基板1Gとしては、上述したサイズのガラス基板を用いた。研磨工程にて1バッチ100枚を単位とし,両面研磨装置にて10バッチを加工したものから形状を選別して7種類(実施例1および実施例2、比較例1から比較例5)のガラス基板を得た。
【0043】
情報記録媒体1として、磁気薄膜層23をガラス基板1Gの主表面14に成膜した。ロールオフ値ROの測定(形状評価)には、KLA-Tencor社製のOSA6300を用いた。記録方式は、垂直磁気記録方式を採用し、図1に示したような、DFH機構を備えた情報記録装置2を用いた。
【0044】
情報記録装置2おける情報記録媒体1の回転速度は、7200rpmである。各情報記録媒体1に対して、ロールオフ値ROの測定を行なった。具体的には、外周端面12からの半径方向距離r1が0.55mm(回転中心CPからの距離31.95mm)の第1半径位置P1、外周端面12からの半径方向距離r2が0.45mm(回転中心CPからの距離32.05mm)の第2半径位置P2、および、外周端面12からの半径方向距離r3が0.30mm(回転中心CPからの距離32.20mm)の第3半径位置P3で、ロールオフ値ROの測定を行なった。
【0045】
第1半径位置P1におけるロールオフ値ROを第1ロールオフ値RO1とした。第2半径位置P2におけるロールオフ値ROを第2ロールオフ値RO2とした。第3半径位置P3におけるロールオフ値ROを第3ロールオフ値RO3とした。ロールオフ値が正の値の場合には、表主表面14上における外周端面12から1.2mmの位置の点および外周端面12から0.75mmの位置の点を結ぶ延長線である基準位置BPよりも磁気ヘッド2D側に主表面が位置していることを意味する。
【0046】
図5に、実施例1および実施例、および比較例1から比較例5の情報記録媒体1の、それぞれの第1半径位置P1における第1ロールオフ値RO1、第2半径位置P2における第2ロールオフ値RO2、および第3半径位置P3における第3ロールオフ値RO3の測定値をグラフにしたものを示す。測定の数値データは、図6に示す。
【0047】
各ロールオフ値は、テストする情報記録媒体1の主表面の外周端面から回転中心CPに向かう半径方向距離において、回転中心CPを通る直交4方向で測定し、4つのロールオフ値ROの平均値を、その半径方向距離におけるロールオフ値ROとした。
【0048】
浮上テストに先立って、各情報記録媒体1に対して、ロード・アンロードテスト(LU)を行なった。1000回のロード・アンロードを繰り返し1回目と1000回目のヘッドロード時のリード出力を比較して出力が20%以上低下した場合はヘッドがクラッシュ(損傷)したものとして、ヘッドクラッシュ有無を確認した。
【0049】
磁気ヘッド2Dを走行させて磁気ヘッド2Dの浮上テストを、3つの半径方向距離位置で各2回行なった。外周端面12からの半径方向距離が1.3mm(回転中心CPからの距離31.2mm)の第1テスト位置GA1、外周端面12からの半径方向距離が1.1mm(回転中心CPからの距離31.4mm)の第2テスト位置GA2、および、外周端面12からの半径方向距離が0.9mm(回転中心CPからの距離31.6mm)の第3半径位置GA3で浮上テストを行なった。その結果を図6に示す。浮上テストにおいて、磁気ヘッド2Dの磁気薄膜層23の最表面からの浮上高さは5nmとした。浮上テストにおいては、日立ハイテクノロジーズ社製RQ7800評価装置において、ピコスライダーを搭載したグライドテストヘッドを用いてテストを行った。
【0050】
浮上テストが合格とは、第1から第3半径位置の上において、空気流れの乱れが生じることなく、磁気ヘッド2Dが磁気ディスク表面の突起に衝突あるいはかすることなく通過した場合をいう。
【0051】
図6中で、「A」は、浮上テストが2回とも合格した場合を意味し、「B」は、2回の浮上テストにおいて1回は合格、1回は不合格の場合を意味し、「C」は、浮上テストが2回とも不合格の場合を意味し、「−」は、浮上テスト不実施を意味する。
【0052】
図6に示す表から、実施例1および実施例2で用いたガラス基板は、ロード・アンロードテスト(LU)は合格し、GA1、GA2、GA3のいずれのテスト位置においても、浮上テストの評価は「A」である。
【0053】
比較例1で用いた情報記録媒体1は、ロード・アンロードテスト(LU)は合格し、GA1およびGA2の箇所においては、浮上テストの評価は「A」であったが、GA3の評価は「C」である。
【0054】
比較例2で用いた情報記録媒体1は、ロード・アンロードテスト(LU)は合格し、GA1の評価は「A」、GA2の評価は「B」、GA3の評価は「C」である。
【0055】
比較例3で用いた情報記録媒体1は、ロード・アンロードテスト(LU)は合格し、GA1の評価は「A」、GA2およびGA3の評価は「C」である。
【0056】
比較例4で用いた情報記録媒体1は、ロード・アンロードテスト(LU)は合格し、GA1の評価は「A」、GA2およびGA3の評価は「C」である。
【0057】
比較例で用いた情報記録媒体1は、ロード・アンロードテスト(LU)が不合格であったため、浮上テストは実施していない。
【0058】
図6を参照しながら、上記評価結果と、実施例1実施例、および比較例1から比較例5の情報記録媒体1のロールオフ値との関係について考察する。第1ロールオフ値RO1と第2ロールオフ値RO2との差(RO1−RO2)を第1ロールオフ変化量S1とし、第2ロールオフ値RO2と第3ロールオフ値RO3との差(RO2−RO3)を第2ロールオフ変化量(S2)とする。
【0059】
実施例1および実施例2の評価結果から、第1ロールオフ変化量S1の最も好ましい範囲は、250Å≦S1≦450Å、第2ロールオフ変化量S2の最も好ましい範囲は、950Å≦S2≦1870Åであると考えられる。
【0060】
回転中心CPから最も遠いGA3の位置での評価を除いた場合には、実施例1実施例2、比較例1、および、比較例2の評価結果から、第1ロールオフ変化量S1の好ましい範囲は、180Å≦S1≦450Å、第2ロールオフ変化量S2の好ましい範囲は、810Å≦S2≦2480Åであると考えられる。
【0061】
回転中心CPからGA2、GA3の位置での評価を除いた場合には、実施例1実施例2、比較例1から比較例5の評価結果から、第1ロールオフ変化量S1の好ましい範囲は、180Å≦S1≦450Å、第2ロールオフ変化量S2の好ましい範囲は、810Å≦S2≦2480Åであると考えられる。
【0062】
上記実施例の説明においては、情報記録媒体1は、ガラス基板1Gに磁気薄膜層23を成膜したもので評価を行なっているが、ガラス基板1Gの厚さに対して磁気薄膜層23の膜厚さは薄いため、各情報記録媒体1によって得られたロールオフ値ROの測定情報および評価は、ガラス基板1Gのロールオフ値ROの測定情報および評価と同視することができる。
【0063】
上記情報記録媒体1は、直径が65mm(2.5インチ)の場合について説明しているが、他のサイズ(1.8インチ、3.5インチ、5.25インチ)であっても、同様の採用効果を得ることが可能である。
【0064】
以上、本実施の形態におけるガラス基板および情報記録媒体によれば、ロールオフ値ROおよびロールオフ変化量に着目し、情報記録媒体の外周端面近傍領域の形状の最適化を図ることにより、磁気ヘッドが、退避位置から情報記録媒体の記録面に向かって突入する際に、情報記録媒体の外周端面近傍領域の形状に起因する空気流れの乱れを抑制すること可能としている。
【0065】
これにより、磁気ヘッドの浮上量が5nm以下のDFH機構を採用した情報記録装置において、片面側での記録密度が500Gbit/inch以上の高密度の情報記録媒体であっても、磁気ヘッドによる安定した情報の書込みおよび読出しを実行することが可能となる。
【0066】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 情報記録媒体、1G 情報記録媒体用ガラス基板、1t 傾斜面、2 情報記録装置、2A 支軸、2B トラッキング用アクチュエータ、2C サスペンション、2D 磁気ヘッド、11 孔、12 外周端面、13 内周端面、14 表主表面、15 裏主表面、23 磁気薄膜層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6