特許第5671637号(P5671637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671637
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   F16J15/34 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-38632(P2014-38632)
(22)【出願日】2014年2月28日
(62)【分割の表示】特願2010-165541(P2010-165541)の分割
【原出願日】2010年7月23日
(65)【公開番号】特開2014-98492(P2014-98492A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000209773
【氏名又は名称】池袋琺瑯工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 元重
(72)【発明者】
【氏名】大森 和夫
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 実開平2−78864(JP,U)
【文献】 実開昭63−42974(JP,U)
【文献】 実開昭62−98866(JP,U)
【文献】 実公平3−2664(JP,Y2)
【文献】 米国特許第2611668(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(1)の外周面(1b)に環状クランプ(4)を介して固定された円筒状ベローズ(5)と、前記回転軸(1)の外周側に位置する固定体(2)に設けられた固定環(2A)と、よりなり、前記円筒状ベローズ(5)の摺動面(5c)が前記固定環(2A)に摺動することにより、前記回転軸(1)の軸部分(1a)を封止するようにし、
前記円筒状ベローズ(5)の外周面(5d)に設けられたリテーナ(6)と、前記回転軸(1)の外周面(1b)にネジ(21)により固定され前記リテーナ(6)を介して前記円筒状ベローズ(5)の外周面(5d)を保持するためのカップ型をなす制振体(20)と、を備えたメカニカルシールにおいて、
前記制振体(20)と前記リテーナ(6)との間には、円板状弾性体(22)が設けられ、前記制振体(20)の上部(25)の孔(20a)を前記回転軸(1)が貫通し、前記制振体(20)の端部(20b)に形成されたネジ孔(40)内に螺入されたとめネジ(41)の先端に前記円板状弾性体(22a)を取付け、前記円板状弾性体(22a)を前記リテーナ(6)の外周面(6c)に当接させ、前記とめネジ(41)は、前記制振体(20)の周方向に少なくとも3ヶ所以上設けられ、使用後に、前記リテーナ(6)の径方向の振れを測定し、前記リテーナ(6)の振れを最小にできるように調整することができるように、構成されていることを特徴とするメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関し、特に、円筒状ベローズの外周を制振体によって保持することにより、回転軸の回転時における円筒状ベローズの摺動面の鳴き音の発生を抑えるための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のメカニカルシールとしては、一般に使用されている構成を図2に挙げることができる。
すなわち、図2に示される構成において、符号1で示されるものは筒状の固定体2内に軸部分1aを回転自在に配設した回転軸であり、この固定体2の内面に形成された段部2aには、環状をなす固定環2AがOリング2bを介して設けられている。
前記固定環2Aの周縁は、前記固定体2にボルト2cを介して取付けられたリング状抑え体3により前記固定体2上に固定されている。
【0003】
前記回転軸1の外周面1bには、ネジ4aで固定される2つ割りの輪状クランプ4を介して円筒状ベローズ5の一端5aが固定されている。
前記円筒状ベローズ5の他端5bの摺動面5cは、前記固定環2Aの一面2dに摺動している。
前記円筒状ベローズ5の外周面5dには輪状のリテーナ6が設けられ、このリテーナ6の一面6a側には複数の凹部6bが形成され、前記クランプ4と凹部6bとの間には、スプリング7又はピン8が設けられている。
【0004】
前述の図2の従来構成において、前記円筒状ベローズ5は、PTFEあるいはゴムなどの弾性材料によってジャバラ状に成形され、軸方向および径方向に変形可能で、前記クランプ4に設けられた前記ピン8によって前記リテーナ6は前記回転軸1に対し同期して回転する。
前記クランプ4に対し、前記リテーナ6はスプリング7により付勢され、円筒状ベローズ5の摺動面5cが固定環2Aに押圧されることにより流体(図示せず)をシールすることができる。
【0005】
前述の構成において、回転軸1が回転すると、円筒状ベローズ5の一端5aは回転軸1に対して固定され、他端5bの摺動面5cは固定環2Aに当接しているが、その径方向に対しては、スプリング7とピン8により保持されているのみであるため、摺動面5cの摩擦や円筒状ベローズ5の遠心力により、図3の矢印Aに示されるように、円筒状ベローズ5の軸芯が円錐状に移動するスリコギ運動が発生する。
【0006】
前述の場合、前記円筒状ベローズ5自体は、回転軸1に対して弾性的に保持されているため、軸芯に戻ろうとする力が働き、摺動面5cで径方向のすべりが発生し、いわゆる鳴き音が発生することになる。
前述のスリコギ運動は摺動面5cからの流体の漏洩となり、前述の鳴き音は騒音となる。特に、この鳴き音は、摺動面5cが無潤滑で使用されるドライシールの場合、顕著に発生していた。
【0007】
また、図4のように、前記円筒状ベローズ5の軸芯が回転軸1に対して円筒状の振れ廻る状態となった場合、前述の鳴き音発生の要因と問題点は、図3の場合と同様である。
また、摺動面5cは、回転軸1と同芯に回転している場合には損耗は大きくないが、図4のように円筒状ベローズ5が振れ廻ると、摺動する距離が増えることに対応して損耗も大きくなっていた。
【0008】
前述のような鳴き音を低減させるための提案としては、特許文献1のメカニカルシールの自励振動防止機構の構成があり、特に、図5に示されるように、コイルスプリング12で付勢されたシールリング14に防振エラストマ部材22を介して環状質量体21を設け、この環状質量体21と防振エラストマ部材22からなる制振系20の固有振動数を、シールリング14の自励振動の振動数域に設定することによって、密封摺動面Sでのスティック・スリップによるシールリング14の自励振動を吸収するように構成し、シールリング14の外周に環状質量体21と防振エラストマ部材22を取付けた構造である。
【0009】
また、前述のような鳴き音を低減させるための他の提案としては、特許文献2の成形ベローズ型メカニカルシールの構成があり、特に、図6に示されるように、回転軸1側に担持した回転環26と機筐10側に担持した固定環6を気密的に対向摺接せしめたメカニカルシールにおいて、上記機筐10側の支持筒11と固定環6の間に金属製成形ベローズ5を介装し、この成形ベローズ5の端部に形成した断面U字形フランジ9が上記支持筒11内径部両側面に巻き付いた状態に密接すると共に、このU字形フランジ9から延びる筒状端部9aとその外周側に位置して上記支持筒11に形成した環状段部14bとの間の溝状空間にロウ剤または接着剤を充填してなる構成で、ベローズ5をねじりに対して変形しにくい金属製とし、かつ、回転環26を付勢する独立したスプリングを廃して、ベローズ5自体にバネ特性を持たせて鳴きを防止する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実用新案登録第3,008,177号公報
【特許文献2】実開平2−11659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のメカニカルシールは、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、前述の図5の従来構成においては、防振設計自体が難しく、また、既に使用されているメカニカルシールに後付けとして販売して前記構造体を取付けることは困難であった。
また、図6の従来構成においては、金属ベローズであると共に、金属ベローズが外部に露出していたために、耐食用途には不適であった。
また、金属ベローズの外周面には抑え部材の構造が設けられていないため、金属ベローズの安定性を得ることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるメカニカルシールは、回転軸の外周面に環状クランプを介して固定された円筒状ベローズと、前記回転軸の外周側に位置する固定体に設けられた固定環と、よりなり、前記円筒状ベローズの摺動面が前記固定環に摺動することにより、前記回転軸の軸部分を封止するようにし、前記円筒状ベローズの外周面に設けられたリテーナと、前記回転軸の外周面にネジにより固定され前記リテーナを介して前記円筒状ベローズの外周面を保持するためのカップ型をなす制振体と、を備えたメカニカルシールにおいて、前記制振体と前記リテーナとの間には、円板状弾性体が設けられ、前記制振体の上部の孔を前記回転軸が貫通し、前記制振体の端部に形成されたネジ孔内に螺入されたとめネジの先端に前記円板状弾性体を取付け、前記円板状弾性体を前記リテーナの外周面に当接させ、前記とめネジは、前記制振体の周方向に少なくとも3ヶ所以上設けられ、使用後に、前記リテーナの径方向の振れを測定し、前記リテーナの振れを最小にできるように調整することができるようにした構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるメカニカルシールは、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、回転軸の外周面に環状クランプを介して固定された円筒状ベローズと、前記回転軸の外周側に位置する固定体に設けられた固定環と、よりなり、前記円筒状ベローズの摺動面が前記固定環に摺動することにより、前記回転軸の軸部分を封止するようにし、
前記円筒状ベローズの外周面に設けられたリテーナと、前記回転軸の外周面にネジにより固定され前記リテーナを介して前記円筒状ベローズの外周面を保持するためのカップ型をなす制振体と、を備えたメカニカルシールにおいて、前記制振体と前記リテーナとの間には、円板状弾性体が設けられ、前記制振体の上部の孔を前記回転軸が貫通し、前記制振体の端部に形成されたネジ孔内に螺入されたとめネジの先端に前記円板状弾性体を取付け、前記円板状弾性体を前記リテーナの外周面に当接させ、前記とめネジは、前記制振体の周方向に少なくとも3ヶ所以上設けられ、使用後に、前記リテーナの径方向の振れを測定し、前記リテーナの振れを最小にできるように調整することができるように構成されていることにより、制振体によって円筒状ベローズの変形による鳴き音の発生が抑えられ、かつ、真空度の低下も防止でき、密閉性が保持できる。
また、前記制振体と前記リテーナとの間には、円板状弾性体が設けられていることにより、円筒状ベローズの変形を弾性的に吸収することができる。
また、前記制振体は、全体形状が孔を有するカップ型よりなることにより、回転軸と同芯状に組合わせることができ、効果的な制振を行うことができる。
また、前記制振体は、軸方向に複数に分割された第1、第2制振体片よりなり、前記各制振体片はネジにより一体に結合されていることにより、円筒状の制振体をより安価に製作することができると共に、既存のメカニカルシールに対して後付けとして販売できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によるメカニカルシールを示す断面図である。
図2】従来のメカニカルシールを示す断面図である。
図3図2のメカニカルシールで鳴きが発生した状態を示す断面図である。
図4図2のメカニカルシールで鳴きが発生した他の状態を示す断面図である。
図5】従来のメカニカルシールを示す特許文献1の構成の断面図である。
図6】従来のメカニカルシールを示す特許文献2の構成の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、円筒状ベローズの外周を制振体によって保持することにより、回転軸の回転時における円筒状ベローズの摺動面の鳴き音の発生を抑えるようにしたメカニカルシールを提供することを目的とする。
【実施例】
【0016】
以下、図面と共に本発明によるメカニカルシールの好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を用いて説明する。
図1において符号1で示されるものは筒状の固定体2内に軸部分1aを回転自在に保持された回転軸であり、この回転軸1の外周面1bには孔20aを介して全体形状がカップ型をなす制振体20が前記回転軸1と同芯状態となるように構成されている。前記制振体20はネジ21により回転軸1に固定されていると共に、前記回転軸1は前記孔20aを貫通している。
尚、前記制振体20の材質としては、耐食性の高いステンレスが良いが、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂などの透明な材料とすると、制振体20の内部の状態が外部から良く分り、また、後述の円筒状ベローズ5が破損したような場合にも、外部への直接の流体飛散を防止することができる。
【0017】
前記回転軸1の外周面1bでかつ前記制振体20の内側位置には、ネジ4aで締結される環状クランプ4によって円筒状ベローズ5の一端5aが固定されている。
【0018】
前記固定体2の段部2a上に設けられた固定環2Aは、ボルト2cによって一対のOリング2bを介して固定体2に固定されたリング状抑え体3により固定されており、前記固定環2の一面2d上には前記円筒状ベローズ5の他端5bに形成された突起状の摺動面5cが摺動するように当接している。
【0019】
前記円筒状ベローズ5の外周面5dには、輪状をなすリテーナ6が接して設けられ、このリテーナ6の一面6aに形成された凹部6b内には、弾性部としてのスプリング7及びピン8が位置し、前記スプリング7は前記環状クランプ4と凹部6bとの間に位置してリテーナ6を固定環2A側へ付勢している。
【0020】
前記制振体20の端部20bに設けられた前述の円板状弾性体22は、前記端部20bに形成されたネジ孔40内に螺入されたとめネジ41の先端に取付けられ、この円板状弾性体22aをリテーナ6の外周面6cに当接させている。前記とめネジ41は制振体20の周方向に少なくとも3ヶ所以上設定し、使用後に、リテーナ6の径方向の振れを測定し、リテーナ6の振れを最小にできるように調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によるメカニカルシールは、一般の使用環境の他に、ドライ状態又はグラスライニング製反応缶等における使用が可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 回転軸
1a 軸部分
1b 外周面
2 固定体
2A 固定環
2a 段部
2b Oリング
2c ボルト
2d 一面
3 リング状抑え体
4 環状クランプ
4a ネジ
5 円筒状ベローズ
5a 一端
5b 他端
5c 摺動面
5d 外周面
6 リテーナ
6a 周面
6b 凹部
7 スプリング(弾性部)
8 ピン
20 制振体
20A 第1制振体片
20B 第2制振体片
20a 孔
20b 端部
20c 溝
21 ネジ
22a 円板状弾性体
25 上部
40 ネジ孔
41 とめネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6