(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671674
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】チタン制振合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/18 20060101AFI20150129BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20150129BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
C22F1/18 H
C22C14/00 Z
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 682
!C22F1/00 685
!C22F1/00 630H
!C22F1/00 631Z
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2009-210786(P2009-210786)
(22)【出願日】2009年9月11日
(65)【公開番号】特開2011-58070(P2011-58070A)
(43)【公開日】2011年3月24日
【審査請求日】2012年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100096987
【弁理士】
【氏名又は名称】金久保 勉
(72)【発明者】
【氏名】万谷 義和
【審査官】
川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−241150(JP,A)
【文献】
特開昭55−006471(JP,A)
【文献】
特開2006−274319(JP,A)
【文献】
特開昭58−213849(JP,A)
【文献】
特開2006−183100(JP,A)
【文献】
特開2005−036273(JP,A)
【文献】
特開2005−113227(JP,A)
【文献】
社団法人日本金属学会,改訂4版 金属データブック,日本,丸善株式会社,2004年 2月29日,P.201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nbを20〜25mass%含むTi合金(Nb以外の元素を含むTi合金を除く。)を焼入れ処理して斜方晶α”マルテンサイト組成とし、その後に圧下率2〜20%の冷間加工を施すことを特徴とするチタン制振合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性に優れたチタン合金に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、軽量・高強度・高耐食性等の優れた性質を有している。しかしながら、チタン合金は一般的に制振性能(損失係数)が低い代表的な金属材料として認識されている。このため、制振性に優れたチタン系合金を開発すれば、マンガン合金や鉄鋼の制振合金と比較して約40%の軽量化が可能になり、高強度・高耐食性の特徴も活かされる。
【0003】
引用文献1は、低ヤング率のチタン合金に関するものである。この引用文献1では、バナジウムを14〜20%、アルミニウムを0.2〜10%含み、残部がチタンと不可避不純物からなり、構成相に少なくともマルテンサイト相を含むチタン合金を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に示すチタン合金では双晶変形を利用したものであって、溶体化処理によりマルテンサイト相としたり、溶体化処理後のβ相を冷間塑性加工又は室温からの冷却によりマルテンサイト変態させたものである。すなわち、一般に制振合金の制振機構は、複合型、転移型、強磁性型又は双晶型に分類される。そして、内部摩擦の定量的理論はまだ確立されていないが、双晶型は粒界型とも呼ばれ、熱弾性マルテンサイト相と母相との界面などの運動に伴う内部摩擦が減衰に寄与していると考えられている。
【0006】
本願発明は、焼入れにより準安定な斜方晶α”マルテンサイト組織を形成し、さらに冷間加工することで不安定性を助長することによって振動に対する界面の運動(α”マルテンサイト相の増減、移動など)を助長して、高い制振性が得られるものと考えられる。これにより、マンガン合金や鉄鋼の制振合金と比較して遜色のない制振性を有するチタン合金により、高強度、高耐食性及び軽量の制振材料とすることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Nbを20〜25mass%含むTi合金を焼入れ処理して斜方晶α”マルテンサイト組成とし、その後に圧下率2〜20%の冷間加工を施すことを特徴としている。
【0008】
Ti合金の焼入れは、β変態点よりも高い温度から急冷する。例えばNbを20mass%含有する合金では913K(640℃)以上からの焼入れにより、斜方晶α”マルテンサイト組織を主構成相の結晶構造が得られる。
【0009】
冷間加工は圧下率2〜20%の範囲とする。圧下率2%未満では、十分な制振性が得られない。また、圧下率5%が最も高い制振性が得られ、5%を超えると徐々に制振性が低下する。このため圧下率4〜10%の範囲が特に望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、Nbを20〜25mass%含むTi合金を焼入れ処理して斜方晶α”マルテンサイト組成とし、その後に圧下率2〜20%の冷間加工を施すことにより制振性に優れたチタン合金とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1はTiに含有するNbによるX線回析図形を示す。
【
図2】
図2はTiに含有するNbによる内部摩擦の変化を示すグラフである。
【
図3】
図3はNbの含有量と圧下率による内部摩擦の変化を示すグラフである。
【
図4】
図4はNbを20mass%含有する合金の振動減衰挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0013】
試験はチタン(hcp)にニオブを表1に示す配合量の合金で行った。ニオブはβ安定型元素としてモリブデン、バナジウムなどとともに知られており、チタン含有量はMo当量に対して3.6倍のmass%になる。
【0014】
溶製した実施例1,2及び比較例1〜6のTi−Nbの二元合金を950℃から焼入れを行い、これらの合金についてX線回折を行った。その結果を
図1に示す。
図1に示すX線回析図形から、各相を決定した。
【0015】
表1に示すように、Nb含有量が5mass%(比較例1)、10mass%(比較例2)では最密六方晶αであった。15mass%(比較例3)ではα’マルテンサイト(hcp)であった。また、30mass%(比較例4)、35mass%(比較例5)では、β相が主構成相のβ+α”組織であり、40mass%(比較例6)ではβ単相組織となっている。一方、20mass%(実施例1)、25mass%(実施例2)では斜方晶α”マルテンサイト組織であった。
【0017】
制振性能の向上に適した金属組織状態を明らかにするため、Ti−Nb二元合金のニオブ量と熱処理(焼なまし及び焼入れ)による内部摩擦の変化について調べた。内部摩擦は金属材料の制振性能を示す指標である。
【0018】
図2にその結果を示す。
図2から明らかなように、焼鈍した場合には内部摩擦は低いままであった。一方、焼入れした資料では、Nb含有量が10mass%を超えると、内部摩擦が向上し、15mass%(比較例3)で最大値を示し、次いで15mass%を超えると徐々に内部摩擦が低下する。しかしながら制振合金として一般的なマンガン合金や鉄鋼が示す10
−2オーダーの内部摩擦と比較すると未だ不十分である。
【0019】
次に、冷間加工による内部摩擦係数の変化を比較例2,比較例3及び実施例1について調べた。
図3にその結果を示すように、比較例2(10mass%)では内部摩擦が低く圧下率が大きくなるに従って徐々に大きくなる。焼入れ組織状態で最も制振性能の高かった比較例3(15mass%)では比較例2に比較して大きくなるが内部摩擦の増加は余り見られない。一方、実施例1(20mass%)では、冷間加工を加えない場合には、3.7×10
−3であったが、5%までの圧下率で内部摩擦は急増し、5%を超えると徐々に低下する結果が得られた。特に圧下率が5%では、1.1×10
−2を示し、極めて高い制振性能が得られている。すなわち、焼入れによる組織と弱加工の組み合わせにより、熱処理組織のみでは実現できなかった高い内部摩擦性能が示された。
【0020】
次に実施例1の合金について、950℃焼きなまし材、950℃焼入れ材、950℃焼入れ+5%圧延材の衝撃加振に対する振動減衰の変化を調べた。試験は衝撃加振による振動により生じる音をマイクにより非接触で測定した。縦軸はマイクからのアンプを通して得た電圧値である。
図4(a)は950℃焼きなまし材は、典型的な振動減衰能の低いチタン合金の状態である。
図4(b)は950℃焼入れ材では、制振性能の改善はなされているものの、市販の制振合金にはまだ及ばないレベルである。一方、焼入れ材に弱加工を施した
図4(c)では、制振性能は大幅に改善し、既製の制振合金に匹敵する、高い振動減衰能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
制振性が必要な需要に対してチタン合金を適用できる。