特許第5671715号(P5671715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671715
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】香料の乳化分散物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20150129BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20150129BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20150129BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20150129BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   C11B9/00 Z
   C11B9/00 C
   C11B9/00 D
   C11B9/00 J
   C11B9/00 B
   A61Q13/00 100
   A61K8/06
   A61K8/34
   A61K8/36
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-115598(P2009-115598)
(22)【出願日】2009年5月12日
(65)【公開番号】特開2010-265337(P2010-265337A)
(43)【公開日】2010年11月25日
【審査請求日】2011年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084009
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】江川 直行
(72)【発明者】
【氏名】宮原 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】天谷 友彦
(72)【発明者】
【氏名】菊地 理恵
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−284816(JP,A)
【文献】 特開2004−211215(JP,A)
【文献】 特開2007−321270(JP,A)
【文献】 特開2008−063681(JP,A)
【文献】 特開2007−070269(JP,A)
【文献】 特開2001−151644(JP,A)
【文献】 特開2001−233723(JP,A)
【文献】 特開2007−031347(JP,A)
【文献】 特開平06−269656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00−15/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)常圧における融点が30℃以上である高級アルコール
(B)常圧における沸点が260℃未満であって、ClogP値が1.0以上6.0以下である香料成分を、香料組成物の全量に対して30質量%以上の量で含み、かつ、シトロネロール、リモネン、ゲラニオール、メントール、シトロネラール、シトラール及びピネンからなる群から選ばれる少なくとも1種の香料を香料組成物の全量に対して10質量%以上の量で含有する香料組成物
(C)水溶性溶剤、及び

を含有し、
A)成分が、乳化分散物の全質量を基準として、5〜30質量%の量で含まれ
C)成分が、乳化分散物の全質量を基準として、5〜30質量%の量で含まれ、及び
(B)成分が、(A)成分により(C)成分及び水に乳化分散されている、繊維製品用の香料の乳化分散物。
【請求項2】
(A)成分が、炭素数14〜24の高級アルコールである請求項記載の香料の乳化分散物。
【請求項3】
(A)と(B)成分の配合量比率が、質量比で1:3〜3:1の範囲である請求項1又は2記載の香料の乳化分散物。
【請求項4】
さらに(D)成分として乳化剤を1〜20質量%含有する請求項1〜のいずれか1項記載の香料の乳化分散物。
【請求項5】
(D)成分が、非イオン性界面活性剤である請求項記載の香料の乳化分散物。
【請求項6】
場合により(D)成分を含む、(A)成分、(B)成分および(C)成分の混合物を、(A)成分の融点以上に加温して液状とし、得られた液状混合物を、(A)成分の融点以上に予め加温した水に、撹拌下で滴下することにより得られる、請求項1〜5のいずれか1項記載の香料の乳化分散物
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の香料の乳化分散物をスプレー容器に充填してなるスプレー容器入り香料の乳化分散物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の香料の乳化分散物の製造方法であって、場合により(D)成分を含む、(A)成分、(B)成分および(C)成分の混合物を、(A)成分の融点以上に加温して液状とし、得られた液状混合物を、(A)成分の融点以上に予め加温した水に、撹拌下で滴下する工程を含む、前記製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類等の繊維製品等に適用できる香料の乳化分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
香気の放出を長続きさせる技術を一般にロングラスティング技術という。この技術は、様々な技術分野で利用されており、例えば香料を含む柔軟剤、仕上げ剤又は繊維製品用処理剤を繊維製品に適用して香料を繊維製品に付着させている。これまでに、ロングラスティング技術として、マイクロカプセルの活用(例えば、特許文献1)、香料前駆体の使用(例えば、特許文献2)、特定の香料成分の組合せ(例えば、特許文献3)などが公開されている。
しかしながら、マイクロカプセルを活用する技術は、持続効果は高いが、繊維製品等、香料を適用した対象物を擦ることでカプセルを破壊し、香りを発散させる技術であり、カプセルが破壊されなければ香りは持続しない。従って、マイクロカプセルを破壊し得る程度の力が対象物に加わらないような状況下でのロングラスティング効果は期待できない。また、擦ることによって対象物が傷むこともある。香料前駆体を使用した場合、前駆体から放出される香料成分の香りが持続するが、残香の香調が限定される。特定の香料の組合せの場合、ラストノートとよばれる成分の香りが持続するが、残香の香調が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-249326号公報
【特許文献2】特開2003-534449号公報
【特許文献3】特開2006-124884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明により、香料を適用した対象物を擦ることなく、トップノートを含むフレッシュな香りが長続きする効果を対象物に付与し得る香料の乳化分散物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の香料組成物を、常圧における融点が30℃以上である高級アルコール又は高級脂肪酸を用いて水溶性溶剤及び水に乳化分散させることにより、トップノートを含むフレッシュな香りが長続きすることを見出した。すなわち、本発明は、
(A)常圧における融点が30℃以上である高級アルコール又は高級脂肪酸、
(B)常圧における沸点が260℃未満であって、ClogP値が1.0以上6.0以下である香料成分を含有する香料組成物、
(C)水溶性溶剤、及び

を含有する香料の乳化分散物を提供する。
本発明はまた、上記乳化分散物をスプレー容器に充填してなるスプレー容器入り香料の乳化分散物を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、香料を適用した対象物を擦る等の処理を行わなくても、トップノートを含むフレッシュな香りが長続きする。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(A)常圧における融点が30℃以上である高級アルコールまたは高級脂肪酸
常圧における融点が30℃以上であることにより、本発明の香料の乳化分散物から放たれるフレッシュな香りを持続させることが可能となる。融点は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であって、好ましくは 100℃以下、より好ましくは90℃以下である。尚、融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。
本発明で使用可能な高級アルコールは、具体的には、炭素数が14以上、好ましくは18以上であって、好ましくは24以下の鎖式アルコールである。具体的には、1−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデカノール、1−イコサノール、1−ドコサノールなどが挙げられる。中でも1−オクタデカノール、1−イコサノール、1−ドコサノールが好ましい。これらを単独で使用することもできるし、二種以上を混合して使用することもできる。
本発明で使用可能な高級脂肪酸は、具体的には、炭素数12以上、好ましくは16以上であって、好ましくは22以下の鎖状モノカルボン酸である。具体的には、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸などが挙げられる。中でもオクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸が好ましい。これらを単独で使用することもできるし、二種以上を混合して使用することもできる。
高級アルコールと高級脂肪酸との混合物を使用することもできる。
(A)成分としては、高級アルコールが好ましく、1−オクタデカノール、1−ドコサノールが最も好ましい。
(A)成分は、本発明の乳化分散物中に5〜30質量%の量で含まれるのが好ましい。本発明の乳化分散物溶液のハンドリング性を向上させるためには、後述するように、本発明の乳化分散物の粘度が10〜300mPa・sであるのが好ましい。このような観点からは、(A)成分は5〜20質量%の量で含まれるのが好ましい。
なお、本明細書において、(A)成分を「油分」と称することがある。
【0008】
(B)常圧における沸点が260℃未満であって、ClogP値が1.0以上6.0以下である香料成分を含有する香料組成物
常圧における沸点が260℃未満であって、ClogP値が1.0以上6.0以下である香料成分を含有することにより、フレッシュな香りを感じさせることが可能となる。加えて消費者の嗜好性も高い。
[ClogP]
ClogP値とは、化学物質について、1−オクタノール中及び水中の平衡濃度の比を表す1−オクタノール/水分配係数Pを、底10に対する対数logPの形態で表した値である。前記ClogP値は、f値法(疎水性フラグメント定数法)により、化合物の化学構造をその構成要素に分解し、各フラグメントの有する疎水性フラグメント定数・f値を積算して求めることができる(例えば、Clog 3 Reference Manual DaylightSoftware 4.34,Albert Leo,David Weininger, Version 1,March 1994 参照)。
一般に、香料はClogP値が大きいほど疎水的であることから、ClogP値が小さい香料成分を多く含んで構成された香料は、ClogP値が大きい香料成分を多く含んで構成された香料よりも親水的な香料であるといえる。
従って、前記ClogP値が、前記好ましい範囲内であると、親水性の香料成分と疎水性の香料成分とがバランス良く組み合わされているために、より香気バランスに優れ嗜好性が高い香料となる点で有利である。
【0009】
[沸点]
香料成分の沸点は、例えば「Perfume and Flavor Chemicals 」Vol.Iand II,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)及び「合成香料 化学と商品知識」、印藤元一著、化学工業日報社(1996)及び「Perfume and Flavor Materials of Natural Origin」,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)及び「香りの百科」、日本香料協会編、朝倉書店(1989)及び「香料と調香の基礎知識」、産業図書(1995)に記載されており、本明細書ではそれらの文献から引用する。
【0010】
香料組成物に配合できる香料成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、繊維製品用仕上げ剤や柔軟剤に一般的に使用される香料成分や、人体に対する生理活性機能を持つ香料成分、蚊などの虫に対する忌避効果のある香料成分などが挙げられる。
前記香料成分の具体例としては、例えば、アルデヒド類、フェノール類、アルコール類、エーテル類、エステル類、ハイドロカーボン類、ケトン類、ラクトン類、ムスク類、テルペン骨格を有する香料、天然香料、動物性香料などが挙げられる。
前記アルデヒド類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウンデシレンアルデヒド、ラウリルアルデヒド、アルデヒドC−12MNA、ミラックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、シクラメンアルデヒド、エチルバニリン、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、オクタナール、リグストラール、リリアール、リラール、トリプラール、バニリン、ヘリオナールなどが挙げられる。
前記フェノール類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オイゲノール、イソオイゲノールなどが挙げられる。
前記アルコール類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バクダノール、ジハイドロミルセノール、ジハイドロリナロール、リナロール、ネロール、サンダロール、サンタレックス、ターピネオール、テトラハイドロリナロール、フェニルエチルアルコールなどが挙げられる。
前記エーテル類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セドランバー、グリサルバ、メチルオイゲノール、メチルイソオイゲノールなどが挙げられる。
【0011】
前記エステル類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセニルプロピオネート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、p−クレジルアセテート、p−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、アミルアセテート、メチルジヒドロジャスモネート、アミルサリシレート、ベンジルサリシレート、ベンジルベンゾエート、ベンジルアセテート、セドリルアセテート、シトロネリルアセテート、デカハイドロ−β−ナフチルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、エリカプロピオネート、エチルアセトアセテート、エリカアセテート、ゲラニルアセテート、ゲラニルフォーメート、ヘディオン、リナリルアセテート、β−フェニルエチルアセテート、ヘキシルサリシレート、スチラリルアセテート、ターピニルアセテート、ベチベリルアセテート、o−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、マンザネート、アリルヘプタノエートなどが挙げられる。
前記ハイドロカーボン類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ミルセンなどが挙げられる。
前記ケトン類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α−イオノン、β−イオノン、メチル−β−ナフチルケトン、α−ダマスコン、β−ダマスコン、δ−ダマスコン、シス−ジャスモン、メチルイオノン、アリルイオノン、カシュメラン、ジハイドロジャスモン、イソイースーパー、ベルトフィックス、イソロンジフォラノン、コアボン、ローズフェノン、ラズベリーケトン、ダイナスコンなどが挙げられる。
【0012】
前記ラクトン類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ドデカラクトン、クマリン、アンブロキサンなどが挙げられる。
前記ムスク類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シクロペンタデカノライド、エチレンブラシレート、ガラキソライド、ムスクケトン、トナリッド、ニトロムスク類などが挙げられる。
前記テルペン骨格を有する香料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゲラニオール(ゼラニオール)、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、ミント、シトロネラール、ミルセン、ピネン、リモネン、テレピネロール、カルボン、ヨノン、カンファー(樟脳)、ボルネオールなどが挙げられる。
前記天然香料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オレンジ油、レモン油、ライム油、プチグレン油、ユズ油、ネロリ油、ベルガモット油、ラベンダー油、ラバンジン油、アビエス油、アニス油、ベイ油、ボアドローズ油、イランイラン油、シトロネラ油、ゼラニウム油、ペパーミント油、ハッカ油、スペアミント油、ユーカリ油、レモングラス油、パチュリ油、ジャスミン油、ローズ油、シダー油、ベチバー油、ガルバナム油、オークモス油、パイン油、樟脳油、白檀油、芳樟油、テレピン油、クローブ油、クローブリーフ油、カシア油、ナツメッグ油、カナンガ油、タイム油などの精油が挙げられる。
前記動物性香料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、じゃ香、霊猫香、海狸香、竜涎香などが挙げられる。
【0013】
香料組成物中には香料成分とともに通常用いる溶剤を配合してもよい。香料用溶剤としては、アセチン(トリアセチン)、MMBアセテート(3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート)、スクロースジアセテートヘキサイソブチレート、エチレングリコールジブチレート、ヘキシレングリコール、ジブチルセバケート、デルチールエキストラ(イソプロピルミリステート)、メチルカルビトール(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)、カルビトール(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、TEG(トリエチレングリコール)、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、フタル酸ジエチル、トリプロピレングリコール、アボリン(ジメチルフタレート)、デルチルプライム(イソプロピルパルミテート)、ジプロピレングリコール、ファルネセン、ジオクチルアジペート、トリブチリン(グリセリルトリブタノエート)、ヒドロライト−5(1,2−ペンタンジオール)、プロピレングリコールジアセテート、セチルアセテート(ヘキサデシルアセテート)、エチルアビエテート、アバリン(メチルアビエテート)、シトロフレックスA−2(アセチルトリエチルシトレート)、シトロフレックスA−4(トリブチルアセチルシトレート)、シトロフレックスNo.2(トリエチルシトレート)、シトロフレックスNo.4(トリブチルシトレート)、ドゥラフィックス(メチルジヒドロアビエテート)、MITD(イソトリデシルミリステート)、ポリリモネン(リモネンポリマー)、1,3−ブチレングリコール等が挙げられる。
これら溶剤は、香料組成物中に好ましくは0〜30質量%、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%配合される。
【0014】
本発明で用いる香料組成物としては、常圧での沸点が260℃未満であって、ClogP値が1.0以上6.0以下である香料成分を、香料組成物の全量を基準として30質量%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上含む香料組成物であるのが望ましい。これにより、さらにフレッシュな香りになる。
本発明で用いる香料組成物としては、常圧での沸点が260℃未満であって、ClogP値が1.0以上6.0以下である香料成分が、シトロネロール、リモネン、ゲラニオール、メントール、シトロネラール、シトラール及びピネンからなる群から選ばれる少なくとも1種の香料成分(これらを「特定香料成分」と称する)を含有することが好ましい。更に特に、これら特定香料成分の香料組成物中での量が10質量%以上、より好ましくは30%以上であるのが好ましい。これにより、さらに特にフレッシュな香りになる。
なお、本発明で用いる香料組成物には、本発明の効果を妨げない限り、必要に応じて酸化防止剤、防腐剤等の添加剤を通常の使用量の範囲内で配合することも可能である。
【0015】
(B)成分は、本発明の乳化分散物中に香料成分として5〜30質量%の量で含まれるのが好ましい。香り強度を適度なものにし、フレッシュな香りを長続きさせる観点から、10〜20%がより好ましい。
(A)と(B)成分の配合量比率は、質量比で1:3〜3:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、1:2〜2:1であり、更に好ましくは1:1〜1:1.5である。配合比率がこの範囲にあると、本発明の香料の乳化分散物を噴霧等により適用した処理布等の対象物の香り強度を適度なものにし、トップノートを含むフレッシュな香りを長続きさせることができる。なお、ここでの(B)成分の割合は、香料組成物中に含まれる香料成分としての量に基づく。
【0016】
(C)成分:水溶性溶剤
本特許で使用できる水溶性溶剤としては、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数2〜3の1級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの炭素数2〜6のグリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの炭素数3〜8の多価アルコールが挙げられる。香気や価格の点からエタノール、グリセリンが好ましい。
本発明の香料の乳化分散物における水溶性溶剤の配合量は好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。この範囲にあると、残香性が良好な乳化分散物が調製できる。
【0017】
本発明の香料の乳化分散物は、上記(A)〜(C)成分と水とから構成されるが、本発明の効果を損なわない限り、乳化剤や、防腐剤、染料、酸化防止剤、消泡剤、pH調整剤等を含むことができる。
【0018】
(D)成分:乳化剤
本発明の乳化分散物に乳化剤を含ませることにより香り強度が強くなるので好ましい。本発明において使用できる乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性の界面活性剤が挙げられる。乳化性能に優れ、安価であることから非イオン界面活性剤が好ましい。
本発明において使用できる非イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜22のアルキル基又はアルケニル基を有し、オキシエチレン基の平均付加モル数が10〜100モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルキル(C1〜3)エステルや、オキシエチレン基の平均付加モル数が10〜100モルであるポリオキシエチレンアルキルアミン、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するアルキルポリグルコシド、オキシエチレン基の平均付加モル数が10〜100モルである硬化ヒマシ油、などが挙げられる。中でも、炭素数10〜14のアルキル基を有し、オキシエチレン基の平均付加モル数が30〜70モルのポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
アニオン性の界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するアルキル硫酸エステル塩、オキシエチレン基の平均付加モル数が1〜20モルであるポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩や、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩などが挙げられる。
カチオン性の界面活性剤としては、エステル基またはアミド基で分断されていてもよい炭素数8〜12のアルキル基またはアルケニル基を2つ有する2鎖型のカチオン界面活性剤、エステル基またはアミド基で分断されていてもよい炭素数10〜20のアルキル基またはアルケニル基を1つ有する1鎖型のカチオン界面活性剤、オキシエチレン基の平均付加モル数が5〜100モルであるポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、分子中にエステル基またはアミド基で分断されていてもよい炭素数14〜20のアルキル基またはアルケニル基を2つ有する2鎖型のカチオン界面活性剤等が挙げられる。中でも、N,N−ジステアロイルオキシエチル−N−メチル,N−ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート、N,N−ジオレオイルオキシエチル−N−メチル,N―ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド及びこれらの混合物が特に好ましい。
乳化剤は、本発明の乳化分散物中に0〜30質量%の量で含まれるのが好ましく、1〜30質量%の量で含まれるのがより好ましい。このような量で含まれることにより、本発明の乳化分散物から放たれる香りの強度がより強くなる。
【0019】
本発明の香料の乳化分散物は、(A)油分、(B)香料組成物及び(C)水溶性溶剤の混合物を、油分の融点以上に加温して液状とする。この混合物を、油分の融点以上に予め加温した水に、撹拌下で滴下することにより調製することができる。もちろん、(A)油分と(B)香料組成物とを混合した後に、油分の融点以上に加温してもかまわない。
【0020】
本発明の香料の乳化分散物の25℃における粘度は、10〜300mPa・sであるのが好ましく、10〜200mPa・sであるのがより好ましい。このような範囲にあると、ハンドリング性がより向上するので好ましい。尚、本発明の香料の乳化分散物の粘度は、B型粘度計(TOKIMEC社製)を用いて測定することができる。
香料の乳化分散物の平均粒子径は100μm〜0.1μmであることが好ましく、さらに好ましくは50μm〜0.1μmである。この範囲にあると、黒色など濃色の対象物に本発明の乳化分散物を噴霧した場合にも、粒子が目立たないために好ましい。粒子径は、一般的な粒度分布計(例えば大塚電子株式会社 粒径アナライザー FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0021】
本発明の乳化分散物は、衣類等の繊維製品や、毛髪等の対象物に適用することにより、残香の香調をトップノートと同様のフレッシュな香りとし、その香りを持続させた物品とすることができる。対象物へは、本発明の乳化分散物を噴霧ないし浸漬することにより適用することができる。本発明の乳化分散物を、噴射剤の存在下又は不存在下でスプレー容器又はトリガー容器に充填してスプレー物品とすることができる。噴射剤としては、炭酸ガス、窒素ガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル等を用いることができる。香料成分の濃度が0.05〜5質量%程度となるよう、水やエタノールなどの水溶性溶剤や噴射剤などで希釈してこれら容器に充填する。
【実施例1】
【0022】
実施例及び比較例の香料の乳化分散物を製造するのに用いた成分を以下に示す。
A成分:
A−1:1−テトラデカノール(常圧における融点37.9℃)
A−2:オクタデカン酸(常圧における融点69.6℃)
A−3:1−オクタデカノール(常圧における融点58℃)
A−4:1−ドコサノール(常圧における融点70.6℃)
A−5:1−ドデカノール(常圧における融点24℃)
なお、上記A−1〜A−5の融点は、油化学辞典-脂質・界面活性剤-(丸善)から引用した。
B成分:
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
C成分:水溶性溶剤
C−1:エタノール(95%合成エタノール(日本合成アルコール(株))
C−2:グリセリン(関東化学)
【0028】
D成分:乳化剤
D−1:ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(30E.O.)(EMALEX BHA-30:日本エマルジョン(株))
D−2:イソトリデシルエーテルEO60モル付加物(ルテンゾールTO3(BASF社製)にエチレンオキサイドをライオン(株)にて57モル付加したもの)
D−3:N,N−ジオレオイルオキシエチル−N−メチル,N−ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェートとN,N−ジステアロイルオキシエチル−N−メチル,N−ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェートとを含む混合物(特開2003−12471の実施例4の化合物)
【0029】
〔香料の乳化分散物の調製〕
上記(A)成分の高級アルコールまたは高級脂肪酸と、(B)成分の香料組成物と、(C)成分の水溶性溶剤と、さらに場合により(D)成分の乳化剤とを、表5に示した組成となるように所定量混合し、60℃に加温して混合溶液を調製した。これを60℃のイオン交換水に添加し、乳化分散させた。このとき、ジェットアジター((株)島崎製作所製、タイプSJ)を用いて、回転数1000rpmの条件で5分間攪拌した。この乳化物をそのまま放置し、ゆっくりと常温まで冷却して、香料の乳化分散物を調製した。
【0030】
〔ロングラスティングの評価〕
上記繊維製品用香料の乳化分散物を、香料の配合量が0.1質量%となるように常温のイオン交換水を加えて希釈した。この希釈液をトリガー容器に充填し布に噴霧した。トリガー容器は、市販の衣類手入れ剤(商品名「スタイルガード スーツ用」、ライオン(株)製)の容器の中身を取り出し、よく洗浄し、しっかりと水分を乾かしたものを用いた。
評価布としては、市販のタオル(綿100%)を、洗濯することなくそのまま用いた。
このタオルを物干しにかけ、その表面に実施例及び比較例の香料の乳化分散物を均一になるよう10%o.w.f(=香料の乳化分散物の重量(g)/布の重量(g)×100)の量を噴霧した。
その後、タオルを20℃、40%RH下で一晩乾燥させた。一晩乾燥後及び1週間後にタオルに残っている香りの強度と質を、20〜30代の女性10人により下記の基準に従って評価した。結果を表5に併記する。
【0031】
<香りの強度>
3点:強い
2点:楽に感知できる程度
1点:弱い
<香りの質>
3点:フレッシュな香りを感じる
2点:ややフレッシュな香りを感じる
1点:フレッシュさを感じない
【0032】
【表5】
【0033】
実施例10
実施例8のD−2成分、10質量%の代わりに、D−3成分を30質量%配合した香料乳化分散物を上記の方法により調製した。二槽式洗濯機に30Lの水道水を入れ、そこに実施例10の香料乳化物を1g加え攪拌した。その中に市販の綿タオルを1.5kg入れ(浴比20倍)、3分間攪拌した。その後タオルを取り出し、二槽式洗濯機の脱水槽に入れて2分間脱水した。このタオルを上記方法により乾燥、残香性の評価を行った結果、乾燥1週間後でも良好な香り強度と香りの質を保っていた。