(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671738
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】臀部の水分自動ふき取り装置
(51)【国際特許分類】
A47K 7/08 20060101AFI20150129BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
A47K7/08
E03D9/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-95062(P2013-95062)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-207949(P2014-207949A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2014年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-238350(P2012-238350)
(32)【優先日】2012年10月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-63379(P2013-63379)
(32)【優先日】2013年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年9月26日に東京ビックサイト東展示ホールで開催された第39回国際福祉機器展H.C.R.2012において発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512249803
【氏名又は名称】吉村 學
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】吉村 學
【審査官】
西村 直史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−143233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/08
E03D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分拭き取り材を保持可能なヘッドと、
前記ヘッドが設けられたアームと、
前記アームを略水平方向を向いた軸線回りに回転させるアーム回転駆動部と、
便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で前記ヘッドを移動させるように、前記アームを変位させるアーム変位駆動部と、
を備える臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記ヘッドは、前記軸線に対して片側に偏心した位置に設けられており、
前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、前記軸線の先端側を上下動させる手段を有さず、
前記アーム回転駆動部は、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを、略水平方向を向いた前記軸線回りに回転させる、ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記アーム回転駆動部は、上から視て前記ヘッドが便座を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持する、ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項3】
水分拭き取り材を保持可能なヘッドと、
前記ヘッドが設けられたアームと、
前記アームを軸線回りに回転させるアーム回転駆動部と、
便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で前記ヘッドを移動させるように、前記アームを変位させるアーム変位駆動部と、
を備える臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記ヘッドは、前記軸線に対して片側に偏心した位置に設けられており、
前記アーム回転駆動部は、上から視て前記ヘッドが便座を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持し、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを前記軸線回りに回転させる、ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記アーム回転駆動部により前記アームが軸線回りに回転されて前記ヘッドが起き上がった状態で、前記アームを前後方向に移動させるアーム前後移動駆動部を備えることを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記アームは、前記軸線上に設けられた第1アーム部と、前記第1アーム部の一部から、前記軸線に交差する方向に延びた第2アーム部と、を有しており、
前記ヘッドは、前記第2アーム部に設けられている、ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記ヘッドは、前記軸線方向から視て、前記偏心方向に長手方向を成す扁平な形状をしたものである、ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記便座には、その内側面から外側面に亘って、前記ヘッドおよびアームを通過させるための空洞が設けられており、
前記アーム変位駆動部は、前記ヘッドを前記空洞を通過させることにより、前記ヘッドを便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で移動させるものであり、
前記アーム回転駆動部は、前記ヘッドが前記空洞を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持し、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを前記軸線回りに回転させるものである、
ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【請求項8】
請求項2又は3に記載の臀部の水分自動ふき取り装置において、
前記アーム変位駆動部は、前記ヘッドを便座と便器の隙間を通過させることにより、前記ヘッドを便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で移動させるものであり、
前記アーム回転駆動部は、前記ヘッドが便座と便器の隙間を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持し、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを前記軸線回りに回転させるものである、
ことを特徴とする臀部の水分自動ふき取り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臀部に付着した水滴等の水分をトイレットペーパ等で自動的にふき取るための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より知られているように、温水洗浄式のトイレには、温水洗浄で臀部に付着した水滴を乾燥させる温風乾燥機能を備えたものがある。しかしながら、温風によって臀部に付着した水滴を乾燥させるには、多くの時間を要し、また、水滴を拭き取った感触が得られないことから不快感が残るといわれている。これらの理由から、温風乾燥機能を有する温水洗浄式のトイレは、あまり普及していない。
【0003】
温水で臀部を洗浄した後、臀部に付着した水滴を自分の手でトイレットペーパを使って拭き取るには、腰を上げて、臀部を便座から浮かせる必要がある。そのため、腰に障害を持つ人、手脚の不自由な人などは、自分で水滴を拭き取ることが困難である。
【0004】
このような不便を解消するための装置として、特許文献1、2には、臀部に付着した水滴をトイレットペーパで自動的にふき取る装置が提案されている。特許文献1、2に開示された装置では、温水で臀部を洗浄した後、自動的にアームが作動し、当該アームの先端部に保持されたトイレットペーパによって臀部の水滴が拭き取られるようになっている。このアームの先端側は、便器の外から、便器と便座の間を通過して臀部近傍へ移動し、当該アームの基端部を中心に先端側を上下動させることで臀部に付着した水滴をトイレットペーパにて拭き取るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−172486号公報
【特許文献2】特開2009−61126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1、2に開示された装置のアームは、便器と便座の隙間に挿通された状態で、先端側が上下動するため、上下動するアームが便座および便器に干渉しないよう、便座と便器の隙間を大きく確保(約11cm以上確保)することが必要となる。そして、便座と便器の隙間を大きく確保するために、便座を昇降機によって持ち上げることが必要となる。
【0007】
しかしながら、使用者が便座に着座した状態で、便座を昇降機により持ち上げて便座と便器の隙間を大きくすると、便座の座面が高くなり、使用者は、足が床から浮いて不安定な体勢を強いられることがある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、アームの先端側を上下動させることなく、臀部に付着した水分を拭き取ることが可能な臀部の水分自動ふき取り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の臀部の水分自動ふき取り装置は、水分拭き取り材を保持可能なヘッドと、前記ヘッドが設けられたアームと、前記アームを
略水平方向を向いた軸線回りに回転させるアーム回転駆動部と、便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で前記ヘッドを移動させるように、前記アームを変位させるアーム変位駆動部と、を備えるものを前提としている。そして、前記ヘッドは、前記軸線に対して片側に偏心した位置に設けられており、
前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、前記軸線の先端側を上下動させる手段を有さず、前記アーム回転駆動部は
、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを
、略水平方向を向いた前記軸線回りに回転させる、ことを特徴としている。
好ましくは、前記アーム回転駆動部は、上から視て前記ヘッドが便座を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持する、ものとする。
その他の本発明の臀部の水分自動ふき取り装置は、水分拭き取り材を保持可能なヘッドと、前記ヘッドが設けられたアームと、前記アームを軸線回りに回転させるアーム回転駆動部と、便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で前記ヘッドを移動させるように、前記アームを変位させるアーム変位駆動部と、を備えるものを前提としており、前記ヘッドは、前記軸線に対して片側に偏心した位置に設けられており、前記アーム回転駆動部は、上から視て前記ヘッドが便座を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持し、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを前記軸線回りに回転させる、ことを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える臀部の水分自動ふき取り装置によれば、水分拭き取り材を保持したヘッドが、偏心方向を略水平にした状態で便座(例えば、便座の中の空洞、便座と便器の隙間など)を通過し、使用者の臀部近傍に配されているときに、軸線回りに回転して起き上がるようになっているため、アームの先端側を上下動させることなく、ヘッドに保持された
水分拭き取り材で臀部に付着した水分を拭くことができる。
【0011】
好ましくは、既述の構成を備える臀部の水分自動ふき取り装置において、前記アーム回転駆動部により前記アームが軸線回りに回転されて前記ヘッドが起き上がった状態で、前記アームを前後方向に移動させるアーム前後移動駆動部をさらに備えるとよい。
【0012】
かかる構成を備える臀部の水分自動ふき取り装置によれば、ヘッドが起き上がった状態で前後方向に移動するので、確実に、ヘッドに保持された
水分拭き取り材で臀部に付着した水分を拭くことができる。
【0013】
好ましくは、前記アームは、前記軸線上に設けられた第1アーム部と、前記第1アーム部の一部から、前記軸線に交差する方向に延びた第2アーム部と、を有しており、
前記ヘッドは、前記第2アーム部に設けられている、とよい。
【0014】
かかる構成を備える臀部の水分自動ふき取り装置によれば、ヘッドの大きさを大きくすることなく、ヘッドの起き上がり量を大きくすることができる。
【0015】
好ましくは、前記ヘッドは、前記軸線方向から視て、前記偏心方向に長手方向を成す扁平な形状をしたものである、とよい。
【0016】
かかる構成を備える臀部の水分自動ふき取り装置によれば、ヘッドの通過に必要な隙間(例えば本発明の実施形態における便座内の空洞)の縦寸法を大きくすることなく、ヘッドの面積を大きくすることができる。
【0017】
好ましくは、前記便座には、その内側面から外側面に亘って、前記ヘッドおよびアームを通過させるための空洞が設けられて
おり、前記アーム変位駆動部は、前記ヘッドを前記空洞を通過させることにより、前記ヘッドを便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で移動させるものであり、前記アーム回転駆動部は、前記ヘッドが前記空洞を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持し、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを前記軸線回りに回転させるものである、とよい。
かかる構成を備える臀部の水分自動ふき取り装置によれば、水分拭き取り材を保持したヘッドが便座に形成された空洞を通過するので、水分拭き取り材に汚れが付着しにくくなる。つまり、従来例に係る装置のように、水分拭き取り材を保持したヘッドが便座と便器との隙間を通過すると、便座の下面や便器の上面に付着した汚れが水分拭き取り材に付着するおそれがあるが、本発明によればそのようなことが起こりにくくなる。
【0018】
例えば、前記アーム変位駆動部は、前記ヘッドを便座と便器の隙間を通過させることにより、前記ヘッドを便座に着座した使用者の臀部近傍と便座の外側との間で移動させるものであり、前記アーム回転駆動部は、前記ヘッドが便座と便器の隙間を通過するときに、前記軸線に対する前記ヘッドの偏心方向が略水平になるように、前記アームの回転位置を保持し、前記ヘッドが使用者の臀部近傍に配されているときに、当該ヘッドが起き上がるように、前記アームを前記軸線回りに回転させるもの、であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アームの先端側を上下動させることなく、ヘッドに保持された
水分拭き取り材で臀部に付着した水分を拭くことができ、便座と便器との間に大きな隙間を確保する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】臀部の水分自動ふき取り装置を示す図である。
【
図2】ヘッドおよびアームを示す図である。ヘッドの固定部は透かして図示している。
【
図4】臀部の水分自動ふき取り装置の装置ケーシング内を示す図である。
【
図5】ガイド板がヘッドの分割面に差し込まれた様子を示す図である。なお、トイレットペーパは輪郭のみを記載している。
【
図6】臀部の水分自動ふき取り装置の制御系を示すブロック図である。
【
図7】臀部の水分自動ふき取り装置の処理動作を示すフローチャートである。
【
図8】臀部の水分自動ふき取り装置を示す平面図であって、ヘッドが便座に設けられた空洞内を移動する状態を示す図である。但し、空洞の上方の部材は図示を省略している。
【
図9】臀部の水分自動ふき取り装置を示す平面図であって、ヘッドがふき取り動作で移動する状態を示す図である。但し、空洞の上方の部材は図示を省略している。
【
図10】他の実施形態に係るヘッドおよびアームを示す図である。
【
図11】他の実施形態に係る臀部の水分自動ふき取り装置を斜め下方から視た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る臀部の水分自動ふき取り装置について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る臀部の水分自動ふき取り装置1は、便座2、ヘッド3、アーム4、アーム駆動部5、紙取付部6等で構成されている。
【0022】
便座2は、図示しない便器上に設置され、その上に使用者が着座するためのものであるが、この便座2には、その内側面2aから外側面2bに亘って、ヘッド3およびアーム4を通過させるための空洞7が設けられている。この空洞7は、後述する装置ケーシング15内に通じている。
【0023】
ヘッド3は、トイレットペーパを掴むことができるもの(紙つかみヘッド)であり、ヘッド3が掴んだトイレットペーパにて使用者の臀部に付着した水滴等の水分が拭き取られる。このヘッド3は、
図2に示すように、アーム4の先端部に設けられ、かつ、アーム4の回転軸線となる軸線Nに対して片側に偏心した位置に設けられている。また、ヘッド3は、
図3(a)に示すように、軸線N方向から視て、上記偏心方向に長手方向を成す扁平な形状をしている。さらに、ヘッド3は、上記長手方向を水平方向に向けた状態で上から視て略円形(
図2参照)の外形を有する。このヘッド3の大きさは、その上面3a(上記長手方向を水平方向に向けた状態で上から視える面)がトイレットペーパにて完全に覆われる程度の大きさであることが望ましい。トイレットペーパの紙幅は、一般的に114mmであるため、縦横サイズが114mm×114mmに折り畳まれたトイレットペーパにすっぽり収まる程度の大きさであることが望ましい。さもなければ、拭き取り時に、ヘッド3の一部がトイレットペーパからはみ出し、直接臀部に接触して、衛生上好ましくないからである。
【0024】
ヘッド3は、
図2に示すように、トイレットペーパを掴むために、その略中央を通る分割面9b,10bを境界として、アーム4側に固定された固定部9と、この固定部9に対して接近離反可能に設けられた咬合部10とに分かれている。咬合部10の分割面10bには、被ガイド部10aが突設されており、この被ガイド部10aが固定部9に形成されたガイド孔9aにスライド自在に嵌入している。これにより、咬合部10は、固定部9に対して接近離反可能に支持されている。また、咬合部10の被ガイド部10aは、後述する第1サーボモータ25により押し引きされる操作ワイヤ12の一端に接続されている。この操作ワイヤ12は、アーム4内に挿通されている。また、固定部9と咬合部10とを互いに離反させるように付勢するコイルスプリング13も設けられている。これらの構成により、第1サーボモータ25の駆動により、操作ワイヤ12の先端側がアーム4側に引き込まれると、咬合部10は、固定部9側に移動し、分割面9b,10b同士が近接してトイレットペーパを掴む状態を形成する。一方、第1サーボモータ25の駆動により操作ワイヤ12の先端側がアーム4側から押し出されると、咬合部10は、コイルスプリング13の付勢力により、固定部9から離反して、トイレットペーパを解放する状態を形成する。なお、固定部9と咬合部10との各分割面9b,10bには、掴んだトイレットペーパの脱落防止を図る突起9c,10cが形成されている。
【0025】
アーム4は、その先端部に設けられたヘッド3を所望の位置へ配置するために、後述するアーム駆動部5によって、種々の動作を行う。本実施形態では、アーム4は、軸線N上に設けられた第1アーム部4aと、第1アーム部4aの先端部から、軸線Nに直交(交差)する方向に延びた第2アーム部4bと、を有している。そして、第2アーム部4bの先端部に前記ヘッド3が設けられている。
【0026】
アーム駆動部5は、後述するアーム回転駆動部21、アーム回動駆動部(アーム変位駆動部)22、アーム前後移動駆動部23等で構成されている。このアーム駆動部5は、便座2の片側(本実施形態では、便座2の左側)に設けられた装置ケーシング15内に収容されている。
【0027】
アーム回転駆動部21は、アーム4を軸線N回りに回転させるものである。このアーム回転駆動部21は、第2サーボモータ26、制御部24(
図6参照)等で構成される。
図4に示す例では、第2サーボモータ26は、第2サーボモータ支持部27に回転自在に支持されており、この支持部27に出力軸が固定されている。これにより、第2サーボモータ26がその出力軸を回転させると、第2サーボモータ26の本体部26a(出力軸に対して相対回転する部分)が前記出力軸回りに回転する。第2サーボモータ26の本体部26aには、アーム4の基端部を回転一体に支持するアーム支持部29が固定されている。よって、第2サーボモータ26が正逆方向に回転駆動すると、アーム4は、第2サーボモータ26の本体部26aおよびアーム支持部29とともに軸線N回りに正逆方向に回転する。なお、上記第2サーボモータ支持部27は、第1サーボモータ25の本体部25aを支持する第1サーボモータ支持部30に固定されている。
【0028】
アーム回動駆動部(アーム変位駆動部)22は、ヘッド3、アーム4等を鉛直方向の軸線M(以下、「鉛直軸線M」ともいう。)を中心に回動させるものである。このアーム回動駆動部22は、第3サーボモータ28、制御部24等で構成される。
図4に示す例では、第3サーボモータ28は、その本体部28aが前後方向に移動するリニアスライダ35に固定されており、その出力軸に固設されたレバー36が第1サーボモータ支持部30に固定されている。これにより、この第3サーボモータ28のレバー36が鉛直軸線M回りに正逆方向に回動すると、第1サーボモータ25、第2サーボモータ26、アーム4、ヘッド3等も鉛直軸線M回りに正逆方向に回動する。
【0029】
アーム前後移動駆動部23は、便座2の片側(本実施形態では左側)において、便座の前後方向に平行に延在する一対の軌道37と、この軌道37に沿ってスライドするリニアスライダ35と、リニアスライダ35を前後方向に移動させるリニア駆動装置34(
図8参照)とを備えている。リニア駆動装置34は、例えば、リニア駆動用モータ38と、モータ38の出力軸に減速機を介して連結された駆動プーリ(不図示)と、軌道37の前端近傍に配置された従動プーリ(不図示)と、上記駆動プーリおよび従動プーリに巻き掛けられた無端ベルト39と、を備えており、無端ベルト39の上面に上記リニアスライダ35が固定されている。これにより、リニア駆動装置34のモータ38が正逆方向に回転することで、リニアスライダ35が前後方向に移動し、このリニアスライダ35に搭載されている第1〜第3サーボモータ25,26,28、アーム4、ヘッド3等も一緒に前後方向に移動する。
【0030】
上記制御部24は、第1〜第3サーボモータ25,26,28の回転方向、回転角度、回転トルク等を制御しつつアーム3に所定の動作をさせるようにプログラミングされたマイクロコンピュータ等で構成されており、
図6に示すように、動作開始命令発生部40、第1〜第3リミットスイッチ41〜43等の入力信号に基づき、第1〜第3サーボモータ25,26,28およびリニア駆動用モータ38を駆動制御する。
【0031】
紙取付部6は、
図4に示すように、ヘッド3を載置する水平に配置されたヘッド用台31と、このヘッド用台31の上方を開閉する開閉蓋32と、開閉蓋32の下面に垂直に設けられたガイド板33とを備えている。開閉蓋32は、その後端部が装置ケーシング15に回動自在に軸支されており、その前部を起立させることで、開状態となり、その前部を倒伏させることで、閉状態となる。この開閉蓋32には、開状態および閉状態を検出する図示しない開閉センサが設けられており、その出力信号が制御部24に入力される。なお、開閉センサの出力信号は、装置1のふき取り動作の開始命令として制御部24に入力される。つまり、本実施形態では、上記開閉センサは、
図6において動作開始命令発生部40に該当する。
【0032】
つぎに、臀部の水分自動ふき取り装置1の動作について
図7のフローチャートに基づいて説明する。なお、拭き取り動作開始前の初期状態として、アーム4は装置ケーシング15内で前後方向を向いて格納されており、ヘッド3は、紙つかみ機能を解放状態としてヘッド用台31上に載っており、開閉蓋32は、閉状態にあるものとする。
【0033】
制御部24は、動作開始命令発生部40から動作開始命令の入力があると(ST1:YES)、ステップST2以降の拭き取り動作の開始を実行する。本実施形態においては、動作開始命令は、開閉蓋32の開閉動作である。すなわち、使用者が開閉蓋32を開けて、ヘッド3の上に折り畳んだトイレットペーパを載せて開閉蓋32を閉じると、その開閉動作の信号が動作開始命令発生部40としての開閉センサから制御部24へ動作開始命令として入力される。なお、開閉蓋32を閉じると、
図5に示すように、開閉蓋32の裏面に設けられたガイド板33によって、ヘッド3に載置されたトイレットペーパの一部が固定部9および咬合部10の分割面9b,10b内に押し込まれる。
【0034】
その後、制御部24は、第1サーボモータ25を所定量回転させて、操作ワイヤ12の先端側をアーム4側に引き込み、ヘッド3の固定部9および咬合部10の分割面9b,10b同士を近接させて、それらの間にガイド板33によって押し込まれたトイレットペーパを掴む(ST2)。
【0035】
次に、制御部24は、リニア駆動用モータ38を回転させて、リニアスライダ35およびその上に搭載されている、ヘッド3等を、最後位置まで後退させる(ST3)。この動作により、ヘッド3は、
図8で実線で示される位置より、同図の2点鎖線で示される位置に後退する。なお、上記最後位置は、装置ケーシング15内に設置された第1リミットスイッチ41(
図8では図示せず。)により検出される。
【0036】
次に、制御部24は、第3サーボモータ28を所定量回転させることにより、ヘッド3およびアーム4を鉛直軸線M回りに
図8の矢印Pに示す方向に約90°回動させる。この動作により、ヘッド3およびアーム4の先端側は、便座2内に設けられた空洞7を通過して、ヘッド3が便座2に着座した使用者の臀部下へ移動する(ST4)。上から視てヘッド3が便座を通過するとき(空洞7を通過するとき)、当該ヘッド3は、軸線Nに対する当該ヘッド3の偏心方向が略水平になるように、制御部24は、第2サーボモータ25の回転位置を保持する。これにより、上記空洞7の縦寸法を最小限にすることができる。
【0037】
次に、制御部24は、リニア駆動用モータ38を回転させて、リニアスライダ35およびその上に搭載されている、ヘッド3、アーム4等を前方へ所定量移動させ、
図9の実線にて示すように、ヘッド3を拭き取り動作開始位置へ移動する(ST5)。なお、上記拭き取り動作開始位置は、装置ケーシング15内に設置された第2リミットスイッチ42(
図9では図示せず。)により検出される。
【0038】
次に、制御部24は、第2サーボモータ26を所定量回転させることにより、アーム4を軸線N回りに所定角度回転させてヘッド3を起き上がらせる(ST6)。この動作により、ヘッド3は、
図3(a)に示すように偏心方向を略水平にした状態から
図3(b)に示すように偏心方向を略水平方向に対して前記所定角度傾斜させた状態へ変化して、ヘッド3(特にヘッド3の遠心側)が使用者の臀部に当たる程度に高い位置に配置される。なお、アーム4およびヘッド3を軸線N回りに回転させる上記所定角度は、0°〜90°の範囲内の所定角度であるが、その所定角度は、好ましくは、40°〜60°程度、更に好ましくは50°程度である。
【0039】
次に、制御部24は、リニア駆動用モータ38を回転させて、リニアスライダ35およびその上に搭載されている、ヘッド3等を後方(最後位置)へ移動させながら(つまり、ヘッド3の軸線Nに対する偏心方向が進行方向に対して鈍角を成す状態で移動させながら)、起き上がったヘッド3に保持されたトイレットペーパ8にて、臀部に付着した水分を拭き取る(ST7)。この動作により、ヘッド3およびアーム4は、
図9の実線で示す位置から同図の2点鎖線で示す位置に移動する。ところで、ヘッド3が後方へ移動している間、第2サーボモータ26は、所定の目標回転位置を維持するように制御され、臀部にヘッド3が当たってアーム4がその反力によって反対方向に軸線N回りに回転すると、第2サーボモータ26は、予め設定されたトルクにて目標回転位置に復帰させようとする回転動作を行う。このため、当該トルクの大きさやヘッドの起き上がり量(目標回転位置)の設定値を変えることで、臀部への当たり強さを調整することが可能である。
【0040】
次に、制御部24は、第1サーボモータ25を所定量回転させて、操作ワイヤ12の先端側をアーム4から押し出す。これにより、ヘッド3の咬合部10が固定部9から離反して、掴んでいたトイレットペーパが解放される(ST8)。そして、制御部24は、第2サーボモータ26を所定量回転(好ましくは高速で所定量回転)させることで、アーム4およびヘッド3を軸線N回りに回転させ、ヘッド3の上面3aを下方に向ける。これにより、ヘッド3に載っているトイレットペーパが便器内に落下する(ST9)。
【0041】
次に、制御部24は、第3サーボモータ28を所定量回転させることにより、ヘッド3およびアーム4を鉛直軸線M回りに回動させて、ヘッド3およびアーム4を装置ケーシング15内に格納する(ST10)。最後に、制御部24は、リニア駆動用モータ38を回転させて、リニアスライダ35およびその上に搭載されている、ヘッド3、アーム4等を前方の初期位置(
図8の実線で示す位置)まで移動させ、一連の動作を終了する。
【0042】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施の形態に係る臀部の水分自動ふき取り装置1によれば、トイレットペーパを掴んだヘッド3が、偏心方向を略水平にした状態で便座2の空洞7を通過し、使用者の臀部近傍に配されると、軸線N回りに所定量回転して起き上がるようになっている。つまり、従来例に係る装置のように、アームの先端側を上下動させることなく、ヘッド3が掴んだトイレットペーパで臀部に付着した水分を拭くことができるようになっている。したがって、従来例に係る装置のように、便座と便器の間に大きな隙間を設ける必要がなくなる。また、ヘッド3が、偏心方向を略水平にした状態で便座2の空洞7を通過するので、空洞7の縦寸法を最小限にすることができるため、装置1の便座2の座面高さを、一般の便座と比較して、さほど高くしなくても済む。
【0043】
また、本発明の実施の形態に係る臀部の水分自動ふき取り装置1によれば、アーム4が、軸線N上に設けられた第1アーム部4aと、第1アーム部4aの先端部から、軸線Nに直交する方向に延びた第2アーム部4bと、を有するものであって、ヘッド3が、第2アーム部4bの先端部に設けられていることから、ヘッド3の大きさを大きくすることなく、ヘッド3の起き上がり量を大きくすることができる。
【0044】
<他の実施形態>
前記アーム4のうち、第2アーム部4bを省略した、
図10に示すような、軸線N上に設けられた第1アーム部のみからなるアーム4Aの先端部に直接ヘッド3を設けてもよい。但し、この場合、アーム4Aを軸線N回りに回転させた際におけるヘッド3の起き上がる量を大きくするには、ヘッド3を大きくする必要がある。
【0045】
既述の実施の形態においては、臀部の水分自動ふき取り装置1の便座2を便器上に直接設置した場合を説明したが、装置1の便座2を一般のトイレの便座の上に載せて使用することも可能である。この場合、
図11に示すように、装置1の便座2の裏面に滑り止めシート50を取り付け、この滑り止めシート50を装置1の便座2と、一般のトイレの便座との間に介在させることが望ましい。また、装置1の便座2の下面形状を一般のトイレの便座の上面形状(3次元的な形状)に対応させたものとすることが望ましい。このようにすることで、一般のトイレの便座上に設置された装置1の便座2の位置が安定する。
【0046】
既述の実施の形態において説明した、ヘッド3がトイレットペーパを掴む動作は、ヘッド3がトイレットペーパを保持する動作の一形態である。よって、トイレットペーパを掴む以外の動作により、トイレットペーパをヘッド3上に保持するようにしてもよい。
【0047】
既述の実施の形態において説明したトイレットペーパは水分拭き取り材の一形態である。よって、トイレットペーパ以外の物により、臀部に付着した水分を拭き取るようにしてもよい。
【0048】
既述の実施形態では、紙取付部6において、手動にてヘッド3上にトイレットペーパを給紙していたが、自動給紙装置を付設して自動的にトイレットペーパをヘッド3上に給紙するようにしてもよい。
【0049】
既述の実施形態のST7において、ヘッド3を後方へ移動させる際に、アーム4を軸線回りに繰り返し正逆方向に微小量回転させるよう、第2サーボモータ26を駆動制御してもよい。このようにすることで、起き上がったヘッド3がトイレットペーパを介して臀部に当たる圧力が変動し、使用者は、しっかりと水分が拭き取られたような感触を得ることができる。
【0050】
既述の実施形態において、臀部の水分自動ふき取り装置1の便座2を省略したものを一般のトイレに適用してもよい。この場合、一般のトイレの便座と便器との隙間は、トイレットペーパを掴んだ状態のヘッド3が通過できる程度確保することが必要であるが、ヘッド3は、従来よりも格段に薄型化することができるので、一般のトイレの便座と便器との隙間も格段小さくて済む。
【0051】
既述の実施形態において、サーボモータ25,26,28をその他の種類のモータ(例えば、ギヤードモータ、ステッピングモータ等)に置き換えることは可能である。また、リニア駆動用モータ38には、ステッピングモータが採用されるが、このステッピングモータをその他の種類のモータ(例えばギヤードモータ等)に置き換えることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、温水洗浄により臀部に付着した水分をトイレットペーパで自動的にふき取る装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 臀部の水分自動ふき取り装置
2 便座
2a 便座の内側面
2b 便座の外側面
3 ヘッド
4 アーム
4a 第1アーム部
4b 第2アーム部
5 アーム駆動部
7 空洞
8 トイレットペーパ(水分拭き取り材)
21 アーム回転駆動部
22 アーム回動駆動部(アーム変位駆動部)
23 アーム前後移動駆動部
N 軸線