特許第5671786号(P5671786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5671786-排気浄化装置 図000002
  • 特許5671786-排気浄化装置 図000003
  • 特許5671786-排気浄化装置 図000004
  • 特許5671786-排気浄化装置 図000005
  • 特許5671786-排気浄化装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671786
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/18 20060101AFI20150129BHJP
   F01N 3/021 20060101ALI20150129BHJP
   F01N 3/26 20060101ALI20150129BHJP
   F01P 7/04 20060101ALI20150129BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20150129BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   F01N3/18 B
   F01N3/02 301B
   F01N3/26 M
   F01P7/04 B
   F02D45/00 312Q
   F02D41/04 385L
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2009-130545(P2009-130545)
(22)【出願日】2009年5月29日
(65)【公開番号】特開2010-275956(P2010-275956A)
(43)【公開日】2010年12月9日
【審査請求日】2012年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】田代 欣久
【審査官】 山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−138872(JP,A)
【文献】 特開2000−257426(JP,A)
【文献】 特開2007−247595(JP,A)
【文献】 実開昭60−030318(JP,U)
【文献】 特開2002−332842(JP,A)
【文献】 特開2006−322337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/01−3/035
F01N 3/18
F01N 3/26
F01P 7/04
F02D 41/04
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管にディーゼルパティキュレートフィルタを接続し、そのディーゼルパティキュレートフィルタで排気ガス中のパティキュレートマターを捕集して排気ガスを浄化する排気浄化装置において、エンジンに、そのエンジンによって駆動されると共に外部制御可能なラジエータ用の冷却ファンを装着し、ディーゼルパティキュレートフィルタ強制再生指示が出たとき、上記冷却ファンを目標回転数まで上昇させ、それからマルチ噴射により排気ガスの温度を上昇させ、その後、噴射パターンを、マルチ噴射にポスト噴射を追加することを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
上記冷却ファンがエンジン回転数に対して増速するように装着され、冷却ファンが、そのエンジン回転数に対して、エンジン冷却水が高温のときの冷却ファンの最大回転数ラインと、エンジン冷却水が低温のときの最小回転数ラインが設定され、その最大回転数ラインと最小回転数ラインの間の領域で冷却ファンの目標回転数が設定される請求項1記載の排気浄化装置。
【請求項3】
エンジン回転数に対して、冷却ファンが3倍の回転数となるように増速装置でエンジンに接続され、エンジン冷却水が高温のとき、冷却ファンがエンジン回転数が1500rpm近くまでは、エンジン回転に対して3倍の回転数で、かつエンジン回転数が1500rpm以上では、冷却ファンが最大4000rpm近くになるように最大回転数ラインが設定され、エンジン冷却水が低温のとき、エンジン回転数に対して冷却ファンの回転数が低い最小回転数ラインが設定される請求項2記載の排気浄化装置。
【請求項4】
エンジン冷却水の水温が100℃以下となるように冷却ファンの目標回転数が決定される請求項2又は3記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の排気浄化装置に係り、特に、排気ガス中のPMを捕集するDPFの再生時にエンジン冷却水温の上昇を抑えることができる排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるPM(パティキュレートマター;粒状物質)の浄化装置は、ディーゼルエンジンの排気管にDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)を接続し、そのDPFでPMを捕集して、排気ガスを浄化して大気へ排出するものである。
【0003】
このDPFで、捕集されたPMは、フィルタの目詰まりの原因となるため、排気圧センサがその排圧を検知して、キャビン内に設けられたDPF警告灯を点灯し、ドライバーが再生実行スイッチを押すことで、DPFの再生が開始される。再生は、排気温度を600℃に上昇させ、この高温の排気ガスでDPFに捕集されたPMを燃焼させ、除去するものである。
【0004】
再生時に、排気温度を600℃(PM燃焼温度)程度まで上昇させるためには種々の方法がとられている。
【0005】
600℃程度まで温度を上昇させるため、特許文献1,2に示されるようにシリンダ内の噴射による場合と排気管の噴射の両方が行われている。
【0006】
図5は排気シャッターがある時の排気温度に経時変化と、噴射パターンを示したものである。
【0007】
先ず、排気シャッターが開で、噴射パターンをプレ噴射とメイン噴射のマルチ噴射を行い、排気温度が200℃以下の状態で、強制再生を行うとき、メイン噴射の前後にプレ噴射とアフター噴射を追加して増量したマルチ噴射(パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフター噴射)を行うと共に排気シャッター閉(フリクション増)とすることで、排気ガス温度が上昇し、DPF前の酸化触媒の活性温度(250℃)以上に上げ、その後、マルチ噴射(パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフター噴射)に、ポスト噴射を追加することで、DPF内の酸化触媒による触媒燃焼で排気ガスを600℃まで温度を上昇させて、PMを燃焼させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−83263号公報
【特許文献2】特開2004−225579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、排気シャッターのない仕様(乗用車)では低負荷域では酸化触媒の活性温度以上に上げられないため、車速を上げ排気温度を上げ、再生を行っている。従って、自動では、強制再生できないため、ドライバーに不便をかける結果となっている。
【0010】
排気シャッターの付いた車両においても、排気シャッター閉で、マルチ噴射の増量、その増量したマルチ噴射とポスト噴射で、燃料を増加させるため、エンジン冷却水温が上昇し、オーバーヒートが心配になる。従って、アイドル状態でオーバーヒートしない大容量の冷却系への変更が必要となる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、DPFを再生する際に排気ガス温度を上昇させてもエンジン冷却水温の上昇を防止できる排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、エンジンの排気管にディーゼルパティキュレートフィルタを接続し、そのディーゼルパティキュレートフィルタで排気ガス中のパティキュレートマターを捕集して排気ガスを浄化する排気浄化装置において、エンジンに、そのエンジンによって駆動されると共に外部制御可能なラジエータ用の冷却ファンを装着し、ディーゼルパティキュレートフィルタ強制再生指示が出たとき、上記冷却ファンを目標回転数まで上昇させ、それからマルチ噴射により排気ガスの温度を上昇させ、その後、噴射パターンを、マルチ噴射にポスト噴射を追加することを特徴とする排気浄化装置である。
【0013】
請求項2の発明は、上記冷却ファンがエンジン回転数に対して増速するように装着され、冷却ファンが、そのエンジン回転数に対して、エンジン冷却水が高温のときの冷却ファンの最大回転数ラインと、エンジン冷却水が低温のときの最小回転数ラインが設定され、その最大回転数ラインと最小回転数ラインの間の領域で冷却ファンの目標回転数が設定される請求項1記載の排気浄化装置である。
【0014】
請求項3の発明は、エンジン回転数に対して、冷却ファンが3倍の回転数となるように増速装置でエンジンに接続され、エンジン冷却水が高温のとき、冷却ファンがエンジン回転数が1500rpm近くまでは、エンジン回転に対して3倍の回転数で、かつエンジン回転数が1500rpm以上では、冷却ファンが最大4000rpm近くになるように最大回転数ラインが設定され、エンジン冷却水が低温のとき、エンジン回転数に対して冷却ファンの回転数が低い最小回転数ラインが設定される請求項2記載の排気浄化装置である。
【0015】
請求項4の発明は、エンジン冷却水の水温が100℃以下となるように冷却ファンの目標回転数が決定される請求項2又は3記載の排気浄化装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、DPF強制再生時に、再生温度まで排気ガス温度を上昇しても、冷却ファン回転数を上昇させることができ、エンジン冷却水の水温上昇を抑えることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態を示す全体図である。
図2図1における冷却ファンの詳細断面図である。
図3】本発明において、DPF再生時のDPF温度、冷却ファン回転数、エンジン冷却水温度の経時変化を示す図である。
図4】本発明及び従来例において、ファン回転制御におけるエンジン回転数とファン回転数の関係を示す図である。
図5】DPF再生時のDPF温度の経時変化と噴射パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1は、本発明の排気浄化装置を組み込んだディーゼルエンジンの吸排気系の全体図を示したものである。
【0020】
図1において、ディーゼルエンジン10には、吸気マニホールド11と排気マニホールド12が接続される。吸気マニホールド11には吸気管13が接続され、その吸気管13に吸気スロットルバルブ14が接続される。
【0021】
排気マニホールド12には排気管15が接続され、その排気管15に排気シャッターとしての排気スロットルバルブ16、DPF18、消音器19が順次接続される。排気スロットルバルブ16は、エアータンク20からの空気圧を調整する電気式制圧切替バルブ17で、その開度が制御される。
【0022】
DPF18は、排気管15を拡径したDPF本体21内の前段に酸化触媒22が設けられ、後段に触媒化セラミックフィルター23が設けられて構成され、前段の酸化触媒22で、排気ガス中のHC(炭化水素)やCOを酸化すると共にPMの一部を酸化し、後段の触媒化セラミックフィルター23で、PMを捕集する。
【0023】
DPF18には、酸化触媒22の前後の排気ガス温度を検出する排気温度センサ24,25が設けられ、また触媒化セラミックフィルター23の前後の排気ガスの差圧を検出する排気圧力センサ26が設けられ、これらの検出値がECU(エンジンコントロールユニット)30に入力される。
【0024】
ECU30には、車速センサ27からの車速、各種センサ28からエンジン回転数やエンジン冷却水温度が入力され、これらに基づいてECU30が、エンジン10の燃料噴射量を決定すると共に、図5で説明した各種噴射パターンで燃料を噴射すべく燃料噴射装置(図示せず)を制御する。
【0025】
また、ECU30は、排気圧力センサ26で検出した差圧と排気温度センサ24,25の検出値に基づいて、吸気スロットルバルブ14の開度を制御し、また電気式制圧切替バルブ17に開度信号を出力して排気スロットルバルブ16の開度を制御して、エンジン10に供給する吸気量とエンジン10からの排気ガス量を調整し、その排気ガス温度を制御することで、DPF18に流入する排気ガス温度を上昇させてDPF18を連続再生運転できるようになっている。
【0026】
この際、ECU30は、排気圧力センサ26で検出した差圧が設定値以上のときにDPF18の触媒化セラミックフィルター23がPMで目詰まりであることをキャビン32に設けたDPF警告灯34を点灯させてDPFの目詰まりをウオーニングし、ドライバがキャビン32に設けたDPF再生実行スイッチ35を押すことで、排気ガス温度の制御を行うと共に、エンジン10に装着した冷却ファン36を目標回転数に制御してラジエータ38の風量を増加させてエンジン冷却水の上昇を抑えるようになっている。
【0027】
この冷却ファン36の構成を図2により説明する。
【0028】
図2において、エンジン10に後述する増速装置54を介して接続された回転軸40にディスク41が連結される。この回転軸40とディスク41を覆うように非磁性体からなるケース42が軸受43を介して相対回転自在に保持される。ケース42は、ディスク41を収容する伝達室44dと油回収室44oとに区画されると共に、伝達室44dと油回収室44o内にシリコンオイル45が充填される。また伝達室44d側のケース42の外周にはファンブレード46が取り付けられる。
【0029】
伝達室44dと油回収室44oとは、その外周側が連通管47で連通され、伝達室44dと油回収室44oの仕切壁42aに供給穴48が穿設され、その油回収室44oに供給穴48を開閉するフィードバルブ49が設けられる。
【0030】
このケース42のエンジン側には、軸受50を介して電磁コイル51が固定して設けられ、油回収室44oの電磁コイル51側には磁性体からなるループエレメント(図示せず)が設けられ、電磁コイル51の電磁力によりループエレメントを介してフィードバルブ49が、電磁コイル51側に吸引されて供給穴48を開くようになっている。
【0031】
この冷却ファン36は、エンジン側に接続された回転軸40の回転でディスク41が回転し、その回転力が伝達室44d内のシリコンオイル45の粘性力によりケース42に伝達されてケース42が回転することでファンブレード46が回転される。この際、電磁コイル51への電流をデューティ制御し、伝達室44d内のシリコンオイル45の量を制御することで、冷却ファン36が、回転数可変に制御される。
【0032】
すなわち、フィードバルブ49が供給穴48を閉じているときには、伝達室44dのシリコンオイル45は、ディスク41の回転によるポンプ作用により油回収室44oに回収され、伝達室44d内のシリコンオイル45の量が少なく、ディスク41の回転数が低くなる。逆に、電磁コイル51へ通電して、フィードバルブ49にて供給穴48を開くと、油回収室44oのシリコンオイル45が遠心力により伝達室44dに流入し、このため伝達室44d内のシリコンオイル45の量が多くなるため、その粘性でディスク41の回転が伝達室44dにより多く伝わるため回転数が高くなる。よって、ファン回転数を検出し、電磁コイル51への通電量をデューティ制御することで冷却ファン36の回転数を所望の回転数に制御できる。
【0033】
本発明は、この回転制御可能な冷却ファン36を使用し、DPF再生時に冷却ファンの回転速度を上昇させることで、(1)エンジンフリクション増による排気温度上昇と(2)ラジエータ38を冷却する空気量増加によりエンジン冷却水温の上昇を防ぐことが可能となる。
【0034】
本発明においては、エンジン10のクランクシャフトに冷却ファン36を装着する際に、直結ではなく、冷却ファン36の回転軸40がエンジン回転数に対して3倍の回転数となる増速装置54(図1)を介して連結される。
【0035】
以上において、本発明は外部制御可能な冷却ファン36を装着したエンジンにおいて、図1に示したDPFシステムで、DPF警告灯34が点灯し、ドライバがDPF再生実行スイッチ35を押し、DPF強制再生指示が出ると、図3の如くファン回転数を目標回転数(例えば3000rpm)まで上昇させ、それからマルチ噴射により酸化触媒の活性温度まで上昇させる。
【0036】
その後、ポスト噴射を追加し、DPF温度を600℃程度まで上昇させ、規定の時間を保持させた後、再生は完了し、元の回転数に戻す。
【0037】
このように本発明は、強制再生中はファンの回転数が上昇しているため、水温上昇は、図3で実線で示したように100℃以下に抑えることができ、点線で示した従来例のように100℃以上になることがない。
【0038】
図4は、本発明と従来例のエンジン回転数とファン回転数の関係を示したものである。
【0039】
従来においては、エンジンと冷却ファンとは、エンジン冷却水温度をバイメタルの変形で検出し、そのバイメタルの変形でピストンを駆動し、図2で説明した供給穴を開いてシリコンオイルを伝達室に流して回転を増速するものであるが、水温で供給穴を開閉するため、水温の高い時には、点線lで示したようにエンジン回転数とファン回転数が直結した状態となるように制御し、水温が低い時には点線mで示したように冷却ファンの回転数をエンジン回転数より減速する制御であり、DPF強制再生では、エンジン回転数に対して冷却ファンの回転数の上昇が僅かにしか制御できず、エンジン冷却水の上昇を抑えることができなかった。
【0040】
これに対して、本発明においては、冷却ファン制御はエンジン直結状態の時には、実線aで示したようにファン回転数がエンジン回転数の3倍に上昇するようにセットされ、実際の冷却ファン36の回転数制御は、実線bで示したようにエンジン回転数が1500rpm近くまでは略3倍となるように制御され、1500rpm以上では、冷却ファンが最大回転数(約4000rpm)を維持するように最大回転数ラインが設定れて、実線aと実線bの間は不使用領域とされ、また水温が低い時には、実線cで示したようにエンジン回転に対して冷却ファン回転が低くなるように最低回転数が制御され、その実線bで示した最大回転数ラインと実線cで示した最小回転数ライン間の領域Rで、冷却ファンの回転数が制御される。
【0041】
この領域R内でのエンジン回転数に対するファン回転数を目標回転数に制御には、エンジン回転数が実際の走行状態で決まり、またエンジン冷却水温が、ラジエータ38を冷却する外気温で相違するため、実際のエンジン回転数に対して、領域R内で、エンジン水温が100℃以下となるようにファン回転数を増減してファン回数を調整し、これを目標回転数とする。
【0042】
以上本発明は、次のような効果を奏する。
【0043】
(1)低回転、低負荷領域で、排気シャッターを使用せず、DPF強制再生温度まで上昇できるため、排気ブレーキ又は排気シャッターを有しない車両(ピックアップ)でも強制再生が可能となる。
【0044】
(2)冷却ファン回転数上昇により、エンジン冷却水の水温上昇が抑えられる。
【符号の説明】
【0045】
10 エンジン
15 排気管
18 DPF
38 ラジエータ
36 冷却ファン
図1
図2
図3
図4
図5