(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671805
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20150129BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20150129BHJP
F02B 47/04 20060101ALI20150129BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
F02D19/08 D
F02M37/00 341C
F02B47/04
F02M25/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-19029(P2010-19029)
(22)【出願日】2010年1月29日
(65)【公開番号】特開2011-157846(P2011-157846A)
(43)【公開日】2011年8月18日
【審査請求日】2013年1月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 昭則
(72)【発明者】
【氏名】大澤 正敬
(72)【発明者】
【氏名】長野 進
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 毅
【審査官】
本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−248840(JP,A)
【文献】
特開2009−180130(JP,A)
【文献】
特開2009−074439(JP,A)
【文献】
特開2007−224878(JP,A)
【文献】
特開2010−7559(JP,A)
【文献】
特開2009−293472(JP,A)
【文献】
特開2010−169031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00−45/00
F02D13/00−28/00
F02M 25/00
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料の供給装置とアルコール系燃料の供給装置とを備えるエンジンシステムであって、
炭化水素系燃料の供給装置は、
炭化水素系燃料を液体状態で貯溜する炭化水素系燃料貯溜装置と、
炭化水素系燃料貯溜装置から供給された炭化水素系燃料をエンジンの吸気管内またはシリンダ内へ噴射する炭化水素系燃料噴射弁と、
を有し、
アルコール系燃料の供給装置は、
含水アルコール系燃料を液体状態で貯溜する含水アルコール系燃料貯溜装置と、
エンジンの吸気管内に供給された含水アルコール系燃料が蒸発する、または含水アルコール系燃料が蒸発してからエンジンの吸気管内へ供給されるように、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給された含水アルコール系燃料の温度を制御する温度制御装置と、
を有し、
含水アルコール系燃料がエタノール水であり、
エタノール水の含水率が5〜30%の範囲にあり、
アルコール系燃料の供給装置は、インジェクタからエンジンの吸気管内へエタノール水噴霧を噴射し、
温度制御装置は、インジェクタからエンジンの吸気管内に噴射されたエタノール水噴霧が蒸発するように、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給されたエタノール水の温度を65℃以上に制御する、エンジンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンシステムであって、
温度制御装置は、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給されたエタノール水の温度を、エタノール水の含水率に基づいて制御する、エンジンシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンシステムであって、
温度制御装置は、エンジンの排気を利用して含水アルコール系燃料貯溜装置から供給されたエタノール水の温度を制御するものである、エンジンシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載のエンジンシステムであって、
温度制御装置は、エンジンの冷却液を利用して含水アルコール系燃料貯溜装置から供給されたエタノール水の温度を制御するものである、エンジンシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載のエンジンシステムであって、
エンジンは複数の気筒を有し、
アルコール系燃料の供給装置からエンジンの吸気管内への燃料供給位置が、吸気管における吸気流れが各気筒へ分岐する部分である分岐部、あるいはその上流側である、エンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系燃料の供給装置とアルコール系燃料の供給装置とを備えるエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン(炭化水素系燃料)の他にエタノール(アルコール系燃料)をエンジンの燃料として使用するエンジンシステムの関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1においては、ガソリンとエタノールが混合された燃料に水を添加することでエタノール水をガソリンから分離し、分離したエタノール水をエンジンの高負荷運転時に吸気管内に噴射することでノッキングの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−248840号公報
【特許文献2】特開2007−40231号公報
【特許文献3】特開2007−154883号公報
【特許文献4】特開2008−45530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、ガソリンから分離したエタノール水(含水アルコール系燃料)を吸気管内に噴射しているが、エタノール水の蒸発温度が高いために、吸気管内に供給されたエタノール水が十分に蒸発できない状態となり、液体状態のエタノール水が吸気管やその周辺部材に付着することでシリンダ内に供給されなくなる。その結果、エンジンの出力低下や有害排出ガスの増加を招きやすくなる。
【0005】
本発明は、炭化水素系燃料とアルコール系燃料とをエンジンの燃料として使用するエンジンシステムにおいて、アルコール系燃料がエンジンの吸気管やその周辺部材に付着してシリンダ内に供給されなくなるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエンジンシステムは、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明に係るエンジンシステムは、炭化水素系燃料の供給装置とアルコール系燃料の供給装置とを備えるエンジンシステムであって、炭化水素系燃料の供給装置は、炭化水素系燃料を液体状態で貯溜する炭化水素系燃料貯溜装置と、炭化水素系燃料貯溜装置から供給された炭化水素系燃料をエンジンの吸気管内またはシリンダ内へ噴射する炭化水素系燃料噴射弁と、を有し、アルコール系燃料の供給装置は、含水アルコール系燃料を液体状態で貯溜する含水アルコール系燃料貯溜装置と、エンジンの吸気管内に供給された含水アルコール系燃料が蒸発する、または含水アルコール系燃料が蒸発してからエンジンの吸気管内へ供給されるように、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給された含水アルコール系燃料の温度を制御する温度制御装置と、を有し、含水アルコール系燃料がエタノール水であり、
エタノール水の含水率が5〜30%の範囲にあり、アルコール系燃料の供給装置は、インジェクタからエンジンの吸気管内へエタノール水噴霧を噴射し、温度制御装置は、インジェクタからエンジンの吸気管内に噴射されたエタノール水噴霧が蒸発するように、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給されたエタノール水の温度を65℃以上に制御することを要旨とする。
【0011】
本発明の一態様では、温度制御装置は、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給された
エタノール水の温度を、含水アルコール系燃料の含水率に基づいて制御することが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、温度制御装置は、エンジンの排気を利用して含水アルコール系燃料貯溜装置から供給された
エタノール水の温度を制御するものであることが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、温度制御装置は、エンジンの冷却液を利用して含水アルコール系燃料貯溜装置から供給された
エタノール水の温度を制御するものであることが好適である。
【0014】
本発明の一態様では、エンジンは複数の気筒を有し、アルコール系燃料の供給装置からエンジンの吸気管内への燃料供給位置が、吸気管における吸気流れが各気筒へ分岐する部分である分岐部、あるいはその上流側であることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、炭化水素系燃料とアルコール系燃料とをエンジンの燃料として使用するエンジンシステムにおいて、エンジンの吸気管内に供給された含水アルコール系燃料が蒸発する、または含水アルコール系燃料が蒸発してからエンジンの吸気管内へ供給されるように、含水アルコール系燃料貯溜装置から供給された含水アルコール系燃料の温度を制御することで、アルコール系燃料がエンジンの吸気管やその周辺部材に付着してシリンダ内に供給されなくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【
図3】エタノール水供給量に対するガソリン燃費向上率及び吸気管内温度の関係を実機の実験により調べた結果を示す図である。
【
図4】エタノール水供給量に対するガソリン燃費向上率及び吸気管内温度の関係を実機の実験により調べた結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの他の概略構成を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの他の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0018】
図1,2は、本発明の実施形態に係るエンジンシステムの概略構成を示す図である。本実施形態に係るエンジンシステムは、複数(
図2に示す例では3気筒)のシリンダ(気筒)11を有し、炭化水素系燃料とアルコール系燃料とを燃料として使用する内燃機関(エンジン)10と、炭化水素系燃料の供給装置と、アルコール系燃料の供給装置と、を備える。炭化水素系燃料の一例としてはガソリンを挙げることができ、アルコール系燃料の一例としてはエタノールを挙げることができる。本実施形態に係るエンジンシステムは、例えば車両に搭載することが可能である。
【0019】
炭化水素系燃料の供給装置は、炭化水素系燃料としてガソリンを液体状態で貯溜するガソリンタンク12(炭化水素系燃料貯溜装置)と、ポンプ13によりガソリンタンク12から供給されたガソリンが通るガソリン供給管14と、ガソリンタンク12からガソリン供給管14内を通って供給されたガソリンを内燃機関10の吸気管20内へ噴射するガソリンインジェクタ16(炭化水素系燃料噴射弁)とを含んで構成される。
図1,2に示す例では、ガソリンインジェクタ16は、各シリンダ11毎に対応して設けられ、吸気管20における吸気流れが各シリンダ11へ分岐する部分である分岐部20aより下流側の位置に配置されている。つまり、炭化水素系燃料の供給装置(ガソリンインジェクタ16)から吸気管20内への燃料供給位置が、吸気管20の分岐部20aより下流側である。なお、ガソリンインジェクタ16からガソリンをシリンダ11内へ直接噴射することも可能である。
【0020】
アルコール系燃料の供給装置は、含水アルコール系燃料としてエタノール水を液体状態で貯溜するエタノール水タンク22(含水アルコール系燃料貯溜装置)と、ポンプ23によりエタノール水タンク22から供給されたエタノール水が通るエタノール水供給管24と、エタノール水タンク22からエタノール水供給管24内を通って供給されたエタノール水を内燃機関10の吸気管20内へ噴射するエタノールインジェクタ26(アルコール系燃料噴射弁)とを含んで構成される。本実施形態では、エタノール水タンク22内に貯溜されたエタノール水(含水アルコール系燃料)の含水率は、5%以上であり、例えば5〜30%の範囲にある。
図1,2に示す例では、エタノールインジェクタ26が吸気管20の分岐部20aより上流側の位置に配置されており、アルコール系燃料の供給装置(エタノールインジェクタ26)から吸気管20内への燃料供給位置が、吸気管20の分岐部20aより上流側である。ただし、エタノールインジェクタ26を吸気管20の分岐部20aに配置して、アルコール系燃料の供給装置(エタノールインジェクタ26)から吸気管20内への燃料供給位置を吸気管20の分岐部20aにすることも可能である。
【0021】
内燃機関10は、例えば火花点火機関により構成することができ、2種類の燃料(ガソリン及びエタノール)を併用して運転を行う。内燃機関10においては、炭化水素系燃料の供給装置(ガソリンインジェクタ16)からのガソリン噴霧、及びアルコール系燃料の供給装置(エタノールインジェクタ26)からのエタノール噴霧が吸気管20内に供給され、吸気行程にて空気とともにシリンダ11内に導入される。内燃機関10は、シリンダ11内に形成された燃料(ガソリン及びエタノール)と空気との混合気を点火栓18の火花放電により火炎伝播燃焼させることでクランク軸に動力を発生させる。燃焼後の排出ガスは、排気行程にてシリンダ11内から排気管21内へ排出される。
【0022】
内燃機関10の燃料として使用するエタノールは、バイオマスから生産することができるため、植物が介在したCO
2循環が可能である。そのため、内燃機関10でのエタノール燃焼分のCO
2は排出量に含まれず、内燃機関10からのCO
2排出量の削減を図ることができる。また、エタノールは製造過程で多量の水分を含んでいるが、エタノールをガソリンに混合して燃料として用いる場合は、エタノール中の水分の作用でエタノールとガソリンが分離して燃料の性状が変化する。その場合は、精製工程でエタノール中の水分を除去し、エタノール純度を99.5〜99.7%まで高めている。エタノール製造では、バイオマスの発酵直後で生成される約7%エタノール水から次第に純度を上げていくが、この精製工程で必要なエネルギーの内訳は、発酵直後の7%から95%までで全体の3/4、95%から99.5%まで高めるのに全体の1/4である。これは、通常エタノールと水がエタノール約95%、水約5%の共沸物質を作り、蒸留のみでは水分を完全に分離できないからである。そのため、エタノールの純度を95%から99.5%に高めるためには脱水工程を加える必要があり、この工程でかなり多くのエネルギーを使う。すなわち、脱水工程のいらないエタノール純度95%以下(含水率5%以上)までで留めれば、精製工程の1/4のエネルギーを低減することができる。これに対して本実施形態では、エタノール水の含水率を5%以上(5〜30%)とすることにより、エタノール精製のためのエネルギーを大幅に低減することができる。
【0023】
ただし、エタノールインジェクタ26から吸気管20内へエタノール水(含水アルコール系燃料)を噴射する場合に、吸気管20内に供給されたエタノール水が十分に蒸発しないと、液体状態のエタノール水が吸気管20やその周辺部材に付着することでシリンダ11内に供給されなくなる。そこで、本実施形態では、アルコール系燃料の供給装置は、吸気管20内に供給されたエタノール水が蒸発するように、エタノール水タンク22から供給されたエタノール水の温度を制御する温度制御装置28をさらに含んで構成される。
図1,2に示す例では、温度制御装置28は、エタノールインジェクタ26の周囲に配置されており、エタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度を制御する。ここでの温度制御装置28は、エタノールインジェクタ26の周囲を加熱することで、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水を加熱してエタノール水の温度を制御する。また、温度制御装置28は、内燃機関10の冷却水(冷却液)を利用してエタノールインジェクタ26の周囲に冷却水を循環させ、冷却水の循環量を制御することで、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度を制御することも可能である。温度制御装置28で温度制御されたエタノール水はエタノールインジェクタ26から吸気管20内へ噴射され、エタノールインジェクタ26から噴射されたエタノール水噴霧は吸気管20内で蒸発してからシリンダ11内へ供給される。エタノールインジェクタ26からエタノール水噴霧を噴射することで、エタノール水が微細な液体粒子で吸気管20内に供給される場合は、エタノールの沸点(78℃)より低温の状態でもエタノール水の蒸発が行われる。
【0024】
ここで、エタノール水の含水率を23%とした場合に、エタノール水供給量に対するガソリン燃費向上率及び吸気管内温度の関係を実機(排気量660ccの3気筒エンジン)の実験により調べた結果を
図3,4に示す。
図3は、内燃機関10の運転条件をエンジン回転速度1600rpm、出力トルク19.6Nmのいわゆる軽負荷とした場合の実験結果を示し、
図4は、内燃機関10の運転条件をエンジン回転速度2400rpm、出力トルク39.2Nmのいわゆる中負荷とした場合の実験結果を示す。ここでのガソリン燃費向上率とは、供給されたエタノール水の熱量分がガソリンの熱量から差し引かれることでガソリンの供給量が少なくなるため、ガソリン分の燃費が向上することを意味している。そして、ガソリン燃費向上率の理論値は、供給されたエタノール水の熱量全量がエンジンに付加された場合に計算されるガソリン燃費向上率であり、ガソリン燃費向上率の実測値は、実際のエンジン試験で得られた値を示している。また、吸気管内温度として、エタノールインジェクタ26より上流の位置、及びエタノールインジェクタ26より下流の位置での値を示している。
【0025】
図3に示す実験結果では、エタノール水供給量が少ない極めて少ない領域において、ガソリン燃費向上率の理論値と実測値がほぼ一致しているが、エタノール水供給量がやや多くなると実測値が頭打ちになって理論値からずれてくることがわかる。また、吸気管内温度は、エタノールインジェクタ26より上流位置が45℃程度、エタノールインジェクタ26より下流位置が30〜35℃程度であることがわかる。これらの結果から、エタノール水が供給される雰囲気の温度が45℃程度では、吸気管20内に噴射されたエタノール水噴霧の蒸発が完全ではないので、液体状のエタノール水が吸気管20内の壁面に付着して液体として残り、内燃機関10のシリンダ11内に入らず燃焼に寄与しないため、理論値通りのガソリン燃費向上率の実測値が得られなくなる。
【0026】
一方、
図4に示す実験結果では、エタノール水供給量が増加した領域においても、ガソリン燃費向上率の理論値と実測値がほぼ一致していることがわかる。この場合の吸気管内温度は、エタノールインジェクタ26より上流位置が65℃程度であることがわかる。また、エタノールインジェクタ26より下流位置の温度は、50℃から30℃程度まで大幅に低下しているが、これはエタノール水が蒸発したためである。これらの結果から、エタノール水が供給される雰囲気の温度が65℃以上であれば、吸気管20内に噴射されたエタノール水噴霧をほぼ完全に蒸発させてシリンダ11内へ供給することができ、燃焼に寄与させることができるので、ほぼ理論値通りのガソリン燃費向上率の実測値を得ることができる。さらに、エタノール水の含水率が5〜30%の範囲内の条件でも、エタノール水が供給される雰囲気の温度が65℃以上であれば、吸気管20内に噴射されたエタノール水噴霧をほぼ完全に蒸発させて、ほぼ理論値通りのガソリン燃費向上率の実測値を得ることが可能である。
【0027】
そこで、本実施形態では、温度制御装置28は、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度を65℃以上に制御することで、エタノールインジェクタ26から吸気管20内に噴射されたエタノール水噴霧をほぼ完全に蒸発させてシリンダ11内へ供給することができる。これによって、エタノールインジェクタ26から噴射されたエタノール水が吸気管20やその周辺部材に付着して液体として残りシリンダ11内に供給されなくなるのを抑制することができる。その結果、エンジンの出力低下や有害排出ガスの増加を抑制することができる。なお、エタノール水が噴霧となって微細な液体粒子で吸気管20内に供給される場合は、エタノールの沸点(78℃)より低温の状態でもエタノール水の蒸発が行われるため、温度制御装置28は、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度をエタノールの沸点(78℃)より低く制御しても、吸気管20内に噴射されたエタノール水噴霧をほぼ完全に蒸発させることが可能である。したがって、エタノール水を蒸発させるために余分なエネルギーが投入されるのを避けることができる。なお、本実施形態では、温度制御装置28は、エタノールインジェクタ26から吸気管20内に噴射されたエタノール水噴霧がほぼ完全に蒸発するように、吸気管20におけるエタノール水噴霧が存在する部分の温度を65℃以上に制御することも可能である。
【0028】
また、本実施形態では、ガソリンを主燃料とする内燃機関10にエタノール水を供給することで、エタノール及び水の蒸発熱により吸気温度が低下し、シリンダ11内への充填効率が高まるため、エンジン出力を向上させることができる。さらに、この吸気温度低下に加えて、エタノールの化学的作用によりガソリンの異常燃焼が抑えられてノッキングが抑制されるため、点火時期を最適点へ進めることができ、これによってもエンジン出力を向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態では、エタノールインジェクタ26(アルコール系燃料供給位置)を吸気管20の分岐部20aまたはその上流側に配置することで、各シリンダ11へのエタノールの均等供給が可能となる。
【0030】
また、一般にエタノール等のアルコール類は有機材料を膨潤させる性質があるため、アルコール類を混合したガソリンを燃料として使用するエンジンでは、燃料供給系に用いられる有機材料を耐膨潤性のある材料に変更する必要がある。通常の車両では、車両後方に配置した燃料タンクから車両前方のエンジンまで、相当の長さの燃料供給系を有しているので、この変更は容易ではない。これに対して本実施形態では、2種類の燃料(ガソリン及びエタノール水)を混合しないように別々の容器(ガソリンタンク12及びエタノール水タンク22)に搭載することで、エタノール水タンク22を内燃機関10付近に配置することもでき、エタノール水タンク22から内燃機関10までの極小の長さで耐膨潤性のある材料を使用すればよいので、材料変更への対応が極めて容易となる。
【0031】
本実施形態では、温度制御装置28は、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度をエタノールの沸点(78℃)より高く制御することも可能である。さらに、温度制御装置28は、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度を水の沸点(100℃)より高く制御することも可能である。これらの場合でも、エタノール水をほぼ完全に蒸発させることができ、エタノール水が吸気管20やその周辺部材に付着してシリンダ11内に供給されなくなるのを抑制することができる。ただし、温度制御装置28でエタノール水の温度を必要以上に高く制御することはエネルギーの無駄であり、吸気温度を上昇させて吸気効率を低下させることになる。例えば、温度制御装置28で制御するエタノール水の上限温度を120℃に設定することができる。
【0032】
本実施形態では、例えば
図5に示すように、温度制御装置28は、内燃機関10の排気を利用してエタノールインジェクタ26の周囲に排気を循環させ、排気の循環量を制御することで、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度を制御することも可能である。
図5では、内燃機関10の排気管21内からEGR管19内を通って吸気管20内へ供給されるEGRガスをエタノールインジェクタ26の周囲に循環させることで、エタノール水タンク22からエタノールインジェクタ26に供給されたエタノール水の温度を制御する例を示している。
【0033】
また、本実施形態では、例えば
図6に示すように、温度制御装置として蒸発器28をエタノール水供給管24に設けることも可能である。蒸発器28は、エタノール水が蒸発してから吸気管20内へ供給されるように、エタノール水タンク22から供給されたエタノール水の温度を制御する。
図6に示す例では、蒸発器28は、内燃機関10の排気管21の周囲に配置されており、内燃機関10の排気の熱を利用して、エタノール水タンク22から供給されたエタノール水を加熱して蒸発させる。
図6に示す構成によれば、蒸発器28で温度制御されたエタノール水が蒸発して、エタノール蒸気がエタノール供給ポート29から吸気管20内へ供給されることで、エタノール水が吸気管20やその周辺部材に付着して液体として残りシリンダ11内に供給されなくなるのを抑制することができる。
【0034】
また、エタノールの沸点は78℃、水の沸点は100℃であるから、エタノール水の蒸発温度は、これらの混合比と存在する形態によって決定される。そこで、本実施形態では、温度制御装置28は、エタノール水タンク22から供給されたエタノール水の温度を、エタノール水の含水率に基づいて制御することもできる。例えば、温度制御装置28は、エタノール水タンク22内に貯溜されたエタノール水の含水率が増加するのに対してエタノール水タンク22から供給されたエタノール水の温度を増加させるように、エタノール水の温度を制御することができる。このように、エタノール水の含水率に応じてエタノール水の温度を制御することで、温度制御にかかわるエネルギー消費を最小限にすることができる。なお、エタノール水の含水率については、例えばエタノール水の体積及び重量から推定することが可能である。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
10 内燃機関、11 シリンダ、12 ガソリンタンク、13,23 ポンプ、14 ガソリン供給管、16 ガソリンインジェクタ、18 点火栓、19 EGR管、20 吸気管、20a 分岐部、21 排気管、22 エタノール水タンク、24 エタノール水供給管、26 エタノールインジェクタ、28 温度制御装置(蒸発器)、29 エタノール供給ポート。