(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の半導体層に含まれる点欠陥の濃度が前記第1の半導体基体に含まれる点欠陥の濃度と等しくなる深さは、前記一方の主面から0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体装置。
前記第2の半導体層の外周側端部において、前記一方の主面に垂直な深さ方向の前記第2の半導体層の濃度が前記外周側に向って徐々に減少する領域の前記第2の半導体層の曲率半径Ljが、前記第2の半導体層の深さrjよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体装置。
前記第2の半導体層の外周側端部よりもさらに外周側に形成された終端構造領域の前記一方の主面には電気的に活性化した遷移金属を有する第2導電型の第4の半導体層が形成され、前記第4の半導体層には熱平衡状態にて含まれる濃度よりも高濃度の点欠陥が含まれることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の半導体装置。
前記第2の半導体層の外周側端部上面には絶縁膜が形成され、前記絶縁膜の前記第2の半導体層側端部における断面は、前記第2の半導体層とのなす角度が前記断面と前記第2の半導体層の上面の垂直方向とのなす角度よりも小さいテーパー形状を有することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の半導体装置。
前記絶縁膜のウェットエッチングが、前記絶縁膜へのダメージ導入の後にフォトレジストを塗布してフォトリソグラフ法によりパターンを形成する工程と、前記パターンされたフォトレジストをマスクとしてウェットエッチングで前記絶縁膜を除去することで、前記絶縁膜の前記第2の半導体層側端部における断面と前記第2の半導体層とのなす角度が、前記断面と前記第2の半導体層の上面の垂直方向とのなす角度よりも小さいテーパー形状とする工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の半導体装置の製造方法。
前記半導体基体に白金を導入する工程が、前記半導体基体の一方もしくは他方の主面に白金を含有する液体ソースを塗布し、800℃以上1000℃以下の温度で白金を前記半導体基体の内部に拡散させることを特徴とする請求項28に記載の半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、第1導電型をn型、第2導電型をp型とするが、n型とp型を入れ替えても本発明は同様に動作が可能である。また、本明細書では、半導体装置について、デバイス、素子、チップもしくは半導体チップという表現も用いているが、いずれも同じ対象を示している。また、本発明のデバイスはダイオードを実施例として記載しているが、公知のユニポーラデバイスである絶縁ゲート型トランジスタ(MOSFET)、あるいはバイポーラデバイスである絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)にも適用が可能である。また、本明細書におけるシリコン・ウェハーとは、チップに断片化するまえのシリコン基板のことである。また半導体チップにおいて、前記アノード電極が形成されていて、且つ電流を流すことができる領域を「活性領域」と呼ぶことにする。また前記活性領域の端部からチップの外周側端部までの領域であり、素子に電圧が印加されたときに発生するチップ表面の電界強度を緩和させる構造部を、「終端構造領域」と呼ぶことにする。さらに濃度等の記載で、例えば1.0E12/cm
2という表示を用いるが、それは1.0×10
12/cm
2という意味である。また、各図の中に示された各領域(p領域、n領域)の右に記載の+(−)記号は、不純物濃度が相対的に他の領域よりも高い(低い)ことを意味している。
(基本構造)
本発明の基本的な構造について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の半導体装置の基本的な構造(基本構造)を示す要部断面図(a)と、断面に沿った不純物濃度分布である。
【0035】
本発明の半導体装置の基本構造は、以下の通りである。n型ドリフト層2の一方の主面(紙面の上側)に、遷移金属のアクセプタ化によりp型に反転し、且つ後述する点欠陥によってアクセプタ化が増進された反転増進領域43が形成されている。この反転増進領域43は、本発明のダイオードのp型アノード層5を構成し、遷移金属は、例えば白金あるいは金であり、特に白金がよい。この反転増進領域43には、点欠陥層40が導入されている。点欠陥層40の濃度分布は、熱平衡状態の濃度よりも高濃度である。n型ドリフト層2の他方の主面(紙面の下側)には、n型ドリフト層2よりも高濃度のn型半導体基板1が隣接している。後述するように、n型半導体基板1は例えば公知のチョコラルスキー法によるCZウェハーからなり、ドナー不純物としてアンチモンあるいは砒素が1E18/cm
3よりも高い濃度で導入されている。またn型ドリフト層2は、例えば前記n型半導体基板1の表面にエピタキシャル成長法を用いて形成されており、ドナー不純物はリンである。
【0036】
ここで、本発明を構成する部分のうち、
図1にて示していない要素について説明する。反転増進領域43の上面には、反転増進領域43に接するようにアノード電極が形成されている。一方、n型半導体基板1の下面には、n型半導体基板1に接するようにカソード電極が形成されている。
(構造の特徴)
本発明の構造上の特徴は、以下の通りである。
(1)p型アノード層が、電気的に活性化されてアクセプタとなっている遷移元素を備える。
(2)前記p型アノード層には、熱平衡状態における濃度以上の点欠陥が導入されており、前記点欠陥により前記遷移元素のアクセプタ化が増強されている。
【0037】
特に重要なのは、2つ目の特徴である。半導体基体の一方の主面に形成された過剰な点欠陥、主に空孔には、遷移金属が移動しやすく、シリコン結晶の格子位置に入りやすくなる。すると、格子位置に入った遷移金属は、ドナーもしくはアクセプタとなる。換言すると、例えばp型アノード層を形成する領域に、熱平衡状態の濃度よりも過剰に点欠陥を導入すれば、遷移金属のアクセプタ化を増進させることができる。以降では、この点欠陥による遷移金属のアクセプタ化の増進によりn型シリコンの表面がp層に反転する現象を、『反転増進作用』と呼ぶこととする。つまり、シリコンに導入する点欠陥の濃度を制御することで、遷移金属のアクセプタ化によるp型アノード層の濃度分布を、n型ドリフト層よりも十分高い濃度となるように制御することが可能となる。
【0038】
ここで、遷移金属の拡散について簡単に述べておく。これよりも詳しい説明については製造方法の実施例にて後述する。遷移金属をM、空孔をVとすると、遷移金属の拡散メカニズムは以下のように考えられている。
M(i)+V ⇔ M(s)…(E1)
M(i) ⇔ M(s)+ I…(E2)
ここで、M(i)は格子間遷移金属原子、M(s)は格子位置遷移金属原子、Vは空孔、IはSi自己格子間原子、である。式E1は、フランク・ターンブル(F−T)メカニズム、式E2は、キックアウトメカニズムとそれぞれ呼ばれている。遷移金属M(s)が、例えばアクセプタとして作用すると考えられる。一方M(i)は、拡散係数が通常ドーパントのBやPに比べて大きい。そのため、早期にシリコン・ウェハー内で平衡状態に達し、M(s)の濃度は、VやIの濃度(分布)によって決まる。よって故意にVを導入することで、M(s)濃度分布を制御でき、特にVを過剰に導入すれば、それだけ格子位置の遷移金属原子の濃度も多くなる。
【0039】
以下、基本構造において好ましい構成について述べる。
前記の点欠陥は、少数キャリアのライフタイムを低減する再結合中心としても作用する。特に電力変換(電源回路、インバータ回路等)に用いるダイオードでは、逆回復時間を短縮する目的で、n型ドリフト層に熱平衡状態の濃度よりも過剰な濃度で再結合中心(点欠陥)を導入することが、一般的である。そのため、p型アノード層で反転増進作用をもたらすためには、n型ドリフト層の点欠陥ではなくp型アノード層の点欠陥に、遷移金属を引き寄せる必要がある。そのためには、p型アノード層を形成する領域における点欠陥の濃度が、遷移金属を拡散する時点で、n型ドリフト層における点欠陥の濃度よりも高いことが好ましい。このようにすることで、p型アノード層にて集中的に反転増進作用を起こすことができる。一方でダイオードの逆回復時間の短縮の手段として、公知のHe等の軽イオン照射による局所的なライフタイム制御の方法もある。この場合、He等の点欠陥が局在化された領域では、前記のp型アノード層に導入された点欠陥よりもその密度が高い場合がある。この状態で遷移金属を導入すると、p型アノード層よりもHe等の局在化された点欠陥領域に、遷移金属が引き寄せられてしまう。それゆえ、このような局所的な欠陥領域は、遷移金属の拡散を終えた後に導入することが好ましい。さらに局所的な欠陥領域のアニールも、前記拡散の温度よりも低い温度(例えば500℃以下)にて行うことが好ましい。
【0040】
p型アノード層の形成領域に導入する点欠陥としては、前述の空孔の他に、複空孔(空孔対とも言う)、格子間シリコン、格子間不純物(格子間酸素など)、置換型不純物(いわゆるドーパントで、ボロン、リンなど)がある。遷移金属がアクセプタ化をするには、前述のメカニズムのように、遷移金属がシリコン結晶の格子位置に入ることが重要である。そのためには、格子位置が空いていることが必要であり、点欠陥の中でも空孔、複空孔が好ましい。一方で、格子間シリコン、格子間不純物、置換型不純物を導入する過程や、これらが拡散する過程では、空孔や複空孔は必ず存在する。よって前述したメカニズムが活性化するには、熱平衡状態よりも多くの過剰な点欠陥をシリコン中に導入し存在させることが、まずは大切である。その中でも、空孔、複空孔が熱平衡状態よりも多く存在することが好ましい。
【0041】
ここで、熱平衡状態における点欠陥の平均的な濃度を述べておく。シリコン・ウェハーは、結晶引き上げ時、あるいは素子を形成する工程において、通常のドーパント(リン、ボロンなど)の拡散および熱酸化膜の形成にあたり、1000℃以上の温度に加熱される。このとき導入された点欠陥の一部は冷却時にシリコン中に残留し、その濃度は空孔でおよそ1E3から1E7/cm
3程度である。よって、この濃度よりも高濃度の空孔を導入すればよい。例えば、p型アノード層の濃度は、1E15〜1E18/cm
3程度であるので、空孔も同じ程度の1E15〜1E18/cm
3の濃度であることが好ましい。さらに、導入された点欠陥の深さは、p型アノード層の深さを決定する。それゆえ、p型アノード層に含まれる点欠陥の濃度が、n型ドリフト層に含まれる点欠陥の濃度となる深さは、少なくともアノード側の表面から0.1〜5.0μmの深さ、好ましくは0.5〜3.0μmの深さに存在することが良い。
【0042】
次に、アクセプタ化する遷移金属の種類について説明する。
遷移金属の中で最も好ましいのは、白金である。遷移金属は周知のように数多くあるが、その中でもシリコンの内部でアクセプタを示すものは、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、V(バナジウム)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、等がある。これらの遷移金属であれば、アクセプタ化によりp型アノード層を形成できる。その中でも白金および金は、遷移金属の中ではアクセプタ化率が大きい。そのため、空孔によりアクセプタ化が増強され易く、p型アノード層の形成が容易である。
【0043】
過剰な点欠陥の導入は、ドーパントが遷移金属ならではの必須な構成であり、逆に従来のドーパントにとっては、これらの点欠陥はむしろアクセプタ化やドナー化の弊害となる。従来のドーパントがシリコンのバンドギャップ内に形成する準位は、伝導帯もしくは価電子帯に極めて近く、浅い準位を示す。そのため、電気的に活性化してキャリア(電子、正孔)を供給する割合、つまり活性化率は高く、例えば50%以上である。このように活性化率が高いドーパントはシリコンとともに典型元素に属し、拡散機構は格子位置置換型である。よって母体となるシリコン結晶も欠陥の少ない状態が好ましい。そのため、過剰に導入された空孔が数多く残留している状態では、ドーパントが周辺のシリコン原子と共有結合を形成することを阻害するようになる。
【0044】
しかしながら遷移金属は、d軌道、f軌道の電子の寄与が大きく、典型元素同士の結合とは異なる結合を形成する。そのため、シリコンのバンドギャップ内に形成する準位は、伝導帯もしくは価電子帯から離れて、深い準位を形成する。また、活性化率も低く、拡散機構は格子間拡散型が多い。よって、ドーパントとして遷移金属が作用するには、格子位置にできるだけ入るようにする。さらにそれだけでなく、格子位置に入った遷移金属の第1隣接、第2隣接あるいはそれより広い範囲の複数のシリコン原子と弱いながらも結合して、欠陥複合体を形成するように原子の位置を変位させて、原子間の結合を安定化させる必要がある。そのためには、通常のドーパントとは逆に、点欠陥、特に空孔を多く導入することが必要である。つまり空孔、複空孔が過剰に存在することで、遷移金属が格子位置に入り、さらに周囲の複数のシリコン原子と結合して欠陥複合体を形成することができるようになる。このようにすると、正孔あるいは電子を供給する準位が複数できるようになる。
【0045】
また、少数キャリアの再結合準位としても、伝導帯に近い準位を示す白金が一層好ましい。代表的な白金の再結合準位は、伝導帯から0.23eV程度なので、比較的浅い準位である。そのため、例えば逆バイアス電圧印加時に発生する漏れ電流が小さくなる。以上の観点から、本発明を実施する上で最も好ましい遷移金属は、白金である。
【実施例1】
【0046】
次に、本発明のより好ましい実施の形態である実施例1について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の実施例1を示す要部断面図である。
実施例1は、p型アノード層5のチップ外周側端部における形状の実施例である。前記チップ外周側端部とは、活性領域19と終端構造領域20との間の遷移領域、つまり活性領域端部18におけるp型アノード層5の端部である。活性領域端部18において、p型アノード層5のpn接合が深さX
jからn型ドリフト層2の表面に向って徐々に減少する領域の曲率半径のうち、前記曲率半径の値が最も長い値をL
jとする。
図2において、L
jは、pn接合が平面な部分の端部から、pn接合がn型ドリフト層2の表面と交差する箇所までの長さとなる。この曲率半径L
jが、p型アノード層5の拡散深さX
jよりも大きいことが好ましい。さらに前記L
jが、前記X
jの2倍よりも大きいことが好ましい。さらに前記L
jが、前記X
jの3倍よりも大きいことが好ましい。
【0047】
実施例1の作用効果について、図を用いて以下に説明する。
図3は、実施例1の作用効果を説明するための要部断面模式図である。
図3(a)は、酸化膜15の開口端部54において、pn接合55が円筒状に湾曲した場合の断面模式図である。
【0048】
例えば
図3(a)の紙面奥行き方向にてストライプ状に酸化膜15をパターンし、前記酸化膜15をマスクとして、ボロンをイオン注入でシリコン基板表面に注入し、熱拡散をさせたときを考える。熱拡散をさせた後、開口端部54では、よく知られているようにpn接合55はボロンの横方向拡散により円筒状に湾曲する。このように円筒状に湾曲したpn接合55に逆バイアス電圧を印加すると、空乏層52はpn接合55の形状を反映して、n型ドリフト層2にも湾曲して広がる。このとき湾曲部の空乏層52の電界強度は、平面接合の場合よりも電界強度が高くなる。
【0049】
そこで、前記p型アノード層5の円筒の半径(つまり曲率半径)がどれだけ大きくなれば、電界強度が平面接合と同程度に緩和されるかを調べるために、円筒状の空乏層52において電界強度がどれだけ高くなるかを見積もってみる。
【0050】
まず
図3(a)に示すように、p型アノード層5が半径r
jにて円筒状に分布しているとする。つまりpn接合55は円筒状の形状であり、以下円筒接合と呼ぶ。また、pn接合55に逆バイアス電圧が印加されたときに広がる空乏層52は半径r
dの円筒状にn型ドリフト層2の中を広がるとする。このときr
dは空乏層52の端部までの空乏層幅となる。ここで、p型アノード層内部に広がる空乏層の幅は、簡単のために無視できるほど十分小さいとする。空乏層の広がりが動径方向のみに依存する、つまり等方的であるとすると、空乏層52の任意の深さrにおいては、電界強度Eの空間勾配(発散)は動径方向のみを考慮した円筒座標系のポアソンの式に従う。そのため、ポアソンの式は以下のようになる。
【0051】
【数2】
ここで、N
Dはn型ドリフト層のドナー濃度、qは電荷素量、ε
Sはシリコンの誘電率である。さらに、高い電圧が印加されて空乏層52が十分広く広がったときを考えて、r
dはpn接合の深さr
jに対して、r
j≪r
dであるとする。この近似条件とr
dにおける電界強度が0であるという境界条件を用いて式(2)を解くと、距離がpn接合の位置であるr
jにおける電界強度が最大電界強度となり、その値は次式のように表される。
【0052】
【数3】
ここで、E
Cylは、円筒接合の場合の電界強度という意味である。印加された電圧がある値Φ
0であるとすると、Φ
0は電界分布を距離r
jからr
dまで積分した値に比例するから、r
j≪r
dを考慮すると、Φ
0は式(3)から、
【0053】
【数4】
となる。
【0054】
次に、
図3(b)に示す平面接合における最大電界強度を見積もる。
平面接合では、空乏層は深さ方向に1次元的に広がるので、電界強度Eの空間勾配(発散)は深さ方向(x方向)のみを考慮したデカルト座標系のポアソンの式である、
【0055】
【数5】
に従う。ここで前記の円筒接合と同様に、高い電圧が印加されて空乏層52が十分広く広がったときを考えて、空乏層幅x
dは、pn接合55の深さx
jに対して、x
j≪x
dであるとする。この近似条件とx
dにおける電界強度が0であるという境界条件を用いて式(5)を解くと、距離がpn接合の位置であるx
jにおける電界強度が最大電界強度となり、次式のように近似的に表すことができる。
【0056】
【数6】
ここで、E
PPは、平面接合の場合の電界強度という意味である。印加された電圧がある値Φ
0であるとすると、Φ
0は電界分布を距離x
jからx
dまで積分した値に比例するから、x
j≪x
dを考慮すると、Φ
0は式(6)から、
【0057】
【数7】
となる。
【0058】
円筒接合と同じΦ
0の電圧が前記平面接合にも印加されたときに式(4)と式(7)が等しくなると仮定すると、r
dとx
dは次式のようになる。
【0059】
【数8】
よって円筒接合における最大電界強度と平面接合の最大電界強度の比βは、式(8)を式(6)に代入し、式(3)と式(6)から、
【0060】
【数9】
となる。
【0061】
まず式(8)において、r
jをパラメータとしたときのr
dとx
dの関係を、
図4(a)に示す。円筒接合では空乏層は横方向(n型ドリフト層2の表面に水平な方向)にも広がるので、
図3(a)において円筒状のp型アノード層5からn型ドリフト層2の空乏層52に供給できる空間電荷量は、平面接合の場合よりも小さくなる。そのため、n型ドリフト層2の空乏層52の空乏層幅r
dは、平面接合の空乏層幅x
dよりも小さくなる。
図4(a)によれば、r
jが小さいほど、つまりpn接合55の半径が小さいほど、x
dとr
dの比は大きくなっている。
【0062】
次に前記のx
dとr
dの関係を元に、平面接合において空乏層がx
dだけ広がったときの、円筒接合と平面接合における最大電界強度の比β(式(9))の値を見積もる。
まず定格電圧が300Vの場合を考える。この定格電圧のダイオードは、例えば電源回路に用いられる低損失リカバリーダイオード(Low Loss Diode,LLD)などがある。ダイオードへの印加電圧が300Vの場合、平面接合にて広がる空乏層幅x
dは、n型ドリフト層2のドナー濃度にもよるが、30〜50μm程度であり、典型的には40μm程度である。そして、p型アノード層の深さr
j(=x
j)が、0.5〜3.0μmであるとする。このときに、式(9)から電界強度比βとr
dの関係は、
図4(b)のようになる。例えばr
jが1.0μmのとき、平面接合でx
dが40μm広がるとすると、円筒接合ではr
dが
図4(a)から約15μmとなる。このときのr
jとr
dの値におけるβは、
図4(b)から、2.8となる。つまり、平面接合に対して円筒接合の最大電界強度は2.8倍となる。アバランシェ降伏のインパクトイオン化率は電界強度に対して極めて敏感に増加する。例えば電界強度が前記のように2.8倍増加すれば、インパクトイオン化率は1桁以上増加する。これに対してr
jが2.0μmになったとする。すると、x
dが40μmのときに円筒接合のr
dは同じく約18μmとなる。このときβは同じく1.0倍となり、平面接合の最大電界強度と等しい大きさまで減少する。単純に考えれば、x
jが1.0μmの平面接合の端部に、r
jが2.0μmの円筒接合を設ければよいことになる。しかしながら、1つの遷移金属に対して拡散係数は一義的に決まるから、1回の拡散でこのように平面接合と端部の円筒接合で異なる深さの接合を形成することはできない。
【0063】
そこで、
図2に示すように、pn接合の端部からシリコン基板の表面に平行な方向に向って徐々に濃度が減少する横方向拡散部分の長さL
jを、X
jよりも長くする。このようにすることで、pn接合の曲率半径はX
jよりも実効的に大きくなるので、前記の考察におけるr
jをX
jよりも大きくした構造と等価になる。
【0064】
実際の解析には、曲率半径を可変にしたことで空乏層の等方性が崩れるので、方位角方向の成分も考慮しなければならない。しかしながらL
jがX
jよりも大きい場合のみを考えるので、上記の等方的な考察よりも電界強度は緩和される方向であり、上記の等方的な考察でも電界強度比βの見積もりは十分成り立つ。上記のように定格電圧が300Vの例では、L
jがX
j(1.0μm)の2倍となれば、最大電界強度比βが1.0となり、平面接合と同じ電界強度となるので、耐圧の低下が抑えられる。
【0065】
次に、定格電圧が1200Vの場合を考える。この定格電圧のダイオードは、例えば同じ1200Vクラスの絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を用いたインバータ等に併用される還流ダイオード(Free Wheeling Diode,FWD)がある。印加電圧が1200Vの場合、平面接合にて広がる空乏層幅x
dは、120〜250μm程度であり、典型的には200μm程度である。そして、p型アノード層の深さr
j(=x
j)は、典型的には1.0〜5.0μmである。このとき式(9)から、電界強度比βとr
dの関係は
図4(c)のようになる。ここで、
図4(b)と同図(c)は、r
jが同じであれば曲線も同じ曲線であることに注意する。例えばr
jが2.0μmのとき、平面接合でx
dが200μm広がるとすると、円筒接合ではr
dが
図4(a)から約59μmとなる。このときのβは、
図4(c)から、約2.2となる。つまり、平面接合に対して円筒接合の最大電界強度は2.2倍となる。前述の300Vクラスの考察と同様に、電界強度が前記のように2.2倍増加すれば、インパクトイオン化率は1桁以上増加する。一方、r
jを2.0μmから3.0μmに1.5倍だけ増加させたとする。すると、x
dが200μmのときに円筒接合のr
dは同じく約65μmとなる。このときβは1.2倍となり、平面接合の最大電界強度近い値まで減少する。耐圧が1200Vの例でも、L
jがX
j(1.0μm)の1.5倍となれば、最大電界強度比βが1.2となり、平面接合に十分近い電界強度となるので、やはり耐圧の低下が抑えられる。
【0066】
ここで、実際にはβの見積もりは、式(8)と式(9)から、平面接合における空乏層幅x
dとp型アノード層の拡散深さr
j(=x
j)さえわかれば、求められる。すなわち定格電圧によらずに、広がる空乏層幅さえ決まれば、βの見積もりは行えることになる。それゆえ、実施例1の構造においてL
jとx
jの比が決まれば、円筒接合と平面接合の最大電界強度比βは、一義的に求めることができる。つまり、実施例1の冒頭で述べた、「前記p型アノード層5の円筒の半径(つまり曲率半径)がどれだけ大きくなれば、電界強度が平面接合と同程度に緩和されるか」は、普遍的に求めることができる。そこで、前述の300Vクラス、および1200Vクラスの考察を拡張し、X
j(=r
j)と平面接合の空乏層幅x
dについて、さまざまな組合せを考えて計算した結果が、
図5に示したグラフである。
図5は、
図2のp型アノード層5の拡散深さX
jに対する活性領域端部18の長さL
j(つまり、p型アノード層端部の横方向長さ)に対する、平面接合と円筒接合の最大電界強度比βの依存性を示した特性図である。まずL
jがX
jと同じときには、βは約2.8である。次にL
jがX
jよりも大きくなる、つまりL
jとX
jの比を1以上とすることだけで、電界強度比βは3倍よりも急速に小さくなるという効果を奏することが、
図5のグラフから分かる。つまりL
jとX
jの比を1以上とすることが好ましい。例えば、L
jとX
jの比(L
j/X
j)が1.0から1.2に20%増加するだけで、βは約2.3まで減少する。インパクトイオン化率はインパクトイオン化係数の1次関数であるので、インパクトイオン化率も当然、電界強度に極めて敏感に依存する。上記のようにβが2.8から2.3に減少すると、インパクトイオン化率はおよそ1/3にまで減少するので、それだけでもアバランシェ降伏の発生度合いが十分抑えられる。さらにL
jとX
jの比が1.5になれば、βは約1.6まで減少し、インパクトイオン化率は約1/10にまで減少するので、アバランシェ降伏はさらに抑えられる。そしてL
jとX
jの比が2以上であると、電界強度比βは1を下回ることがわかる。つまり、L
jとX
jの比が2以上であれば、アバランシェ降伏はもはや円筒接合ではなく、平面接合で生じるので、素子全体の耐圧は平面接合で決まることが可能である。よって、L
jとX
jの比が2以上であれば、一層好ましい。さらにL
jとX
jの比が3以上であれば、βは0.6近辺で安定するので、実際の電界強度は平面接合と安定的に同じとなり、なお一層好ましい。
【0067】
一方、現実の素子では、p型アノード層がチップ表面において矩形状に形成されることが多く、その場合最大電界強度は直線的な一辺の縁ではなく、四隅の角部になり、pn接合も円筒状から球面上の湾曲となる(以下、簡単に球面接合と呼ぶ)。そのため最大電界強度もさらに増加するので、L
jとX
jの比に対する最大電界強度比βついても、球面接合の効果を考慮する必要がある。2次元においてデカルト座標から円筒座標に座標変換するときのヤコビアンは1/rであり、3次元の極座標の場合は1/(r
2sinθ)であるから、等方的な場合はsinθを1として1/r
2となる。このヤコビアンは、ポアソンの式において、電界ベクトルの発散の係数となるので、ポアソンの式を積分して電界強度を計算する場合に、座標変換による係数が円筒座標のr
2から極座標のr
3となる。つまり大雑把に言えば、円筒接合における2次元の最大電界強度の比が、球面接合になるとさらに3/2(=1.5)乗倍されると思えばよい。従って、例えば平面接合に対して円筒接合の最大電界強度が3倍になれば、球面接合の場合は平面接合の3
1.5倍、つまり約5.2倍となる。すると、L
jとX
jの比に対しては、βが1以下となるのは、2
1.5、つまり約2.8倍である。よって、球面接合の効果を考慮しても、L
jとX
jの比は3以上であることが、なお一層好ましい。勿論、球面効果においても、L
jとX
jの比が1以上、特に2以上であれば、耐圧低下を抑制できることは明らかである。
【0068】
ここで、前述の本発明の基本構成を考えると、本発明ではアクセプタ化した遷移金属を有するp型アノード層を形成する。このアクセプタ化した遷移金属を有するp型アノード層は、通常のボロンからなるp型アノード層に比べて、その拡散深さ(X
j)は浅くなり、0.5〜3μm程度である。そのため、上記のように少なくともL
jがX
j以上とするpn接合端部の形状は、アクセプタ化した遷移金属を有するp型アノード層を備えた本発明のダイオードでは、本質的に不可欠な構成である。また、少なくともL
jをX
jの2倍以上とすることで、湾曲した円筒接合もしくは球面接合の最大電界強度が平面接合と同じ値かそれ以下になることは、本発明において初めて見出された、先行技術からは予測し得ない効果である。
【実施例2】
【0069】
次に、本発明の実施例2について、
図6を用いて説明する。
図6は、本発明の実施例2を示す要部断面図および断面模式図である。
図1に示した本発明の基本構成に対する実施例2の相違点は、反転増進領域43の上面に、反転増進領域43のドーピング濃度よりも高濃度のp型領域3が形成され、且つp型領域3はp型アノード層5の表層ともなっていることである。またp型領域3は、シリコン中でアクセプタとなる典型元素、例えばB(ボロン)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)といった典型元素を導入して、典型元素による点欠陥層40aを形成していることも特徴である。
【0070】
これらの元素を導入する際に、点欠陥、特に空孔、複空孔が発生する。そしてこれらの元素自体が、シリコン中ではアクセプタとなる。そのため、点欠陥を形成しつつ、これらの元素が特に半導体基体表面においてp型アノード層5の濃度が増えて、電極とのコンタクトが低抵抗となり、順方向電圧などの電気的特性が安定する。
【0071】
また、後述するように、前述の典型元素は、基本的に点欠陥として導入される。例えば、前記の典型元素をイオン注入で導入した後の熱履歴は、温度を1000℃以下、および前記温度を維持する時間も例えば10分以上2時間以下、好ましくは1時間以下として、点欠陥が結晶格子にできるだけ回復しないようにする。つまり導入された点欠陥により、再結合中心濃度も熱平衡濃度より大きくなる。そのため、これらの元素の濃度が高い領域では、ライフタイムが小さくなり、少数キャリア(この場合は正孔)のn型ドリフト層2への注入が抑えられる。その結果、遷移金属のアクセプタ化が点欠陥により増進されて反転増進領域43が形成されることでp型アノード層5の濃度が増加するにも関わらず、ダイオードの逆回復電流も低減され、ソフトリカバリーとなる。
【0072】
さらに実施例2を応用して、終端構造領域のガードリング層あるいはチャネルストッパー領域を形成した構造を説明する。
図7(a)は、この発明の実施例2にかかる半導体装置の要部断面図である。
図7(b)は、同図(a)の中心部の断面A−A'に沿ったドーピング濃度分布図である。活性領域19の平面接合部分、つまりpn接合がn型ドリフト層2の表面に平行で且つ一様な部分については、
図6と同じ構成である。そして活性領域端部18については、
図7の破線で囲った領域Pは、実施例1にて述べた好ましい範囲の構成であるとする。活性領域19のp型アノード層5は、典型元素による点欠陥層40aによりアクセプタ化が増強された反転増進領域43とp型領域3を備えている。そしてp型アノード層5は、アノード電極6と接している。さらに、このp型アノード層5と同じ構成を、終端構造領域20におけるp型ガードリング領域3aとチャネルストッパー領域4も備えている。このp型ガードリング領域3aとチャネルストッパー領域4は、フィールドプレート36と接している。p型ガードリング領域3aとチャネルストッパー領域4は、そのチップ外周側もしくは内周側の端部が、実施例1に示した好ましい構成を備えており、その点はp型アノード層5の領域Pと同様である。なおp型ガードリング領域3aは、
図7では片方の終端構造領域20あたりで1個となっているが、定格電圧に応じて、2個以上であってもかまわない。また、定格電圧が低い場合(例えば100V)は、終端構造領域20において、p型ガードリング領域を省略してチャネルストッパー領域4だけでも構わない。
【0073】
次に、
図7(a)に示した実施例2の具体的な構成について説明する。
n型半導体基板1はAsドープの基板、n型ドリフト層2はリンドープのエピタキシャル成長層である。たとえばn型半導体基板1の厚さは500μmであり、その不純物濃度は2E19/cm
3である。また、たとえばn型ドリフト層2の厚さは8μmであり、その不純物濃度は2E15/cm
3である。n型ドリフト層2の表面の一部は酸化膜15により被覆されており酸化膜15のチップ外周側もしくは内周側端部は、順テーパーである。p型アノード層5、p型ガードリング領域3a、チャネルストッパー領域4はいずれも、典型元素による点欠陥層40aによって遷移金属のアクセプタが増強された反転増進領域43を備えている。さらに反転増進領域43の上面には、反転増進領域43よりも高濃度のp型領域3が接している。前記反転増進領域43は、アクセプタ化した遷移金属を備えており、ここでは白金を用いている。この反転増進領域43は、n型ドリフト層2の表面にて酸化膜15が開口している領域の下部及び酸化膜15端部のテーパー部にかけて形成されている。反転増進領域43の接合深さはたとえば0.5〜3μmである。この反転増進領域43は、n型ドリフト層2の表面近傍領域にパイルアップした高濃度の遷移金属のアクセプタ化によって、n型ドリフト層2がp型に反転してできたものである。反転増進領域43の深さは、n型ドリフト層2へのイオン注入等により導入された典型元素による点欠陥層40aの深さ、遷移金属の熱拡散条件およびその後の熱処理条件によって変化する。またpn接合部の端部の濃度分布は、酸化膜のテーパー形状、酸化膜リン濃度により制御することができる。裏面のカソード電極7は、n型半導体基板1の裏面に接するように形成されている。また、チャネルストッパー領域4は、n型ドーパントの拡散によりn型のチャネルストッパー領域としてもかまわない。
【0074】
p型ガードリング領域3aのチップ内周側および外周側端部においても、逆バイアス電圧印加時には、電界強度が増加する。この電界強度の増加はp型アノード層5の活性領域端部18と同じ理由であり、円筒接合もしくは球面接合による作用である。それゆえ、p型ガードリング領域3aについても、p型アノード層5と同様に、チップ外周側および内周側端部の形状を、実施例1における構成を満たすようにすることが、当然好ましい。また、後述するように実施例2のp型ガードリング領域3aは、p型アノード層5と同じ工程にて形成が可能となるので、
図24に示す先行技術のようなp型ガードリング領域3a形成用の別工程は不要となり、製造コストを大幅に減らすことができる。チャネルストッパー領域4についても、p型ガードリング領域3aと同様に形成して前記の効果を奏することが可能である。
【実施例3】
【0075】
次に、本発明の実施例3について、
図8を用いて説明する。
図8は、本発明の実施例3を示す要部断面図および断面模式図とである。実施例3の特徴は、
図1に示した本発明の基本構成において、遷移金属のアクセプタ化を増強させるために導入する点欠陥層が、希ガス元素を含むことである。つまり、点欠陥層は希ガス元素による点欠陥層40bである。希ガス元素は、He(ヘリウム)、Ne(ネオン),Ar(アルゴン),Kr(クリプトン),Xe(キセノン)、Rn(ラドン)のいずれかである。あるいは、これらを組合せて注入しても構わない。
【0076】
実施例2の場合、
図6に示すp型領域3があることで、典型元素による点欠陥層40aの結晶性がある程度回復すると、少数キャリア(正孔)の注入効率も増加することがある。特にp型領域3からの正孔の注入を極力抑えたい場合は、点欠陥として導入した物質が、シリコン中でアクセプタ化しない元素が好ましい。そこで実施例3のように希ガス元素をイオン注入することで点欠陥を導入すれば、余計なアクセプタ化を抑えることができ、且つ空孔を主体とする点欠陥も導入できるから、遷移金属のアクセプタ化を増強させることができる。
【実施例4】
【0077】
次に、本発明の実施例4について、
図9を用いて説明する。
図9は、本発明の実施例4を示す要部断面図および断面模式図とである。実施例4の特徴は、
図1に示した本発明の基本構成において、遷移金属のアクセプタ化を増強させるために導入する点欠陥層が、シリコン中でドナー化する元素を含むことである。つまり、点欠陥層はドナー元素による点欠陥層40cである。ドナー化する元素としては、P、As、セレン(Se)、硫黄(S),水素(H)、酸素(O)、リチウム(Li)などである。前記の元素の他にも、ドナー化する元素であれば、原則的には構わない。
【0078】
前述のように実施例2の場合、
図6に示すp型領域3があることで、典型元素による点欠陥層40aの結晶性がある程度回復すると、少数キャリアの注入効率も増加することがある。特にp型領域3からの注入を極力抑えたい場合は、シリコン中でアクセプタ化しない元素が好ましい。そこで、シリコン中でドナー化する元素をイオン注入で導入すれば、空孔を主体とする点欠陥が導入できるから、p型アノード層5のpn接合に近い部分において、遷移金属のアクセプタ化を増強させることができる。さらにドナー元素であるため、シリコン・ウェハーの表面付近ではドナー濃度が高くなり、反転増進領域43の濃度を若干補償し、ネットドーピング濃度が
図9(b)のように減少する。そのために、少数キャリアの注入も抑えることができるので、ソフトリカバリー効果も一層強くすることができる。つまり、ドナー元素の点欠陥により反転増進領域43が形成されてp型アノード層5の濃度が増加する領域ができるにも関わらず、p型アノード層5の表層は濃度が下がって注入効率が低減されて、ソフトリカバリーとなる。
【実施例5】
【0079】
次に実施例5として、実施例2のダイオードを製造する製造方法を説明する。
図10は、本発明の実施例2を製造する代表的な工程における要部断面部分のフロー図である。定格電圧は、200Vとした。以下、遷移金属は白金として説明するが、勿論前述した他の遷移金属を用いても、同様に製造可能である。
(
図10(a))
まず、As(砒素)を含む低抵抗のn型半導体基板1の上面に、n型ドリフト層2を厚さ20μm、比抵抗を10Ωcmにてエピタキシャル成長させる。つづいて、n型ドリフト層2の表面上にたとえば厚さ900nmの酸化膜15を熱酸化にて形成する。次にPOCl
3ガス中1000℃程度で数時間の処理を行い酸化膜表面にリンガラスを形成する。次に酸化膜表面をCF
4+CCl
4混合ガス、パワー300Wのプラズマ中で20秒間のプラズマ処理を行う。ここまでの工程が終了した状態を、
図10(a)に示す。
(
図10(b))
そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、厚さ0.95μmの酸化膜厚(熱酸化膜とリンガラスの合計厚さ)に対して、活性領域の形成領域に対応する部分の酸化膜を除去する。このエッチングにより、活性領域端部における酸化膜開口部のテーパー部の横方向長さL
OTは、4.7μmとなった。このL
OTは、前記酸化膜厚の4.9倍の長さである。つづいて、酸化膜15の残部をマスクとしてn型ドリフト層2にB(ボロン)をイオン注入する。このときのドーズ量は5E15/cm
2であり、加速電圧は50kVである。ここまでの工程が終了した状態を
図10(b)に示す。
(
図10(c))
さらにn型半導体基板1の下面または活性領域を形成する領域のn型ドリフト層2の上面に、白金を1重量%含有したシリカペーストを塗布し、930℃で1時間の熱処理をおこなう。ここまでの工程が終了した状態を
図10(c)に示す。
(
図10(d))
その後、塗布したシリカペーストを弗酸にて除去する。これによって、n型ドリフト層2の活性領域の表面近傍および終端構造領域の表面近傍がp型に反転し、反転増進領域43が形成される。またn型半導体基板1の下面表層にもPtが高濃度に偏析するが、n型半導体基板1は、n型ドーパント濃度が高いため、Ptによるp層への反転は起きない。ここまでの工程が終了した状態を
図10(d)に示す。
(
図10(e))
つづいて、たとえばウェハー表面に厚さ5μmのAl−Si合金をスパッタリングによって積層する。そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、Al−Si合金層を所望の形状にパターニングする。しかる後、N
2雰囲気中で500℃、1時間の熱処理をおこない、p型領域3に接する低抵抗性のアノード電極16を形成する。なお、アノード電極16は、純Alを真空蒸着することにより形成されていてもよい。最後に、n型半導体基板1の裏面にチタン(Ti)、NiおよびAuを真空蒸着もしくはスパッタリングにより積層してカソード電極17を形成する。たとえば、Tiの厚さは0.7μmであり、Niの厚さは0.3μmであり、Auの厚さは0.1μmである。ここまでの工程が終了した状態を
図10(e)に示す。
【0080】
なお実施例5では、白金の熱拡散につづいてアノード電極16とカソード電極17を形成するとしたが、この順番に限らない。たとえば、白金の熱拡散後、アノード電極16およびカソード電極17の形成前に、半導体装置全体の厚さが300μm程度になるように、n型半導体基板1の裏面をバックグラインドにて研削してもよい。そうすれば、シリコンの体積が減少し、放熱特性が向上する。
【0081】
次に、前述の実施例5による製造方法の作用効果を説明する。
まずPtによるn型シリコンのp型反転層の形成について説明する。Ptは、n型シリコンの少なくとも一方の表面より拡散される。Ptは、シリコンの格子間を拡散し、800−1000℃程度の拡散温度で短時間にシリコン・ウェハー全体に拡散し平衡状態に達する。この格子間のPt原子は、シリコン結晶の空孔を介して、シリコン格子位置に配置した時、安定化する。更に、この格子位置のPtがアクセプタ準位を形成すると考えられる。前述のように、具体的な白金拡散のメカニズムは、以下のように考えられている。
Pt(i)+V⇔Pt(s)…(E3)
Pt(i)⇔Pt(s)+I…(E4)
ここで、Pt(i)は格子間Pt原子、Pt(s)は格子位置Pt原子、Vは空孔、IはSi自己格子間原子である。(E1の作用は、フランク・ターンブル(F−T)メカニズム、(E2)の作用は、キックアウトメカニズムと呼ばれる。Pt(s)が、アクセプタとして作用すると考えられる。一方Pt(i)は、拡散速度が、通常ドーパントのBやPに比べて大きく早期にウェハー内で平衡に達し、Pt(s)濃度は、VやIの濃度(分布)によって決まる。よって故意にVを導入することで、Pt(s)濃度分布を制御できる。つまり、シリコンの点欠陥にPtが移動して点欠陥と結合し、Ptが格子位置に配置されることでアクセプタとなる。この点欠陥の濃度が増加することで、アクセプタ化するPtの濃度も増加する。その結果、高濃度で安定なp反転層形成を形成できると、発明者は推測した。またシリコン中のn型不純物との補償でpn接合が形成されるため、シリコン空孔分布が表面近傍にピークを持ち、ウェハー内部では低濃度であることが必要である。一般的に空孔密度は、シリコン・ウェハーの表面で高くなるため、格子位置のPt密度は表面付近で高いU字型分布を取り、従ってPtによるアクセプタ濃度も同様なU字型分布を取ると考えられる。シリコン中のPtの挙動については、n型シリコンへのPt拡散により形成される伝導帯から0.23eVの深い順位がアクセプタとして働き、この準位の密度はU字型分布を取ることが知られている。
【0082】
次に、点欠陥の形成とその導入方法について説明する。点欠陥の導入により、遷移金属のアクセプタ化とその増進効果に欠かせない空孔等が形成される。
点欠陥導入の第1の方法としては、シリコン表面で密度が大きく、シリコン・ウェハープロセスに適合する点欠陥形成手段として、イオン注入法が挙げられる。イオン注入により、シリコン表面から加速されたイオンが入ると、原子または電子雲と衝突を繰り返しながらそのエネルギーを失い最後にシリコン内で停止する。その距離が飛程Rpと呼ばれるパラメータである。上記イオンの減速過程において、原子核との衝突により、シリコン原子の移動に伴う、点欠陥の生成が行われる。この原子との衝突過程は、注入イオンの重さ、大きさや運動エネルギーにより点欠陥形成分布状態が異なる。また夫々のイオン種において、単位面積あたりの注入イオン量が増えれば、点欠陥密度は増加する。通常、n型シリコンに対して、BやAlのイオン注入はアクセプタの形成、AsやPはドナーの形成に使われるが、本発明における点欠陥形成用途としてはどちらでも良い。しかしp型不純物であるBやAlの方が、n型シリコンのp型化にとっては効率的であることは言うまでも無い。またイオン注入法を用いれば、酸化膜とシリコンの飛程の差により厚い酸化膜をマスクとしてシリコン露出面のみに点欠陥を導入することが容易に出来る。
【0083】
点欠陥導入の第2の方法としては、プラズマのシリコン表面の処理が考えられる。
例えば前述したようなCF
4+CCl
4混合ガスを数百ワット以上で長時間の処理を実施すれば、シリコン基板表面付近の点欠陥密度は増加する。この第2の方法では、上記イオン注入ほど深さ方向の制御性は無いが容易に点欠陥の導入が可能である。
【0084】
点欠陥導入の第3の方法としては、前述したヘリウムなどの希ガスのイオン注入や、あるいは電子線の照射が考えられる。加速電圧の調整や、アルミニウム板等の減速材を用いることで、点欠陥密度の深さ方向分布を制御し表面付近の点欠陥濃度を増すことは可能であり、照射回数で点欠陥密度を制御できる。
【0085】
点欠陥導入の第4の方法としては、サンドブラスト法等の微粒子をシリコン表面に衝突させることで、表面付近の点欠陥密度を増加させる方法もある。
点欠陥導入の第5の方法としては、高温での熱処理での表面での点欠陥密度増加である。表面抵抗維持のためには高温でのシリコン表面からのドーパント原子離脱防止のため、ドーパント雰囲気(例えばリン雰囲気)でのアニールが望ましい。
【0086】
以上のように、点欠陥の導入には様々な好ましい方法がある。
次に酸化膜窓内への選択的な遷移金属の導入方法と、それによる選択的なp型の反転増進領域の形成方法について述べる。
【0087】
酸化膜を形成した後に酸化膜を開口し、酸化膜開口部にてシリコンの表面を露出させてからシリコン表面の全面に遷移金属を拡散させると、遷移金属は前記露出部のシリコン表面付近に偏析する。一方、酸化膜下では遷移金属の原子は、Si−SiO
2界面を通ってSiO
2内に取りこまれるため、酸化膜下のシリコン層はp型への反転に至らない。そこで、遷移金属のアクセプタ化によるpn接合を、シリコン表面に選択的に形成のために、Ptの酸化膜取り込みを利用する。このとき、遷移金属のアクセプタ化によるpn接合が、実施例1の如く形成されるようにするには、酸化膜開口部の端部の形状を所望の形状に制御した上で形成し、その後に遷移金属をシリコン内に拡散する。このようにすれば、遷移金属のアクセプタ化によるpn接合の端部の分布形状を制御することができる。なお遷移金属の拡散はシリコン表面の表からでも裏からでもどちらでも良い。なぜならば、シリコン中の遷移金属の拡散係数はボロンなどの典型元素よりも数桁から10桁以上大きい。そのため、表面あるいは裏面のどちらから導入しても、シリコンとシリコン酸化膜界面付近のシリコン中の遷移金属はシリコン酸化膜にとらわれて、シリコン中に抜け出さないからである。更に、酸化膜上にPSG(リンガラス)層を形成するとか、酸化膜表面に高濃度のリンをドープした構造は、酸化膜中への遷移金属の取り込みを助長し、p型の反転増進領域の形成に効果的である。これは、リンガラス層による遷移金属のゲッタリング効果として知られている。リンガラスを用いれば、例えば
図11に示すように、リンを含有しない酸化膜の必要厚さをDとすると、リンガラスはそれよりも薄い厚さdにて白金を取り込むことが可能となる。
【実施例6】
【0088】
次に実施例6として、シリコン表面(つまりn型ドリフト層の表面)に点欠陥を導入する他の導入方法を説明する。
図12は、本発明の実施例5にて示した製造方法において、
図10(b)のシリコン表面へのイオン注入法とは別の点欠陥導入方法を示した要部断面図である。
図12(a)は、シリコンの表面にプラズマ処理を施す方法である。例えばCF
4+CCl
4混合ガスを数百ワット以上で長時間の処理を実施すれば、表面付近の空孔密度は増加する。実施例6の方法では、上記実施例5で用いたイオン注入に比べて、n型ドリフト層2の一層浅い表層に、点欠陥を導入することが可能である。
図12(b)は、実施例3にて述べたような、シリコンの表面に希ガスをイオン注入する方法である。希ガス元素としては、He、Ne,Ar,Kr,Xe、Rnがある。また、希ガスではないが、実施例4にて述べたように、シリコン中でドナーを示す元素であっても構わない。ドナー化する元素としては、P、As、Se、S,H、O、Liなどである。
図12(c)は、シリコンの表面に遷移金属をイオン注入する方法である。遷移金属は、前述のようにシリコンにてアクセプタ化する金属であればよく、Pt、Pd、Ag、Au、Co、V、Ni、Fe、Cr、Mnがある。また、後の拡散工程(
図10(c)に相当)にて導入する遷移金属と同じ遷移金属をイオン注入してもよいし、それ以外で上記の遷移金属であっても構わない。
【実施例7】
【0089】
次に、白金などの遷移金属拡散領域を選択的に形成するためのマスクとなるSiO
2酸化膜厚について述べる。上述のように、プロセス初期に酸化膜を形成し、遷移金属拡散領域を形成する部分を選択的にエッチングする。このとき必要な酸化膜厚は、次式(10)のように求めることができる。拡散源存在下における遷移金属の濃度分布は
【0090】
【数10】
で与えられる。N
Siは遷移金属の濃度、N
0は表面遷移金属濃度、x
Siは遷移金属がシリコンの内部を拡散する距離、D
Siはシリコン中の遷移金属の拡散係数、tは拡散時間である。erfcは相補誤差関数である。拡散係数D
Siは
【0091】
【数11】
であり、D∞は定数、E
aは活性化エネルギー、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。遷移金属が白金の場合、E
aは約2.0 eVである。900℃における白金の拡散係数は約3.0E−8 cm
2/sである。拡散係数については、例えば非特許文献1に記載されている。遷移金属を拡散させるときのシリコン基板の厚さは、例えば300μmである。
【0092】
実際の拡散では、遷移金属は格子間拡散により、短時間でSi全体を拡散する。そのため、例えば遷移金属が白金の場合、拡散温度が900℃、拡散時間が1時間の場合、Si内部の白金濃度が1.0E12/cm
3、拡散深さ300μmとなる。
【0093】
式(10)においてSi内部の遷移金属の濃度をN
Siとして、N
Siがn型ウェハードーピング濃度(例えば1.5E14/cm
3)に等しいとすると、N
Si/N
0が0.04であり、相補誤差関数(erfc)から、x
Si=300μmが得られる。
【0094】
酸化膜中における遷移金属の拡散も同様に
【0095】
【数12】
で表される。x
oxは遷移金属が酸化膜表面から拡散する距離、D
oxは酸化膜中の遷移金属の拡散係数である。シリコン酸化膜中の白金の活性化エネルギーは約0.75eVである。例えば拡散温度が900℃におけるシリコン酸化膜中の白金の拡散係数は、3.0E−14 cm
2/sである。
【0096】
例として、900℃の拡散で白金が0.3μmの酸化膜を突き抜ける時間を計算してみる。式(12)においてx
ox=0.3μmとしてN
OX/N
0が上記の0.04に等しいとすると、相補誤差関数からt=1時間である。つまり白金の拡散時間が1時間程度までは、0.3μm厚酸化膜でマスキング可能であるといえる。実際はSi/SiO
2界面において、シリコン側の拡散係数が大きいために酸化膜側からシリコン側に向けて白金の吸い出しが起こる。
【0097】
以上から、300μm厚のシリコンに900℃で1時間の白金拡散を行った場合、0.3μm以上の厚さの酸化膜をマスクとすれば、選択拡散が可能である。
以上の議論を一般化して、拡散時間がt
dにおいて厚さh
Oxの酸化膜を遷移金属が突き抜けたとすると、遷移金属の酸化膜中の拡散距離x
Oxをh
Oxと置けばよいので、式(12)は、
【0098】
【数13】
となる。N
Dはn型ドーピング濃度であり、例えばn型ドリフト層におけるリンの濃度である。つまり、遷移金属の活性化率を一旦簡単のため100%とおいて、遷移金属の濃度がN
Dと同じ濃度以上になったときに、p型に反転すると仮定する。このときシリコン内部では、シリコン基板の深さ方向全体にわたり遷移金属が拡散するので、シリコン中の遷移金属の拡散距離x
Siをシリコン基板の厚さh
Siすると、式(10)は
【0099】
【数14】
となる。式(13)と式(14)より
【0100】
【数15】
となり、従って、
【0101】
【数16】
となる。遷移金属は、一般的にSi中の拡散が格子間拡散であるから、シリコン中の最大拡散深さは、Si厚さそのものである。よって、マスク酸化膜厚が一定であれば、シリコン中および酸化膜中の遷移金属の拡散係数比の平方根で決まる。つまり、Si中の遷移金属の濃度や拡散時間等のパラメータには一切依存しない。なお、遷移金属拡散の活性化エネルギーは、シリコン中と酸化膜中で異なるが、白金を拡散する温度は通常800℃から1000℃の間であり、拡散係数の変化はどちらの媒質中においても、1桁程度である。よって温度を変えた拡散係数比はほとんど変化しないと考えてよい。それゆえ、前記の900℃の各拡散係数の値を用いると、シリコン中の白金の拡散係数と酸化膜中の白金の拡散係数の比の平方根は、1000となる。
【0102】
以上の解析より、マスク酸化膜厚が決まれば、シリコン中の最大拡散深さは一義的に決まる。つまり、白金のシリコンへの侵入を阻止する最低限の厚さをh
thとおくと、h
thは
【0103】
【数17】
となる。例えば上記のようにSi厚さが300μmにおいては、式(17)と(16)から、最低限必要な酸化膜厚h
thは0.3μmである。よって、これよりも厚い酸化膜であれば、白金の選択的導入が可能である。これまでの解析は拡散源存在下における拡散を考えてきたが、イオン注入のような遷移金属の総不純物量が一定の場合でも、式(16)と同様の結果となる。そのため、Siへの選択的導入に最低限必要なマスク酸化膜厚は同じ厚さでよい。
【0104】
以上の考察から、遷移金属をシリコン中へ選択的に導入するときに必要なマスクとなる酸化膜の厚さh
oxは、
【0105】
【数18】
を満たせばよい。
【実施例8】
【0106】
次に、実施例1にて述べた曲率のpn接合の端部形状を得るために、マスクとなる酸化膜15に必要な形状について説明する。
実施例1にて述べた活性領域端部18のp型アノード層5の形状を形成するには、
図2に示すように、酸化膜15の厚さh
oxと、活性領域端部18における酸化膜15のテーパー部の横方向長さL
OTを決めないとならない。
図2から酸化膜15のテーパー部の頂角αは、h
thを用いて、
【0107】
【数19】
のように表すことができる。ここで、ηはL
jとx
jの比(L
j/x
j)であり、実施例1にて述べた好ましい範囲である1以上を満たす係数である。つまり、できるだけ曲率半径の大きい円筒接合(あるいは球面接合)となるように、頂角αの正接よりも酸化膜厚さh
oxとテーパー部の横方向長さL
OTの比は小さいことが好ましい。よって、L
OTは、下記の式
【0108】
【数20】
を満たすことが好ましい。
【0109】
例えば、遷移金属が白金とし、白金の拡散温度が930℃とする。白金を拡散させるときのシリコン基板の厚さ(h
Si)を300μmとすると、実施例7の記載から、拡散温度が930℃においても式(16)の比はほとんど変わらないので、h
thは、0.3μmとなる。一方、白金拡散を行うときのシリコン酸化膜厚さh
Oxを決める際には、酸化膜下のシリコンへ白金が侵入することを確実に防ぐために、シリコン酸化膜の厚さにマージンを持たせる。例えば白金拡散前の酸化膜の厚さを1.0μmとする。この酸化膜の厚さは、熱酸化膜の他にリンガラスなどの堆積膜を含んでいてもよい。そして、白金のアクセプタ化によるp型の反転増進領域の深さをx
jを1.0μmとする。前述のηは、例えば簡単に1とする。これらの値を式(19)に代入すると、L
OTは3.3μm以上であることが好ましい。酸化膜がさらに厚くなると、L
OTは3.3μmよりも長くしないとならない。また、Ljとxjの比ηを1から2に増加させると、L
OTは6.6μm以上となる。
【0110】
以上の議論から、酸化膜テーパー部のシリコン表面に平行な成分の長さL
OTが、式(19)を満たすように、酸化膜エッチングの制御をすればよい。酸化膜エッチングの制御とは、酸化膜表層に与えるダメージの度合いとそれを決めるプラズマ処理の条件であるとか、HFの温度、シリコン基板をHFに浸漬する時間などを、制御することである。
【実施例9】
【0111】
次に、マスクとなる酸化膜の開口部の端部についての好ましい形状である実施例9について説明する。
図13は、本発明の実施例7のマスク酸化膜の形状において、より好ましい形状を示した要部断面図である。実施例9の特徴は、酸化膜15の開口端部のテーパーの斜面を、実施例1に示した平坦な斜面から、
図13に示すように下に凸の斜面とすることである。
下に凸の形状には、
図13(a)のように2種類かそれ以上の平坦な斜面の組合せとか、
図13(b)のように湾曲した平面などがある。
【0112】
円筒接合もしくは球面接合では、逆バイアス電圧印加時の増加する電界強度は、平面接合端部にちかい湾曲部分の曲率に伴って増加する。そこで、テーパーをこのように下に凸の形状にすると、湾曲し始める部分の曲率が小さくでき、且つ外周側(紙面の左側)にpn接合が延長する。それゆえ、前述の湾曲部分の電界強度を緩和することができる。また、pn接合端部の湾曲部の幅を同じとしたときに、下に凸の形状の方がテーパーの幅を短くすることができる。
【0113】
図14は、酸化膜表面へのプラズマ処理後の弗化水素酸(HF)によるエッチング形状を示す断面図であり、電子顕微鏡写真から酸化膜15(SiO
2)とシリコン(Si)の境界を抽出した図である。
図14のシリコンとは、ダイオードではn型ドリフト層2のことである。
図14(a)は、リンを高濃度にドープした酸化膜上をCF
4+CCl
4混合ガス、パワー300Wのプラズマ中で20秒間のプラズマ処理を行った後に、フォトレジストをマスクとしてHFエッチングした酸化膜の端部である。これに対して
図14(b)は、上記プラズマ処理を行わずに酸化膜をHFエッチングした酸化膜の端部である。明らかに酸化膜上のプラズマ処理により、酸化膜厚傾斜部長さL
OTは増加し、テーパー角度は緩やかになり、しかもテーパー部は下に凹の形状になっている。上記のプラズマ処理とは別に、ドーズ量が1E14/cm
2、加速電圧が50keVにおけるリンイオン注入によっても、ほぼ同様なエッチング形状が得られた。
【実施例10】
【0114】
次に実施例10として、マスクとなる酸化膜の表面ダメージ導入とサイドエッチング効果説明する。
図15は、本発明の実施例9のマスク酸化膜の形状を形成する方法を示した要部断面模式図である。実施例10の特徴は、酸化膜として例えばリンガラス46の表層にダメージ48を導入し、HFを用いてウェットエッチングすることである。ここでダメージとは、一様に形成された絶縁膜の表面に、絶縁膜の原子あるいは分子の結合が切れた状態、あるいはもっと長い距離のオーダーにて不規則な傷や凹凸が入った状態(いわゆる荒れた状態)が形成された状態等、のことである。
【0115】
表面にダメージを与えられたリンガラス46(勿論、通常の熱酸化膜でも構わない)は、特にその表面部分において、HFにて行うウェットエッチングのエッチングレートが増加する。その結果、ダメージの度合いにあわせて酸化膜の表面のエッチングが急速に進行し、後に述べるようにテーパー型の形状となる。特にウェットエッチングであれば、ダメージにあわせてエッチャントがしみこむことができ、一層テーパー型の形状を形成することができる。
【実施例11】
【0116】
次に実施例11として、マスクとなる酸化膜の表面へのダメージ導入方法について、実施例5とは異なる方法を説明する。
図16は、本発明の実施例9のマスク酸化膜の表層にダメージを導入する方法について、イオン注入法による導入方法を示した要部断面図である。
図16(a)では、イオン注入にて酸化膜15の表層にダメージを導入する。注入するイオンは例えばシリコン、リン、砒素、ボロン等シリコンにドープする元素、といったもので、イオン注入できる元素ならば構わない。また、BF
2などの化合物でも勿論構わない。ただし、酸化膜中に電荷を誘起する元素、例えばNaなどの希土類などは、その導入条件に注意を必要とする。
図16(b)では、その中でも水素、希ガスの例を示している。
【0117】
イオン注入により酸化膜表面にダメージが導入されるので、サイドエッチングの促進ができる。
【実施例12】
【0118】
次に実施例12として、遷移金属の導入方法について、実施例5とは異なる方法を説明する。
図17は、本発明の実施例5とは別の遷移金属(以下、白金)の導入方法を示した要部断面図である。
【0119】
図17(a)では酸化膜15を開口後、実施例5とは異なり、白金を含むシリカペースト30を、n型ドリフト層2の表面に塗布して、800〜1000℃程度の温度で10分〜2時間ほど加熱して遷移金属を拡散させる。特に実施例5よりも小さいサーマルバジェットであると良い。例えば、拡散温度が800〜900℃、拡散時間が10分〜1時間である。実施例12では、850℃、30分とした。実施例5の裏面塗布拡散と比べて、シリコン基板の上面側の白金を下面側よりも多く分布させることができる。そのため、n型ドリフト層2における少数キャリアのライフタイムは、p型アノード層5の側をn型半導体基板1よりも相対的に短くなるので、ソフトリカバリーとなる。
【0120】
図17(b)では酸化膜15を開口後、n型ドリフト層2の表面に、白金を蒸着あるいはスパッタリングにより成膜し、1000℃程度の温度で熱処理をして白金シリサイド31を形成するとともに、この白金シリサイド31から白金をシリコン中に拡散させる。あるいは白金を酸化膜15の開口部とその近傍のみに残るように白金をパターニングし、その後加熱処理で白金シリサイド31を形成してもよい。白金シリサイド31とSiの界面は、Al−Si合金とSiの界面に見られるようなSiの移動による界面の段差が生じないので、平坦であり、Siへのスパイキングも生じない。そのため、耐圧や漏れ電流、コンタクト抵抗も長期にわたり安定である。白金以外の前述の遷移金属においても、Pd(パラジウム)、Au(金)、Co(コバルト)、V(バナジウム)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)はシリサイドを形成するので、好ましい。
【0121】
なお、本発明のように遷移金属のアクセプタ化と点欠陥によるアクセプタ化の反転増進作用を用いてp型アノード層を形成する場合、通常のボロンの熱拡散による形成よりも相対的に拡散深さ(X
j)が小さくなる。そのため、アノード電極をAlもしくはAl−Si合金を直接 p型アノード層とコンタクトさせると、前述のスパイキングや段差がpn接合に到達する確率が大きくなる。その結果、漏れ電流不良、あるいは耐圧不良が生じ易い。そこで、遷移金属のシリサイドを用いれば、はるかに平坦なシリコン界面が形成できるので、上記の不良も低減できる。
【0122】
図17(c)では、酸化膜15を開口後、白金イオン注入32を行い、800〜1000℃の温度で熱拡散を行う。白金イオン注入32は、注入のビーム電流によりドーズ量を正確に制御できるので、白金導入量を一層精度良く形成する場合に好ましい。勿論、白金以外の上記遷移金属をイオン注入することも可能である。
【実施例13】
【0123】
次に実施例13として、遷移金属の導入方法とp型アノード層の変形例について、説明する。
図18(a)は、本発明の実施例5の点欠陥を導入する工程(
図10(b))の変形例を示す断面模式図である。
図18(a)に示すように、活性領域19にて点欠陥を導入しない部分に酸化膜15が選択的に残るようにパターニングする。その後、ボロンなどのイオン注入か、あるいはプラズマダメージ処理をする。このように点欠陥を活性領域19において選択的に導入することで、その導入領域のみにて遷移金属のアクセプタ化を増進させるようにしたことが、特徴である。アノード電極はAlあるいはAl−Si合金、もしくは前述の遷移金属のシリサイドなどである。他に
図18(b)では、点欠陥濃度を比較的小さく導入するか、あるいは遷移金属の導入量を比較的小さくすることで、n型ドリフト層2がp型アノード層5を介さずにアノード電極6に直接接する領域を形成する。ここでn型ドリフト層2とアノード電極6はショットキー接触となる。アノード電極はAlあるいはAl−Si合金、もしくは前述の遷移金属のシリサイドなどである。
【0124】
他に本発明の実施例5における点欠陥を導入する工程(
図10(b))にて、
図19(a)に示すように、活性領域19の点欠陥を導入しない部分にフォトレジスト49を形成し、ボロンなどのイオンを注入する。この
図19(b)においても、点欠陥を活性領域19において選択的に導入することで、その導入領域においてのみ遷移金属のアクセプタ化を増進させるようにしている。さらに点欠陥濃度を比較的小さく導入するか、あるいは遷移金属の導入量を比較的小さくすることで、n型ドリフト層2がp型アノード層5を介さずにアノード電極6に直接接する領域を形成する。アノード電極はAlあるいはAl−Si合金、もしくは前述の遷移金属のシリサイドなどである。上記のようにすることで、点欠陥が選択的に導入され、前記導入領域はp型領域3となるが、p型アノード層5全体は活性領域19全面に渡りつながるような構造となる。
【0125】
なお、
図18のように活性領域19において酸化膜15を選択的に残し、且つ点欠陥濃度を比較的小さく導入するか、あるいは遷移金属の導入量を比較的小さくすれば、
図19の(b)のようなp型アノード層5の形状とすることもできる。さらに
図19のように活性領域19においてレジストを用いて選択的に点欠陥を導入する方法でも、
図18の(b)のようなp型アノード層5の形状とすることもできる。
【0126】
また、活性領域19においてエッチング後に残る酸化膜15の開口部を、例えば細いストライプとし、周期的に繰り返すパターンとする。あるいは、前記開口部を、三角格子や矩形格子、六角格子状に分布するドット状、あるいは同じくリング状とすることもできる。以上のような酸化膜15の開口部の分布パターンとすることで、それに応じてp型アノード層5が規則的に分布するので、耐圧を劣化させることなく、少数キャリアの注入効率を低下させることができる。さらに活性領域19と活性領域端部(
図2の活性領域端部18に対応)のみにおいて、酸化膜15を残す領域と開口させる領域を反転させてもよい。
【0127】
以上のように点欠陥を活性領域において選択的に導入することで、p型アノード層5の実効的なドーズ量が小さくなるので、少数キャリアの注入効率が小さくなり、ソフトリカバリーとなる。
【実施例14】
【0128】
次に実施例14として、半導体基板をエピタキシャル・ウェハーではなく、FZバルクウェハーを用いる方法について説明する。
図20は、実施例14における本発明の製造方法を示した要部断面部分のフロー図である。以下、遷移金属は白金として説明するが、勿論前述した他の遷移金属を用いても、同様に製造可能である。
(
図20(a))
まず、n型で不純物濃度が2E14/cm
3であり、厚さが400μmのFZ基板50の上面に、たとえば厚さ900nmの酸化膜15を熱酸化にて形成する。次にPOCl
3ガス雰囲気にて1000℃程度で数時間の加熱処理を行い、酸化膜15表面にリンガラスを形成する。なお
図20(a)から同図(f)に示す酸化膜15は、その上面表層にリンガラスを含んでいるものとする。次に酸化膜15の表面をCF
4+CCl
4混合ガス、パワー300Wのプラズマにて、20秒間のプラズマ処理を行う。ここまでの工程が終了した状態を、
図20(a)に示す。
(
図20(b))
そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、後にp型の反転増強領域を形成する部分の酸化膜を除去する。つづいて、酸化膜15の残部をマスクとしてn型ドリフト層2にB(ボロン)をイオン注入する。このときのドーズ量は例えば5E15/cm
2であり、加速電圧は50kVである。ここまでの工程が終了した状態を
図20(b)に示す。
(
図20(c))
さらにFZ基板50の上面に、白金を1重量%含有したシリカペーストを塗布し、930℃で1時間の熱処理をおこなう。ここまでの工程が終了した状態を
図20(c)に示す。
(
図20(d))
その後、HFのエッチング時間を制御して、塗布したシリカペーストのみ除去する。これによって、n型ドリフト層2の活性領域の表面近傍および終端構造領域の表面近傍がp型に反転し、反転増進領域43が形成される。ここまでの工程が終了した状態を
図20(d)に示す。
(
図20(e))
つづいて、たとえばウェハー面に厚さ5μmのAl−Si合金をスパッタリングによって積層する。そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、Al−Si合金層を所望の形状にパターニングする。しかる後、N
2雰囲気中で400℃乃至500℃、1時間の熱処理(シンター)をおこない、p型領域3に接する低抵抗性のアノード電極16を形成する。なお、アノード電極6は、純Alを真空蒸着することにより形成されていてもよい。また、前記シンターの後にパシベーション膜としてポリイミドあるいはシリコン窒化膜を形成し、アノード電極のパッド(ダイオードを樹脂等でパッケージングするときにアルミワイヤあるいはリードフレームを接続する領域)のみ開口するようにしても構わない。続いて、FZ基板50を裏面側から、たとえば60μmの厚さとなるように研削51を施す。ここまでの工程が終了した状態を
図20(e)に示す。
(
図20(f))
そして、必要に応じてウェットエッチングにより研削面を滑らかする。その後、FZ基板50の裏面とカソード電極17とを低抵抗で接触させるため、FZ基板50の裏面からPあるいはAs等のn型のドーパントを、たとえば1E15/cm
2のドーズ量にてイオン注入する。その後、前記注入したドーパントの裏面表層濃度が1E19/cm
3以上となるようにレーザーアニールもしくは電気炉によるアニールを行い、n型カソード層56を形成する。そして、n型カソード層56に接するように、カソード電極17を真空蒸着もしくはスパッタリングにより形成する。ここまでの工程が終了した状態を
図10(f)に示す。
【0129】
実施例14のようにFZ基板50用いると、上述したエピタキシャル成長させたウェハーよりもシリコン基板が安価となる。一方、FZウェハーを用いる場合は、Pt拡散によるp反転層形成後に、裏面のp層を含むシリコン層を機械的研磨または化学的研磨により除去する必要がある。白金拡散を行う前にFZウェハーの裏面側を削り取ると、裏面の研削面もn型ドリフト層2と同じキャリア濃度であるため、Pt拡散により白金が裏面の表層に偏析し、P型反転層が裏面表面付近にも形成されてしまう。これを防ぐために、例えば裏面に酸化膜を形成後に表面からPtを拡散する手段もあるが、p層の形成に至らなくても補償効果により裏面表面側でのキャリア濃度の低下(低効率の増加)となる。そのため、少なくとも白金が偏析しているFZウェハーの裏面側の領域を削り取らないと、耐圧、コンタクト特性が悪くなる。そこで実施例14の方法のように白金拡散の後の段階で裏面側の研削を行えば、特性が劣化すること無く、安価で容易に本発明のダイオードを製造することが可能となる。
【実施例15】
【0130】
次に、実施例5の方法にて製造した実施例2のダイオードについて、p型アノード層とn型ドリフト層の深さ10μmまでの濃度分布を説明する。
図21は、実施例5の製造方法および従来の製造方法にて製造したダイオードの活性領域について、深さ方向のキャリア濃度分布を、広がり抵抗測定により測定した結果の図である。測定は、Solid−State Measurement社の広がり抵抗測定装置、SSM−2000にて行った。評価サンプルは、角度が5°44'のマウントを用いて、斜め研磨法により深さ方向の断面を露出させた。サンプルは、点欠陥を導入するためにボロンをドーズ量が1E14/cm
2、加速エネルギーが100keVにてイオン注入(インプラ)したあとに、白金拡散を前述の実施例5の条件にて拡散させた。一方比較対象として、前記ボロンイオン注入をせずに白金拡散を同条件で行ったサンプルも用意した。白金のアクセプタ化によるp型層は、表面からの深さが0〜1μmまでの範囲である。
図21から明らかなように、ボロンイオン注入を行ったサンプルの方が、p型層のキャリア濃度が1桁以上高いことを示している。SRIM−2008を用いた計算によると、シリコン中への上記条件によるボロンイオン注入の結果、飛程は0.3μm、ボロン分布の分散幅は0.09μmである。ここでSRIM−2008とは、Stopping Range of Ion in Matterというイオン注入計算ソフトウェアのことであり、http://www.srim.orgからダウンロードできる。さらにボロンイオン注入後の熱履歴は、白金拡散工程の930℃、1時間である。そのため、この白金拡散工程のサーマルバジェットでは、ボロンは拡散せずにイオン注入された状態の濃度分布を維持してアクセプタとなる。一方、
図21のボロンイオン注入の濃度分布は、最表層(0〜0.1μm)に1E17/cm
3以上の高濃度の領域があり、その後濃度が約1E16/cm
3の領域が約0.6μm深さまで広がっている。つまり、Bの飛程である0.3μmよりも深い部分において、p型層の濃度が増加している。これは、前記の濃度増加と拡散の広がりが、注入されたボロンのアクセプタ化によるものではなく、ボロンイオン注入により導入された点欠陥(特に空孔)が白金のアクセプタ化を著しく増進させた効果によるものであることを、裏付けている。ボロンイオン注入時に導入される点欠陥(空孔、複空孔、格子間シリコン等)は、ボロンの化学濃度分布(電気的に活性化していないボロンも含めた、ボロン自体の濃度分布)よりも若干深くまで分布する。イオン注入の後に白金を拡散させると、白金は拡散係数が大きいため、前記点欠陥が結晶状態に回復する前に、シリコン全体を拡散し、そしてシリコン基板の表層に偏析する。その偏析のときに、前記の点欠陥の回復に合わせて白金も格子間位置に入り込み、アクセプタとなる。それゆえ、点欠陥の濃度が多いほど、アクセプタとなった白金の濃度も増加するのである。以上の作用が、点欠陥による白金の反転増進作用である。前述した白金以外の遷移金属についても、白金と同様に拡散係数が大きいので、点欠陥による同様の反転増進作用が生じる。
【0131】
なお、点欠陥、特に空孔の濃度分布は、公知の陽電子消滅法により、空孔濃度が少なくとも1E16/cm
3ならば、測定可能である。本発明の場合ならば、点欠陥の導入は、p型アノード層形成のために遷移金属のアクセプタ化を増進させることが目的なので、点欠陥の濃度は1E16/cm
3以上の濃度で導入する。それゆえ、点欠陥(空孔)は陽電子消滅法により十分測定可能である。
【実施例16】
【0132】
次に、実施例5の方法にて製造した実施例2のダイオードについて、耐圧特性の評価結果を説明する。
図22は、実施例5の製造方法および従来の製造方法にて製造したダイオードの耐圧波形を比較した特性図である。シリコン層(高濃度層と低濃度エピタキシャル層)は、実施例2にて記載した200Vダイオードと共通の比抵抗、膜厚を有する。
【0133】
図22(a)は、実施例2のダイオードを実施例5の製造方法にて製造したダイオードの耐圧波形である。サンプルは20サンプルとした。耐圧は全てのサンプルで約230Vであり、ダイオードに流れる電流は、アバランシェ電流のみの波形である。また、サンプル間のバラツキも極めて小さい。
【0134】
図22(b)は、実施例5の製造方法において、熱酸化膜形成後のプラズマ処理を行わずに、ウェットエッチングで酸化膜をパターニングしたダイオードである。サンプルは同じく20サンプルとした。このときの酸化膜開口部の端部の形状は、実施例8にて述べたテーパー状にはなっておらず、L
OTは1.8μmであり、p型アノード層の拡散深さ1.0μmに対して2倍に満たなかった。
図22(b)のサンプルはアバランシェ降伏による耐圧が約200Vであり、
図22(a)の場合に比べて、30V低下し、且つバラつきも見られる。さらに一部のサンプルはアバランシェ電流とは別のリーク電流が180V付近の電圧で発生し、いわゆるソフトな耐圧波形を示している。このように耐圧が小さくなってリーク電流も発生した理由は、前記の酸化膜開口部の端部の形状を反映して、円筒接合もしくは球面接合の曲率半径r
jが小さくなり、電界強度比βが2以上と高い値となったからである。
【0135】
図22(c)は、
図22(b)の製造方法において、点欠陥導入のためのボロンイオン注入も省略したダイオードの耐圧波形である。このときのp型アノード層の濃度は、
図22(a)あるいは同図(b)よりも1桁以上低くなっている。サンプルは同じく20サンプルとした。
図22(c)から耐圧が約100Vしかなく、
図22(b)に比べて半減しているのが明らかである。さらにアバランシェ降伏による電流ではなく、明らかにソフトな耐圧波形である。これは、p型アノード層の深さ方向の積分濃度が足りずに、空乏層がアノード電極にパンチスルーしたためである。また、液晶塗布による局所的な発熱ポイントの観察の結果、表面の形状が矩形状のp型アノード層の四隅(酸化膜境界近傍)で、電界集中によると思われる発熱部が存在することを確認した。つまり電界集中により、前記四隅で空乏層のアノード電極へのパンチスルーが発生したと考えられる。
【0136】
ここで、前述の
図21の結果との関係も重要である。
図21にて、p型アノード層の濃度増加が、単に表面ボロンイオン注入によるものであるとすれば、p型アノード層の端部のpn接合形状も、酸化膜開口端部のテーパー状に因らないはずである。なぜなら、ボロンの深さ分布はイオン注入で決まり、白金のような酸化膜の取り込みは関係なくなるからである。それゆえ、
図22(b)も
図22(a)と同じ特性結果とならなければならない。にもかかわらず、
図22(b)は同図(a)よりも明らかに耐圧が低く、ソフトな耐圧波形である。それゆえこれらの特性上の相違は、以下の3点を裏付ける有力な証拠である。1つ目は、ボロンイオン注入による点欠陥導入により白金のアクセプタ化が増進されたことでp型アノード層の濃度が高くなったことである。2つ目は、酸化膜の開口端部の形状をテーパー状としたことで白金の横方向濃度分布つまりpn接合も曲率半径が大きくできたことである。そして3つ目は、遷移金属であるがゆえにpn接合の形状が酸化膜の開口端部の形状を反映したことである。
【0137】
以上の結果は、本発明の手法を用いることで安定的にPtの拡散によるpn接合が形成できることを明示している。
【実施例17】
【0138】
次に実施例17として、実施例5の製造方法において、遷移金属をアクセプタ化させてp型アノード層を形成したあとに、再度層間絶縁膜を形成する方法について説明する。
図23(a)は実施例17により製造した1つ目のダイオードの断面図である。実施例5の製造方法において、遷移金属をアクセプタ化させてp型アノード層を形成したあとに、前記遷移金属の選択拡散に用いた酸化膜を一旦全て削除する。削除した後に改めて、層間絶縁膜47を堆積し、フォトリソグラフ法でパターニングしてから、アノード電極16を形成する。このようにすると、遷移金属を含まない膜を層間絶縁膜47として使うことができるので、層間絶縁膜47の固定電荷、表面電荷を下げることができ、耐圧の劣化を防ぐことができる。
【0139】
図23(b)は実施例17により製造した1つ目のダイオードの断面図である。実施例5の製造方法において、遷移金属をアクセプタ化させてp型アノード層を形成したあとに、改めて層間絶縁膜47を堆積し、フォトリソグラフ法でパターニングしてから、アノード電極16を形成する。このようにすると、n型ドリフト層2の表層からアノード電極16、あるいは同じく図示しないフィールドプレートまでの距離を、初期の酸化膜15と層間絶縁膜47を足した厚さとすることができる。そのため、前記絶縁膜における逆バイアス時の等電位面の集中を緩和できるので、耐圧の低下を防ぐことができる。
【実施例18】
【0140】
次に実施例18として、実施例5のダイオードの製造方法の変形例を説明する。
図26は、本発明の実施例18の製造方法の要部断面部分のフロー図である。
(
図26(a))
まず、As(砒素)を含む低抵抗のn型半導体基板1の上面に、n型ドリフト層2を厚さ20μm、比抵抗を10Ωcmにてエピタキシャル成長させる。次に、n型ドリフト層2の上面に遷移金属をイオン注入する。遷移金属は、前述のようにシリコンにてアクセプタ化する遷移金属であればよく、例えばPt、Pd、Ag、Au、Co、V、Ni、Fe、Cr、Mnがある。ここまでの工程が終了した状態を、
図26(a)に示す。
(
図26(b))
つづいて、遷移金属57が注入されているn型ドリフト層2の表面上に、減圧CVD法による酸化膜あるいはTEOS膜などの酸化膜を堆積する。この工程のポイントは、酸化膜形成時に、前工程で注入した遷移金属が酸化膜に取り込まれないようにすることである。あるいは、取り込み量が十分少なければよい。そのためには、堆積温度が遷移金属の拡散温度よりも低い温度、例えば800℃よりも低い温度で、CVD膜、あるいはTEOS膜を堆積させることが好ましい。そして、酸化膜表面をCF
4+CCl
4混合ガス、パワー300Wのプラズマ中で20秒間のプラズマ処理を行う。ここまでの工程が終了した状態を
図26(b)に示す。
(
図26(c))
次に、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、活性領域の形成領域に対応する部分の酸化膜を除去する。つづいて、酸化膜15の残部をマスクとしてn型ドリフト層2にB(ボロン)をイオン注入する。このときのドーズ量は5E15/cm
2であり、加速電圧は50kVである。このボロンイオン注入は、点欠陥を導入することが目的なので、前述したほかの方法で点欠陥を導入しても構わない。ここまでの工程が終了した状態を
図26(c)に示す。
(
図26(d))
続いて、温度800℃〜1000℃の温度で、イオン注入された遷移金属を拡散させる。この程度の拡散温度では、前述の堆積膜(CVD膜、TEOS膜等)は変質せずに済む。これによって、n型ドリフト層2の活性領域の表面近傍および終端構造領域の表面近傍がp型に反転し、反転増進領域43が形成される。ここまでの工程が終了した状態を
図26(d)に示す。
(
図26(e))
つづいて、たとえばウェハー表面に厚さ5μmのAl−Si合金をスパッタリングによって積層する。そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、Al−Si合金層を所望の形状にパターニングする。しかる後、N
2雰囲気中で500℃、1時間の熱処理をおこない、p型領域3に接する低抵抗性のアノード電極16を形成する。なお、アノード電極16は、純Alを真空蒸着することにより形成されていてもよい。最後に、n型半導体基板1の裏面にチタン(Ti)、NiおよびAuを真空蒸着もしくはスパッタリングにより積層してカソード電極17を形成する。たとえば、Tiの厚さは0.7μmであり、Niの厚さは0.3μmであり、Auの厚さは0.1μmである。ここまでの工程が終了した状態を
図26(e)に示す。
【0141】
実施例18の方法によれば、遷移金属をp型アノード層5の近傍に多く分布させることが可能である。つまり、遷移金属のアクセプタ化はp型アノード層5の形成にのみ作用すればよく、またライフタイム制御の機能としても、同じくp型アノード層5の近傍に集中していればソフトリカバリー化が達成できる。また実施例18の方法では、熱酸化膜の形成工程が削除できるので、さらに製造コストを低減することが可能である。
【0142】
なお、これまでの実施例では、定格電圧が300Vと1200Vの場合について説明した。しかし、他の定格電圧、例えば600V、1700V、3300V、6500Vでも同様の効果を奏する。特に3300V以上の所謂高耐圧クラスでは、半導体基板の比抵抗が高い(100Ωcm以上)。そのため、遷移金属のアクセプタ化が点欠陥によって容易に増進される。