特許第5671885号(P5671885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671885
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】密着性向上剤
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/548 20060101AFI20150129BHJP
   C07F 7/18 20060101ALN20150129BHJP
   C09D 7/12 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   C08K5/548
   !C07F7/18 W
   !C09D7/12
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-190621(P2010-190621)
(22)【出願日】2010年8月27日
(65)【公開番号】特開2012-46452(P2012-46452A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 久
(72)【発明者】
【氏名】藤村 俊伸
(72)【発明者】
【氏名】田上 安宣
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−136431(JP,A)
【文献】 特開2009−242604(JP,A)
【文献】 特開昭57−108159(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/103944(WO,A1)
【文献】 特開2008−184514(JP,A)
【文献】 特開平09−015611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 5/548
C07F 7/18
C09D 7/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表されるチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を有効成分とする、密着性向上剤
【化1】

(式中のaは0〜2の整数であり、bは1〜3の整数であり、aとbの和は3である。Rは下記式2で表される3価の基であり、Rは下記式3で表される1価の基である。)
【化2】

(式中のmは1または2の整数である。)
【化3】

(式中のRは下記式4、5、6、7のいずれかで表される2価の炭素数2または3の基である。Rはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。)
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】
【請求項2】
前記チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体が、下記式8で表されるアルコキシシリル基含有化合物と下記式9で表される多価チオール化合物とを反応させてなる、請求項1に記載の密着性向上剤
【化8】

(式中のRはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。Rはビニル基またはアリル基である。)
【化9】

(式中のmは1または2である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を有効成分とする密着性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種塗料をガラス等の無機基材に塗工する際に、密着性を向上させる目的でシランカップリング剤が塗料に添加されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開開平7−300491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シランカップリング剤の多くは炭素数1〜5個のアルキル基を主骨格とした構造であるため、沸点が低く、高温塗工が必要な塗料に対しては塗料100質量%に対して10〜20質量%といった多量に添加する必要があった。また、1分子当たりに1つのトリアルコキシシリル基しか有さないため密着性向上効果も充分とは言えず、例えばチタン、ジルコニウム等の塩や、イミダゾール等のアミン、リン酸エステル、ウレタン樹脂、チオール化合物等の密着性助剤も同時に添加することによって、初めて密着性を達成できる場合も多かった。しかしながら、これら密着性助剤の配合は工程数が増加するだけではなく、塗料特性を損なわない密着性助剤種や添加量の最適化作業が必要であった。
【0005】
そこで、本発明は上記実状に鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、ガラス等の無機基材への密着性向上効果に優れる新規なチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を用いた密着性向上剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体が、ガラス等の無機基材に対し優れた密着性向上効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の〔1〕から〔〕である。
〔1〕下記式1で表されるチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を有効成分とする、密着性向上剤
【化1】

(式中のaは0〜2の整数であり、bは1〜3の整数であり、aとbの和は3である。Rは下記式2で表される3価の基であり、Rは下記式3で表される1価の基である。)
【化2】

(式中のmは1または2の整数である。)
【化3】

(式中のRは下記式4、5、6、7のいずれかで表される2価の炭素数2または3の基である。Rはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。)
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

〔2〕前記チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体が、下記式8で表されるアルコキシシリル基含有化合物と下記式9で表される多価チオール化合物とを反応させてなる、請求項1に記載の密着性向上剤
【化8】

(式中のRはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。Rはビニル基またはアリル基である。)
【化9】

(式中のmは1または2である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は、主骨格にイソシアヌレート環を有するため基材への局在性に優れ、分子末端に存在するアルコキシシラン基が基材との間に化学結合を形成する、あるいは物理吸着することにより優れた密着性を発揮する。また、分子中に存在するチオエーテル結合は、CやOやNといった原子での結合と比べ結合角や結合長が柔軟に変化でき、様々な立体配座を取ることができるため、基材への配向性が高まると考えられる。本発明は低揮発性の多価チオール化合物とアルコキシシリル基含有化合物との反応生成物であるため、一般的なアルコキシシリル基含有化合物と比べ低揮発性となる。加えて、チオエーテル結合に由来するS原子は、CやOやNといった原子の最外殻がL殻であるのに対し、最外殻がM殻であるため、より大きな原子半径と原子量を有する。そのため、S原子を有することにより分子間力が向上し、得られるチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体の低揮発化に繋がると考えられる。これにより本発明は、例えば塗料に0.1〜10重量%という比較的少量添加でも密着性助剤の添加を必要とすることなく塗料に高い密着性を付与することが可能である。
【0008】
また、本発明のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体の製造方法を用いれば、チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を収率良く簡便に得ることが可能である。加えて、チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は密着性の付与効果に優れているため、塗料などに密着性を付与する密着性向上剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で得られた化合物のIRスペクトルを示すチャート。
図2】実施例2で得られた化合物のIRスペクトルを示すチャート。
図3】実施例3で得られた化合物のIRスペクトルを示すチャート。
図4】比較例1で得られた化合物のIRスペクトルを示すチャート。
図5】実施例1で得られた化合物の核磁気共鳴スペクトルを示すチャート。
図6】実施例2で得られた化合物の核磁気共鳴スペクトルを示すチャート。
図7】実施例3で得られた化合物の核磁気共鳴スペクトルを示すチャート。
図8】比較例1で得られた化合物の核磁気共鳴スペクトルを示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は、下記式1で表される化合物である。
【化10】

(式中のaは0〜2の整数であり、bは1〜3の整数であり、aとbの和は3である。Rは下記式2で表される3価の基であり、Rは下記式3で表される1価の基である。)
【化11】

(式中のmは1または2の整数である。)
【化12】

(式中のRは下記式4、5、6、7のいずれかで表される2価の炭素数2または3の基である。Rはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。)
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】
【0011】
なお、本発明のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は、式3においてRがメチル基またはエチル基であることが高い密着性が得られるためより好ましい。式1で表されるチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は多くの樹脂に相溶するため幅広い用途に用いることが可能である。例えば、粘着剤、接着剤、封止剤、シーラントなどにおいて、樹脂成分中に式1で表されるチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を配合することで、ガラスや金属等の無機基材との密着力向上に効果がある。また、少量の添加で高い密着力を得たい場合に好適に用いられる。
【0012】
<チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体の製造方法>
式1で表されるチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は、下記式8で表されるアルコキシシリル基含有化合物(以下、A成分ということがある)と、下記式9で表される多価チオール化合物(以下、B成分ということがある)とを反応させることにより得ることができる。
【0013】
【化17】

(式中のRはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。Rはビニル基またはアリル基である。)
【化18】

(式中のmは1または2の整数である。)
【0014】
式8で表されるアルコキシシリル基含有化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリイソプロポキシシランが挙げられる。式8においてRがメチル基、エチル基、イソプロピル基以外の化合物を用いた場合、アルコキシシリル基と基材、あるいはアルコキシルシリル基同士の反応性が低くなるため、本発明の効果である密着性を得にくくなる。
【0015】
式9で表される多価チオール化合物としては、m=2のトリス[(3-メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレートが挙げられる。式9中m=1の多価チオール化合物としては、イソシアヌル酸トリス(2-ヒドロキシエチル)とチオグリコール酸との合成物が挙げられる。式9においてm≧3の化合物を使用した場合、疎水性かつ非極性である炭化水素数が増えることにより、チオエーテル基の基材への配向性が弱まり、本発明の効果である密着性を得にくくなる。
【0016】
A成分とB成分とは、触媒またはラジカル発生剤の存在下で反応させることが好ましい。触媒やラジカル発生剤を添加すれば、より短時間で且つ高収率にて反応させることができるからである。
【0017】
触媒としてはアミン系の塩基触媒が好ましく、一級、二級あるいは三級アミン類、もしくはイミダゾール系化合物が使用できる。例えば、一級アミンとしてメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等、二級アミンとしてジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等、三級アミンとしてトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。イミダゾール系化合物として、例えば、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール等のイミダゾール同族体、1−メチル−2−オキシメチルイミダゾール、1−メチル−2−オキシエチルイミダゾール等のオキシアルキル誘導体、1−メチル−4(5)−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5(4)−アミノイミダゾール等のニトロおよびアミノ誘導体、ベンゾイミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0018】
ラジカル発生剤としては、過酸化物もしくはアゾ化合物が好ましい。過酸化物として例えば、過酸化ジベンゾイル、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノアート、ジラウロイルペルオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。アゾ化合物としては例えば、アゾビス(イソ−ブチロニトリル)および2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)などが挙げられる。
【0019】
A成分とB成分とを反応させると、A成分の二重結合とB成分のチオール基とが、下記式10で表される反応式で反応する。なお、式10においてXは水素原子、YはA成分の二重結合に結合するX以外の残基を表し、ZはB成分のチオール基に結合する残基を表す。
【化19】
【0020】
式10に示すように、A成分の二重結合を形成する2つの炭素のどちらもチオールのSと結合する。2つの生成物の生成比率は反応条件により異なり、例えばアミンなどの塩基触媒を反応系に添加した場合には、生成物(1)が多く生成し、ラジカル発生剤を反応系に添加した場合には生成物(2)が多く生成する傾向にある。多くの場合、製造後のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は生成物(1)と(2)の混合物となっている。
【0021】
また、チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を製造するにあたり、B成分はチオール基を3個有しているため、式11のようにB成分のチオール基のうち一部がA成分と反応した生成物を得ることができる。なお、VはB成分のチオール基に結合する残基を表す。
【化20】

式11におけるA成分の付加個数が式1のbに相当する。多くの場合、製造後のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は付加反応した置換基の数が異なる物質の混合物となっている。
【0022】
チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体の製造方法としては、5℃以上の温度で反応させることができるが、短時間(例えば5時間以内)で反応させるためには、アミンなどの塩基触媒やラジカル発生剤を反応系に添加し、60〜80℃で反応させることがより好ましい。
【0023】
チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体の製造方法においては、無溶剤でも反応を進行させることができるが、低温で反応させる場合など、粘度を下げたい場合には溶剤を加えて反応させることもできる。その際には、アルコキシシリル基、二重結合、チオール基と反応しない溶剤、例えばアルコール類、ケトン類、エステル類または芳香族類が好ましい。
【0024】
アルコキシシリル基、二重結合、チオール基と反応しないアルコール類としては、反応温度に対し適当な沸点を有するものが好ましく、特に沸点が50〜180℃のものが好ましい。その理由は、沸点が上記範囲よりも低い場合には、工業化した場合の製造が困難になるためであり、上記範囲よりも高い場合には、溶剤の除去が必要な場合に溶剤留去が困難になるためである。またアルコール類としてより好ましいのは、メタノール、エタノールおよび、イソプロパノールである。なぜならば、反応溶剤であるアルコール類と上記式8で示すアルコキシシリル基含有化合物とが反応中にエステル交換反応を起こす可能性があり、目的生成物の収率が低下する恐れがあるからである。そのため、上記式8においてRがメチル基の化合物を用いた場合には反応溶剤としてメタノールを、Rがエチル基の化合物を用いた場合には反応溶剤としてエタノールを、Rがイソプロピル基の化合物を用いた場合には反応溶剤としてイソプロパノールを使用することが好ましい。
【0025】
アルコキシシリル基、二重結合、チオール基と反応しないケトン類としては、反応温度に対し適当な沸点を有するものが好ましく、特に沸点が50〜180℃のものが好ましい。その理由は、沸点が上記範囲よりも低い場合には、工業化した場合の製造が困難になるためであり、上記範囲よりも高い場合には、溶剤の除去が必要な場合に溶剤留去が困難になるためである。例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどがある。
【0026】
アルコキシシリル基、二重結合、チオール基と反応しないエステル類としては、反応温度に対し適当な沸点を有するものが好ましく、特に沸点が50〜180℃のものが好ましい。その理由は、沸点が上記範囲よりも低い場合には、工業化した場合の製造が困難になるためであり、上記範囲よりも高い場合には、溶剤の除去が必要な場合に溶剤留去が困難になるためである。例えば酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル等がある。
【0027】
<密着性向上剤>
チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体は、特にガラスや金属等の無機基材に対して高い密着性向上性能を有していることから、ガラスや金属等の無機基材への密着性向上剤として用いることができる。チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を有効成分とする密着性向上剤は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、モノマーなどの二重結合を有する化合物等に配合することによって、高い密着性向上効果を発揮することができる。さらに、式1で表される化合物であり、aが0でないチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体はチオール基を有し、エポキシ基、二重結合、イソシアネート基と反応する。このため、チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体をエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、二重結合を有する化合物に添加することにより、さらに高い密着性効果を発揮することができる。チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を有効成分とする密着性向上剤は、有効成分として樹脂に対し好ましくは0.1〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%添加すると高い密着性を発揮することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例について具体的に説明する。本実施例および比較例で用いた試薬は、次の通りである。
【0029】
<アルコキシシリル基を有する化合物:A成分>
(A−1)
ビニルトリメトキシシラン。その構造を下記式に示す。
【化21】
【0030】
(A−2)
ビニルトリエトキシシラン。その構造を下記式に示す。
【化22】
【0031】
(A−3)
アリルトリメトキシシラン。その構造を下記式に示す。
【化23】
【0032】
<チオール化合物:B成分>
(B−1)
トリス[(3-メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート(粘度5.4Pa・s)。その構造を下記式に示す。
【化24】
【0033】
(β−1)
比較例用として、メチル−3−メルカプトプロピオネート(粘度1.5 mPa・s)。その構造を下記式に示す。
【化25】
【0034】
セパラブルの4つ口フラスコに温度計と還流管を備え、内部を窒素雰囲気にした。この4つ口フラスコに、表1に示す組成に従いA成分とB成分を仕込み、触媒を使用せずに90℃で8時間反応させて実施例1〜3及び比較例1を得た。実施例1〜3及び比較例1における反応後の25℃における粘度も表1に示す。なお、粘土は東機産業(株)製のR型粘度計を用いて測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
<赤外線吸収スペクトル分析(IR)>
得られた実施例1〜3及び比較例1について、下記条件にて赤外線吸収スペクトル分析を行った。その結果を図1〜4に示すと共に、代表的なピークを以下に示す。
機種;日本分光(株)製 FT/IR-600
セル;KBr上に展開、分解;4cm−1、積算回数;16回
【0037】
(実施例1)
2974cm−1:35%T、2927cm−1:49%T、1739cm−1:23%T、1697cm−1:16%T、1462cm−1:22%T、1390cm−1:46%T、1281cm−1:56%T、1240cm−1:45%T、1167cm−1:29%T、1080cm−1:21%T、1011cm−1:55%T、960cm−1:39%T、762cm−1:35%T
【0038】
(実施例2)
3546cm−1:93%T、3452cm−1:92%T、2972cm−1:69%T、2573cm−1:94%T、1732cm−1:64%T、1697cm−1:64%T、1456cm−1:65%T、1371cm−1:69%T、1352cm−1:71%T、1284cm−1:72%T、1242cm−1:68%T、1163cm−1:67%T、1078cm−1:68%T、1009cm−1:76%T、960cm−1:77%T、879cm−1:92%T、764cm−1:67%T、669cm−1:91%T
【0039】
(実施例3)
2943cm−1:48%T、2841cm−1:52%T、1739cm−1:29%T、1695cm−1:25%T、1462cm−1:29%T、1371cm−1:55%T、1350cm−1:57%T、1284cm−1:61%T、1240cm−1:43%T、1190cm−1:36%T、1159cm−1:38%T、1084cm−1:31%T、1001cm−1:66%T、943cm−1:82%T、816cm−1:41%T、764cm−1:41%T、677cm−1:88%T
【0040】
(比較例1)
3460cm−1:91%T、2947cm−1:25%T、2481cm−1:31%T、2360cm−1:95%T、1738cm−1:11%T、1439cm−1:39%T、1360cm−1:45%T、1194cm−1:15%T、1086cm−1:10%T、980cm−1:57%T、822cm−1:23%T、677cm−1:88%T
【0041】
図1〜4の結果からも明らかなように、C=C結合に由来する1600〜1700cm−1のピークが観測されないことから、A−1、A−2、A−3がB−1およびβ−1と反応していることがわかる。
【0042】
<核磁気共鳴スペクトル分析(NMR)>
また、得られた実施例1〜3及び比較例1について、下記条件にて核磁気共鳴スペクトル分析を行った。その結果を図5〜8に示すと共に、各NMRスペクトルにおけるピークの帰属を下記に示す。
機種;日本ブルカー(株)製、400MHz−Advance400、
条件;積算回数16回
溶媒;重クロロホルム
【0043】
(実施例1)
【化26】

a:3.5〜3.7ppm、b:0.9〜1.0ppm、c、d:2.5〜2.7ppm、e:2.7〜2.8ppm、f:4.3〜4.4ppm、g:4.1〜4.3ppm
【0044】
(実施例2)
【化27】

(式中のRは下記式20で表される3価の基である。)
【化28】

a:1.2〜1.4ppm、b:3.7〜3.9ppm、c:0.8〜1.0ppm、d、e:2.5〜2.7ppm、f:2.7〜3.0ppm、g:4.3〜4.5ppm、h:4.1〜4.3ppm、i:2.5〜2.7ppm、j:1.6ppm、k:1.7〜1.8ppm
【0045】
(実施例3)
【化29】

a:3.5〜3.7ppm、b:0.7〜0.8ppm、c:1.6〜1.8ppm、d、e:2.5〜2.7ppm、f:2.7〜2.8ppm、g:4.3〜4.4ppm、h:4.1〜4.3ppm、i:1.7〜1.8ppm
【0046】
(比較例1)
【化30】

a:3.4〜3.6ppm、b:0.6〜0.7ppm、c:1.7〜1.8ppm、d:4.0〜4.2ppm、e、g、h、i:2.5〜2.8ppm、f:1.1〜1.3ppm、j:3.6〜3.7ppm
【0047】
図5〜8及び上記結果からも明らかなように、C=C結合に由来する5.5〜6.5ppmのピークが観測されないことから、A−1、A−2、A−3がB−1およびβ−1と反応していることがわかる。
【0048】
<密着性評価>
次に、上記実施例1〜3及び比較例1を密着性向上剤として用いた場合の密着性を評価した。さらに、反応前の上記B−1のみを使用した場合、下記式22で表されるイソシアヌレート環を有する多価アルコキシシリル化合物であるトリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(C−1とする)を使用した場合、及び密着性向上剤未使用の場合についても、密着性を評価した。
【化31】
【0049】
密着性の評価対象としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂〔東都化成(株)製、YDPN638〕を使用した。当該エポキシ樹脂98質量%に触媒〔イミダゾール型触媒:(株)アデカ製、EH−4344S〕を2質量%混合した混合物(E−1とする)へ、実施例1〜3や比較例1などを密着性向上剤として表2の配合量に従って配合した。当該組成物を無アルカリガラス〔日本電気硝子(株)製、OA−10〕にバーコーターで塗布し、150℃、1時間の条件で硬化させて樹脂成形物としての硬化膜を得た(試料1〜7)。このようにして得られた試料1〜7を温度121℃、相対湿度(RH)100%で24時間処理した後、JIS K5600−5−6に規定される塗膜の機械的性質−付着性(クロスカット法)試験法で評価を行った。これらの結果を表2に示す。なお、評価基準は次の通りである。
○:全く剥離が無い ×:少しでも剥離が発生している
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示した結果より、実施例1〜3の密着性向上剤を使用した試料1〜3では全く剥離は見られず、密着性が良好であった。その一方、試料4〜6では本発明のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体以外の化合物を用いたことから、いずれも剥離が生じて密着性は不良であった。また、試料7では密着性向上剤を使用していないことから、剥離が生じて密着性は不良であった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8