(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ソリッドコアと、少なくとも1層の中間層と、カバーとを有するものである。
図1に本発明のゴルフボールGの構造の一例を示した。
図1に示されているように、本発明のゴルフボールGはコア1と、該コア1を被覆する中間層2と、該中間層2を被覆するカバー3とを有する3層又はそれ以上の多層を有するものである。ここで、上記のコア1及び中間層2は単層に限られず、各々2層以上形成することもできる。なお、上記カバー3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。
【0013】
コアの直径としては、特に制限はないが、通常35〜41mm、好ましくは36〜40mm、より好ましくは37〜39mmである。コアの直径がこの範囲を逸脱すると、ボール初速が低くなったり、ボール打撃後の低スピン効果が足りずに飛距離が伸びなくなる場合がある。なお、上述したように、上記コアの構造については1層に限られず、2層以上の多層構造としてもよい。
【0014】
コアの表面硬度は、特に制限はないが、JIS−C硬度で、通常68〜90、好ましくは72〜85、更に好ましくは75〜82である。また、コアの中心硬度は、特に制限はないが、JIS−C硬度で、通常50〜70、好ましくは54〜65、更に好ましくは56〜62である。上記の値が小さすぎると、コアの反発性が足りずに飛距離が伸びなくなったり、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなる場合がある。逆に、上記の値が大きすぎると、フルショットした時のスピン量が多くなりすぎて飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0015】
この場合、本発明では、コア中心からコア表面に向かって硬度が漸次(直線的に)増加することが必要とされ、コア中心とコア表面との差がJIS−C硬度で15以上、好ましくは16〜40、更に好ましくは18〜35である。この差が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。逆に、上記の差が大きすぎると、実打初速が低くなり飛距離が出なくなったり、繰り返し打撃の際の割れ耐久が悪くなることがある。なお、上記の差が上記範囲内であっても、コア中心からコア表面に向かって硬度が十分に適正化されず漸次増加しない場合は、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が不十分となるため好ましくない。
【0016】
また、
図2に示すように、コア中心及びコア中心から7.5mm、15mm離れた位置における断面硬度をそれぞれ適正化することにより、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果を向上させることができる。具体的には、コア中心から15mm離れた位置とコア中心の断面硬度の平均値を(I)、コア中心から7.5mm離れた位置の断面硬度を(II)とした場合、両硬度差(I)−(II)がJIS−C硬度で±2以内であることが必要とされる。具体的には、コア中心のJIS−C硬度が「60」、コア中心から外側に15mm離れた位置のJIS−C硬度が「74」である場合、その平均値(I)はJIS−C硬度で「67」となるため、コア中心から7.5mm離れた位置(コア中心と15mm離れた位置との中間地点に相当する。)のJIS−C硬度(II)を、上記平均値「67」の±2以内の範囲にすることを意味する。このパラメーターは、本発明のゴルフボールにおいて、コア中心からコア表面に向かって直線的に硬度が上がる勾配を有することを示す指標となるものである。
【0017】
また、上記の硬度差(I)−(II)については、JIS−C硬度で±1以内とすることが好ましく、より好ましくは±0、即ち、上記平均値に一致させることである。この差が大きすぎるとコア硬度勾配が直線的なものではなくなるため、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。
【0018】
コアが荷重負荷された時のたわみ変形量、即ち、コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)は、特に制限はないが、通常3.0〜6.0mm、より好ましくは3.4〜5.0mm、更に好ましくは3.7〜4.5mmである。この値が大きすぎると、コアの反発性が足りずに飛距離が不十分なものとなり、また、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。逆に、この値が小さすぎると、フルショットした時の打感が硬くなりすぎたり、スピン量が多くなりすぎて飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0019】
本発明では、上述したように、特にコア中心からコア表面に向かって硬度が漸次増加することが必要とされ、かつコア断面の硬度分布やたわみ変形量を所定の範囲内に適正化することが必要である。そのためには、コアを形成する材料の配合において、各種添加剤の配合種類や加硫条件の内容にもよるが、例えば、硫黄を配合すると、ゴム加硫の際、コアの中心付近が軟らかくなってしまい、所望の直線的な硬度勾配が得られなくなるおそれがある。
【0020】
上記コアを形成する材料としては、ゴム材を主材として用いることができる。例えば、ゴム材に加えて、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を含有するゴム組成物を用いて形成することができる。そして、このゴム組成物の基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。本発明では、上述したように、コア中心からコア表面まで硬度が漸次増加することが必要とされ、かつコア断面の硬度分布を所定に適正化することが必要である。
本発明において、上記のソリッドコアを形成するのに好適なゴム組成物として、以下に示す配合のゴム組成物を例示することができる。
【0021】
まず、コアは、公知の基材ゴムに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物を配合したゴム組成物を用いて形成することができる。
【0022】
上記の基材ゴムには、ポリブタジエンを好適に使用することができる。特に、このポリブタジエンとしては、そのポリマー鎖中に、シス−1,4−結合を好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上有するものを好適に使用することができる。分子中の結合に占めるシス−1,4−結合が少なすぎると、反発性が低下する場合がある。また、上記ポリブタジエンに含まれる1,2−ビニル結合の含有量は、そのポリマー鎖中に好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.7質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると、反発性が低下する場合がある。
【0023】
上記ポリブタジエンは、良好な反発性を有する加硫成形物を得る観点から、希土類元素系触媒又はVIII族金属化合物触媒で合成されたものであることが好ましく、中でも特に希土類元素系触媒で合成されたものであることが好ましい。
【0024】
このような希土類元素系触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、ランタン系列希土類元素化合物と、有機アルミニウム化合物、アルモキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じルイス塩基とを組み合わせてなる触媒を挙げることができる。
【0025】
上記ランタン系列希土類元素化合物としては、原子番号57〜71の金属ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコラート、チオアルコラート、アミド等を挙げることができる。
【0026】
本発明においては、特に、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム化合物を用いたネオジム系触媒を使用することが、1,4−シス結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましく、これらの希土類元素系触媒の具体例は、特開平11−35633号公報、特開平11−164912号公報、特開2002−293996号公報に記載されているものを好適に挙げることができる。
【0027】
ランタン系列希土類元素化合物系触媒を用いて合成されたポリブタジエンは、ゴム成分中に10質量%以上、特に20質量%以上、更には40質量%以上含有することが反発性を向上させるためには好ましい。
【0028】
なお、上記のゴム組成物には、上記ポリブタジエン以外にも他のゴム成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。上記ポリブタジエン以外のゴム成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を挙げることができる。
【0029】
共架橋剤としては、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の金属塩等が挙げられる。
【0030】
不飽和カルボン酸として具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。
【0031】
不飽和カルボン酸の金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。
【0032】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上とすることができ、配合量の上限は好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、最も好ましくは30質量部以下とすることができる。配合量が多すぎると、硬くなりすぎて耐え難い打感になる場合があり、配合量が少なすぎると、反発性が低下してしまう場合がある。
【0033】
上記有機過酸化物としては市販品を用いることができ、例えば、パークミルD(日油社製)、パーヘキサ3M(日油社製)、パーヘキサC40(日油社製)、Luperco 231XL(アトケム社製)等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いることが好ましい。
【0034】
上記有機過酸化物は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、最も好ましくは0.7質量部以上とすることができ、配合量の上限は好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な打感、耐久性及び反発性を得ることができない場合がある。
【0035】
不活性充填剤としては、例えば酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
不活性充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上とすることができ、配合量の上限は好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な重量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0037】
更に、必要に応じて老化防止剤を配合することができ、例えば、市販品としてはノクラックNS−6、同NS−30、同200(大内新興化学工業社製)、ヨシノックス425(吉富製薬社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
該老化防止剤の配合量は0超とすることができ、好ましくは基材ゴム100質量部に対して0.05質量部以上、特に0.1質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は特に制限されないが、好ましくは基材ゴム100質量部に対して3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、最も好ましくは0.5質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0039】
上記の各成分を含有するゴム組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練することにより調製される。また、該ゴム組成物を用いてコアを成形する場合、所定のコア成形用金型を用いて圧縮成形又は射出成形等により成形すればよい。得られた成形体については、ゴム組成物に配合された有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度条件で加熱硬化し、所定の硬度分布を有するコアとする。この場合、加硫条件は特に限定されるものではないが、通常、約130〜170℃、特に150〜160℃で10〜40分、特に12〜20分の条件とされる。
【0040】
本発明のゴルフボールは、上記コアを被覆する少なくとも1層の中間層と、該中間層を被覆するカバーとを有するものであるが、各層が個々に以下の条件を満たし、かつ他の層との関係において後述する関係を満足することが必要とされる。まず、上記中間層及びカバーの個々の条件について述べる。
【0041】
中間層材料のショアD硬度は、好ましくは40以上、より好ましくは45以上、更に好ましくは50以上であり、また好ましい上限値は70以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは56以下である。また、中間層材料の硬度をJIS−C硬度で表示すると、好ましくは63以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは76以上であり、また、好ましい上限値は100以下、より好ましくは89以下、更に好ましくは84以下となる。中間層が上記範囲より軟らかすぎた場合、ドライバー(W#1)打撃時にボールとしての反発性が低下したり、スピン量が増えすぎて飛ばなくなることがある。一方、硬すぎた場合は、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪化したり、打感が悪くなることがある。
【0042】
また、上記中間層の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは0.8〜2.5mm、より好ましくは1.0〜1.8mm、更に好ましくは1.2〜1.6mmとすることができる。中間層の厚みが小さすぎると、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪化したり、ボールの反発性が低下して飛距離が伸びなくなることがある。一方、中間層の厚みが大きすぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピンが増えて飛距離が伸びなくなることがある。
【0043】
なお、上述した中間層の構造については1層に限られず、必要に応じて上記の範囲内において同種又は異種の中間層を2層以上形成してもよい。中間層を複数層形成することにより、ドライバー打撃時のスピン量をより低減させることができ、更なる飛距離増大を図ることができる。また、打撃時のスピン特性及びフィーリング特性を更に改良することもできる。
【0044】
カバーの材料硬度は、ショアD硬度で35〜65とすることが好ましく、より好ましくは40〜60、更に好ましくは45〜55とすることができる。上記硬度が低すぎると、ドライバー打撃時のスピン量が多くなり飛距離が低下する場合がある。逆に、高すぎる場合は、ショートゲームでスピンがかからなくなったり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなる場合がある。
【0045】
このカバーの厚みは、特に制限されるものではないが、好ましくは0.4〜2.0mm、より好ましくは0.6〜1.5mm、更に好ましくは0.8〜1.0mmである。カバー厚みが厚すぎると、スピンがかかりすぎて飛距離が伸びない場合があり、カバー厚みが薄すぎると、ショートゲームでスピンがかからなさすぎてコントロール性が悪くなったり、耐擦過傷性が悪くなることがある。
【0046】
なお、上記カバーの構造については1層に限られず、必要に応じて同種又は異種の材料にて2層以上形成してもよい。
【0047】
次に、上記のコア、中間層及びカバーの各層の関係について詳述する。
本発明においては、中間層材料の硬度及びコア表面の硬度の差が、
(中間層材料のJIS−C硬度)−(コア表面のJIS−C硬度) > 0
の関係を満たすことが必要である。また、上記硬度差の好ましい範囲は2〜10とされ、より好ましくは3〜7とされる。上記範囲を逸脱した場合には、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が増えて飛距離が伸びなかったり、繰り返し打撃耐久性が悪くなったり、フィーリングが悪くなることがある。
【0048】
また、カバー材料のショアD硬度及び中間層材料のショアD硬度の差が、
(カバー材料のショアD硬度)−(中間層材料のショアD硬度) ≦ 0
の関係を満たすことが必要である。また、上記硬度差の好ましい範囲は0未満とされ、より好ましくは−1〜−10、更に好ましくは−2〜−7とされる。上記の硬度差が上記範囲より大きい値であるとショートゲームでスピンがかかりすぎてコントロール性が悪くなったり、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。逆に、上記硬度差の範囲より小さい側に外れた場合は、ドライバー(W#1)打撃時のスピン量が増えすぎて飛距離が出なくなることがある。
【0049】
更に、コアに中間層を被覆した球体の初速及びコアの初速(m/s)の差が、
(コアに中間層を被覆した球体の初速)−(コアの初速) ≧ 0
の関係を満たすことが必要である。また、上記初速の差の好ましい範囲は0.2m/s以上、更に好ましくは0.4m/s以上とされる。この値が小さすぎるとボールの反発性が不足したり、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が不十分となり飛距離が伸びなくなることがある。
【0050】
更に、コアに中間層を被覆した球体のたわみ変形量及びコアのたわみ変形量の関係が、
0.80 ≦ (コアに中間層を被覆した球体のたわみ変形量)/(コアのたわみ変形量)
を満たすことが必要である。その好ましい範囲は0.80〜0.92、特に0.85〜0.90とされる。このパラメーターは、本発明において、中間層の硬さ及び厚さの影響を表す指標となるものであり、上記の値が低すぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が増えたり、ボールの反発性が低くなったりして飛距離が伸びなくなることがある。一方、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなったり、打感が硬くなりすぎることがある。なお、ここで、コアに中間層を被覆した球体のたわみ変形量とは、コアに中間層を被覆した球体に対し初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷したときまでの変形量である。
【0051】
更に、ボールのたわみ変形量及びコアに中間層を被覆した球体のたわみ変形量の関係が、
0.85 ≦ (ボールのたわみ変形量)/(コアに中間層を被覆した球体のたわみ変形量) ≦ 0.97
を満たすことが必要である。その好ましい範囲は0.87〜0.95、特に0.89〜0.93とされる。このパラメーターは、本発明において、カバーの硬さ及び厚さを表す指標となるものであり、上記の値が低すぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が増えて飛距離が伸びなくなることがある。一方、値が大きすぎると、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなったり、打感が硬くなりすぎたり、アプローチスピンが少なくなりすぎてコントロール性に劣るものとなることがある。
【0052】
上記の構成により得られるボールの初速は76.5m/s以上であることが好ましく、特に76.8m/s以上、更には77.0m/s以上であることが好ましい。一方、上記初速の上限値は77.724m/s以下である。ボールの初速が低すぎると飛距離が伸びなくなることがある。一方、上限である77.724m/sを超えるとR&A(USGA)の定める規格から外れるため、公認球として登録できなくなる。
【0053】
また、上記コアに、上記中間層及びカバーを被覆したゴルフボールのたわみ変形量は、特に制限されるものではないが、2.5〜4.0mmであることが好ましく、特に2.7〜3.7mm、更には2.9〜3.4mmであることが好ましい。この値が大きすぎると反発性が足りずに飛距離が伸びにくくなったり、繰り返し打撃時の割れ耐久性の悪化を招くことがある。一方、この値が小さすぎるとフルショットした時にスピン量が多くなりすぎて飛距離が伸びなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。なお、ここでボールのたわみ変形量とは、ボールに対し初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷したときまでの変形量である。
【0054】
また、本発明のゴルフボールにおいては、特に制限されるものではないが、上述したパラメーターに加えて、飛び性能、耐擦過傷性及び繰り返し打撃耐久性等を更に向上させるために、カバー及び中間層の厚さ(mm)について、
カバーの厚さ ≦ 中間層の厚さ
の関係を満たすように形成することが好ましい。より好ましくは、
カバーの厚さ < 中間層の厚さ
とされ、更に好ましくは、
カバーの厚さ×1.2 ≦ 中間層の厚さ ≦ カバーの厚さ×2.5
とすることができる。カバー及び中間層の厚さが上記関係を満たすことにより、ボールの反発性を向上させることができ、かつフルショット時におけるスピン量の低減を図ることができると共に、耐擦過傷性や繰り返し打撃耐久性を更に向上させることができる。
【0055】
本発明においては、上記の中間層及びカバーを形成するのに好適な樹脂組成物として、以下に示す配合の樹脂組成物を例示することができるが、これらの樹脂組成物に限定されるものではない。
【0056】
まず、上記中間層を形成する樹脂組成物としては、下記(A)〜(D)成分、
(a−1)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(a−2)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを、
質量比で100:0〜0:100になるように配合した(A)ベース樹脂と、
(B)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを質量比で100:0〜50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、
(C)分子量が228〜1500の脂肪酸及び/又はその誘導体
5〜120質量部と、
(D)上記(A)成分及び(C)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1〜17質量部
とを含有する樹脂組成物を主材として形成されたものを好適に用いることができる。
【0057】
上記(A)〜(D)成分について以下に説明する。
(A)成分は、中間層を形成する樹脂組成物のベース樹脂となるものであり、(a−1)成分は、オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物、(a−2)成分は、オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物である。
【0058】
ここで、上記(a−1)成分及び(a−2)成分におけるオレフィンとしては、通常炭素数2以上、上限として8以下、特に6以下のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、特にエチレンであることが好ましい。
【0059】
また、不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。
【0060】
上記(a−2)成分における不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば上述した不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルを挙げることができ、より具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、特にアクリル酸ブチル(n−アクリル酸ブチル、i−アクリル酸ブチル)が好ましく用いられる。
【0061】
上記(a−1)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び(a−2)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体(以下、これらを総称して「ランダム共重合体」と略記することがある)は、それぞれ上述したオレフィン、不飽和カルボン酸、及び必要に応じて不飽和カルボン酸エステルを公知の方法によりランダム共重合させて得ることができる。
【0062】
上記ランダム共重合体は、不飽和カルボン酸の含量(酸含量)が調整されたものであることが好ましい。この場合、(a−1)成分に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、最も好ましくは10質量%以上とすることができ、その上限は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは18質量%以下、最も好ましくは15質量%以下であることが推奨される。また、(a−2)成分に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上とすることができ、その上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であることが推奨される。上記(a−1)成分及び/又は(a−2)成分に含まれる不飽和カルボン酸の含量が少なすぎると反発性が低下する可能性があり、多すぎると加工性が低下する可能性がある。
【0063】
上記(a−1)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物及び(a−2)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物(以下、これらを総称して「ランダム共重合体の金属イオン中和物」と略記することがある)は、それぞれ上記ランダム共重合体中の酸基の一部又は全部を金属イオンで中和することにより得ることができる。
【0064】
上記ランダム共重合体中の酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na
+、K
+、Li
+、Zn
++、Cu
++、Mg
++、Ca
++、Co
++、Ni
++、Pb
++等が挙げられる。本発明においては、この中でも特にNa
+、Li
+、Zn
++、Mg
++等を好適に用いることができ、更にはMg
++、Zn
++であることが推奨される。これら金属イオンによるランダム共重合体の中和度は特に限定されるものではない。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記ランダム共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して導入することができる。
【0065】
上記(A)成分としては市販品を用いることができ、具体的には、上記(a−1)成分のランダム共重合体として、例えばニュクレル1560、同1214、同1035(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR5200、同5100、同5000(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、
上記(a−1)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えばハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930(米国デュポン社製)、アイオテック3110、同4200(EXXONMOBILCHEMICAL社製)等を、
上記(a−2)成分のランダム共重合体として、例えばニュクレルAN4311、同AN4318、同AN4319、同AN4221C(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR ATX325、同ATX320、同ATX310(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、
上記(a−2)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えばハイミラン1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同8320、同9320、同8120(いずれも米国デュポン社製)、アイオテック7510、同7520(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、
それぞれ挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
なお、上記ランダム共重合体の金属イオン中和物として好適なナトリウム中和型アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1605、同1601、サーリン8120を挙げることができる。
【0067】
なお、上記中間層用の樹脂組成物のベース樹脂として、上記(a−1)成分及び上記(a−2)成分を単独で又は両成分を併用して使用することができる。両成分の配合比率は質量比で(a−1)成分:(a−2)成分=100:0〜0:100であり、特に制限されるものではないが、好ましくは50:50〜0:100である。
【0068】
上記(B)非アイオノマー系熱可塑性エラストマーは、ゴルフボール打撃時のフィーリング、反発性をより一層向上させる観点から好適に配合される成分である。本発明においては、上記(A)成分のベース樹脂と(B)成分の非アイオノマー系熱可塑性エラストマーとを総称して「樹脂成分」と略記することがある。この(B)成分としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができ、本発明においては反発性を更に高める観点から、特にオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーを好適に用いることができる。また、上記(B)成分としては、市販品を用いることができ、具体的には、オレフィン系エラストマーとしてダイナロン(JSR社製)、ポリエステル系エラストマーとしてハイトレル(東レ・デュポン社製)等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0069】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分との質量比で(A)成分:(B)成分=100:0〜50:50、好ましくは100:0〜60:40とすることができる。上記(B)成分が上記樹脂成分中に占める割合が50質量%を超えると、各々の成分の相溶性が低下し、ゴルフボールの耐久性が著しく低下する可能性がある。
【0070】
(C)成分は、分子量228以上の脂肪酸及び/又はその脂肪酸誘導体であり、樹脂組成物の流動性向上に寄与する成分で、上記樹脂成分の熱可塑性樹脂と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分である。また、本発明の脂肪酸(誘導体)は、分子量が228以上で高含量の酸基(誘導体)を含むため、添加による反発性の損失が少ないものである。
【0071】
上記(C)成分の脂肪酸又はその誘導体の分子量は、228以上、好ましくは256以上、より好ましくは280以上、更に好ましくは300以上とすることができる。また、その上限は1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、更に好ましくは500以下であるとされる。この場合、分子量が小さすぎると、耐熱性の改善が達成できない上、酸基の含有量が多すぎて、(A)成分に含まれる酸基との相互作用により流動性の改善の効果が少なくなってしまう場合がある。一方、分子量が大きすぎる場合には、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
【0072】
このような(C)成分の脂肪酸としては、例えば、アルキル基中に二重結合又は三重結合を含む不飽和脂肪酸や、アルキル基中の結合が単結合のみで構成される飽和脂肪酸を好適に用いることができる。上記脂肪酸の1分子中の炭素数としては18以上、好ましくは20以上、より好ましくは22以上、更に好ましくは24以上とすることができる。また、その上限は80以下、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下とすることができる。炭素数が少なすぎると、耐熱性に劣る結果となる場合があるのみならず、酸基の含有量が相対的に多すぎて樹脂成分に含まれる酸基との相互作用が過剰となり、流動性の改善効果が小さくなってしまう場合がある。一方、炭素数が多すぎる場合には、分子量が大きくなるために、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
【0073】
(C)成分の脂肪酸として、具体的には、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、特に、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸を好適に用いることができる。
【0074】
また、脂肪酸誘導体は、脂肪酸の酸基に含まれるプロトンを置換したものが挙げられ、このような脂肪酸誘導体としては、金属イオンにより置換した金属せっけんを例示することができる。該金属せっけんに用いられる金属イオンとしては、例えば、Li
+、Ca
++、Mg
++、Zn
++、Mn
++、Al
+++、Ni
++、Fe
++、Fe
+++、Cu
++、Sn
++、Pb
++、Co
++が挙げられ、特にCa
++、Mg
++、Zn
++が好ましい。
【0075】
(C)成分の脂肪酸誘導体として、具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等が挙げられ、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛を好適に使用することができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分及び(B)成分を含む樹脂成分100質量部に対し5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは18質量部以上とすることができる。また、その上限は120質量部以下、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下とされる。上記(C)成分の配合量が少ない場合、溶融粘度が低くなり加工性が低下し、多いと耐久性が低下することがある。
【0077】
なお、本発明においては、上述した(A)成分及び(C)成分の混合物として、公知の金属せっけん変性アイオノマー(米国特許第5312857号明細書、米国特許第5306760号明細書、国際公開第98/46671号パンフレット等)を使用することもできる。
【0078】
(D)成分の塩基性無機金属化合物は、上記(A)成分及び(C)成分中の酸基を中和するために配合するものである。上記(D)成分を含まない場合、特に金属変性アイオノマー樹脂のみ(例えば、上記特許公報に記載された金属せっけん変性アイオノマー樹脂のみ)を加熱混合すると、下記に示すように金属せっけんとアイオノマーに含まれる未中和の酸基との交換反応により脂肪酸が発生する。この発生した脂肪酸は熱的安定性が低く、成形時に容易に気化するため、成形不良の原因となるばかりでなく、発生した脂肪酸が成形物の表面に付着した場合、塗膜密着性が著しく低下する原因になる。
【0080】
このような問題を解決すべく、(D)成分として、上記(A)成分と(C)成分中に含まれる酸基を中和する塩基性無機金属化合物を必須成分として配合する。(D)成分の配合で、上記(A)成分と(C)成分中の酸基が中和され、これら各成分配合による相乗効果により、樹脂組成物の熱安定性が高まると同時に、良好な成形性が付与され、ゴルフボール用材料としての反発性が向上するという優れた特性が付与されるものである。
【0081】
(D)成分は、上記(A)成分及び(C)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機金属化合物であり、好ましくは一酸化物であることが推奨され、アイオノマー樹脂との反応性が高く、反応副生成物に有機物を含まないため、熱安定性を損なうことなく、樹脂組成物の中和度を上げることができる。
【0082】
ここで、塩基性無機金属化合物に使われる金属イオンとしては、例えば、Li
+、Na
+、K
+、Ca
++、Mg
++、Zn
++、Al
+++、Ni
++、Fe
++、Fe
+++、Cu
++、Mn
++、Sn
++、Pb
++、Co
++等が挙げられ、無機金属化合物としては、これら金属イオンを含む塩基性無機充填材、具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上併用しても良い。本発明においてはこれらの中でも、特に水酸化物又は一酸化物であることが推奨され、(A)成分との反応性が高い水酸化カルシウム、酸化マグネシウムが好適に使用される。
【0083】
(D)成分の配合量は、上記樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上とすることができる。また、その上限は17質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは13質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。上記(D)成分の配合量が少なすぎると、熱安定性及び反発性の向上がみられず、多すぎた場合は、過剰の塩基性無機金属化合物により組成物の耐熱性がかえって低下することがある。
【0084】
なお、上記(A)〜(D)成分を混合して得られる混合物の中和度は、混合物中の酸基の総量を基準として50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上とされる。このような高中和化により、例えば金属せっけん変性アイオノマー樹脂を使用する場合であっても、加熱混合時に金属せっけんとアイオノマー樹脂に含まれる未中和の酸基との交換反応が生じにくく、熱的安定性、成形性、反発性を損なうおそれが低減される。
【0085】
なお、上記(A)〜(D)成分を含む樹脂組成物には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができ、例えば、顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜配合することができる。その配合量としても特に制限されるものではないが、上記樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上とすることができる。また、その上限は10質量部以下、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0086】
なお、上記樹脂組成物は、上述した(A)〜(D)を加熱混合して得ることができ、例えば、混練型二軸押出機、バンバリーミキサー及びニーダー等の公知の混練機を用いて150〜250℃の加熱温度で混練することにより得ることができる。また、市販品のものを直接使用することができ、具体的には、Dupont社製の商品名「HPF 1000」「HPF 2000」、「HPF AD1027」、実験用「HPF SEP1264−3」などが挙げられる。
【0087】
中間層の形成方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、予め作製したコアを金型内に配備し、上記で作製した樹脂組成物を射出成形する方法等を採用できる。
【0088】
なお、上述した中間層の構造については1層に限られず、必要に応じて上記の範囲内において同種又は異種の中間層を2層以上形成してもよい。中間層を複数層形成することにより、ドライバー打撃時のスピン量をより低減させることができ、更なる飛距離増大を図ることができる。また、打撃時のスピン特性及びフィーリング特性を更に改良することもできる。
【0089】
次に、本発明のゴルフボールのカバーを形成する樹脂組成物について詳述する。本発明において、カバーを形成する樹脂組成物としては、ポリウレタンを主材としたものを用いることができるが、熱可塑性ポリウレタンを主体としたものを好適に用いることができ、特に(E)熱可塑性ポリウレタン及び(F)ポリイソシアネート化合物を主成分とする単一な樹脂配合物から形成されることが好ましい。このような熱可塑性ポリウレタンからなるカバーを用いたゴルフボールは、反発性が高く、スピン性能、耐擦過傷性に優れたものであり、かつカバー形成材料の流動性が高く、生産性にも優れるものである。
【0090】
ここで、「単一な樹脂配合物」とは、樹脂配合物が「単一な樹脂ペレット」であることを指し、この単一な樹脂ペレットを射出成形機に供することによりカバーを形成することが好ましいということを意味する。
【0091】
このカバーは、上記(E)熱可塑性ポリウレタン及び(F)ポリイソシアネート化合物を主成分とするものであり、具体的には上記の(E)成分と(F)成分とを合わせた合計質量が、カバー全体の質量の60%以上であることが推奨されるものであり、より好ましくは70%以上である。
【0092】
上記(E)熱可塑性ポリウレタンについて述べると、その熱可塑性ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、反発弾性率が高く低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタンを合成できる点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0093】
上記のポリエーテルポリオールとしては、例えば、環状エーテルを開環重合して得られるポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができる。ポリエーテルポリオールとしては1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、ポリ(テトラメチレングリコール)及び/又はポリ(メチルテトラメチレングリコール)が好ましい。
【0094】
これらの長鎖ポリオールの数平均分子量としては1,500〜5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,700〜4,000の範囲内であることがより好ましく、1,900〜3,000の範囲内であることが更に好ましい。
【0095】
なお、上記の長鎖ポリオールの数平均分子量とは、JIS−K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0096】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブチレングリコールがより好ましい。
【0097】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−(又は)2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては、生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0098】
上記(E)成分の熱可塑性ポリウレタンとして最も好ましいものは、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオール、鎖延長剤として脂肪族ジオール、ポリイソシアネート化合物として芳香族ジイソシアネートを用いて合成される熱可塑性ポリウレタンであって、上記ポリエーテルポリオールが数平均分子量1,900以上のポリテトラメチレングリコール、上記鎖延長剤が1,4−ブチレングリコール、上記芳香族ジイソシアネートが4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのものであるが、特にこれらに限られるものではない。
【0099】
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は、上記した反発性、スピン性能、耐擦過傷性および生産性などの種々の特性がより優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを得ることができるよう、好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物および鎖延長剤とを反応させて熱可塑性ポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95〜1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
【0100】
上記(E)成分の熱可塑性ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、長鎖ポリオール、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0101】
具体的な(E)成分の熱可塑性ポリウレタンとし、市販品を用いることもでき、例えば、パンデックスT8295,同T8290,同T8260(いずれもディーアイシーバイエルポリマー社製)などが挙げられる。
【0102】
次に、上記(F)成分として用いられるポリイソシアネート化合物については、射出成形前において少なくともその一部が、分子中の全てのイソシアネート基が未反応状態で残存することが必要である。即ち、射出成形前の単一な樹脂配合物中に一分子中のすべてのイソシアネート基が完全にフリーな状態であるポリイソシアネート化合物が存在している必要がある。なお、このようなポリイソシアネート化合物と、一分子中の一部のイソシアネート基がフリーな状態のポリイソシアネート化合物とが併存していてもよい。
【0103】
このポリイソシアネート化合物としては、特に制限はないが、各種のイソシアネートを採用することができ、具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−(又は)2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。上記のイソシアネートの群のうち、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートを採用することが、(E)成分の熱可塑性ポリウレタンとの反応に伴う粘度上昇等による成形性への影響と、得られるゴルフボールカバー材料の物性とのバランスとの観点から好適である。
【0104】
本発明ゴルフボールのカバーにおいて、必須成分ではないが、上記(E)及び(F)成分に加えて、更に(G)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(G)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐擦過傷性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
【0105】
この(G)成分、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーとして具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添スチレンブタジエンゴム、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体又はその変性物、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン及びナイロン樹脂から選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。特に、生産性を良好に維持しつつ、イソシアネート基との反応により、反発性や耐擦過傷性が向上することなどの理由から、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー及びポリアセタールを採用することが好適である。
【0106】
上記(E)、(F)及び(G)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(E):(F):(G)=100:2〜50:0〜50であることが好ましく、更に好ましくは、(E):(F):(G)=100:2〜30:8〜50(質量比)である。
【0107】
本発明では、(E)成分と(F)成分、更に任意成分の(G)成分を混合してカバー形成用の樹脂配合物を調製するが、その際、ポリイソシアネート化合物の少なくとも一部に、分子中の全てのイソシアネート基が未反応状態で残存するポリイソシアネート化合物が存在するような条件を選択する必要がある。例えば、窒素ガス等の不活性ガスや真空状態で混合すること等の処置を講ずる必要がある。この樹脂配合物は、その後に金型内に配置されたコア周囲に射出成形されることになるが、その取り扱いを円滑かつ容易に行う理由から、長さ1〜10mm、直径0.5〜5mmのペレット状に形成することが好ましい。この樹脂ペレット中には、未反応状態のイソシアネート基が十分に存在しており、コアに射出成形している間やその後のアニーリング等の後処理により、未反応イソシアネート基は(E)成分や(G)成分と反応して架橋物を形成する。
【0108】
更に、このカバー形成用の樹脂配合物には、必要に応じて、種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0109】
この樹脂配合物の210℃におけるメルトマスフローレート(MFR)値は、特に制限はないが、流動性及び生産性を高める点から、5g/10min以上が好ましく、より好ましくは、6g/10min以上である。樹脂配合物のメルトマスフローレートが小さいと流動性が低下してしまい、射出成形時に偏芯の原因となるだけでなく、成形可能なカバー厚みの自由度が低くなるおそれがある。なお、上記のメルトマスフローレートの測定値は、JIS−K7210(1999年版)に準拠した測定値である。
【0110】
上記カバーを成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述の樹脂配合物を供給し、コアの周囲に溶融した樹脂配合物を射出することによりカバーを成形することができる。この場合、成形温度としては熱可塑性ポリウレタン等の種類によって異なるが、通常150〜250℃の範囲である。
【0111】
なお、射出成形を行う場合、樹脂供給部から金型内に至る樹脂経路の一部又は全ての箇所において、窒素等の不活性ガス又は低露点ドライエア等の低湿度ガスによるパージまたは真空処理等により低湿度環境下で成形を行うことが望ましいが、これに限定されるものではない。また、樹脂搬送時の圧送媒体としても、低露点ドライエアまたは窒素ガス等の低湿度ガスが好ましいが、これらに限定されるものではない。上記の低湿度環境下で成形を行うことにより、樹脂が金型内部に充填される前のイソシアネート基の反応の進行を抑制し、ある程度イソシアネート基が未反応状態の形態のポリイソシアネートを樹脂配合物に含めることにより、不要な粘度上昇等の変動要因を減少させ、また、実質的な架橋効率を向上させることができる。
【0112】
なお、コア周囲に射出成形する前の樹脂配合物中における未反応状態のポリイソシアネート化合物の存在を確認する手法としては、該ポリイソシアネート化合物のみを選択的に溶解させる適当な溶媒により抽出し、確認する手法等考えられるが、簡便な方法としては不活性雰囲気下での示差熱熱重量同時測定(TG−DTA測定)により確認する手法が挙げられる。例えば、本発明で用いられる樹脂配合物(カバー材料)を窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて加熱していくと、約150℃程度から緩やかなジフェニルメタンジイソシアネートの重量減少を確認することができる。一方、熱可塑性ポリウレタン材料とイソシアネート混合物との反応を完全に行った樹脂サンプルでは約150℃からの重量減少は確認されず、230〜240℃程度からの重量減少を確認することができる。
【0113】
上記のように樹脂配合物を射出成形してカバーを形成した後、アニーリングを行って架橋反応を更に進行させ、ゴルフボールカバーとしての特性を更に改良することも可能である。アニーリングとは、一定環境下で一定期間熟成させることをいう。
【0114】
なお、上記カバーの構造については1層に限られず、必要に応じて同種又は異種の材料にて2層以上形成してもよい。この場合には、少なくとも1層を上記(E),(F)を主成分とする上記樹脂配合物で形成したカバーとすればよく、また硬度や厚さはカバー全体が上記範囲となるように調整することが推奨される。
【0115】
本発明のゴルフボールにおいては、更に空力特性を改善して飛距離を向上させるために、通常のゴルフボールと同様にカバーの表面に多数のディンプルを形成することが好ましい。上記ディンプルの種類の数及び総数等を適正化することにより、上述したボール構造との相乗効果で弾道がより安定し、飛距離性能に優れたゴルフボールを得ることができる。なお、ゴルフボールのデザイン性や耐久性を向上させるために、該カバー上に下地処理、スタンプ、塗装等の種々の処理を行うことも任意である。
【0116】
ここで、ディンプルの種類の数は、直径及び/又は深さが互いに異なるディンプルの種類の数をいい、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上であることが推奨される。なお、上限として8種以下、特に6種以下であることが推奨される。
【0117】
この場合、本発明のゴルフボールは、上述したボールの構造により打撃時のスピン量が低下して低弾道化する傾向にあるので、大きな揚力を得ることができるようにディンプル設計を行うことが好ましい。
【0118】
まず、ディンプル総数については、280〜360個、好ましくは300〜350個、更に好ましくは320〜340個である。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり飛距離が出なくなる事がある。ディンプル個数が少なくなると弾道が高くなりすぎて、飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0119】
また、その幾何学的配列としては、特に限定されるものではないが、8面体、20面体等の公知の配列を採用できる。この時、飛びのバラツキを低減する観点から、ディンプルに交差しない大円線が1本もないようなディンプル配設を好適に採用できる。また、ディンプルの形状についても、円形に限られず、多角形、涙形、楕円型等から1種又は2種以上を適宜選択することができる。その直径(多角形においては対角長)は、2.5〜6.5mmとすることが好ましい。また、深さについても、特に制限されるものではないが、0.08〜0.30mmとすることが好ましい。
【0120】
また、ディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V
0は、特に制限されるものではないが、本発明においては0.35〜0.80とすることができる。
【0121】
ディンプルの縁に囲まれた平面の面縁で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率SRは、特に制限されるものではないが、空気抵抗を低減する観点から60〜90%とすることが好ましい。なお、このSRは、形成するディンプルの個数を増やすほか、直径の異なる複数種のディンプルを混在させたり、隣接ディンプル間距離(土手幅)が実質的に0になるような形状とすることにより高めることができる。
【0122】
ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占める比率VRは、特に制限されるものではないが、本発明においては0.6〜1とすることができる。
【0123】
本発明においては、上記のV
0、SR及びVRを上記範囲とすることにより、空気抵抗を低減すると共に、良好な飛距離が得られる弾道になりやすく、飛び性能を向上させることができる。
【0124】
本発明のゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、直径42.67mm以上に形成することができる。その重量は、通常45.0g以上、好ましくは45.2g以上とすることができる。また、その上限は45.93g以下とすることが好適である。
【実施例】
【0125】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0126】
〔実施例1〜3,比較例1〜7〕
コアの形成
下記表1に示すゴム組成物を調製した後、155℃,15分間の加硫条件により加硫成形することによりソリッドコアを作製した。
【0127】
【表1】
【0128】
なお、表1中に記載した材料の詳細は下記の通りである。
ポリブタジエンA
商品名「BR01」JSR社製
ポリブタジエンB
商品名「BR730」JSR社製
ポリブタジエンC
商品名「BR51」JSR社製
過酸化物(1)
ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」日油社製
過酸化物(2)
1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーヘキサC−40」日油社製
老化防止剤
2,2−メチレンビス(4−メチル−6−ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS−6」大内新興化学工業社製
硫酸バリウム
商品名「沈降性硫酸バリウム#300」堺化学工業社製
【0129】
中間層及びカバーの形成
次に、上記で得たコアの周囲に、表2に示された配合の各種樹脂成分を用いて射出成形法により中間層及びカバーを順次成形して、コアの周囲に中間層及びカバーを備えるスリーピースソリッドゴルフボールを作製した。なお、表2中の(5),(6),(7),(9)では、表2に示した各原料(単位:質量部)を二軸スクリュー型押出機により窒素ガス雰囲気下で混練りし、カバー樹脂配合物を得た。この樹脂配合物は、長さ3mm、直径1〜2mmのペレット状であった。
この際、カバー表面には、
図3に示したディンプルを形成した。また、
図3のディンプルの詳細については表3に示した。
【0130】
【表2】
【0131】
なお、表2中に記載した材料の詳細は下記の通りである。
ハイミラン、AM7331
アイオノマー樹脂、三井・デュポンポリケミカル社製
サーリン
アイオノマー樹脂、デュポン社製
AN4319、AN4221C
商品名「ニュクレル」三井・デュポンポリケミカル社製
ダイナロン6100P
JSR社製 水添ポリマー
キョーワマグ MF150
協和化学工業社製の酸化マグネシウム
ポリテール
低分子量ポリオレフィン系ポリオール、三菱化学社製
TMP
トリメチロールプロパン、三菱ガス化学社製
T8260、T8295、T8290、T8283
MDI−PTMGタイプ熱可塑性ポリウレタン、DIC Bayer Polymer社製の商標「パンデックス」
ポリエチレンワックス
商品名「サンワックス161P」三洋化成社製
イソシアネート化合物
4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート
ハイトレル4001
ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン社製
【0132】
【表3】
【0133】
ディンプルの定義
直径:ディンプルの縁に囲まれた平面の直径
深さ:ディンプルの縁に囲まれた平面からのディンプルの最大深さ
V
0 :ディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値
SR:ディンプルの縁に囲まれた平面で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率
VR:ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占める比率
【0134】
上記で得た実施例1〜3及び比較例1〜7の各ゴルフボールにつき、各層の厚さ、硬度、たわみ量等の諸物性と、飛び性能、繰り返し打撃耐久性を下記の基準で評価した。結果を表4及び表5に示す。
【0135】
[ボールの諸物性の評価]
(1)コア、コアに中間層を被覆した球体及び製品のたわみ量(mm)
コア、コアに中間層を被覆した球体及び製品を硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときまでの変形量をそれぞれ計測した。
(2)コアの表面硬度(JIS−C硬度)
コアの表面は球面であるが、その球面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、JIS−C硬度(JIS−K6301規格)により、コアの表面の2点をランダムに測定した値の平均値。
(3)コアの断面硬度(JIS−C硬度)
コアを半分にカットして平面を作り、その平面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、JIS−C硬度(JIS−K6301規格)により測定した。
(4)中間層及びカバーの材料硬度(JIS−C硬度)
中間層及びカバーの樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、JIS−K6301規格に準拠してJIS−C硬度を測定した。
(5)中間層及びカバーの材料硬度(ショアD硬度)
中間層及びカバーの樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、ASTM−2240規格のデュロメータ「タイプD」により測定した。
(6)コア、コアに中間層を被覆した球体及びボールの初速
初速は、R&Aの承認する装置であるUSGAのドラム回転式の初速計と同方式の初速測定器を用いて測定した。ボールは23±1℃の温度で3時間以上温調し、室温23±2℃の部屋でテストされた。250ポンド(113.4kg)のヘッド(ストライキングマス)を使って打撃速度143.8ft/s(43.83m/s)にてボールを打撃した。1ダースのボールを各々4回打撃して6.28ft(1.91m)の間を通過する時間を計測し、初速を計算した。約15分間でこのサイクルを行った。
(7)飛び
ゴルフ打撃ロボットにW#1をつけてヘッドスピード40m/sにて打撃した時の飛距離を測定した。クラブはブリヂストンスポーツ社製「TourStage X−Drive 701」ドライバー(ロフト10.5°)を使用した。この評価については下記の基準を用いた。なお、初速及びスピン量は打撃直後のボールを初期条件計測装置により測定した値である。
○:トータル飛距離 190m以上
×:トータル飛距離 190m未満
(8)アプローチ
ゴルフ打撃ロボットにSWをつけてヘッドスピード20m/sにて打撃した時のスピンを測定した。クラブはブリヂストンスポーツ社製「TourStage TW−01」を使用した。この評価については下記の基準を用いた。
○:5700rpm以上
×:5700rpm未満
(9)W#1フィーリング、パターフィーリング
ドライバー(W#1)のヘッドスピードが35〜45m/sのアマチュアゴルファー10人による官能評価を行い、下記基準により評価した。
○:ソフトで良好なフィーリング
×:硬く感じる
(10)繰り返し打撃耐久性
ゴルフ打撃ロボットにW#1クラブをつけてヘッドスピード40m/sにて繰り返し打撃した。実施例3のボールの初速が初期10回平均の初速対比で97%以下になった時の回数を100とした場合の各々の指数を、下記基準にて評価した。各ボールN=3としてその平均値を評価対象値とした。
○:指数90以上
×:指数90未満
(11)耐擦過傷性
ノンメッキのピッチングサンドウェッジを打撃ロボットにセットし、ヘッドスピード35m/sにて1回打撃してボール表面状態を目視観察し、下記基準にて評価した。
○:まだ使える
×:もう使用に耐えない
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
表4及び表5の結果から、本実施例1〜3のゴルフボールは、飛び性能、アプローチスピン、フィーリング、繰り返し打撃耐久性及び耐擦過傷性の全ての面において優れているが、比較例のゴルフボールは下記の結果となった。
比較例1のゴルフボールは、コアに中間層を被覆した球体の初速がコアの初速より低いため、飛距離が出ない。
比較例2のゴルフボールは、カバーが中間層より硬いため、アプローチスピンがかかりにくく、パターでのフィーリングが硬く感じると共に、繰り返し打撃耐久性も劣る。
比較例3のゴルフボールは、コア表面のJIS−C硬度が中間層のJIS−C硬度より硬く、W#1でスピン量が増え飛距離が出ない。
比較例4のゴルフボールは、カバーがアイオノマーであり、耐擦過傷性に劣るとともに、W#1の低スピン効果が足りずに飛距離が出ない。
比較例5のゴルフボールは、コア表面−コア中心の硬度差の値がJIS−C硬度で15未満であるため、スピン量が多くて飛距離が出ない。
比較例6のゴルフボールは、(コアに中間層を被覆した球体のたわみ変形量)/(コアのたわみ変形量)が0.80未満であり、繰り返し打撃耐久性が劣る。
比較例7のゴルフボールは、コア表面のJIS−C硬度が中間層のJIS−C硬度より硬く、W#1でスピン量が増え飛距離が出ない。