【実施例1】
【0024】
本発明の第1の実施例に係る画像処理によるろ過膜板検査装置について、
図1〜
図8を参照して具体的に説明する。
【0025】
本実施例に係る画像処理によるろ過膜板検査装置は、複数のろ過膜板が搭載されるろ過装置において、亀裂や膜形成不具合などの欠陥が有るろ過膜板を画像処理により特定する装置である。
【0026】
ろ過膜板を用いたろ過装置10は、例えば、
図1に示すように、複数枚(図示例では5枚)のろ過膜板11〜15がモジュール(図示せず)を介して筐体(図示せず)内に設置された構成になっている。モジュールは、複数枚のろ過膜板を所定の間隔にて組み付ける枠組みであって、内外を液体が流通可能に形成されている。筐体は、モジュールを格納する容器であって、内外を液体が流通可能に形成されている。複数枚のろ過膜板11〜15は、筐体内にて立設して配置されている。また、複数枚のろ過膜板11〜15がこれらの面同士を十数ミリメータ間隔で横方向(図中左右方向)に隣接して配置されている。複数枚のろ過膜板11〜15はそれぞれ矩形をなし、両面部には多数の膜孔が形成され、内部には上端から下端に延在する穴が形成されている。ろ過膜板の下端部には下端密閉具(図示せず)が取り付けられており、この下端密閉具によりろ過膜板の下端部側が密閉されている。ろ過膜板の上端部には集水ヘッダ(図示せず)が取り付けられている。集水ヘッダには配管などが接続されている。運転時には水の吸引が行われ、検査時にあっては、前記配管から前記集水ヘッダを介して前記ろ過膜板へ空気などの気体が圧送される。
【0027】
本実施例に係る画像処理によるろ過膜板検査装置は、
図2に示すように、撮影手段としての1台のカメラ(上部カメラ)2、入力画像作成部21a、オプティカルフロー計算処理部21b、破損ろ過膜板の有無判断処理部21c、検査結果出力部21d、メモリ(第1の記憶部)M1、メモリ(第2の記憶部)M2を備える。なお、入力画像作成部21a、オプティカルフロー計算処理部21b、破損ろ過膜板の有無判断処理部21c、検査結果出力部21d、メモリ(第1の記憶部)M1、メモリ(第2の記憶部)M2は、処理用コンピュータ(図示せず)の演算処理手段として構成される。処理用コンピュータは、モニタ(図示せず)を備える。
【0028】
カメラ2は、
図1に示すように、ろ過装置を検査する装置が設置される建物の天井1における、検査対象であるろ過装置10が配置される水槽(液槽)5の直上に取り付けられ、鉛直直下の領域を撮影するように構成されている。すなわち、カメラ2は、水槽5に収容した水(液体)に浸漬して配置されたろ過装置10が具備する複数のろ過膜板11〜15を撮影するように構成されている。カメラ2は、撮影して得られた画像信号を入力画像作成部21aへ出力可能に入力画像作成部21aと接続される。これにより、装置を簡素に構成することができる。
【0029】
入力画像作成部(入力画像作成手段)21aは、上部カメラ2から入力される画像信号から入力画像を作成する。上記のろ過装置10を上部カメラ2により撮影した場合には、例えば、
図4に示すように、前記入力画像として5枚のろ過膜板31〜35が隣接して配置された状態の撮影画像30を作成する。入力画像作成部21aは、入力画像をメモリM1へ出力可能にメモリM1と接続される。なお、この入力画像は、メモリM1,M2を経て、必要に応じてオプティカルフロー計算処理部21bへ送られる。
【0030】
オプティカルフロー計算処理部(オプティカルフロー計算処理手段)21bは、2つの入力画像、例えば、1番目の入力画像と2番目の入力画像、2番目の入力画像と3番目の入力画像、・・・、すなわち、(N−1)番目の入力画像とN番目の入力画像に基づき、オプティカルフローを計算する。ただし、入力画像の番号Nは時系列的に付した番号であり、2より大きい正数である。オプティカルフローは、2つの入力画像に基づき、動きベクトルを算出する方法であって、例えば、上記の非特許文献1などに記載の方法が挙げられる。オプティカルフローの計算結果であるオプティカルフロー結果は、メモリM2を経て、必要に応じて破損ろ過膜板の有無判断処理部21bへ送られる。例えば、
図4や
図5(a)に示すような前フレームの撮影画像(入力画像)30が得られ、現フレームの撮影画像にて所定の方向、例えば、
図5(b)や
図6〜
図8に示すようにA1の方向にカメラぶれが生じた場合には、前記カメラのぶれ方向A1と逆向きの方向へ移動した位置に配置された現フレームの撮影画像(入力画像)が得られる(例えば、
図5(b)や
図6〜
図8など参照)。
【0031】
破損ろ過膜板の有無判断処理部(破損ろ過膜板の有無判断処理手段)21cは、前記オプティカルフロー結果に基づき、「A.気泡無し」、「B.気泡有り」、「C.異物混入」、「D.ノイズ」の4種類のうちどの状態であるかを判別し、ろ過膜板に破損があるかまたはないのか(破損ろ過膜板の有無)を判定する(判断する)。前記判断結果は、メモリM2を経て、必要に応じて検査結果出力処理部21dへ送られる。
【0032】
<A.気泡無し>
気泡無しの場合、基本的にカメラぶれのみが発生していることになる。そのため、カメラぶれのみが発生している状況では、例えば、
図5(b)に示すように、カメラで撮影される物体であるろ過膜板41〜45が同じ方向に移動したように見える。
図5(b)中にて矢印で示されるように、全て同一方向のオプティカルフローが検出されることになる。よって、全て同一方向のオプティカルフローが検出される場合には、例えば、
図5(b)の隣接するろ過膜板を囲む領域(所定の範囲)48内において、同一方向のオプティカルフローが検出されれば、「A.気泡無し」と判断することができる。これにより、複数枚のろ過膜板に亀裂や膜形成不具合などが無いと判断(判定)できる。なお、前記領域48の設定箇所は任意であり、気泡の発生する可能性のある複数箇所に設定することも可能である。
【0033】
<B.気泡有り>
気泡有りの場合、例えば、単一の気泡が発生した場合には、ろ過膜板自体は動かずカメラおよび単一の気泡が動くため、
図6に示すように、各ろ過膜板のオプティカルフローが全て同じ方向を示す一方、単一の気泡56にあっては、時間経過に伴って、放射状に広がるオプティカルフローが検出されることなる。また、連続的に気泡(連続気泡)が発生した場合には、ろ過膜板自体は動かずカメラおよび連続気泡が動くため、
図6に示すように、各ろ過膜板のオプティカルフローが全て同じ方向を示す一方、連続気泡57にあっては、所定の範囲内の小領域にて不規則なオプティカルフローが検出されることになる。よって、入力画像全体のオプティカルフローと比較して、
図6に示す所定の範囲内の小領域58や小領域59におけるオプティカルフローが「放射状」または「不規則」である場合には、「B.気泡有り」と判断することができる。これにより、複数枚のろ過膜板に亀裂や膜形成不具合などが有ると判断(判定)できる。なお、前記小領域58,59の設定箇所は任意であり、気泡の発生する可能性のある複数箇所に設定することも可能である。
【0034】
<C.異物混入>
虫やゴミなどの異物が混入した場合、例えば、異物が水面を漂うような状況が発生した場合には、ろ過膜板自体は動かずカメラが動くと共に、前記異物が水面を移動することになるので、
図7に示すように、各ろ過膜板のオプティカルフローが全て同じ方向を示す一方、異物66にあっては、小領域にて一定方向のオプティカルフローが検出されることになる。よって、入力画像全体のオプティカルフローと比較して、
図7に示す所定の範囲内の小領域68におけるオプティカルフローが、「入力画像全体のオプティカルフローの方向と異なり」、且つ、「一定方向」となる場合には、「C.異物混入」と判断することができる。これにより、複数枚のろ過膜板に亀裂や膜形成不具合などが無いと判断(判定)できる。なお、前記小領域68の設定箇所は任意であり、複数箇所に設定することも可能である。
【0035】
<D.ノイズ>
オプティカルフローの計算結果にノイズが含まれた場合には、ろ過膜板自体は動かずカメラのみが動くので、
図8に示すように、各ろ過膜板のオプティカルフローが全て同じ方向を示す一方、ノイズ76にあっては、小領域にて一定方向のオプティカルフローが検出されることになる。よって、入力画像全体のオプティカルフローと比較して、
図8に示す所定の範囲内の小領域78におけるオプティカルフローが、入力画像全体のオプティカルフローと比較して、「一部分のみ方向が異なる」場合には、「D.ノイズ」と判断することができる。これにより、複数枚のろ過膜板に亀裂や膜形成不具合などが無いと判断(判定)できる。なお、前記小領域78の設定箇所は任意であり、複数箇所に設定することも可能である。
【0036】
検査結果出力処理部(検査結果出力処理手段)21dは、前記判断結果から出力結果(検査結果)を作成し、前記出力結果を前記モニタに出力する。具体的には、破損ろ過膜板の有無判断処理部21cが「B.気泡有り」と判断した場合には、検査結果出力処理部21dは、破損ろ過膜板が「有」と前記モニタに出力する。「B.気泡有り」以外の場合、すなわち、破損ろ過膜板の有無判断処理部21cが「A.気泡無し」、「C.異物混入」、「D.ノイズ」と判断した場合には、検査結果出力処理部21dは、破損ろ過膜板が「無」と前記モニタに出力する。これにより、作業者が出力結果を確認することができる。
【0037】
なお、メモリM1は、各種データ、例えば、入力画像などを保存する。メモリM2は、各種データ、例えば、入力画像、オプティカルフロー結果、判断結果などを保存する。
【0038】
ここで、
図3に基づいて、上述した、画像処理によるろ過膜板検査装置を用いて、複数のろ過膜板が搭載されるろ過装置を検査する手順について簡単に説明する。
【0039】
まず、検査前にろ過装置を所定の位置に配置すると共に、カメラおよび照明装置を所定の位置に配置する。具体的には、
図1に示すように、不純物の無い純水などの液体が溜められた水槽5にて水に浸漬するようにろ過装置10の複数のろ過膜板11〜15を配置し、ろ過装置10(水槽)の上方の天井1に、ろ過装置10を上方から撮影するカメラ2を配置すると共に、カメラ2に隣接して、ろ過装置10を上方から照らす照明装置3,4を配置する。ろ過膜板11〜15とカメラ11の画像軸が平行になるようにカメラ11の光軸まわりの回転が調整される。ただし、これらの検査は、ろ過膜板11〜15の全体を水に浸けた状態にて行われる。なお、詳細については後述するが、ある規定圧の空気を圧送し、カメラによる画像信号から入力画像を作成し2つの入力画像からオプティカルフローを計算しこの計算結果に基づき、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無を判定している。
【0040】
続いて、
図3に示すように、上記の処理用コンピュータでは、入力画像作成部21aは、ろ過膜板11〜15に規定圧力で空気を圧送した状態にて、カメラ2により撮影して得られた画像信号に基づき、初回入力画像(第1番目の入力画像)を作成する(ステップP1)。引き続いて、入力画像作成部21aは、ろ過膜板11〜15に規定圧力にて空気を圧送した状態にて、カメラ2により撮影して得られた画像信号に基づき、入力画像(第2番目以降の入力画像)を作成する(ステップP2)。すなわち、ステップP1およびステップP2により、時系列にて2つ以上の入力画像が得られる。なお、カメラ2で撮影する際、照明装置3,4によりろ過装置10を適宜照らすようにしても良い。
【0041】
続いて、オプティカルフロー計算処理部21bはステップP1,2にて得られた入力画像のうちの最新の2つの入力画像に基づきオプティカルフローを計算する(ステップP3)。続いて、破損ろ過膜板の有無判断処理部21cは、前記オプティカルフロー計算処理部21bにおいて得られたオプティカル計算結果に基づき、「A.気泡無し」、「B.気泡有り」、「C.異物混入」、「D.ノイズ」の4種類のうちどの状態であるかを判別し、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無を判断する(ステップP4)。
【0042】
続いて、上記の処理用コンピュータの演算処理手段は、上記のろ過装置の検査が終了したか否かの判定を行う(ステップP5)。判定の結果、上記のろ過装置の検査が終了していない場合には、ステップP2に戻る。一方、上記のろ過装置の検査が終了した場合には、ステップP6に移行する。
【0043】
最後に、検査結果出力処理部21dは、ステップP4にて得られた判断結果(亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無)を出力結果として上記のモニタなどに出力する(ステップP6)。
【0044】
したがって、本実施例に係る画像処理によるろ過膜板検査装置によれば、カメラぶれが生じた場合であっても、時系列にて2つの入力画像からオプティカルフローを計算し、このオプティカルフロー結果に基づき、「A.気泡無し」、「B.気泡有り」、「C.異物混入」、「D.ノイズ」の4種類のうちどの状態であるかを判別し、これら状態から、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無を判定することができる。すなわち、カメラぶれが生じた場合でも、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の検査を精度よく行うことができる。
【0045】
さらに、カメラぶれが生じた場合であっても、カメラぶれの補正や画像の再構成を行わずに、オプティカルフロー結果のみで、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無を効率よく判定することができる。
【0046】
なお、上記では、最後のステップP6にて検査結果を出力する場合について説明したが、ステップP4とステップP5の間にて検査結果をリアルタイムに出力することも可能である。
【0047】
上述した第1の実施例では、5枚のろ過膜板を検査する画像処理によるろ過膜板検査装置を用いて説明したが、ろ過膜板の数量は5枚に限らず4枚以下や6枚以上のろ過膜板を検査する画像処理によるろ過膜板検査装置とすることも可能である。
【0048】
上述した第1の実施例では、ろ過装置を水槽内に配置し、これをカメラで撮影して得られた画像信号から入力画像を作成し、2つの入力画像からオプティカルフローを計算し、この計算結果に基づき、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無を判定する画像処理によるろ過膜板検査装置について説明したが、複数枚のろ過膜板が組み付けられたモジュールを水槽内に配置し、これをカメラで撮影して得られた画像信号から入力画像を作成し、2つの入力画像からオプティカルフローを計算し、この計算結果に基づき、亀裂や膜形成不具合などがあるろ過膜板の有無を判定する画像処理によるろ過膜板検査装置とすることも可能である。