特許第5672113号(P5672113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5672113-非水電解質二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672113
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20150129BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20150129BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20150129BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150129BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/58
   H01M4/36 E
   H01M4/36 A
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-76661(P2011-76661)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2011-228293(P2011-228293A)
(43)【公開日】2011年11月10日
【審査請求日】2013年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-82735(P2010-82735)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】鋤納 功治
(72)【発明者】
【氏名】田渕 徹
(72)【発明者】
【氏名】稲益 徳雄
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−235150(JP,A)
【文献】 特開2007−184219(JP,A)
【文献】 特開2009−004385(JP,A)
【文献】 特開2006−252894(JP,A)
【文献】 特開2007−250299(JP,A)
【文献】 特開2008−210701(JP,A)
【文献】 特開2007−035589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/58
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極を備え、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であることを特徴とする、ハイブリッド自動車用又は電池自動車用非水電解質二次電池。
【請求項2】
一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極を備え、正極と負極の対向面積が6675cm以上であり、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極に含まれる、前記第1の活物質と前記第2の活物質との和に対する前記第2の活物質の割合が5質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記第1の活物質が、LiNiMnCo(x+y+z=1、1/4≦x≦1/3、1/4≦y≦1/3、1/3≦z≦1/2)で表されるリチウム遷移金属複合化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、その高エネルギー密度という利点を活かして、携帯電話に代表されるモバイル機器の電源として近年幅広く普及している。また、小形機器用電源だけでなく、電力貯蔵用、電気自動車用及びハイブリッド自動車用等の中大型産業用途への展開が見込まれている。
【0003】
非水電解質二次電池は、一般に、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、セパレータと、非水溶媒及びリチウム塩を含有する非水電解質とを備えている。
非水電解質二次電池を構成する正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物が、負極活物質としてはグラファイトに代表される炭素材料が、非水電解質としては、エチレンカーボネートを主構成成分とする非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を溶解したものが広く知られている。
【0004】
現在、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池用の正極活物質としては数多くのものが存在するが、最も一般的に知られているのは、作動電圧が4V付近のリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)やリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)又
はスピネル構造を持つリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)等を基本構成とするリチウム遷移金属複合酸化物である。中でもLiCoOは、充放電特性とエネルギー密度に優れることから、電池容量2Ahまでの小容量リチウムイオン二次電池の正極活物質として広く採用されている。
【0005】
しかしながら、コバルトは資源量が少なく、高価であるため、LiCoO中のコバルトの一部をニッケルやマンガンで置換したリチウム遷移金属複合酸化物LiNiMnCo(0≦x<1、0≦y<1、0<z<1、x+y+z=1)の開発が進められているが、LiCoOに比べて高率放電性能に劣るという課題を有する。そこで、LiNiMnCoの高率放電性能を改善する手段として、比表面積を増大させたり、微粒子化したりすることによって、リチウムイオンの拡散性を向上させる手法が検討されているが、充放電容量が低下したり、安全性が著しく低下したりするという問題点があった。
【0006】
また、今後の中型・大型、特に大きな需要が見込まれる産業用途への展開を考えた場合、産業用途では小型民生用では使用されないような高温環境において電池が使用される用途も存在するため、電池の安全性が非常に重要視される。
【0007】
そこで、高い安全性を有する正極活物質である、リチウム遷移金属リン酸化合物を単独で、またはリチウム遷移金属複合酸化物と混合して用いることが提案されている。オリビン型結晶構造を有するLiFePOに代表されるリチウム遷移金属リン酸化合物は、酸素がリンと共有結合を形成しているため、充電状態で高温環境に曝されても酸素が発生せず、高い安全性を得ることができる。
【0008】
特許文献1には、「複雑な電子回路を使用することなく充電状態を容易に検知することができる非水電解液二次電池を提供する」(段落0006)ことを目的として、「リチウムイオンを挿入離脱可能な正極と負極とを備えた非水電解液二次電池において、前記正極は2種以上の正極活物質を含み、かつ、前記非水電解液二次電池を充放電したときの電池残容量と電池電圧との関係を表す充放電曲線が、前記電池残容量を横軸にとり前記電池電圧を縦軸にとったときに前記電池電圧が略フラットとなり前記電池残容量の変化に対する前記電池電圧の変化の小さい2つ以上のフラット部を有し、前記フラット部間には、前記フラット部より前記電池残容量の変化に対する前記電池電圧の変化の大きいスロープ部が介在していることを特徴とする。」(段落0007)という発明が開示されている。特許文献1には、「この場合において、正極活物質が、オリビン結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物と、層状結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物及びスピネル結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物の少なくとも一方とを含んでいてもよい。このとき、オリビン結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を化学式Li1+y1−yPO(Mは、Mn、Co、Ni、Cr、Al、Mg、Feから選択される1種以上の遷移金属元素である。)で表される化合物及び化学式Li1+y1−yPOで表される化合物に炭素を担持させた化合物の少なくとも1種とし、層状結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を化学式Li1+x1−xで表される化合物とし、スピネル結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を化学式Li1+x2−xで表される化合物としてもよい。」(段落0009)との記載がある。特許文献1の実施例には、「化学式LiCo0.33Mn0.33Ni0.34で表される層状結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物と、化学式LiFePOで表されるオリビン結晶構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物に重量比で10%の炭素を担持させた化合物とを2:1の重量比で混合した混合系正極活物質を使用しラミネートフィルム外装電池1を作製した。」(段落0033)との記載があり、このラミネートフィルム外装電池を用いると、「電池残容量に余力がある段階で電池の充電状態を検知することができるので、機器を直ちに停止させずにすむ。すなわち、精度の低い電圧検出でも充電状態を検知しやすく、検知した後でも機器の動作を確保することができる。」(段落0037)ことが示されている。
【0009】
特許文献2には、「本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極の容量は、リチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和で表され、正極は、リチウムおよび鉄(Fe)を含み、かつオリビン構造を有するリン酸化物よりなる第1の正極活物質を含有するものである。」(段落0008)という発明が開示されており、「また、正極に、更に、リチウム,ニッケル,第1の元素および酸素(O)を含み、第1の元素は、鉄,コバルト(Co),マンガン(Mn),銅(Cu),亜鉛(Zn),アルミニウム(Al),スズ(Sn),ホウ素(B),ガリウム(Ga),クロム(Cr),バナジウム(V),チタン(Ti),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)からなる群のうちの少なくとも1種であり、ニッケルおよび第1の元素におけるニッケルの割合が50mol%以上である第2の正極活物質を含有するようにし、第1の正極活物質と第2の正極活物質との質量比による割合(第1の正極活物質:第2の正極活物質)を、30:70から90:10の範囲内とするようにすれば、熱安定性をより向上させることができると共に、容量を高くすることもできる。」(段落0010)こと、また「第1の正極活物質の含有量は、全正極活物質に対して、30質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下の範囲内であればより好ましい。第1の正極活物質の含有量が少ないと、熱安定性を向上させる効果が十分ではなく、含有量が多いと、容量が低下してしまうからである。」(段落0023)ことが記載されている。特許文献2の実施例には、正極と負極材料の容量比が120:100となるようにした二次電池において、第1の活物質としてLiFePOを、第2の活物質としてLiNi0.6Co0.2Mn0.2又はLiNi0.5Co0.3Mn0.2を用いた場合、「第1の正極活物質の割合が多くなり、第2の正極活物質の割合が少なくなるに伴い、釘さし試験において良好な結果が得られた。また、第2の正極活物質の割合が多くなり、第1の正極活物質の割合が少なくなるに伴い、放電容量が大きくなった。更に、第1の正極活物質と第2の正極活物質との質量比による割合(第1の正極活物質:第2の正極活物質)を30:70から90:10の範囲内とした各実施例では、負極の容量が、リチウムの吸蔵および放出による容量成分で表される、いわゆるリチウムイオン二次電池とした比較例1−3よりも高い放電容量が得られた。」(段落0093)ことが示されている。
【0010】
特許文献3には、「電気化学的活物質が、I)リチウムと、Mg、Al、B、Ti、Si、Zr、Fe、Zn、およびCuから選択された1種の元素によって置換されてもいる、NiおよびCoから選択された少なくとも1種の遷移金属との複合酸化物と、II)リン、リチウム、および少なくとも1種の遷移金属からの一般式LiPO(式中、0≦t≦3、およびz=1または2)の複合酸化物との混合物を含むこと、ならびにリン、リチウム、および少なくとも1種の遷移金属からの前記複合酸化物の含有量が前記混合物の重量の1%から50%の範囲にあることを特徴とする、液状電解質および正極用の前記電気化学的活物質を含むリチウム充電式電気化学的電池を提供する。」(段落0005)という発明が開示されており、「リン、リチウム、および遷移金属の前記複合酸化物は、LiFePO、LiVPOF、およびLiFePOから選択されることが好ましい。」(段落0013)との記載がある。特許文献3の実施例には、LiFePOとLiNi0.80Co0.15Al0.05を20:80の割合で含有する電気化学電池が記載され、該電気化学電池は、LiFePOを単独で、又はLiNi0.80Co0.15Al0.05を単独で用いた場合から予想されるよりも高い可逆容量を示すこと、また酷使的過充電試験を行った際に、「リチウム電池に本発明の活物質を使用すると、従来技術の電池と比べて、放出されるガスの総量を約2分の1にすることができる。」(段落0043)ことが示されている。
【0011】
特許文献4には、「優れた過放電性能を有し、充放電時に連続的な電位変化を示す非水電解質二次電池を提供する」(段落0009)ことを目的として、「正極活物質を含む正極と、炭素材料を含む負極と、非水電解質とからなる非水電解質二次電池において、正極活物質が、LiCoOと、LiMnOと、一般式LiFe1−xPO(但し、0≦x≦0.13、MはMg、Co、Ni、Mn、Znから選ばれる少なくとも一種の金属)で表される化合物とを含有し、正極活物質に対して、LiCoOの割合が50重量%以上80重量%以下であり、LiMnOの割合が10重量%以上30重量%以下であり、LiFe1−xPOの割合が10重量%以上30重量%以下であることを特徴とする。」(段落0010)発明が開示されている。特許文献4の実施例には、LiCoOと、LiMnOと、LiFePOと、を重量比70:20:10から50:20:30の範囲で混合した正極活物質を用いた非水電解質二次電池が示され、「LiCoOと、LiMnOと、LiFePOとの3成分系では、約3.6Vと、約3.3Vと、約2.5Vに平坦領域を有する、4Vから2.5Vまで連続的な放電曲線を示した。」(段落0069)ことが示されている。
【0012】
特許文献5には、「上記層状岩塩構造のLiCoO、LiNiOやスピネル構造のLiMn等を正極活物質に用いた二次電池は、その充電状態(SOC)によって、入力密度および出力密度が変化するという問題があった」(段落0004)という課題を解決するために、「リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた正極と、負極と、リチウム塩を有機溶媒に溶解した非水電解液とを備えてなるリチウム二次電池であって、SOC50%における出力密度および入力密度がそれぞれ1500W/kg以上であり、かつ、SOCが25%以上80%以下の範囲における出力密度の変化率および入力密度の変化率がそれぞれ20%以下であることを特徴とする。」(段落0007)という発明が開示されている。特許文献5には、「二次電池の正極活物質として用いるリチウム遷移金属複合酸化物は、特に限定されるものではない。入力密度や出力密度が高く、それらがSOCに依存しない二次電池を構成し得るものを採用すればよい。例えば、組成式LiMePO4で表され、その結晶構造はオリビン構造を有するものを用いることが好適である。」(段落0014)、「この場合、組成式LiMePO4において、Meは2価の遷
移金属から選ばれる少なくとも1種であり、例えば、Fe、Mn、Ni、Co、Mg等が挙げられる。なかでも、資源的に豊富で安価であり、環境負荷も小さいという理由から、MeをFeとすることが望ましい。」(段落0015)との記載がある。特許文献5の実施例には、炭素物質微粒子を複合化したLiFe0.85Mn0.15PO4を正極活物質とした
ものを#3の二次電池、「LiNiO2を正極活物質としたものを#5の二次電池、Li
Mn24を正極活物質としたものを#6の二次電池とした。」(段落0061)場合に、「#5および#6の二次電池は、#3の二次電池と比較して、SOCによって出力密度が大幅に変化した。」(段落0062)ことが示され、「このように、オリビン構造のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた本発明の二次電池は、出力密度、入力密度がともに高く、かつSOCによる入出力密度の変化の少ない二次電池であることが確認できた。」(段落0064)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−250299号公報
【特許文献2】特開2007−317538号公報
【特許文献3】特開2005−183384号公報
【特許文献4】特開2003−346799号公報
【特許文献5】特開2003−036889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ハイブリッド自動車や電気自動車などに用いられる非水電解質二次電池には、高エネルギー密度、高安全性に加えて、どの充電状態(SOC)においても、高い出力性能を有することが求められている。即ち、高SOCでの出力に対する低SOCでの出力の比が高い非水電解質二次電池が望まれている。
特許文献5には、正極活物質としてLiFePOを用いることによって、SOCによる入出力密度の変化を少なくした電池が示されているが、LiFePOは活物質の質量あたり及び体積あたりのエネルギー密度が低いため、これを正極に用いた電池は、充分なエネルギー密度を有しないという課題がある。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高SOCでの出力に対する低SOCでの出力の比が高く、かつ高いエネルギー密度を有する非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の技術的構成及びその作用効果は、以下の通りである。ただし、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。
【0017】
本発明に係る非水電解質二次電池は、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極を備え、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であることを特徴とする、ハイブリッド自動車用又は電池自動車用非水電解質二次電池である。
また、本発明に係る非水電解質二次電池は、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極を備え、正極と負極の対向面積が6675cm以上であり、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であることを特徴とする非水電解質二次電池である。
すなわち、本発明の非水電解質二次電池は、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むことにより、高いエネルギー密度を有し、LiFePOを含むことにより、高い安全性と優れた入出力性能を備え、さらに、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であることによって、SOCの変化による入出力密度の変化が小さい非水電解質二次電池とすることができる。
【0018】
また、本発明の非水電解質二次電池は、前記正極に含まれる、前記第1の活物質と前記第2の活物質との和に対する前記第2の活物質の割合が5質量%以上25質量%以下であることを特徴とする。
本発明の非水電解質二次電池において、前記第1の活物質と前記第2の活物質との和に対する前記第2の活物質の割合が5質量%以上とすることにより、高い安全性を確保できると共に、出力性能を優れたものとし、高SOCでの出力に対する低SOCでの出力の割合を顕著に高いものとすることができる。また、前記第1の活物質と前記第2の活物質との和に対する前記第2の活物質の割合が25質量%以下とすることで、高いエネルギー密度を有する非水電解質二次電池とすることができる。
【0019】
また、本発明の非水電解質二次電池は、前記第1の活物質が、LiNiMnCo(x+y+z=1、1/4≦x≦1/3、1/4≦y≦1/3、1/3≦z≦1/2)で表されるリチウム遷移金属複合化合物を含有することが好ましい。前記リチウム遷移金属複合酸化物におけるx、y及びzをこれらの値の範囲とすることにより、本発明の効果が顕著なものとなるため好ましい。
【0020】
また、本発明の非水電解質二次電池は、前記第2の活物質に炭素質材料が配されていることが好ましい。前記第2の活物質に炭素質材料が配されていることによって、電気伝導性が向上し、本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高SOCでの出力に対する低SOCでの出力の比が高く、かつ高いエネルギー密度を有する非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1〜10及び比較例2に係る電池の構造模式図
図2】比較例1、3に係る電池の構造模式図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を例示するが、本発明は、これらの記述に限定されるものではない。
【0024】
本発明に係る非水電解質二次電池は、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極を備え、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であることを特徴とする非水電解質二次電池である。
詳しくは、本発明の非水電解質二次電池は、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極と、負極と、電解質塩及び非水溶媒を含有する非水電解質とを備え、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であるものである。
さらに、本発明の非水電解質二次電池は、正極と負極との間にセパレータが備えられ得る。また、これらの構成物を包装する外装体が備えられ得る。
また、前記非水電解質二次電池の態様としては、特に限定されるものではなく、例えば、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池などが挙げられる。
【0025】
前記第1の活物質は、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含み、α−NaFeO型結晶構造を有するものである。
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、上記一般式におけるLi、Ni、Mn及び/又はCoの一部が、本発明の効果を損なわない範囲で、Fe、Al、Cr、Mg、V、Ti等の金属元素で置換されていてもよく、また酸素の一部がF、Sなどで置換されていてもよい。また、LiNiMnCo(x+y+z=1、1/4≦x≦1/3、1/4≦y≦1/3、1/3≦z≦1/2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果が顕著となるため好ましい。また、|x−y|≦0.05であるものが、熱的安定性及び充放電サイクル性能に優れる点で好ましい。
上記第1の活物質としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi1/6Mn1/6Co2/3、LiNi1/4Mn1/4Co1/2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、などが挙げられ、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi1/4Mn1/4Co1/2が好ましい。
【0026】
前記第2の活物質は、一般式LiFePOで表される。本発明に係る第2の活物質は、上記一般式におけるFe及び/又はLiの一部が、本発明の効果を損なわない範囲で、Co、Al、Cr、Mg、Mn、Ni、Ti等の、Fe又はLi以外の金属元素で置換されているものを排除するものではない。また、リン酸部分(PO)は、微量の(BO)、(WO)、(MoO)、(SiO)等の他のアニオンが固溶していてもよく、そのようなものも本発明の権利範囲に含まれる。
【0027】
本発明に係る非水電解質二次電池において、1kHzのインピーダンスを1.27mΩ以下とするためには、種々の方法が用いられる。1kHzのインピーダンスの値は、内部抵抗の大きさを表す指標として用いることができる。一般に、物質の抵抗は厚みに比例し、電気伝導率と面積に反比例する。ここで、電池においては、厚みは電極間距離に相当し、電極若しくはセパレータの厚み又は集電構造により変化する。内部抵抗を低くするためには、電極の厚みを薄くし、セパレータとして厚みが薄いものを用いるとよい。また、集電構造については、活物質塗布部から集電板までの距離を短くすることや、集電板及び/又は集電端子の断面積を大きくすることにより、内部抵抗が低減できる。電気伝導率は活物質の組成や形状、合材組成、電解液組成又は集電構造により変化し、例えば、活物質に導電性材料を被覆すること、集電体にアンダーコートを施すこと、集電体の厚みを厚くすること、電極の合材中に含まれる導電剤の割合を増やすこと、粘度が低い若しくは誘電率の高い非水溶媒を用いること、又は、集電体と集電板若しくは集電板と集電端子との間の抵抗を低減すること等が、電気伝導率を高くするために有効である。また、面積は電極面積に相当し、電極面積を大きくすることで内部抵抗を低減できる。後述する実施例においては、集電板と活物質との最大距離、電極面積及び電極の厚みを変更した場合について示すが、電池の1kHzのインピーダンスを1.27mΩ以下とするための手法であれば、ここに記載した以外の手段を用いてもよく、そのようなものも本発明の範囲内である。
【0028】
本発明に係る非水電解質二次電池の1kHzのインピーダンスは、市販のインピーダンス計測器により測定することができる。インピーダンスの測定は、電池に負荷をかけていない開回路状態(電流を流していない状態)で測定されなければならず、本発明における1kHzのインピーダンスとは、SOC0%の電池に負荷をかけていない状態のときに測定した値を指す。また、測定時の振幅は、10mV以下が好ましい。なお、SOCとは、
電池がどれだけ充電された状態であるかを示し、可逆的に充放電可能な電池電圧の範囲において、その上限となる電池電圧が得られる充電状態を100%、つまり満充電状態とし、下限となる電池電圧が得られる充電状態を0%、つまり放電状態としたときの充電状態を意味する。通常、1kHzのインピーダンスは、SOC0%において最大となることが知られている。そこで、いかなる充電状態であっても、その1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下の電池は、本発明の範囲内であるといえる。また、本明細書内では、インピーダンスのことを内部抵抗ということがある。
【0029】
本発明に係る活物質の合成方法については、特に限定されるものではない。具体的には、固相法、液相法、ゾル−ゲル法、水熱法等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る第1の活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li、Ni、Mn、Co)を含む原料を、目的とする活物質の組成通りに含有する前駆体(混合物)を調整し、これを焼成することによって得ることができる。第2の活物質であるLiFePOについても、活物質を構成する金属元素(Li、Fe)を含む原料及びリン酸源となる原料を、目的とする活物質の組成通りに含有する前駆体(混合物)を調整し、これを焼成することによって得ることができる。このとき、あらかじめLi以外の金属元素を、目的とする活物質の組成通りに含有する前駆体を調整し、後からLi源を加えてもよい。なお、実際に得られる化合物の組成は、原料の仕込み組成比から計算される組成に比べて若干変動することがある。本発明は、その技術思想又は主要な特徴から逸脱することなく実施することができるものであって、作製の結果得られたものの組成が上記一般式と厳密に一致しないことのみをもって本発明の範囲に属さないものと解釈してはならないことはいうまでもない。特にリチウム源については焼成中に一部が揮発しやすいことが知られている。このため、前駆体又は焼成前の原料に、リチウム源を化学量論比よりも多めに仕込んでおくことが通常行われる。
【0031】
Liを含む原料としては、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)等が使用される。Feを含む原料としては、酢酸鉄、硝酸鉄、乳酸鉄等が使用できる。リン酸源としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等が使用できる。また、Ni、Mn又はCoを含む原料としては、それぞれの金属の炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩又は硫酸塩などが用いられる。なお、液相法、ゾル−ゲル法等の水溶液系の合成に於いては、金属源として用いる化合物は、水に溶解するものが好ましく、水に溶解しない又は溶解しにくい場合は、混合の順番を変更したり、あらかじめそれぞれの原料を精製水などに溶解させたりするとよい。また、Liを含むリン酸源として、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)を使用することもできる。
【0032】
また、電子伝導性を補う目的で活物質粒子表面にカーボンを機械的にあるいは有機物の熱分解等により付着及び被覆させることが好ましい。
特に、本発明に係る第2の活物質であるLiFePOにおいては、本発明の効果を充分に発現させるため、カーボン等により粒子同士の電子伝導を十分に確保することが重要である。
【0033】
本発明において、電極に用いる活物質粒子の表面にカーボンを付着又は被覆させる方法としては限定されるものではないが、例えば、固体又は液体の有機物やカーボンなどのカーボン源と正極活物質粒子とを熱処理することにより得ることができる。前記熱処理温度は、前記カーボン源が熱分解する温度以上とする必要がある。前記カーボン源としては、ショ糖、ポリビニルアルコール、アセチレンブラックなどが挙げられる。あるいは、昇温雰囲気中に正極活物質粒子を載置し、ガス状の有機物を導入することによって活物質粒子表面にカーボンを析出並びに気相成長させる方法を採用しても良い。前記ガス状の有機物としては、気化したメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の1価アルコールやエチレンガス、プロピレンガス等が挙げられる。また、水熱法などで合成する場合においては、水浴中に酸化防止の目的でクエン酸、アスコルビン酸等の有機物を添加することがあるが、このような場合には最終生成物である活物質表面に前記有機物に由来するカーボンが付着又は被覆されることがあるので、これをこのまま使用する事もできる。もちろん、さらに上記した固体若しくは液体の有機物又はガス状の有機物を用いる処方を併用しても良い。以上のいずれの処方についても、例えば国際公開第2007/043665号パンフレットの各実施例、比較例が参考になる。
【0034】
本発明に係る第1の活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物及び第2の活物質であるLiFePOは、平均粒子サイズ100μm以下の粉体であることが好ましい。特に、本発明の効果を有効に引き出すためには粒径が小さい方が好ましく、二次粒子の平均粒子径は0.5〜50μmが好ましい。二次粒子径を小さくすることで、集電体に正極ペーストを塗工する際に、均一なものとすることが可能となる。また、LiFePOの一次粒子の粒径は50〜500nmであることがより好ましい。LiFePOの一次粒子径を小さくすることで、固相内の電子の伝導経路長やLiイオンの拡散経路長を短くできるため、LiFePOの性能を最大限利用することが可能となる。
なお、二次粒子の平均粒子径は液相沈降法又はレーザー回折・散乱法による粒度分布測定により、一次粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を画像解析することにより求めることができる。
【0035】
第1の活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の窒素吸着法によるBET比表面積は、本発明の効果を顕著に奏させるためには大きい方が良く、0.1m/g以上が好ましく、0.5m/g以上がより好ましい。また、リチウム遷移金属複合酸化物の比表面積を好ましくは20m2/g以下、より好ましくは10m2/g以下とすることにより、充電状態における正極の熱安定性が向上すると共に、充放電容量を充分に高いものとすることができる。
第2の活物質であるLiFePOの窒素吸着法によるBET比表面積は、本発明の効果を顕著に奏させるために大きい方が良く、1m2/g以上が好ましく、5m2/g以上がより好ましい。また、前記BET比表面積が大きすぎると、電極作製時にペーストに含有させる結着剤の量を増やす必要が生じ、活物質の充填密度が低下するため、100m/g以下が好ましく、80m/g以下がより好ましい。
本発明においては、LiFePOの粒子の比表面積は、リチウム遷移金属複合酸化物の比表面積よりも大きいことが好ましい。
【0036】
本発明の電極に含有される活物質の粉体を所定の形状で得るため、粉砕機や分級機を用いることができる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミルや篩等を用いることができる。粉砕時には水、あるいはアルコール、ヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いてもよい。分級方法としては、特に限定はなく、必要に応じて篩や風力分級機等を乾式あるいは湿式にて用いることができる。
【0037】
本発明に係る第1の活物質及び第2の活物質の一般式は、従来知られている各種分析法により、酸素以外の含有される元素(Li、Ni、Mn、Co又はLi、Fe、P)の比を調べることにより求められる。分析手法としては、例えば、ICP発光分光、ICP質量分析、原子吸光、蛍光エックス線分析などが挙げられる。また、前記第1の活物質及び前記第2の活物質の結晶構造は、エックス線回折(XRD)測定により調べることが可能である。
また、本発明に係る電極に用いられる活物質に配された導電性炭素質材料の量は、酸素気流中高周波過熱焼成−赤外線吸収法、熱重量測定(TG)などにより求めることができる。また、前記導電性炭素質材料が活物質に配されていることは、透過型電子顕微鏡(TEM)をもちいた観察などによって確かめることができる。
【0038】
正極には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の正極材料を混合して用いることができる。他の正極材料としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。遷移金属酸化物としては、マンガン酸化物、鉄酸化物、銅酸化物、ニッケル酸化物、バナジウム酸化物、遷移金属硫化物としては、モリブデン硫化物、チタン硫化物等が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物等が挙げられる。さらに、ジスルフィド,ポリピロール,ポリアニリン,ポリパラスチレン,ポリアセチレン,ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明に係る非水電解質二次電池に含有される非水電解質を構成する有機溶媒は、限定されるものではなく、一般に非水電解質二次電池に供される非水電解質に使用される有機溶媒が使用できる。
例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状カルボン酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル、テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキサランまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、これらの有機溶媒は、任意の割合で混合して用いることができる。
【0040】
非水電解質を構成するリチウム塩としては、限定されるものではなく、一般に非水電解質二次電池に使用される、広電位領域において安定であるリチウム塩が使用できる。例えば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiC(C25SO23等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0041】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、優れた高率放電特性を有する非水電解質二次電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5.0mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.8mol/l〜2.0mol/lである。
【0042】
本発明に係る非水電解質二次電池に含まれる非水電解質は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記有機溶媒とリチウム塩以外の化合物を任意の量で含有させることができる。
このような他の化合物としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等の過充電防止剤;ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物等の負極被膜形成剤;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド等の正極保護剤等が挙げられる。
【0043】
上記化合物は2種以上を併用して用いてもかまわない。負極被膜形成剤と正極保護剤との併用や、過充電防止剤と負極被膜形成剤と正極保護剤との併用が特に好ましい。
【0044】
非水系電解質中におけるこれらのその他の化合物の含有割合は特に限定はないが、非水系電解質全体に対し、それぞれ、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、上限は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。これらの化合物を添加することにより、安全性をより向上させたり、高温保存後の容量維持性能やサイクル性能を向上させたりすることができる。
【0045】
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ニッケルメッキ鋼、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。中でも特にアルミニウムが好ましい。
【0046】
本発明の非水電解質二次電池に用いる負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、チタン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。なかでも炭素質材料又はリチウム遷移金属複合酸化物が安全性の点から好ましく用いられる。
【0047】
炭素質材料としては、天然グラファイト、人造グラファイト、コークス類、難黒鉛化性炭素、低温焼成易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭等が挙げられる。
【0048】
負極の集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、クロムメッキ鋼等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
【0049】
本発明に係る非水電解質二次電池における正極と負極との容量のバランスについては、負極の充電電気量が正極の充電電気量の1.05倍以上1.50倍未満となるように設計することが好ましい。充電時に正極から放出されるLi量を負極が受けきれずに負極上でLiが析出する危険性を回避するために、負極の充電電気量は正極の充電電気量の1.05倍以上が好ましい。負極の充電電気量が多すぎると、利用されない負極が増え、その結果、重量エネルギー密度・体積エネルギー密度が低下するため、負極の充電電気量は正極の充電電気量の1.50倍未満が好ましい。したがって、負極の充電電気量は正極の充電電気量の1.05倍〜1.50倍未満が好ましく、1.05〜1.30倍がより好ましく、1.10〜1.20倍がさらに好ましい。
【0050】
セパレータとして、微多孔性膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。なかでも本発明においては、ポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂を主成分とする微多孔性膜であることが好ましい。
【0051】
その他の電池の構成要素としては、正負極に用いられる導電剤及び/又は結着剤、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0053】
以下の実施例及び比較例に用いたリチウム遷移金属複合酸化物LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)、及び、カーボンコートされたLiFePOは、周知の方法により合成した。前記LiFePOには合成された時点において既にカーボンコートが施された状態となっている。前記カーボンコートの量は前記LiFePO全体の1.1質量%を占める。前記LiFePOの平均粒子径は10.0μmであり、窒素吸着法によるBET比表面積は10.5m/gであった。
【0054】
[実施例1]
(正極の作製)
第1の活物質であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、第2の活物質である前記LiFePOとを、質量比90:10で混合した。なお、LiNi1/3Mn1/3Co1/3の平均粒子径及び窒素吸着法によるBET比表面積は、それぞれ12.1μm及び1.1m/gであった。この活物質混合物を本実施例における正極活物質とした。前記正極活物質と、導電剤であるカーボン材料と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、活物質混合物:カーボン材料:PVdF=88:7:5の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。該正極ペーストを、厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、80℃で乾燥させてNMPを除去した。正極の塗布質量は13.16mg/cmとした。該正極を120℃に加熱したローラープレス機により加圧成型して正極活物質層を成型した後、150℃で12時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。ローラープレス後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計は119μmであった。このときの極板の空孔率は35%であった。このようにして作製した正極を正極aとする。
【0055】
(負極の作製)
負極活物質であるグラファイトと、結着剤であるPVdFとを、グラファイト:PVdF=94:6の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする負極ペーストを調整した。該負極ペーストを、厚み10μmの銅箔の両面に塗布し、80℃で乾燥させてNMPを除去した。負極の塗布質量は、6.85mg/cmである。該負極を120℃に加熱したローラープレス機により加圧成型して負極活物質層を成型した後、150℃で12時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。ローラープレス後の銅箔と正極活物質層の厚みの合計は106μmであった。このときの極板の空孔率は35%であった。このようにして作製した負極を負極aとする。
【0056】
(非水電解質の作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒に、含フッ素系電解質塩であるLiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させ、非水電解質を作製した。該非水電解質中の水分量は50ppm未満とした。
【0057】
(非水電解質二次電池の作製)
実施例の電池の模式図を図1に示す。セパレータとして、厚み27μm、透気度95秒及び空孔率50%のポリエチレン製微多孔膜を用い、前記セパレータ(13)が正極a(11)と負極a(12)との間に位置するようにして、上記正極、負極及びセパレータを扁平形状に巻回して発電要素(14)を作製した。このときの正極と負極の対向する面積(対向面積)は、6825cmとした。ここで、正極及び負極は、巻回軸線に沿って互いに離れる方向にずらして巻回されている。即ち、発電要素(14)の軸線方向両端部のうちの一方はセパレータ(13)から正極を構成する金属箔がはみ出し、発電要素(14)の軸線方向両端部のうちの他方は負極を構成する金属箔がはみ出している。アルミニウム製の正極集電板を、正極を構成する金属箔の、セパレータからはみ出した部分に、発電要素に対して厚み方向にまたがるような位置(15)に配置した後、金属箔と溶接した。負極側も同様に、銅製の負極集電板を、負極を構成する金属箔の、セパレータからはみ出した部分に、発電要素に対して厚み方向にまたがるような位置(16)に配置した後、金属箔と溶接した。このとき、集電板から最も離れた活物質までの距離(17)は、発電要素の幅方向の長さとなり、この距離は10cm以内であった。このようにして作製した正極、負極、セパレータからなる発電要素(14)に正負極集電板を溶接したものをアルミニウム製の角型電槽缶(高さ81mm、幅111.6mm、厚み20.6mm)に収納し、正負極端子を取り付けた。この容器内部に非水電解質を76g注入したのちに封口して、設計容量11.5Ahの非水電解質二次電池を作製した。この電池を本発明電池Aとする。
【0058】
[実施例2]
(正極の作製)
第1の活物質であるLiNi1/4Mn1/4Co1/2と、第2の活物質である前記LiFePOとを質量比90:10で混合した活物質混合物を正極活物質として用いたこと、正極の塗布質量を13.23mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を118μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、正極bを作製した。なお、前記LiNi1/4Mn1/4Co1/2の平均粒子径及び窒素吸着法によるBET比表面積は、それぞれ6.2μm及び0.62m/gであった。
【0059】
(負極の作製)
負極の塗布質量を6.89mg/cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、負極bを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0060】
(非水電解質二次電池の作製)
正極bと負極bとを用いたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Bを作製した。
【0061】
[実施例3]
【0062】
(非水電解質二次電池の作製)
正極と負極の対向面積を7037cmとしたことを除いては実施例2と同様にして、本発明電池Cを作製した。
【0063】
[実施例4]
(正極の作製)
正極の塗布質量を14.20mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を125μmとしたことを除いては実施例2と同様にして、正極dを作製した。
【0064】
(負極の作製)
負極の塗布質量を7.40mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を113μmとしたことを除いては実施例2と同様にして、負極dを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0065】
(非水電解質二次電池の作製)
正極dと負極dとを用い、正負極の対向面積を6675cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Dを作製した。
【0066】
[実施例5]
(正極の作製)
第1の活物質である前記LiNi1/4Mn1/4Co1/2と、第2の活物質である前記LiFePOとを質量比92:8で混合した活物質混合物を正極活物質として用いたこと、正極の塗布質量を13.52mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を120μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、正極eを作製した。
【0067】
(負極の作製)
負極の塗布質量を7.05mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を108μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、負極eを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0068】
(非水電解質二次電池の作製)
正極eと負極eとを用い、正負極の対向面積を6989cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Eを作製した。
【0069】
[実施例6]
(非水電解質二次電池の作製)
正極と負極の対向面積を7289cmとし、セパレータの厚みが22μmであったことを除いては実施例5と同様にして、本発明電池Fを作製した。
【0070】
[実施例7](正極の作製)
正極ペーストが含有する質量比率を、活物質混合物:カーボン材料:PVdF=89:6:5の質量比としたこと、正極の塗布質量を13.37mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を117μmとしたことを除いては、実施例5と同様にして、正極gを作製した。
【0071】
(非水電解質二次電池の作製)
正極gと負極eとを用い、正負極の対向面積を7049cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Gを作製した。
【0072】
[実施例8]
(正極の作製)
正極の塗布質量を13.53mg/cmとしたことを除いては実施例5と同様にして、正極hを作製した。
【0073】
(負極の作製)
加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を117μmとしたことを除いては実施例5と同様にして、負極hを作製した。このときの極板の空孔率は40%であった。
【0074】
(非水電解質二次電池の作製)
正極hと負極hとを用い、正負極の対向面積を7043cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Hを作製した。
【0075】
[実施例9](正極の作製)
正極の塗布質量を12.57mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を113μmとしたことを除いては、実施例1と同様にして、正極iを作製した。
【0076】
(負極の作製)
負極活物質であるグラファイトと、結着剤であるスチレンブタジエンゴム(SRB)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、グラファイト:結着剤=97:3の質量比で含有し、水を溶媒とする負極ペーストを調整した。該負極ペーストを、厚み10μmの銅箔の両面に塗布し、80℃で乾燥させた。負極の塗布質量は、6.37mg/cmである。該負極を常温のローラープレス機により加圧成型して負極活物質層を成型した後、150℃で12時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。ローラープレス後の銅箔と正極活物質層の厚みの合計は94μmであった。このときの極板の空孔率は30%であった。このようにして作製した負極を負極iとする。
【0077】
(非水電解質二次電池の作製)
正極iと負極iとを用い、正負極の対向面積を7293cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Hを作製した。
【0078】
[実施例10]
(正極の作製)
第1の活物質である前記LiNi1/3Mn1/3Co1/3と、第2の活物質である前記LiFePOとを質量比80:20で混合した活物質混合物を正極活物質として用いたこと、正極の塗布質量を12.92mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を118μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、正極jを作製した。
【0079】
(負極の作製)
負極の塗布質量を6.78mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を103μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、負極eを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0080】
(非水電解質二次電池の作製)
正極jと負極jとを用い、正負極の対向面積を7433cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、本発明電池Jを作製した。
【0081】
[比較例1]
(正極の作製)
正極の塗布質量を11.13mg/cmとしたこと及び加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を103μmとしたことを除いては、実施例1と同様にして正極kを作製した。
【0082】
(負極の作製)
負極の塗布質量を5.8mg/cmとしたこと及び加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を91μmとしたことを除いては、実施例1と同様にして負極kを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0083】
(非水電解質二次電池の作製)
比較例1の電池の模式図を図2に示す。セパレータとして、厚み27μm、透気度95秒及び空孔率50%のポリエチレン製微多孔膜を用い、セパレータ(23)が正極e(21)と負極e(22)との間に位置するようにして、上記正極、負極及びセパレータを扁平形状に巻回して発電要素(24)を作製した。このときの正負極の対向面積は415.1cmである。ここで、正極及び負極は、巻回軸線に沿って両端が一致するように巻回されているため、発電要素(24)の軸線方向両端部から金属箔ははみ出していない。アルミニウム製の正極集電板と銅製の負極集電板とを、発電要素の巻き終わりの端の位置(25)にそれぞれ配置し、正極及び負極と溶接した。このとき、集電板から最も離れた活物質までの距離は、正負極の巻き始めから巻き終わりまでの長さとなり、この距離は65cmであった。このようにして作製した正極、負極、セパレータからなる発電要素に正負極集電板を溶接したものをアルミニウム製の角型電槽缶(高さ49.3mm、幅33.7mm、厚み5.17mm)に収納し、正負極端子を取り付けた。この容器内部に非水電解質を3.2g注入したのちに封口して、設計容量0.65Ahの非水電解質二次電池を作製した。この電池を比較電池Kとする。
【0084】
[比較例2]
(正極の作製)
前記LiNi1/3Mn1/3Co1/3を単独で正極活物質として用いた。前記正極活物質と、導電剤であるカーボン材料と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、正極活物質:カーボン材料:PVdF=90:5:5の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。該正極ペーストを、厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、80℃で乾燥させてNMPを除去した。正極の塗布質量は13.43mg/cmとした。該正極を120℃に加熱したローラープレス機により加圧成型して正極活物質層を成型した後、150℃で12時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。ローラープレス後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計は116μmであった。このようにして作製した正極を正極lとする。
【0085】
(負極の作製)
負極の塗布質量を7.37mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を113μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、負極lを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0086】
(非水電解質二次電池の作製)
正極lと負極lとを用い、正負極の対向面積を6681cmとしたことを除いては実施例1と同様にして、比較電池Lを作製した。
【0087】
[比較例3]
(正極の作製)
正極の塗布質量を10.00mg/cmとしたこと及び加圧成型後のアルミニウム箔と正極活物質層の厚みの合計を90μmとしたことを除いては、比較例2と同様にして正極mを作製した。
【0088】
(負極の作製)
負極の塗布質量を5.51mg/cmとしたこと、及び、加圧成型後の銅箔と負極活物質層の厚みの合計を87μmとしたことを除いては実施例1と同様にして、負極mを作製した。このときの極板の空孔率は35%であった。
【0089】
(非水電解質二次電池の作製)
正極mと負極mとを用い、正負極の対向面積を471.9cmとしたことを除いては比較例1と同様にして、比較電池Mを作製した。
【0090】
<容量確認試験>
設計どおりの充放電容量が得られることを確認するために、上記のようにして作製した本発明電池及び比較電池について、容量確認試験を行った。
全ての本発明電池及び比較電池Lについては、充電電流11.5A、充電電圧4.2V、総充電時間3時間の定電流定電圧充電、及び、放電電流11.5A、終止電圧2.0Vの定電流放電からなる3サイクルの充放電を行った。比較例K及び比較電池Mについては、充電電流0.65A、充電電圧4.2V、総充電時間3時間の定電流定電圧充電、及び、放電電流0.65A、終止電圧2.0Vの定電流放電からなる3サイクルの充放電を行った。それぞれの充放電における3サイクル目の放電容量を定格容量とし、定格容量が設計容量とほぼ等しいことを確認した。定格放電容量を1時間で放電する電流の値を1CAといい、本発明電池及び比較電池Lにおいて1CA=11.5A、比較例K及び比較電池Mにおいては1CA=0.65Aである。
【0091】
<1kHzのインピーダンス測定>
全ての本発明電池及び比較電池に対して、SOC0%の状態で、日置電機株式会社製のACミリオームハイテスタを用いて、1kHzのインピーダンスを測定した。その結果を表1に示す。
ここで、「充電状態(SOC:State of Charge)」とは、可逆的に充放電可能な電池
電圧の範囲において、電池がどれだけ充電された状態であるかを示し、本実施例においては、SOC100%とは充電電流1CA、充電電圧4.2V、総充電時間3時間の定電流定電圧充電を行った直後の満充電状態をいい、SOC0%とは放電電流1CA、終止電圧2.0Vの定電流放電を行った直後の充電状態をいう。
【0092】
【表1】
【0093】
表1からわかるように、正負極の対向面積を大きくし、集電板と活物質との間の最大距離を短くした本発明電池本発明電池及び比較電池Lは、比較例K及び比較電池Mに比べて1kHzのインピーダンスが顕著に低下した。第1の活物質であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、第2の活物質であるLiFePOとを、質量比90:10で混合した正極活物質を用いた本発明電池Aと、第1の活物質であるLiNi1/4Mn1/4Co1/2と、第2の活物質であるLiFePOとを質量比90:10で混合した正極活物質を用いた本発明電池Bとを比較すると、本発明電池Aの方がわずかではあるがインピーダンスは低い値を示したことから、第1の活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を用いることが好ましいことがわかる。また、本発明電池Bに比べて、本発明電池Dはインピーダンスが上昇していることから、電極面積を大きくするとともに、活物質層の厚みを小さくすることが、1kHzのインピーダンスの低減に好ましいことがわかった。以上のことから、正負極の対向面積、即ち電極面積を大きくし、集電板と活物質との間の最大距離を短くすることによって、1kHzのインピーダンス、即ち内部抵抗が低減されることがわかった。
【0094】
ここで、内部抵抗は、正負極活物質や非水電解質に用いられる物質の性質、即ち化学的処方によって変化する抵抗と、電極面積や集電板の取り付け位置といった物理的処方によって変化する集電抵抗との和として考えることができる。本実施例においては、電池の物理的処方を変化させることによって、集電抵抗を低減させ、内部抵抗を低下させる例を示したが、活物質や非水電解質の組成や形状などを変化させることによっても内部抵抗を低減させることができ、このような方法でも本発明を実施することができる。
【0095】
<出力試験>
上記本発明電池及び比較電池のいくつかについて、SOC10%、SOC20%及びSOC50%の充電状態における出力性能試験を実施した。SOC10%、SOC20%及びSOC50%の充電状態における電池電圧は、それぞれ、3.49V、3.53V及び3.68Vである。
【0096】
各SOCの充電状態における出力性能試験は次の手順で行った。まず、供試電池を、充電電流1CA、充電電圧3.49V、総充電時間2時間の定電流定電圧充電により、SOC10%の充電状態とした。その後、放電電流1CAにて30秒間放電したのち、直前の放電電流と同じ電流値で30秒間充電した。同様に、放電電流値を3、5及び10CAに変更したこと以外は同様にして、前記放電及び充電をおこなった。それぞれの放電電流における10秒後の電圧と、そのときの放電電流値とをプロットしてV−I特性を描画した。そのV−I特性において、最小二乗法で直線近似をおこなった後、放電終止電圧に対応する最大出力電流値を算出し、さらに、前記最大出力電流値と前記放電終止電圧とを乗算することによってSOC10%出力を求めた。なお、前記放電終止電圧は2.0Vとした。
【0097】
充電電圧を3.53Vとすることにより、SOC20%の充電状態としたことを除いては、前記出力試験と同様にしてSOC20%出力を求めた。
【0098】
充電電圧を3.68Vとし、SOC50%の充電状態としたことを除いては、前記出力試験と同様にしてSOC50%出力を求めた。
【0099】
SOC20%出力をSOC50%出力で除して100を乗ずることによって、出力比A(%)を算出した。SOC10%出力をSOC50%出力で除して100を乗ずることによって、出力比B(%)を算出した。
【0100】
以上の結果を表2に示す。なお、表2において数字を記していない欄は、試験を行っていない。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示されるように、1kHzのインピーダンスが37.6mΩと高い比較電池Kに比べて、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下である本発明電池A〜Jは、高い出力比と高いSOC20%出力あるいはSOC10%出力とを示した。なかでも、第1の活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を用いた本発明電池Aは、72.3%という高い出力比Aと、2.76W/ccという高いSOC20%出力、74.7%という高い出力比Bと、2.85W/ccという高いSOC10%出力、とを示した。
【0103】
また、比較例2との比較から分かるように、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下であっても、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を単独で用いた場合には、出力性能が優れたものとはならなかった。
【0104】
以上のことから、一般式LiNiMnCo(x+y+z=1、x>0、y>0、z>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1の活物質とLiFePOを含む第2の活物質とを含有する正極を備え、1kHzのインピーダンスが1.27mΩ以下である非水電解質二次電池とすることで、高SOCでの出力に対する低SOCでの出力の比が高く、かつ高いエネルギー密度を有する非水電解質二次電池を提供できることがわかった。
【符号の説明】
【0105】
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 発電要素
15 正極集電板取り付け位置
16 負極集電板取り付け位置
17 集電板から最も離れた活物質までの距離
21 正極
22 負極
23 セパレータ
24 発電要素
25 集電板取り付け位置
図1
図2