特許第5672290号(P5672290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672290
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   F25B1/00 304P
   F25B1/00 304L
   F25B1/00 396A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-239888(P2012-239888)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-89006(P2014-89006A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2013年8月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 大介
【審査官】 鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−174075(JP,A)
【文献】 特開2002−286301(JP,A)
【文献】 特開平06−265222(JP,A)
【文献】 特開平09−236299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機(12)と室外熱交換器(14)と膨張弁(15)と室内熱交換器(16)が接続され、冷媒としてHFC32が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(11)と、前記圧縮機(12)の吐出冷媒の温度が目標温度になるように前記膨張弁(15)の開度を所定量変更する開度制御を所定周期で行う制御部(30)とを備えた空気調和機であって、
前記圧縮機(12)の吐出冷媒の温度を測定周期毎に測定する測定部(21)を更に備え、
前記制御部(30)は、
前記測定部(21)により測定された前記圧縮機(12)の吐出冷媒の温度に基づいて前記所定量を設定すると共に、
前記膨張弁(15)の開度が所定値未満の領域では前記所定値以上の領域よりも、前記測定周期及び前記所定周期が長くなっており、
前記測定周期は、前記所定周期と同一である
ことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部(30)は、前記膨張弁(15)の開度が前記所定値未満の領域では前記所定値以上の領域よりも、前記所定量が小さくなっている
ことを特徴とする空気調和機。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記制御部(30)は、前記膨張弁(15)の開度が前記所定値未満の領域では開度が小さくなるほど前記所定周期及び前記測定周期が段階的に長くなっている
ことを特徴とする空気調和機。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項において、
前記膨張弁(15)は、開度が前記所定値未満になると、前記膨張弁(15)の開度の変化量に対する前記膨張弁(15)における冷媒流量の変化量が小さくなるものである
ことを特徴とする空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒としてR32を用いた空気調和機に関し、特に膨張弁の開度制御に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路を備えた空気調和機として、膨張弁の開度を制御して圧縮機の吐出冷媒の温度を制御することによって、間接的に圧縮機の吸入冷媒の過熱度を調節するものが知られている。この種の空気調和機では、例えば特許文献1に開示されているように、膨張弁の開度が予め定められた一定の周期でフィードバック制御される。
【0003】
また、近年では、特許文献2に開示されているように、地球温暖化への影響を軽減するために、冷媒として地球温暖化係数GWPの小さいR32(HFC32)を用いた空気調和機が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−34564号公報
【特許文献2】特開2012−122677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、冷媒としてR32を用いた空気調和機において、上述したように一定の周期で膨張弁の開度制御を行うと、冷媒循環量が少なくなる低負荷領域では圧縮機の吐出冷媒の温度を安定して制御することが困難になるという問題があった。
【0006】
R32は各種冷媒の中において単位体積当たりの冷凍能力が比較的高いため、冷媒回路における必要な冷媒循環量を少なくすることができ、低負荷領域では更に冷媒循環量が少なくなる。低負荷領域において膨張弁の開度を変更しても、冷媒循環量が非常に少ないため、直ぐには吐出冷媒の温度は目標温度に到達しない。そうすると、次の開度制御時では、実際は膨張弁の開度が適切な開度に制御されているにも拘わらず、吐出冷媒の温度と目標温度との間に未だ温度差があるとして、膨張弁の開度が更に変更されてしまう。このような膨張弁の開度制御を続けていると、吐出冷媒の温度が目標温度を超えたり下回ったりを繰り返すという、いわゆるハンチングが起こる。その結果、吐出冷媒の温度を安定して制御することが困難になる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷媒としてR32を用いた空気調和機において、圧縮機の吐出冷媒の温度を安定して制御することが可能な膨張弁の開度制御を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、圧縮機(12)と室外熱交換器(14)と膨張弁(15)と室内熱交換器(16)が接続され、冷媒としてHFC32が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(11)と、前記圧縮機(12)の吐出冷媒の温度が目標温度になるように前記膨張弁(15)の開度を所定量変更する開度制御を所定周期で行う制御部(30)とを備えた空気調和機を対象としている。前記空気調和機は、前記圧縮機(12)の吐出冷媒の温度を測定周期毎に測定する測定部(21)を更に備える。そして、前記制御部(30)は、前記測定部(21)により測定された前記圧縮機(12)の吐出冷媒の温度に基づいて前記所定量を設定すると共に、前記膨張弁(15)の開度が所定値未満の領域では前記所定値以上の領域よりも、前記測定周期及び前記所定周期が長くなっており、前記測定周期は、前記所定周期と同一となっているものである。
【0009】
前記第1の発明では、膨張弁(15)の開度が小さい領域、即ち冷媒回路(11)における冷媒循環量が少ないときに開度制御の周期が長くなるので、膨張弁(15)の開度を変更してから次の開度制御を行うまでに、吐出冷媒の温度が目標温度に到達する(近づく)。つまり、吐出冷媒の温度が安定してから次の開度制御が行われる。
【0010】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記制御部(30)は、前記膨張弁(15)の開度が前記所定値未満の領域では前記所定値以上の領域よりも、前記所定量が小さくなっているものである。
【0011】
前記第2の発明では、膨張弁(15)の開度が小さい領域において所定周期は長くなり開度の変更量は小さくなるので、次の開度制御が行われるまでに吐出冷媒の温度が安定し易くなると共に、1回の開度制御による吐出冷媒の温度の変化量が小さくなる。そのため、吐出冷媒の温度が目標温度を超えたり下回ったりする状態が確実に回避される。
【0012】
第3の発明は、前記第1または第2の発明において、前記制御部(30)は、前記膨張弁(15)の開度が前記所定値未満の領域では開度が小さくなるほど前記所定周期及び前記測定周期が段階的に長くなっているものである。
【0013】
前記第3の発明では、膨張弁(15)の開度が小さくなるほど冷媒回路(11)における冷媒循環量が少なくなり、吐出冷媒の温度が目標温度に到達する時間が長くなるが、開度が小さくなるほど所定周期が段階的に長くなるので、次の開度制御を行うまでに確実に吐出冷媒の温度が目標温度に到達する。
【0014】
第4の発明は、前記第1乃至第3の何れか1の発明において、前記膨張弁(15)は、開度が前記所定値未満になると、前記膨張弁(15)の開度の変化量に対する前記膨張弁(15)における冷媒流量の変化量が小さくなるものである。
【0015】
前記第4の発明では、膨張弁(15)において開度が所定値未満の領域では開度の変更量の割には冷媒流量はそれ程変化しないので、冷媒回路(11)における冷媒循環量もそれ程変化しない。そのため、吐出冷媒の温度が目標温度に到達する時間が一層長くなるが、開度が所定値未満の領域では所定周期が長くなったり開度の変更量が小さくなるので、吐出冷媒の温度が目標温度を超えたり下回ったりする状態が効果的に回避される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、膨張弁(15)の開度が所定値未満の領域では所定値以上の領域よりも、開度制御の周期を長くするようにしたので、冷媒回路(11)における冷媒循環量が少ないときでも、膨張弁(15)の開度を変更してから次の開度制御を行うまでに、吐出冷媒の温度を目標温度に到達させる(近づかせる)ことができる。つまり、吐出冷媒の温度が安定してから次の開度制御を行うことができる。したがって、次の開度制御では開度の変更量を適切に設定することができ、これにより、吐出冷媒の温度が目標温度を超えたり下回ったりする状態を回避できる。その結果、吐出冷媒の温度のハンチングを防止でき、吐出冷媒の温度を安定して制御することが可能となる。
【0017】
また、第2の発明によれば、膨張弁(15)の開度が所定値未満の領域では所定値以上の領域よりも、開度制御の周期を長くすると共に、開度の変更量を小さくするようにしたので、確実に吐出冷媒の温度が目標温度を超えたり下回ったりする状態を回避できる。よって、確実に吐出冷媒の温度を安定して制御することができる。
【0018】
また、第3の発明によれば、膨張弁(15)の開度が所定値未満の領域では開度が小さくなるほど開度制御の周期を段階的に長くするようにしたので、次の開度制御を行うまでに確実に吐出冷媒の温度を目標温度に到達させることができる。よって、確実に吐出冷媒の温度を安定して制御することができる。
【0019】
また、第4の発明によれば、膨張弁(15)の開度が所定値未満の領域では開度の変更量の割には冷媒回路(11)における冷媒循環量がそれ程変化しないため、吐出冷媒の温度が目標温度に到達する時間が一層長くなってしまうが、その所定値未満の領域に合わせて開度制御の周期を長くしたり開度の変更量を小さくするようにしたので、吐出冷媒の温度が目標温度を超えたり下回ったりする状態を効果的に回避することができる。よって、吐出冷媒の温度のハンチングを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態1に係る空気調和機の構成を示す配管系統図である。
図2図2は、実施形態1に係る膨張弁の開度制御を示すフローチャートである。
図3図3は、膨張弁の開度領域とサンプリング時間との関係を示す表である。
図4図4は、膨張弁における開度と冷媒流量との関係を示すグラフである。
図5図5は、実施形態2に係る膨張弁の開度制御を示すフローチャートである。
図6図6は、膨張弁の開度領域と開度変更量との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0022】
《実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。図1に示すように、本実施形態の空気調和機(10)は、冷媒回路(11)を備えて冷房運転と暖房運転を切り換えて行うものである。冷媒回路(11)は、圧縮機(12)と、四方切換弁(13)と、室外熱交換器(14)と、膨張弁(15)と、室内熱交換器(16)とが接続されて閉回路を構成している。冷媒回路(11)は、冷媒としてR32(HFC32(ジフルオロメタン))が充填されており、該冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うように構成されている。
【0023】
冷媒回路(11)において、四方切換弁(13)は、第4ポートが圧縮機(12)の吐出配管と、第2ポートが圧縮機(12)の吸入配管と、第1ポートが室外熱交換器(14)の端部と、第3ポートが室内熱交換器(16)の端部とそれぞれ接続されている。四方切換弁(13)は、第1ポートと第4ポートとが連通し且つ第2ポートと第3ポートとが連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポートと第2ポートとが連通し且つ第3ポートと第4ポートとが連通する第2状態(図1に破線で示す状態)とに切換可能に構成されている。
【0024】
冷媒回路(11)では、四方切換弁(13)が第1状態に切り換わると、室外熱交換器(14)が凝縮器として機能し室内熱交換器(16)が蒸発器として機能する冷房サイクルで冷媒が循環する。冷媒回路(11)では、四方切換弁(13)が第2状態に切り換わると、室内熱交換器(16)が凝縮器として機能し室外熱交換器(14)が蒸発器として機能する暖房サイクルで冷媒が循環する。つまり、四方切換弁(13)は、冷媒回路(11)において冷媒の循環方向を切り換える切換機構を構成する。
【0025】
圧縮機(12)は、インバータ回路によって運転周波数が調節される可変容量式に構成されている。膨張弁(15)は、パルスモータによって開度が可変に構成されている。室外熱交換器(14)は冷媒が室外空気と熱交換し、室内熱交換器(16)は冷媒が室内空気と熱交換するように構成されている。
【0026】
〈センサ、制御部〉
空気調和機(10)には、各種センサと、圧縮機(12)の運転周波数や膨張弁(15)の開度を制御する制御部(30)とが設けられている。
【0027】
図1に示すように、冷媒回路(11)には、吐出管温度センサ(21)、室外熱交換器温度センサ(22)、室内熱交換器温度センサ(23)が設けられている。吐出管温度センサ(21)は、圧縮機(12)の吐出管の温度(以下、吐出管温度Tpという。)を検出する。吐出管温度Tpは、圧縮機(12)の吐出冷媒の温度に相当する。室外熱交換器温度センサ(22)は室外熱交換器(14)における冷媒の温度を検出し、室内熱交換器温度センサ(23)は室内熱交換器(16)における冷媒の温度を検出する。室外熱交換器温度センサ(22)の検出温度は、冷房運転時では冷媒の凝縮温度Tcに相当し、暖房運転時では冷媒の蒸発温度Teに相当する。室内熱交換器温度センサ(23)の検出温度は、冷房運転時では冷媒の蒸発温度Teに相当し、暖房運転時では冷媒の凝縮温度Tcに相当する。
【0028】
制御部(30)は、冷房運転および暖房運転時において、圧縮機(12)の吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaになるように膨張弁(15)の開度制御を所定周期(以下、サンプリング時間tという。)で行う。また、制御部(30)は、膨張弁(15)の現在の開度領域に応じてサンプリング時間tを変更するように構成されている。かかる開度制御の詳細は後述する。
【0029】
−運転動作−
空気調和機(10)の運転動作について説明する。
【0030】
冷房運転時は、冷媒回路(11)において四方切換弁(13)が第1状態に切り換わる。冷房運転では、圧縮機(12)の吐出冷媒が室外熱交換器(27)において室外空気に放熱して凝縮する。凝縮した冷媒は、膨張弁(15)を通過する際に減圧される(膨張する)。減圧された冷媒は、室内熱交換器(16)において室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却されて室内へ供給される。これにより、室内の冷房が行われる。室内熱交換器(16)で蒸発した冷媒は、圧縮機(12)で圧縮されて再び吐出される。
【0031】
暖房運転時は、冷媒回路(11)において四方切換弁(13)が第2状態に切り換わる。暖房運転では、圧縮機(12)の吐出冷媒が室内熱交換器(16)において室内空気に放熱して凝縮し、室内空気が加熱される。これにより、室内の暖房が行われる。凝縮した冷媒は、膨張弁(15)を通過する際に減圧される(膨張する)。減圧された冷媒は、室外熱交換器(14)において室外空気から吸熱して蒸発する。蒸発した冷媒は、圧縮機(12)で圧縮されて再び吐出される。
【0032】
〈制御部の動作〉
制御部(30)は、冷房運転時および暖房運転時に、圧縮機(12)の吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaになるように、膨張弁(15)の開度制御を所定のサンプリング時間t(sec)毎に行う。具体的に、制御部(30)は図2に示すフローチャートに従って膨張弁(15)の開度をフィードバック制御する。
【0033】
ステップST1では、前回の膨張弁(15)の駆動(膨張弁(15)の開度変更)から所定のサンプリング時間tが経過したかが判定され、所定のサンプリング時間tが経過してると、ステップST2に移行する。
【0034】
ステップST2では、目標吐出管温度Tpaが設定される。本実施形態において、目標吐出管温度Tpaは、圧縮機(12)の吸入冷媒の過熱度(即ち、蒸発器として機能する熱交換器(14,16)の出口冷媒の過熱度)が所定値となる値に設定される。つまり、本実施形態では、吐出管温度Tpを制御することによって間接的に吸入冷媒の過熱度を制御する。
【0035】
具体的に、制御部(30)では、室外熱交換器温度センサ(22)と室内熱交換器温度センサ(23)のそれぞれの検出温度である凝縮温度Tcと蒸発温度Teに基づいて目標吐出管温度Tpaが設定される。例えば、目標吐出管温度Tpaは下記の数式で求められる。なお、下記に示すα、β、γは所定の係数である。
【0036】
目標吐出管温度Tpa=α×凝縮温度Tc−β×蒸発温度Te+γ
以上のようにして目標吐出管温度Tpaが設定されると、ステップST3に移行する。ステップST3では、吐出管温度センサ(21)で測定された現在の吐出管温度Tpが制御部(30)に入力される。
【0037】
続くステップST4では、入力された現在の吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaになるために(近づくために)必要な膨張弁(15)の開度変更量ΔP(パルス)が設定される。膨張弁(15)の開度が増加すると、蒸発器として機能する熱交換器(14,16)において冷媒循環量が増大するので出口冷媒の過熱度は低下し、その結果、吐出管温度Tpは低下する。また、膨張弁(15)の開度が減少すると、蒸発器として機能する熱交換器(14,16)において冷媒循環量が減少するので出口冷媒の過熱度は上昇し、その結果、吐出管温度Tpは上昇する。
【0038】
具体的に、制御部(30)には、開度変更量ΔPを設定するためのテーブル(ファジーテーブル)が予め備えられている。ファジーテーブルは、吐出管温度Tpと目標吐出管温度Tpaとの偏差、および、吐出管温度Tpの単位時間当たりの変化量に応じて、開度変更量ΔPが定められている。したがって、制御部(30)は、上記偏差を算出すると共に、前回の開度制御時における吐出管温度Tpと今回の吐出管温度Tpとから上記単位時間当たりの変化量を算出して、算出した偏差および変化量から開度変更量ΔPを設定する。
【0039】
開度変更量ΔPが設定されると、ステップST5において、制御部(30)は膨張弁(15)の開度が開度変更量ΔPだけ増加または減少するように膨張弁(15)を駆動する。
【0040】
続くステップST6では、新たなサンプリング時間tが設定される。つまり、サンプリング時間tの維持または変更が行われる。図3に示すように、本実施形態において、サンプリング時間tは膨張弁(15)の開度領域に応じて異なる値に設定されている。本実施形態では、図4にも示すように、膨張弁(15)における最低開度から最大開度までを3つの開度領域(大開度領域、中開度領域、小開度領域)に区分している。大開度領域は第1所定値Pxから最大開度までの範囲であり、中開度領域は第2所定値Pyから第1所定値Px未満の範囲であり、小開度領域は最低開度から第2所定値Py未満の範囲である。
【0041】
そして、ステップST6において、サンプリング時間tは、現在の膨張弁(15)の開度Pが、大開度領域である場合は「ta(sec)」に設定され、中開度領域である場合は「tb(sec)」に設定され、小開度領域である場合は「tc(sec)」に設定される。ここで、上述した現在の膨張弁(15)の開度Pとは、ステップST5において駆動された後(開度Pが変更された後)の膨張弁(15)の開度を示す。ta、tb、tcの大小関係は、ta<tb<tcとなっている。
【0042】
以上のように、本実施形態の膨張弁(15)の開度制御では、膨張弁(15)の開度Pが第1所定値Px未満の領域では第1所定値Px以上の領域よりも、サンプリング時間tが長くなっている。さらに、本実施形態では、膨張弁(15)の開度Pが第1所定値Px未満の領域において開度Pが小さくなるほどサンプリング時間tが段階的に長くなっている。つまり、本実施形態では、膨張弁(15)の開度Pが小さくなるほど、サンプリング時間tが長く設定される。
【0043】
また、図4に示すように、本実施形態の膨張弁(15)は、開度Pが第1所定値Px未満になると、開度Pの変化量に対する膨張弁(15)における冷媒流量の変化量が小さくなる特性を有する。つまり、膨張弁(15)では、中開度領域および小開度領域では同じ開度変更量ΔPだけ開度Pを変更しても冷媒流量の変化量は小さい。さらに言えば、本実施形態の膨張弁(15)の開度制御では、膨張弁(15)において開度Pと冷媒流量との関係が変化する開度を第1所定値Pxに設定している。
【0044】
ステップST6で新たなサンプリング時間tが設定されると、ステップST1に戻って次回の開度制御が行われる。つまり、ステップST1では、膨張弁(15)を駆動してから、新たに設定されたサンプリング時間tが経過したかが判定され、経過するとステップST2以降へ同様に移行していく。
【0045】
膨張弁(15)の開度Pが小さい領域(中開度領域、小開度領域)では、膨張弁(15)における冷媒流量が少なくなり、冷媒回路(11)における冷媒循環量が少なくなる。本実施形態では、冷媒としてR32を用いていることから、膨張弁(15)の開度Pが小さい領域では冷媒循環量が非常に少なくなる。この冷媒循環量が少ない開度領域では、膨張弁(15)の開度Pを変更しても、吐出管温度Tpはなかなか上昇または低下せず目標吐出管温度Tpaに到達するのに時間がかかる。この場合に、膨張弁(15)の開度Pが大きい領域(大開度領域)と同じサンプリング時間tで開度制御を行うと、実際は膨張弁(15)の開度Pが適切な開度に制御されているにも拘わらず、吐出管温度Tpと目標吐出管温度Tpaとの間に未だ差があるとして、さらに膨張弁(15)の開度Pを変更する制御を行ってしまう。つまり、吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaに向かって変化している過渡期において次の開度制御が行われてしまう。その結果、吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaを超えたり下回ったりを繰り返すハンチングが起こってしまう。
【0046】
これに対し、本実施形態の膨張弁(15)の開度制御によれば、膨張弁(15)の開度Pが小さくなるほどサンプリング時間tが長くなるので、膨張弁(15)の開度Pを変更して吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaに到達して(近づいて)から次の開度制御を行うことができる。つまり、次の開度制御を行うまでに、吐出管温度Tpを目標吐出管温度Tpaに到達させて(近づかせて)安定させることができる。
【0047】
−実施形態の効果−
以上説明したように、本実施形態によれば、膨張弁(15)の開度Pが所定値(第1所定値Px)未満の領域では所定値(第1所定値Px)以上の領域よりも、開度制御のサンプリング時間t(開度制御の周期)を長くするようにした。そのため、冷媒回路(11)における冷媒循環量が少ないときでも、膨張弁(15)の開度を変更してから次の開度制御を行うまでに、吐出管温度Tpを目標吐出管温度Tpaに到達させる(近づかせる)ことができる。つまり、吐出管温度Tpが安定してから次の開度制御を行うことができる。したがって、次の開度制御では吐出管温度Tpと目標吐出管温度Tpaとの偏差を適切に検出できるので、開度変更量ΔPを適切に設定することができる。これにより、吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaを超えたり下回ったりする状態を回避できる。その結果、吐出管温度Tpのハンチングを防止することができ、吐出管温度Tpを安定して制御することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態では、第1所定値Pxよりも小さい第2所定値Py未満の開度領域でさらにサンプリング時間tを長くするようにした。つまり、膨張弁(15)の開度Pが所定値(第1所定値Px)未満の領域では開度Pが小さくなるほど開度制御のサンプリング時間tを段階的に長くするようにした。そのため、冷媒循環量が最低循環量に近づいていっても、次の開度制御を行うまでに確実に吐出管温度Tpを目標吐出管温度Tpaに到達させる(近づかせる)ことができる。よって、確実に吐出管温度Tpを安定して制御することができる。
【0049】
また、膨張弁(15)の開度Pが所定値(第1所定値Px)未満の領域では、膨張弁(15)の特性上、開度変更量ΔPの割には冷媒回路(11)において冷媒循環量がそれ程変化しない(図4参照)。そのため、膨張弁(15)の開度Pが所定値(第1所定値Px)未満の領域では吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaに到達する(近づく)時間が一層長くなってしまう。本実施形態の開度制御では、その所定値(第1所定値Px)未満の領域に合わせて開度制御のサンプリング時間tを長くするようにしたので、吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaを超えたり下回ったりする状態を効果的に回避することができる。よって、吐出管温度Tpのハンチングを効果的に防止することができる。
【0050】
《実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、前記実施形態1の空気調和機(10)において膨張弁(15)の開度制御について変更したものである。つまり、前記実施形態1では膨張弁(15)の開度Pが所定値未満の領域においてサンプリング時間tを長くするようにしたが、本実施形態ではかかる領域においてサンプリング時間tは一定にして開度変更量ΔPを小さくするようにした。
【0051】
本実施形態の制御部(30)は、図5に示すフローチャートに従って膨張弁(15)の開度制御を行う。ステップST1〜ステップST3の制御動作は、前記実施形態1と同様である。
【0052】
ステップST4では、前記実施形態1と同様、現在の吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaになるために(近づくために)必要な膨張弁(15)の開度変更量ΔP(パルス)が設定される。制御部(30)には、吐出管温度Tpと目標吐出管温度Tpaとの偏差、および、吐出管温度Tpの単位時間当たりの変化量に応じて、開度変更量ΔPが定められたファジーテーブルが予め備えられている。
【0053】
本実施形態のファジーテーブルでは、図6に示すように、開度変更量ΔPは膨張弁(15)の開度領域に応じて異なる値に設定されている。膨張弁(15)の開度領域は、前記実施形態1と同様、大開度領域、中開度領域、小開度領域の3つに区分されている。ステップST4において、開度変更量ΔPは、現在の膨張弁(15)の開度Pが、大開度領域である場合は「ΔPa(パルス)」に設定され、中開度領域である場合は「ΔPb(パルス)」に設定され、小開度領域である場合は「ΔPc(パルス)」に設定される。ΔPa、ΔPb、ΔPcの大小関係は、ΔPa>ΔPb>ΔPcとなっている。
【0054】
以上のように、本実施形態の膨張弁(15)の開度制御では、膨張弁(15)の開度Pが第1所定値Px未満の領域では第1所定値Px以上の領域よりも、開度変更量ΔPが小さくなっている。さらに、本実施形態では、膨張弁(15)の開度Pが第1所定値Px未満の領域において開度Pが小さくなるほど開度変更量ΔPが段階的に小さくなっている。つまり、本実施形態では、膨張弁(15)の開度Pが小さくなるほど、開度変更量ΔPが小さく設定される。したがって、本実施形態では、吐出管温度Tpと目標吐出管温度Tpaとの偏差および吐出管温度Tpの単位時間当たりの変化量が同じであっても、膨張弁(15)の開度Pが小さくなるほど開度変更量ΔPが小さくなる。
【0055】
ステップST4で開度変更量ΔPが設定されると、ステップST5において、制御部(30)は膨張弁(15)の開度が開度変更量ΔPだけ増加または減少するように膨張弁(15)を駆動する。膨張弁(15)が駆動されると、ステップST1に戻って次回の開度制御が行われる。
【0056】
本実施形態における膨張弁(15)の開度制御によれば、膨張弁(15)の開度Pが所定値(第1所定値Px)未満の領域では所定値(第1所定値Px)以上の領域よりも、開度変更量ΔPを小さくするようにしたので、冷媒回路(11)の冷媒循環量が少ない場合において1回の開度制御による吐出管温度Tpの変化量を小さくすることができる。これにより、吐出管温度Tpが大幅に上昇または低下することはないので、吐出管温度Tpが目標吐出管温度Tpaを超えたり下回ったりする状態を回避できる。その結果、吐出管温度Tpのハンチングを防止でき、吐出管温度Tpを安定して制御することが可能である。その他の作用効果については前記実施形態1と同様である。
【0057】
《その他の実施形態》
本発明は、前記各実施形態について以下のように構成してもよい。
【0058】
例えば、前記実施形態1に係る開度制御において、膨張弁(15)の開度Pが小さくなるほどサンプリング時間tを長くすることに加えて、前記実施形態2のように膨張弁(15)の開度Pが小さくなるほど開度変更量ΔPを小さくするようにしてもよい。こうすることで、確実に吐出管温度Tpがが目標吐出管温度Tpaを超えたり下回ったりする状態を回避できる。よって、吐出管温度Tpを一層安定して制御することができる。
【0059】
また、前記各実施形態では、膨張弁(15)の開度領域を3つに区分したが、2つまたは4つ以上に区分するようにしてもよい。2つに区分する場合、膨張弁(15)の特性(開度と冷媒流量との関係)を考慮すると、第1所定値Pxおよび第2所定値Pyのうち第2所定値Pyを省略する方が好ましい。
【0060】
また、前記各実施形態の空気調和機(10)は、冷房運転および暖房運転の一方だけを実行可能なものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、冷媒としてR32が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路を備えた空気調和機について有用である。
【符号の説明】
【0062】
10 空気調和機
11 冷媒回路
12 圧縮機
14 室外熱交換器
15 膨張弁
16 室内熱交換器
30 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6