特許第5672380号(P5672380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672380
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】切削インサート及び回転切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20150129BHJP
   B23C 5/08 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   B23C5/20
   B23C5/08 A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-520611(P2013-520611)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2012065426
(87)【国際公開番号】WO2012173255
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2013年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-134911(P2011-134911)
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 修
(72)【発明者】
【氏名】川崎 創造
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−105115(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00850715(EP,A1)
【文献】 特表2005−528230(JP,A)
【文献】 特開2013−000842(JP,A)
【文献】 特開昭54−106986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/08
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦置き型の切削インサートであって、
インサート体部(13)であって、体部上面(17)と、該体部上面(17)の反対側にある体部下面(19)と、該体部上面(17)と該体部下面(19)との間に延在する体部側面(21)とを備え、該体部上面(17)および該体部下面(19)を通過する軸線(A)が定められる、インサート体部(13)と、
複数の突出部(15)であって、各々が切れ刃(23)を有して、各々が該軸線(A)に直交する方向における該インサート体部(13)の外側位置に該インサート体部(13)と一体的に設けられた、複数の突出部(15)と
を備え、
該突出部(15)は、略直方体形状を有し、該体部上面(17)につながる突出部上面(25)と、該体部下面(19)につながる突出部下面(27)と、各々が対応する体部側面(21)につながる2つの突出部側面(29)と、これらの間に延在する突出部側端面(31)とを有し、該突出部(15)には、該突出部上面と該突出部側端面との間に延在するコーナR面(33)が形成され、
前記切れ刃(23)は、前記コーナR面(33)の縁部に沿って形成されるコーナ(23c)を有すると共に前記突出部側面(29)がすくい面となるように、前記突出部上面、前記コーナR面および前記突出部側端面と前記突出部側面との交差稜線部に沿って形成され、
各突出部(15)において前記軸線(A)を含むと共に該突出部(15)を二等分する第1平面を定義するとき、該突出部の前記コーナR面は該第1平面に直交する方向における長さ(L)を有して延在し、
前記突出部の前記コーナR面の前記長さ(L)が前記体部上面において定められる内接円の直径(IC)よりも短いように、前記突出部(15)は設計されている、
切削インサート(1、101)。
【請求項2】
前記突出部の前記コーナR面の前記長さ(L)は、前記インサート体部(13)の厚みよりも大きい、請求項1に記載の切削インサート(1、101)。
【請求項3】
前記インサート体部(13)の体部側面(21)には、隆起部(R)が形成されている、請求項1又は2に記載の切削インサート(1、101)。
【請求項4】
前記体部上面(17)に対向する側から切削インサートを見たとき、前記隆起部(R)が隠されるように、該隆起部(R)は形成されている、請求項3に記載の切削インサート(1、101)。
【請求項5】
前記突出部(15)は、前記インサート体部の前記体部上面(17)を多角形の形状とみなしたとき、該多角形の頂部に位置するように、形成されている、請求項1から4のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項6】
前記突出部(15)は、前記インサート体部の前記体部上面(17)を多角形の形状とみなしたとき、該多角形の辺部に位置するように、形成されている、請求項1から4のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項7】
前記インサート体部(13)の前記体部上面(17)は、略三角形状をなしていることを特徴とする請求項5または6に記載の切削インサート。
【請求項8】
前記切削インサートは、サイドカッタ用の切削インサートである、請求項1から7のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項9】
互いに対して反対側に位置する略円形の2つの端面(43、45)と、該端面間に延在する外周面(47)と、前記端面間を貫通しているボア穴(49)とを備える工具本体(41)を備える回転切削工具(3、103)であって、
該工具本体に設けられて、請求項1からのいずれかに記載の切削インサート(1、101)が取り付けられるように構成されたインサート取付座(53)を備える、回転切削工具。
【請求項10】
前記2つの端面の一方に開く第1インサート取付座(53a)と、
前記2つの端面の他方に開く第2インサート取付座(53b)と
を備える、請求項に記載の回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートと、それが装着される切削工具とに関する。特には、本発明は、溝入れ加工(スロット加工)を行うために使用される縦置き型の切削インサートと、その切削インサートが着脱自在に装着される刃先交換式回転切削工具とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溝加工を行うことが可能な回転切削工具の1つとして、刃先交換式のサイドカッタがある。一般的に、溝加工においては、被削材の加工された溝底とそれに連なる側壁面との間の隅部に、曲面からなる隅Rつまり隅湾曲面を設けることが求められる。溝底と側壁面との間には応力が集中しやすいため、隅湾曲面がないと隅部分から被削材に亀裂が生じ、被削材が破損しやすくなるからである。したがって、刃先交換式のサイドカッタにおいては、溝隅に様々な大きさのR加工つまり湾曲面を形成するための加工を施すことができる切削インサートを備えることが重要である。
【0003】
従来の切削インサートとしては、例えば図18に示す形状のものがある。図18の切削インサート601は、平板面視で略四角形状をなしている縦置きタイプである。このインサート601では、対向するつまり互いに対して反対側に位置する一組の側面603の縁部に切れ刃605が形成され、この対向する側面間に延在するようにコーナR面つまりコーナ湾曲面607が形成されている。コーナR面607の縁部に沿って延びる切れ刃605のコーナは、溝の隅部に隅湾曲面を形成するために働くことができる。
【0004】
また、特許文献1には、別の形式の縦置き型切削インサートが開示されている。特許文献1の切削インサートと同様の位置に切れ刃を有する従来の切削インサートの一例が、図19に示される。図19の切削インサート701は、平板面視にて略四角形状をなしており、インサート中心軸を中心として周方向に等間隔に切れ刃703が配置されている。この切削インサート701は勝手なしであり、全ての切れ刃703はそれぞれ決められた方向を向いている。このタイプの切削インサートにおいては、溝の隅部に隅湾曲面を加工するために、図18に示されるようなコーナR面がさらに設けられることが考えられるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−262422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に、切削インサートを切削工具の工具本体に装着するとき、径方向すくい角が例えば0°または正になるように切削インサートが取り付けられることが好ましい。あるいは、径方向すくい角が、負であっても、その程度が小さくなるように、切削インサートを工具本体に装着することが好まれる。理由の1つに、負の径方向のすくい角が大きいと、切れ刃が被削材に食いつくときの衝撃及び切削抵抗が大きくなり、切削インサートの破損が生じる可能性が高まることがある。
【0007】
図18に示されている従来の切削インサートの場合、この切削インサートを回転切削工具の工具本体の周囲に小さな負の径方向のすくい角または正の径方向のすくい角を有するように配置するには、側面間の長さを短くすることが求められる。しかしながら、この切削インサートの場合、側面間の長さつまりコーナR面の長さは、切削インサートを平板面視したときの切削インサートにおける内接円の直径と等しくなる。すなわち、側面間の長さは切削インサート全体のサイズと比例関係にある。したがって、側面間の長さを短くするには、切削インサート全体のサイズを小さくしなければならない。しかしながら、この切削インサートの場合、切削インサートの中央には工具本体に切削インサートを着脱するための取付穴を一定の大きさで設けなければならないため、切削インサートのサイズを単に小さくすると、切削インサートの強度が大きく低下してしまう問題が生じる。また、コーナR面を単に大きくすると、それに伴って、工具本体のインサート取付座の当接面と切削インサートの側面との接触面積が減少し、切削インサートの固定性が低下するという問題も生じる。
【0008】
また、特許文献1や図19に示されているような切削インサートも、図18の切削インサートと同様に、径方向のすくい角に関する問題を有している。さらに、図19に示されるタイプの切削インサートでは、上記したようなコーナR面を設けるとき、取付穴の中心軸周りに90°間隔で切れ刃が形成されているので、そのコーナR面の設計に制限がある。ある程度以上の大きさのコーナR面を設ける場合、1つの切れ刃に関するコーナR面が隣の切れ刃に影響する。これは、90°間隔で切れ刃を形成することを阻害し、よって切削インサートにおける切れ刃の数の減少をもたらし得る。形成すべき溝の隅湾曲面は加工予定の溝の幅や深さによって変化するため、多様な大きさの隅湾曲面に対応するコーナR面を自由に設定できないことは大きなデメリットとなっている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、切削インサートのサイズを小さくすることなく径方向のすくい角を好適に設定できる切削インサートおよび切削工具を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、上記したようなコーナR面の設計の自由度を高めることを可能にする切削インサートおよび切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る一態様は、インサート体部であって、体部上面と、該体部上面の反対側にある体部下面と、該体部上面と該体部下面との間に延在する体部側面とを備え、該体部上面および該体部下面を通過する軸線が定められる、インサート体部と、複数の突出部であって、各々が切れ刃を有して、各々が該軸線に直交する方向における該インサート体部の外側位置に該インサート体部と一体的に設けられた、複数の突出部とを備え、該突出部は、該体部上面につながる突出部上面と、該体部下面につながる突出部下面と、各々が対応する体部側面につながる2つの突出部側面と、これらの間に延在する突出部側端面とを有し、該突出部には、該突出部上面と該突出部側端面との間に延在するコーナR面が形成され、切れ刃は、コーナR面の縁部に沿って形成されるコーナを有すると共に突出部側面がすくい面となるように、突出部上面、コーナR面および突出部側端面と突出部側面との交差稜線部に沿って形成され、2つの突出部側面間の長さが体部上面において定められる内接円の直径よりも短いように突出部は設計されている、切削インサートを提供する。
【0012】
かかる構成によれば、インサート体部の外側位置にインサート体部と一体的に切れ刃を有する突出部が設けられ、突出部の2つの突出部側面間の長さは、インサート体部の体部上面において定められる内接円の直径よりも短くされる。したがって、切削インサートまたはインサート体部の大きさに関わらず、この本発明の一態様に係る切削インサートを切削工具の工具本体に取り付けるとき、突出部の切れ刃における径方向のすくい角を好適にすることができる。また、かかる構成によれば、突出部ごとに切れ刃に関してコーナR面を設定でき、コーナR面の設計の自由度を高めることが可能になる。
【0013】
好ましくは、2つの突出部側面間の長さは、インサート体部の厚みよりも大きいとよい。また、インサート体部の体部側面には、隆起部が形成されているとよい。この場合、好ましくは、体部上面に対向する側から切削インサートを見たとき、隆起部が隠されるように、隆起部は形成される。
【0014】
突出部は、インサート体部の体部上面を多角形の形状とみなしたとき、該多角形の頂部に位置するように、形成されることができる。あるいは、突出部は、インサート体部の体部上面を多角形の形状とみなしたとき、該多角形の辺部に位置するように、形成されてもよい。例えば、インサート体部の体部上面は、略三角形状をなしているとよい。
【0015】
本発明に係る他の一態様は、互いに対して反対側に位置する略円形の2つの端面と、該端面間に延在する外周面と、端面間を貫通しているボア穴とを備える工具本体を備える回転切削工具であって、該工具本体に設けられた、上記したような切削インサートが取り付けられるように構成されたインサート取付座を備える、回転切削工具を提供する。好ましくは、この切削工具は、2つの端面の一方に開く第1インサート取付座と、2つの端面の他方に開く第2インサート取付座とを備えるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る、切削インサートの斜視図である。
図2図2は、図1の切削インサートの上面図である。
図3図3は、図1の切削インサートの下面図である。
図4図4は、図1の切削インサートの左側面図である。
図5図5は、本発明の第1実施形態に係る、図1の切削インサートが装着された切削工具の端面図である。
図6図6は、図5の切削工具の正面図である。
図7図7は、図5の円VIIに囲まれた部分における切削インサートおよびインサート取付座に関する図であり、取付ねじが取り外された状態での図である。
図8図8は、図7のVIII−VIII線断面図である。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係る、切削インサートの斜視図である。
図10図10は、図9の切削インサートの上面図である。
図11図11は、図9の切削インサートの下面図である。
図12図12は、本発明の第2実施形態に係る、図9の切削インサートが装着された切削工具の端面図である。
図13図13は、図12の切削工具の正面図である。
図14図14は、本発明に係る切削インサートの変形例を表した図である。
図15図15は、本発明に係る切削インサートの別の変形例を表した図である。
図16図16は、本発明に係る切削インサートの更に別の変形例を表した図である。
図17図17は、本発明に係る切削インサートの更に別の変形例を表した図である。
図18図18は、従来の切削インサートの斜視図である。
図19図19は、従来の別の切削インサートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
まず、第1実施形態に係る切削インサート1および切削工具3が説明される。切削インサート1は、図1図4に示されている。
【0019】
切削インサート1は、対向するまたは互いに対して反対側に位置する上面5および下面7と、それらの間に延在する周側面9とを備える。上面5および下面7は略平行である。切削インサート1には、上面5および下面7を通過する軸線Aが定められ、この軸線A周りに実質的に回転対称に形づくられている。軸線Aに一致する中心軸線を有するインサート取付穴11が、上面5および下面7を貫通するように形成されている。
【0020】
この切削インサート1は、インサート体部13と、このインサート体部13と一体的に設けられた3つの突出部15とを備える。インサート体部13は、体部上面17と、体部下面19と、これらの間に延在する体部側面21とを備える。体部上面17と体部下面19とは対向しまたは互いに対して反対側に位置づけられ、略平行である。3つの体部側面21のうちの任意の2つの側面21間に、1つの突出部15が配置されている。なお、切削インサート1から突出部15を除いた部分が、インサート体部13と定義されることができる。
【0021】
軸線Aつまりインサート取付穴11の中心軸線周りに回転対称形状を実質的に有するようにインサート体部13は設計されている。同様に、この軸線A周りに回転対称な位置に3つの突出部15は配置されている。このように、上記したように、切削インサート1は、実質的に、軸線A周りに回転対称な形状を有するように形成されている。
【0022】
インサート体部13の体部上面17を略三角形状または三角形状とみなしたとき、その体部上面17の三角形の頂部に位置するように、3つの突出部15はそれぞれ位置づけられている(図2参照)。突出部15は、軸線Aに直交する方向におけるインサート体部13の外側位置に、インサート体部13の周囲に設けられている。つまり、突出部15は、インサート体部13から外側方向に突出するまたは延出するように設けられている。
【0023】
3つの突出部15は実質的に同じ構成を有する。そこで、特に断らない限り、以下では任意の1つの突出部15が説明される。
【0024】
突出部15は、切れ刃23を有して、軸線Aに直交する方向におけるインサート体部13の外側位置に設けられている。突出部15は、略直方体形状を有する。具体的には、突出部15は、体部上面17につながる突出部上面25と、体部下面19につながる突出部下面27と、各々が対応する体部側面21につながる2つの突出部側面29と、これらの間に延在する突出部側端面31とを有している。さらに、突出部15には、2つの突出部側面29の一方から他方にまで、突出部上面25と突出部側端面31との間に延在するコーナR面(コーナ湾曲面)33が形成されている。
【0025】
このような構成を有する1つの突出部15を二等分する第1平面を定めるとき、第1平面は軸線Aを含むように延びることができる。なお、図2、3には、1つの突出部に関しての第1平面Sが表されている。突出部15は、第1平面Sにより実質的に二等分されるように設けられ、この第1平面Sに対して実質的に面対称に形成されている。また、コーナR面33は、この第1平面Sに平行な任意の平面上において、同じまたは実質的に同じ曲率を有するように形成されている。ただし、コーナR面33は、第1平面に平行な任意の平面上で異なる曲率を有してもよい。
【0026】
1つの突出部15における2つの突出部側面29間の長さL、つまり、2つの突出部側面間方向における、突出部15のコーナR面33の長さLは、所定の範囲に定められている。インサート体部13の体部上面17には、図2に示すように内接円ICが定められることができる。図2に示されるコーナR面33の長さL、つまり、第1面に直交する方向におけるコーナR面33の長さは、この内接円ICの直径よりも短い。したがって、インサート体部13のサイズに比較して、コーナR面33の長さが十分に短くなる。また、コーナR面33の長さLは、インサート体部13の厚みT(図4参照)以上であることが好ましく、切削インサート1ではインサート体部13の厚みTよりも大きい。このようにすることで、突出部15の小型化を図りながら、突出部15の強度を好適に上げることが可能である。
【0027】
なお、切削インサート1の上面5は、インサート体部13の体部上面17と、3つの突出部15の突出部上面25とを含む。切削インサート1の下面7は、インサート体部13の体部下面19と、3つの突出部15の突出部下面27とを含む。切削インサート1の周側面9は、インサート体部13の体部側面21と、3つの突出部15の突出部側面29および突出部側端面31とを含む。
【0028】
1つの突出部15には、2つの切れ刃23が形成されている。2つの切れ刃23は、上記第1面に対して対称である点を除いて、実質的に同じ構成を備える。それ故、それらの切れ刃23は、特に断らない限り、同じ符号を用いて説明される。
【0029】
切れ刃23は、コーナR面33の縁部に沿って形成されるコーナ23cを有すると共に突出部側面29がすくい面となるように、突出部上面25、コーナR面33および突出部側端面31の各々と突出部側面29との交差稜線部に沿って形成されている。なお、コーナ23cの曲率または曲率半径は、被削材に形成することが望まれる溝の隅湾曲面の大きさに合わせて適宜変更することが可能である。1つの突出部15において、このような切れ刃23が2つ形成され、それらは、図面からも明らかなように第1面Sに対して面対称である。つまり、1つの突出部15における一方の切れ刃は右勝手の切れ刃と、他方の切れ刃は左勝手の切れ刃とみなされることができる。したがって、切削インサート1では、3つの切れ刃が右勝手の切れ刃として使用されることができ、別の3つの切れ刃が左勝手の切れ刃として使用されることができる。このように、切削インサート1は、割り出し可能な切削インサートである。なお、右勝手の切れ刃とは、切削インサート1を刃先の方向から見たときに右側にある切れ刃のことであり、左勝手の切れ刃とは、切削インサート1を刃先の方向から見たときに左側にある切れ刃のことである。
【0030】
突出部15においては、上記したように対応する突出部側面29がすくい面となるように、各切れ刃23が形成されている。1つの切れ刃23において、突出部上面25と、突出部側端面31と、コーナR面33とが逃げ面となる。突出部側面29は、切れ刃近傍から、特に突出部側面29と突出部上面25との交差稜線部近傍から、突出部下面27側にいたるにしたがって、内方に漸次傾斜するように形成されている。したがって、1つの突出部15において、突出部側面29間の長さは、突出部上面25から突出部下面27側にいたるにしたがって短くなる。さらに、図3から理解できるように、1つの突出部15において、突出部側面29間の長さは、切れ刃23から離れるにしたがって短くなるように、突出部側面29つまりすくい面は傾斜する。この切削インサート1では、突出部側面29は、実質的に平面で構成されているが、曲面で形成されてもよく、平面と曲面との組み合わせにより形成されてもよく、また、凹凸を有してもよい。このような突出部側面29の形状は、切削工具3における切削インサート1の切れ刃の径方向のすくい角を正側に定めるのに貢献し得る。なお、本第1実施形態の切削インサート1では異なるが、本発明は、突出部側面29間の長さが場所によって実質的に異ならないように、つまり、突出部側面29が軸線Aに平行に延びるように、突出部側面29が形成されることを許容する。
【0031】
また、体部下面19および突出部下面27を含む切削インサート1の下面7は平らな平面として形成された略環状の周囲部7aと、取付穴11周りに形成された凹部7bとを備える。なお、本実施形態では、後述されるように、切削工具のインサート取付座の形状と、この凹部7bは対応関係にある。しかし、このような凹部7bは形成されなくてもよく、この場合、この凹部7bに対応する部分をインサート取付座は有さない。また、下面7は、湾曲形状に形成されたり、凹凸を有して形成されたりすることができる。ただし、下面7は、後述するようにインサート着座面として機能するので、切削インサート1が割り出し可能であることに留意して形成され得る。
【0032】
このような構成を各々が有する2つの突出部15の間には、1つの体部側面21が形成される。体部側面21は、上面側側面部21aと、下面側側面部21bと、それらの間に位置する中間側面部21cとを有する。上面側側面部21aは、下面側側面部21bよりも軸線Aから離れていて、着座面として機能することができるように構成されている。なお、切削インサート1では、上面側側面部21aの中央部には軸線Aに実質的に平行な方向に延びる凹部が形成されているが、この凹部は形成されなくてもよい。また、中間側面部21cは外方に向かって隆起するように形成され、隆起部Rを形成する。隆起部Rは、インサート体部13の軸線Aに直交する方向の肉厚を増大し、よって切削インサート1の強度上昇に貢献することができるように設計されている。
【0033】
この中間側面部21cつまり隆起部Rは、着座面として機能することが意図されていない。よって、切削インサート1の平板面視において、つまり、上面5または体部上面17に対向する側から切削インサート1を見たとき、隆起部Rが体部上面17に隠されるように、つまり実質的に見えないように、隆起部Rは形成されている。ただし、切削インサート1では、隆起部Rは、両隣の突出部15のそれぞれから離れるにしたがって、隆起量が増すように形成されている。しかし、このような態様以外の態様で、隆起部Rは隆起することができる。
【0034】
なお、切削インサート1の中間側面部21cに形成されている印M1、M2、M3(図3参照)は、インサートの位置または向きを分かり易くするように、特に使用済みの切れ刃と未使用の切れ刃とをより確実に判別するために、設けられている。したがって、そのような印は、異なる印とされたり、あるいは、省かれたりすることもでき、また、他の位置に設けられることもできる。
【0035】
切削インサート1は、超硬合金、コーティングされた超硬合金、サーメット、セラミック、又はダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体といった硬質材料から作製されることができる。
【0036】
このような構成を有する切削インサート1は、図5および図6に示すように、回転切削工具3の工具本体41に着脱自在に装着される。なお、切削工具3は、回転軸線O周りに回転される。
【0037】
工具本体41は、2つの端面43、45と、2つの端面43、45間に延在する外周面47と、2つの端面43、45の中央を貫通するボア穴49とから基本的に構成されている。2つの端面43、45は、対向するつまり互いに対して反対側に位置し、各々が略円形を有する。工具本体41の外周面47には、切りくずポケット51と、複数のインサート取付座53とが形成されている。切りくずポケット51は切りくずを好適に排出するように設けられている。インサート取付座53は2種類のインサート取付座53a、53bを有し、各々は対応する切りくずポケット51に隣接して工具回転方向Kの後方側の外周面上に設けられている。インサート取付座53a、53bのうち一方が右勝手の切れ刃用のインサート取付座であり、他方が左勝手の切れ刃用のインサート取付座である。これらを区別するべく、それらの一方は第1インサート取付座と称され得、他方は第2インサート取付座と称され得る。
【0038】
第1インサート取付座53aは2つの端面43、45の一方に開き、第2インサート取付座53bは2つの端面43、45の他方に開く。したがって、図5および6から良く理解できるように、第1および第2インサート取付座53a、53bは、工具本体41の2つの端面43、45のそれぞれにおいて交互に千鳥状に形成され、複数の切削インサート1は2つの端面43、45のそれぞれにおいて交互に千鳥状に装着される。なお、第1インサート取付座および第2インサート取付座は、互いに対して対称形状を有し、それ以外の点では実質的に同じである。そこで、以下では、任意の1つのインサート取付座に関して切削インサートの着脱自在な装着が説明される。
【0039】
インサート取付座53(53a、53b)には、使用可能な切れ刃23uのコーナ23cが外方に突出するように切削インサート1が縦置きで取り付けられる。切削インサート1が取り付けられたとき、切削インサート1の突出部15の突出部側端面31が工具本体41の外周面47と略一致し、かつ、突出部15のコーナR面33が外側に位置づけられている。
【0040】
ここで、図5における円VIIで囲まれた部分における、1つの切削インサート1に関して図7および8に基づいて説明する。図7は、取付ねじ55を外してインサート取付座53に切削インサート1を単に配置した状態を表す図であり、切削インサート1の着座面をインサート取付座53の当接面に当接させた状態を表す拡大図である。そして、図8は、図7のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【0041】
インサート取付座53は、切削インサート1の下面7と当接状態にされる底壁面53cと、この底壁面53cに略直角をなす側壁面53d、53eとを備える。底壁面53cには突出部53fが形成され、この突出部53fにおいて切削インサート1を取り付けるための取付ねじ55がねじ込まれるねじ穴57が形成されている。突出部53fは、図8から明らかなように、切削インサート1の凹部7b内にすき間のある状態で受け入れられるように形づくられている。そして、図7、8に示すように、単に切削インサート1をインサート取付座53に置いたとき、切削インサート1の取付穴11の軸線Aと、インサート取付座53のねじ穴57の軸線Bとがずれているように、それら穴11、57は関係付けられている。ただし、このとき、それら穴の軸線A、Bは互いに対して平行である。したがって、取付ねじ55が切削インサート1の取付穴11を通してインサート取付座53のねじ穴57にねじ込まれることで、切削インサート1はインサート取付座53の側壁面53d、53e、特に側壁面53dに押し付けられ、しっかりと固定される。これにより、切削インサート1の体部側面21の上面側側面部21aが側壁面53d、53eにしっかりと当接状態に維持される。なお、このように切削インサート1がインサート取付座53に取り付けられたとき、1つの突出部15の1つの使用可能な切れ刃23uは露出されるが、他の2つの突出部15は、特に切削工具3の回転方向Rの後方に位置づけられる突出部15は、インサート取付座53の対応する窪み部53g、53hに非接触状態で受け入れられるまたは収納される。したがって、使用可能な切れ刃23uを除く切れ刃23は、切削に関与せず、特に、使用可能な切れ刃23uを有さない突出部15の切れ刃は、より適切に保護されることができる。
【0042】
以上に説明した第1実施形態の切削インサート1および切削工具3による作用・効果について説明する。
【0043】
第1に、切削インサート1に突出部15を設け、そこに切れ刃23が設けられている。よって、1つの突出部115の突出部側面29間の長さ、特に2つの切れ刃23のコーナ23c間の長さLをインサート体部13の内接円ICの直径よりも小さくすることができる。これによって、工具本体に切削インサート1を取り付けるとき、切れ刃23の径方向のすくい角を従来の切削インサートに比べて、より容易に正側に設定することができる。したがって、特許文献1の切削インサートに比べて、切削インサートのサイズを小さくすることなく径方向のすくい角を所望の角度にできるので、切削インサートの強度を低下させることなく切削抵抗を大きく低減することが可能である。同時に、かかる構成によれば、突出部ごとに切れ刃に関してコーナR面を設定できるので、切削インサートの切れ刃の数を減少させることなく、切れ刃のコーナまたはコーナR面の大きさを自由に設定することができる。
【0044】
また、インサート体部13にそこから突出する突出部15を設けているので、上記したように切れ刃が設けられている突出部15の大きさをインサート体部13の大きさに比べて非常に小さくできる。したがって、第1実施形態によれば、工具本体のバックサポート部を大きくとることができる。すなわち、従来技術と比較して、図5に示されているように、切れ刃背後の工具本体部分の体積が大きくなるため、本実施形態の切削インサートおよび切削工具によれば、切削インサートをより安定的に工具本体に支持することができ、これによってびびりの発生を低減させることができる。
【0045】
第2に、切削インサート1では、切削インサートの下面7およびインサート体部13の体部側面21が着座面として利用され、突出部15の下面27を除く面は切削インサート拘束面または着座面として使用しない。したがって、使用していない突出部15のコーナR面を保護することができるとともに、コーナR面が大きくても安定した切削インサート1の組みつけが可能である。従来技術の切削インサートでは、上記したように、コーナR面が形成された領域を切削インサート拘束面として使用することになるために、拘束面となっているコーナR部分と工具本体との過度の接触によってコーナR部分に破損が生じる場合があり、また、コーナR面が大きいときには工具本体との接触面積が小さくなるために切削インサート固定性が悪化することがあった。これに対し、切削インサート1及び回転切削工具3では、コーナR面が形成されている部分を工具本体に設けられた窪み部またはポケットの中に収納する構造とし、体部側面を切削インサートの拘束面として使用しているために、コーナR面が保護されるとともに、切削インサートの安定的な固定が実現されることが可能になる。
【0046】
次に、本発明の第2実施形態に係る切削インサート101および切削工具103が説明される。ただし、以下の説明では、既に説明された構成要素と同じまたは実質的に同じ構成要素には、同じ符号を用いて、特に図中同一符号を付して、それらの重複する説明を省略する。なお、特に断らない限り、上記第1実施形態で説明された特徴または構成は、本第2実施形態の切削インサート101および切削工具103でも同様に適用されている。また、第2実施形態の切削インサートおよび切削工具でも、上記第1実施形態のそれらと同様の変形が可能であり、また、同様の作用効果が奏され得る。
【0047】
切削インサート101は、上記切削インサート1と同様に、上面5および下面7、周側面9を有し、インサート体部13および3つの突出部15を備える。そして、切削インサート101は軸線A周りに回転対称に形成されている。
【0048】
切削インサート101は、上記切削インサート1と比べて、インサート体部13の体部側面121に違いを有する。切削インサート101の体部側面121は、上面側側面部121aと、下面側側面部121bと、それらの間に位置する中間側面部121cとを有するが、この中間側部面121cつまり隆起部Rは、略三角錐形状を有して突出する(図9参照)。したがって、中間側面部121cは、対応する突出部15から斜め外側に張り出すように延在する角形面部分121dと、上面側側面部121aと2つの角形面部分121dとの間に延在する三角形面部分121eとを備える。しかし、上記第1実施形態において説明したように、この中間側面部121cつまり隆起部Rは、着座面として機能することが意図されていないので、体部上面に対向する側から切削インサート101を見たとき、隆起部Rは体部上面17によって隠されるように形成されている(図10参照)。
【0049】
このような構成を有する切削インサート101は、図12および図13に示すように、回転切削工具103の工具本体41に着脱自在に装着される。工具本体41は、上記第1実施形態の工具本体41と同様であり、第1インサート取付座および第2インサート取付座を有する。この工具本体41には、第1実施形態で説明されたのと同様に、切削インサートが取り付けられる(図5〜8、図12、13参照)。
【0050】
そして、このような第2実施形態の切削インサート101および切削工具103は、上記第1実施形態の切削インサート1および切削工具3と同様に、上記特徴を有し、上記した効果を奏することができる。
【0051】
以上、本発明を2つの実施形態に基づいて説明したが、本発明の切削インサートは、上記実施形態におけるような平板面視が略三角形状をしたものに限定されることはない。例えば、図14および15に示されているような、インサート体部13の体部上面17が正四角形または正五角形の形状とみなされ、それらの頂部に位置するように突出部15が設けられた、切削インサート201、301を本発明は許容する。このように、インサート体部13の上面が種々の正多角形形状にみなされるように、切削インサートは構成されることができる。さらには、正多角形ではなく、それぞれの辺の長さが異なった不等辺多角形であるように、インサート体部の上面が形成されることも可能である。このような多角形形状の切削インサートにおいても、上述したような突出部に関する特徴的構成は備えられることができる。
【0052】
また、図16、17に示されているような、インサート体部13の体部上面17が三角形または四角形などの多角形形状とみなされ、それらの辺部に位置するように突出部15が設けられた、切削インサート401、501を本発明は許容する。この場合でも、突出部のコーナR面の長さなど上記実施形態に基づいて説明された特徴が適用され得る。
【0053】
なお、インサート体部13の体部上面17は、円形または楕円形であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、1つの切削インサートにおける複数の突出部は同じまたは同様の構成を有した。しかし、1つの切削インサートにおける複数の突出部は互いに対して異なってもよい。
【0055】
また、例えば、上記実施形態では、コーナR面は突出部側面間に連続して延在したが、突出部側面間に連続しなくてもよい。上記実施形態では、1つのコーナR面33が2つの突出部側面29の各々の縁部の切れ刃23においてコーナ23cを形成するように側面29間に連続した。しかし、1つの突出部15におけるコーナR面またはコーナ湾曲面は、1つまたは複数の断絶部(例えばニック)によって隔てられた少なくとも2つの離れたコーナR面部またはコーナ湾曲面部から構成されてもよい。例えば、突出部上面から突出部側端面に延びる1つの断絶部を有する場合、1つの突出部におけるコーナR面は、一方の突出部側面29につながり1つのコーナ23cを縁部に有する1つのコーナ面部と、他方の突出部側面29につながり1つのコーナ23cを縁部に有する1つのコーナ面部との、計2つのコーナ面部を含むことができる。
【0056】
また、上記実施形態では、工具本体の両端面に開くように第1および第2インサート取付座が設けられた。しかし、いずれか一方の端面にのみ、互いに同じ構成を有する複数のインサート取付座が形成されてもよい。つまり、本発明は、所謂ハーフサイドの形態の切削工具も含む。
【0057】
前述した実施形態およびその変形例等では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。
図1
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