特許第5672479号(P5672479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5672479サーマルヘッド、プリンタおよびサーマルヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672479
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】サーマルヘッド、プリンタおよびサーマルヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   B41J2/335 101E
   B41J2/335 101C
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-188155(P2010-188155)
(22)【出願日】2010年8月25日
(65)【公開番号】特開2012-45757(P2012-45757A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】師岡 利光
(72)【発明者】
【氏名】頃石 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】東海林 法宜
(72)【発明者】
【氏名】三本木 法光
【審査官】 名取 乾治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−246066(JP,A)
【文献】 特開平02−270570(JP,A)
【文献】 特開2007−083532(JP,A)
【文献】 特開2002−067367(JP,A)
【文献】 特開昭61−053061(JP,A)
【文献】 特開2009−119850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の支持基板および上板基板を積層状態に接合してなる積層基板と、
前記上板基板の表面に形成された発熱抵抗体と、
該発熱抵抗体の両端に接続され、該発熱抵抗体に電力を供給する一対の電極部とを備え、
前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板との接合部における前記発熱抵抗体に対向する領域に空洞部を有し、
前記一対の電極部の両方が、前記空洞部に対向する領域内に他の領域より厚さが薄い薄肉部を有し、
該薄肉部が、段階的に厚さが薄くなる2段以上の段付き形状を有し、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がっているサーマルヘッド。
【請求項2】
平板状の支持基板および上板基板を積層状態に接合してなる積層基板と、
前記上板基板の表面に形成された発熱抵抗体と、
該発熱抵抗体の両端に接続され、該発熱抵抗体に電力を供給する一対の電極部とを備え、
前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板との接合部における前記発熱抵抗体に対向する領域に空洞部を有し、
前記一対の電極部の両方が、前記空洞部に対向する領域内に他の領域より厚さが薄い薄肉部を有し、
該薄肉部が、先端に向かって徐々に厚さが薄くなるように傾斜した形状を有し、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がっているサーマルヘッド。
【請求項3】
平板状の支持基板および上板基板を積層状態に接合してなる積層基板と、
前記上板基板の表面に形成された矩形状の発熱抵抗体と、
該発熱抵抗体の両端に接続され、該発熱抵抗体に電力を供給する一対の電極部とを備え、
前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板との接合部における前記発熱抵抗体に対向する領域に空洞部を有し、
前記電極部の少なくとも一方が、前記空洞部に対向する領域から他の領域にかけて略一定の厚さを有し、かつ、前記空洞部に対向する領域内に前記他の領域より熱伝導率が低くかつ前記発熱抵抗体より電気抵抗値が低い材質からなる低熱伝導率部を有するサーマルヘッド。
【請求項4】
前記低熱伝導率部が、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がる請求項3に記載のサーマルヘッド。
【請求項5】
前記一対の電極部の両方が前記低熱伝導率部を有する請求項3または請求項4に記載のサーマルヘッド。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のサーマルヘッドと、
該サーマルヘッドの前記発熱抵抗体に感熱記録媒体を押し付けながら送り出す加圧機構とを備えるプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッド、プリンタおよびサーマルヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルプリンタに用いられるサーマルヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載のサーマルヘッドは、支持基板と上板基板との積層基板上に複数の発熱抵抗体が形成されており、発熱抵抗体に接続された一対の電極部に電力を供給することにより、発熱抵抗体を発熱させて感熱記録媒体等に印画することができるようになっている。
【0003】
このサーマルヘッドは、支持基板と上板基板との接合部分における発熱抵抗体に対向する位置に空洞部が形成されている。この空洞部が熱伝導率の低い断熱層として機能することにより、発熱抵抗体から上板基板を介して支持基板側に伝わる熱量を低減し、熱効率を向上させて消費電力の低減を図ることとしている。
【0004】
また、一般的なサーマルヘッドの電極部は、外部電源より供給される電力を発熱抵抗体に十分に供給するため、外部入力端子から発熱抵抗体までの電気抵抗を考慮して設計される。発熱抵抗体の電気抵抗値に対する電極部の電気抵抗値の比率が大きくなると、外部入力端子から発熱抵抗体までの電気抵抗の電圧降下による電力ロスが大きくなる。そのため、電極部の電気抵抗値を小さくする必要がある。電極部の電気抵抗値は、電極部の厚さを厚くすることで小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−119850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発熱抵抗体において発生した熱は、電極部を介して上板基板の平面方向へも拡散する。また、電極部の厚さを厚くすると電極部の熱伝導率が向上する。そのため、従来のサーマルヘッドにおいては、発熱抵抗体から電極部を介して上板基板の平面方向へ熱が逃げることにより、空洞部による高い断熱性能を活かしきれていないという問題があった。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、発熱抵抗体から電極部を介する上板基板の平面方向への熱の拡散を抑制し、印字効率の向上を図ることができるサーマルヘッド、プリンタを提供することを目的とする。また、このようなサーマルヘッドを簡易に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、平板状の支持基板および上板基板を積層状態に接合してなる積層基板と、前記上板基板の表面に形成された発熱抵抗体と、該発熱抵抗体の両端に接続され、該発熱抵抗体に電力を供給する一対の電極部とを備え、前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板との接合部における前記発熱抵抗体に対向する領域に空洞部を有し、前記一対の電極部の両方が、前記空洞部に対向する領域内に他の領域より厚さが薄い薄肉部を有し、該薄肉部が、段階的に厚さが薄くなる2段以上の段付き形状を有し、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がっているサーマルヘッドを提供する。
【0009】
本発明によれば、発熱抵抗体の直下に配置された上板基板は、熱を蓄積する蓄熱層として機能する。また、発熱抵抗体に対向する領域に形成された空洞部は、熱を断熱する中空断熱層として機能する。この空洞部により、発熱抵抗体において発生した熱のうち、上板基板を介して支持基板側へ伝達される熱量を低減することができる。
【0010】
この場合において、発熱抵抗体において発生した熱は、電極部を介して上板基板の平面方向へも拡散する。本発明に係るサーマルヘッドは、空洞部上に配置される少なくとも一方の電極部の薄肉部において、電極部の他の領域よりも熱伝導率が低くなる。したがって、発熱抵抗体からの熱を空洞部に対向する領域より外側に伝わり難くすることができる。これにより、空洞部により支持基板側への伝熱を抑制された熱に対して、電極部を介する上板基板の平面方向への拡散を抑制し、支持基板側とは反対側に伝熱させて印字効率の向上を図ることができる。
【0011】
上記発明においては、前記薄肉部が、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がっている。
このように構成することで、電極部における熱伝導率の低い領域が空洞部に対向する領域の外側まで広がるので、電極部を介する発熱抵抗体から上板基板の平面方向への熱の拡散をより低減することができる。したがって、空洞部による高い断熱性能を十分に活かすことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記一対の電極部の両方が前記薄肉部を有する。
このように構成することで、いずれの電極部においても発熱抵抗体からの熱が空洞部に対向する領域より外側に伝わり難くなる。したがって、電極部を介する上板基板の平面方向への熱の拡散をより効果的に抑制することができる。
本発明は、平板状の支持基板および上板基板を積層状態に接合してなる積層基板と、前記上板基板の表面に形成された発熱抵抗体と、該発熱抵抗体の両端に接続され、該発熱抵抗体に電力を供給する一対の電極部とを備え、前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板との接合部における前記発熱抵抗体に対向する領域に空洞部を有し、前記一対の電極部の両方が、前記空洞部に対向する領域内に他の領域より厚さが薄い薄肉部を有し、該薄肉部が、先端に向かって徐々に厚さが薄くなるように傾斜した形状を有し、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がっているサーマルヘッドを提供する。
【0013】
本発明は、平板状の支持基板および上板基板を積層状態に接合してなる積層基板と、前記上板基板の表面に形成された矩形状の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体の両端に接続され、該発熱抵抗体に電力を供給する一対の電極部とを備え、前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板との接合部における前記発熱抵抗体に対向する領域に空洞部を有し、前記電極部の少なくとも一方が、前記空洞部に対向する領域から他の領域にかけて略一定の厚さを有し、かつ、前記空洞部に対向する領域内に前記他の領域より熱伝導率が低くかつ前記発熱抵抗体より電気抵抗値が低い材質からなる低熱伝導率部を有するサーマルヘッドを提供する。
【0014】
本発明によれば、空洞部上に配置される少なくとも一方の電極部の低熱伝導率部は、発熱抵抗体より電気抵抗値が低いので、発熱抵抗体に電力を十分に供給することができる。また、低熱伝導率部において電極部の他の領域よりも熱伝導率が低くなるので、発熱抵抗体からの熱を空洞部に対向する領域より外側に伝わり難くすることができる。したがって、空洞部により支持基板側への伝熱を抑制された熱に対して、電極部を介する上板基板の平面方向への拡散を抑制し、支持基板側とは反対側に伝熱させて印字効率の向上を図ることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記低熱伝導率部が、前記空洞部に対向する領域の外側まで広がることとしてもよい。
電極部における熱伝導率の低い領域を空洞部に対向する領域の外側まで広げることで、電極部を介する発熱抵抗体から上板基板の平面方向への熱の拡散をより低減し、空洞部による高い断熱性能を十分に活かすことができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記一対の電極部の両方が前記低熱伝導率部を有することとしてもよい。
このように構成することで、いずれの電極部においても発熱抵抗体からの熱を空洞部に対向する領域より外側に伝わり難くし、電極部を介する上板基板の平面方向への熱の拡散をより効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明は、上記本発明のサーマルヘッドと、該サーマルヘッドの前記発熱抵抗体に感熱記録媒体を押し付けながら送り出す加圧機構とを備えるプリンタを提供する。
本発明によれば、熱効率に優れるサーマルヘッドにより、加圧機構によって押し付けられる感熱記録媒体に対して発熱抵抗体において発生した熱を高効率で伝熱させることができる。これにより、感熱記録媒体への印字時の消費電力を低減し、バッテリーの持続時間を長期化することができる。
【0018】
本発明の参考例としての発明は、表面に開口する凹部を有する平板状の支持基板に対して、前記凹部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板の表面における前記凹部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する発熱抵抗体形成工程と、該発熱抵抗体形成工程により前記発熱抵抗体が形成された前記上板基板上に、前記発熱抵抗体の両端に接続する一対の電極部を形成する電極部形成工程とを含み、該電極部形成工程が、前記電極部を構成する第1層を形成する第1形成工程と、該第1形成工程により形成された前記第1層の表面および前記空洞部に対向する領域内の前記発熱抵抗体の表面に、前記電極部を構成する第2層をほぼ均等な厚さで形成する第2形成工程とを含み、該第2形成工程が、前記第2層を前記空洞部に対向する領域の外側まで広がるように形成するサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【0019】
本発明によれば、接合工程により、支持基板の凹部が上板基板によって閉塞されることで、支持基板と上板基板との接合部に空洞部が形成される。この空洞部は、発熱抵抗体において発生する熱を断熱する中空断熱層として機能する。したがって、発熱抵抗体から支持基板側へ伝熱される熱量を低減することができる。
【0020】
また、第1形成工程により形成された第1層の表面と空洞部に対向する領域内の発熱抵抗体の表面に、第2形成工程によりほぼ均等な厚さの第2層を形成するだけで、空洞部に対向する領域内に他の領域より第1層の分だけ厚さが薄い薄肉部が配置される電極部を形成することができる。
【0021】
電極部の薄肉部は電極部の他の領域よりも熱伝導率が低くなるので、発熱抵抗体からの熱が空洞部に対向する領域より外側に伝わり難くなる。したがって、空洞部により支持基板側への伝熱を抑制された熱に対して、電極部を介する上板基板の平面方向への拡散を抑制し、印字効率が向上するサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
【0022】
本発明の参考例としての発明は、一表面に開口する凹部を有する平板状の支持基板に対して、前記凹部を閉塞するように平板状の上板基板を積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板の表面における前記凹部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する発熱抵抗体形成工程と、該発熱抵抗体形成工程により前記発熱抵抗体が形成された前記上板基板上に、前記発熱抵抗体の両端に接続する一対の電極部を形成する電極部形成工程とを含み、該電極部形成工程が、厚肉の前記電極部を形成する第1形成工程と、該電極部第1形成工程により形成された前記厚肉の電極部における前記空洞部に対向する領域内に、他の領域より厚さが薄い薄肉部を形成する第2形成工程とを含み、該第2形成工程が、前記薄肉部を前記空洞部に対向する領域の外側まで広がるように形成するサーマルヘッドの製造方法を提供する。
【0023】
本発明によれば、第1形成工程により形成された厚肉の電極部の厚さを第2形成工程により部分的に薄くするだけで、空洞部に対向する領域内の熱伝導率が他の領域の熱伝導率より低い電極部を形成することができる。また、電極部の薄肉部により、発熱抵抗体から上板基板の平面方向への熱の拡散を抑制し、印字効率が向上するサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、発熱抵抗体から電極部を介する上板基板の平面方向への熱の拡散を抑制し、印字効率の向上を図ることができるという効果を奏する。また、印字効率が向上するサーマルヘッドを簡易に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の参考例としての発明の一参考実施形態に係るサーマルプリンタの概略構成図である。
図2図1のサーマルヘッドを保護膜側から積層方向に見た平面図である。
図3図2のサーマルヘッドのA−A断面図である。
図4】本発明の参考例としての発明の一参考実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法を示すフローチャートである。
図5】(a)は一参考実施形態の凹部形成工程を示し、(b)は接合工程を示し、(c)は薄板化工程を示し、(d)は発熱抵抗体形成工程を示し、(e)は第1形成工程を示し、(f)は第2形成工程を示し、(g)は保護膜形成工程を示す縦断面図である。
図6一参考実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの縦断面図である。
図7一参考実施形態の他の変形例に係るサーマルヘッドの縦断面図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドの縦断面図である。
図9】本発明の第1の実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの縦断面図である。
図10】(a)は一参考実施形態の変形例に係るサーマルヘッドの製造方法の第1形成工程を示し、(b)はその第2形成工程を示す縦断面図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係るサーマルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
一参考実施形態
以下、本発明の参考例としての発明の一参考実施形態に係るサーマルヘッド、プリンタおよびサーマルヘッドの製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルプリンタ(プリンタ)100は、図1に示すように、本体フレーム2と、水平配置されるプラテンローラ4と、プラテンローラ4の外周面に対向配置されるサーマルヘッド10と、プラテンローラ4とサーマルヘッド10との間に感熱紙(感熱記録媒体)3等の印刷対象物を送り出す紙送り機構6と、感熱紙3に対してサーマルヘッド10を所定の押圧力で押し付ける加圧機構8とを備えている。
【0027】
プラテンローラ4には、加圧機構8の作動により、感熱紙3およびサーマルヘッド10が押し付けられるようになっている。これにより、プラテンローラ4の荷重が感熱紙3を介してサーマルヘッド10に加えられるようになっている。
【0028】
サーマルヘッド10は、図2および図3に示すように、基板本体(積層基板)13と、基板本体13上に形成された複数の発熱抵抗体15と、各発熱抵抗体15の両端に接続される一対の電極部17A,17Bと、基板本体13上の発熱抵抗体15および電極部17A,17Bを覆い、これらを磨耗や腐食から保護する保護膜19とを備えている。矢印Yは、プラテンローラ4による感熱紙3の送り方向を示している。
【0029】
基板本体13は、アルミ等の金属、樹脂、セラミックスまたはガラス等からなる板状部材の放熱板(図示略)に固定されており、放熱板を介して放熱することができるようになっている。この基板本体13は、放熱板に固定される平板状の支持基板12と、支持基板12の表面に積層状態に接合される平板状の上板基板14とにより構成されている。
【0030】
支持基板12は、例えば、300μm〜1mm程度の厚さを有する矩形状のガラス基板またはセラミックス基板である。支持基板12には、上板基板14との接合面に矩形状に開口する凹部21が形成されている。凹部21は、支持基板12の長手方向に沿って延び、例えば、50〜500μmの幅寸法を有している。
【0031】
上板基板14は、例えば、5〜100μm程度の厚さを有する矩形状のガラス基板である。この上板基板14は、支持基板12の表面に凹部21を閉塞するように積層されている。上板基板14は、支持基板12と同じ材料からなる絶縁性のガラス基板か、あるいは、性質が近い基板を用いることが望ましい。この上板基板14は、表面に発熱抵抗体15が設けられることにより、発熱抵抗体15において発生した熱の一部を蓄える蓄熱層として機能する。
【0032】
発熱抵抗体15は、例えば、Ta系やシリサイド系等の材料からなり、矩形状に形成されている。また、発熱抵抗体15は、長手方向の長さが支持基板12の凹部21の幅寸法より大きい寸法を有している。各発熱抵抗体15は、長手方向を上板基板14の幅方向に向けて、上板基板14の長手方向(支持基板12の凹部21の長手方向)に沿って所定の間隔をあけて配列されている。すなわち、各発熱抵抗体15は、それぞれ支持基板12の凹部21を幅方向に跨ぐように配置されている。
【0033】
電極部17A,17Bは、全ての発熱抵抗体15の長手方向の一端に接続される一体型の電極17Aと、各発熱抵抗体15の他端に個別に接続される複数の電極17Bとにより構成されている。また、電極部17A,17Bは、発熱抵抗体15の表面に重ねられるようにして接続されている。電極部17A,17Bの材料としては、例えば、アルミニウムが用いられる。
【0034】
これらの電極部17A,17Bは、外部電源(図示略)からの電力を発熱抵抗体15に供給し、発熱抵抗体15を発熱させることができるようになっている。発熱抵抗体15における電極17Aと電極17Bとの間に位置する部分、すなわち、発熱抵抗体15における支持基板12の凹部21のほぼ真上に位置する部分が発熱領域となる。以下、発熱抵抗体15の発熱領域を発熱部15aという。また、発熱抵抗体15の発熱部15aを覆う保護膜19の表面が感熱紙3に対する印字部分、すなわち、ヘッド部分19aとなる。
【0035】
また、一対の電極部17A,17Bは、発熱部15aにおける発熱抵抗体15の長手方向に延びる長さ(ヒータ長)Lrが、隣接する発熱抵抗体15どうしの中心位置間の距離(ドット間距離あるいはドットピッチ)Wdより短くなるように配置することが望ましい。
【0036】
また、各電極部17A,17Bは、発熱抵抗体15の表面上に配置される接続部分に、他の領域(以下、厚肉部16という。)より厚さが薄い薄肉部18を有している。すなわち、電極部17A,17Bは、上板基板14上に配置される部分と発熱抵抗体15上に配置される接続部分の一部が厚肉に形成され、発熱抵抗体15上の接続部分の残りが薄肉に形成されている。
【0037】
厚肉部16は、例えば、1〜3μmの膜厚te1を有している。厚肉部16の膜厚te1は、電気抵抗値を十分に確保することができる程度、例えば、発熱抵抗体15の電気抵抗値に対して1/10以下程度にすることが望ましい。
【0038】
薄肉部18は、発熱抵抗体15上における凹部21に対向する領域の内側から外側にわたって配置されている。薄肉部18の膜厚te2は、例えば、厚肉部16の膜厚te1および熱伝導率(Alの熱伝導率は約200W/(m・℃))と、上板基板14の厚さおよび熱伝導率(一般的なガラスの熱伝導率は約1W/(m・℃))とを考慮して設計される。
【0039】
薄肉部18の膜厚te2を厚肉部16の膜厚te1より小さくすることにより、電極部17A,17Bの熱伝導率が部分的に小さくなり、断熱効率が向上する。しかしながら、薄肉部18の膜厚te2が小さすぎると(例えば、薄肉部18の膜厚te2<10nm)、電極部17A,17Bの電気抵抗値が部分的に大きくなるため、薄肉部18での電力ロスが断熱効率の向上分を超えてしまう。また、薄肉部18の膜厚te2は、スパッタ等で薄膜として得られる厚さであることも考慮する必要がある。そこで、薄肉部18の膜厚te2は、例えば、50〜300nm程度とすることが望ましい。
【0040】
また、各薄肉部18における発熱抵抗体15の長手方向に延びる長さLeを長くすることにより、電極部17A,17Bの熱伝導率が部分的に小さくなり、断熱効率が向上する。しかしながら、薄肉部18の長さLeが長すぎると、電極部17A,17Bの電気抵抗値が部分的に大きくなるため、薄肉部18での電力ロスが断熱効率の向上分を超えてしまう。したがって、各薄肉部18の電気抵抗値が、発熱部15aの電気抵抗値の1/10以下となるように、薄肉部18の長さLeを決定することが望ましい。
【0041】
また、薄肉部18は、プラテンローラ4とヘッド部分19aとが感熱紙3を挟んで接触する範囲の幅(ニップ幅)内に配置されていることが望ましい。ニップ幅はプラテンローラ4の直径や材質によって変化するが、一般的には、図3に示すように、ニップ幅は発熱抵抗体15の長手方向の長さLと一致すると考えられる。例えば、一対の電極17Aの薄肉部18から電極17Bの薄肉部18までの幅寸法(Lr+2Le)は、約2mm以内(発熱部15aの中心位置から約1mm以内)とする。また、発熱抵抗体15上の厚肉部16もニップ幅内に配置する。
【0042】
このような形状の電極部17A,17Bは、発熱抵抗体15上に厚肉部16の一部と薄肉部18の全体が配置される二段構造となっている。電極部17A,17Bにおける発熱抵抗体15と上板基板14との段差部分に配置される領域を厚肉(厚肉部16)にすることで、段差による電極部17A,17Bの断切れおよび異常な電気抵抗値の上昇を防ぎ、断熱効率の向上およびサーマルヘッド10の信頼性の向上を図ることができる。
【0043】
このように構成されたサーマルヘッド10は、支持基板12の凹部21の開口が上板基板14により閉塞されることで、発熱抵抗体15の発熱部15aの真下に空洞部23が形成される。空洞部23は、全ての発熱抵抗体15に対向する連通構造を有する。また、空洞部23は、発熱部15aにおいて発生した熱が上板基板14から支持基板12側へ伝達されるのを抑制する中空断熱層として機能する。
【0044】
次に、このように構成されたサーマルヘッド10の製造方法について、図4のフローチャートを用いて説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド10の製造方法は、基板本体13を形成する工程と、基板本体13に発熱抵抗体15、電極部17A,17Bおよび保護膜19を形成する工程とを有している。
【0045】
基板本体13を形成する工程は、支持基板12の表面に凹部21を形成する凹部形成工程SA1と、支持基板12と上板基板14とを接合する接合工程SA2と、上板基板14を薄板化する薄板化工程SA3とを含んでいる。また、発熱抵抗体15等を形成する工程は、基板本体13に発熱抵抗体15を形成する発熱抵抗体形成工程SA4と、電極部17A,17Bを形成する電極部形成工程SA5と、保護膜19を形成する保護膜形成工程SA6とを含んでいる。
【0046】
以下、各工程について具体的に説明する。
まず、凹部形成工程SA1は、図5(a)に示すように、支持基板12の表面において発熱抵抗体15が対向することとなる位置に凹部21を形成する。凹部21は、例えば、支持基板12の表面にサンドブラスト、ドライエッチング、ウェットエッチング、レーザー加工等を施すことにより形成される。
【0047】
続いて、接合工程SA2は、図5(b)に示すように、凹部21が形成された支持基板12の表面に、例えば、100μm以上の厚さを有する薄板ガラス(上板基板)15を積層状態に接合する。上板基板14により凹部21の開口が覆われることで、支持基板12と上板基板14との間に空洞部23が形成される。凹部21の深さにより空洞部23の厚さが決定されるので、空洞部23による中空断熱層としての厚さを容易に制御することができる。
【0048】
支持基板12と上板基板14との接合方法としては、例えば、熱融着による直接接合が挙げられる。室温で支持基板12と上板基板14を張り合わせた後、高温で熱融着する。これにより、十分な強度で接合することができる。上板基板14の変形を防ぐために、軟化点以下で接合することが望ましい。
【0049】
続いて、薄板化工程SA3は、図5(c)に示すように、エッチングや研磨等により、所望の薄さとなるように上板基板14を薄板化する。上板基板14として100μm以下の厚さのものは、製造やハンドリングが困難であり、また、高価である。そこで、厚さが薄い上板基板14を支持基板12に接合するのではなく、製造やハンドリングが容易な厚さの上板基板14を支持基板12に接合する。その後に上板基板14を薄板化することで、支持基板12の表面に容易かつ安価にごく薄い上板基板14が形成することができる。これにより、基板本体13が形成される。
【0050】
次に、発熱抵抗体形成工程SA4は、スパッタリングやCVD(化学気相成長法)または蒸着等の薄膜形成法により、図5(d)に示すように、基板本体13の上板基板14上に発熱抵抗体材料の薄膜を成膜する。そして、発熱抵抗体材料の薄膜をリフトオフ法やエッチング法等により成形する。
【0051】
電極部形成工程SA5は、図5(e)に示すように、電極部17A,17Bの厚肉部16の下層(以下、第1層16aという。)を形成する第1形成工程SA5−1と、図5(f)に示すように、第1形成工程SA5−1により第1層16aが形成された上から第2層18aを形成する第2形成工程SA5−2とを含んでいる。
【0052】
第1形成工程SA5−1は、発熱抵抗体15の長手方向の両端部から上板基板14にかけて、空洞部23に対向する領域より外側に第1層16aを形成する。第1層16aは、スパッタリングや蒸着法等によりAl、Al−Si、Au、Ag、CuまたはPt等の配線材料を成膜し、この膜をリフトオフ法やエッチング法を用いたり、配線材料をスクリーン印刷した後に焼成したりすることにより、所望の形状に形成される。
【0053】
続いて、第2形成工程SA5−2は、発熱抵抗体15の表面における空洞部23に対向する領域の内側から第1層16a上にかけて、ほぼ均等な厚さで第2層18aを形成する。第2層18aは、スパッタリングや蒸着法等により第1層16aと同じ材料を成膜し、この膜をリフトオフ法やエッチング法を用いたり、配線材料をスクリーン印刷した後に焼成したりすることにより、所望のパターンに形成される。第1層16aの表面と発熱抵抗体15の表面とにそれぞれ均等な厚さの第2層18aを形成することで、厚肉部16と、厚肉部16より第1層16aの分だけ厚さが薄い薄肉部18とを有する段付き形状の電極部17A,17Bを形成することができる。
【0054】
続いて、保護膜形成工程SA6は、図5(g)に示すように、上板基板14上に形成された発熱抵抗体15および電極部17A,17Bを覆うように保護膜19を形成する。保護膜19は、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD法等により、上板基板14上にSiO、Ta、SiAlON、Si、ダイヤモンドライクカーボン等の保護膜材料を成膜することにより形成される。
【0055】
以上の各工程により、基板本体13が支持基板12と上板基板14との接合部に空洞部23を有し、電極部17A,17Bが発熱抵抗体15上の空洞部23に対向する領域内に薄肉部18を有するサーマルヘッド10が完成する。
【0056】
次に、このように製造されたサーマルヘッド10およびサーマルプリンタ100の作用について説明する。
本実施形態に係るサーマルプリンタ100を用いて感熱紙3に印画するには、まず、サーマルヘッド10の一方の電極17Bに選択的に電圧を印加する。これにより、選択された電極17Bとこれに対向する電極17Aとが接続されている発熱抵抗体15に電流が流れ、発熱部15aが発熱する。
【0057】
続いて、加圧機構8を作動し、プラテンローラ4により送り出される感熱紙3に向けてサーマルヘッド10を押し付ける。プラテンローラ4は発熱抵抗体15の配列方向に平行な軸回りに回転し、発熱抵抗体15の配列方向に直交するY方向に向かって感熱紙3を送り出す。この感熱紙3に対して、ヘッド部分19aを押し付けることにより、感熱紙3が発色して印字される。
【0058】
この場合において、サーマルヘッド10は、基板本体13の空洞部23が中空断熱層として機能することにより、発熱部15aにおいて発生した熱のうち、上板基板14を介して支持基板12側へ伝達される熱量を低減することができる。ここで、発熱抵抗体15において発生した熱は、電極部17A,17Bを介して上板基板14の平面方向へも拡散する。そのため、電極部17A,17Bの薄肉部18の長さLeが発熱効率に影響するパラメータとなる。
【0059】
本実施形態に係るサーマルヘッド10は、発熱抵抗体15の表面における空洞部23に対向する領域の内側から外側にわたり薄肉部18を配置することで、電極部17A,17Bにおける熱伝導率の低い領域が空洞部23に対向する領域の内側から外側まで広がる。これにより、発熱抵抗体15からの熱を空洞部23に対向する領域より外側に伝わり難くし、上板基板14の平面方向への熱の拡散を低減することができる。さらに、空洞部23による高い断熱性能を十分に活かすことができる。
【0060】
また、上板基板14における空洞部23に対向する領域より外側では、支持基板12側(基板本体13の厚さ方向)への熱流が大きい。そのため、上板基板14における空洞部23に対向する領域より内側と比較して、電極部17A,17Bを介する上板基板14の平面方向への熱の拡散の影響が少ない。各薄肉部18の電気抵抗値が発熱部15aの電気抵抗値の1/10以下となるように、薄肉部18の長さLeを調整することで、発熱抵抗体15に供給する電力の大部分を発熱部15aの発熱に有効に使うことができ、印字効率を向上することができる。
【0061】
また、いずれの電極部17A,17Bにおいても発熱抵抗体15からの熱が空洞部23に対向する領域より外側に伝わり難くなることで、電極部17A,17Bを介する上板基板14の平面方向への熱の拡散をより効果的に抑制することができる。また、薄肉部18により発熱抵抗体15と電極部17A,17Bとの段差が小さくなることで、保護膜19表面と感熱紙3との間に形成される段差によるエアーギャツプも小さくすることができる。これにより、感熱紙3への伝熱効率を向上することができる。
【0062】
ここで、印字方式には、1ドットライン分の印字を1ステップで行なう1ステップ印字方式と、1ドットライン分の印字を複数のステップに分けて行う多ステップ印字方式がある。1ステップ印字方式の場合、発熱抵抗体における発熱部のヒータ長Lrはドット間距離(ドットピッチ)Wdと同じ長さか、それ以上の長さに設計される。また、多ステップ印字方式の場合、発熱部のヒータ長Lrはドット間距離Wd未満となるように設計される。
【0063】
また、多ステップ印字方式で採用されるサーマルヘッドは発熱部のヒータ長Lrが短いため、発熱部の直下に位置する上板基板の実効的な体積が小さくなり、上板基板の実効的な熱容量Cが縮小する。1パルス分の温度上昇分ΔTと熱容量CはΔT∝1/Cの関係にあるため、多ステップ印字方式では、大きな温度上昇分ΔTを得ることができる。また、発熱部の応答速度は、熱容量Cと発熱部から支持基板への熱伝導率Gで決定される時定数τ=C×Gに対して、反比例(τ∝1/τ)の関係にある。したがって、多ステップ印字方式では、熱容量Cが小さくなることにより、応答速度が速くなるメリットがある。
【0064】
しかしながら、発熱部の長さLrを短くすることにより、基板本体の空洞部全体の面積に対する電極部が覆う面積の比率が大きくなると、電極部を介する上板基板の平面方向への熱の逃げが大きくなり、熱伝導率Gが大きくなる。そのため、電極部に薄肉部を形成せずに多ステップ印字方式を行う場合は、空洞部による断熱効果を有効に使うことができない。また、入力したエネルギーを発熱部に蓄えておく性能(蓄熱性能)は、時定数τに反比例することから、電極部に薄肉部を形成せずに多ステップ印字方式を行う場合は、蓄熱効果が低下する。その結果、多ステップ印字方式で採用される発熱部のヒータ長Lrが短いサーマルヘッドでは、高い発熱効果を得ることができないといった問題があった。
【0065】
本実施形態に係るサーマルヘッド10は、発熱部15aのヒータ長Lrを短くしても、薄肉部18により、電極部17A,17Bを介する上板基板14の平面方向への熱の拡散を抑制し、熱伝導率Gの増大を抑えることができる。したがって、発熱部15aのヒータ長Lrをドット間距離(ドットピッチ)Wdより短くすることで(Lc<2Le+Lr、Lr<Wd)、発熱部15aのヒータ長Lrが短いサーマルヘッド10が本来持つ上板基板14の実効的な熱容量の縮小というメリットを効果的に活かすことができる。これにより、高い発熱効率と速い応答速度の両立を図ることができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係るサーマルヘッド10によれば、空洞部23上に配置される電極部17A,17Bの厚さを部分的に薄くして熱伝導率を小さくすることにより、電極部17A,17Bを介する上板基板14の平面方向への熱の拡散を抑制することができる。これにより、発熱部15aにおいて発生した熱を効率的にヘッド部分19aに伝熱させ、印字効率を向上することができる。
【0067】
また、本実施形態に係るサーマルプリンタ100によれば、このようなサーマルヘッド10を備えることで、感熱記録媒体への印字時の消費電力を低減し、バッテリーの持続時間を長期化することができる。また、本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、このようなサーマルヘッド1を簡易に製造することができる。
【0068】
本実施形態においては、各電極部17A,17Bの薄肉部18が発熱抵抗体15上における空洞部23に対向する領域の内側から外側にかけて配置されていることとしたが、例えば、図6に示すように、電極部17A,17Bが、発熱抵抗体15上における空洞部23に対向する領域の内側のみに薄肉部18を有することとしてもよい。また、例えば、図7に示すように、電極部17A,17Bのいずれか一方にのみ薄肉部18を形成し、他方は厚肉部16のみからなることとしてもよい。
【0069】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッドおよびプリンタとしては、電極部17A,17Bが、空洞部23に対向する領域内に薄肉部18を有すればよく、例えば、図8に示すように、電極部17A,17Bが厚肉部16側から段階的に厚さが薄くなる3段以上の段付き形状を有することとしてもよい。また、第1の実施形態の変形例としては、図9に示すように、電極部17A,17Bの接続部分が先端に向かって徐々に厚さが薄くなるように傾斜した形状の薄肉部18を形成することとしてもよい。
【0070】
図6図9に示されるように薄肉部18の形状を変形した場合にも、第1の実施形態と同様に、発熱部15aにおいて発生した熱に対し、電極部17A,17Bにおける空洞部23上の熱伝導率を低減し、上板基板14の平面方向への拡散を抑制することができる。
【0071】
また、100μm以上の厚さを有する上板基板14を用いることとしたが、これに代えて、接合工程SA2において、空洞部23が形成された支持基板12の表面に当初から厚さ5μm〜100μmの薄板ガラス(上板基板14)を積層状態に接合することとしてもよい。このようにすることで、薄板化工程SA3を省き、時間短縮を図ることができる。
【0072】
また、一参考実施形態は、以下のように変形することができる。
例えば、本実施形態においては、電極部形成工程SA5の第1形成工程SA5−1が第1層16aを形成し、第2形成工程SA5−2が第2層18aを形成することとしたが、これに代えて、図10(a)に示すように、第1形成工程SA5−1により全体的に厚肉部16と同じ1〜3μm程度のほぼ均等な厚さを有する厚肉の仮電極部16bを形成してもよい。また、図10(b)に示すように、第2形成工程SA5−2により仮電極部16bにおける空洞部23に対向する領域内に薄肉部18を形成することとしてもよい。
【0073】
この場合、本変形例に係る第1形成工程SA5−1は、上記第1層16aを形成する方法と同じ方法で、ほぼ均等な厚さの電極パターンの仮電極部16bを形成することとすればよい。また、第2形成工程SA5−2は、例えば、エッチング法により、仮電極部16bにおける空洞部23上の一部を薄くすることとすればよい。
【0074】
このようにすることで、空洞部23に対向する領域内の熱伝導率が他の領域の熱伝導率より低い電極部17A,17Bを簡易に形成することができる。また、薄肉部18により、発熱抵抗体15から上板基板14の平面方向への熱の拡散が抑制され、印字効率が向上するサーマルヘッド10を製造することができる。
【0075】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッド、プリンタおよびサーマルヘッドの製造方法について説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド110は、図11に示すように、電極部117A,117Bが、空洞部23に対向する領域内に他の領域より熱伝導率が低くかつ発熱抵抗体15より電気抵抗値が低い材質からなる低熱伝導率部118を備える点で第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態に係るサーマルヘッド10、サーマルプリンタ100およびサーマルヘッドの製造方法と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
電極部117A,117Bは、全体にわたり略均一な膜厚を有している。電極部117A,117Bは、上板基板14上に配置される部分と発熱抵抗体15上に配置される接続部分の一部がAl(熱伝導率223W/(m・K)、電気抵抗26.6nΩ・m)を材料として形成され(以下、「通常電極部116」という。)、発熱抵抗体15上の接続部分の残りが低熱伝導率部118となっている。
【0077】
低熱伝導率部118は、例えば、Pd(熱伝導率71.4W/(m・K)、電気抵抗103nΩ・m)、Pt(熱伝導率71.4W/(m・K)、電気抵抗106nΩ・m)、Mo(熱伝導率147W/(m・K)、電気抵抗57.8nΩ・m)、Nb(熱伝導率52.5W/(m・K)、電気抵抗146nΩ・m)、Ta(熱伝導率54.6W/(m・K)、電気抵抗136nΩ・m)、Ti(熱伝導率17.1W/(m・K)、電気抵抗420Ω・m)、V(熱伝導率31.1W/(m・K)、電気抵抗248Ω・m)、Zr(熱伝導率22.7W/(m・K)、電気抵抗420nΩ・m)等を材料として形成される。
【0078】
また、低熱伝導率部118は、発熱抵抗体15上の空洞部23に対向する領域の内側から外側にかけて配置されている。また、低熱伝導率部118における発熱抵抗体15の長さLeは、各低熱伝導率部118の電気抵抗値が、発熱部15aの電気抵抗値の1/10以下となるように決定されることが望ましい。さらに、一対の電極部117A,117Bは、発熱抵抗体15のヒータ長Lrが、隣接する発熱抵抗体15どうしの中心位置間の距離(ドット間距離あるいはドットピッチ)Wdより短くなるように配置することが望ましい。このようにすることで、第1の実施形態に係るサーマルヘッド10と同様の効果を奏する。一般的に、熱伝導率が小さな材料は、電気抵抗率が大きい。そのため、低熱伝導率部118の長さLeは、発熱効率に影響するパラメータとなる。
【0079】
本実施形態に係るサーマルヘッド110は、空洞部23上に配置される各電極部117A,117Bの低熱伝導率部118の電気抵抗値が発熱抵抗体15の電気抵抗値より低いので、発熱抵抗体15に電力を十分に供給することができる。また、低熱伝導率部118において通常電極部116よりも熱伝導率が低くなるので、発熱抵抗体15からの熱を空洞部23に対向する領域より外側に伝わり難くすることができる。
【0080】
したがって、空洞部23により支持基板12側への伝熱を抑制された熱に対して、電極部117A,117Bを介する上板基板14の平面方向への拡散を抑制することができる。これにより、発熱部15aにおいて発生した熱をヘッド部分19aに伝熱させて印字効率を向上し、消費電力の低減を図ることができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の一実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0082】
10,110 サーマルヘッド
3 感熱紙(感熱記録媒体)
8 加圧機構
12 支持基板
13 基板本体(積層基板)
14 上板基板
15 発熱抵抗体
17A,17B,117A、117B 電極(電極部)
18 薄肉部
21 凹部
23 空洞部
100 サーマルプリンタ(プリンタ)
118 低熱伝導率部
SA2 接合工程
SA3 薄板化工程
SA4 発熱抵抗体形成工程
SA5 電極部形成工程
SA5−1 第1形成工程
SA5−2 第2形成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11