(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672569
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】放電ランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/06 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
H01J61/06 B
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-131298(P2013-131298)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-5470(P2015-5470A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2014年9月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】船越 充夫
(72)【発明者】
【氏名】田川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】岩林 弘久
(72)【発明者】
【氏名】有本 智良
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3175592(JP,B2)
【文献】
特許第2732452(JP,B2)
【文献】
特開2010−153339(JP,A)
【文献】
特開2003−217438(JP,A)
【文献】
特開2002−56807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の内部に陰極と陽極とが対向配置された放電ランプにおいて、
前記陰極は、本体部とその先端面に接合された先端部とからなり、
前記本体部は、トリウムを含まない高融点金属材料から構成され、
前記先端部は、エミッタ(トリウムを除く)が含有された高融点金属材料から構成されるとともに、
前記本体部および/または先端部の内部に形成された密閉空間内に、前記先端部に含有されたエミッタ濃度よりも高濃度のエミッタ(トリウムを除く)が含有された焼結体が埋設されている、
ことを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記エミッタが、酸化ランタン(La2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)、酸化ネオジム(Nd2O3)あるいは酸化ハフニウム(HfO2)のいずれか、もしくは、その組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記先端部のエミッタ濃度(CF)が0.5重量%≦CF≦5重量%であり、
前記密閉空間に埋設された前記焼結体のエミッタ濃度(CB)が10重量%≦CB≦80重量%であって、且つ、CF<CBである、
ことを特徴とする請求項1記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記焼結体の先端が、前記先端部に当接していることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記密封空間において、前記焼結体と共に該焼結体に含まれるエミッタを還元する還元剤が封入されていることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記還元剤は箔状であって、前記焼結体の周囲に巻かれて配置されていることを特徴とする請求項5に記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記還元剤は粉体状態であり、前記焼結体内に分散して含有されていることを特徴とする請求項5に記載の放電ランプ用陰極。
【請求項8】
前記還元剤は、前記焼結体の後端に沿って配置されていることを特徴とする請求項5に記載の放電ランプ。
【請求項9】
前記還元剤は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、陰極に電子放射を良好にするためのエミッタを含有してなる放電ランプに関するものであり、特に、トリウム以外のエミッタを含有してなる放電ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高入力で高輝度な放電ランプなどにおいては、その陰極には、電子放射を容易にするためにエミッタが添加されている。例えば、特開2012−15008号公報(特許文献1)には、エミッタとして酸化トリウムを含有する放電ランプ用の陰極が開示されている。
しかしながら、トリウムは放射性物質として法的規制の対象であり、その管理や取り扱いに慎重な配慮が必要であって、そのためにトリウムに代わる代替物質が要望されている。
【0003】
そのトリウムに代わる代替物質として、希土類元素及びその化合物を用いるものが提案されている。希土類元素は、仕事関数(一般的に、物質表面から外方へ電子が飛び出す際に必要なエネルギー量を指す)が低く電子放射に優れた物質であり、トリウムの代替物質として期待されている。
特開2005−519435号公報(特許文献2)には、陰極の材料であるタングステンにエミッタとして付加的に酸化ランタン(La
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)などを含有させた放電ランプが開示されている。
【0004】
しかしながら、酸化ランタン(La
2O
3)のような希土類酸化物は、酸化トリウム(ThO
2)より蒸気圧が高いために比較的蒸発しやすい。そのため、陰極に含有させるエミッタとして酸化トリウムに代えて希土類酸化物を用いた場合、当該希土類酸化物が過度に蒸発してしまい、早期に枯渇してしまうという事態が発生する。このエミッタの枯渇により、陰極における電子放射機能が失われてしまい、フリッカーが生じてしまってランプ寿命が短くなるという問題がある。
また、電子放射特性に寄与するエミッタは陰極の先端に存在するものだけであり、陰極後端から先端に向けての運搬が迅速に行われないことも一因といえる。このためトリウム以外のエミッタ物質を使った放電ランプにおいては、点灯が早期に不安定になるなどの問題がいまだ残るというのが実情である。特に、1kW以上の高入力の放電ランプにあっては、希土類元素やバリウム系物質の蒸気は、放電ランプを不安定な点灯に導くことが顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−15008号公報
【特許文献2】特開2005−519435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、発光管の内部に、陰極と陽極とが対向配置された放電ランプにおいて、陰極にトリウム以外のエミッタを添加しても、当該エミッタの早期の枯渇を防止して、電子放出機能を長時間維持し、ランプのフリッカー寿命の長期化を図るようにするとともに、当初の点灯時の点灯始動性に優れた構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明では、前記陰極が、本体部とその先端側に接合された先端部とからなり、前記本体部は、トリウムを含まない高融点金属材料から構成され、前記先端部は、エミッタ(トリウムを除く)が含有された高融点金属材料から構成されるとともに、前記本体部および/または先端部の内部に形成された密閉空間内に、前記先端部に含有されたエミッタ濃度よりも高濃度のエミッタ(トリウムを除く)が含有された焼結体が埋設されていることを特徴とする。
また、前記エミッタが、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)、酸化サマリウム(Sm
2O
3)、酸化プラセオジム(Pr
6O
11)、酸化ネオジム(Nd
2O
3)あるいは酸化ハフニウム(HfO
2)のいずれか、もしくは、その組み合わせであることを特徴とする。
また、前記先端部のエミッタ濃度(CF)が0.5wt%≦CF≦5wt%であり、前記密閉空間に埋設された前記焼結体のエミッタ濃度(CB)が10wt%≦CB≦80wt%であって、且つ、CF<CBであることを特徴とする。
また、前記焼結体の先端が、前記先端部に当接していることを特徴とする。
【0008】
また、前記密封空間において、前記焼結体と共に該焼結体に含まれるエミッタを還元する還元剤が封入されていることを特徴とする。
また、前記還元剤は箔状であって、前記焼結体の周囲に巻かれて配置されていることを特徴とする。
また、前記還元剤は粉体状態であり、前記焼結体内に分散して含有されていることを特徴とする。
また、前記還元剤は、前記焼結体の後端に沿って配置されていることを特徴とする。
また、前記還元剤は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トリウムを含まない本体部の先端に、トリウム以外のエミッタが含有された先端部が接合され、前記本体部および/または先端部の内部に形成された密閉空間内に、前記先端部に含有されたエミッタ濃度よりも高濃度のエミッタ(トリウムを除く)が含有された焼結体が埋設されているので、放電ランプを当初に点灯する際には、先端部に含まれたエミッタ(トリウムを除く)が先端部を被覆することにより良好な点灯性がもたらされる。
点灯時間に応じて、先端部に当初含有されたエミッタは消費されるが、陰極内部の高濃度エミッタが含有された焼結体から、エミッタが先端部側に拡散供給されてくるので、先端部でエミッタが枯渇することなく、良好な点灯性は安定的に長期間維持される。
この焼結体は、陰極内部に埋設されているため、放電アークに直接曝されることがなく、アークによって過熱されることが抑制されるので、過度に蒸発してエミッタが早期に枯渇してしまうようなことがない。
また、所定時間の点灯後に消灯し、陰極が冷却された際には、点灯時に焼結体から拡散してくるエミッタが先端部内で留まるために、その後の再点灯時には、この先端部内のエミッタがその点灯性を良好なものとしてくれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る陰極構造を有する放電ランプの全体図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、この発明の陰極構造を有する放電ランプの全体構造を示し、放電ランプ1は発光管2の内部に陰極3と陽極4とが対向配置されている。
図2に示されるように、陰極3は、本体部31と、その先端に接合された先端部32とからなる。
前記本体部31は、トリウムを含まない、タングステンやモリブデンなどの高融点金属材料からなる。
そして、前記先端部32は、前記本体部31の先端側、即ち、陽極4と対向する面に固相接合、溶接などの適宜な接合手段により接合されている。当該先端部32には、トリウム以外のエミッタが適宜含有量で含有されている(以下、先端部に含まれるエミッタを第1エミッタともいう)。
このトリウム以外の第1エミッタとしては、例えば、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)、酸化サマリウム(Sm
2O
3)、酸化プラセオジム(Pr
6O
11)、酸化ネオジム(Nd
2O
3)あるいは酸化ハフニウム(HfO
2)などが単体、もしくはその組み合わせで用いられる。
【0012】
ここで、第1エミッタの含有量は、例えば、0.5重量%〜5.0重量%と低めに設定される。この第1エミッタは、ランプの当初の点灯時に始動性を確保するためのものであって、濃度が低めに設定されるのは、放電アークに曝されてエミッタが過度に蒸発することを防止するためである。
つまり、第1エミッタの含有量が、0.5重量%未満の場合、点灯初期において電子放出に必要となるエミッタ濃度を確保できず、ランプ電圧の上昇や変動の増大が、発生する。また、含有量が、5.0重量%を超えてしまうと、タングステン材料等の製造の際に、焼結体が脆くなってしまい、焼結工程やスウェージ工程での割れに起因する破損が発生しやすくなるだけでなく、仮に、製造できた場合でも、先端部に使用した場合に、エミッタの蒸発が顕著になり、バルブの黒化(白濁)を促進してしまうため好ましくない。
【0013】
図2に示されるように、陰極3の内部には、密閉空間33が形成されていて、該密閉空間33内には、トリウム以外のエミッタが含有された焼結体34が埋設されている。
図2(A)は、密閉空間33が本体部31側に形成されていて、焼結体34は実質的には、該本体部31内に埋設されている。
図2(B)は、密閉空間33が、本体部31と先端部32とに跨って形成されていて、焼結体34はこの本体部31と先端部32とに跨るように埋設されている。
図2(C)は、密閉空間33が先端部32側に形成されていて、焼結体34は、実質的には、該先端部32内に埋設されている。
当然ながら、これらの形態のいずれかによって、先端部32の寸法、特に、厚さ寸法が異なってくるものであり、そのいずれを選択するかは、製造面での容易性と、先端部32の厚さに依存するコスト、あるいは全体の製造コストなどの兼ね合いで適宜に選択される。
【0014】
前記焼結体34には、トリウム以外のエミッタ(以下、焼結体34に含有されるエミッタを第2エミッタともいう)が含有されていて、例えば、前記した先端部32に有されるものと同様に、タングステン等の構成材料に、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ガドリニウム、酸化サマリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジムあるいは酸化ハフニウムの単体もしくはその組み合わせを混入して、焼結したものが使われる。
そして、この焼結体34に含有される第2エミッタの濃度は、前記先端部32に含有される第1エミッタの濃度よりも高濃度に設定されていて、その濃度は、例えば、10重量%〜80重量%である。
この第2エミッタの濃度が、10重量%未満であると、陰極3内部に格納できる焼結体34のサイズの関係から、陰極先端部32に供給するエミッタ量を確保することが難しくなってしまう。また、80重量%を超えてしまうと、焼結体34のタングステン等の構成材料の割合が減少してしまい、酸化物の還元による生成物が減少してしまうため、いずれの場合も、陰極の寿命を短くしてしまうことになる。
【0015】
この焼結体34中に含有する第2エミッタは、陰極3内部に埋設されていることにより、放電アークに直接曝されることがなく、必要以上に加熱されることがないので過度に蒸発することがない。また、焼結体34はランプ点灯に伴い適宜に加熱され、該焼結体34中の第2エミッタは濃度拡散によって先端部32側に移動供給されていく。これにより、先端部32ではエミッタが枯渇することがなく、安定的な点灯性が持続される。
しかして、この焼結体34は、陰極先端側の端面が先端部32に当接した状態であることが望ましい。こうすることにより、焼結体34に含まれる第2エミッタがランプ点灯中に、先端部32に当接していることにより、エミッタが粒界拡散によって先端部32側に円滑に且つ速やかに移動して確実に供給されるようになる。
【0016】
なお、前述の第1エミッタと第2エミッタとは、同材料であってもよいし、別材料であってもよい。例えば、第1エミッタと第2エミッタがともに酸化ランタンと同一材料であり、また、第1エミッタが酸化ランタンと酸化ジルコニウムからなり、第2エミッタが酸化セリウムと別材料であるというように、その組み合わせは任意である。
【0017】
本発明の陰極3を構成する先端部32と焼結体34の機能と作用について説明する。先端部32には、電子放出を行う先端面にエミッタを輸送する拡散経路が構成されており、当初点灯時には、この先端部32に含有されている第1エミッタが先端面に輸送されて電子放出を行い、確実な初期点灯がなされる。この点灯により先端部32に当初含まれていた第1エミッタは消費されるが、そのエミッタが枯渇するまでに、陰極3内に埋設された焼結体34中の第2エミッタが、先端部32の拡散経路を通って、先端面に供給されていくことにより、先端面でのエミッタの枯渇が生じない。
【0018】
なお、前述のとおり、本体部31はトリウムを含まないタングステンなどの高融点金属からなるものであるが、トリウム以外のエミッタを含むことを排除するものではない。その場合、高濃度の焼結体34が存在するので、エミッタを先端部32に供給するという点については、本体部31にトリウム以外のエミッタを含むことに特段の利点は存在しないかもしれないが、本体部31と先端部32が同一の材料から構成されることで両者の接合が容易になるなどの別の利点を有する。
【0019】
本発明の陰極構造について一寸法例を示すと以下の通りである。
陰極の外径:φ15mm、軸方向の長さ:60mm
先端部の寸法:軸方向長さ2mm、材料例:酸化ランタン(エミッタ)、酸化ジルコニウム(タングステン粒子粗大化抑制剤)をドープしたタングステン
本体部の寸法:軸方向長さ58mm、材料例:酸化ジルコニウムをドープしたタングステン
焼結体の寸法:φ2mm、軸方向長さ:5mm、材料例:酸化セリウム、タングステンを重量比 1:2で混合、成型、焼結したもの。
【0020】
次いで、本発明に係る陰極の製造工程を、
図3を用いて説明する。
陰極3内部の密閉空間33内に埋設する焼結体34は、エミッタ(CeO
2)とタングステン(W)の配合比を、1:2で、混合し、バインダ(ステアリン酸)を添加した上で、加圧プレス機により成型を行う。この後、水素中で1000℃の温度で脱脂・仮焼結を行った上で、真空中での本焼結をタングステン炉中において、1700〜2000℃、好ましくは1800〜1900℃、1hで行うことで、製作する。
陰極の先端部32は、La
2O
3及びZrO
2ドープタングステンとし、本体部31は、ZrO
2ドープタングステンである。ともに、真空中で2300℃〜2500℃の温度で焼結する。このようにエミッタが含有されたタングステンをより高い温度(例えば、3000℃)で焼結すると、エミッタが蒸発して消失してしまうので、好ましくはない。
なお、本体部31にエミッタを含有しない形態の場合には、それよりももっと高い温度、例えば2700℃〜3000℃で焼結することもできる。
【0021】
先ず
図3(A)に示すように、本体部31を構成する本体部材31aの先端側に密閉空間33を構成する穴33aを形成し、該穴33a内に焼結体34を挿入する。次いで、先端部32を構成する先端部材32aを焼結体34に当接する。
この時、
図3(B)に示すように、焼結体34の先端は、本体部31の表面より0.5mm程度の若干量だけ突出している。
図3(C)に示すように、先端部材32aを押圧して、焼結体34を圧縮し、先端部材32aと本体部材31aとを当接する。この際、焼結体34は、本体部31や先端部32の焼結温度よりも低い温度で焼結してあるので、押圧による縮み代は大きく、本体部材31aと先端部材32aの当接により、若干量だけ縮み、焼結体34は先端部材32aと当接した状態となる。
この状態で、拡散接合やスポット溶接等により本体部材31aと先端部材32aを接合する。
次いで、先端部材32aと本体部材31aの接合後に、陰極3の先端を切削加工する。
これにより、
図3(D)に示すように、本体部31の先端に先端部32が接合され、その内部の密閉空間33内に焼結体34が密閉埋設された陰極3の最終形状が得られる。
【0022】
図4に、他の複数の実施例が示されていて、これらの実施例では、密閉空間33内に焼結体34とともに、エミッタの還元反応を促進するための還元剤5が封入されている。
図4(A)は、還元剤の箔51を焼結体34に巻き付けて密閉空間33内に封入したものである。具体的には、厚さ5〜40μmのTa箔を焼結体34に巻き付けてある。
図4(B)は、焼結体34に還元剤の粉末、例えば、粒径1〜10μmのTa粉末52を混入させたものであって、焼結体構成材料であるタングステン粉末とTa粉末とを混合し、焼結させたものである。
図4(C)は、密閉空間33内の焼結体34の下方に、Ta粉末などの還元剤粉末53を配置したものである。
還元剤の封入形態はこれら以外に、還元剤のペーストを焼結体34の外周面に塗布する等がある。
【0023】
ここに用いられる還元剤としては、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)のいずれかであことが好ましい。そして、その封入量は、焼結体34に含まれる第2エミッタの総量に対して、1wt%〜30wt%である。
なお、還元剤として炭素(C)も考えられるが、炭素は、エミッタとタングステン(W)との反応で生成した酸化タングステンと反応してCOを生成し、このCOが焼結体34から拡散して先端部32内に至り、ここで、CとOとに分解して固溶し、陰極先端面に拡散する。ここで、最終的にはO2やCOとなって放電容器中に放出される。そして、これらが陽極に到達すると、酸化タングステンや炭化タングステンが生成され、放電容器の黒化や陽極の変形を引き起こすことになる、という不具合があり、好ましいものではない。
そこで、炭素(C)以外の、前記したTi、Ta、V、Nbなどを用いるのが好適である。
【0024】
本願発明の陰極構造が適用されるのは、
図1では、水銀ランプやキセノンランプなどのショートアーク型放電ランプをイメージしたが、ロングアーク型放電ランプに適用することもできる。
【0025】
以上説明したように、本発明においては、陰極にトリウム以外のエミッタを添加した放電ランプにおいて、本体部に接合される先端部にエミッタを含有させてあるので、ランプの当初の始動時にこのエミッタが始動性を確保して確実な点灯が行われる。
そして、陰極内部に密封埋設した焼結体には、前記先端部の第1エミッタよりも高濃度の第2エミッタが含有されているので、ランプ点灯に伴ってこの第2エミッタが拡散して、先端部側に移動して供給されるので、先端部でエミッタが枯渇するという心配がなく、継続的なエミッタ供給による安定的な点灯が確保される。
この焼結体は陰極内部に密封埋設されていて、直接放電アークに曝されることがないので、トリウム以外の蒸気圧の低いエミッタが、過度に蒸発して短時間で枯渇してしまうこともない。
また、密閉空間内には還元剤が封入されているので、エミッタの還元反応が促進されて、先端部へのエミッタの供給が滞ることもない。
【符号の説明】
【0026】
1 放電ランプ
2 発光管
3 陰極
31 本体部
32 先端部
4 陽極
5 還元剤
51 箔状還元剤
52 粉末状還元剤
53 粉末状還元剤