(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の展開型フェーズドアレイアンテナであって、さらに、基板の歪み及び/又は基板の板面に垂直な方向の高さの違いを検出可能な変動センサを具備し、前記位相制御部は、変動センサによる検出結果も用いて位相補正することを特徴とする展開型フェーズドアレイアンテナ。
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の展開型フェーズドアレイアンテナにおいて、前記位相制御部は、素子位相d・sinθ(d:アンテナ素子間、θ:放射ビーム角度)に対して、s・cosθ(s:支持体の突出量に応じた基板間の段差)を加算してアンテナ素子の励振位相を調整して位相を制御することを特徴とする展開型フェーズドアレイアンテナ。
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の展開型フェーズアレイアンテナにおいて、前記ヒンジは、基板の間又は基板と支持体との間にそれぞれ配置され、基板を簾折り可能なように構成されることを特徴とする展開型フェーズドアレイアンテナ。
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の展開型フェーズアレイアンテナにおいて、前記ヒンジは、基板の間又は基板と支持体との間にそれぞれ配置され、基板を九十九折り可能なように構成されることを特徴とする展開型フェーズドアレイアンテナ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の構造では、ヒンジが大型化して重量が増加したり、収納時にヒンジが側方に突き出たりするため、小型化の妨げになっていた。例えば人工衛星等に展開型アンテナを用いることを考えた場合、このような重量の増加や大型化の問題は無視できるものでは無かった。
【0007】
また、特許文献2に開示のものは、伸展用ポールを用いるため、装置が複雑化するものであった。また、1次元にしか展開できないため、収納時と展開時の投影面積比を大きくすることは難しかった。
【0008】
さらに、特許文献3に開示のものは、基板上にフェーズドアレイアンテナ用のアンテナ素子を配置したとしても、各基板の高さが異なるため、以下のような問題があった。即ち、各基板から放射されるマイクロ波の位相面をパネル全体として揃えることはできないため、望ましい放射特性が得られない等の問題があった。特許文献3では、このような問題を解決できる手法を何ら開示するものでは無かった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、収納時と展開時の投影面積比を高くでき、展開時に電気的に位相補正が可能な展開型フェーズドアレイアンテナを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による展開型フェーズドアレイアンテナは、所定の厚みを有し、少なくとも3枚以上配置される複数の基板と、複数の基板上に配置される、フェーズドアレイアンテナ用の複数のアンテナ素子と、複数の基板のうちの少なくとも1枚の基板の少なくとも一側面に設けられ、基板の板面に垂直な方向に基板の厚みの倍数の突出量で基板から突出して延在する支持体と、隣り合う基板の、基板の間又は基板と支持体の間を接続し、少なくとも180度の回転自由度を有するヒンジであって、支持体と組み合わせることで収納時に折り畳むと略基板1枚分の投影面積に折り畳めるように配置されるヒンジと、展開時の複数の基板の板面に垂直な方向の高さの違いにより生ずる位相誤差を、支持体の突出量に応じて位相補正する位相制御部と、を具備するものである。
【0011】
さらに、基板の歪み及び/又は基板の板面に垂直な方向の高さの違いを検出可能な変動センサを具備し、位相制御部は、変動センサによる検出結果も用いて位相補正するものであっても良い。
【0012】
また、中心の基板に対して一方側に隣り合う基板は、同一平面でヒンジを介して接続され、他方側に隣り合う基板は、基板の厚み1枚分の突出量で中心の基板から突出して延在する支持体に設けられるヒンジを介して接続されるものであれば良い。
【0013】
また、中心の基板に対して一方側に隣り合う基板は、基板の厚み1枚分の突出量で中心の基板から突出して延在する支持体に設けられるヒンジを介して接続され、他方側に隣り合う基板は、基板の厚み2枚分の突出量で中心の基板から突出して延在する支持体に設けられるヒンジを介して接続されるものであっても良い。
【0014】
また、位相制御部は、素子位相d・sinθ(d:アンテナ素子間、θ:放射ビーム角度)に対して、s・cosθ(s:支持体の突出量に応じた基板間の段差)を加算してアンテナ素子の励振位相を調整して位相を制御しても良い。
【0015】
さらに、基板から突出して延在する支持体とその基板に隣り合う基板との間に設けられ、基板の板面に垂直な方向に略基板の厚みの倍数の突出量で、隣り合う基板の裏面側から突出して延在する脇支持体を具備し、ヒンジは、展開時に隣り合う基板と支持体との間を、脇支持体を介して接続しても良い。
【0016】
また、ヒンジは、基板の間又は基板と支持体との間にそれぞれ配置され、基板を簾折り可能なように構成されても良い。
【0017】
また、ヒンジは、基板の間又は基板と支持体との間にそれぞれ配置され、基板を九十九折り可能なように構成されても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明の展開型フェーズドアレイアンテナには、収納時と展開時の投影面積比を高くでき、展開時に電気的に位相補正が可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの構成を説明するための概略斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの最小構成を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子の電気的な概念を説明するための概略構成図である。
【
図4】
図4は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図10】
図10は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。
【
図12】
図12は、
図1に示される本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの展開時の側面図である。
【
図13】
図13は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の側面図である。
【
図14】
図14は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの他の構成を説明するための側面図である。
【
図15】
図15は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナのビーム走査における段差の補正について説明するための図である。
【
図16】
図16は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの谷折りのみ可能な構成を説明するための側面図である。
【
図17】
図17は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの簾折り構造を説明するための側面図である。
【
図18】
図18は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの九十九折り構造を説明するための側面図である。
【
図19】
図19は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの九十九折り構造の他の例を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。
図1は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの構成を説明するための概略斜視図である。なお、図示例では3×3枚の基板により放射面を形成した例を示している。また、
図2は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの最小構成を説明するための概略図であり、
図2(a)が斜視図、
図2(b)が側面図である。図示の通り、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナは、基板10と、アンテナ素子20と、支持体30と、ヒンジ40と、位相制御部50とから主に構成されている。
【0021】
基板10は、所定の厚みを有するものであり、少なくとも3枚以上配置されるものである。例えば、基板10は通常のプリント配線基板であれば良い。
【0022】
アンテナ素子20は、複数の基板10上に配置されるものであり、フェーズドアレイアンテナ用のものである。アンテナ素子20は、基板10毎に1つ配置されるものであっても良いし、各基板10に複数のアンテナ素子20が配置されるものであっても良い。例えば、基板10が3枚の場合には、アンテナ素子20は基板10毎に1つ配置されるように1次元配置されても良いし、複数のアンテナ素子20を2次元配置しても良い。
【0023】
図3は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子の電気的な概念を説明するための概略構成図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。図示の通り、アンテナ素子20は、フェーズドアレイアンテナ用のものであるため、各アンテナ素子の電力合成時に、可変位相器21が挿入される。また、アンテナ素子20の種類としては特に限定されることなく、プリントアンテナやパッチアンテナ、ヘリカルアンテナ、ラジアルラインスロットアンテナ等、種々のものが適用可能である。アンテナ素子20は、基板10上に例えばエッチング等により銅薄膜等でパターンニングされるものである。なお、
図1では、アンテナ素子20のパターンの図示は省略した。
【0024】
支持体30は、基板10の一側面に設けられるものである。図示の通り、支持体30は、基板10の板面に垂直な方向に基板10の厚み分の突出量で基板10から突出して延在するものである。支持体30の突出量については、後に詳説するが、概ね基板の厚みの倍数の突出量となるように個々に決定されれば良い。また、支持体30は、基板10の側面に固定可能なものであれば、その材質は特に限定されるものではなく、ヒンジ40が固定可能であり、基板の展開・収納時における支持体30への負荷に耐え得るものであれば良い。
【0025】
ヒンジ40は、例えば
図2に示されるように、隣り合う基板10a,10bの間(40a)又は基板10aと支持体30の間(40b)を接続するものである。ヒンジ40は、少なくとも180度の回転自由度を有するものである。ヒンジ40a,40bと支持体30を組み合わせることで、収納時に折り畳むと略基板1枚分の投影面積に折り畳めるようにヒンジが配置される。より具体的には、例えば、
図2に示されるように、3枚の基板が1次元配置される場合、中心の基板10aに対して右側に隣り合う基板10bは同一平面でヒンジ40aを介して接続されている。また、左側に隣り合う基板10cは、基板の厚み1枚分の突出量で中心の基板10aから突出して延在する支持体30に設けられるヒンジ40bを介して接続されている。即ち、基板10a,10bは同一の高さに配置されるが、基板10cは基板の厚み分、支持体30により持ち上げられて配置されている。このように構成されることで、基板10bをヒンジ40aを軸に180度回転させると基板10a,10bは略隙間なく揃って積層される。さらに基板10cをヒンジ40bを軸に180度回転させると、基板10bの裏面の上に基板10cが揃って積層される。これにより、略基板1枚分の投影面積に折り畳めるようになる。
【0026】
図4乃至
図13を用いて、3×3枚の基板構成の場合の本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを説明する。
図4乃至
図13は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の基板の動きを順に説明するための概略斜視図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
図1の状態から、まず
図4に示されるように、基板10bがヒンジ40aを軸に回転され、基板10a,10bが積層される。次に、
図5に示されるように、基板10cがヒンジ40bを軸に回転され基板10bの上に積層される。このとき、基板10は支持体30により基板の厚み分高く配置されているため、基板10a,10b,10cは略隙間なく揃って積層される。同様に、
図6に示されるように、基板11cがヒンジ41bを軸に回転され基板11aの下に積層される。また、
図7に示されるように、基板11bがヒンジ41aを軸に回転され基板11cの下に積層される。このとき、基板11bは支持体31により基板の厚み1枚分低く配置されているため、基板11a,11b,11cは略隙間なく揃って積層される。
【0027】
さらに、
図8に示されるように、積層された基板11a,11b,11cがヒンジ43を軸に回転され、積層された基板10a,10b,10cの上に積層される。このとき、積層された基板11a,11b,11cは支持体33により基板の厚み1枚分高く配置されている。
図12を用いてより具体的に説明する。
図12は、
図1に示される本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの展開時の側面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。図示の通り、支持体33は、基板10aに設けられており、基板10aから基板の厚み2枚分延在し、そこにヒンジ43が接続されている。即ち、基板10aの上には基板10bと基板10cの2枚が積層されるため、基板10cの裏面と基板11aの表面との高さが等しくなるように構成するためには、基板の2枚分の高さを支持体33で突出させれば良い。これにより、基板10cの上に、基板11aが略隙間なく揃って積層される。このように、支持体の突出量は、概ね基板の厚みの倍数で決定されれば良い。
【0028】
同様に、
図9及び
図10に示されるように、基板12a,12b,12cが、支持体32に設けられるヒンジ42aやヒンジ42bを軸に回転され積層される。
図12に示されるように、基板10aに設けられた支持体34は、基板の厚み5枚分高く延在している。これは、基板10b,10c,11a,11b,11cの厚みに対応するものである。これにより、
図10に示される状態では、基板11bと基板12aの高さが等しくなるように構成される。そして、最後に
図11に示されるように、積層された基板10a,10b,10c,11a,11b,11cの上に、積層された基板12a,12b,12cがヒンジ44を軸に回転され、すべての基板が積層される。
【0029】
図13に、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの収納時の側面図を示す。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。図示の通り、基板10は略隙間なく積層され、また、支持体の部分で多少の凹凸はあるものの、略基板1枚分の投影面積に折り畳める。なお、図示例では、基板の上下に若干の隙間が示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。この隙間は、ヒンジ40の固定板を基板10の表面上にそのまま設置したことにより、ヒンジの固定板の厚み分だけ隙間が生じたものである。しかしながら、例えば基板10のヒンジ40の固定板を配置する位置に、凹部を設けて固定板が凹部に嵌合するように構成した場合等には、基板間には完全に隙間なく基板が積層可能となる。さらに、図示例では、完全に同一の大きさの9枚の正方形状の基板を用いた例を示したため、基板側面に設けられる支持体の分だけ側部に凹凸ができたが、本発明はこれに限定されず、例えば支持体が設けられたり支持体が側面近傍に配置される基板の大きさを支持体の厚み分だけ小さくすることで、完全に揃って積層させることも可能である。
【0030】
図14に、ヒンジの固定板の位置を変えて固定板の厚みによる基板の隙間の影響を低減させた例を示す。
図14は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの他の構成を説明するための側面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
図2(b)に示される例では、展開時において、ヒンジ40aの固定板は180度まで開いた状態であり、ヒンジ40bの固定板は270度まで開いた状態である。収納時には、ヒンジ40aの固定板は0度まで閉じ、ヒンジ40bの固定板は90度まで閉じた状態となる。このため、ヒンジ40aの固定板の厚みが基板10a,10b間に介在するため、隙間が生じていた。しかしながら、
図14に示される例では、基板10a,10b間にも基板の厚み1枚分突出する支持体37が設けられ、支持体37に接続されるヒンジ47は、展開時に270度まで開いた状態であり、収納時に90度まで閉じた状態となる。そして、基板10a,10c間に設けられる支持体38は、基板の厚み2枚分突出するものであり、これに接続されるヒンジ48も、展開時に270度まで開いた状態であり、収納時に90度まで閉じた状態となる。このように構成されることにより、収納時には基板間にヒンジの固定板が介在しないため、基板間にヒンジによる隙間は生じなくなる。これにより収納時の高さをより低く構成することも可能である。
【0031】
さて、このような展開構造に対して、フェーズドアレイアンテナ用のアンテナ素子を配置した場合には、そのままでは各基板の高さが異なるため、各基板から放射されるマイクロ波の位相面をパネル全体として揃えることはできない。したがって、望ましい放射特性が得られない。しかしながら、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナでは、以下に説明する位相制御部50を用いて高さの違いによる位相誤差を補正することで、望ましい放射特性のフェーズドアレイアンテナを実現可能である。
【0032】
位相制御部50は、展開時の複数の基板10の板面に垂直な方向の高さの違いにより生ずる位相誤差を、支持体30の突出量に応じて位相補正するものである。
図3に示されるように、位相制御部50は、例えばアンテナ素子20に接続される可変位相器21を制御するものであり、アンテナ素子20が配置された基板10の高さに応じて、アンテナ素子20毎に位相補正可能なものであれば良い。即ち、基板10の高さは、支持体30の突出量に対応するものであるため、予め設定した補正値に応じて可変位相器21が補正されれば良い。したがって、非常に簡単に補正値を求めることが可能であり、位相誤差を容易に補正可能である。例えば、展開時の側面図である
図12を参照して高さについて説明すると、例えば基板10aを基準とすると、基板10bは同一平面内にあるため補正の必要はない。基板10cは、支持体30により基板の厚みの1枚分の高さの違いが生じているため、位相制御部50では、基板10aに配置されるアンテナ素子と比べて、基板の厚み1枚分に応じた位相誤差を補正すれば良い。同様に、例えば基板12aや基板12cは、基板の厚み5枚分の高さの違いが支持体34により生じているため、基板の厚み5枚分に応じた位相誤差を位相制御部50にて補正すれば良い。このように、基板の高さは予め既知のものとなるため、予め補正量を位相制御部50で記憶しておけば、簡単に補正可能となる。なお、展開する基板が多い場合、位相補正量が360度を越す場合も起こり得る。この場合、360度の整数倍だけ差し引いて位相補正を行えば良い。
【0033】
さらに、基板10の歪や基板の板面に垂直な方向の高さの違いを検出可能な変動センサを別途設けても良い。これにより位相制御部50は、変動センサによる検出結果も用いて位相補正することも可能となる。即ち、変動や高さ誤差に対してアクティブに位相補正することも可能となる。
【0034】
フェーズドアレイアンテナでは、アンテナ素子への給電位相を変えることでビームを走査することが行われる。
図15は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナのビーム走査における段差の補正について説明するための図である。図中、dがアンテナ素子間を表し、sが基板間の段差を表している。また、θは放射ビーム角度を表している。一般的に各素子に対する位相量(素子位相:A
1B
1)は、d・sinθとなる。しかしながら、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナでは、基板間に段差があるため、これによる励振位相(A
2B
2)はs・cosθとなり、これを補正することになる。即ち、s・cosθをd・sinθにさらに加算して、アンテナ素子の励振位相を調整して位相を制御し、放射ビーム角度をθだけ走査することが可能となる。
【0035】
このように、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナによれば、複雑な構造はいらないため重量の増加も少なく、収納時と展開時の投影面積比を大きくすることが可能となる。また電気的に位相補正が可能なため、瞬時に補正可能である。また、小型軽量化、さらには補正により信頼性も向上可能であるため、衛星搭載用としての利用にも向いている。例えば小型衛星に大型アンテナを搭載する場合等に、特に有利となる。
【0036】
さらに、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナは、任意に位相補正可能であるため、例えば完全に基板を展開せずに、一部を所定の角度までしか展開せずに運用することも可能である。これにより、機械的に一部のアンテナの指向性を変えることも可能である。
【0037】
次に、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの他の例について説明する。例えば、
図1に示したような構造の場合、隣り合う基板が山折りされる構造、即ち、基板の裏面側にヒンジが設けられる部分を有している。なお、ここで、本明細書中で山折りや谷折りについては、基板のアンテナ素子が設けられる側から見て凸になる折り方を山折りと、凹になる折り方を谷折りという。この場合、展開型フェーズドアレイアンテナが設置される状態によっては、山折りされる基板が設置部分に接触する可能性がある。即ち、例えば人工衛星に展開型フェーズドアレイアンテナを搭載する場合には、衛星に接触する可能性がある。このような問題は、例えば展開するときに開く基板の順番や収納するときに折り畳む基板の順番を制御することで回避可能である。例えば、収納時において、
図8から
図9の状態に折り畳もうとすると、基板12cが山折りとなる。したがって、まず基板12a,12b,12cを折り畳む前に、基板12aを基板11b側に谷折りにした後に、基板12c及び基板12bを谷折りすれば良い。即ち、中心の基板に対して両側の基板が谷折り可能なタイミングで基板を展開・収納すれば良い。
【0038】
また、谷折りのみ可能なように予めヒンジ周辺を構成することも可能である。
図16は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの谷折りのみ可能な構成を説明するための側面図である。図中、
図1等と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
図16は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの展開途中の側面図である。図示の通り、この例では、脇支持体60a,60bを有している点がこれまでの例と異なる点である。脇支持体60a(60bも同様)は、基板10aから突出して延在する支持体33とその基板10aに隣り合う基板12cとの間に設けられるものである。また、脇支持体60aは、基板12cの板面に垂直な方向に略基板の厚みの倍数の突出量で、隣り合う基板12cの裏面側から突出して延在するものである。図示例では、脇支持体60aは基板3枚分の突出量で延在している。同様に、脇支持体60bも、基板12bの裏面側から基板3枚分の突出量で延在している。このように設けられた脇支持体60aを介して、ヒンジ44は、展開時に隣り合う基板12cと支持体34との間を接続している。即ち、ヒンジ44の位置が基板12a,12b,12cに対して上側に位置するように構成されている。
【0039】
このように構成されることで、収納時に基板11aは、基板10cの表面側の上に配置される。そして、基板12aは基板11bの裏面側の上に配置される。そして、展開時には、まず、基板12a,12b,12cが上側に展開される。このときに脇支持体60aは、基板12cに固定されているため、基板12cの上側に配置される基板12a,12bは、上側にのみ展開可能(谷折り)となる。したがって、基板が装置設置部分に接触することはない。同様に、基板11a,11b,11cが上側に展開される(
図16に示される状態)。このときに脇支持体60bは基板11bに固定されているため、基板11cの上側に配置される基板11a,11cは、上側にのみ展開可能(谷折り)となるので、接触は防止可能である。
【0040】
次に、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの基板の折り畳み方の他の例について説明する。
図17は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの簾折り構造を説明するための側面図である。図中、
図1等と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示例では、破線が収納時の状態又は展開中の状態を表し、実線が展開された状態を表している。なお、3枚の基板10a,10b,10cのみを示しているが、これを1単位として例えば
図13等に示されるような、9枚の基板を用いた構成も可能である。この例では、ヒンジ40a,40bが、基板10a,10bの間、及び基板10aと支持体30との間に配置され、基板を簾折り可能なように構成されている。即ち、基板10bは谷折りで基板10aの上に折り畳まれ、基板10aは谷折りで基板10cの上に折り畳まれるように構成されている。このように、同一の方向に巻いていくように基板が折り畳まれるものである。
【0041】
さらに、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの基板の折り畳み方のさらに別の例について説明する。
図18は、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナの九十九折り構造を説明するための側面図である。図中、
図1等と同一の符号を付した部分は同一物を表しており、破線が収納時の状態又は展開中の状態を表し、実線が展開された状態を表している。この例では、ヒンジ40a,40bが、基板10a,10bの間、及び基板10a,10cの間に配置され、基板を九十九折り可能なように構成されている。即ち、まず基板10a,10bが折り畳まれる前に、ヒンジ40bを軸に谷折りで基板10cの上に基板10aが折り畳まれる。そして、ヒンジ40aを軸に、基板10bを谷折りで基板10aの上に折り畳まれる。このように、基板が順に表裏表裏となるように基板が折り畳まれるものである。そして、
図19に示されるように、基板10bに支持体30が配置され、基板10dと支持体30との間にヒンジ40cが配置されるようにしても良い。この例は、基板10bを中心に、基板10a,10cが九十九折りされると共に、その上に基板10d,10cが九十九折りされる構造である。
【0042】
なお、本発明の展開型フェーズドアレイアンテナは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。