特許第5672703号(P5672703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672703
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】産業用加熱システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 30/02 20060101AFI20150129BHJP
   F25B 27/02 20060101ALI20150129BHJP
   F26B 21/04 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   F25B30/02 H
   F25B27/02 Z
   F26B21/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-8218(P2010-8218)
(22)【出願日】2010年1月18日
(65)【公開番号】特開2011-145041(P2011-145041A)
(43)【公開日】2011年7月28日
【審査請求日】2012年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 修一
【審査官】 西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−241210(JP,A)
【文献】 特開2006−183953(JP,A)
【文献】 特開2006−308164(JP,A)
【文献】 特開平07−052636(JP,A)
【文献】 特開平06−249450(JP,A)
【文献】 特開2004−077077(JP,A)
【文献】 特開2006−194242(JP,A)
【文献】 特開2009−236328(JP,A)
【文献】 特開2011−075131(JP,A)
【文献】 特開昭62−102066(JP,A)
【文献】 特開2007−303759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 27/00 − 27/02
F25B 30/02
F25B 49/00 − 49/02
F24F 11/02
F26B 1/00 − 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプ装置とボイラとを備える産業用加熱システムの制御方法であって、
前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの少なくとも1つを稼動する工程と、
前記ヒートポンプ装置の放熱部の入口部及び出口部の少なくとも一方での第1流体の温度を計測する工程と、
前記第1流体の温度の計測結果を含む情報に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を制御する工程と、
熱需要に応じてヒートポンプの成績係数を仮決定する工程と、
前記仮決定された前記成績係数に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を仮決定する工程と、
を含み、
前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの少なくとも1つを稼動する工程は、前記仮決定された前記出力比に基づいて実行される、ことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
第1流体が流れるヒートポンプ装置と、
ボイラと、
前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラに熱的に接続され、第2流体が流れる供給路と、
前記供給路に流体的に接続され、前記第2流体からの熱が対象物に伝わる加熱室と、
前記ヒートポンプ装置の放熱部の入口部及び出口部の少なくとも一方での前記第1流体の温度を計測する計測装置と、
前記計測装置の計測結果を含む情報に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、熱需要に応じて仮決定された前記ヒートポンプの成績係数に基づいて、前記出力比を仮決定し、前記仮決定された前記出力比に基づいて前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの少なくとも1つを稼動させる、ことを特徴とする産業用加熱システム。
【請求項3】
第1流体が流れるヒートポンプ装置と、
ボイラと、
前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラに熱的に接続され、第2流体が流れる供給路と、
前記供給路に流体的に接続され、前記第2流体からの熱が対象物に伝わる加熱室と、
前記ヒートポンプ装置の放熱部の入口部及び出口部の少なくとも一方での前記第1流体の温度を計測する計測装置と、
前記計測装置の計測結果を含む情報に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を制御する制御装置と、
前記供給路に熱的に接続される電気ヒータとを備え、
前記ヒートポンプ装置前記ボイラ及び前記電気ヒータは、この順に前記供給路に対して直列に配置され、
前記制御装置は、熱需要に応じて決定される前記ヒートポンプ装置の成績係数に基づいて、前記ヒートポンプ装置、前記ボイラ、及び前記電気ヒータの出力比を制御する、ことを特徴とする産業用加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用加熱システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用加熱システムとしては、ボイラで生成した蒸気の熱を対象物に伝える構成が一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ヒートポンプあるいは冷凍機の媒体の熱を対象物に伝える構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−249450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボイラを用いたシステムは、一次エネルギー効率が比較的低い。一方、ヒートポンプを用いたシステムは、稼動条件が不安定であったり経年変化が生じたりすると、熱需要に十分に対応できない状況が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、安定的にエネルギー効率が高い産業用加熱システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、第1流体が流れるヒートポンプ装置と、ボイラと、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラに熱的に接続され、第2流体が流れる供給路と、前記供給路に流体的に接続され、前記第2流体からの熱が対象物に伝わる加熱室と、前記ヒートポンプ装置の放熱部の入口部及び出口部の少なくとも一方での前記第1流体の温度を計測する計測装置と、前記計測装置の計測結果を含む情報に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、熱需要に応じて仮決定された前記ヒートポンプの成績係数に基づいて、前記出力比を仮決定し、前記仮決定された前記出力比に基づいて前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの少なくとも1つを稼動させる、産業用加熱システムが提供される。
また、第1流体が流れるヒートポンプ装置と、ボイラと、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラに熱的に接続され、第2流体が流れる供給路と、前記供給路に流体的に接続され、前記第2流体からの熱が対象物に伝わる加熱室と、前記ヒートポンプ装置の放熱部の入口部及び出口部の少なくとも一方での前記第1流体の温度を計測する計測装置と、前記計測装置の計測結果を含む情報に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を制御する制御装置と、前記供給路に熱的に接続される電気ヒータとを備え、前記ヒートポンプ装置前記ボイラ及び前記電気ヒータは、この順に前記供給路に対して直列に配置され、前記制御装置は、熱需要に応じて決定される前記ヒートポンプ装置の成績係数に基づいて、前記ヒートポンプ装置、前記ボイラ、及び前記電気ヒータの出力比を制御する、産業用加熱システムが提供される。
【0007】
本発明の別の態様に従えば、ヒートポンプ装置とボイラとを備える産業用加熱システムの制御方法であって、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの少なくとも1つを稼動する工程と、前記ヒートポンプ装置の放熱部の入口部及び出口部の少なくとも一方での第1流体の温度を計測する工程と、前記第1流体の温度の計測結果を含む情報に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を制御する工程と、熱需要に応じてヒートポンプの成績係数を仮決定する工程と、前記仮決定された前記成績係数に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの出力比を仮決定する工程と、を含み、前記ヒートポンプ装置及び前記ボイラの少なくとも1つを稼動する工程は、前記仮決定された前記出力比に基づいて実行される制御方法が提供される。
【0008】
上記の産業用加熱システム及びその制御方法によれば、ヒートポンプ装置及びボイラの出力比の最適化が図られ、エネルギー効率の向上が安定的に図られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態を示す概略図である。
図2】ヒートポンプの負荷率とCOPの関係を示す図である。
図3】システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図4】システム(ヒートポンプ設置時)における出力比の一例を示す図である。
図5】システム(ヒートポンプ性能低下時)における出力比の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、加熱システムS1を示す概略図である。
【0011】
図1に示すように、加熱システムS1は、作動流体(第1流体)が流れるヒートポンプ(ヒートポンプ回路)20を有するヒートポンプ装置12と、ボイラ13と、電気ヒータ14と、対象物が加熱される加熱室(加熱装置)16と、排熱回収装置(熱回収装置)17と、制御装置70とを備える。制御装置70は、システム全体を統括的に制御する。加熱システムS1の構成は設計要求に応じて様々に変更可能である。
【0012】
本実施形態において、被加熱流体(第2流体)は空気である。本実施形態において、ヒートポンプ装置12、ボイラ13、及び電気ヒータ14の少なくとも1つによって加熱された高温の空気が加熱室16に供給される。加熱室16において、空気からの熱が対象物に伝わる。
【0013】
本実施形態において、加熱室16において、加熱された空気からの熱が直接的又は間接的に対象物に伝わる。例えば、加熱室16において、加熱された空気が対象物に直接的に接することができる。あるいは、加熱室16において、加熱された空気と対象物との間に別の物質が介在することができる。
【0014】
本実施形態において、加熱対象物は産業部品や産業材料である。例えば、加熱室16において、産業部品又は産業材料の少なくとも一部が乾燥処理される。あるいは、加熱室16において、産業部品又は産業材料の少なくとも一部が熱処理される。なお、汚泥、紙、木材、樹脂、薬剤、薬品、砂、家庭ごみ、産業ごみ、工芸品、工芸材料、電気部品、電気機器、塗装物、産業用衣類、機械部品、機械製品、食料、食材、食料品など、様々な物体を加熱対象にできる。他の実施形態において、被加熱流体は乾燥用以外の空気、あるいは空気以外の流体にできる。空気以外の被加熱流体としては、例えば、水、圧縮水、薬品、粘性液などが挙げられる。また、他の実施形態において、加熱室16は、乾燥装置、及び/又は乾燥装置以外の他の熱利用装置を含むことができる。
【0015】
ヒートポンプ装置12において、ヒートポンプ20は、蒸発、圧縮、凝縮、及び膨張の各工程からなるサイクルにより、作動流体の状態変化を利用して複数の物体間で熱の授受を行う回路である。ヒートポンプサイクルは一般に、エネルギー効率が比較的高いという利点を有する。
【0016】
本実施形態において、ヒートポンプ20は、吸熱部21、圧縮部22、放熱部23、及び膨張部24を有し、これらは導管を介して接続されている。ヒートポンプ20において、導管内を作動流体が流れる。本実施形態において、ヒートポンプ20は、作動流体の熱を用いて空気供給路140を流れる被加熱流体(第2流体、空気など)を加熱することができる。
【0017】
吸熱部21では、導管(主経路25)内を流れる作動流体がサイクル外の熱源の熱を吸収する。本実施形態において、ヒートポンプ20の吸熱部21は、加熱室16からの排出流体(排ガス、排出空気)の熱(排熱)を吸収(回収)することができる。本実施形態において、ヒートポンプ20の吸熱部21は、排熱回収装置17の放熱部160に熱的に接続され、その内部で作動流体が蒸発する蒸発器を含む。排熱回収装置17の放熱部160は、外部装置90の放熱部を含むことができる。熱源として、外部装置90の排熱を利用することが可能である。吸熱部21が大気など他の熱源の熱を吸収する構成とすることもできる。放熱部160を流れる媒体の熱がヒートポンプ20の吸熱部21に吸収される。後述するように、本実施形態において、ヒートポンプ20の吸熱部21は、加熱室16から排出された流体(排ガス)からの熱を吸収可能である。
【0018】
圧縮部22は、圧縮機等によって作動流体を圧縮する。この際、通常、作動流体の温度が上がる。圧縮部22は、単段圧縮構造、又は作動流体を複数段に圧縮する多段圧縮構造を有することができる。圧縮の段数は、システムS1の仕様に応じて設定され、1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10以上である。圧縮部22は、軸流圧縮機、遠心圧縮機、レシプロ式圧縮機、ロータリー式圧縮機などの様々な圧縮機のうち、作動流体の圧縮に適するものが適用される。圧縮機には動力が供給される。多段圧縮構造を有する圧縮部22において、多軸圧縮構造又は同軸圧縮構造が適用可能である。
【0019】
放熱部23は、圧縮部で圧縮された作動流体が流れる導管を有し、導管(主経路25)内を流れる作動流体の熱をサイクル外の熱源(被加熱流体)に与える。放熱部の数は、システムS1の仕様に応じて設定され、1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10以上である。追加的に、ヒートポンプ20は、バイパス経路、流量センサ、流路制御弁などを有することができる。
【0020】
本実施形態において、放熱部23は、圧縮部22からの作動流体が流れ、その作動流体からの熱が空気供給路140を流れる被加熱流体に伝わる導管を有する。本実施形態において、ヒートポンプ20は、放熱部23及びを流れる作動流体の流量を制御する構成を有することができる。この構成において、例えば、ヒートポンプ20は、バイパス経路、流量センサ、流路制御弁などを有することができる。
【0021】
膨張部24は、減圧弁またはタービン等によって作動流体を膨張させる。この際、通常、作動流体の温度が下がる。タービンを使用した場合には膨張部24から動力を取り出すことができ、その動力を例えば圧縮部22に供給してもよい。ヒートポンプ20に使用される作動流体として、フロン系媒体(HFC 245fa、R134aなど)、アンモニア、水、二酸化炭素、空気などの公知の様々な熱媒体が、システムS1の仕様及び熱バランスなどに応じて用いられる。ヒートポンプ20の放熱部23を流れる作動流体の少なくとも一部が超臨界状態になってもよい。
【0022】
空気供給路(空気供給装置)140は、ボイラ13、及び電気ヒータ14の少なくとも1つによって加熱された高温の空気を加熱室16に供給する。空気供給路140は、第1加熱部62と、第2加熱部64と、第3加熱部66とを有する。本実施形態において、空気供給路140における流体(空気)の流れに沿って、第1加熱部62、第2加熱部64、及び第3加熱部66の順に配され、流体的に直列に接続されている。空気供給路140は、さらに、被加熱流体が流れる導管、ポンプやブロアなどの流体駆動機器、流体制御用の弁、フィルタなどのガス処理装置などを必要に応じて有することができる。
【0023】
第1加熱部62は、ヒートポンプ20の放熱部23に熱的に接続されかつ空気が流れる導管を含む。第1加熱部62と放熱部23を含んで実質的に第1熱交換器32が構成される。第1熱交換器32は、低温の流体(空気供給路140内の空気)と高温の流体(ヒートポンプ20内の作動流体)とが対向して流れる向流型の熱交換構造を有することができる。あるいは、第1熱交換器32は、高温流体と低温流体とが並行して流れる並行流型の熱交換構造を有してもよい。本実施形態において、第1熱交換器32の熱交換構造として、公知の様々なものを採用することができる。放熱部23の導管と第1加熱部62の導管とは互いに接触あるいは隣接して配置される。例えば、放熱部23の導管を、第1加熱部62の導管の外周面や内部に配設することができる。第1加熱部62において、ヒートポンプ20の放熱部23からの伝達熱によって、導管内の空気が温度上昇可能である。
【0024】
第2加熱部64は、ボイラ13の燃焼室からの熱を受けた熱媒体が流れる導管43に熱的に接続されかつ空気が流れる導管を含む。第2加熱部64と導管43とを含んで実質的に第2熱交換器34が構成される。第2熱交換器34は、低温の流体(空気供給路140内の空気)と高温の流体(導管43内の作動流体)とが対向して流れる向流型の熱交換構造を有することができる。あるいは、第2熱交換器34は、高温流体と低温流体とが並行して流れる並行流型の熱交換構造を有してもよい。本実施形態において、第2熱交換器34の熱交換構造として、公知の様々なものを採用することができる。導管43と第2加熱部64の導管とは互いに接触あるいは隣接して配置される。例えば、導管43を、第2加熱部64の導管の外周面や内部に配設することができる。第2加熱部64において、ボイラ13からの伝達熱によって、導管内の空気が温度上昇可能である。
【0025】
第3加熱部66は、電気ヒータ14の放熱部44に熱的に接続されかつ空気が流れる導管を含む。第3加熱部66と放熱部44とを含んで実質的に第3熱交換器36が構成される。本実施形態において、第2熱交換器34の熱交換構造として、公知の様々なものを採用することができる。放熱部44と第2加熱部64の導管とは互いに接触あるいは隣接して配置される。例えば、放熱部44を、第2加熱部64の導管の外周面や内部に配設することができる。第2加熱部64において、電気ヒータ14からの伝達熱によって、導管内の空気が温度上昇可能である。
【0026】
本実施形態において、空気供給路140からの被加熱流体(乾燥用空気)の出力温度は、熱需要に応じて変化できる。出力温度は、例えば、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200℃以上にできる。
【0027】
本実施形態において、加熱室16は、流体入口部81、流体出口部83、排気ルート87、及び必要に応じて不図示の移送装置を有する。一例において、移送装置は、コンベア、搬送車、搬送ロボットなどの様々な形態を有することができる。移送装置によって、加熱対象物が加熱室16内に投入されるとともに、加熱室16から取り出される。代替的又は追加的に、加熱室16は、加熱後の対象物の出力のために、ゲート式、旋回式などの形態を有する出力部を備えることができる。加熱した対象物の出力部は、必要に応じて加熱した対象物に化学処理などの所定の処理を行う機構を有することができる。
【0028】
本実施形態において、必要に応じて、移送装置は、加熱室16内で、加熱対象物を移動させることができる。加熱室16は、必要に応じて、不図示の脱水装置をさらに有し、それによって対象物を脱水することができる。脱水の際、対象物に必要に応じて凝集剤を添加することができる。脱水は、遠心式、加圧式、圧搾式、振動式など、対象物に応じて様々な形態が適用可能である。脱水により、対象物の容量が減少する。また、加熱室16は、必要に応じて、加熱室16に入る前の対象物に熱を与える予熱室をさらに有することができる。
【0029】
排気ルート87は、その内部を流れる空気の時間当たりの流量を測定する不図示の流量センサを含むことができる。排気ルート87を流れる排ガスは、排熱回収装置17を介して外部に排出される。
【0030】
本実施形態において、排気ルート87は、排熱回収装置17に熱的に接続される放熱管74を含む。加熱室16からの排ガスの少なくとも一部は、排気ルート87の放熱管74を流れる。放熱管74は、排熱回収装置17の放熱部160に流体的に接続された吸熱導管93に熱的に接続される。
【0031】
本実施形態において、放熱管74と吸熱導管93とを含んで熱交換器163が構成される。熱交換器163は、低温の流体(吸熱導管93内の作動流体)と高温の流体(放熱管74内の熱媒体)とが対向して流れる向流型の熱交換構造を有することができる。あるいは、熱交換器163は、高温流体と低温流体とが並行して流れる並行流型の熱交換構造を有してもよい。本実施形態において、熱交換器163の熱交換構造として、公知の様々なものを採用することができる。放熱管74と吸熱導管93とは互いに接触あるいは隣接して配置される。例えば、放熱管74を、吸熱導管93の外周面や内部に配設することができる。加熱室16からの流体(排ガス、空気)の熱が吸熱導管93を流れる媒体(冷媒など)に吸収される。その媒体が放熱部160を流れ、その熱がヒートポンプ20の吸熱部21に吸収される。こうした排熱利用により、運転コストの削減が図られる。排熱回収装置17は、熱媒体が流れる導管、ポンプなどの媒体駆動機器、及び媒体制御用の弁(不図示)などを有することができる。なお、配管構成は図1の構成に限定されず、様々に変更可能である。
【0032】
本実施形態において、加熱室16に対して、ヒートポンプ20からの熱が供給されるのに対して、外部装置90にはヒートポンプ20からの熱は実質的に供給されない。外部装置90は、ヒートポンプ20の稼動状態とは実質的無関係に、独立的に稼動される。
【0033】
追加的に、排熱回収装置17は、加熱室16の排熱、及び外部装置90からの熱の少なくとも一方を一時的に蓄える蓄熱部を有することができる。蓄熱部の使用により、外部装置90を任意の時間帯に稼動できる。外部装置90からの熱(排熱)を使用した蓄熱を、電力料金の比較的安い時間帯に行うことにより、電力コストの低減が図られる。また、ヒートポンプ20の運転終了時において、加熱室16からの排熱を使用して蓄熱を行うこともできる。余剰排熱を蓄えることにより、排熱利用効率の向上が図られる。
【0034】
なお、蓄熱媒体(蓄熱材)として、水の他に、例えば、潜熱蓄熱材が挙げられる。潜熱蓄熱材としては、例えば、エリスリトール、アルカン類等の炭化水素、ワックス系(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等)、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム三水塩、又は無機水和塩等を主成分とする材料等が挙げられる。蓄熱材して、顕熱蓄熱材、化学反応蓄熱材、超臨界流体を用いた蓄熱材等の他の物質を用いてもよい。
【0035】
放熱部160は、ヒートポンプ20の吸熱部21に熱的に接続された導管を含む。吸熱部21と放熱部160とを含んで熱交換器165が構成される。熱交換器165は、低温の流体(ヒートポンプ20の吸熱部21内の作動流体)と高温の流体(排熱回収装置17の放熱部160内の熱媒体)とが対向して流れる向流型の熱交換構造を有することができる。あるいは、熱交換器165は、高温流体と低温流体とが並行して流れる並行流型の熱交換構造を有してもよい。本実施形態において、熱交換器165の熱交換構造として、公知の様々なものを採用することができる。放熱部160の導管と吸熱部21の導管とは互いに接触あるいは隣接して配置される。例えば、放熱部160の導管を、吸熱部21の導管の外周面や内部に配設することができる。熱交換器165において、排熱回収装置17の放熱部160からの伝達熱をヒートポンプ20の吸熱部21が吸収する。
【0036】
本実施形態において、システムS1は、加熱室16における熱需要情報(要求温度、要求流量など)、ヒートポンプ20の出力情報、ボイラ13の出力情報(温度、圧力など)、及びヒートポンプ20に対する低温熱源情報(外部装置90における排熱情報など)をそれぞれ取得するためのセンサや情報取得手段を必要に応じて有する。制御装置70は、各種情報に基づき、システムS1全体を統括的に制御することができる。
【0037】
本実施形態において、システムS1は、少なくとも、ヒートポンプ20における放熱部23の入口部での作動流体の温度(熱媒入口温度)を計測するセンサ(計測装置)201と、放熱部23の出口部での作動流体の温度(熱媒出口温度)を計測するセンサ(計測装置)203と、空気供給路140における第1加熱部62の出口部での空気の温度(出口温度)を計測するセンサ(計測装置)205とを有する。
【0038】
本実施形態において、制御装置70は、ヒートポンプ20を、部分負荷状態を含む全負荷と無負荷の間の負荷状態で運転制御することができる。本実施形態において、制御装置70は、センサや情報取得手段で取得した各種情報に基づき、ヒートポンプ20、ボイラ13、及び電気ヒータ14の最適な出力比を決定することができる。出力比の最適化により、システムS1全体のエネルギー効率の向上が図られる。
【0039】
ここで、本実施形態におけるヒートポンプ20は、放熱部23からの放熱に伴い、作動流体の温度が低下する、いわゆる加温型ヒートポンプである。このヒートポンプにおいて、一般に、放熱部23の出口温度(熱媒出口温度)が設計値から外れたときに性能が低下する場合がある。
【0040】
また、こうしたヒートポンプ20を備えるシステムS1においては、熱需要の変動、低温熱源からの熱量の変動、各熱源機器性能の負荷による変動、各熱源機器の経年劣化等により、性能が低下する可能性がある。
【0041】
ここで、C:CO 排出量[kg]、CU:CO 排出係数[kg/kWh(電気)、kg/m(ガス)]、COP:ヒートポンプの成績係数(Coefficient of Performance)、E:一次エネルギー[J/kg]、G:流量[kg/s]、h:エンタルピ[J/kg]、hour:機器稼動時間[時間]、P:料金[円]、PU:エネルギー単価[円/kWh(電気)、円/m(ガス)]、Q:発熱量[J/m]、T:温度[℃]、W:エネルギー(電力・熱)[W]、η:効率、とする。
【0042】
添え字は以下である。Boiler:ボイラ効率(ドレン損失、配管損失を含む)、Demand:需要、Design:設計時(設置時)、E:電気、E-Heater:電気ヒータ、Gas:ガス、Gen:発送電、Heating・in:放熱部入口の熱媒、Heating・out:放熱部出口の熱媒、HP:ヒートポンプ。
【0043】
図1に示すシステムS1において、その設置時に、ヒートポンプ20を用いて、加熱室16に必要量(目標量)の熱を供給可能であっても、ヒートポンプ20の放熱部23(熱交換器32)の性能低下等によって、設置時に比べて多くの投入熱量が必要な場合があり得る。
【0044】
設置時のCOPを式(1)に示す。
【0045】
【数1】
【0046】
実稼動時(熱交換器性能劣化時)のCOP、すなわちCOP’を式(2)に示す。
【0047】
【数2】
【0048】
このように、放熱部23(熱交換器32)の性能劣化時、放熱部23の出口での作動流体の温度(熱媒出口温度)が上昇することがある。これに伴い、式(3)に示すように、ヒートポンプ20のCOPが低下する。一例において、設置時の熱媒入口温度が130℃、熱媒出口温度が70℃、その温度差が60℃、COPが3であり、性能劣化時の熱媒入口温度が130℃、熱媒出口温度が90°、その温度差が40℃、COPが約2(概算値、比熱一定)である。
【0049】
【数3】
【0050】
こうした場合、ヒートポンプ20の出力も低下する。ヒートポンプ20の出力(空気温度、流量)を維持するには、出力される熱媒の流量を増量する。ただし、この場合、同じ出力を得るにはより多くの電気入力が必要になる。
【0051】
一般に、ヒートポンプのCOPは負荷によって異なる。図2は、ヒートポンプの負荷率とCOPの関係を示す。ケース1において、負荷率の変化に伴い、COPに極大値がある。ケース2において、負荷率が高い程、COPが高い。ケース3において、ケース2で放熱部熱交換器性能が低下している。なお、ヒートポンプのCOPは、低温熱源温度等の条件に応じても変化する。
【0052】
このように、実稼動時には、ヒートポンプの特性が状況によって異なるため、そのことを考慮してシステムS1を運用することが省エネルギー等に役立つと考えられる。
【0053】
システムS1において、必要とされる熱需要に対して、ヒートポンプ性能、電気ヒータ性能、ボイラ効率を基に、経済性評価、省エネ評価、CO2の排出量評価を行い、その結果から、各熱供給機器(ヒートポンプ20、ボイラ13、電気ヒータ14)の優先順位を決定することができる。所定の計測値から計算される実COPを負荷率等によって補正し出力を決定することができる。
【0054】
図3は、システムS1の動作の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、まず、熱需要に関する情報(温度及び流量)などの入力が行われる(ステップ301)。
【0055】
次に、入力された情報に基づき、ヒートポンプ20のCOP(概略値)を決定する(ステップ302)。また、ボイラ13の効率、電気ヒータ14の効率を決定する(ステップ303)。
【0056】
次に、これらの決定値に基づき、ヒートポンプ20、ボイラ13、及び電気ヒータ14の各出力目標値を仮決定する(ステップ304)。
【0057】
次に、得られたデータからシステムS1の省エネルギー性、経済性、環境性の評価を行う(ステップ305)。評価項目、及び評価項目における重み付けは任意に設定可能である。評価結果に基づき、必要に応じて各出力目標値を変更し、上記の評価が最良になるようにする。
【0058】
(省エネ評価)
省エネ評価に関し、一次エネルギーの算出例を式(5)〜式(7)に示す。ΔWDemandは、バックアップ分を示す。COP’は通常0.8〜3程度、ηGenは0.4程度、ηE−Heaterは0.9〜1程度、ηBoilerは0.5〜0.9程度と考えられる。
【0059】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【0060】
(経済性評価)
経済性評価の算出例を式(8)〜式(10)に示す。
【0061】
【数8】
【数9】
【数10】
【0062】
(CO2排出量の評価)
CO2排出量の評価の算出例を式(11)〜式(13)に示す。
【0063】
【数11】
【数12】
【数13】
【0064】
次に、必要とする空気温度、流量が得られるようにシステムS1を実稼動する(ステップ306)。
【0065】
実稼動時において、センサ201,203を用いて、ヒートポンプ20の放熱部23の入口部での作動流体の温度(熱媒入口温度:THeating・in)、及び放熱部23の出口部での作動流体の温度(熱媒出口温度:THeating・out)を計測する(ステップ307)。
【0066】
また、この計測結果から、ヒートポンプ20の放熱部23の入口部でのエンタルピ(入口エンタルピ:hHeating・in)、及び放熱部23の出口部でのエンタルピ(出口エンタルピ:hHeating・out)を算出し、実COPを決定する(ステップ308)。
【0067】
次に、実COPの負荷率等による補正を行う (ステップS309)。実COPを性能曲線に基づいて補正する。
【0068】
次に、補正結果に基づき、ヒートポンプ20、ボイラ13、及び電気ヒータ14の各出力目標値(出力比)を再度決定する(ステップ310)。
【0069】
次に、得られたデータからシステムS1の省エネ、経済性、環境性の評価を再度行う(ステップ311)。評価結果に基づき、必要に応じて出力目標値(出力比)の最適値を決定する。
【0070】
上記一連のフローは、例えば、熱需要、低温熱源条件、及び/又は空気温度が変化したときに実施することができる。実稼動の状態(ステップ306)で、所定のサンプリング間隔で、熱媒入口温度及び熱媒出口温度を計測する(ステップ307)ことにより、低温熱源条件の変動、空気温度の変動、ヒートポンプ20の経年劣化などの条件変化を捉えることができ、その計測結果に基づいて出力比を補正することができる。なお、熱需要が変化した場合には、ステップ301からの一連の処理を行うのが好ましい。熱媒入口温度について、設計値などの想定値を使用し、センサ201による熱媒入口温度の計測を省くことも可能である。また、センサ205による出口空気温度の他、低温熱源の温度、及び加熱室16の入口・出口温度など他の計測結果を用いることもできる。システムS1は、最適条件に基づき、高いエネルギー効率で安定的な熱供給を実施可能である。
【0071】
ここで、ボイラ効率が80%の場合について、ヒートポンプのCOPが2以上であれば、ヒートポンプの使用が有利となる。すなわち、ヒートポンプの一次エネルギー効率=ボイラの一次エネルギー効率、COP・発送電効率=80%、COP=80%/40%=2。ヒートポンプの性能低下が極端に進み、COPが1以下になった場合には、電気ヒータのほうが省エネになる可能性がある。
【0072】
図4は、ヒートポンプ20設置時における出力比の一例を示す図である。図5は、ヒートポンプ20の性能低下時における出力比の一例を示す図である。ヒートポンプ20の性能低下時の熱供給内訳では、ヒートポンプ20の稼動領域が減ると考えられる。また、ヒートポンプ20やボイラ13は負荷率が低い領域では運転ができない場合も考えられ、その場合は電気ヒータが稼動される。一例において、熱需要がヒートポンプ20の定格出力を超えた領域では、ヒートポンプ20とボイラ13が併用される。その際もヒートポンプ20とボイラ13の出力比を最適化することによりエネルギー利用効率の向上が図られる。
【0073】
比較例において、ヒートポンプから供給される熱媒流量が一定であり、ヒートポンプの性能低下が生じた場合は不足分をボイラがバックアップする。この比較例に対して、本実施形態におけるシステムS1によれば、例えば、ヒートポンプ:40%×3(COP)=120%、ボイラ効率:80%とすると、一次エネルギーが約1/3削減され、CO2が約1/2削減となる(電気:0.332kg−CO2/kWh、ボイラ:1×3600/1000/40.6[MJ/m]×2.08[kg−CO2/m]×3/0.8=0.692kg)。
【0074】
電気ヒータ14は、ヒートポンプ20やボイラ13の立ち上げ時に好ましく使用可能である。また、電気ヒータ14は、例えば微調整用に、任意のタイミングで好ましく使用可能である。
【0075】
ヒートポンプ20の熱出力は稼動条件に影響されるものの、本システムS1の構成により、安定して熱需要を満たすことができる。ヒートポンプ20、ボイラ13、及び電気ヒータ14の出力比を最適化することによって一次エネルギーの削減等に貢献できる。つまり、本実施形態によれば、稼動条件が不安定であったり、性能劣化が生じる場合であっても、安定して熱需要に対応できる。また、熱源機器の出力比の最適化が図られ、その結果、一次エネルギーの削減に寄与できる。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることはない。上記説明において使用した数値は一例であって、本発明はこれに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0077】
S1:熱供給システム、12:ヒートポンプ装置、13:ボイラ、14:電気ヒータ、16:加熱室、17:排熱回収装置、20:ヒートポンプ、23:放熱部、32,34,36:熱交換器、70:制御装置、90:外部装置、140:空気供給路、201,203,205:センサ(計測装置)。
図1
図2
図3
図4
図5