特許第5672801号(P5672801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5672801
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】水中用遮音装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   G10K11/16 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-152099(P2010-152099)
(22)【出願日】2010年7月2日
(65)【公開番号】特開2012-14061(P2012-14061A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2013年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】高垣 直樹
(72)【発明者】
【氏名】里和 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】四ツ倉 隆太
【審査官】 菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−260686(JP,A)
【文献】 特開平08−211143(JP,A)
【文献】 特開平10−221431(JP,A)
【文献】 特表2008−545900(JP,A)
【文献】 特開2002−221969(JP,A)
【文献】 特開平01−235710(JP,A)
【文献】 特開平08−239089(JP,A)
【文献】 特開平01−233195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
G01S 15/00−15/96
B63B 1/00−69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性材料からなり内部に空気が充填されることで膨張する複数の空気袋と、
前記複数の空気袋を、それら空気袋が膨張することで隣り合う空気袋の周面同士が隙間なく密着するように平面上にあるいは曲面上に沿って並べて支持する支持部材と、
前記各空気袋に連通する空気通路と、
前記空気通路を介して前記各空気袋に空気を充填すると共に、前記各空気袋に充填された空気の圧力である内圧を調整する空気圧調整手段とを備え、
前記各空気袋は、上端が上方に凸状を呈するドーム状の壁部で閉塞され、下端が前記支持部材に支持され、前記周面を形成する円筒状を呈する袋本体を含んで構成され、
前記空気圧調整手段による前記内圧の調整は、前記空気袋に加わる水圧を外圧とし、前記空気袋内の空気圧を内圧としたとき、前記外圧と前記内圧と差圧が目標差圧範囲内となるようになされ、
前記目標差圧範囲は、前記空気袋が膨張することで隣り合う空気袋の前記周面同士が隙間なく密着した状態を維持するに足る前記差圧の範囲である、
ことを特徴とする水中用遮音装置。
【請求項2】
前記空気圧調整手段は、
前記空気袋に加わる水圧を外圧として検出する外圧センサと、
前記空気袋内の空気圧を内圧として検出する内圧センサと、
前記空気通路に圧縮した空気を供給するポンプ装置と、
前記外圧と前記内圧との差圧を算出すると共に、前記差圧に基づいて前記ポンプ装置の動作を制御する制御部とを含んで構成され、
前記制御部による前記ポンプ装置の動作の制御は、前記差圧が前記目標差圧範囲内となるようになされ
ことを特徴とする請求項1記載の水中用遮音装置。
【請求項3】
前記空気圧調整手段は、
前記空気袋に加わる水圧を外圧として検出する外圧センサと、
前記空気袋内の空気圧を内圧として検出する内圧センサと、
前記空気通路に圧縮した空気を供給するポンプ装置と、
前記ポンプ装置と前記空気通路との間に設けられ、前記ポンプ装置と前記空気通路との間を開閉する流入用電磁弁と、
前記空気通路と水中以外の外部空間との間に設けられ、前記空気通路と外部空間との間を開閉する流出用電磁弁と、
前記外圧と前記内圧との差圧を算出すると共に、前記差圧に基づいて前記ポンプ装置の動作と前記流入用電磁弁と前記流出用電磁弁とを制御する制御部とを含んで構成され、
前記制御部による前記ポンプ装置の動作の制御は、前記差圧が前記目標差圧範囲内となるようになされ
ことを特徴とする請求項1記載の水中用遮音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中用遮音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中を伝播する音波を遮音する水中用遮音装置がある。
水中遮音装置は、例えば、船体に設けられたソナーの後方にバッフルとして設置され、水中において後方からソナーに向かって伝播する不要な音波を遮音するといった目的で使用されている。
この種の水中用遮音装置として、粘弾性材で覆った中空球を集積し、中空球の間に空気を封入し、その周囲をモールドゴムで封止したものが提案されている(特許文献1参照)。
また、ゴム層の内部に複数の空洞を配設し、各空洞に空気通路を介して柔軟性容器を接続し、柔軟性容器に加わる外圧と等しい空気圧を各空洞に供給するものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−101353号公報
【特許文献2】特公平5−13519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者の水中用遮音装置では、外圧が高くなっていくと、モールドゴムが圧縮変形しやがて中空球同士が粘弾性材を介して剛接合されると、遮音効果が低下する不利がある。
また、後者の水中遮音装置では、ゴム層の内部に複数の空洞を配設することから、水中遮音装置の全体に占める空洞全体の体積の比率を高くするには限度があるため、遮音効果を確保しつつ水中遮音装置の小型化を図る上で十分とはいえない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外圧の大小に拘わらず遮音性を確保でき、小型化を図る上で有利な水中用遮音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、粘弾性材料からなり内部に空気が充填されることで膨張する複数の空気袋と、前記複数の空気袋を、それら空気袋が膨張することで隣り合う空気袋の周面同士が隙間なく密着するように平面上にあるいは曲面上に沿って並べて支持する支持部材と、前記各空気袋に連通する空気通路と、前記空気通路を介して前記各空気袋に空気を充填すると共に、前記各空気袋に充填された空気の圧力である内圧を調整する空気圧調整手段とを備え、前記各空気袋は、上端が上方に凸状を呈するドーム状の壁部で閉塞され、下端が前記支持部材に支持され、前記周面を形成する円筒状を呈する袋本体を含んで構成され、前記空気圧調整手段による前記内圧の調整は、前記空気袋に加わる水圧を外圧とし、前記空気袋内の空気圧を内圧としたとき、前記外圧と前記内圧と差圧が目標差圧範囲内となるようになされ、前記目標差圧範囲は、前記空気袋が膨張することで隣り合う空気袋の前記周面同士が隙間なく密着した状態を維持するに足る前記差圧の範囲であることを特徴とする水中用遮音装置である。
【発明の効果】
【0006】
外圧の増減に応じて内圧を調整して空気袋の周面同士が隙間なく密着する状態を維持することができるため、外圧の大小に拘わらず遮音性を確保する上で有利となる。
また、複数の空気袋を支持部材で支持する構成としたので、各空気袋によって形成される空気層の厚さを確保することで遮音性を確保しつつ小型化を図る上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】水中用遮音装置10の構成を示す斜視図である。
図2】空気袋12および支持部材14の断面図である。
図3】支持部材14の斜視図である。
図4】水中用遮音装置10の制御系の構成を示すブロック図である。
図5】水中用遮音装置10の動作フローチャートである。
図6】水中用遮音装置10における音響透過損失TLの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1図2に示すように、水中用遮音装置10は、遮音ユニット15と、空気通路16と、空気圧調整手段18とを含んで構成され、水中構造物、例えば、船体に搭載されている。
【0009】
遮音ユニット15は、複数の空気袋12と、支持部材14とで構成されている。
空気袋12は、粘弾性材料からなり内部に空気が充填されることで膨張するものである。
粘弾性材料として、可撓性を有する軟質のゴム、可撓性を有する合成樹脂など従来公知のさまざまな材料が使用可能である。
本実施の形態では、空気袋12は、袋本体12Aと、開口12Bと、凸部12Cとを備えている。
袋本体12Aは、上端が上方に凸状を呈するドーム状の壁部で閉塞された円筒状を呈し袋本体12Aは、外径よりも大きな寸法の高さHを有している。
開口12Bは、袋本体12Aの下端に形成されている。
凸部12Cは、開口12Bの内周から半径方向内側に環状に膨出形成されている。
【0010】
支持部材14は、複数の空気袋12を、それら空気袋12が膨張することで隣り合う空気袋12の周面(袋本体12Aの周面)同士が隙間なく密着するように平面上にあるいは曲面上に沿って並べて支持するものである。
本実施の形態では、図2図3に示すように、支持部材14は、ベース14Aと、取り付け部14Bと、溝部14Cと、凹状部14Dと、ベース側空気通路14Eとを含んで構成されている。
【0011】
ベース14Aは、上面が平面をなす矩形板状を呈し、複数の空気袋12を保持するに足る剛性を有する部材で形成されている。
このような部材として、空気袋12よりも硬いゴム材料、あるいは、合成樹脂材料、あるいは、金属板が採用可能である。
取り付け部14Bはベース14Aの上面に格子状に並べて複数設けられ、各取り付け部14Bは、ベース14Aの上面から円筒状に突出して形成されている。
溝部14Cは、取り付け部14Bのベース14A寄りの箇所に環状に設けられている。
凹状部14Dは、取り付け部14Bの内側で上方に向かって凹状に形成されている。
ベース側空気通路14Eは、隣接する取り付け部14Bの凹状部14D同士を連通するものである。
また、ベース側空気通路14Eの端部は、ベース14Aの外部に設けられた外部側空気通路20を介して空気圧調整手段18に連通している。
【0012】
支持部材14による空気袋12の支持は、空気袋12の開口12Bに取り付け部14Bが挿入され、凸部12Cが溝部14Cに嵌合することでなされている。
また、図2において、符号13は、リング状に巻回されたコイルスプリングからなるクランプである。このクランプ13が凸部12Cの外周に装着されることで凸部12Cを溝部14Cに押し付け、これにより凸部12Cと溝部14Cとを気密に密着させ、かつ、凸部12Cの溝部14Cからの脱落の防止が図られている。
支持部材14によって各空気袋12が支持されることにより、各空気袋12の内部は、凹状部14Dとベース側空気通路14Eとを介して互いに連通し、したがって、各空気袋12に充填された空気の圧力である内圧Piは各空気袋12において同一となる。
【0013】
空気通路16は、各空気袋12に連通するものであり、本実施の形態では、ベース側空気通路14Eと外部側空気通路20とで構成されている。
【0014】
空気圧調整手段18は、空気通路16を介して各空気袋12に空気を充填すると共に、各空気袋12の内圧Piを調整するものである。
図4に示すように、空気圧調整手段18は、外圧センサ22と、内圧センサ24と、ポンプ駆動回路26と、ポンプ装置28と、流入用電磁弁30と、流出用電磁弁32と、制御部34とを含んで構成されている。
なお、空気圧調整手段18のうち、外圧センサ22および内圧センサ24は、遮音ユニット15と共に船体外側の水中に配置され、残りのポンプ駆動回路26、ポンプ装置28、流入用電磁弁30、流出用電磁弁32、制御部34は、船体内側の空間に搭載されている。
【0015】
外圧センサ22は、水中において空気袋12に加わる水圧である外圧Poを検出し、検出信号を制御部34に供給するものである。外圧センサ22は、例えば、支持部材14が水中に露出する適宜箇所に取着されている。
内圧センサ24は、空気袋12の内圧Piを検出し、検出信号を制御部34に供給するものである。内圧センサ24は、例えば、支持部材14の凹状部14Dに取着されている。
【0016】
ポンプ駆動回路26は、制御部34の制御に基づいてポンプ装置28に駆動信号を供給することでポンプ装置28を駆動するものである。
ポンプ装置28は、ポンプ駆動回路26から供給される駆動信号により駆動し、空気を圧縮して供給用空気通路36を介して流入用電磁弁30に供給するものである。
流入用電磁弁30は、供給用空気通路36に連通する吸気口30Aと、外部側空気通路20に連通する排気口30Bとを備え、制御部34からの制御信号に基づいて開放、閉塞するものである。
言い換えると、流入用電磁弁30は、ポンプ装置28と空気通路16との間に設けられ、ポンプ装置28と空気通路16との間を開閉するものである。
流出用電磁弁32は、供給用空気通路36に連通する吸気口32Aと、船体内側の空気が満たされた空間に開放された排気口32Bとを備え、制御部34からの制御信号に基づいて開放、閉塞するものである。
言い換えると、流出用電磁弁32は、空気通路16と水中以外の外部空間との間に設けられ、空気通路16と前記の外部空間との間を開閉するものである。
【0017】
制御部34は、例えば、CPU、制御プログラムなどを格納するROM、ワーキングエリアを提供するRAM、周辺回路とのインタフェースをとるインタフェース部などがバスによって接続されたマイクロコンピュータによって構成されたものであり、前記CPUが制御プログラムを実行することにより機能するものである。ここで、前記の周辺回路とは、外圧センサ22、内圧センサ24、ポンプ駆動回路26、流入用電磁弁30、流出用電磁弁32に相当する。
【0018】
本実施の形態では、制御部34は、外圧センサ22から得られる外圧Poと内圧センサ24から得られる内圧Piとの差圧ΔP=Po−Piの値を算出し、この差圧ΔPが予め定められた目標圧力範囲となるように、ポンプ装置28と、流入用電磁弁30と、流出用電磁弁32とを制御する。
目標圧力範囲とは、空気袋12が膨張することで隣り合う空気袋12の周面同士が隙間なく密着した状態を維持するに足る差圧ΔPの範囲である。
差圧ΔPが目標圧力範囲内であると、空気袋12の周面同士が隙間なく密着した状態を維持するため、水中において、各空気袋12内の空気によって平面に沿って延在する空気層が形成されることなり、この空気層によって水中を伝播する音波が効果的に遮音され、遮音性が確保される。
差圧ΔPが目標圧力範囲を下回ると、空気袋12の膨張が不足して隣り合う空気袋12の周面同士の間に隙間が形成されるため、遮音性を確保する上で不利となる。
差圧ΔPが目標圧力範囲を上回ると、空気袋12の膨張が過剰となり空気袋12に無理な力が作用することで空気袋12の劣化を招き耐久性を確保する上で不利となる。
【0019】
次に、水中用遮音装置10の動作について図5のフローチャートを参照して説明する。
予め、遮音ユニット15が船体外側の水中に設置され、外圧センサ22および内圧センサ24を除く空気圧調整手段18の部分が船体内側の空間に搭載されているものとする。
この場合、遮音ユニット15は、各空気袋12に充填された空気によって形成される空気層が、遮音すべき音波が到来する方向と直交あるいは交差する方向に延在するように配置される。
本実施の形態では、支持部材14(ベース14A)が矩形板状を呈しているため、ベース14Aが、遮音すべき音波が到来する方向と直交あるいは交差する方向に延在するように遮音ユニット15を配置すればよい。
なお、空気袋12を遮音すべき音波が到来する方向に向けても、その反対方向に向けても遮音性は変わらないため、空気袋12をどちらに向けるかは任意である。
【0020】
まず、制御部34は、外圧センサ22からの検出信号に基づいて外圧Poを検出すると共に、内圧センサ24からの検出信号に基づいて内圧Piを検出する(ステップS10)。
制御部34は、差圧ΔP=Po−Piが前記の目標圧力範囲内であるか否かを判定する(ステップS12)。
差圧ΔPが目標圧力範囲内であれば(ステップS12で肯定)、制御部34は、流入用電磁弁30および流出用電磁弁32の双方を閉塞し、かつ、ポンプ装置28の動作を停止し(ステップS14)、ステップS10に戻る。
【0021】
差圧ΔPが目標圧力範囲内で無ければ(ステップS12で否定)、制御部34は、差圧ΔPが目標圧力範囲を下回ったか否かを判定する(ステップS16)。
差圧ΔPが目標圧力範囲を下回れば(ステップS16で肯定)、制御部34は、流入用電磁弁30を開放すると共に、流出用電磁弁32を閉塞し、かつ、ポンプ装置28を動作させる(ステップS18)。これにより、ポンプ装置28で圧縮された空気が供給用空気通路36、流入用電磁弁30、空気通路16を介して各空気袋12に供給され、各空気袋12が内圧に応じて膨張していく。そして、ステップS10、S12、S16、S18をステップS12が肯定となるまで繰り返す。
この結果、図2に示すように、隣り合う空気袋12の周面同士が隙間なく密着することで遮音性を発揮した状態となり、その状態が維持される。
【0022】
差圧ΔPが目標圧力範囲を下回らなければ(ステップS16で否定)、すなわち、差圧ΔPが目標圧力範囲を上回ったならば、制御部34は、流入用電磁弁30を閉塞すると共に、流出用電磁弁32を開放し、かつ、ポンプ装置28を停止させる(ステップS20)。これにより、各空気袋12内の空気が空気通路16、流出用電磁弁32を介して船体内の空間に流出され、各空気袋12の内圧が低下していく。そして、ステップS10、S12、S16,S20をステップS12が肯定となるまで繰り返す。
この結果、図2に示すように、隣り合う空気袋12の周面同士が隙間なく密着することで遮音性を発揮した状態となり、その状態が維持される。
【0023】
隣り合う空気袋12の周面同士が隙間なく密着した状態になると、水中を伝播する音波は各空気袋12に充填された空気によって形成される空気層によって反射され、また、水中を伝播する音波は空気袋12を構成する粘弾性材料の作用によって減衰される。これにより、水中を伝播する音波は遮音ユニット15によって遮音される。
【0024】
以上説明したように本実施の形態の水中遮音装置10によれば、複数の空気袋12に空気を充填してそれら空気袋12を膨張させることで隣り合う空気袋12の周面同士が隙間なく密着するように平面上にあるいは曲面上に沿って並べて支持し、各空気袋12の内圧Piを調整するようにした。
したがって、外圧Poの増減に応じて内圧Piを調整して空気袋12の周面同士が隙間なく密着する状態を維持することができるため、外圧Poの大小に拘わらず遮音性を確保する上で有利となる。
また、支持部材を所望の2次元形状あるいは3次元形状に形成しておき、隣り合う空気袋12の周面同士を隙間なく密着させることによって、各空気袋12によって形成される空気層を支持部材の形状に沿わせて2次元的にあるいは3次元的に簡単、確実に形成できるので、音波の到来方向に応じて遮音性を的確に確保する上で有利となる。
また、複数の空気袋12を支持部材14で支持する構成としたので、各空気袋12および支持部材14の全体の体積に占める各空気袋12内の空気の全体の体積の比率を高くすることができる。そのため、各空気袋12によって形成される空気層の厚さを確保することで遮音性を確保しつつ水中遮音装置10の小型化を図る上で有利となる。
さらに、複数の空気袋12を支持部材14で支持する構成としたので、複雑な加工が必要なく、部品点数が少なく、組み立て作業が容易であることから、製造コストの低減を図る上でも有利となる。
【0025】
なお、遮音ユニット15を深度が極めて大きな水中に設置する場合は、外圧Poが極めて高くなることから、ポンプ装置28の能力によっては圧縮した空気を空気袋12内に送り込むことが困難となる場合がある。
その場合には、遮音ユニット15を水中に入れる前に、予め、空気袋12内に圧縮空気を送り込んで空気袋12の内圧Poを予測される外圧Poに対応した大きさに調整しておき、その状態で遮音ユニット15を水中に設置するようにすればよい。
この場合は、ポンプ装置28は、差圧ΔP分を調整するに足る圧縮空気を送り込む能力があればよく、ポンプ装置28のコストダウンを図る上で有利となる。
【0026】
また、遮音ユニット15を比較的深度が小さい水中に設置する場合も上記と同様に、遮音ユニット15を水中に入れる前に、空気袋12内に圧縮空気を送り込んで空気袋12の内圧Poを予測される外圧Poに対応した大きさに調整しておくとよい。
この場合は、外圧Poが比較的小さいことから、制御部34による差圧ΔPの調整動作を行わなくても、差圧ΔPが目標差圧範囲内に収まる可能性が高く、したがって、消費電力の抑制を図る上で有利となる。
なお、本実施の形態では、空気圧調整手段18が制御部34により各空気袋12の内圧Piを自動的に調整する場合について説明したが、以下のように各空気袋12の内圧Piを手動で調整してもよい。
この場合、制御部34に操作指令を与える手動操作可能なスイッチなどを含む操作部を設け、操作部の操作に基づいて制御部34がポンプ駆動回路26、ポンプ装置28、流入用電磁弁30、流出用電磁弁32の動作を制御することにより各空気袋12の内圧Piを調整すればよい。
【0027】
次に、水中用遮音装置10における音響透過損失の実験結果について説明する。
図6は実験結果を示すものであり、横軸は水中を伝播する音の周波数f(kHz)を示し、縦軸は音響透過損失TL(dB)を示す。
なお、音響透過損失TLは、部材の遮音性能を示す数値であり、部材に入射した音の大きさと、部材を透過した音の大きさとの比率で示され、数値が大きいほど遮音性能が良好であることを示すものである。
袋本体12Aの高さHを20mm、40mm、80mmとして実験を行った。
図6から明らかなように、10kHz乃至20kHzの範囲では、高さHの大きさによる音響透過損失TLの違いは顕著ではないが、20kHz乃至100kHzの範囲では、高さHが大きいほど音響透過損失TLを大きく確保でき、遮音性に優れていることがわかった。
これは、袋本体12Aの高さHに比例して複数の空気袋12によって形成される空気層の厚さが大きくなるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0028】
10……水中用遮音装置、12……空気袋、14……支持部材、16……空気通路、18……空気圧調整手段、22……外圧センサ、24……内圧センサ、28……ポンプ装置、34……制御部、Pi……内圧、Po……外圧、ΔP……差圧。
図1
図2
図3
図4
図5
図6