(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記バネ室の最小径をD1とし、前記バネ室の最大径をD2とするとき、前記孔は、前記クラッチドラムの径方向において前記バネ室の最小径D1と最大径D2との間に設けられていることを特徴とする車両用駆動システム。
請求項1または2において、前記クラッチドラムは、前記入力軸の外周側に固定された固定筒部と、前記固定筒部から径外方向に延設された第1延設部と、前記第1延設部から前記入力軸の回転軸線に沿う方向であって前記クラッチ装置に対して反対側に延在するように形成された内筒部と、前記内筒部から径外方向に沿って延設された第2延設部と、前記第2延設部から前記入力軸の前記回転軸線に沿う方向であって前記クラッチ装置側に延在するように形成された外筒部とを備えており、
前記内筒部、前記第2延設部および前記外筒部は、前記付勢部材および前記ピストンを収容する前記ドラム室を形成していることを特徴とする車両用駆動システム。
請求項1〜3のうちの一項において、前記クラッチ装置と前記変速機とをつなぐ駆動力伝達経路に、発電機を兼用できる走行用モータが設けられており、前記走行用モータは、ステータと、前記ステータに対して回転すると共に前記変速機の前記入力軸に繋がるロータとを有しており、前記ステータおよび前記ロータは、前記クラッチ装置の外周側に同軸的に配置されていることを特徴とする車両用駆動システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した車両用駆動システムによれば、変速機の入力軸が回転している場合、クラッチ装置を接続または遮断させるときにあたり、回転に起因する遠心油圧の影響があり、クラッチ装置を接続または遮断させるときにおける制御応答性を高めるには限界があった。殊に、回転に起因する遠心油圧は入力軸の回転速度に影響されるため、制御応答性が車両の速度に影響されるおそれがあり、クラッチ装置の接続または遮断における制御応答性を高めるには限界があった。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、クラッチ装置の接続または遮断にあたり、回転に起因する遠心力の影響を軽減させ、クラッチ装置の制御応答性を高めることができる車両用駆動システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る車両用駆動システムは、出力軸をもつエンジンと、
エンジンの出力軸の駆動力が伝達される入力軸をもち且つ車輪に繋がる変速機と、
エンジンの出力軸と変速機の入力軸との間に設けられ、エンジンの出力軸側に設けられた第1クラッチ部と、変速機の入力軸側に設けられた第2クラッチ部とを有し、第1クラッチ部および第2クラッチ部を係合させてエンジンの駆動力を変速機に伝達させる接続状態と、第1クラッチ部および第2クラッチ部の係合を解除させて駆動力の伝達を遮断させる遮断状態とに切換可能なクラッチ装置と、
油が給排されることによりクラッチ装置の接続状態および遮断状態を切り換えるクラッチ作動機構とを具備しており、
クラッチ作動機構は、入力軸または出力軸に保持されドラム室を形成する筒形状をなすクラッチドラムと、クラッチドラムのドラム室を、第1クラッチ部および第2クラッチ部を接続状態にさせる接続用駆動力を発生させるバネ室と、第1クラッチ部および第2クラッチ部を遮断状態にさせる遮断用駆動力を発生させる加圧室とに仕切るピストンと、バネ室への油の供給を許容する第1位置と加圧室への油の供給を許容する第2位置との間を切換可能な制御弁と、バネ室に配置され第1クラッチ部および第2クラッチ部を接続させる方向に付勢力を発生させる付勢部材と、バネ室とバネ室の外部とを連通させるようにクラッチドラムに設けられ
、バネ室の油
の一部を残存させつつ他をバネ室の外部に排出させる孔とを具備
し、
クラッチ装置の接続状態において、加圧室に残存する油がクラッチドラムの回転に伴う遠心力に基づき第一の遠心油圧力を発生させた場合に、バネ室に残存する油がクラッチドラムの回転に伴う遠心力に基づき第一の遠心油圧力に対向する第二の遠心油圧力を発生させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る車両用駆動システムの特徴は、請求項1において、バネ室の最小径をD1とし、バネ室の最大径をD2とするとき、孔は、クラッチドラムの径方向においてバネ室の最小径D1と最大径D2との間に設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る車両用駆動システムの特徴は、請求項1または2において、クラッチドラムは、入力軸の外周側に固定された固定筒部と、固定筒部から径外方向に延設された第1延設部と、第1延設部から入力軸の回転軸線に沿
う方向であってクラッチ装置に対して反対側に延在するように形成された内筒部と、内筒部から径外方向に沿って延設された第2延設部と、第2延設部から入力軸の回転軸線に沿
う方向であってクラッチ装置側に延在するように形成された外筒部とを備えており、内筒部、第2延設部および外筒部は、付勢部材およびピストンを収容するドラム室を形成していることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る車両用駆動システムの特徴は、請求項1〜3のうちの一項において、クラッチ装置と変速機とをつなぐ駆動力伝達経路に、発電機を兼用できる走行用モータが設けられており、走行用モータは、ステータと、ステータに対して回転すると共に変速機の入力軸に繋がるロータとを有しており、ステータおよびロータは、クラッチ装置の外周側に同軸的に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る車両用駆動システムの特徴は、請求項1〜4のうちの一項において、
孔は、バネ室において付勢部材
が位置するクラッチドラムの径方向範囲においてクラッチドラムに形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る車両用駆動システムは、駆動源に回転可能に連結される入力部材と、入力部材の同一回転軸線上に配置され変速機に繋がる軸状部材と、入力軸及び軸状部材のうちの一方に回転軸線に沿って移動可能に係合された第1クラッチ部と、第1クラッチ部と交互に接離可能に配置され、入力軸及び軸状部材のうちの他方に回転軸線に沿って移動可能に係合された第2クラッチ部と、入力部材または軸状部材に支持され、回転軸線から所定距離離れた部分に孔が形成され、孔を介して外部と連通するクラッチドラムと、クラッチドラムに回転軸線に沿って摺動可能に嵌合され、第1クラッチ部および第2クラッチ部を押圧する押圧部を備えたピストンと、ピストンとクラッチドラムとの間に配置され、ピストンを第1クラッチ部および第2クラッチ部に向かって付勢し押圧部によって
第1クラッチ部および第2クラッチ部を圧接させる付勢部材と、ピストンの一端面とクラッチドラムとの間に区画形成される加圧室であって、加圧室内に供給される油の圧力によって、ピストンは、付勢部材の付勢力に抗して第1クラッチ部および第2クラッチ部から離間することと、ピストンの他端面とクラッチドラムとの間に区画形成されるバネ室であって、クラッチドラム
の孔を介して、バネ室に供給される油が
一部をバネ室に残存されつつ他を外部に排出されることと
、
第1クラッチおよび第2クラッチが圧接される状態において、加圧室に残存する油がクラッチドラムの回転に伴う遠心力に基づき第一の遠心油圧力を発生させた場合に、バネ室に残存する油がクラッチドラムの回転に伴う遠心力に基づき第一の遠心油圧力に対向する第二の遠心油圧力を発生させること、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る車両用駆動システムによれば、クラッチ作動機構は、入力軸または出力軸に保持されドラム室を形成する筒形状をなすクラッチドラムと、クラッチドラムのドラム室を、第1クラッチ部および第2クラッチ部を接続状態にさせる接続用駆動力を発生させるバネ室と、第1クラッチ部および第2クラッチ部を遮断状態にさせる遮断用駆動力を発生させる加圧室とに仕切るピストンと、バネ室への油の供給を許容する第1位置と加圧室への油の供給を許容する第2位置との間を切換可能な制御弁と、バネ室に配置され第1クラッチ部および第2クラッチ部を接続させる方向に付勢力を発生させる付勢部材と、加圧室に作用する遠心力に対向する力をバネ室に発生させつつ、バネ室の油をバネ室の外部に排出させる孔とを備える。
【0013】
請求項1に係る車両用駆動システムによれば、第1クラッチ部と第2クラッチ部とを接続させる方向に付勢力を発生させる付勢部材がバネ室に配置されている。このため、変速機の入力軸が回転している状態においてバネ室に油を供給させれば、バネ室の油圧力と付勢部材の機械的な付勢力との双方が、第1クラッチ部および第2クラッチ部を接続させるための接続用駆動力として寄与できる。このため、第1クラッチ部と第2クラッチ部とを接続させる応答時間をできるだけ速くできる。すなわち、クラッチ装置を接続させる時の応答性を高め得る。
【0014】
ところで、加圧室およびバネ室のうちの一方のみに油が残存するときには、入力軸の回転により発生する遠心力が、クラッチ装置の応答性および制御応答性に影響を与えるおそれがある。特に、遠心力は入力軸が高速回転しているほど増加するため、車両の高速走行時には、遠心力がクラッチ装置の応答性および制御応答性に与える影響が増加するおそれがある。そこで、請求項1に係る車両用駆動システムによれば、変速機の入力軸が回転している状態において、孔は、バネ室の油をバネ室の外に排出させつつも、バネ室に油を残存させる。従って、加圧室に作用する遠心力に対向する力を対向させることができる。ここで、双方の力は互いに逆方向に作用する。従って、双方の力の大きさが同じであれば、互いに相殺される。また、双方の力の大きさが相違したとしても、双方の力は向きが互いに逆に作用するため、遠心力の影響はかなり減殺される。従って、バネ室に配置された付勢部材の付勢力の影響が大きくなり、遠心力による影響をできるだけ抑制でき、従ってクラッチ装置の接続および遮断における制御応答性を高めることができる。高速回転になるほど遠心力は増加するが、双方の力は互いに逆方向に作用し、互いに相殺または減殺される。よって、高速回転であっても、クラッチ装置の応答性および制御応答性を確保できる。
【0015】
なお、遠心油圧の影響を抑えるためには、遠心油圧を形成する油を排出させるチェック弁を、遠心油圧が形成する室の壁に設けることも考えられる。しかしチェック弁の作動の安定性は必ずしも充分ではない。この点について請求項1に係る車両用駆動システムによれば、前述したように加圧室に作用する遠心力に対向する力が発生されるため、作動の安定性が必ずしも充分ではないチェック弁を廃止できる。更に請求項1に係る車両用駆動システムがハイブリッド車両に適用されている場合には、電力回生時にクラッチ装置の遮断性を高めれば、電力回生時に負荷となるエンジンをモータからできるだけ速く遮断でき、電力回生効率を高めることができる。
【0016】
請求項2に係る車両用駆動システムによれば、バネ室の最小径をD1とし、バネ室の最大径をD2とするとき、孔は、クラッチドラムの径方向においてバネ室の最小径D1と最大径D2との間に設けられている。このため、バネ室の油を孔から外に排出させつつも、バネ室に油を残存させることができる。よって、遠心油圧力をバネ室において確保させることができる。このため、加圧室における残油に起因する遠心力を、バネ室における遠心油圧力で相殺または減殺させることができる。
【0017】
請求項3に係る車両用駆動システムによれば、クラッチドラムは、入力軸の外周側に固定された固定筒部と、固定筒部から径外方向に延設された第1延設部と、第1延設部から入力軸の回転軸線に沿って形成された内筒部と、内筒部から径外方向に沿って延設された第2延設部と、第2延設部から入力軸の回転軸線に沿って形成された外筒部とを備えており、内筒部、第2延設部および外筒部は、付勢部材およびピストンを収容するドラム室を形成していることを特徴とする。クラッチドラムのドラム室にピストンの他に付勢部材も収容されているため、小型化に有利である。
【0018】
請求項4に係る車両用駆動システムによれば、請求項1〜3のうちの一項において、クラッチ装置と変速機とをつなぐ駆動力伝達経路に、発電機を兼用できる走行用モータが設けられており、走行用モータは、ステータと、ステータに対して回転すると共に変速機の入力軸に繋がるロータとを有しており、ステータおよびロータは、クラッチ装置の外周側に同軸的に配置されている。この場合、クラッチ装置と変速機とをつなぐ駆動力伝達経路に、発電機を兼用できる走行用モータが設けられている。このため、クラッチ装置が遮断状態に切り換えられ、エンジンの駆動力が変速機の入力軸に伝達されないときであっても、走行用モータの駆動力を変速機の入力軸に伝達させて入力軸を回転させることができる。この場合、エンジンの駆動を停止させた状態で、走行用モータの回転駆動力により車両を走行させることができる。
【0019】
請求項5に係る車両用駆動システムによれば、請求項1〜4のうちの一項において、バネ室において付勢部材は孔と対面している。付勢部材付近の油は孔からバネ室の外に排出されるため、バネ室の残存する油が付勢部材の動作に影響を与えることが抑えられる。このためクラッチ装置の制御応答性を向上させることができる。
【0020】
請求項6に係る車両用駆動システムによれば、加圧室は、ピストンの一端面とクラッチドラムとの間に区画形成される。加圧室内に供給される油の圧力によって、ピストンは、付勢部材の付勢力に抗して第1クラッチ部および第2クラッチ部から離間する。バネ室は、ピストンの他端面とクラッチドラムとの間に区画形成される。クラッチドラムの孔を介して、バネ室に供給される油が外部に排出される。変速機の入力軸が回転している状態において、孔は、バネ室の油をバネ室の外に排出させつつも、バネ室に油を残存させる。従って、加圧室に作用する遠心力に対向する力を対向させることができる。ここで、双方の力は互いに逆方向に作用する。従って、双方の力の大きさが同じであれば、互いに相殺される。また、双方の力の大きさが相違したとしても、双方の力は向きが互いに逆に作用するため、遠心力の影響はかなり減殺される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態1)
本発明の実施形態は、乗用車、大型車両等のハイブリッド車両に適用したものである。図面は実施形態の概念を示す。
図1は車両駆動装置の上半分の断面図を示し、
図2はクラッチ装置付近の断面図を示し、
図3および
図4は下半分の要部を拡大して示す。
図5は車両駆動システムを表すブロック図を示す。
図5に示すように、車両駆動システムは、第1駆動源として機能するエンジン1と、クラッチ装置2と、第2駆動源として機能する電動モータで形成された走行用モータ(以下、モータともいう)8と、変速機6と、制御装置7とを有する。制御装置7は、エンジン1と、モータ8と、変速機6と、制御弁70と、オイルポンプ78とを制御する。モータ8は、車両の減速時等に電力の回生を行う発電機としても機能できる。本実施形態によれば、回生効率を高める種々の構造が採用されている。オイルポンプ78は電動式であるため、エンジン1が駆動していなくても油(潤滑油)を供給するポンプ作用を発揮できる。
図5において、実線の矢印はオイルポンプ78に繋がる油圧通路を示し、破線は制御装置7に繋がる信号線を示す。
【0023】
図1に示すように、エンジン1は、エンジン1により回転軸線P1回りで回転される出力軸10と、出力軸10に取付具10wにより同軸的に連結されたリング状をなすフライホィール14とをもつ。フライホィール14の外周部に形成されているリングギア12は、図略のスタータモータの駆動軸と噛合する。スタータモータが駆動すると、フライホィール14が回転する。変速機6に設けられたトルクコンバータ61は、エンジン1の出力軸10の駆動力により回転される軸状部材としての入力軸60をもつ。入力軸60は変速機6の図略の変速ギヤ機構を介して走行車輪に繋がり、図略の走行車輪を回転させる。
【0024】
クラッチ装置2について説明を加える。クラッチ装置2は湿式多板クラッチを構成しており、入力部材20と、クラッチドラム22と、入力部材20に保持された第1クラッチ部として機能する摩擦プレート23と、クラッチドラム22に保持された第2クラッチ部として機能するセパレートプレート24とをもつ。摩擦プレート23およびセパレートプレート24は対面しつつ交互に配置されており、互いに圧着させて圧着状態である係合状態(接続状態)にでき、且つ、互いに離間して圧着解除である係合解除(遮断状態)にできる。
【0025】
摩擦プレート23、セパレートプレート24、入力部材20、クラッチドラム22のそれぞれは、回転軸線P1回りを1周するように同軸的に配置されている。入力部材20は、フライホィール14にダンパ13を介して連結されている。エンジン1が駆動すると、出力軸10、フライホィール14、ダンパ13、入力部材20、摩擦プレート23は、回転軸線P1回りで一体回転する。
【0026】
図1に示すように、入力部材20は、出力軸10と同軸的に配置された軸部201と、軸部201のうち変速機6側の軸端から径外方向に沿って延設され回転軸線P1を1周するリング状の延設部202と、摩擦プレート23を保持すると共に回転軸線P1に沿って形成されたリング状の保持部203とを有する。保持部203の外周部には、複数の摩擦プレート23が相対回転を規制されて回転軸線P1に沿って相対移動可能に嵌合されている。
【0027】
図1に示すように、クラッチドラム22は、変速機6の入力軸60の外周部にスプライン嵌合されて入力軸60と一体回転する筒状の固定筒部220と、固定筒部220のうちエンジン1側の端から径外方向に延設された第1延設部221と、第1延設部221の外端から回転軸線P1に沿って形成された内筒部222と、内筒部222のうち変速機6側の端から径外方向に沿って延設された第2延設部223と、第2延設部223の外端から回転軸線P1に沿ってクラッチ装置2に向けて延設された外筒部224とを有する。外筒部224の先端部には、複数のセパレートプレート24が相対回転を規制され回転軸線P1に沿って相対移動可能に嵌合されている。内筒部222および外筒部224は、ドラム室230を形成する。ここで、クラッチドラム22を構成する固定筒部220、内筒部222、外筒部224、ドラム室230は、回転軸線P1回りを1周するように形成されている。ピストン32はピストンストッパ229に当たるまで、ドラム室230に移動可能に設けられており、ドラム室230を加圧室34とバネ室38とに仕切る。バネ室38の内外を連通させる孔250がクラッチドラム22の第2延設部223においてクラッチ2と反対側に形成されている。孔250は流量絞りとして機能する。径方向において孔250の軸線と回転軸線P1との距離はL(
図2参照)として示される。
【0028】
クラッチ装置2は、エンジン1の駆動力を変速機6の入力軸60に伝達させる接続状態と、エンジン1の駆動力の伝達を遮断させる遮断状態とに切り換え可能とされている。接続状態では、隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24は互いに圧着されて係合し、エンジン1の駆動力を変速機6の入力軸60に伝達させることができる。遮断状態では、隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24の係合を解除させ、エンジン1から変速機6への駆動力の伝達を遮断させる。クラッチ装置2はノーマルクローズタイプであり、エンジン1の駆動力を変速機6に伝達させる通常の状態では、付勢部材33の付勢力によってピストン32が移動し、摩擦プレート23およびセパレートプレート24が圧着される接続状態に維持されている。このため通常の状態では、隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24を互いに圧着させる油圧力が特に必要とされず、省エネルギ化が図られる利点が得られる。更に、万一、油圧システムに不具合が発生するときであっても、クラッチ装置2を構成する摩擦プレート23およびセパレートプレート24が圧着して接続状態とされているため、エンジン1の駆動力を変速機6に伝達でき、車両を走行させることができる利点が得られる。
【0029】
クラッチ装置2を作動させるためのクラッチ作動機構3について更に説明を加える。
図3に示すように、クラッチ作動機構3は、クラッチドラム22の内筒部222の外周側の止め溝にCリング状の止め部材31xを介して固定された固定プレート31と、ドラム室230において回転軸線P1に沿って移動可能に嵌合されたピストン32と、ピストン32とクラッチドラム22の第2延設部223との間に配置された付勢部材として機能するコイル付勢部材で形成された付勢部材33と、固定プレート31のうちクラッチ装置2に対して反対側の表面310とピストン32のうちクラッチ装置2側の加圧面325との間に形成された加圧室34と、加圧室34に連通する油路35(
図3参照)とを有する。加圧室34、ピストン32、ドラム室230は、回転軸線P1のまわりにリング状に形成されている。複数の付勢部材33は、回転軸線P1まわりで周方向にほぼ均等な間隔を隔てて配置されている。固定プレート31はクラッチドラム22の一部をなす。
【0030】
図4に示すように、ピストン32は、互いに同軸的に形成された可動内筒部321および可動外筒部322と、両者を半径方向に沿って繋ぐ加圧部323とを有する。ピストン32が矢印F1方向(
図3参照,クラッチ装置2を接続状態にさせる閉鎖方向)に移動すると、ピストン32の可動外筒部322の押圧部32kはクラッチ装置2のセパレートプレート24を摩擦プレート23に向けて移動させて圧着させる。これに対して、ピストン32が矢印F2方向(
図3参照,クラッチ装置2の係合を解除させる開放方向)に移動すると、ピストン32の可動外筒部322はクラッチ装置2のセパレートプレート24から離間してセパレータプレート24と摩擦プレート23との圧着を開放する。
【0031】
図3に示すように、付勢部材33の一端はクラッチドラム22の第2延設部223に着座しており、他端はピストン32の背面に形成された付勢部材受け凹部36に着座し、付勢部材33の外れが抑制されている。
図3から理解できるように、付勢部材33は、ピストン32を固定プレート31に向けて矢印F1方向に沿って付勢している。このため加圧室34に油圧が供給されていないときには、ピストン32はクラッチ装置2に向けて矢印F1方向(クラッチ装置2を接続状態にさせる閉鎖方向)に移動する。これによりクラッチ装置2の摩擦プレート23およびセパレートプレート24が互いに圧着されクラッチ装置2は接続状態となる。なお本実施形態によれば、電力回生時には、エンジン1は負荷となるため、クラッチ装置2を接続状態から遮断状態に切り換え、エンジン1と変速機6との間の動力伝達を遮断させて、回生効率を高めることができる。
【0032】
図3に示すように、クラッチ作動機構3において油路35,39が形成されている。油路35は、加圧室34に連通すると共に加圧室34に対して油を供給および排出させる。油路39は、バネ室38に連通すると共にバネ室38に対して油を供給させる。油路35は、後述するケース9の一部である第2ケース92の固定筒部94の内部に形成されており、固定筒部94の外周面に開口するように環状に形成された環状溝352と、クラッチドラム22の内筒部222においてこれの厚み方向に貫通し環状溝352に開口する貫通口353とをもつ。油路39は、後述するケース9の一部である第2ケース92の固定筒部94の内部に形成されており、固定筒部94の外周面に開口するように環状に形成された環状溝392と、クラッチドラム22の内筒部222においてこれの厚み方向に貫通し環状溝392に開口する貫通口393とをもつ。
図3に示すように、油路35,39の他端は制御弁70を介してオイルポンプ78に繋がれている。制御弁70は、ソレノイド70aおよび付勢部材70cにより第1位置71と第2位置72とに切り換えられる。
【0033】
第1位置71は、クラッチ装置2を接続させる位置であり、油路39とオイルポンプ78の吐出ポート78aとを連通させる通路73aと、油路35と油貯留部79とを連通させる通路73bとを有する。第2位置72は、クラッチ装置2を遮断させる位置であり、油路35とオイルポンプ78の吐出ポート78aとを連通させる通路73cと、閉鎖ポート73h,73iを有する。オイルポンプ78が作動しているとき、制御装置7により制御弁70が第1位置71に切り換えられると、オイルポンプ78の吐出ポート78aから油が通路73a、油路39、環状溝392、貫通口393を介してバネ室38に供給され、バネ室38を増圧させ、ピストン32を矢印F1方向(
図3参照)に移動させ、クラッチ装置2を接続させる。この場合、加圧室38の油は油路35、通路73bを介して油貯留部79に排出される。
【0034】
これに対して制御装置7により制御弁70が第2位置72に切り換えられると、加圧室34は油路35,通路73cを介してオイルポンプ78の吐出ポート78aに連通するため、オイルポンプ78の油が吐出ポート78a、通路73c、油路35,貫通口353、環状溝352を介して加圧室34に供給され、加圧室34を増圧させ、ピストン32を矢印F2方向(
図3参照)に移動させ、クラッチ装置2を遮断させる。この場合、バネ室38に繋がる油路39は閉鎖ポート73hで閉鎖されているため、バネ室38の油は制御弁70に流れず、孔250からバネ室38の外に矢印X1方向に排出され、油貯留部79(
図2参照)に溜まる。孔250の開口径および距離L(
図2参照)は、バネ室38の油の排出速度に影響を与え、バネ室38の遠心油圧力に影響を与え、ひいてはクラッチ装置2を接続状態から遮断状態に切り換える応答性、更には電力回生効率に影響を与える。なお、オイルポンプ78は前述したように電動式であるためエンジン1の駆動に拘わらず、油を供給できる。なお、制御弁70はケース9に内蔵されている方式でも、ケース9に外付けされている方式でも良い。
【0035】
更に説明を加える。上記したクラッチ装置2はノーマルクローズタイプであり、通常時には、隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24が付勢部材33の付勢力により互いに圧着して係合しており、クラッチ装置2は接続状態となり、エンジン1の出力軸10と変速機6の入力軸60とをクラッチ装置2を介して接続させている。このときエンジン1が駆動していると、出力軸10が回転するため、入力部材20が回転し、圧着状態の摩擦プレート23およびセパレートプレート24が回転軸線P1の回りで回転し、クラッチドラム22がロータ82と共に回転し、変速機6の入力軸60が回転し、ひいては走行車輪が回転する。
【0036】
これに対して、エンジン1の出力軸10と変速機6の入力軸60とを遮断させるときには、オイルポンプ78の駆動により油が加圧室34に供給される。加圧室34の遮断用駆動力が、付勢部材33の付勢力とバネ室38の油圧との総和に打ち勝つと、ピストン32は矢印F2方向に移動する。この場合、セパレートプレート24が矢印F2方向に移動可能であるため、クラッチ装置2を構成する隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24が互いに離間し、非圧着状態である非係合状態となり、クラッチ装置2は遮断状態に切り換えられる。この結果、エンジン1の出力軸10と変速機6の入力軸60との連結は遮断され、出力軸10の駆動力は変速機6の入力軸60に伝達されない。ここで、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2は向きが互いに逆に作用し、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2は互いに相殺または減殺される。このため、制御弁70により加圧室34に油を供給すれば、ピストン32を矢印F2方向に迅速に移動させて、クラッチ装置2を応答性よく迅速に遮断できる。この場合、エンジン1をモータ8から迅速に切り離すことができ、電力回生効率を高めることができる。
【0037】
図1および
図2に示すように、加圧室34については、クラッチ装置2が接続状態に維持されているとき、回転軸線P1に沿った方向の空間幅は薄くされ、半径方向に沿った長さは大きくされ、加圧室34は薄くされて偏平化されている。このように加圧室34は偏平化されているため、加圧室34の容積を抑えつつ、ピストン32の加圧面325の面積を増加でき、ピストン32の遮断用駆動力を高めることができる。このため、加圧室34に油を供給させてクラッチ装置2を接続状態から遮断状態に切り換えるとき、切換速度を速めることができる。従って、モータ8を発電機として使用して電力を回生させるときには、クラッチ装置2を接続状態から遮断状態に切り換える応答性を高めることができ、電力回生の応答性を高めることができ、蓄電要素への蓄電量を増加させるのに貢献でき、車両の燃費向上に貢献できる。
【0038】
ところで本実施形態によれば、ピストン32を付勢させる付勢部材33としては、コイル付勢部材ではなく、板付勢部材や皿付勢部材とすることも考えられる。しかしながら板付勢部材や皿付勢部材の場合には、付勢部材荷重が撓みに対してほぼ2次曲線的に変化し易く、高い変化率を有する。この場合、クラッチ装置2を構成する摩擦プレート23およびセパレートプレート24が経年変化や摩耗したときには、クラッチ装置2のトルク容量を確保できなくなるおそれがある。付勢部材荷重が急激に変化すると、加圧室34に油を供給して加圧室34の油圧を制御することにより伝達トルクを制御するのが困難となる。これに対して本実施形態のように付勢部材33がコイル付勢部材である場合には、板付勢部材や皿付勢部材に比較して、付勢部材荷重が撓みに対してほぼ直線的に変化する。この場合、加圧室34の油圧制御によりクラッチ装置2の伝達トルクを正確に制御できる利点が得られる。更に、コイル付勢部材は狭いスペースに配置させるのに有利であり、多数本配置することができ、合計付勢部材荷重を大きくでき、クラッチ装置2を大きな付勢部材荷重で接続状態に維持させるのに貢献できる。但し、場合によっては、付勢部材33をコイル付勢部材に限らず、板付勢部材や皿付勢部材とすることもできる。
【0039】
図1に示すように、クラッチ装置2と変速機6とを繋ぐ駆動力伝達経路には、モータ8が設けられている。モータ8はステータ80とロータ82とを有する。ステータ80は、第2ケース92の内周側に固定されており、鉄心に巻回された励磁巻線80cを有する。ロータ82はステータ80の内周側に隙間80xを介して同軸的に配置されている。ロータ82は、クラッチドラム22の外筒部224の外周側において取付具89aおよびブラケット89cにより固定されている。このため、ロータ82はクラッチドラム22と共に回転軸線P1回りで一体回転する。ステータ80の励磁巻線80cに励磁電流が給電されると、回転磁界が回転軸線P1回りで発生し、ロータ82が回転し、クラッチドラム22が回転し、変速機6の入力軸60が回転し、変速機6を介して車両の走行車輪が回転する。
【0040】
図1に示すように、ケース9はクラッチ装置2、クラッチ作動機構3、モータ8、トルクコンバータ61等を収容する。ケース9は、エンジン1側から、第1ケース91と、第1ケース91に連結された第2ケース92と、第2ケース92に連結された第3ケース93とを有する。第1ケース91は、半径方向内方に沿って延設された第1壁910を有する。第2ケース92は、半径方向内方に沿って延設された第2壁920と、第2壁920の内周部において回転軸線P1に沿って延設された固定筒部94とをもつ。
図1に示すように、この固定筒部94を介してクラッチドラム22が配置されている。クラッチドラム22を回転可能に支持する軸受96aが、固定筒部94とクラッチドラム22との間に設けられている。これによりクラッチドラム22の回転が円滑される。軸受96aは、軸長方向においてピストン32と対応する位置に配置されているため、軸長方向の小型化に貢献できる。更に固定筒部94には、クラッチ装置2を接続および遮断させる油路35,39が形成されるため、小型化およびコスト低減に貢献できる。
【0041】
図1に示すように、第2ケース92の外壁筒部92xの内側にはモータ8のステータ80が固定されている。第1壁910および第2壁920は互いに対向する。第2壁920の固定筒部94と変速機6の入力部材60との間には、軸受96aが介在する。このため第2ケース92の固定筒部94に対して、クラッチドラム22および入力軸60は回転軸線P1まわりで一体回転できる。第1ケース91の第1壁910の内周部と入力部材20との間には、軸受96cが介在する。このため第1ケース91に対して、入力部材20は回転軸線P1まわりで一体回転できる。出力軸10と軸部201との間には軸受96eが介在する。上記したケース9内において、クラッチ装置2及びクラッチ作動機構3は、モータ8の内周側に同軸的に配置されている。従ってモータ8の軸長方向の寸法を有効に利用しつつ、クラッチ装置2およびクラッチ作動機構3をモータ8の内周側に配置できる。この場合、回転軸線P1方向に沿ってサイズを小型化させるのに貢献できる。
【0042】
次に上記したハイブリッド車両用駆動システムの作動について説明を加える。図略のイグニッションスイッチをONにして運転者がアクセルペダルを踏む(低スロットル開度時)と、バッテリを電源とする電動式のオイルポンプ78が作動して油圧が加圧室34に供給されクラッチ装置2が遮断状態になると共に、モータ8の励磁巻線80cに電流が流れてロータ82が回転する。ロータ82が回転すると、ロータ82に連結されているクラッチドラム22が回転軸線P1回りで回転し、変速機6を介して走行車輪が回転し、車両が発進する。このように車両が発進するとき、エンジン1は始動せず、停止されていることがある。この場合、モータ8の駆動力のみによって車両は発進する。このように車両が始動するときには、制御装置7からの指令によりオイルポンプ78が作動して油圧が発生すると共に、制御弁70が第2位置72に切り換えられるため、油は、制御弁70の第2位置72の通路73cを介して油路35および加圧室34に供給される。結果として、加圧室34の油圧が上昇し、ピストン32は矢印F2方向に移動し、ノーマルクローズタイプのクラッチ装置2は接続状態から遮断状態に切り換えられる。このようにモータ8のみによって走行する場合、負荷となるエンジン1、フライホィール14等がモータ8および変速機6から切り離され、車両の発進性が高められている。
【0043】
エンジン1の低負荷時または極低負荷時等のようにエンジン効率が充分ではない領域においても、エンジン1の駆動は停止されており、モータ8のみによって車両は走行することが好ましい。このようにエンジン1の駆動が停止されているとき、ノーマルクローズタイプのクラッチ装置2は接続状態から遮断状態に切り換えられている。この場合、オイルポンプ78の作動により制御弁70および油路35を介して加圧室34に油が供給され、加圧室34の油圧が付勢部材33の付勢力に打ち勝ち、ピストン32は矢印F2方向(
図3参照)に移動し、クラッチ装置2を構成する隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24が互いに離間し、非圧着状態である非係合状態とされる。
【0044】
これに対して、車両が加速や登坂するときには、エンジン1が駆動することが好ましい。この場合、加速や登坂をするためにアクセルペダルが踏まれてスロットルが一定開度以上開かれると、燃料噴射装置が作動されるとともに、図略の点火プラグが点火される。また図略のスタータモータの駆動軸が駆動される。これによりスタータモータの駆動軸と噛合するフライホィール14のリングギア12がフライホィール14及び出力軸10とともに回転され、エンジン1が始動される。このようにエンジン1が駆動するとき、クラッチ装置2が接続状態に維持される。この場合、制御弁70が第1位置71に切り換えられ、オイルポンプ78の油が制御弁7の通路73a、油路39を介してバネ室38に供給され、バネ室38が増圧される。更に、加圧室34の油が油路35及び制御弁70の通路73bを介して油貯留部79に排出される。更に、これにより加圧室34の油圧力に対してコイル付勢部材33の付勢力が打ち勝ち、ピストン32はセパレートプレート24と共に矢印F1方向に移動し、摩擦プレート23およびセパレートプレート24が互いに圧着して係合される。この結果、エンジン1の出力軸10の回転駆動力がクラッチ装置2を介して変速機6の入力軸60に伝達される。これによりエンジン1並びにモータ8の両方の駆動力が加算され、大きな駆動力により車両が走行される。車両が定常の走行状態にある場合には、エンジン効率が高いため、モータ8への給電を停止させ、モータ8を空転させることが好ましい。この場合、クラッチ装置2は接続状態に維持されており、エンジン1の出力軸10の駆動力はクラッチ装置2を介して変速機6の入力軸60に伝達され、エンジン1の駆動力により車両は走行する。
【0045】
ところで、車両が減速する場合等のように電力を回生させる場合には、モータ8の励磁巻線80cへの給電を停止させると共にクラッチ装置2を接続状態から遮断状態に切り換え、エンジン1の出力軸10とクラッチ装置2の入力部材20との連結を解除させるため、ロータ82に加わる負荷が低減され、回生効率が高められる。この場合、オイルポンプ78により加圧室34に油が供給され、加圧室34の油圧がコイル付勢部材33の付勢力に打ち勝ち、ピストン32は矢印F2方向(
図3参照)に移動し、隣り合う摩擦プレート23およびセパレートプレート24が互いに離間し、非圧着状態である非係合状態とされる。このように電力を回生させる場合には、モータ8が発電機として機能して電力を発生させる。発生した電力はバッテリに蓄電される。
【0046】
本実施形態によれば、車両走行中にクラッチドラム22はロータ82とともに回転軸線P1回りで回転されて遠心力を受けるため、クラッチ装置2が接続状態および遮断状態にあるときであっても、加圧室34およびバネ室38に油が残存されることがある。ここで、加圧室34およびバネ室38のうちの一方のみに油が残存するときには、入力軸60の回転の影響を受けて発生する遠心力に基づく遠心油圧力が、クラッチ装置2の応答性および制御応答性に影響を与えるおそれがある。特に、遠心力は入力軸60が高速回転しているほど増加するため、車両の高速走行時には、遠心油圧がクラッチ装置2の応答性および制御応答性に与える影響が増加するおそれがある。
【0047】
そこで、本実施形態によれば、入力軸60が回転している状態において、孔250は、バネ室38の油をバネ室38の外に排出させつつも、バネ室38に油を残存させる。従って、加圧室34に残存する油の遠心力に起因する遠心油圧力FA1(
図4参照)に対して、バネ室38に残存する油の遠心力に起因する遠心油圧力FA2(
図4参照)を対向させることができる。ここで、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2は、互いに逆方向に作用する。従って、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の大きさが同じであれば、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2は、互いに相殺される。また、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の大きさが相違したとしても、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2は向きが互いに逆に作用するため、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の影響はかなり減殺される。従って、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2が発生するとしても、バネ室38に配置された付勢部材33の機械的な付勢力の影響が大きくなり、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の影響をできるだけキャンセルできる。このため、遠心油圧力FA1,FA2に起因する応答遅れをできるだけ低減できる。従ってクラッチ装置2の接続および遮断における制御応答性を高めることができる。更に、入力軸60の回転速度が増加すると、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の双方は増加する。入力軸60の回転速度が減少すると、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の双方は減少する。従って、入力軸60の回転速度が変動したとしても、遠心油圧力FA1および遠心油圧力FA2の影響をできるだけキャンセルでき、クラッチ装置2の制御応答性を高めることができる。なお、車両用駆動システムがハイブリッド車両に適用されているため、電力回生時においてクラッチ装置2の遮断応答性を高めれば、電力回生時に負荷となるエンジン1をモータ8からできるだけ速く遮断でき、回生効率を高めることができる。
【0048】
本実施形態によれば、
図2に示すようにバネ室38の小径をD1とし、バネ室38の最大径をD2とするとき、孔250は、クラッチドラム22の径方向においてバネ室38の最小径D1と最大径D2との間に設けられている。このため、バネ室38の油を孔250から外に排出させつつも、遠心力によりバネ室38の外周側に油を残存させることができる。よって、遠心油圧力FA2をバネ室38において確保させることができる。このため、加圧室34の残油に作用する遠心力に起因する遠心油圧力FA1を、バネ室38における遠心油圧力FA2で相殺または減殺させることができる。つまりできるだけキャンセルさせることができる。孔250の排出能は、基本的には、孔250の開口径と、径方向において孔250の軸線と回転軸線P1との距離L(
図2参照)とに基づく。このため、開口径および/または距離Lを調整すれば、孔250の排出能を調整でき、バネ室38における遠心油圧力FA2を調整でき、ひいてはクラッチ装置2の接続および遮断における制御応答性を調整できる。
【0049】
更に本実施形態によれば、
図2に示すように、クラッチドラム22は、入力軸60の外周側に固定された固定筒部220と、固定筒部220から径外方向に延設された第1延設部221と、第1延設部221から入力軸60の回転軸線P1に沿って形成された内筒部222と、内筒部222から径外方向に沿って延設された第2延設部223と、第2延設部223から入力軸60の回転軸線P1に沿って形成された外筒部224とを備える。クラッチドラム22は、付勢部材33およびピストン32を収容するバネ室38を形成している。更に、クラッチドラム22で形成されるドラム室230には、付勢部材33、ピストン32、固定プレート31、セパレートプレート24の順に内蔵して配置され、スナップリングで形成された係止部材238で係止されている。このため小型化、特に軸長方向における小型化に貢献できる。
【0050】
更に本実施形態によれば、バネ室38において付勢部材33は孔250と対面している。付勢部材33付近の油は、孔250からバネ室38の外に排出されるため、バネ室38の残存する油が付勢部材33の動作に影響を与えることが抑えられる。このため、バネ室38の残存する遠心油圧がクラッチ装置2の制御応答性を阻害させることが抑制される。なお、前述したように加圧室34に油が残存されるとき、遠心力により加圧室34に遠心油圧力が発生し、ピストン32を矢印F2方向に押圧する遠心油圧力FA1が発生する。この場合、接続状態に維持されているはずのクラッチ装置2を、条件によっては遮断状態にさせてしまうおそれがある。そこで、加圧室34を形成する壁を構成する固定プレート31にチェック弁を設け、加圧室34に残存する油をチェック弁から排出させることも考えられる。チェック弁は、加圧室34とこれの外とを連通する弁口と、弁口を閉鎖しており遠心力が増加すると弁口を開放させる弁体とを有する。しかしチェック弁では、弁体が弁口を閉鎖させる閉鎖性が必ずしも安定しないため、制御応答性が必ずしも充分ではない。更に、加圧室34に油を供給させてクラッチ装置2を遮断させるとき、チェック弁の開口が開放し、加圧室34に装填させた油がチェック弁の開口から漏れるおそれがある。このため、チェック弁から漏れる油量を考慮し、加圧室34に供給させる油量を増加させる必要がある。この場合、オイルポンプ78の小型化には好ましくない。
【0051】
この点本実施形態によれば、固定プレート31に設けるチェック弁を廃止している。このためチェック弁の開口から排出させはずの油が加圧室34に残存し、回転に伴い遠心油圧力FA1を発生させるおそれがある。しかし本実施形態によれば、入力軸60が回転している状態において、前述したように、孔250は、バネ室38の油をバネ室38の外に排出させつつも、バネ室38に油を残存させる。従って、加圧室34に残存する油の遠心力に起因する遠心油圧力FA1に対向できるように、バネ室38に残存する油の遠心力に起因する遠心油圧力FA2を発生させることができる。これにより加圧室34の遠心油圧力FA1をバネ室38の遠心油圧力FA2で相殺または減殺させることができる。よって本実施形態によれば、固定プレート31に設けるチェック弁を廃止しつつ、加圧室34に残存した油による遠心油圧力FA1に基づく影響を低減または解消させることができる。固定プレート31に設けるコスト高となるチェック弁を廃止できるため、コストを低減できる。更に、チェック弁を廃止できるため、加圧室34に油を装填させてクラッチ装置2を遮断させるときにおいて、加圧室34に装填させた油がチェック弁の開口から漏れるおそれが解消され、加圧室34に供給させる油量を適切にでき、オイルポンプ78を小型化させるのに有利となり、車両搭載性を向上させることができる利点が得られる。
【0052】
なお、
図4に示すように、径方向において、バネ室38の外周38pは加圧室34の外周34pよりも外側に位置する。このためバネ室38の外周38p側に存在する油に発生させる遠心油圧力は、加圧室34の外周34p側に存在する油に発生させる遠心油圧力よりも大きくさせることができる。この場合、クラッチ装置2を接続方向に作動させる接続用駆動力を増加させるのに有利であり、クラッチ2の接続を迅速に行うのに有利である。
【0053】
また本実施形態によれば、
図2に示すように、ロータ82は、クラッチドラム22の外筒部224の外周側に位置するように、取付孔89kに取り付けられた取付具89aおよびブラケット89cにより固定されている。取付孔89kはクラッチドラム22に形成されており、遠心油圧力FA2を発生させるバネ室38に対面する。遠心油圧力FAを確保させるため、取付孔89kと取付具89aとの境界は、シール剤によりシールされてバネ室38の油が漏れないようにされている。
【0054】
加えて本実施形態によれば、
図2に示すように、油を貯留させる油貯留部79が第1ケース91および第2ケース92の底部に形成されている。油貯留部79は、オイルポンプ78の油を溜めるリザーバとして機能する。
図2において油面を79xとして示す。ステータ80の下部、巻線80cの下部、ロータ82の下部はそれぞれ、油貯留部79の油面79xよりも下方の油に浸漬されており、ステータ80、巻線80cおよびロータ82を油により冷却させることができる。この場合、モータ効率または発電効率を高めることができる。
図2に示すように、油貯留部79に貯留されている油の油面79xは、半径方向においてロータ82の外摺よりも若干内周側に寄ったレベルに位置している。このためロータ82の油への浸漬が過剰となることが抑制され、ロータ82が回転するとき、ロータ82の回転抵抗が過剰化することが抑えられており、燃費向上に貢献できる。モータ8が作動するとき、ロータ82が回転するため、ロータ82はケース9の油貯留部79に貯留されている油の一部を、接続状態および遮断状態のクラッチ装置2の摩擦プレート23およびセパレートプレート24に跳ねかけることができ、更に軸受96a,96c,96e等の要素に跳ねかけることができる。この場合、摩擦プレート23、セパレートプレート24、軸受96a,96c,96e等の要素の冷却、潤滑および耐久性の向上に一層貢献でき、モータ効率または発電効率を高めるのに貢献できる。
【0055】
(実施形態2)
図6は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有する。但し、
図6に示すように、オイルポンプ78の吐出ポート78aと吸込ポート78cとの間には、リリーフ弁200が設けられている。リリーフ弁200は、通路201および閉鎖ポート202を備える第1位置203と、通路204を備える第2位置205とに切換可能とされている。制御弁70の通路73a,73cに繋がる通路210の油圧は、リリーフ弁200の付勢部材220の付勢力と対向する。通常時には付勢部材220の付勢力が勝ち、第1位置203にされている。制御弁70の通路73a,73cに繋がる通路210の油圧が過剰となり、付勢部材220の付勢力よりも大きくなると、リリーフ弁200は第2位置205に切り換わり、通路210の油は、リリーフ弁200の第2位置205の通路204から油貯留部79に排出される。この場合、オイルポンプ78の保護性を高め得る。
【0056】
(その他)
上記した実施形態1はエンジン1およびモータ8を併有するハイブリッド車両に適用しているが、エンジン1を搭載するもののモータ8を搭載しない車両に適用しても良い。クラッチ作動機構3の構造は上記構造に限定されるものではなく、要するに、クラッチ装置2を接続状態と遮断状態とに切り換え得る構造であれば良い。クラッチ装置2の第1クラッチ部および第2クラッチ部はプレート状に限定されるものではなく、エンジン1と変速機6との間の動力伝達の遮断および接続を切り換える構造であれば良い。よって摩擦プレート23とセパレートプレート24とが用いられているが、これに限られるものではない。オイルポンプ78は電動式とされているが、これに限らず、エンジン1等で作動する機械式でも良い。車両が始動するときには、クラッチ装置2は接続状態から遮断状態に切り換えられ、モータ8の駆動力によって車両は発進するが、これに限らず、モータ8の他にエンジン1の駆動力を利用することにしても良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。