(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軌跡算出手段は、前記情報発信源の各々の位置に関する情報、及び前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報から得られる前記移動体の位置に基づいて、前記移動体から見た前記情報発信源の各々の方向を算出し、時系列の前記情報発信源の各々の位置に関する情報に基づいて、前記情報発信源の各々の速度を算出し、前記移動体から見た前記情報発信源の各々の方向、前記情報発信源の各々の速度、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報に基づいて、前記移動体の情報発信源の各々の方向の速度を算出し、複数の前記移動体の情報発信源の各々の方向の速度に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを算出する請求項1または請求項2記載の位置推定装置。
前記情報発信源を、前記情報発信源の各々の位置に関する情報として衛星軌道情報を、前記情報発信源の各々と前記移動体との距離に関する情報として擬似距離情報を、及び前記情報発信源の各々に対する前記移動体の相対速度に関する情報としてドップラー周波数情報を発信するGPS衛星とした請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の位置推定装置。
前記軌跡算出手段は、前記取得手段により取得された前記発信源情報、及び前記移動体の運動を検出する検出手段により検出された移動体運動情報に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを算出する請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の位置推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載され、GPS衛星から発信されたGPS情報を取得して自車両の位置を推定する車載位置推定装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0019】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る車載位置推定装置10は、GPS衛星からの電波を受信するGPS受信部12と、GPS受信部12によって受信されたGPS衛星からの受信信号に基づいて、自車両の位置を推定する処理を実行するコンピュータ14とを備えている。
【0020】
GPS受信部12は、複数のGPS衛星からの電波を受信して、受信した全てのGPS衛星からの受信信号から、GPS衛星の情報として、GPS衛星の衛星番号、GPS衛星の軌道情報(エフェメリス)、GPS衛星が電波を送信した時刻、受信信号の強度、周波数などを取得し、コンピュータ14に出力する。
【0021】
コンピュータ14は、CPU、後述する位置推定処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、及びHDD等の記憶装置で構成されている。
【0022】
コンピュータ14を以下で説明する位置推定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、
図1に示すように、GPS受信部12から、電波を受信した全てのGPS衛星について、GPS衛星の情報を取得すると共に、GPS擬似距離データ、ドップラー周波数、及びGPS衛星の位置座標を算出して取得するGPS情報取得部20と、取得したGPS擬似距離データ及びGPS衛星の位置座標を所定期間分記憶する擬似距離・衛星位置記憶部30と、取得したGPS衛星の情報に基づいて、所定時間分の自車両の軌跡を推定する軌跡推定部40と、推定された自車両の軌跡と記憶された擬似距離及び衛星位置に基づいて、最適化処理により自車両の絶対位置を推定する最適化位置推定部60と、を含んだ構成で表すことができる。
【0023】
GPS情報取得部20は、GPS受信部12から、電波を受信した全てのGPS衛星について、GPS衛星の情報を取得すると共に、GPS衛星が電波を送信した時刻及び自車両で電波を受信した時刻に基づいて、GPS擬似距離データを算出する。また、GPS情報取得部20は、各GPS衛星から送信される信号の既知の周波数と、各GPS衛星から受信した受信信号の周波数とに基づいて、各GPS衛星からの受信信号のドップラー周波数を各々算出する。なお、ドップラー周波数は、GPS衛星と自車との相対速度による、搬送波周波数のドップラーシフト量を観測したものである。また、GPS情報取得部20は、GPS衛星の軌道情報及びGPS衛星が電波を送信した時刻に基づいて、GPS衛星の位置座標を各々算出する。
【0024】
また、軌跡推定部40は、取得した各GPS衛星のドップラー周波数に基づいて、各GPS衛星に対する自車両の相対速度を算出する相対速度算出部42と、取得した各GPS衛星の位置座標の時系列データに基づいて、各GPS衛星の速度ベクトルを算出する衛星速度算出部44と、取得した各GPS衛星のGPS擬似距離データに基づいて、自車両の位置を算出する自車位置算出部46と、算出された自車両の位置及び各GPS衛星の位置座標に基づいて、各GPS衛星の方向(角度の関係)を算出する衛星方向算出部48と、算出された相対速度、各GPS衛星の速度ベクトル、及び各GPS衛星の方向に基づいて、各GPS衛星方向の自車両の速度を算出する衛星方向自車速算出部50と、算出された複数の各GPS衛星方向の自車両の速度に基づいて、自車両の速度ベクトルを算出する自車両速度算出部52と、算出された自車両の速度ベクトルを所定時間分積算して、所定時間分の自車両の軌跡を算出する自車両軌跡算出部54と、を備えた構成で表すことができる。
【0025】
相対速度算出部42は、ドップラー周波数とGPS衛星に対する相対速度との関係を表わす以下の(1)式に従って、各GPS衛星からの受信信号のドップラー周波数から、各GPS衛星に対する自車両の相対速度を算出する。
【0027】
ただし、v
jはGPS衛星jに対する相対速度であり、D1
jはGPS衛星jから得られるドップラー周波数(ドップラーシフト量)である。また、Cは光速であり、F
1は、GPS衛星から送信される信号の既知のL1周波数である。
【0028】
衛星速度算出部44は、取得した各GPS衛星の位置座標の時系列データから、ケプラーの方程式の微分を用いて、各GPS衛星の速度ベクトル(3次元速度VX
j、VY
j、VZ
j)を算出する。例えば、非特許文献(Pratap Misra and Per Enge原著 日本航海学会GPS研究会訳:“精説GPS基本概念・測位原理・信号と受信機”正陽文庫,2004.)に記載された方法を用いて、各GPS衛星の速度ベクトルを算出することができる。
【0029】
自車位置算出部46は、以下のように、GPS情報取得部20によって取得された各GPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、自車両の位置を算出する。
【0030】
GPSを用いた測位では、
図2に示すように、既知であるGPS衛星の位置座標と、各GPS衛星から受信した受信信号の伝播距離である擬似距離とに基づいて、三角測量の原理に従って、自車両の位置が推定される。
【0031】
ここで、GPS衛星までの真の距離r
jは、以下の(2)式で表され、GPSで観測される擬似距離ρ
jは、以下の(3)式で表される。
【0033】
ただし、(X
j,Y
j,Z
j)がGPS衛星jの位置座標であり、(x,y,z)が自車両の位置座標である。sは、GPS受信部12の時計誤差による距離誤差である。
【0034】
上記(2)式、(3)式より、4つ以上のGPS衛星のGPS擬似距離データから得られる以下の(4)式の連立方程式を解くことによって、自車両の位置(x、y、z)が算出される。
【0036】
なお、本実施の形態では、自車両の位置を、GPS衛星の方向(GPS衛星と自車両との角度)を求めるために算出しているが、遠方に存在するGPS衛星の方向であるため、位置決めは大まかでよく、擬似距離を用いた位置決定を行わなくてもよい。時刻の影響が少なく、システム等で許容される推定精度に依存するが、自車の位置決めの誤差も数百mの範囲であれば、速度推定誤差も1m/sec以下程度となり大きな問題はないため、例えば、地図などから位置を決定してもよく、また、過去の位置の測定履歴やビーコンなどの情報などから、自車両の位置を決定してもよい。
【0037】
衛星方向算出部48は、算出された自車両の位置及び各GPS衛星の位置座標に基づいて、各GPS衛星jの位置と自車両の位置との角度関係(水平方向に対する仰角θ
j、北方向に対する方位角φ
j)を、各GPS衛星の方向として算出する。
【0038】
衛星方向自車速算出部50は、
図3に示すように、算出された各GPS衛星に対する自車両の相対速度v
j、各GPS衛星の速度ベクトル(VX
j、VY
j、VZ
j)、及び各GPS衛星の方向R
j(θ
j、φ
j)に基づいて、以下の(5)式に従って、各GPS衛星jの方向の自車両の速度Vv
jを算出する。
【0040】
v
jは、GPS衛星jに対する自車両の相対速度(衛星方向におけるGPS衛星との相対速度)である。また、Vs
jは、自車方向のGPS衛星jの速度であり、Vs
j=R
j[VX
j,VY
j,VZ
j]
Tにより求まる。また、Vv
jは、GPS衛星jの方向の自車速であり、vCbは、クロックバイアス変動である。
【0041】
上述したように、GPS衛星方向の自車速は、GPS衛星位置の三次元位置ではなく、GPS衛星との方位関係によってのみ算出される。GPS衛星は遥か遠方にあり、1日で地球をほぼ2周するため1分間の角度変化は0.5度である。通常、GPS衛星とGPS受信機との時計誤差は通常1msec以下であるため、GPS衛星との方位関係に大きな影響はない。また、同じくGPS衛星は遥か遠方にあるため、自車の位置決定に数100m程度の誤差が生じていたとしても、GPS衛星との方位関係に大きな影響はない。このため、擬似距離に誤差が乗りやすい状況であったとしても、GPS衛星方向の自車速は、擬似距離に比較して正確に算出され得る。
【0042】
自車両速度算出部52は、以下に説明するように、自車両の速度ベクトルの最適推定を行う。
【0043】
まず、自車の速度ベクトルを(Vx,Vy,Vz)としたとき、GPS衛星方向の自車両の速度Vv
jとの関係は以下の(6)式で表される。
【0045】
各GPS衛星jについて得られる上記(6)式より、Vx,Vy,Vz及びCbを推定値とした、以下の(7)式で表される連立方程式が得られる。
【0047】
電波を受信したGPS衛星が4個以上である場合に、上記(7)式の連立方程式を解くことによって、自車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)の最適値を算出する。
【0048】
自車両軌跡算出部54は、算出された自車両の速度ベクトルを所定時間分積算することにより自車両の軌跡を算出する。所定時間は、所望の精度が得られる適切な時間を定めておく。上述のように、擬似距離に比較して正確に算出されるGPS衛星方向の自車速を用いて自車両の速度ベクトルを算出し、これを用いて自車両の軌跡を算出することで、精度の高い形状及び方位の自車両の軌跡を算出することができる。
【0049】
また、最適化位置推定部60は、算出された自車両の軌道及び平行移動量に基づいて暫定位置を算出する暫定位置算出部62と、暫定位置における自車両の軌跡上のエポック毎のGPS衛星との距離と、そのエポックにおける擬似距離との差の全GPS衛星の全エポック数分の和を評価値として算出する評価値算出部64と、算出された評価値が最適値となったか否かを判定すると共に、評価値が最適ではない場合に、自車両の軌跡を平行移動させる評価値判定部66と、評価値が最適となったときの自車両の軌跡上の各位置を最適化された絶対位置として出力する位置最適化部68と、を含んだ構成で表すことができる。
【0050】
暫定位置算出部62は、算出された自車両の軌跡f(t)について、以下の(8)式で示す暫定位置を算出する。
【0052】
ΔX、ΔY、ΔZ、及びΔCbは、それぞれx方向、y方向、z方向、及び時計誤差への平行移動量であり、tはエポック毎の時刻を示す(t=0〜tn)。自車両の軌跡は、ある時点を基準とした形状及び方位が精度よく表現されているため、この形状及び方位を維持したまま(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)分平行移動させて最適な位置を推定するものである。暫定位置算出部62は、まず、平行移動量の初期値として(ΔX
0,ΔY
0,ΔZ
0,ΔCb
0)を与えて暫定位置を算出する。また暫定位置算出部62は、後述する評価値判定部66の判定結果に基づいて、平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)を変更して暫定位置を算出する。
【0053】
評価値算出部64は、算出された暫定位置における自車両の軌跡上のエポック毎に、以下の(9)式に従って評価値Eを算出する。
【0055】
図4に示すように、d
j(t)は、暫定位置における自車両の軌跡上の時刻tの位置と、時刻tにおける各GPS衛星との距離であり、ρ
j(t)は、時刻tにおける擬似距離である。時刻tにおける各GPS衛星との距離は、擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶された時刻tのGPS衛星の位置座標を用いて算出する。時刻tにおける擬似距離は、擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶された時刻tのGPS擬似距離データを用いる。
【0056】
評価値判定部66は、算出された評価値が最小となったか否かを判定し、評価値が最小となっていない場合には、評価値が最小に近づくような平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)を算出して暫定位置算出部62へ受け渡す。暫定位置算出部62では、新たに算出された平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)に基づいて暫定位置を算出し、評価値算出部64でその暫定位置についての評価値Eを算出する。そして、評価値判定部66で評価値が最小となったと判定されるまでこの処理を繰り返して最適化を行う。なお、評価値判定部66で実行される最適化の手法は、バンドルアジャストの原理等の周知の技術を用いることができる。
【0057】
位置最適化部68は、自車両軌跡算出部54で算出された自車両の軌跡の形状を保持したまま、自車両の軌跡を評価値判定部66で評価値が最小となったと判定されたときの平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)分平行移動させた位置を最適化された位置として推定する。
【0058】
次に、第1の実施の形態に係る車載位置推定装置10の作用について説明する。
【0059】
GPS受信部12によって、複数のGPS衛星から電波を受信しているときに、コンピュータ14において、
図5に示す位置推定処理ルーチンが実行される。
【0060】
ステップ100で、GPS受信部12から複数のGPS衛星の情報を取得すると共に、複数のGPS衛星のGPS擬似距離データ、ドップラー周波数、GPS衛星の位置座標を算出して取得する。
【0061】
次に、ステップ102で、上記ステップ100で取得した各GPS衛星の擬似距離データ及び位置座標を擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶する。
【0062】
次に、ステップ104で、後述する自車両軌跡推定処理を実行して、所定時間分の自車両の軌跡を算出し、次に、ステップ106で、後述する全体最適化位置推定処理を実行して、最適化された絶対位置を推定する。
【0063】
次に、
図6を参照して、自車両軌跡推定処理ルーチンについて説明する。
【0064】
ステップ110で、上記(1)式に従って、各GPS衛星からの受信信号のドップラー周波数から、各GPS衛星に対する自車両の相対速度v
jを算出する。
【0065】
次に、ステップ112で、取得した各GPS衛星の位置座標の時系列データから、ケプラーの方程式の微分を用いて、各GPS衛星の速度ベクトル(VX
j、VY
j、VZ
j)を算出する。
【0066】
次に、ステップ114で、各GPS衛星のGPS擬似距離データを用いて、上記(2)〜(4)式に従って、自車両の位置を算出する。なお、ここでは、自車両の位置を、GPS衛星の方向(GPS衛星と自車両との角度)を求めるために算出しており、自車両の位置として大まかな位置が決定できればよく、例えば、地図などから位置を決定してもよく、また、過去の位置の測定履歴やビーコンなどの情報などから、自車両の位置を決定してもよい。
【0067】
次に、ステップ116で、上記ステップ114で算出された自車両の位置及び取得された各GPS衛星の位置座標に基づいて、各GPS衛星jの位置と自車両の位置との角度関係R
j(水平方向に対する仰角θ
j、北方向に対する方位角φ
j)を、各GPS衛星の方向として算出する。
【0068】
次に、ステップ118で、上記ステップ110で算出された各GPS衛星に対する自車両の相対速度v
j、上記ステップ112で算出された各GPS衛星の速度ベクトルV
j(VX
j、VY
j、VZ
j)、及び上記ステップ116で算出された各GPS衛星の方向R
j(θ
j、φ
j)に基づいて、上記(5)式に従って、各GPS衛星jの方向の自車両の速度Vv
jを算出する。(5)式における自車方向のGPS衛星jの速度Vs
jは、Vs
j=R
j[VX
j,VY
j,VZ
j]
Tにより算出する。
【0069】
次に、ステップ120で、上記(6)式、及び(7)式に従って、自車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)の最適値を算出する。
【0070】
次に、ステップ122で、上記ステップ120で算出された自車両の速度ベクトルを積算することにより自車両の軌跡を算出して、リターンする。
【0071】
次に、
図7を参照して、全体最適化位置推定処理ルーチンについて説明する。
【0072】
ステップ130で、算出された自車両の軌跡、及び平行移動量の初期値(ΔX
0,ΔY
0,ΔZ
0,ΔCb
0)に基づいて、上記(8)式で示す暫定位置を算出する。
【0073】
次に、ステップ132で、上記(9)式に従って、(8)式で示される暫定位置における自車両の軌跡上の時刻tの位置と時刻tにおけるGPS衛星jとの距離d
j(t)と、時刻tにおける擬似距離ρ
j(t)との差である擬似距離差分の全GPS衛星の全エポック数分の和を、評価値Eとして算出する。
【0074】
次に、ステップ134で、上記ステップ134で算出された評価値Eが最小となったか否かを判定する。最小となったと判定された場合には、ステップ138へ移行し、最小ではないと判定された場合には、ステップ136へ移行する。
【0075】
ステップ136では、評価値Eが最小値に近づくような平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)を算出して、ステップ130へ戻り、自車両の軌跡を平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)分平行移動させた暫定位置を算出して、ステップ132及びステップ134の処理を、ステップ134で評価値Eが最小となったと判定されるまで繰り返す。
【0076】
ステップ138では、自車両の軌跡の形状を保持したまま、上記ステップ134で最小となったと判定されたときの平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)分平行移動させた位置を最適化された位置として推定して、推定結果を出力してリターンし、処理を終了する。
【0077】
なお、本ルーチンは、全体位置の最適化の一例であり、他の方法を採用してもよい。例えば、推定パラメータで偏微分し、数回の更新で最適解を得るような手法を用いてもよい。
【0078】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車載位置推定装置によれば、精度よく算出された自車両の速度ベクトルを積算して算出した自車両の軌跡をベースに擬似距離データとカップリングして、全GPS衛星の全エポック数分の擬似距離差分の和が最小となるように自車両の軌跡を平行移動させて、最適な位置を推定するため、精度よく自車両の位置を推定することができる。
【0079】
また、慣性航法装置等のデータを用いて自車両の軌跡を算出する場合には方位が不定となるが、本実施の形態のように自車両の速度ベクトルを用いて自車両の軌跡を算出すれば方位についても定まるため、最適化による位置推定の際にパラメータを低減して計算を平易にすることができる。
【0080】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態の車載位置推定装置について、第1の実施の形態の車載位置推定装置10と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0081】
第2の実施の形態では、GPS衛星以外の移動体の運動を検出する装置により検出された情報をカップリングして、自車両の速度ベクトルを算出する点が、第1の実施の形態と主に異なっている。第2の実施の形態では、移動体の運動を検出する装置として慣性航法装置(Inertial Navigation System:INS)で検出された情報(以下、INS情報という)をカップリングする場合について説明する。
【0082】
図8に示すように、第2の実施の形態に係る車載位置推定装置210のコンピュータ214は、衛星方向自車速算出部50で算出された複数のGPS衛星方向の自車両の速度Vv
jに、慣性航法装置16で検出されたINS情報に含まれる自車両の速度も加えて自車両の速度ベクトルの最適推定を行う自車両速度算出部252を含んだ構成で表すことができる。その他の構成については、第1の実施の形態と同様である。
【0083】
自車両速度算出部252は、上記(6)式の関係から、上記(7)式の連立方程式の最適解として自車の速度ベクトルを算出するが、GPS受信部12において、(7)式の連立方程式の最適解を得るために必要な数のGPS衛星からの受信信号を受信できなかった場合には、慣性航法装置16で検出された自車両の速度を加えて、精度を落とすことなく自車両の速度ベクトルを算出する。また、GPS衛星からの受信信号の数が不足する場合に限らず、慣性航法装置16で検出された自車両の速度を加えて、自車両の速度ベクトルを算出するようにして、精度の向上を図ってもよい。
【0084】
また、自車両速度算出部252は、GPS衛星からの受信信号の数が不足する場合には、クロックバイアスのドリフトは一定であると仮定して、(7)式の連立方程式のvCbを予め定めた一定値として、連立方程式の次元数を下げるようにしてもよい。さらに、自車両の軌跡を求めるための所定時間における一定区間内であれば、平面内での移動であると仮定することができるため、(7)式の連立方程式のVzを0として、連立方程式の次元数を下げるようにしてもよい。
【0085】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る車載位置推定装置によれば、INS情報に含まれる自車両の速度も用いて自車両の速度ベクトルを算出するため、GPS衛星からの受信信号の数が不足する場合でも、精度よく自車両の位置を推定することができる。
【0086】
また、INS情報とGPS情報(ドップラー周波数)とのカップリングを自車両の速度ベクトルを算出する段階で行うため、INS情報とGPS情報(ドップラー周波数及び擬似距離)とをカップリングして自車両の絶対位置を算出する場合に比べて、誤差が生じやすい擬似距離による推定精度の劣化が生じにくくなるため、精度よく自車両の位置を推定することができる。
【0087】
なお、第2の実施の形態では、GPS衛星以外の移動体の運動を検出する装置として慣性航法装置を用いる場合について説明したが、車載外界監視センサ等を用いてもよい。
【0088】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第3の実施の形態の車載位置推定装置について、第1の実施の形態の車載位置推定装置10と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0089】
第3の実施の形態では、最適化された絶対位置を推定する際に、エポック毎のデータではなく、所定距離間隔毎の点となるように選択された点のデータを用いる点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0090】
図9に示すように、第3の実施の形態に係る車載位置推定装置310のコンピュータ314は、擬似距離の誤差が小さいと推定されるGPS衛星を選択する衛星選択部70、及び最適化位置推定部60の評価値算出部264で使用される軌跡の粒度を選択する軌跡粒度選択部72を含んだ構成で表すことができる。その他の構成については、第1の実施の形態と同様である。
【0091】
衛星選択部70は、GPS受信部12で受信信号を受信した際のSN比が閾値以下となる受信信号を送信したGPS衛星を棄却し、SN比が閾値を超える受信信号を送信したGPS衛星の受信信号を使用するように選択する。これにより、擬似距離誤差が大きいと推定されるGPS衛星を排除することができる。
【0092】
軌跡粒度選択部72は、評価値算出部264で評価値Eを算出する際に、第1の実施の形態のように、t0〜tnまでの所定時間間隔の全エポック毎に計算するのではなく、受信信号の受信位置間の距離が所定距離以上となるエポック毎に計算するように、評価値算出部264で使用される軌跡の粒度を選択する。言い換えると、軌跡粒度選択部72は、擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶された擬似距離の中から、評価値算出部264で使用する擬似距離を選択することで、暫定位置算出部62で算出された軌跡の粒度を設定するものである。このように、受信位置間の距離が所定距離以上となるように選択されたエポック毎の擬似距離を使用することで、特にマルチパスに起因する擬似距離誤差の偏りを低減して、位置最適化の精度を向上させることができる。
【0093】
ここで、軌跡の粒度と位置最適化の精度との関係について説明する。
【0094】
図10に、使用する擬似距離を所定時間間隔で取得した場合を示す。
図10では、交差点で車両が停止する状況を仮定し、一定の時間間隔毎の時刻tn(n=1、2、・・・、8)における車両位置と、時刻tnで受信したGPS衛星Aからの電波の経路を示している。この場合、各時刻t1〜t8における車両位置では、GPS衛星Bからは常にマルチパスの影響を受けることなく電波を直接受信できるため、
図11に示すように、計測できる擬似距離の誤差は小さくなり、また各時刻での擬似距離誤差はランダム性を有する傾向がある。なお、その誤差は大きくても数mのオーダーである。
【0095】
一方、GPS衛星Aからの電波は建物で反射して受信される可能性があり、マルチパスの影響が生じる。このようなマルチパスの影響が生じた電波が受信された場合には、受信した受信信号から算出される擬似距離の誤差は大きくなる。擬似距離の誤差は、直接波と反射波との経路差であるので、数m〜百数十mの誤差となることが想定される。
【0096】
位置の最適化の推定に一般的に用いられる最小二乗法では、誤差がランダム性(ガウス性)を有すると想定して計算が実施される。しかし、上記の
図10に示すような状況でGPS衛星A及びGPS衛星Bから時刻t1〜t8で受信したGPS情報に基づいて擬似距離を取得した場合、すなわち所定時間間隔で使用する擬似距離を取得した場合には、車両が停止する直前にGPS衛星Aからの電波のような反射波を受信してしまい、
図12に示すように、連続的に大きく、かつ偏った傾向の誤差を生じてしまう。マルチパスによる誤差は、場所に依存する傾向が強いため、近接した場所で受信したマルチパス誤差は似た傾向を示すためである。市街地の交差点付近は、道が四方に開けているため、受信可能な衛星数が増える反面、反射波も受け易くなる。実際の環境では、複数個の衛星がGPS衛星Aのような状況にある場合もあり、誤差が増大する原因となる。加えて、交差点付近は車両の速度が低下する場合が多いため、擬似距離を取得した区間の距離が短くなり、電波を受信できる衛星の種類(数)も限定される。例えば、
図10の状況では、GPS衛星Cは建物の影に隠れるため、GPS衛星Cからの電波は、時刻t1〜t8の全区間において受信することができない。
【0097】
上述のように、最小二乗法では、誤差がランダム性を有することを前提として計算が実施されるため、最小二乗法による最適化の誤差を低下させるためには、用いる観測値の誤差にランダム性を持たせることが効果的である。そのためには、
図12に示したような、大きな誤差や偏った傾向の誤差を除く必要がある。しかし、所定時間間隔で取得した擬似距離は、GPS衛星の種類が限定され、取得された擬似距離の誤差も大きくかつ偏った傾向を有しているため、最小二乗法の残差を利用してマルチパスの衛星を除く手法や、従来提案されているような、衛星の組み合わせを変更して誤差が大きい衛星を除く手法では、対応することが困難である。
【0098】
これに対して、
図13に、使用する擬似距離を所定距離間隔で取得した場合を示す。
図13では、
図10の場合と同様に交差点で車両が停止する状況を仮定し、一定の距離間隔(所定距離以上の間隔)毎の位置dm(m=1、2、・・・、8)における車両位置と、位置dmで受信したGPS衛星Aからの電波の経路を示している。この場合も、各位置d1〜d8における車両位置では、GPS衛星Bからは常にマルチパスの影響を受けることなく電波を直接受信できるため、
図14に示すように、計測できる擬似距離の誤差は小さくなり、また各位置での擬似距離誤差はランダム性を有する傾向がある。
【0099】
一方、GPS衛星Aからの電波は、所定時間間隔の場合に比べて、受信した地点の間隔離間する。このため、マルチパスの影響を受けたとしても場所により異なる誤差となる。例えば、
図15に示すように、位置d2及び位置d8で受信した電波はマルチパスの影響を受けており誤差が生じているが、各々異なる傾向の誤差となっている。従って、取得した擬似距離の中にマルチパスの影響が含まれているとしても、所定区間(ここでは、d1〜d8)全体でみれば、誤差のランダム性が確保できる。加えて、車速によらず、所定距離間隔で擬似距離を取得するため、
図16に示すように、GPS衛星Cからの電波も受信して擬似距離を取得することができる。
【0100】
その結果、GPS衛星A、GPS衛星B、及びGPS衛星Cからの電波を位置d1〜d8の位置の各々で受信して擬似距離を取得することで、最小二乗法に用いる擬似距離の誤差のランダム性を高めることができる。加えて、所定時間間隔で擬似距離を取得する場合よりも、電波を受信できる衛星の種類を増やすことができ、位置最適化の精度が向上することが見込める。
【0101】
従って、軌跡粒度選択部72は、具体的には、
図17に示すように、暫定位置算出部62で算出された軌跡上から、各点間の距離が距離D(距離Dは所定距離以上)となるように複数の点(ここでは、d0〜d3)を選択する。なお、距離Dは、
図18に示すように、所定時間間隔毎(全エポック毎)に軌跡上の点を選択した場合に比べて軌跡の粒度が粗くなるように設定する。そして、擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶された擬似距離及び衛星位置の中から、軌跡上から選択した各点dmに対応するエポックでの擬似距離及び衛星位置を選択する。
【0102】
評価値算出部264は、軌跡粒度選択部72で選択されたエポック毎の擬似距離を用いて、評価値Eを算出する。具体的には、下記(10)式に従って算出する。
【0103】
【数9】
ここで、t
dmは、軌跡粒度選択部72で選択された各点dmに対応するエポックの時刻である。従って、d
j(t
dm)は、軌跡粒度選択部72により選択された軌跡上の点dmの位置と、点dmに対応するエポックの衛星位置とに基づいて算出される。また、ρ
j(t
dm)は、軌跡粒度選択部72により選択された軌跡上の点dmに対応するエポックの擬似距離である。
【0104】
次に、第3の実施の形態に係る車載位置推定装置310の作用について説明する。
【0105】
GPS受信部12によって、複数のGPS衛星から電波を受信しているときに、コンピュータ314において、
図19に示す位置推定処理ルーチンが実行される。なお、第1の実施の形態の位置推定処理と同一の処理については、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0106】
ステップ300で、GPS受信部12で受信信号を受信した際のSN比が予め定めた閾値以下となるGPS衛星を棄却し、SN比が閾値を超えるGPS衛星を選択する。
【0107】
次に、ステップ302で、GPS受信部12から、上記ステップ300で選択された複数のGPS衛星の情報を取得すると共に、複数のGPS衛星のGPS擬似距離データ、ドップラー周波数、GPS衛星の位置座標を算出して取得する。
【0108】
次に、ステップ102で、上記ステップ302で取得した各GPS衛星の擬似距離及び衛星位置を擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶する。
【0109】
次に、ステップ104で、第1の実施の形態と同様に自車両軌跡推定処理を実行して、所定時間分の自車両の軌跡を算出し、次に、ステップ306で、後述する全体最適化位置推定処理を実行して、最適化された絶対位置を推定する。
【0110】
次に、
図20を参照して、全体最適化位置推定処理ルーチンについて説明する。なお、第1の実施の形態の全体最適化位置推定処理と同一の処理については、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0111】
ステップ130で、算出された自車両の軌跡、及び平行移動量の初期値(ΔX
0,ΔY
0,ΔZ
0,ΔCb
0)に基づいて、上記(8)式で示す暫定位置を算出する。
【0112】
次に、ステップ330で、上記ステップ130で算出された暫定位置における自車両の軌跡上から、各点間の距離が距離Dとなるように複数の点dmを選択する。また、擬似距離・衛星位置記憶部30に記憶された擬似距離及び衛星位置の中から、軌跡上から選択した各点dmに対応するエポックでの擬似距離及び衛星位置を選択する。
【0113】
次に、ステップ332で、上記ステップ330で選択された軌跡上の点dmの位置、点dmに対応するエポックでの衛星位置、及び点dmに対応するエポックでの擬似距離を用いて、上記(10)式に従って、評価値Eを算出する。
【0114】
以下、第1の実施の形態と同様に、ステップ134〜138を実行して、自車両の軌跡の形状を保持したまま、評価値Eが最小となったときの平行移動量(ΔX,ΔY,ΔZ,ΔCb)分平行移動させた位置を最適化された位置として推定して、推定結果を出力してリターンする。
【0115】
ここで、距離Dを「0.1m」、「1m」、「5m」と変化させた場合に、実際に推定されたデータを
図21に示す。同図(a)は、距離D=0.1m、同図(b)は、距離D=1m、同図(c)は、距離D=5mに設定して、バンドルアジャストにより位置最適化推定を行った結果である。実線が真値、破線が位置推定結果である。なお、
図22が実測を行った場所の地図であり、交差点を中心とした直線道路を対象区域としている。車両は東から走行しており、交差点までの区間では、GPS衛星からの電波の受信個数が少ないため、バンドルアジャストによる位置推定が行われず、軌跡推定部による車両軌跡により補間されているため、距離Dによる相違は見られない。
【0116】
しかし、交差点に差し掛かると空が開け始めるため、捕捉できる衛星数が増加し、その分マルチパスも増加するため、測位誤差が増大する危険性がある。
図21(a)及び(b)に示すように、距離Dが1m以下の場合には、同じ傾向のマルチパス誤差が集まってしまい、観測値の誤差がランダム性を有さいない状態で最小二乗法により測位が行われたため、大きな誤差が発生していることがわかる。一方、同図(c)に示すように、距離Dを5mとした場合には、同じ傾向のマルチパスが集まることを防いで、観測値の誤差にランダム性を持たせることができるため、位置推定精度が向上していることが分かる。
【0117】
交差点では信号で停止するため、時間間隔で区切ると、距離Dを短くした場合と同じ状態になる。すなわち、バンドルアジャストの手法で測位を行う場合には、距離Dをある程度長く設定することで、マルチパスの誤差を低減させることができる。
【0118】
以上説明したように、第3の実施の形態に係る車載位置推定装置によれば、精度よく算出された自車両の速度ベクトルを積算して算出した自車両の軌跡をベースに擬似距離データとカップリングする際に、受信位置間の距離が所定距離以上となるように選択されたエポック毎の擬似距離を使用することで、特にマルチパスに起因する擬似距離誤差の偏りを低減して、位置最適化の精度を向上させることができる。
【0119】
なお、第3の実施の形態では、軌跡上から複数の点を選択する際の各点間の距離Dを、所定時間間隔毎(全エポック毎)に軌跡上の点を選択した場合に比べて軌跡の粒度が粗くなるように設定する、としたが、具体的には、上記のような実測データや経験値から、例えば「5m」のように設定することができる。また、第3の実施の形態では、距離Dを一定とする場合について説明したが、市街地か郊外かの情報や周辺の建物の高さの情報等の車両周辺の状況に応じて変更するようにしてもよい。また、車両の速度に応じて変更するようにしてもよい。
【0120】
また、上記第1〜第3の実施の形態では、GPS衛星のGPS情報を用いる場合について説明したが、情報発信源の位置に関する情報、情報発信源と移動体との距離に関する情報、及び情報発信源と移動体との相対速度に関する情報を含む発信源情報を発信する情報発信源からの情報が取得できればよい。例えば、擬似衛星から発信される情報を受信するようにしてもよい。
【0121】
また、上記第1〜第3の実施の形態では、車両に搭載される位置推定装置について説明したが、本発明の位置推定装置が搭載される移動体は車両に限定されない。例えば、位置推定装置をロボットに搭載してもよいし、歩行者が携帯できるように位置推定装置をポータブル端末として構成するようにしてもよい。