【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シリコン含有炭素化合物を除去する工程において、酸素またはオゾンと、紫外線とを用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコン酸化物加工方法。
【背景技術】
【0002】
近年、回路パターンの縮小と共に、従来の光リソグラフィが限界に近づき、新たなリソグラフィ技術が開発されている。現在、最も実現に近いと考えられているのがより短波長の極端紫外(EUV)光を用いたEUVリソグラフィである。その他、全く別の方法として、テンプレートを用いてレジストを型押しするナノインプリントリソグラフィなどがある。
【0003】
EUVリソグラフィでは、マスクの基板として石英等、SiO
2系のものが用いられている。また、ナノインプリントリソグラフィのテンプレートも主に石英系のものが用いられている。
【0004】
いずれのリソグラフィにおいても、適用が想定される配線寸法が小さいため、マスク或いはテンプレートには非常に高い加工精度が要求される。例えば、EUVリソグラフィに用いられるマスクの基板では、ナノメートルサイズの微小突起が基板上に形成される多層膜反射層を乱して、位相欠陥と呼ばれる露光欠陥を発生させる原因のひとつとなることが知られている。
【0005】
また、ナノインプリントリソグラフィのテンプレートでは、1:1の原寸大で転写されるため、やはりパターンはナノメートルの精度が要求される。
【0006】
ここで、石英を始めとしたシリコン酸化物は、シリコンと酸素との結合エネルギの大きさのため加工が困難であり、従来においては、乾式加工にはエッチャントとして主にハロゲン化合物が用いられてきた。
【0007】
一方、パターンの修正等の局所的微細加工にはGaイオンを用いた収束イオンビーム(FIB)や原子間力顕微鏡(AFM)による物理加工などが用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、
図1を参照して、本発明の実施の形態のシリコン酸化物の微細加工工程を説明する。
図1(a)に示すように、シリコン酸化物からなる被加工物1上に有機化合物供給手段2により水素
を分子構造として含むとともに6個以上
の炭素を
分子構造として含む有機化合物ガス3を供給した状態でエネルギビーム照射手段4によりエネルギビーム5を所望の位置に照射する。この時、照射位置に堆積炭素6が堆積するとともに、被加工物1との界面に主に、炭素、水素、シリコンからなるシリコン含有炭素化合物7が形成される。
【0017】
この場合のシリコン酸化物は、石英ガラス、TiドープSiO
2等の金属を添加した石英ガラス、或いは、シリコン基板等の基板上に成膜したSiO
2膜等である。
【0018】
また、水素
を分子構造として含むとともに6個以上
の炭素を
分子構造として含む有機化合物ガス3は、分子量が小さいと堆積性が悪く、分子量が大きいとガス化が困難になるので、フェナントレン(C
14H
10)、ベンゼン、ナフタレン等のある程度の分子量の範囲の芳香族系の炭化水素を用いることが望ましい。但し、アルコール類やアルデヒド類等の炭化水素誘導体の場合にも、炭素数が多い場合には、EUV光照射で炭素膜の堆積が見られるので、6個以上炭素を含むアルコール類やアルデヒド類等の炭化水素誘導体も使用可能である。また、堆積炭素6は典型的に水素を含んだアモルファスカーボンである。
【0019】
また、エネルギビーム5としては、電子線或いはレーザビームを用いる。エネルギビーム5を照射すると、被加工物1に吸着した有機化合物ガス3の分子内結合が切断されて未結合手を持った炭素が生成される。この未結合手を持った炭素は化学的に非常に活性であり、有機化合物ガス3同士で結合を形成して水素を含んだアモルファスカーボンである堆積炭素6が堆積すると共に、一部の炭素は被加工物1のシリコン酸化物を還元して炭素−シリコン結合を形成する。
【0020】
例えば、一般にシリコン酸化物は電子線によって酸素−シリコン結合が切断されて酸素が脱離する電子線誘起還元が起こることが知られている。ここでは、有機化合物ガス3が存在するため、還元されたシリコンの一部はシリコン同士ではなく炭素と結合してシリコン含有炭素化合物7が形成される。なお、エネルギビーム5として電子線を用いる場合、その加速エネルギは2keV〜30keVとし、典型的には反応確率の高い3keVの加速エネルギを用いる。
【0021】
次いで、
図1(b)に示すように、ハロゲンを含まない雰囲気8の中で堆積炭素6と共に、シリコン含有炭素化合物7を化学反応により除去する。例えば、UV/O
3法の場合には、大気中でエキシマランプ等の紫外線光源から100nm〜250nmの深紫外光を照射させて光化学反応で大気中の酸素ガスや水分からO
3分子、Oラジカル、OHラジカル等の活性酸素種を含んだ雰囲気を作る。
【0022】
或いは、ハロゲンを含まない雰囲気8として95%以上高純度のオゾンガス雰囲気と不飽和炭化水素ガスを用いても良い。この場合の不飽和炭化水素としては、炭素原子同士の二重結合或いは三重結合を有するものであれば良く、例えば、エチレンガス、アセチレンガス、プロペンガス、或いは、ブテンガスが挙げられる。この炭素原子同士の二重結合或いは三重結合にO
3が作用して二重結合或いは三重結合を開き、さらに、それが分解して活性種が生成される。
【0023】
また、オゾンガスは不純物の混入による不所望な反応を抑制するために、できるだけ高純度、例えば、95%以上の純度であることが望まれ、例えば、明電ピュアオゾンジェネレータ(明電舎製商品名)を用いる。
【0024】
或いは、減圧下のHラジカルを含んだ雰囲気を用いる。なお、Hラジカルは、タングステン或いはモリブデン等の熱フィラメント、電子衝撃等で白熱させたタングステン管或いは電子サイクロトロン共鳴プラズマもしくは誘導結合プラズマ等を用いて発生させる。
【0025】
UV/O
3法の場合には、深紫外光による光化学反応で発生した活性酸素種と吸着炭化水素等の光化学反応を促進する。シリコン含有炭素化合物7は、炭素が酸化されて一酸化炭素あるいは二酸化炭素として除去される共に、炭素と結合していたシリコンも他の炭素および水素とシロキサン類を形成して脱離すると推定される。また、炭素が豊富にある還元的雰囲気であるため、活性酸素によりシリコンが酸化されても二酸化シリコンではなく一酸化シリコンとなって昇華することも推定される。
【0026】
また、オゾンガスと不飽和炭化水素ガスとの反応により生成された活性種を用いた場合にも、シリコン含有炭素化合物7における炭素と結合していたシリコンも他の炭素および水素とシロキサン類を形成して脱離すると推定される。また、Hラジカルの場合にも、シリコン含有炭素を除去できることが知られており、且つ、シリコン酸化物に影響を与えることがない。
【0027】
なお、Hラジカルを用いる手法は、シリコン含有炭素化合物の形成工程とシリコン含有炭素化合物の除去工程を共に同一の容器内の真空環境下で行なうため、UV/O
3法等とは異なり、連続して迅速に行なうことが可能となる。これは、シリコン含有炭素化合物の形成工程とシリコン含有炭素化合物の除去工程を複数回繰り返して深い加工を行なう場合に特に有利となる。電子線を用いる場合には、電子線源を走査型二次電子顕微鏡と兼用することにより、加工後の形状をその場で観察し、次の加工を進めることが可能となる。
【0028】
このように、本発明の実施の形態においては、有害物質を用いることなく且つ加工屑を発生させることなく、シリコン酸化物の微細加工が可能になる。なお、このような工程は、電子線の照射部分で起きるためにナノサイズの領域の加工が可能になり、凹部の形成だけではなく、平坦基板等における突起の除去工程にも使用することができる。
【0029】
例えば、EUVマスクでは、基板上の微小突起を、被加工部分以外に影響を与えることなく、精度よく除去することが可能となり、位相欠陥の発生を防止することができる。
【0030】
また、EUVリソグラフィ技術の開発において、位相欠陥が露光に与える影響を評価するために用いる、基板上に故意にナノメートルサイズの凹部を形成した評価用マスクを作製する場合にも有効である。
【0031】
さらに、作製上の問題で余分なパターン(欠陥)が発生してしまったナノインプリントリソグラフィのテンプレートの修正を行うことも可能となる。加えて、シリコン酸化物を利用する微小機械素子の作製や修理等にも用いることができる。
【実施例1】
【0032】
以上を前提として、次に、
図2乃至
図4を参照して、本発明の実施例1のシリコン酸化物加工方法を説明する。
図2は、本発明の実施例1のシリコン酸化物加工方法に用いる加工装置の概念的構成図であり、処理容器11、被加工シリコン酸化物13を載置するステージ12、ステージ12を駆動するステージ駆動機構14、電子線源15及びカーボン銃16を備えている。
【0033】
処理容器11は、電子線を用いるため真空引きされ、ガーボン銃16は、フェナントレンを昇華させて発生させたフェナントレンガス17を被加工シリコン酸化物13に向けて吐出させる。ステージ駆動機構14によりステージ12を駆動して被加工シリコン酸化物13の所定の位置に電子線18を照射する。
【0034】
図3は、 本発明の実施例1のシリコン酸化物加工工程の説明図である。まず、
図3(a)に示すように、処理容器内において、フェナントレンガス17を被加工シリコン酸化物13に向けて吐出させるとともに、ステージ12を駆動して被加工シリコン酸化物13の所定の位置に電子線18を3keVで照射する。
【0035】
この時、電子線の照射位置にアモルファスカーボン19が堆積するとともに、被加工シリコン酸化物13との界面に主に炭素と水素とシリコンとからなる反応層20が形成される。
【0036】
次いで、
図3(b)に示すように、大気21中において、エキシマランプ22を用いて発生させた波長が172nmの深紫外線23を照射することによって、深紫外線23の照射によって発生した活性酸素種によってアモルファスカーボン19が除去される。
【0037】
引き続いて、
図3(c)に示すように、活性酸素種と吸着炭化水素等の光化学反応を促進することにより、反応層20が除去されて凹部24が形成される。
【0038】
図4は加工処理結果の説明図であり、
図4(a)は被加工シリコン酸化物13上に反応層20を形成した後のAFM像である。また、
図4(b)は反応層除去後のAFM像であり、
図4(c)は実測した断面形状図である。
【0039】
図4(a)に示す加工部分は電子線を1辺が1μmの矩形に走査することによって規定した。この範囲で、被加工シリコン酸化物に反応層が形成されると同時に、その上に炭素膜が堆積する。
図4(a)において点線で示した部分は、その部分の断面形状を
図4(c)において点線で示すように、十数nmの炭素膜が堆積している。
【0040】
また、
図4(b)において実線で示した部分の断面形状を
図4(c)において実線で示すように、反応層が形成されていた部分が、深さ約2nmに彫り込まれている。
【0041】
このように、本発明の実施例1においては、シリコン酸化物を、室温で、ハロゲン等を用いることなく、所望の形状に加工することが可能となった。
【実施例2】
【0042】
次に、
図5を参照して、本発明の実施例2のシリコン酸化物加工方法を説明する。まず、実施例1と同様に、
図5(a)に示すように、処理容器内において、フェナントレンガス17を被加工シリコン酸化物13に向けて吐出させるとともに、ステージ12を駆動して被加工シリコン酸化物13の所定の位置に電子線18を3keVで照射する。この時、電子線の照射位置にアモルファスカーボン19が堆積するとともに、被加工シリコン酸化物13との界面に主に炭素と水素とシリコンとからなる反応層20が形成される。
【0043】
次いで、
図5(b)に示すように、真空に排気された別の処理容器25において、エチレンガス26が満たされた状態で、ノズル27を介してアモルファスカーボン19上に95%以上の高純度のオゾンガス28を供給する。ノズル27から噴出したオゾンガス28は充満しているエチレンガス26と反応して活性種を発生させ、この活性種がアモルファスカーボン19に作用して除去する。
【0044】
引き続いて、
図5(c)に示すように、オゾンガス28とエチレンガス26との反応を促進することにより、反応層20が除去されて凹部24が形成される。
【0045】
この場合の典型的な処理条件は、エチレンガス及びオゾンはそれぞれ100sccm〜1000sccmの範囲で供給して流量比が2: 1〜1: 2になるようにする。また、処理中のガス圧は10〜1000Paとする。典型的には、100sccmずつ流して流量比を1:1とし、ガス圧を300Paとする。
【0046】
このように、本発明の実施例2においては、オゾンガスとエチレンガスとの反応により発生した活性種を利用しているので、深紫外線照射手段が不要になる。
【実施例3】
【0047】
次に、
図6及び
図7を参照して、本発明の実施例3のシリコン酸化物加工方法を説明する。
図6は、本発明の実施例3のシリコン酸化物加工方法に用いる加工装置の概念的構成図であり、処理容器11、被加工シリコン酸化物13を載置するステージ12、ステージ12を駆動するステージ駆動機構14、電子線源15及びカーボン銃16を備えている。この本発明の実施例3においては、さらに、水素ラジカル導入部29を有している。
【0048】
まず、
図7(a)に示すように、実施例1と同様に、処理容器内において、フェナントレンガス17を被加工シリコン酸化物13に向けて吐出させるとともに、ステージ12を駆動して被加工シリコン酸化物13の所定の位置に電子線18を3keVで照射する。この時、電子線の照射位置にアモルファスカーボン19が堆積するとともに、被加工シリコン酸化物13との界面に主に炭素と水素とシリコンとからなる反応層20が形成される。
【0049】
次いで、
図7(b)に示すように、同じ処理容器内において、水素ラジカル導入部29を介して水素ラジカル30を導入してアモルファスカーボン19を除去する。なお、水素ラジカル30は、タングステン熱フィラメントを用いて発生させる。
【0050】
引き続いて、
図7(c)に示すように、水素ラジカル30を引き続き導入することによって、反応層20が除去されて凹部24が形成される。
【0051】
このように、本発明の実施例3においては反応層の除去工程において、水素ラジカルを用いているので、反応層の形成工程と反応層の除去工程を共に同一の容器内の真空環境下で行なうことになり、UV/O
3法より連続して迅速に行なうことが可能となる。これは、反応層の形成工程と反応層の除去工程を複数回繰り返して深い加工を行なう場合に特に有利となる。
【0052】
ここで、実施例1乃至実施例3を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)シリコン酸化物からなる被加工物上に水素
を分子構造として含むとともに6個以上の炭素を
分子構造として含む有機化合物ガスを供給しながら、エネルギビームを照射して、照射部位における前記シリコン酸化物をシリコン含有炭素化合物に変換する工程と、前記変換したシリコン含有炭素化合物をハロゲンを含まない雰囲気中で化学反応により除去する工程とを有することを特徴とするシリコン酸化物加工方法。
(付記2)前記有機化合物ガスが、フェナントレンであることを特徴とする付記1に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記3)前記エネルギビームが、電子ビームまたはレーザビームであることを特徴とする付記1または付記2に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記4)前記シリコン含有炭素化合物を除去する工程において、純度が95%以上の高純度オゾンガスと不飽和炭化水素ガスを用いたことを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記5)前記シリコン含有炭素化合物を除去する工程において、酸素またはオゾンと、紫外線とを用いたことを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記6)前記シリコン含有炭素化合物を除去する工程において、水素ラジカルを用いたことを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記7)前記シリコン酸化物が、石英ガラスまたは金属を添加した石英ガラスであることを特徴とする付記1乃至付記6のいずれか1に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記8)前記シリコン酸化物からなる被加工物が、リソグラフィ用のマスク基板或いはナノインプリントリソグラフィ用のテンプレートであることを特徴とする付記1乃至付記7のいずれか1に記載のシリコン酸化物加工方法。
(付記9)付記1乃至付記3のいずれか1に記載のシリコン酸化物加工方法で平坦化或いは凹部を形成したことを特徴とするリソグラフィ用マスク基板。
(付記10)被加工材料上の所望の部分に水素
を分子構造として含むとともに6個以上の炭素を
分子構造として含む有機化合物ガスを供給する有機化合物供給手段と、前記有機化合物ガスを供給した部位にエネルギビームを照射するエネルギビーム照射手段と、前記シリコン含有炭素化合物を除去する除去手段とを備えたことを特徴とするシリコン酸化物加工装置。