(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5673386
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】送液ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 53/16 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
F04B21/08 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-139019(P2011-139019)
(22)【出願日】2011年6月23日
(65)【公開番号】特開2012-31850(P2012-31850A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2010-147029(P2010-147029)
(32)【優先日】2010年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】麻生 喜昭
【審査官】
尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−062505(JP,U)
【文献】
特表平10−503572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 53/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室と、
前記ポンプ室内に先端から挿入され一定方向に往復動を行なってポンプ室内の容積を増減するプランジャと、
前記ポンプ室の前記プランジャ挿入部分において前記プランジャの外周面と摺動して前記ポンプ室を封止するシール部材と、を備えた送液ポンプにおいて、
前記ポンプ室は内側が円筒形の金属製であり、
前記ポンプ室の内周面の少なくとも一部を覆う円筒形スリーブを備えて前記プランジャとの間の隙間を少なくする樹脂製の容積低減部材を備えていることを特徴とする送液ポンプ。
【請求項2】
前記容積低減部材は、さらに、前記ポンプ室の最奥面に配置され、上死点に達した前記プランジャの先端面との間の隙間を少なくするスペーサを備えている請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項3】
前記容積低減部材の材質は全芳香族ポリイミド樹脂又はポリエーテルエーテルケトン樹脂である請求項1又は2に記載の送液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャをポンプ室内で往復動させることにより液の吸引と吐出を行なう送液ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なプランジャ方式の送液ポンプは、円筒形のポンプ室内をプランジャが往復動してポンプ室内の空間容積を変化させることで、ポンプ室内への液の吸引と吸引した液の吐出を行なうものである。一般的に、プランジャの材質としてサファイアが使用され、ポンプ室の材質としてステンレスが使用されている。
【0003】
このような送液ポンプでは、プランジャが上死点に達している状態(液の吐出が終了し吸引を開始する状態)において、ポンプ室の内壁とプランジャの外形との間の空間を極力小さくするように設計している。ポンプ室の内壁とプランジャの外形との間に大きな空間が存在すると、プランジャが上死点に達しているときに圧縮を受けている液の量(圧縮容量)が大きくなり、送液の脈動の原因となる。また、ポンプ室内の圧縮容量が大きいと、その分だけ液の吸引時にポンプ室内が大気圧に戻るまでの時間が長くなり、シール部材に高圧力がかかった状態が長くなってシール部材の耐久性を低下させる。
【0004】
特に、最近では、ポンプ室内の圧力を利用してポンプ室のプランジャ挿入部分のシール性を向上させるようにした形状のシール部材が用いられることがあり(特許文献1参照。)、このようなシール部材に長時間にわたって高圧力がかかると、シール部材の寿命が著しく低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−180088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポンプ室の内壁とプランジャの外形との間の隙間を小さくしすぎると、プランジャの外形とポンプ室の内壁とが接触する虞がある。サファイアなどで構成されるプランジャとステンレスなどの金属で構成されるポンプ室の内壁が接触すると、摩擦熱の発生によるシール部材の寿命の低下や、プランジャ先端がポンプ室の最奥部に接触することによるプランジャ先端の破損を招くという問題がある。そのため、ポンプ室の内壁とプランジャの外形との間に接触が起こらない程度の隙間を設ける必要があり、ポンプ室の内壁とプランジャの外形との間の空間を小さくするには限界があった。
【0007】
そこで、本発明は、ポンプ室の金属製内壁とプランジャ外形とを接触させることなくポンプ室内の液の圧縮容量を低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる送液ポンプは、ポンプ室と、ポンプ室内に先端から挿入され一定方向に往復動を行なってポンプ室内の容積を増減させるプランジャと、ポンプ室のプランジャ挿入部分においてプランジャの外周面と摺動してポンプ室を封止するシール部材と、を備えた送液ポンプであって、ポンプ室は内側が円筒形の金属製であり、ポンプ室の内壁の少なくとも一部を覆ってプランジャとの間の隙間を少なくする樹脂製の容積低減部材を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
容積低減部材の材質としては、全芳香族ポリイミド樹脂又はポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEK)樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は耐摩耗性に優れている。
【0010】
容積低減部材の一例としてポンプ室の内周面の少なくとも一部を覆う円筒形スリーブが挙げられる。その場合、そのスリーブの内径とプランジャの外周面と間の隙間がなるべく少なくなるように、例えば10〜100μm程度の隙間となるように、スリーブの内径とプランジャの外周面寸法を設計しておく。このような微小な隙間であれば、プランジャの往復運動の際にプランジャがスリーブに接触することが予想される。しかし、樹脂材料は金属材料よりも摺動性に優れているため、プランジャの外周面と接触しても発生する摩擦熱が少なく、ポンプ室内壁とプランジャの外周面とが接触した状態で送液を行なっても摩擦熱によるシール部材の劣化が起こりにくい。
【0011】
また、容積低減部材の他の例として、ポンプ室の最奥面を覆って上死点に達したプランジャの先端面との間の隙間を埋めるスペーサが挙げられる。
【0012】
いずれの場合もポンプ室内の圧縮容量を低減することができ、シール部材への負荷を緩和することができる。また、スリーブとスペーサの両方を備えていれば、より圧縮容量の低減を図ることができる。
【0013】
なお、プランジャの動作において、ポンプ室内に液を最大限に吸引した状態(プランジャがポンプ室から最も引き抜かれた状態)を「下死点」、ポンプ室内の液を最大限に吐出した状態(プランジャがポンプ室内に最も挿入された状態)を「上死点」という。
【発明の効果】
【0014】
本発明の送液ポンプでは、ポンプ室の内壁の少なくとも一部を覆ってプランジャとの間の隙間を埋める樹脂製の容積低減部材が設けられているので、ポンプ室内の圧縮容量を低減することができ、ポンプ室内が高圧状態となる時間を短くして、シール部材にかかる負荷を小さくし、シール部材の寿命の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】送液ポンプの第1実施例を示す図であり、(A)はその断面図、(B)は(A)のポンプ室及びその周辺を拡大した図である。
【
図2】送液ポンプの第2実施例を示す図であり、(A)はその断面図、(B)は(A)のポンプ室及びその周辺を拡大した図である。
【
図3】送液ポンプの第3実施例を示す図であり、(A)はその断面図、(B)は(A)のポンプ室及びその周辺を拡大した図である。
【
図4】第1、第2又は第3の実施例の送液ポンプを備えた液体クロマトグラフの一実施例を示す流路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
送液ポンプの第1実施例について
図1を用いて説明する。この実施例の送液ポンプはシリンジ2とポンプヘッド8とからなる。シリンジ2はクロスヘッド4を内部に格納している。クロスヘッド4はプランジャ3の基端側の端面を保持し、バネ6の弾性力によってカム(図示略)の周面に押しつけられている。カムが駆動用モータ(図示略)によって回転させられることにより、クロスヘッド4とプランジャ3はカムの周面に追従して往復運動を行なう。
【0017】
ポンプヘッド8はシリンジ2に取り付けられている。ポンプヘッド8は、クロスヘッド4に保持されたプランジャ3の先端部分の往復運動によって液体の吸入及び吐出を行なうように、ポンプ室8a、液体吸入流路8b及び液体吐出流路8cを備えている。液体吸入流路8b及び液体吐出流路8cにはそれぞれポンプ室8a内の圧力変化を利用してこれらの流路8b,8cの開閉を行ない、逆流を防止するチェック弁10a,10bが設けられている。
【0018】
プランジャ3の先端部はポンプ室8aに挿入され、クロスヘッド4の往復運動に伴なって、ポンプ室8a内の空間を広げながら液体吸入流路8bからポンプ室8a内に液体を吸入する方向(図では右方向)と、ポンプ室8a内の空間を狭めながらポンプ室8a内の液体を液体吐出流路8cへと押し出す吐出方向(図では左方向)に対して往復運動を行なう。
【0019】
ポンプ室8aは円筒形状であり、その内側周面に容積低減部材としてのスリーブ9が固着されている。スリーブ9の材質は、例えば全芳香族ポリイミド樹脂であるベスペル(登録商標)やPEEK樹脂である。ポンプ室8aの内径は例えば2.2mm、プランジャ3の外径は例えば2mmである。この場合、スリーブ9の肉厚は0.1mmよりわずかに小さく、スリーブ9の内側とプランジャ3との間に10〜数十μmの隙間をもって嵌合するように設計されている。スリーブ9の側壁部分に貫通穴が設けられており、その貫通穴を液体吸入流路8bからの液が通過できるように、その貫通穴と液体吸入流路8bが位置合わせされている。
【0020】
スリーブ9をポンプ室8a内に設ける方法として、流路8b,8cを形成する前のポンプ室8a内にスリーブ9を圧入し、その後流路8b,8cを形成するようにする。流路8bを形成する加工の際にスリーブ9にも流路8bの位置に穴が開けられる。
【0021】
スリーブ9が設けられていることにより、ポンプ室8a内においてポンプ室8aの内壁とプランジャ3の外形との間の隙間によって生じる空間が小さくなる。これにより、プランジャ3が上死点に達したときに圧縮を受ける液の量(圧縮容量)が小さくなり、プランジャ3が吸引動作を開始したときにポンプ室8a内が大気圧に戻るまでの時間が短くなってポンプ室8a内が高圧状態となっている時間が短くなる。したがって、プランジャシール12にかかる負荷が小さくなり、プランジャシール12の寿命の低下を防止することができる。
【0022】
図2は第2の実施例を表わす。この実施例では、圧縮容量を低減するために、ポンプ室8aの最奥面に容積低減部材としてのスペーサ9aが設けられている。スペーサ9aの材質としてはPEEK樹脂が挙げられる。スペーサ9aは上死点に達したプランジャ3の先端面とポンプ室8aの最奥面との間の隙間を埋める厚みをもっている。そのため、上死点に達したプランジャ3の先端がスペーサ9aに接触することもあり得るが、スペーサ9aは弾性変形可能な樹脂であるため、プランジャ3の先端を損傷させることなく圧縮容量の低減を図ることができる。スペーサ9aは円盤形状の部材であるが、液体吐出流路8cを塞がないように一部に切欠きが設けられており、その切欠き部分が液体吐出流路8cの位置に位置決めされている。
【0023】
スリーブ9aをポンプ室8a内に設ける方法としても、流路8b,8cを形成する前のポンプ室8aの内奥にスリーブ9を圧入し、その後流路8b,8cを形成するようにする。
【0024】
図3は第3の実施例を表わす。この実施例では、圧縮容量を低減するために、容積低減部材として、ポンプ室8aの内側周面のスリーブ9と、ポンプ室8aの最奥面のスペーサ9aとの両方が設けられている。
【0025】
スリーブ9とスペーサ9aの両方をポンプ室8a内に設ける方法としては、スリーブ9とスペーサ9aを一体化した形状の円筒状の部材を全芳香族ポリイミド樹脂であるベスペル(登録商標)又はPEEK樹脂で製作し、その円筒状部材を円筒の底がポンプ室8aの内奥になるように圧入し、その後流路8b,8cを形成するようにする。
【0026】
ポンプヘッド8には、ポンプ室8aを封止しかつプランジャ3を摺動可能に保持するプランジャシール(シール部材)12が取り付けられている。シリンジ2とポンプヘッド8との間にはフランジ14が取り付けられている。フランジ14は、プランジャシール12に関してポンプ室8aとは反対側において、プランジャシール12に接してプランジャシール12を支持している。フランジ14には、プランジャシール12との接触部分に、プランジャ3を摺動可能に保持するための穴が設けられている。
【0027】
プランジャシール12はポンプ室8a内の圧力によってプランジャ3の外周面との密着性及びポンプヘッド8の内壁との密着性が向上するようにポンプ室8aに通じる開口をもつ空洞部分12aが設けられている。
【0028】
フランジ14は洗浄液を導入してフランジ14を通るプランジャ3及びフランジ14内部を洗浄できる構造となっている。フランジ14には、フランジ14の内部に導入された洗浄液の漏れを防止するための洗浄シール16がシリンジ2側から取り付けられている。洗浄シール16はシリンジ2によって支持されている。
【0029】
なお、この実施例に示した送液ポンプでは、ポンプヘッド8内にチェック弁10a,10bが設けられているが、いずれかのチェック弁がポンプヘッド8の外部に設けられていてもよいし、両方のチェック弁がポンプヘッド8の外部に設けられていてもよい。
【0030】
また、この実施例ではプランジャシール12を支持する支持部材として、洗浄液によってプランジャ3等の洗浄が可能なフランジ14が取り付けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、フランジは洗浄液を導入及び排出する流路を備えていないものであってもよいし、シリンジ2と一体化したものであってもよい。
【0031】
この実施例において、プランジャシール12に空洞部分12aが設けられているが、ポンプ室8aを封止するシールとしてはこのような空洞部分12aが設けられていないものであってもよい。
【0032】
次に、本発明の送液ポンプを液体クロマトグラフに使用した例について
図4を用いて説明する。
【0033】
分析流路20で移動相22を流通させるための送液ポンプ24として
図1から
図3で説明した実施例の送液ポンプのいずれかが用いられている。分析流路20上には、インジェクションポート26、分析カラム28及び検出器30が上流側から順に配置されている。送液ポンプ24によって送液される移動相22により、インジェクションポート26から注入された試料が分析カラム28に導入され、成分ごとに分離されてそれぞれ検出器30で検出される。
【0034】
送液ポンプ24として本発明の送液ポンプが用いられているので、送液ポンプ24による送液の脈動が低減され、分析流路20における移動相22の送液が安定し、分析精度が向上する。
【符号の説明】
【0035】
2 シリンジ
3 プランジャ
4 クロスヘッド
6 バネ
8 ポンプヘッド
8a ポンプ室
8b 液体吸入流路
8c 液体吐出流路
9,9a 容積低減部材
10a,10b チェック弁
12 プランジャシール
12a 空洞部分
14 フランジ
16 洗浄シール