(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術では、バルブオーバーラップ期間において吸気ポートから排気ポートへのHCの吹き抜けを抑制することはできるものの、吸気口近傍よりも上流側の吸気ポート内壁面へ向けて燃料噴射するため、噴射された燃料がポート壁面に付着し、燃料の霧化が十分に行なうことができず、燃焼が良好に実施できない虞がある。この結果、エンジンの出力トルクを十分に発生しないばかりでなく、排気エミッションの増加を招く虞もある。
【0011】
この点、マルチポート噴射式エンジンは、各吸気バルブの動作と対応させてきめ細やかな燃料噴射制御を行なうことができるという特性があるので、バルブオーバーラップ期間におけるHCの吹き抜け排出を抑制できるようにするのに有利であり、また、直噴式エンジンに比べて燃料噴射系統のコスト増を抑えることができる。しかしながら、特許文献2,3には、このような着目はない。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、マルチポート噴射式エンジンにおいて、バルブオーバーラップを利用して充填効率の向上を促進して出力トルクを確保する際に、吹き抜けHCを低減して燃費の向上及び排気エミッションの低減を図ることができるようにした、エンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明のエンジン制御装置は、第1の吸気ポートにおける燃焼室への吸気口を開閉する第1の吸気バルブと、第2の吸気ポートにおける前記燃焼室への吸気口を開閉する第2の吸気バルブと、排気ポートにおける前記燃焼室への排気口を開閉する排気バルブと、前記第1の吸気ポートに設けられた第1の燃料噴射手段と、前記第2の吸気ポートに設けられた第2の燃料噴射手段と、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段による検出情報に基づいて前記の各吸気バルブの開閉タイミングをそれぞれ個別に制御する吸気バルブ制御手段と、前記運転状態検出手段による検出情報に基づいて前記の各燃料噴射手段による燃料噴射時期をそれぞれ個別に制御する燃料噴射制御手段と、を有するエンジンの制御装置であって、前記運転状態検出手段により検出された運転状態が特定運転領域であると
特定制御を実施し、前記特定制御では、前記吸気バルブ制御手段は、前記第1の吸気バルブの開放期間と前記排気バルブの開放期間とを重複させるバルブオーバーラップを第1の期間だけ実施すると共に、前記第2の吸気バルブの開放期間と前記排気バルブの開放期間とを重複させるバルブオーバーラップを実施しないか或いは前記第1の期間よりも短い第2の期間だけ実施し、前記燃料噴射制御手段は、
前記第1の燃料噴射手段による噴射燃料が前記第1の吸気ポートの吸気口を経て前記燃焼室から前記排気口に到達する際には前記排気バルブが閉鎖されているように前記第1の燃料噴射手段による燃料噴射のタイミングを制御すると共に、前記第1の期間と前記第1の燃料噴射手段による
噴射燃料の前記排気口への到達期間との重複期間(第1の重複期間T
1)が
、前記第2の期間と前記第2の燃料噴射手段による
噴射燃料の前記排気口への到達期間との重複期間(第2の重複期間T
2)以下となるように前記第1の燃料噴射手段による燃料噴射を前記第2の燃料噴射手段による燃料噴射よりも遅れて実施することを特徴としている。
【0014】
また、
前記特定制御では、前記燃料噴射制御手段は、前記第1の燃料噴射手段による燃料噴射を前記第1の吸気バルブの開放期間に実施し、前記第2の燃料噴射手段による燃料噴射を前記第2の吸気バルブの閉鎖期間に実施することが好ましい。
また、前記運転状態検出手段は、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、吸気圧を検出する吸気圧検出手段とを有し、前記特定運転領域は、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数が所定の範囲内(例えば、バルブオーバーラップ期間を設けることで充填効率の向上が顕著なエンジン回転数の範囲)であって、前記吸気圧検出手段により検出された前記吸気圧が前記排気ポートから流出する排気圧以上の運転領域であることが好ましい。
【0015】
また、運転者の要求出力トルクを算出する要求出力トルク算出手段と、前記エンジンの実出力トルクを検出する出力トルク検出手段とを有し
、前記要求出力トルク算出手段により算出された要求出力トルクに対して前記出力トルク検出手段により検出された前記エンジンの実出力トルクが不足状態である場合には、
前記運転状態検出手段により検出された前記エンジンの運転状態が前記特定運転領域であっても出力不足対応制御を実施し、前記出力不足対応制御では、前記吸気バルブ制御手段は、前記第1の期間の範囲で前記第2の期間を大きくするように制御し、前記燃料噴射制御手段は、前記第2の燃料噴射手段による燃料噴射を前記第2の吸気バルブの開弁期間に実施することが好ましい。すなわち、エンジンの実出力トルクの不足状態では、第1の吸気バルブのバルブオーバーラップ期間は第1の期間に制御され、第2の吸気バルブのバルブオーバーラップ期間は第1の期間の範囲内において第2の期間を大きくするように制御され、また、第1の燃料噴射手段による燃料噴射は第1の吸気バルブの開放期間に実施され、第2の燃料噴射手段による燃料噴射は第2の吸気バルブの開放期間に実施されることが好ましい。
【0016】
例えば、前記運転状態検出手段による検出情報に基づいてスロットルバルブの開度を制御するスロットル開度制御をさらに有し、前記要求出力トルク算出手段により算出された要求出力トルクに対する前記出力トルク検出手段により検出された前記エンジンの実出力トルクの不足状態が著しい場合(要求出力トルクに対して実出力トルクが著しく不足する場合)には、前記スロットル開度制御部は、スロットル開度を補正して増加することが好ましい。
【0017】
また、前記第1及び第2の吸気ポートの上流側には、コンプレッサが設けられ、前記運転状態検出手段は、前記コンプレッサと連結されて排気通路に設けられたタービンを通過する前の前記排気圧を検出する排気圧検出手段をさらに有し、前記特定運転領域は、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数が所定の範囲内であって、前記吸気圧検出手段により検出された前記吸気圧が前記排気圧検出手段により検出された前記排気圧以上の運転領域であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
(1)本発明のエンジン制御装置によれば、吸気バルブ制御手段は、第1の吸気バルブの開放期間が排気バルブの開放期間と第1の期間だけ重複するため、バルブオーバーラップによる吸気の吹き抜けを利用して充填効率を促進して出力トルクを確保することができる。
また、第2の燃料噴射手段による燃料噴射は、第1の燃料噴射手段による燃料噴射よりも早期に実施されるため、噴射された燃料の気化促進及び新気との混合促進を図ることができる。
【0019】
また、吸気バルブ制御手段は、第2の吸気バルブの開放期間を排気バルブの開放期間と重複させないか或いは第1の期間よりも短い第2の期間だけ重複させるため、第2の吸気ポートに噴射された燃料のバルブオーバーラップによる排気側への吹き抜けを解消又は抑制することができ、吹き抜けHCを防止又は低減することができる。
燃料噴射時期を早めると噴射直後にポート壁面に付着した燃料も気化し空気との混合が促進される利点がある反面、バルブオーバーラップ(吸気バルブの開放期間と排気バルブの開放期間との重複)により、混合気の一部が燃焼室内を通過して排気ポートに吹き抜けると、この混合気に燃料が十分に含まれているため、吹き抜け燃料量が増大する。
【0020】
一方、燃料噴射時期を遅らせると噴射直後にポート壁面に付着した燃料の気化が遅れるため空気との混合も遅れるがこの反面、バルブオーバーラップの時点では、ポート壁面に付着して気化が遅れた燃料など一部の燃料が含まれない混合気の一部が燃焼室内を通過して排気ポートに吹き抜けるため、吹き抜け燃料量が抑制され、吹き抜けHCを低減させることができる。
【0021】
また、バルブオーバーラップを長くすれば、吸気の充填効率が向上する半面、バルブオーバーラップによる混合気の排気ポートへの吹き抜けも増大する。
したがって、燃料噴射制御手段は、第1の燃料噴射手段による燃料噴射を第2の燃料噴射手段による燃料噴射よりも遅れて実施するため、第1の吸気ポートの吸気については、バルブオーバーラップが長い(第1の期間は第2の期間よりも長い)ことにより混合気の排気ポートへの吹き抜け量も多いが、混合気中の燃料はポート壁面への付着等により液滴としてポート内に留まり気化が遅れた燃料分だけ少ないため、吹き抜け燃料量は抑制される。また、第2の吸気ポートの吸気については、燃料が十分に含まれた比較的燃料濃度の高い混合気の一部が燃焼室内を通過して排気ポートに吹き抜けるが、バルブオーバーラップが短い(第2の期間は第1の期間よりも短い)ため、混合気の排気ポートへの吹き抜け量が少なく、吹き抜け燃料量は抑制される。
【0022】
燃料噴射制御手段は、第1の燃料噴射手段に対しては、第1の燃料噴射手段による
噴射燃料の排気口への到達期間を第1の期間と重複させる場合は該重複期間(第1の重複期間T
1)を第2の燃料噴射手段による
噴射燃料の排気口への到達期間と第2の期間とを重複させる場合の重複期間(第2の重複期間T
2)よりも短くなるように制御
するため、第2の燃料噴射手段による
噴射燃料の排気口への到達期間と第1の期間よりも短い第2の期間と重複させたとしても、この
噴射燃料の排気口への到達期間と第2の期間との重複期間(第2の重複期間T
2)も、短いバルブオーバーラップ期間により制限される。一方、第1の期間は第2の期間よりも長いが、第1の燃料噴射手段による
噴射燃料の排気口への到達期間と第1の期間と重複させる場合、この
噴射燃料の排気口への到達期間と第1の期間との重複期間(第1の重複期間T
1)を、第2の燃料噴射手段による
噴射燃料の排気口への到達期間と第2の期間とを重複させる場合の重複期間(第2の重複期間T
2)よりも短くするので、かかる重複期間(第1の重複期間T
1)も制限される。したがって、吹き抜け燃料量の増大が抑制され、吹き抜けHCを低減させることができる。
これらより、エンジンの出力トルクを確保するとともに、吹き抜けHCを低減して燃費の向上及び排気エミッションの低減を図ることができる。
【0023】
(2)また、燃料噴射制御手段は、第1の燃料噴射手段による燃料噴射をバルブオーバーラップ前の第1の吸気バルブの閉鎖期間でなく第1の吸気バルブの開放期間、即ち、吸気行程に実施すれば、バルブオーバーラップ終了後に燃焼室内へ燃料を供給することが可能になり、吹き抜けHCを低減させることができる。
【0024】
また、第1の吸気ポートでは、吸気行程において燃料が噴射されれば、燃料と新気との混合促進時間を確保し難いが、燃料噴射制御手段は、第2の燃料噴射手段による燃料噴射を第2の吸気バルブの閉鎖期間に実施すれば、第2の吸気ポートでは、吸気行程よりも前に燃料が噴射され、噴射された燃料が第2の吸気バルブの開放により燃焼室に進入するまでの時間だけ、燃料と新気との混合促進時間を長く確保することができ、この第2の吸気ポートから燃焼室内に進入する混合を促進された混合気が、第1の吸気ポートから燃焼室内に進入する燃料と新気との混合をも促進し、燃焼を良好に行なうことができる。
【0025】
(3)吸気圧が排気圧よりも大きい場合には、HCの吹き抜けが生じ易いが、吸気圧が排気圧よりも小さい場合には、HCの吹き抜けが生じ難い。このため、HCの吹き抜けが生じ易い吸気圧が排気ポートから流出する排気圧より大きい場合を特定運転領域とすれば、適切に第1の燃料噴射手段による燃料噴射時期を制御して、HCの吹き抜けを低減することができる。
バルブオーバーラップによる充填効率の向上はエンジン回転数に依存し、例えばバルブオーバーラップにより確実に充填効率の向上が得られるエンジン回転数の範囲といった所定の範囲内を特定運転領域とすれば、充填効率の向上及び吹き抜けHCの低減を効果的に行なうことができる。
【0026】
(4)吸気バルブ制御手段は、第1の期間の範囲内において第2の期間を大きくするように制御すれば、第2の吸気バルブのバルブオーバーラップ期間が大きくなるため、つまり、バルブオーバーラップのない場合(第2の期間がゼロ)はバルブオーバーラップが設けられバルブオーバーラップのある場合はその期間(第2の期間)が大きくされるため、さらに充填効率を向上させることができる。このとき、第1及び第2の燃料噴射手段による燃料噴射が、第1及び第2の吸気バルブの開放期間に実施されれば、燃料と新気との混合促進の面で十分でなくても、吹き抜けHCを低減させ且つエンジン出力を向上させることができる。
【0027】
(5)バルブオーバーラップ期間を有する場合であっても、噴射された燃料が排気口を通過することができなければ、HCの吹き抜けは生じない。このため、燃料噴射制御手段は、第1の燃料噴射手段による燃料噴射が、第1の吸気ポートの吸気口を経て燃料室から排気口に到達する際には排気バルブが閉鎖されているように、第1の燃料噴射手段による燃料噴射のタイミングを制御すれば、HCの吹き抜けを防止することができる。
【0028】
(6)第1及び第2の吸気ポートの上流側にコンプレッサが設けられ、排気通路にコンプレッサと連結されたタービンが設けられれば、排気流を用いてタービンを介したコンプレッサにより吸気が強制的に送り込まれるため、吸気の充填効率をさらに向上させることにより出力トルクを確保することができる。この際、特定運転領域は、エンジンの回転数が所定の範囲内であって、吸気圧が排気圧以上の運転領域であれば、吸排気圧の変動に対して適正な燃料噴射を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜
図6は、本発明の第1実施形態にかかるエンジン制御装置を説明するもので、
図1はその構成図、
図2はそのエンジンの気筒上部の模式的な平面図、
図3はその制御を適用する特定運転領域を説明する図、
図4はその制御によるバルブ開閉タイミング及び燃料噴射時期を説明する図、
図5はその制御フローを説明するフローチャート、
図6はその出力不足対応制御を説明するフローチャートである。
【0031】
〔エンジンの主要構成〕
まず、本実施形態にかかるエンジン制御装置が適用されるエンジン及びその周辺構成を説明する。なお、本実施形態にかかるエンジンは、4サイクルの内燃機関であり、自動車に搭載される。
本実施形態にかかるエンジン10は、マルチバルブ式の多気筒エンジンである。
図1には、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダ(気筒)19のうちの一つを縦断面にて示す。
【0032】
図1に示すように、エンジン10のシリンダブロック10Bには、シリンダ19が図面と直交する方向に複数並んで形成され、各シリンダ19には、シリンダ19内を往復摺動するピストン16が装備され、このピストン16は、コネクティングロッド16aを介してクランクシャフト17に接続される。
このシリンダ19の燃焼室Bの上部は、シリンダ19に対向するシリンダヘッド10Hの下面を凹設されることにより形成されるが、本実施形態では、燃焼室Bは、上部が三角屋根状をなすペントルーフ型に形成されている。三角屋根の一方の斜面には一対の吸気ポート11A,11B(第1の吸気ポート11A,第2の吸気ポート11B)が接続され、他方の斜面には一対の排気ポート12A,12B(第1の排気ポート12A,第2の排気ポート12B)が接続される。
【0033】
三角屋根の頂部の中央部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室B側に突出させた状態で設けられる。
それぞれの吸気ポート11A,11Bには吸気バルブ14A,14B(第1の吸気バルブ14A,第2の吸気バルブ14B)が設けられ、吸気バルブ14A,14Bの往復駆動により、吸気ポート11A,11Bの燃焼室Bに臨む箇所(吸気口)11a,11b(第1の吸気口11a,第2の吸気口11b)において開閉動作して、吸気ポート11A,11Bと燃焼室Bとが連通又は遮蔽される。
【0034】
同様に、それぞれの排気ポート12A,12Bには排気バルブ15A,15B(第1の排気バルブ15A,第2の排気バルブ15B)が設けられ、排気バルブ15A,15Bの往復駆動により、排気ポート12A,12Bの燃焼室Bに臨む箇所(排気口)12a,12b(第1の排気口12a,第2の排気口12b)において開閉動作して、排気ポート12A,12Bと燃焼室Bとが連通又は遮蔽される。
【0035】
〔吸排気系の構成〕
一対の吸気バルブ14A,14Bは、動弁機構により同期して(同時に)又は位相差を持って開閉動作し、一対の排気バルブ15A,15Bは同期して(同時に)開閉動作する。
第1の吸気バルブ14A及び第2の吸気バルブ14Bは、その下端に笠部が形成されたポペット弁であり、その各笠部が第1の吸気口11a又は第2の吸気口11bを開閉する。同様に、第1の排気バルブ15A及び第2の排気バルブ15Bも、その下端に笠部が形成されたポペット弁であり、その各笠部が第1の排気口12a又は第2の吸気口11bを開閉する。
【0036】
第1の吸気バルブ14A及び第2の吸気バルブ14Bの各上端部はそれぞれロッカアーム35の一端に当接され、第1の排気バルブ15A及び第2の排気バルブ15Bの各上端部はそれぞれロッカアーム37の一端に当接される。ロッカアーム35,37はロッカシャフトに軸支された揺動部材であり、それぞれのロッカアーム35,37の揺動により吸気バルブ14及び排気バルブ15が往復駆動される。これらの往復駆動により各吸気ポート11A,11Bと燃焼室Bとが連通又は遮蔽され、各排気ポート12A,12Bと燃焼室Bとが連通又は遮蔽される。また、ロッカアーム35,37の他端には、カムシャフトに軸支されたカム36,38が設けられる。これにより、ロッカアーム35,37の揺動パターンはカム36,38の形状(カムプロファイル)に応じたものとなる。
【0037】
このエンジン10では、排気バルブ15A,15Bは動作が一定の動弁機構がそなえられるが、吸気バルブ14A,14Bの動弁機構には、ロッカアーム35又はカム36の動作を可変に制御する可変動弁機構6が適用されている。可変動弁機構6は、吸気バルブ14A,14Bそれぞれについて、バルブの開閉タイミング(バルブタイミング)を個別に変更可能な動弁機構である。本可変動弁機構6は、例えばロッカアーム35の揺動のタイミングを変更する機構として構成される可変バルブタイミング機構6aを備えている。
【0038】
この可変バルブタイミング機構6aは、吸気バルブ14A,14Bのバルブ開閉タイミングを変更する機構である。この可変バルブタイミング機構6aは、ロッカアーム35に揺動を生じさせるカム36又はこのカムシャフトの回転位相を変更する機能を有する。カム36又はこのカムシャフトの回転位相を変更することで、クランクシャフト17の回転位相に対するロッカアーム35の揺動のタイミングを連続的にずらす(シフトする)ことが可能となる。
【0039】
また、ここでは、可変動弁機構6として、カムプロファイル自体は変更しないでバルブ開閉タイミングを単に前後に変更(シフト)するもの、つまり、バルブの開閉タイミングを前後に変更(シフト)するがバルブのリフト量は変更しないものを用いているが、バルブの開閉タイミングと共にバルブのリフト量も連動して変更するタイプの可変動弁機構を用いても良い。
【0040】
図2に示すように、吸気ポート11A,11Bを有する吸気ポート部11は、上流のインテークマニホールド20(
図1参照、以下、インマニという)と連通接続された単一の吸気ポート上流部11Cと、この一本の吸気ポート上流部11Cから分岐してそれぞれシリンダ19の燃焼室Bに臨む箇所まで延在する第1の吸気ポート11Aと第2の吸気ポート11Bとから構成される。ここでは、第1の吸気ポート11Aと第2の吸気ポート11Bとは互いに対称に形成される。
【0041】
第1の吸気ポート11Aは、その吸気流の下流端の燃焼室Bに臨む箇所に第1の吸気口11aを有し、第1の吸気ポート11A内の空気はこの第1の吸気口11aを介して燃焼室Bに供給される。同様に、第2の吸気ポート11Bは、その吸気流の下流端の燃焼室Bに臨む箇所に第2の吸気口11bを有し、第2の吸気ポート11B内の空気はこの第2の吸気口11bを介して燃焼室Bに供給される。これらの吸気ポート11A,11Bの吸気口11a,11bは、燃焼室Bの上部に形成された三角屋根の一方の斜面に形成される。
【0042】
第1の吸気ポート11Aには第1の吸気バルブ14Aが設けられ、第2の吸気ポート11Bには第2の吸気バルブ14Bが設けられる。第1の吸気バルブ14A及び第2の吸気バルブ14Bは、その下端に笠部が形成されたポペット弁であり、その笠部が第1の吸気口11a又は第2の吸気口11bを開閉する。
第1の吸気ポート11Aには、第1のインジェクタ(第1の燃料噴射手段)18Aが設けられ、第2の吸気ポート11Bには、第2のインジェクタ(第2の燃料噴射手段)18Bが設けられる。つまり、本実施形態のエンジン10は、吸気ポート11A,11B毎にインジェクタ18A,18Bが設けられるエンジン(マルチポート噴射式エンジンともいう)である。
【0043】
ここでは、これらの第1の吸気バルブ14Aと第2の吸気バルブ14Bとも互いに対称に配置され、また、第1のインジェクタ18Aと第2のインジェクタ18Bとも互いに対称に配置される。
また、排気ポート12A,12Bを有する排気ポート部12は、それぞれシリンダ19の燃焼室Bに臨む箇所から下流側に延在する第1の排気ポート12Aと第2の排気ポート12Bと、これらの第1の排気ポート12A及び第2の排気ポート12Bが一本に合流して下流のエキゾーストマニホールド30(
図1参照、以下、エキマニという)に連通接続された排気ポート下流部12Cとから構成される。ここでは、第1の排気ポート12Aと第2の排気ポート12Bとは互いに対称に形成される。
【0044】
第1の排気ポート12Aは、その排気流の上流端の燃焼室Bに臨む箇所に第1の排気口12aを有し、第1の排気ポート12Aにはこの第1の排気口12aを介して燃焼室Bから排気が排出される。同様に、第2の排気ポート12Bは、その排気流の上流端の燃焼室Bに臨む箇所に第2の排気口12bを有し、第2の排気ポート12Bにはこの第2の排気口12bを介して燃焼室Bから排気が排出される。これらの排気ポート12A,12Bの排気口12a,12bは、燃焼室Bの上部に形成された三角屋根の他方の斜面に形成される。
【0045】
第1の排気口12aは第1の吸気口11aに対向して設けられ、第2の排気口12bは第2の吸気口11bに対向して設けられる。ここでいう「対向」とは、シリンダ19の稜線に相当する一点鎖線Xを挟んで互いに向かい合うことを意味する。
第1の排気ポート12Aには第1の排気バルブ15Aが設けられ、第2の排気ポート12Bには第2の排気バルブ15Bが設けられる。第1の排気バルブ15A及び第2の排気バルブ15Bは、その下端に笠部が形成されたポペット弁であり、その笠部が第1の排気口12a又は第2の排気口12bを開閉する。
【0046】
ここでは、これらの第1の吸気バルブ14Aと第2の吸気バルブ14Bとも互いに対称に配置される。
図1に示すように、吸気ポート部11の吸気流の上流側には、インマニ20が接続される。このインマニ20の上流部には、吸気ポート部11へ流れる吸気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダ19に向かって分岐するように形成され、その分岐点にサージタンク21は位置する。サージタンク21は、各シリンダ19で発生する吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0047】
インマニ20の上流端には、スロットルボディ23が接続される。スロットルボディ23の内部には電子制御式のスロットルバルブ24が内蔵され、インマニ20側へと流れる吸気の量が、スロットルバルブ24の開度(スロットル開度)に応じて調節される。また、スロットルボディ23は、スロットルバルブ24を動作しスロットル開度を変更可能なアクチュエータ23aと、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ23bとを有している。このスロットル開度は、車両ECU5によりスロットル開度センサ23bにより検出されたスロットル開度に基づいてアクチュエータ23aを動作することで調節される。
【0048】
スロットルボディ23のさらに上流側には、吸気通路25が接続され、この吸気通路25の上流側にはエアフィルタ28が介装される。これにより、エアフィルタ28で濾過集塵された吸気が、吸気通路25,インマニ20及び吸気ポート部11を介してエンジン10のシリンダ19に供給される。
一方、排気ポート部12よりも排気流の下流側には、エキマニ30,排気触媒32及び排気通路39が設けられる。エキマニ30は、各シリンダ19から合流するように形成され、その下流側で排気通路39と接続される。この排気通路39には、排気触媒32が介装される。
【0049】
排気触媒32は、排気中に含まれるHC(炭化水素)や一酸化炭素,窒素酸化物等を無害化する機能を持ち、例えば酸化触媒や三元触媒である。エンジン10の燃焼室Bから排出された排気中のHCは排気触媒32により酸化除去される。
また、このエンジン10の吸排気系には、排気圧を利用してシリンダ19に吸気を過給するターボチャージャ(過給機)31が設けられる。このターボチャージャ31は、吸気通路25と排気通路39との両方にまたがって介装され、排気通路39内の排気圧でタービン27を回転させ、その回転力を利用してコンプレッサ26を駆動することにより、吸気通路25内の吸気を圧縮して過給を行なう。なお、吸気通路25のコンプレッサ26の吸気流の下流側にはインタクーラ29が設けられ、圧縮された空気が冷却される。
【0050】
〔検出系〕
クランクシャフト17には、その回転角θ
CRを検出するクランク角センサ(エンジン回転数検出手段)33が設けられる。回転角θ
CRの単位時間あたりの変化量はエンジン10の回転数Neに比例する。したがって、クランク角センサ33はエンジン10の回転数Neを検出する機能を有するものといえる。ここで検出又は演算されたエンジン回転数Neの情報は後述の車両ECU5に伝達される。クランク角センサ33により検出された回転角θ
CRに基づいて、車両ECU5はエンジン回転数Neを演算する。
【0051】
スロットルバルブ24の下流側には、吸気圧P
1を検出する吸気圧センサ(吸気圧力検出手段)22が設けられる。本吸気圧センサ22は、第1の吸気ポート11A又は第2の吸気ポート11Bに流入する吸気圧に対応するサージタンク21内の圧力を検出する。なお、吸気圧センサ22の設置箇所はこれに限らず、各シリンダ19に接続される第1の吸気ポート11Aのそれぞれに吸気圧センサ22を設けてもよい。
【0052】
一方、排気口12a,12bとターボチャージャ31のタービン27との間(例えばエキマニ30の合流部内)には、排気ポート12A,12Bから流出する排気圧P
2を検出する排気圧センサ46が設けられる。本排気圧センサ46は、第1の排気ポート12A又は第2の排気ポート12Bから流出する排気圧に対応するタービン27を通過する前の排気圧P
2を検出する。なお、排気圧センサ46の設置箇所はこれに限らず、各シリンダ19に接続される排気ポート12A,12Bの何れか又はそれぞれに排気圧センサ46を設けてもよい。
【0053】
これらのセンサ22,46により検出された吸排気圧P
1,P
2の情報は、車両ECU5に伝達される。
また、車両には、アクセルペダルの踏込量に対応するアクセル開度θ
ACを検出するアクセルポジションセンサ34が設けられる。このアクセル開度θ
ACは運転者の加速要求に対応するパラメータであり、エンジン10への要求出力トルクに対応する。このアクセルポジションセンサ34により検出されたアクセル開度θ
ACの情報は、車両ECU5に伝達される。
【0054】
また、車両には、エンジン10の実出力トルクを検出する出力トルクセンサ(出力トルク検出手段)40が設けられる。本実施形態では、出力トルクセンサ40は例えばクランクシャフト17の出力端周縁に設けられる磁歪式トルクセンサを用いているが、出力トルクセンサ40はこれに限らない。このトルクセンサ40により検出された実出力トルクの情報は、車両ECU5に伝達される。
これらの検出系の構成(運転状態検出手段)である吸気圧センサ22,排気圧センサ46,クランク角センサ33,アクセルポジションセンサ34,出力トルクセンサ40により、車両の運転状態を検出することができる。
【0055】
〔制御系〕
車両ECU5は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM,入出力回路等からなる電子制御装置であって、スロットルボディ23等の電子制御装置や可変動弁機構6や各種センサと接続される。なお、上述の吸気圧センサ22,排気圧センサ46,クランク角センサ33,アクセルポジションセンサ34,出力トルクセンサ40及びスロットル開度センサ23bの各種センサは車両ECU5と接続される。
【0056】
各種センサに接続された車両ECU5は、各種センサにより車両の運転状態に応じた各種情報を取得する。
従来、各種センサにより検出された情報の瞬時値に対して移動平均等の適宜の処理を施して脈動成分等を除去した値を制御に用いているが、特定運転領域の判断を行なう場合の吸気圧P
1及び排気圧P
2については瞬時値を用いる。
【0057】
本実施形態では、サージタンク19に設けられた吸気圧センサ22により検出される瞬時値を吸気圧P
1として用いる。また、例えばエキマニ30の合流部内に設けられた排気圧センサ46により検出される瞬時値を排気圧P
2として用いる。
つまり、車両ECU5は、吸気圧センサ22及び排気圧センサ46により検出された脈動等の影響を受け常に変動する吸気圧の瞬時値P
1及び排気圧の瞬時値P
2を取得する。そして、燃料の吹き抜けが生じるバルブオーバーラップ期間中の吸気圧の瞬時値P
1及び排気圧の瞬時値P
2を制御に用いている。
【0058】
つまり、吸気圧センサ22により検出される吸気圧P
1は、各シリンダ19に流入する吸気の脈動成分を含んだものであるため、車両ECU5は、クランク角センサ33により検出されるクランク角θ
CRに基づいて各シリンダ19のバルブオーバーラップ期間の吸気圧P
1を取得する。同様に、排気圧センサ46により検出される排気圧P
2は、各シリンダ19から流出される排気の脈動成分を含んだものであるため、車両ECU5は、クランク角センサ33により検出されるクランク角θ
CRに基づいて各シリンダ19のバルブオーバーラップ期間の排気圧P
2を取得する。
【0059】
なお、車両ECU5は、制御に用いる値としての上記の瞬時値が十分な精度が得られない場合には、各センサ22,46により検出された値に移動平均等の適宜の処理を施した値を吸気圧P
1及び排気圧P
2として制御に用いてもよい。
また、吸気圧センサ22が、各シリンダ19に接続される第1の吸気ポート11Aのそれぞれに設けられていれば、これらの吸気圧センサ22により検出される吸気圧は各吸気ポート11A内の吸気圧の瞬時値を直接検出したものであるので、車両ECU5は、バルブオーバーラップ期間における各第1の吸気ポート11A内の吸気圧の瞬時値P
1を制御に用いればより好ましい。同様に、排気圧センサ46が、各シリンダ19に接続される排気ポート12A,12Bの何れかに設けられていれば、これらの排気圧センサ46により検出される排気圧は各排気ポート12A,12B内の排気圧の瞬時値を直接検出したものであるので、車両ECU5は、バルブオーバーラップ期間の各排気ポート12A,12B内の排気圧の瞬時値P
2を制御に用いればより好ましい。
【0060】
この車両ECU5は、例えばエンジン10の点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを制御する。このような制御には、インジェクタ18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13による点火時期,吸気バルブ14のバルブタイミング,スロットルバルブ24の開度等の制御が挙げられる。
このような車両の各種のシステムに対する車両ECU5による制御のうち、車両の運転状態に応じて行なう制御について、以下説明する。
【0061】
車両ECU5には、車両の運転状態に応じて行なう制御を実施する機能を実現するソフトウェアとして、バルブタイミング制御部(吸気バルブ制御手段)1,燃料噴射制御部(燃料噴射制御手段)2,スロットル開度制御部3,要求出力トルク算出部4aを有する出力不足判定部4が設けられ、車両の運転状態とバルブオーバーラップ期間との関係が予め設定されたマップMが記憶されている。
【0062】
バルブタイミング制御部1は、可変バルブタイミング機構6aを介して、カム36又はこのカムシャフトの位相を変更又は維持することで吸気バルブ14のバルブタイミングを制御する。燃料噴射制御部2は、インジェクタ18の燃料噴射時期を制御する。スロットル開度制御部3は、アクセル開度θ
ACに応じてスロットルバルブ24の開度を制御する。また、要求出力トルク算出部4aは、アクセルポジションセンサ34により検出されたアクセル開度θ
AC及びクランク角センサ33により検出されたエンジン回転数Neに応じた運転者の要求出力トルクを算出し、出力不足判定部4は、要求出力トルク算出部4aにより算出された要求出力トルク及び出力トルクセンサ40により検出されたエンジン10の実出力トルクを比較し、実出力トルクよりも要求出力トルクが所定値以上大きいと、出力トルクが不足した運転状態(不足状態)であると判定する。
【0063】
マップMは、
図3に例示するように、車両の運転状態とこれに対応するバルブオーバーラップ期間と特定運転領域とが予め規定されたものである。詳細には、このマップMは、エンジン回転数(エンジン回転速度)Neと吸気圧P
1及び排気圧P
2の差圧(P
1−P
2)とを引数として、バルブオーバーラップ期間と特定運転領域とが予め規定されたものである。このマップMに規定されるバルブオーバーラップ期間OL
1〜OL
4の大小関係は、OL
1<OL
2<OL
3<OL
4である。なお、バルブオーバーラップ期間OL
1外の領域(
図3中の無地の領域)では、オーバーラップ期間はゼロ、即ち排気バルブ15の開放終了時に吸気バルブ14の開放が開始され、バルブオーバーラップ期間は設定されない。なお、バルブオーバーラップ期間の「期間」とは、バルブオーバーラップのタイミングをクランク角θ
CRにより規定したもので「時間」とは異なる。したがって、オーバーラップ期間の大小は、吸気バルブ14の開弁期間に対応するクランク角θ
CRの進角変化量の大小に対応する。
【0064】
エンジン回転数Neとの関係におけるバルブオーバーラップ期間は、エンジン回転数Neの比較的低い領域では、エンジン回転数Neが上昇するにつれて大きくなるように設定され、エンジン回転数Neが比較的高い領域では、エンジン回転数Neが上昇するにつれて小さくなるように設定される。
エンジン回転数Neが低い領域では、バルブオーバーラップ期間が同一であっても、エンジン回転数Neの高い領域よりもバルブオーバーラップ期間の実時間は長くなる。このため、エンジン回転数Neが低い領域では、小さいバルブオーバーラップ期間が規定されてもその実時間は長く、十分な充填効率が得られる。同様の理由から,低回転域においてバルブオーバーラップ期間を過度に拡大すると,燃料の吹き抜け増加を招いてしまう。これに対して、エンジン回転数Neが上昇するにつれて、吸排気の慣性効果を利用して吸気の充填効率を向上させることができるため、バルブオーバーラップ期間は大きくなるように設定される。一方、本実施形態のように、吸気バルブの開放期間を前後にシフトさせてバルブオーバーラップ期間を変更するものでは、エンジン回転数Neがある程度高い領域では、バルブオーバーラップ期間を大きくするために吸気バルブの開放開始タイミングを早めると開放終了タイミングも早くなり、吸気バルブの開放終了タイミングが早くなると吸気の慣性効果を利用しきれず却って充填効率が低下する。このため、エンジン回転数Neが高い領域では、高くなるほどバルブオーバーラップ期間は小さく設定される。
【0065】
吸気圧P
1及び排気圧P
2の差圧(P
1−P
2)との関係におけるバルブオーバーラップ期間は、差圧が大きい(吸気圧P
1の方が排気圧P
2よりも大きい)ほど充填効率が向上するため、差圧が大きいほど、バルブオーバーラップ期間は大きく設定される。
また、特定運転領域は、
図3中に太破線で示す領域に規定される。すなわち、特定運転領域は、吸気圧P
1が排気圧P
2よりも大きい状態であり、かつ、エンジン回転数Neが所定の範囲内の領域が規定される。ここでは、エンジン回転数Neの所定の範囲として、バルブオーバーラップ期間を大きくすることにより確実に充填効率の向上が得られるエンジン回転数の範囲を設定している。
【0066】
車両ECU5は、車両の運転状態が特定運転領域にある際に特定制御を行ない、車両の運転状態が特定運転領域にない際に通常制御を行なう。
特定制御では、吸気バルブ14A,14Bの開閉タイミングを個別に制御し、インジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期を個別に制御する。
特定制御におけるバルブタイミング制御は、バルブタイミング制御部1により実施される。これにより、各吸気バルブ14A,14Bのバルブオーバーラップ期間を制御することができる。つまり、バルブタイミング制御部1は、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間が、上述のマップMを用いて定められたバルブオーバーラップ期間(第1の期間)となるように制御し、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間(第2の期間)がゼロとなるように制御する。
【0067】
この特定制御におけるバブルタイミングを、以下、
図4(a)を用いて説明する。
図4(a)には、縦軸にバルブリフト量,横軸にクランク角θ
CRを規定し、各バルブ14,15のバルブリフト量及びバルブタイミングを示し、第1の吸気バルブ14Aの動作については実線、第2の吸気バルブ14Bの動作については一点鎖線、排気バルブ15の動作については破線で示す。
【0068】
一対の排気バルブ15A,15Bのバルブタイミングは、同一のタイミングで開閉される。ここでは、排気バルブ15は、クランク角θ
1において開放を開始され、クランク角θ
4において開放を終了される。
一方、第1の吸気バルブ14Aのバルブタイミングは、バルブオーバーラップ期間が第1の期間となるように制御される。つまり、第1の吸気バルブ14Aは、排気バルブ15の開放終了タイミングよりも第1の期間だけ早い開放開始タイミングに制御される。ここでは、第1の吸気バルブ14Aは、クランク角θ
2において開放を開始され、クランク角θ
5において開放を終了される。この第1の期間は、上述のマップMに基づいて定められ、クランク角θ
2〜θ
4に対応するものといえる。
【0069】
また、第2の吸気バルブ14Bのバルブタイミングは、第2の吸気バルブ14B及び排気バルブ15のバルブオーバーラップ期間が第2の期間となるように制御される。ここでは、第2の吸気バルブ14Bは、クランク角θ
4において開放を開始され、クランク角θ
6において開放を終了される。この第2の期間はゼロに設定される。
次に、特定制御における燃料噴射時期の制御を説明する。この燃料噴射時期の制御は、燃料噴射制御部2によって、各インジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期を制御するものである。すなわち、燃料噴射制御部2は、第1のインジェクタ18Aの燃料噴射を第1の吸気バルブ14Aの開放期間に実施させ、第2のインジェクタ18Bの燃料噴射を第2の吸気バルブ14Bの閉鎖期間に実施させる。この燃料噴射タイミングの一例を、
図4(b)を用いて説明する。
【0070】
ここで、インジェクタ18A,18Bは、吸気口11a,11bの吸気流の上流側に距離を置いて設けられるため、燃料の噴射時点に対して噴射された燃料が吸気口11a,11bを経て燃焼室Bにおける排気口12a,12bに到達する時点は遅延する。この遅延時間τは、吸気ポートの形状、インジェクタ18A,18B並びに吸気口11a,11b及び排気口12a,12bの位置関係等によるエンジンの構造によって異なるだけでなく、エンジン回転数Neやスロットル開度や過給機の動作等で変化する吸気流速等のエンジン10の運転状況によって変化する。本実施形態では、本制御が適用されるエンジンの構造のもとでのエンジンの運転状況と遅延時間τとの関係を予め実験的・経験的に求め、車両ECU5に記憶している。また、燃料噴射制御部2は、エンジンの運転状況の情報を取得し、このエンジン運転状況に応じた遅延時間τを読み出すことができるように構成される。
【0071】
図4(b)には、各インジェクタ18A,18Bのクランク角θ
CRに対応する燃料噴射時期を示し、第1のインジェクタ18Aについては実線、第2のインジェクタ18Bについては一点鎖線で示す。
第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射の開始は、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射の開始よりも遅れて実施される。
【0072】
また、第1のインジェクタ18Aの噴射開始時点から噴射終了時点までの噴射時期は、第1の吸気バルブ14Aが開放開始後から開放終了までの期間(開放期間)に実施(吸気行程噴射)される。
この第1のインジェクタ18Aの燃料噴射時期は、例えば、噴射された燃料が排気バルブ15の閉鎖タイミング(クランク角θ
4に対応)で第1の排気口12a又は第2の排気口12bに到達するように燃料噴射を開始される。このとき、燃料噴射制御部2は、燃料噴射時点と噴射された燃料の排気口12a,12bへの到達時点との遅延時間τをエンジン運転状態に応じて設定して、可能な限り早めに、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射の制御を実施する。ここでは、クランク角θ
3〜θ
4に対応する時間が遅延時間τに対応し、クランク角θ
3に対応する時点で燃料噴射を実施するものを示す。これらより、排気口12a,12bにおいて、第1の期間と第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射との重複期間(第1の重複期間T
1)が、第2の期間と第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射との重複期間(第2の重複期間T
2)以下であるといえる。
【0073】
また、第2のインジェクタ18Bは、
図4(b)に一点鎖線で示すように、第2の吸気バルブ14Bの開放前(閉鎖期間)に燃料噴射の開始及び終了が実施される。なお、
図4(b)には、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射を、排気バルブ15の開放期間に実施するもの(排気行程噴射)を例示するが、これに限らず、第2吸気バルブ14Bの閉鎖期間であれば、例示期間よりも早くても遅くてもよい。
【0074】
車両ECU5は、車両の運転状態が特定運転領域であって、かつ、エンジン10の出力トルクが不足すると出力不足対応制御を行なう。つまり、車両ECU5は、特定制御を行なっている際に、エンジン10の出力トルクが不足すると出力不足対応制御を行なう。
この出力不足対応制御の前提条件であるエンジン10の出力トルクの不足は、出力不足判定部4により判定される。詳細には、出力不足判定部4は、要求出力トルク算出部4aにより算出された要求出力トルクよりも所定値以上エンジン10の出力トルクが小さい場合に、エンジン10の出力トルクが不足していると判定する。この出力不足判定に用いられる所定値は、第1の所定値と第1の所定値よりも大きい第2の所定値が予め設定されている。
【0075】
出力不足判定部4は、エンジン10の出力トルクよりも要求出力トルクの方が、第1の所定値以上大きい場合にエンジン10の出力トルクが不足しているものと判定する。この場合、車両ECU5は、出力不足対応制御を実施するが、出力トルクが不足の程度に応じた出力不足対応制御を実施するようになっている。
つまり、要求出力トルクTdとエンジン10の実出力トルクTrとの差(Td−Tr)が第1の所定値ΔT1よりも大きいが第2の所定値ΔT2よりも小さい場合には、吸気バルブ14のバルブタイミングの制御とインジェクタ18Aの燃料噴射時期の制御とが実施される。すなわち、車両ECU5は、バルブタイミング制御部1を通じて吸気バルブ14A,14Bの開閉タイミングを個別に制御し、燃料噴射制御部2を通じてインジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期を個別に制御する。
【0076】
このバルブタイミング制御では、バルブタイミング制御部1は、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間(第2の期間)が上述のマップMを用いて定められた第1の期間と等しくなるよう第2の期間を大きくする制御をし、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間も第1の期間となるよう制御する。
また、この燃料噴射時期の制御では、燃料噴射制御部2は、第1のインジェクタ18Aの燃料噴射時期を第1の吸気バルブ14Aの開放期間に実施し、第2のインジェクタ18Bの燃料噴射時期を第2の吸気バルブ14Bの開放期間に実施する。例えば、
図4(b)の実線に示すように、燃料噴射制御部2は、両インジェクタ18A,18Bにより噴射された燃料は、排気バルブ15が閉鎖されるタイミングで排気口12a,12bに到達するように、遅延時間τを考慮したタイミングで燃料噴射を実施する。
【0077】
また、要求出力トルクTdとエンジン10の実出力トルクTrとの差(Td−Tr)が第2の所定値ΔT2よりも大きい場合(要求出力トルクTdに対するエンジン10の実出力トルクTrが著しく不足する場合)には、車両ECU5は、上記の第2の期間を大きくするバルブタイミング制御及び吸気行程噴射を実施する燃料噴射制御に加えて、さらにスロットルバルブ24の開度を増加補正する制御を実施する。このスロットル開度補正制御は、スロットル開度制御部3により行なわれ、スロットル開度センサ23bにより検出されたスロットル開度に基づいてスロットルボディ23のアクチュエータ23aを動作させることにより行なわれる。
【0078】
これらの出力不足対応制御により、出力不足が解消された場合や、エンジン回転数Neが増加して車両の運転状態が特定運転領域から外れた場合には、出力不足対応制御を終了する。
次に、車両の運転状態が特定運転領域に無い場合に行なわれる制御(通常制御)について説明する。
【0079】
通常制御では、吸気バルブ14A,14Bの開閉タイミングを互いに同期して制御し、インジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期を互いに同期して制御する。
通常制御におけるバルブタイミング制御は、バルブタイミング制御部1により実施され、吸気バルブ14のそれぞれが同期したバルブオーバーラップ期間を有することとなる。つまり、バルブタイミング制御部1は、吸気バルブ14のバルブオーバーラップ期間が、上述のマップMを用いて定められたバルブオーバーラップ期間になるように制御する。もちろん、バルブオーバーラップ期間がゼロ(設定されない)の車両の運転状態では、バルブタイミング制御部1は、排気バルブ15の開放終了時に吸気バルブ14の開放を開始する。なお、排気バルブ15のバルブタイミングは変更されない。
【0080】
通常制御における燃料噴射制御は、燃料噴射制御部2により両インジェクタ18A,18Bによる燃料の噴射タイミングを調整することで実施される。この制御は、両インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射タイミングを同期(同時に)するものである。
燃料制御部2は、インジェクタ18A,18Bの燃料噴射タイミングを、吸気バルブ14の開放前に調整する。つまり、インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射終了の後に吸気バルブ14は開放され、インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射開始時には吸気バルブ14は閉鎖されている。
【0081】
〔作用・効果〕
本発明の第1実施形態にかかるエンジン制御装置は上述のように構成されるため、
図5に示すような制御フローが、所定の制御周期(例えば数10ms毎)で、車両ECU5により周期的に行なわれる。
ステップS10では、各センサ33,22,46,40,4aが検出又は算出したエンジン回転数Ne,吸気圧P
1,排気圧P
2,アクセル開度θ
AC,エンジン10の実出力トルクTr及び要求出力トルクTdの各種情報を取得する。
【0082】
ステップS20では、車両の運転状態が特定運転領域であるか否かを判定する。この判定は、ステップS10において取得された各種情報を用いてなされる。車両の運転状態が特定運転領域であればステップS30へ移行し、車両の運転状態が特定運転領域で無ければ、ステップS90へ移行する。
ステップ90では、通常制御のサブルーチンを実施する。この通常制御のサブルーチンは、バルブタイミング制御及び燃料噴射制御を行ない、車両の運転状態に応じてマップMを用いて定められるバルブオーバーラップ期間となるように両吸気バルブ14A,14Bのバルブタイミングを同期し、両インジェクタ18A,18Bは排気行程噴射等の吸気バルブ14の開放前に燃料噴射を実施する。
【0083】
また、ステップS30では、特定制御のサブルーチンを実施する。この特定制御のサブルーチンは、詳細を図示しないが、バルブタイミング制御及び燃料噴射時期制御を行ない、車両の運転状態(吸気圧P
1が排気圧P
2よりも大きい状態であり、かつ、エンジン回転数Neが所定の範囲内の領域)に応じて、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間は第1の期間(即ち、車両の運転状態に応じてマップMを用いて定められるバルブオーバーラップ期間)にし、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間は第2の期間(即ち、ゼロ)にする。また、第1のインジェクタ18Aは吸気行程噴射を実施し、第2のインジェクタ18Bは排気行程噴射を実施する。
【0084】
ステップS40では、出力トルクセンサ40により検出されるエンジン10の実出力トルクTrに対して要求出力トルクTdの方が第1の所定値ΔT1よりも大きいか否かを判定する。つまり、エンジン10の出力トルクが不足した状態(不足状態)であるか否かを判定する。この判定は、出力不足判定部4により行なわれ、要求出力トルク算出手段4aにより算出された要求出力トルクTdから出力トルクセンサ40により検出されるエンジン10の実出力トルクTrを減算し、この減算結果(Td−Tr)が第1の所定値ΔT1よりも大きいと、エンジン10の出力トルクが不足した状態(不足状態)であると判定されるものである。不足状態であるとステップS50へ移行し、不足状態で無ければ、リターンする。
【0085】
ステップS50では、出力不足対応制御のサブルーチンを実施する。そして、リターンする。
このステップS50の出力不足対応制御のサブルーチンを、
図6を用いて説明する。
ステップS52では、エンジン10の実出力トルクTrに対して要求出力トルクTdの方が第2所定値ΔT2よりも大きいか否かを判定する。この判定は、出力不足判定部4により行なわれ、要求出力トルク算出手段4aにより算出された要求出力トルクTdから出力トルクセンサ40により検出されるエンジン10の実出力トルクTrを減算することで行なわれる。この減算結果(Td−Tr)が第2の所定値ΔT2よりも大きいと、ステップS54へ移行し、減算結果(Td−Tr)が第2の所定値ΔT2以下であると。ステップS56へ移行する。
【0086】
ステップS54では、バルブタイミング,燃料噴射時期及びスロットル開度を制御する。すなわち、バルブタイミング制御では、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間(第2の期間)が第1の期間と等しくなるよう制御し、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間も第1の期間となるよう制御する。また、燃料噴射時期制御では、両インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射を両吸気バルブ14A,14Bの開放期間に実施するように制御する。さらに、スロットル開度にかかる制御では、スロットル開度制御3によりスロットルバルブ24の開度が増加補正する、即ち、スロットル開度センサ23bにより検出されたスロットル開度を増加するようにスロットルボディ23のアクチュエータ23aを動作させる。
【0087】
ステップS56では、バルブタイミング及び燃料噴射時期を制御する。すなわち、バルブタイミング制御では、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間(第2の期間)が第1の期間と等しくなるよう制御し、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間も第1の期間となるよう制御する。燃料噴射時期制御では、両インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射を両吸気バルブ14A,14Bの開放期間に実施するように制御する。そして、リターンする。
【0088】
したがって、本実施形態のエンジン制御装置は、車両の運転状態が特定運転領域にある場合に、バルブタイミング制御部1は、第1の吸気バルブ14Aの開放期間を排気バルブ15の開放期間と第1の期間だけ重複させるため、バルブオーバーラップによる吸気の吹き抜けを利用して充填効率を促進して出力トルクを確保することができる。
また、バルブタイミング制御部1は、第2の吸気バルブ14Bの開放期間を排気バルブ15の開放期間と重複させないため、第2の吸気ポートに噴射された燃料のバルブオーバーラップによる排気側への吹き抜けを解消することができ、第2の吸気ポート11Bに噴射された燃料と新気との混合促進時間を確保することができる。
【0089】
また、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射を、バルブオーバーラップ前の第1の吸気バルブの閉鎖期間ではなく第1の吸気バルブの開放期間、即ち、吸気行程に実施するため、バルブオーバーラップ終了後に燃焼室B内へ燃料を供給することが可能となり、吹き抜けHCを低減させることができる。
バルブオーバーラップ期間を有する場合であっても、噴射された燃料が排気口12a,12bを通過することができなければ、HCの吹き抜けが生じない。本実施形態では、噴射された燃料が排気口12a,12bに到達する際には、排気バルブ15が閉鎖されているように燃料噴射を実施するため、HCの吹き抜けを防止することができる。
【0090】
車両の運転状態が特定運転領域にある場合に、第1の吸気ポート11Aでは、吸気行程において燃料が噴射されるため、燃料と新気との混合促進時間を確保し難いが、燃料噴射制御部2は、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射を第2の吸気バルブ14Bの閉鎖期間に実施するため、噴射された燃料が第2の吸気バルブ14Bの開放により燃焼室Bに進入するまでの時間だけ、燃料と新気との混合促進時間を長く確保することができ、この第2の吸気ポート11Bから燃焼室B内に進入する混合を促進された混合気が、第1の吸気ポート11Aから燃焼室B内に進入する燃料と新気との混合をも促進し、燃焼を良好に行なうことができる。
【0091】
吸気圧P
1が排気圧P
2よりも大きい場合には、HCの吹き抜けが生じ易いが、吸気圧P
1が排気圧P
2よりも小さい場合には、HCの吹き抜けは生じ難いか或いは生じない。本実施形態では、HCの吹き抜けが生じる吸気圧P
1が排気圧P
2より大きい場合を特定運転領域とするため、適切に第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射時期を制御して、HCの吹き抜けを低減することができる。
【0092】
バルブオーバーラップにより確実に充填効率の向上が得られるエンジン回転数の範囲を所定の範囲内を特定運転領域とするため、充填効率の向上及び吹き抜けHCの低減を効果的に行なうことができる。
車両の運転状態が特定
運転領域にある場合に、エンジン10の実出力トルクTrが不足すると、出力不足対応制御を行なう。この出力不足対応制御では、要求出力トルクTdとエンジン10の実出力トルクTrとの差(Td−Tr)が第1の所定値ΔT1よりも大きいが第2の所定値ΔT2よりも小さい場合には、バルブタイミング制御部1により第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間を第2の期間から第1の期間に増加させる制御を行ない、燃料噴射部2により両インジェクタ18A,18Bに吸気行程噴射を実施するため、さらに充填効率を向上させることができるとともに、吹き抜けHCを低減させることができる。また、要求出力トルクTdとエンジン10の実出力トルクTrとの差(Td−Tr)が第2の所定値ΔT2よりも大きい場合(要求出力トルクTdに対して実出力トルクTrが著しく不足している場合)には、上記の第2の期間を増加するバルブタイミング制御及び吸気行程噴射を実施する燃料噴射制御に加えて、スロットル開度制御部3によりスロットルバルブ24の開度を開放方向に増加させるため、出力トルクの不足を解消することができる。
第1の吸気ポート11A及び第2の吸気ポート11Bの上流側に、吸気を強制的に送り込むターボチャージャ31が設けられるため、吸気圧P
1が排気圧P
2より大きくなりやすくなり、吸気の充填効率をさらに向上させて出力トルクを確保することができる。
【0093】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本発明の第2実施形態にかかるエンジン制御装置は、特定制御における燃料噴射時期及びバルブオーバーラップ期間が第1実施形態と異なる。
【0094】
なお、ここで説明する点を除いては第1実施形態と同様の構成になっており、これらについては、同様の符号を使用し、各部の説明を省略する。
まず、特定制御におけるバルブオーバーラップを説明する。このバルブオーバーラップは、各吸気バルブ14A,14Bの開放期間と排気バルブ15の開放期間との重複であり、車両ECU5のバルブタイミング制御部1によって制御される。これらのバルブ開閉タイミングの一例を、
図7(a)を用いて説明する。
【0095】
図7(a)には、縦軸にバルブリフト量,横軸にクランク角θ
CRを規定し、特定制御における各バルブ14,15のバルブリフト量及びバルブタイミングを示し、第1の吸気バルブ14Aの動作については実線、第2の吸気バルブ14Bの動作については一点鎖線、排気バルブ15の動作については破線で示す。
一対の排気バルブ15A,15Bのバルブタイミングは、同一のタイミングで開閉される。ここでは、これらの排気バルブ15は、クランク角θ
1’において開放を開始され、クランク角θ
4’において開放を終了される。
【0096】
一方、第1の吸気バルブ14Aのバルブタイミングは、バルブオーバーラップ期間が予め定められた第1の期間となるように制御される。つまり、第1の吸気バルブ14Aは、排気バルブ15の開放終了タイミングよりも第1の期間だけ早く開放を開始される。ここでは、第1の吸気バルブ14Aは、クランク角θ
2’において開放を開始され、クランク角θ
5’において開放を終了される。この第1の期間は、第1実施形態と同様にマップMに基づいて定められ、クランク角θ
2’〜θ
4’に対応する。
【0097】
また、第2の吸気バルブ14Bのバルブタイミングは、第2の吸気バルブ14B及び排気バルブ15のバルブオーバーラップ期間が予め定められた第2の期間となるように制御される。ここでは、第2の吸気バルブ14Bは、クランク角θ
3’において開放を開始され、クランク角θ
6’において開放を終了される。この第2の期間は、第1の期間(第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間)よりも短く、クランク角θ
3’〜θ
4’に対応するものといえる。
【0098】
次に、特定制御における燃料噴射時期を説明する。この燃料噴射時期の制御は、車両ECU5の燃料噴射制御部2によって、各インジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期は制御される。この燃料噴射タイミングの一例を、
図7(b)を用いて説明する。
図7(b)には、クランク角θ
CRに対応した各インジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期を示し、第1のインジェクタ18Aについては実線、第2のインジェクタについては一点鎖線で示す。
【0099】
第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射が、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射よりも遅れて実施される。つまり、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射の開始時点は、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射の開始時点よりも遅く、また、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射の終了時点は、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射時点の終了よりも遅い。また、第1の期間と第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射との重複期間(第1の重複期間T
1)がゼロであり、第2の期間と第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射との重複期間(第2の重複期間T
2)がゼロであるため、第1の重複期間T
1は第2の重複期間T
2以下であるといえる。
【0100】
なお、
図7(b)では、両インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射がともに排気行程に実施されるものを例示するが、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射が、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射よりも遅れて実施されるとともに、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間と第1のインジェクタ18Aの燃料噴射期間が重複せず、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間と第2のインジェクタ18Bの燃料噴射期間が重複しなければ、両インジェクタ18A,18Bによる燃料噴射期間は、
図7(b)に示す期間よりも早くても遅くてもよい。
【0101】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
通常、燃料噴射時期を早めると噴射直後にポート壁面に付着した燃料も気化し空気との混合が促進される利点がある反面、バルブオーバーラップにより、混合気の一部が燃焼室内を通過して排気ポートに吹き抜けると、この混合気に燃料が十分に含まれているため、吹き抜け燃料量が増大する。
【0102】
一方、燃料噴射時期を遅らせると噴射直後にポート壁面に付着した燃料の気化が遅れるため空気との混合も遅れるがこの反面、バルブオーバーラップ期間中には、ポート壁面に付着して気化が遅れた燃料など一部の燃料が含まれない混合気の一部が燃焼室内を通過して排気ポート15に吹き抜けるため、吹き抜け燃料量が低減される。
また、バルブオーバーラップを長くすれば、吸気の充填効率が向上する半面、バルブオーバーラップによる混合気の排気ポートへの吹き抜けも増大する。
【0103】
これに対し、第2実施形態の燃料噴射制御部2は、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射を少なくとも第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射よりも遅れて実施するため、第1の吸気ポート14Aの吸気については、バルブオーバーラップ期間が長い(第1の期間は第2の期間よりも長い)ことにより混合気の排気ポート15への吹き抜け量も多いが、混合気中の燃料は第1の吸気ポート14A壁面への付着等により液滴として第1の吸気ポート14A内に留まり気化が遅れた燃料分だけ少ないため、吹き抜けHCを低減することができる。また、第2の吸気ポート14Bの吸気については、燃料が十分に含まれた比較的燃料濃度の高い混合気の一部が燃焼室B内を通過して排気ポート15に吹き抜けるが、バルブオーバーラップ期間が短い(第2の期間は第1の期間よりも短い)ため、混合気の排気ポート15への吹き抜け量が少なく、吹き抜けHCを低減することができる。
【0104】
また、第2実施形態のエンジン制御装置では、バルブタイミング制御部1は、第1の吸気バルブ14Aの開放期間が排気バルブ15の開放期間と第1の期間だけ重複するように制御するため、バルブオーバーラップによる吸気の吹き抜けを利用して充填効率を促進して出力トルクを確保することができる。
また、第2の燃料噴射手段18Bによる燃料噴射は、第1の燃料噴射手段18Aによる燃料噴射よりも早期に実施されるため、噴射された燃料の気化促進及び新気との混合促進を図ることができる。
【0105】
また、バルブタイミング制御部1は、第2の吸気バルブ14Bの開放期間を排気バルブ15の開放期間と第1の期間よりも短い第2の期間だけ重複させるため、第2の吸気ポート14Bに噴射された燃料が、バルブオーバーラップにより排気側に吹き抜ける状況を抑制することができ、吹き抜けHCを低減することができる。
また、第1の重複期間T
1及び第2の重複期間T
2がゼロであるため、即ちバルブオーバーラップ中に燃料噴射が実施されないため、吸気流速が高まるバルブオーバーラップ期間中の速い吸気流に燃料を噴射されることがない。これにより、燃料と空気との混合が促進されて燃料が十分に混合した混合気が排気ポートへ吹き抜ける燃料量の増大を抑制することができる。
【0106】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態を、
図7(c)を用いて説明する。本発明の第3実施形態にかかるエンジン制御装置は、燃料噴射時期が第2実施形態と異なる。
また、第3実施形態のバルブオーバーラップは、第2実施形態と同様であり、
図7(a)を流用して説明する。
【0107】
なお、ここで説明する点を除いては、第1又は第2実施形態と同様の構成になっており、これらについては同様の符号を使用し、各部の説明を省略する。
図7(c)には、クランク角θ
CRに対応した各インジェクタ18A,18Bの燃料噴射時期を示し、第1のインジェクタ18Aについては実線、第2のインジェクタについては一点鎖線で示す。
【0108】
第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射の開始時点は、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射の開始時点よりも遅く、また、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射の終了時点は、第2のインジェクタ18Aによる燃料噴射の終了時点よりも遅い。つまり、第1のインジェクタ18Aによる燃料噴射が、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射よりも遅れて実施される。
【0109】
第1のインジェクタ18Aの燃料噴射時期は、その一部が第1の期間(クランク角θ
2’〜θ
4’に対応する期間)に重複する。この期間(第1の重複期間T
1ともいう)において、第1のインジェクタ18Aは、第1の吸気バルブ14Aのバルブオーバーラップ期間中に燃料噴射を実施する。
第2のインジェクタ18Bの燃料噴射時期は、その一部が第2の期間(クランク角θ
3’〜θ
4’に対応する期間)に重複する。この期間(第2の重複期間T
2ともいう)において、第2のインジェクタ18Bは、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間中に燃料噴射を実施する。ここでは、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射の終了時点がクランク角θ
4’に対応し、その開始時点がクランクθ
3’に対応する時点よりも早いものを示す。
【0110】
これらの重複期間は、その大小関係が第2の重複期間T
2よりも第1の重複期間T
1の方が短い。つまり、燃料噴射制御部2は、第2の重複期間T
2を第1の重複期間T
1よりも短くなるように制御する。
したがって、第2の期間は第1の期間よりも短いため、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射の期間と第2の期間と重複させたとしても、この燃料噴射の期間と第2の期間との重複期間も、短いバルブオーバーラップ期間により制限することができる。
【0111】
一方、第1の期間は第2の期間よりも長いが、燃料噴射制御部2は、第1の重複期間T
1を第2の重複期間T
2よりも短くするので、かかる第1の重複期間T
1も制限される。したがって、吹き抜け燃料量の増大が抑制される。これにより、吹き抜けHCを低減させることができる。
なお、第3実施形態では、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射期間の一部が第2の期間の全期間に亘って重複するものを示したが、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射期間の一部が第2の期間の一部に重複し、かつ、この重複期間(第2の重複期間T
2)が第1の重複期間T
1よりも短くてもよい。
【0112】
また、第2のインジェクタ18Bによる燃料噴射の終了時点が排気バルブ15の開放終了時点(クランク角θ
4’に対応する時点)と同時のものを示したが、これに限らず、その終了時点がより遅い時点(クランク角θ
4’とクランク角θ
6’との間に対応する時点)であって、かつ、第2の重複期間T
2が第1の重複期間T
1よりも短くてもよい。
【0113】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、ターボチャージャ31を備えた車両において、マップMの引数に吸気圧P
1及び排気圧P
2の差圧(P
1−P
2)を用いたが、ターボチャージャ31を備えず自然吸気をするエンジンでは、排気圧センサ46を省略し、マップMの引数に吸気圧P
1及び大気圧P
Aの差圧(P
1−P
A)を用いてもよい。つまり、ターボチャージャ31を備えていない自然吸気エンジンにおいては、排気ポートとターボチャージャのタービンとの間で排気が圧縮されることがなく、排気圧は略大気圧にP
Aに等しい。したがって、排気圧センサ46を省略することができる。
【0114】
また、吸気センサ22及び排気圧センサ46に替えて、又は加えてエンジン10の運転状態から推定する(車両ECU5で吸気圧P
1及び排気圧P
2の差圧に相当する値を演算する)構成としてもよい。例えば、ターボチャージャ31を備えたエンジンにおいては、過給を実施することで一般に吸気圧P
1及び排気圧P
2の差圧が正となる。したがって、排気センサ46を用いることなく差圧を推定することが可能となる。
【0115】
また、吸気センサ22及び排気圧センサ46に替えて、予めバルブオーバーラップ中の吸気圧P
1が排気圧P
2よりも高くなる特定運転領域(エンジン回転数,吸入空気量など)を車両ECU5に記憶させておくことで、これらのセンサ22,46を省力しても良い。
また、特定制御のバルブタイミングについて、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間を重複させない第2の期間(ゼロ)を示したが、この第2の期間は、第1の期間よりも小さければよく、バルブオーバーラップを実施してもよい。これによれば、充填効率の向上と吹き抜けHCの低減とをバランスすることができる。
【0116】
上記のように第2の期間をゼロよりも大きく第1の期間よりも小さいものを用いる場合、マップMに規定されたバルブオーバーラップ期間(第1の期間)を、例えば1よりも小さい補正係数を乗算する等して補正して用いることができる。
また、出力不足対応制御において、第2の吸気バルブ14Bのバルブオーバーラップ期間を、第2の期間から第1の期間に変更するものを示したが、変更後の期間は、第1の期間の範囲内において変更前の第2の期間よりも大きくすればよい。つまり、第1の吸気バルブ14Aの開閉位相を基準に、この基準位相と第2の吸気バルブ14Bの開閉位相との位相差を縮小するものでもよい。これによれば、第2の吸気バルブ14Bは、バルブオーバーラップ期間を大きくすることとなり、充填効率を向上させることができ、出力トルクを確保することができる。
【0117】
また、バルブの開閉にかかる動弁機構として、ロッカアーム35,37を備えたものを示したが、これに限らずカム直動式の動弁機構であっても本制御装置は適用することができる。
また、遅延時間τは、燃料の噴射時点に対して噴射された燃料が吸気口11a,11bを経て燃焼室Bから排気口12a,12bに到達する時間を示したが、これに替えて、燃料の噴射時点に対して噴射された燃料が吸気口11a,11bを通過するまでの時間を遅延時間としてもよい。この遅延時間は、吸気ポートの形状、インジェクタ18A,18B及び吸気口11a,11bの位置関係等のエンジンの構造によって異なり、エンジン回転数Neやスロットル開度や過給機の動作等で変化する吸気流速等のエンジン10の運転状況によって変化することとなる。
【0118】
また、上述の実施形態では、遅延時間τを示したが、これに限らず、クランク角θ
CRにより規定される期間と対応する遅延期間としてもよい。
また、排気バルブ15のバルブタイミングを固定するものを示したが、この排気バルブのバルブタイミングを可変制御してもよい。