【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「生活支援ロボット実用化プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
室田修男, 酒井昌夫, 山本光男,電動車いす用ITS装置の開発,愛知県産業技術研究所研究報告書,日本,2005年12月,N0.4,70-73ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導光部は、平行光を拡散させて拡散光にする上カバー部と、前記上カバー部の下方に配置されて平行光を拡散させて拡散光にする下カバー部と、前記上カバー部または前記下カバー部の少なくとも一方を上下に動かすカバー駆動部と、を備え、
前記上カバー部と前記下カバー部との間の隙間により前記通過口が構成される、
請求項2または3に記載の衝突防止システム。
前記導光部は、電界の印加あるいは除去により平行光を透過させる透過領域と平行光を拡散させる拡散領域とで切り替わる液晶シャッタと、前記液晶シャッタへ電界の印加あるいは除去を行う液晶制御部と、を備える、
請求項2または3に記載の衝突防止システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる衝突防止システムを示す概略図である。
図2は、本実施の形態1にかかる信号機13と電動車椅子12の関係を示す図である。本実施の形態1にかかる衝突防止システムは、信号機13が黄色のときに、電動車両の一例である電動車椅子12の運転者16が、信号機13の黄色ランプの点灯を見逃して、そのままの走行速度で移動したとしても、制御部の一例である管理部15によって、交差点17に進入する前に、電動車椅子12の走行速度を強制的に安全な走行速度に落とす。このようにすることで、交差点17で電動車椅子と障害物との衝突を防止することができる。なお、
図1に示すT字形の交差点17は、本発明の交差点の一例であり、これから曲がる移動先が死角となるのであれば、十字形の交差点、L字コーナ、曲がり角なども交差点に含まれる。ここで、信号機13の死角となる通路とは、信号機13の表示方向以外の通路で、かつ、信号機13の表示方向の通路から目視で確認できない通路のことである。
【0014】
図1、
図2に示すように、本実施の形態1にかかる衝突防止システム1は、信号機13と、障害物検出部14と、制御部の一例である管理部15とから構成される。
【0015】
信号機13は、交差点17の天井に設けられ、光源の一例として緑色ランプと黄色ランプを有する。本実施の形態1の信号機13は、少なくとも一方の光源は平行光を発する光源であり、その平行光の一部を導光部により拡散させた拡散光も併せて発するものである。なお、他方の光源は、一方の光源と同様に平行光と拡散光を発してよいし、単純な拡散光だけを発してもよい。本実施の形態1では、一方の光源として、LEDで構成された黄色ランプを用い、他方の光源として、LEDで構成された緑色ランプを用いている。
【0016】
障害物検出部14は、信号機13の表示方向にある通路31に対して、死角となる通路32、33の障害物を検出する。ここで、信号機13の表示方向とは、信号機13の光源(緑色ランプ、黄色ランプ)から光が照射されている方向、すなわち、信号機13の光源(緑色ランプ、黄色ランプ)を目視可能な方向である。本発明は、曲がり角に向けて動いている人などの障害物(動的障害物)を特に問題としているため、実施の形態1において、障害物検出部14は、通路32、33を交差点17に向かって移動する障害物を少なくとも検出する。例えば、歩行者34、車椅子または自律移動ロボットは、動的障害物として検出される。なお、より安全性を高めるために、移動する動的障害物に加えて、停止した障害物や、交差点17より離れる方向へ移動する障害物を障害物検出部14で検出してもよい。障害物検出部14としては、例えば、焦電センサやレーザセンサなどが用いられる。
【0017】
制御部の一例である管理部15は、障害物検出部14による障害物(歩行者34など)の検出結果に基づき、信号機13に可視光領域を含む平行光及び拡散光を発光させて、例えば注意を促すための黄色ランプを点灯させる。それと共に、本実施の形態1の管理部15は、電動車椅子12の移動を制御する制限情報を平行光に重畳させる。具体的には、本実施の形態1の管理部15は、所定の範囲において電動車椅子12の最高走行速度を再設定して制限する制限速度情報を、平行光に重畳する。管理部15は、障害物検出部14で動的障害物を検出しなければ、注意を促すための黄色ランプを消灯し、安全を知らせるための緑色ランプを点灯させる。
【0018】
電動車椅子12は、運転者16を乗せる椅子部21と、車輪22と、駆動源の一例である電動モータ27と、電源の一例である蓄電池28と、操作部の一例であるジョイスティック23と、ジョイスティック23に従い電動車椅子12の移動の制御を行なう移動制御部24と、制限速度情報を重畳した平行光を受光する受光部25と、移動制御部24による移動の制御を制限する安全制御部26と、を有する。この電動車椅子12は、運転者16によるジョイスティック23の操作に従って移動する。
【0019】
この電動車椅子12は、信号機13の平行光に重畳された制限速度情報を受光部25で受光(受信)した後、この受光部25で受信した制限速度情報に基づき、安全制御部26によって移動の制御に制限がかけられる。本実施の形態1では、制限情報の一例として制限速度情報を用いており、電動車椅子12の最高走行速度を制限速度情報の制限速度に再設定して制限している。具体的には、最高走行速度が時速6kmである電動車椅子12の最高走行速度を、時速2kmに再設定して制限している。
【0020】
本実施の形態1の信号機13を有する衝突防止システムは、障害物検出部14により、死角となる通路32、33から交差点17へ近づく障害物を検出すると、信号機13の緑色ランプを消灯させると共に黄色ランプを点灯させる。信号機13の黄色ランプが点灯することで、その黄色ランプを見た電動車椅子12の運転者16は、交差点17で障害物と出会い頭に衝突する可能性があることに気づく。そして、一般的に、黄色ランプを見た運転者16は、障害物と衝突しないように、例えば走行速度を時速2km以下にするなど、走行速度を低下させて、交差点17へ電動車椅子12を進入させる。
【0021】
ここで、運転者16が、信号機13の報知情報となる黄色ランプを見落としてしまった場合について検討する。この場合、運転者16は、信号機13の黄色ランプに気づいていないため、そのまま走行速度を低下させずに、交差点17に進入することがある。この場合、電動車椅子12と障害物とが衝突する可能性がある。
【0022】
そこで、本発明の衝突防止システムでは、信号機13からの報知情報として、運転者16の目視用の黄色ランプからの平行光に制限速度情報を重畳している。電動車椅子12は、平行光に重畳された制限速度情報を受信することにより、電動車椅子12の最高走行速度を制限する。電動車椅子12は、交差点17へ所定の走行速度以下(例えば、時速2km以下)に走行速度が制限された状態で、結果として低速度で進入することになる。このようにして、交差点17に進入した電動車椅子12の走行速度を所定の走行速度以下となるために、運転者16が交差点17に進入して始めて歩行者34に気づいても、運転者16の操作で歩行者34との衝突を十分に回避することが可能となると思われる。
【0023】
ここで、信号機13からは例えば黄色ランプから平行光および拡散光が照射されている。それに対し、本実施の形態1で電動車椅子12の最高走行速度を制限するための制限速度情報は、平行光のみに重畳している。そのため、運転者16が報知情報を識別することのできる識別領域(拡散光または平行光のいずれかが照射される領域で、
図1の点線内)と、電動車椅子12が制限速度情報を受信することのできる受信領域(平行光のみが照射される領域で、
図1の破線内)とが、異なる。本実施の形態1では、
図1に示すように、運転者16が報知情報を識別することのできる識別領域は識別領域36となり、電動車椅子12が制限速度情報を受信することのできる受信領域は受信領域37となるように構成している。ここで、受信領域37は平行光で形成されるため交差点17の近辺位置に限定されるが、識別領域36は平行光および拡散光で形成されるため交差点17よりも離れた位置まで伸びる。本実施の形態1の衝突防止システムでは、運転者16や一般の通行人にはできるだけ早く通知して衝突回避の準備を促し、電動車椅子12には遅く通知するようにしている。これは、電動車椅子12の走行速度を早く制限しても、電動車椅子12が不必要に早く減速してしまうため、衝突回避に必要な領域に限定して速度制限することで、運転者16の利便性を向上させるためである。
【0024】
本実施の形態1の衝突防止システムでは、このように識別領域36と受信領域37を設定することで、運転者16が、黄色ランプを見逃したり、電動車椅子12の操作を誤ったりした場合でも、光による制限速度の通信情報により電動車椅子12の最高走行速度を強制的に制限する。すなわち、衝突防止システムは、運転者16の操作が適切に行なわれていなかった場合のみ、フェールセーフとして強制的に電動車椅子12の走行速度に制限をかけるために、移動制御を行わせるものである。
【0025】
本実施の形態1の衝突防止システムにおいて、電動車椅子12に制限速度情報を送る方法として平行光による光通信を用いているのは、受信領域37を限定して、電動車椅子12に不必要な減速を強いることをなくすためである。なお、これに対し、制限速度情報を送る方法として無線通信を用いた場合は、拡散照射される無線により受信領域37が限定されず、電動車椅子12が、予想もしない場所で不必要に減速する可能性がある。その結果、通路31と交差する通路32、33に制限速度情報が送信されることを防止して、通路31にのみ制限速度情報を送信し、通路32、33を移動する電動車椅子12の誤作動を防ぐことができる。
【0026】
また、本実施の形態1の衝突防止システムにより、複数の交差点が連続する場合にも、受信領域37を各交差点近辺位置に限定され、一つ向こうの交差点からの制限通信を受けて電動車椅子12が突然減速してしまうなどの誤作動を防ぐことができる。
【0027】
なお、日本で使用されている通常の電動車椅子の最高走行速度は時速6kmであり、本実施の形態1で目標とする制限された最高走行速度を時速2kmとし、一般的に運転者に不安感を与えない減速が0.3m/s
2とすると、交差点から4.2mあれば、時速6kmから時速2kmに減速可能である。そのため、本実施の形態1での受信領域37の交差点からの最大距離は、4.2mとなる。逆に、一般に、交差点近辺では不要に電動車椅子が減速せずに早く通り抜けた方が安全となる場合が多いので、受信領域37の交差点からの最小距離を1m程度とする。すなわち、本実施の形態1では、受信領域37は、交差点から1m以上4.2m以下の距離の領域とすることが望ましい。
【0028】
なお、信号機13は、歩行者34の走行速度などに応じて、受信領域37の大きさを管理部15で変更可能に構成されている。例えば歩行者34の走行速度が速い場合は、受信領域37を広げて大きくし、交差点17に進入するまでに電動車椅子12を充分に減速させる。逆に、歩行者34の走行速度が遅い場合は、受信領域37を狭めて小さくする。
【0029】
次に、信号機13の構成について説明する。
【0030】
図3は、本実施の形態1にかかる信号機13の斜視図である。
図3に示すように、信号機13は、平行光を発光する発光部41、42と、発光部42を点滅させることにより平行光に制限速度情報を重畳させる変調部43と、発光部41に被せられた導光部44と、発光部42に被せられ少なくとも一部に平行光を通す通過口46を有する導光部45とを、備える。
【0031】
導光部44、45は、例えば光を通す磨りガラス素材である着色カバーであり、発光部41、42からの平行光を拡散光に変換する。すなわち、導光部44、45を透過した光は全て拡散光となり、導光部44、45を透過した光には平行光は含まれない。本実施の形態1では、導光部44は緑色のカバー(緑色の光のみを透過させるフィルタ)とし、導光部45は黄色のカバー(黄色の光のみを透過させるフィルタ)としている。また、発光部41、42は、白色の平行光を発光する複数のLED光源よりなる照明である。ここで、導光部45に黄色を用いているのは、障害物の接近を人に知らせるのに適した色とされているためであり、黄色以外にも赤色などの別な色を使用しても良い。同様に、導光部44に緑色を使用しているのは、安全状態を人に知らせるのに適した色とされているためであり、緑色以外に青色などを使用してもよい。
【0032】
続いて、信号機13の動作について説明する。
【0033】
障害物検出部14で歩行者34を検出していなければ、管理部15は、発光部41を点灯させ、発光部42を消灯させる。つまり、信号機13は、障害物検出部14で歩行者34を検出していなければ、報知情報として緑色ランプを点灯させる。一方、障害物検出部14で歩行者34を検出すると、管理部15は、発光部42を点灯させ、発光部41を消灯させる。つまり、障害物検出部14で歩行者34を検出すると、管理部15は、報知情報として信号機13の黄色ランプを点灯させる。障害物検出部14が歩行者34を検出した場合、さらに、管理部15は、導光部45の通過口46の大きさを障害物検出部14で検出される障害物の走行速度に基づいて変える。具体的には、管理部15は、障害物検出部14で検出される障害物の走行速度が基準速度より高速の場合、通過口46の大きさを広くし、走行速度が基準速度より低速の場合、通過口46の大きさを狭くする。ここで、基準速度は、予め設定しておく。
【0034】
ここで、導光部45の構成を説明する。導光部45は、上カバー部45aと、上カバー部45aの下方に配置した下カバー部45bを備える。また、信号機13には、上カバー部45aまたは下カバー部45bの少なくとも一方を上下に動かすために、カバー駆動部45cが設けられている。上カバー部45aと下カバー部45bとの間には、通過口46を構成する隙間が形成される。カバー駆動部45cで、上カバー部45aと下カバー部45bを動かすことで、上カバー部45aと下カバー部45bの間の隙間(通過口46)の上下方向の位置や幅を変化させる。
【0035】
このように、本実施の形態1の衝突防止システムは、障害物検出部14で検出される障害物の走行速度に応じて導光部45の上カバー部45aと下カバー部45bの位置を変えて、通過口46を変化させている。このように管理部15で通過口46の位置と幅を制御することで、平行光および拡散光が照射される識別領域36はほとんど変化しないが、平行光のみが照射される受信領域37を調整することができる。
【0036】
ここで、障害物検出部14で検出される歩行者34の走行速度が速い場合は、通過口46の位置および大きさを変えることで受信領域37を広げて、交差点17に進入するまでに電動車椅子12を十分に減速させる。また、逆に、障害物検出部14で検出される歩行者34の走行速度が遅い場合は、通過口46の位置および大きさを変えることで受信領域37を狭めて、交差点17に進入する直前までジョイスティック23の指示に従って電動車椅子12を走行可能とする。そのため、本実施の形態1の衝突防止システムにより、電動車椅子12の運転者16は、できるかぎり違和感なく操作することができる。
【0037】
また、導光部45を、上カバー部45aおよび下カバー部45bで構成することで、簡易な構成で、通過口46を広げたり、狭めたり、位置を変えることができる。
【0038】
次に、衝突防止システムの管理部15の制御方法、電動車椅子12の制御方法について説明する。
【0039】
図4は、本実施の形態1にかかる管理部15の制御方法を示すフローチャートである。
【0040】
図4に示すように、管理部15は、まず、障害物検出部14で移動する障害物を検出したか否かを確認する(ステップS01)。ここで、障害物検出部14は、障害物の位置と速度を同時に検出する。ステップS01で障害物を検出した場合(S01の「yes」)、障害物検出部14で検出された障害物の走行速度に基づいて通過口46の大きさを設定し、その通過口46の大きさになるように上下カバー部の位置を設定する(ステップS02)。そして、設定された上下カバー部の位置を基に、カバー駆動部45cへ、上下カバー部の駆動制御信号を送信する(ステップS03)。カバー駆動部45cが駆動制御信号を受信すると、上カバー部45aおよび下カバー部45bを動かして、通過口46の大きさを障害物の走行速度に応じた大きさに変更する。
【0041】
続いて、管理部15は、信号機13へ制限速度情報と黄色ランプの点灯信号を送信する(ステップS04)。信号機13は、これらの制限速度情報と黄色ランプの点灯信号を受信して、黄色ランプ側の発光部42を点灯させる(黄色ランプを点灯させる)。また、変調部43で、制御情報を発光部42からの光に重畳させる。
【0042】
本実施の形態1の衝突防止システムは、このようにして、障害物検出部14で障害物を検出すると、信号機13の黄色ランプを点灯させる。そして、運転者16へ、交差点17へ進入する上での注意を促す。同時に、信号機13より可視光通信による制限速度情報を発信し、運転者16が操作を誤ったり信号機13を見逃したりした場合でも、交差点17へ進入する直前には強制的に最高走行速度を制限する。
【0043】
また、障害物検出部14で検出した障害物の走行速度に応じて、カバー駆動部45cにより上下カバー部を動かすことで、通過口46の大きさを変え、通過口46の大きさに比例して受信領域37を変える。歩行者34の走行速度が速いと受信領域37は広くなり、歩行者34の走行速度が遅いと受信領域37は狭くなる。
【0044】
なお、ステップS01において移動する障害物を検出しない場合(S01の「no」)、管理部15は、信号機13へ緑色ランプの点灯信号を送信する(ステップS05)。信号機13は、緑色ランプの点灯信号を受信して、発光部41を点灯させる。(緑色ランプを点灯させる)。管理部15は、上述したステップS01からS05を繰り返して、信号機13へ指示を出すことで、信号機13の表示ランプを切り換える。
【0045】
図5は、本実施の形態1にかかる電動車椅子12の制御方法を示すフローチャートである。
【0046】
図5に示すように、電動車椅子12は、信号機13より発する光を受光部25で受光する(ステップS11)。ここで、信号機13からの光を受信しない場合(S11の「no」)は、ステップS14で、通常の移動制御を行う。信号機13からの光を受信した場合(S11の「yes」)、受光部25で受光した光に制限速度情報が含まれているか否かを判定する(ステップS12)。受光した光に制限速度情報が含まれている場合(S12の「yes」)、安全制御部26により移動制御部24を制御し、最高走行速度を制限速度に設定する(ステップS13)。具体的には、最高走行速度が時速6kmである電動車椅子は、制限速度情報を受信すると、その最高走行速度が時速2kmに変更される。
【0047】
その後、ジョイスティック23などを対照した制限速度の解除操作が有るか否かを検出する(ステップS15)。解除操作が無い場合(S15の「no」)、運転者16によるジョイスティック23の操作に従って、移動制御部24で電動車椅子12の移動の制御が行われる。そして、ジョイスティック23の操作に従い電動車椅子12は移動する(ステップS14)。ただし、電動車椅子12の最高走行速度は、制限速度情報を受信した場合と受信していない場合と異なる。制限速度情報を受信した場合は、最高走行速度は時速2kmに設定される。また、時速6kmで走行している途中に制限速度情報を受信すると、時速6kmが時速2km以下になるまで安全制御部26が電動車椅子12を減速させる。
【0048】
また、受光部25で制限速度情報が受信されない場合(S12の「no」)は、電動車椅子12は、現状の最高走行速度(時速6km)を維持する。
【0049】
ここで、ステップS13で移動制御部24を制御して最高走行速度を制限速度に設定した後、制限速度の解除操作が有る場合(S15の「yes」)、電動車椅子12の最高走行速度の設定を初期の時速6kmに戻す(ステップS16)。制限速度の解除操作としては、例えば、一旦、速度0指令を指示するなどの操作がある。このようにすることで、運転者16が状況を理解した上で、運転者16の意思により、制限速度を解除することを可能としている。よって、自動的に制限速度が解除されることによる急激な加速などを防ぐことができる。
【0050】
本実施の形態1の電動車椅子12は、ステップS11からステップS15、S16を含むステップS14までを繰り返して、走行制御を行なう。
【0051】
上述したように、本実施の形態1の衝突防止システムは、信号機13が放つ光で運転者16へ死角となる通路32、33に障害物の存在を伝えると共に、光通信を用いて制限速度情報を電動車椅子12へ送信する。制限速度情報を受光部25で受信した電動車椅子12は、制限速度に従い、最高走行速度を再設定する。本実施の形態1の衝突防止システムは、運転者16が報知手段となす信号機13の光を見逃しても、交差点17での電動車椅子12と歩行者34との衝突を防止することができる。
【0052】
なお、上述した内容では、制限速度情報を受信すると、電動車椅子12は最高走行速度を制限速度として再設定し、運転者16の速度0指令で最高走行速度の制限を解除する。しかし、制限速度の解除は他の方法で行なってもよい。たとえば、制限速度情報受信後で次の指令がこない場合に、一定時間が経過することで制限速度の解除を行っても良い。一定時間経過後で制限速度を解除することで、急激な加速が発生する可能性はあるが、制限速度を解除する操作の手間なく運転を行うことができる。
【0053】
また、本実施の形態1では、平行光に重畳する制限情報の一例として制限速度情報を用いているが、交差点17で障害物と衝突しないための移動制御であれば、制限情報として電動車椅子12を交差点17の手前で一時停止をさせる一時停止情報等を用いてもよい。
【0054】
さらに、上述では黄色ランプにしか電動車椅子12への制限情報を重畳させていないが、緑色ランプに障害物がいないという安全情報を重畳させて、電動車椅子12に通知しても良い。この場合、この安全情報を受信した時のみ最高走行速度の制限を解除する処理や、この安全信号の無い場合は最高走行速度を時速4kmに制限する処理など、安全確認用の処理に使用することで、黄色ランプが故障して点灯しなくなった場合にも安全に電動車椅子12を運用することができる。
【0055】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2にかかる衝突防止システムの信号機53の斜視図である。以下、本実施の形態2の実施の形態1と異なる点について、図面を参照しながら説明する。
【0056】
図6に示すように、信号機53の導光部55は、液晶シャッタ55aと、液晶シャッタ55aへ電界の印加又は除去を行う液晶制御部55bと、を有する。液晶シャッタ55aは、電界の印加あるいは除去により、平行光をそのまま透過させる透過領域56と、平行光を拡散させる拡散領域57とで切り換わる。また、液晶制御部55bは、液晶シャッタ55aに電圧を印加する領域を調整することで、平行光を透過させる透過領域56の領域を広げて大きくしたり、狭めて小さくしたりすることが可能である。このように、導光部55として、液晶シャッタ55aを用いることで、簡易な構成で、追従性良く、反応速度も速く導光部55の通過口(透過領域56)の大きさを変えることができる。
【0057】
(実施の形態3)
図7(a)、
図7(b)は、本発明の実施の形態3にかかる衝突防止システムの電動車椅子の受光部を説明する図である。
図7(a)は、信号機13と走行速度が低速の電動車椅子61の関係を示す図であり、
図7(b)は、信号機13と走行速度が高速の電動車椅子61の関係を示す図である。以下、本実施の形態3の実施の形態1と異なる点について、図面を参照しながら説明する。
【0058】
本実施の形態3の電動車椅子61は、制限速度情報を重畳した平行光を受光する受光部25の角度を、走行速度に応じて変更することが可能な構成である。
【0059】
図7(a)、
図7(b)に示すように、電動車椅子61は、自己の走行速度を検出する走行速度検出部64と、走行速度に応じて受光部25の受光面の向きを変える可動部63と、を有する。そして、走行速度検出部64で検出される走行速度が低速になるにつれて、可動部63が受光部25を鉛直上方に向けて回転移動させることで、受光面の向きを鉛直上方に変化させる。一方、走行速度検出部64で検出される走行速度が高速になるにつれて、可動部63が受光部25を前方に向けて回転移動させることで、受光面の向きを前方に変化させる。
【0060】
電動車椅子61は、受光面が鉛直上向を向いた状態よりも前方を向いた状態の方が、信号機13より発せられる平行光を、より離れた箇所で受光することができる。よって、本実施の形態3のように可動部63を設けることで、電動車椅子61は、高速で走行する場合に制限速度まで減速するための距離を長くすることができる。
【0061】
このようにすることで、本実施の形態3の電動車椅子61は、走行速度が高速の場合に、制限速度情報を交差点17より離れた場所で受信し、制限速度までより確実に減速した状態で交差点17へ侵入することができる。また、走行速度が遅い場合、制限速度情報を交差点の近くで受信し、交差点17に進入する直前までジョイスティック23の指示に従い走行するので、運転者16は、できるかぎり違和感なく電動車椅子61を操作することができる。
【0062】
(実施の形態4)
図8は、本発明の実施の形態4にかかる衝突防止システムを示す概略図である。以下、本実施の形態4の実施の形態1と異なる点について、図面を参照しながら説明する。
【0063】
本実施の形態4にかかる衝突防止システムの管理部65は、障害物検出部14で通路32、33の幅方向の端に障害物を検出すると、信号機13に、可視光領域にある平行光及び拡散光を発光させると共に、電動車椅子12の移動を制限する制限速度情報を平行光に重畳させる。
【0064】
つまり、本実施の形態4では、障害物検出部14で検出することのできる障害物検出領域68、69を、通路33の幅方向の端であると共に通路31側にある第1領域68a、69aと、その他の第2領域68b、69bとに分けている。そして、第1領域68a、69aで歩行者34を検出した場合、管理部65は、信号機13に平行光及び拡散光を発光させると共に制限速度情報を平行光に重畳させる。一方、通路31より離れた第2領域68b、69bで歩行者34を検出した場合、管理部65は、信号機13に光を発光させるが、制限速度情報を光に重畳しない。
【0065】
障害物検出領域68、69で検出された歩行者34の位値が第1領域68a、69aのように通路31に近い場合、信号機13の黄色ランプの光を運転者16が見逃して、運転者16が電動車椅子12を交差点17に進入させると、電動車椅子12と歩行者34とが衝突する可能性が高い。一方、障害物検出領域68、69で検出された歩行者34の位値が第2領域68b、69bのように通路31より離れている場合、信号機13の黄色ランプの光を運転者16が見逃して、運転者16が電動車椅子12を交差点17に進入させても、電動車椅子12と歩行者34とが衝突する可能性は若干低くなる。第2領域68b、69bの場合は、交差点17に進入してから運転者16が歩行者34に気づいても、電動車椅子12と歩行者34との間に距離があるので、運転者16の操作で電動車椅子12と歩行者34とが衝突することを回避できる可能性がある。
【0066】
つまり、通路31との衝突の可能性の高い位置で歩行者34を検出した場合のみ、制限速度情報を光に重畳させることで、衝突の可能性の高い時のみ制限速度により強制的に減速する。本実施の形態4の衝突防止システムは、通路31との衝突の可能性の低い位置では、強制的に減速することはないので、電動車椅子12の操作感に優れる。
【0067】
(実施の形態5)
図9は、本発明の実施の形態5にかかる衝突防止システムの障害物検出領域96、97を示す概略図である。
図10は、本実施の形態5にかかる衝突防止システムの照明光を示す概略図である。
図11は、本実施の形態5にかかる衝突防止システムの障害物検出領域96,97を示す概略図である。以下、本実施の形態5の実施の形態1と異なる点について、図面を参照しながら説明する。
【0068】
図9、
図10に示すように、本実施の形態5の衝突防止システムは、4つの通路71、72、73、74が交差した交差点77での衝突防止に用いられるものである。本実施の形態5の衝突防止システムは、電動車椅子12と、信号機81、82、83、84と、障害物検出部85、86、87、88と、管理部89とを有する。信号機81、82、83、84は、4つの通路71、72、73、74が交差した交差点77の天井に設置されている。信号機81は通路71の方向をその表示方向とし、信号機82は通路72の方向をその表示方向とし、信号機83は通路73の方向をその表示方向とし、信号機84は通路74の方向をその表示方向とする。障害物検出部85、86、87、88は、それぞれ信号機81、82、83、84に設置されている。
【0069】
そして、障害物検出部86、87で障害物を検出すると、管理部89は、信号機81、84に可視光領域にある平行光及び拡散光を発光させると共に、電動車椅子12の最高走行速度を再設定する制限速度情報を平行光に重畳させる。同様に、障害物検出部85、88で障害物を検出すると、管理部89は、信号機82、83に可視光領域にある平行光及び拡散光を発光させると共に、電動車椅子12の最高走行速度を再設定する制限速度情報を平行光に重畳させる。具体的には、障害物となる歩行者34が障害物検出領域96、97に入ると、管理部89は、信号機81、84に平行光及び拡散光を発光させると共に、制限速度情報を平行光に重畳させる。そして、信号機81、84の黄色ランプを点灯させる。よって、通路71の運転者16が報知手段となす信号機81の光を見逃しても、交差点17での電動車椅子12と歩行者34との衝突を防止することができる。
【0070】
なお、運転者16にとって視界に入る通路74に障害物がある場合、信号機81より制限速度情報を発信することはない。なぜならば、運転者は、交差点77に電動車椅子12を進入させる前に通路74の障害物に気づくためである。この場合、障害物と電動車椅子12との間隔は充分に広く、運転者16は、走行速度を落すことなく、電動車椅子12を障害物より回避させることができると考えられる。
【0071】
具体的には、
図11に示すように、電動車椅子12が通路71を移動している時に、前方の通路74を移動する歩行者34が障害物検出部88で検出された場合でも、管理部89は、信号機81より制限速度情報を重畳させた平行光を発光することはない。よって、信号機81は、緑色ランプを点灯したままである。運転者16にとって、通路74を移動する歩行者34は視界に入るため、交差点77へ進入する前に、運転者16は歩行者34と電動車椅子12とが衝突しないように操作することができる。