特許第5673539号(P5673539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5673539
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】球状化窒化ほう素の製造法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   C01B21/064 G
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-527571(P2011-527571)
(86)(22)【出願日】2010年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2010005014
(87)【国際公開番号】WO2011021366
(87)【国際公開日】20110224
【審査請求日】2013年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2009-191292(P2009-191292)
(32)【優先日】2009年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】吉原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 一昭
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−155507(JP,A)
【文献】 特開2001−294409(JP,A)
【文献】 特開平09−202663(JP,A)
【文献】 特開昭61−117107(JP,A)
【文献】 特開2000−327312(JP,A)
【文献】 特開2000−109306(JP,A)
【文献】 Wei-Qiang HAN et al.,"Activated Boron Nitride Derived from Activated Carbon",Nano Letters,2004年,Vol.4, No.1,p.173-176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00−21/50
35/00−35/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状化黒鉛を原料とし、これにほう素酸化物および窒素を1600℃から2100℃の高温下で反応させて球状化窒化ほう素を生成させることを特徴とする球状化窒化ほう素の製造方法。
【請求項2】
反応に用いるほう素酸化物を、酸化ほう素(B)、ほう酸(HBO)、または高温でほう素酸化物を生成する物質とし、反応に用いるガスを、窒素またはアンモニアとすることを特徴とする請求項1に記載の球状化窒化ほう素の製造方法。
【請求項3】
酸化ほう素粉末と球状化黒鉛とを一つのるつぼ、または別々のるつぼの中に入れて、加熱炉の中に置き、窒素ガスを酸化ホウ素粉末と球状化黒鉛に接触するように流しながら加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の球状化窒化ほう素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状化窒化ほう素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ほう素(以下、「hBN」という。)粒子は、黒鉛に類似した層状構造を有し、熱伝導性、電気絶縁性、化学安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性などの特性に優れている。
【0003】
これらの特性を活かして、電子材料分野では、電子部品から発生した熱を効率よく分散させるため、樹脂又はゴムにhBN粉末を充填した放熱部材、例えば放熱グリース、柔軟性スペーサー、放熱シートなどが使用されている。
【0004】
通常のhBN粉は鱗片粒子の集合体であり、これを樹脂やゴムに充填すると、粒子同士が同一方向に揃い配向する(特開平9−202663号公報参照)。hBN粒子の熱伝導率は面方向(a軸方向)が400W/mKであるのに対して、厚み方向(c軸方向)は2W/mKと異方性が存在するため、例えば放熱シート内でhBN粒子が配向すると、hBN粒子はその面方向(a軸方向)がシートの面方向と平行になって充填されるため、シートの厚み方向の熱伝導率を向上させづらいという問題があった。
【0005】
このような問題を解消するため、絶縁放熱シートに充填しても配向しにくい、鱗片状以外の形状を有するhBN粉末を用いる試みがなされてきた。このようなhBN粉末としては、たとえば結晶が未発達な窒化ほう素の塊状体(特開昭61−117107号公報参照)、噴霧乾燥などにより造粒されたhBN粉末(US6348179号公報参照)、あるいはhBN焼結体を粉砕して製造されたhBN粉末(特開平9−202663号公報参照)などがある。
【0006】
しかしながら、結晶が未発達なhBNの塊状体は、純度、熱伝導性などの特性が鱗片状hBN粉末よりも劣るため、絶縁放熱シートの厚み方向の熱伝導率が向上しないだけでなく、耐湿信頼性が低下する。噴霧乾燥などにより造粒したhBN粉末は、おおよその粒子径が10μm以下となり、粒子径の大きな球状化窒化ほう素の合成は困難であった。また、hBN焼結体を粉砕して製造された粉末は、hBN焼結体製造過程におけるホットプレスや予備成形時にhBN粒子が配向し、一次粒子が配向した状態で集合した粒子の割合が多くなるため、従来よりも多少の改善効果があるが、やはりhBN粒子のa軸方向が絶縁放熱シートの面方向と平行になって充填されてしまう。しかも、コスト高である。
【0007】
一方ほう素酸化物と炭素を原料に窒素雰囲気下でhBNを合成する還元窒化法については鱗片状窒化ほう素を合成する方法(特開昭60−155507号公報参照)、窒化ほう素ナノチューブを合成する方法(特開2000−109306号公報参照)、表面積の大きいhBNを合成する方法(非特許文献Nano Letters,2004,4(1),173−176参照)が開示されているが、球状化窒化ほう素を合成することに関しては一切述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−202663号公報
【特許文献2】特開昭61−117107号公報
【特許文献3】US6348179号公報
【特許文献4】特開昭60−155507号公報
【特許文献5】特開2000−109306号公報
【非特許文献1】Nano Letters,2004,4(1),173−176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、球状化窒化ほう素の簡便な製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、球状化黒鉛を出発物質とし、これにほう素酸化物および窒素を高温下で化学反応させることにより、球状化黒鉛を元の形態を残したまま窒化ほう素に変換することで球状化窒化ほう素を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記1)〜3)である。
1)球状化黒鉛を原料とし、これにほう素酸化物および窒素を1600℃から2100℃の高温下で反応させて球状化窒化ほう素を生成させることを特徴とする球状化窒化ほう素の製造方法。
2)反応に用いるほう素酸化物が、酸化ほう素(B)、ホウ酸(HBO)、または高温でほう素酸化物を生成する物質とし、反応に用いるガスは、窒素またはアンモニアとすることを特徴とする1)に記載の球状化窒化ほう素の製造方法。
3)酸化ほう素粉末と球状化黒鉛とを一つのるつぼ、または別々のるつぼの中に入れて、加熱炉の中に置き、窒素ガスを酸化ホウ素粉末と球状化黒鉛に接触するように流しながら加熱することを特徴とする1)又は2)に記載の球状化窒化ほう素の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の球状化窒化ほう素の製造方法によれば、原料の球状化黒鉛の形態を残したまま窒化ほう素に変換するため、簡便に球状化窒化ほう素を合成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】球状化黒鉛(日本黒鉛製CGC100)の電子顕微鏡写真
図2】球状化黒鉛(日本黒鉛製CGC100)の粒子径分布図
図3】実施例1で得られた球状化窒化ほう素の電子顕微鏡写真
図4】実施例1で得られた球状化窒化ほう素の粒子径分布図
図5】実施例1で得られた球状化窒化ほう素のXRDの回折ピーク
図6】実施例2で得られた球状化窒化ほう素の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の球状化窒化ほう素の製造法は球状化黒鉛を原料とし、これにほう素酸化物および窒素を1600℃から2100℃の高温下で反応させて球状化窒化ほう素を生成させることを特徴とする。
【0015】
球状化黒鉛とは球状粒子で、配向性を抑えた黒鉛粉末である。本発明の球状化黒鉛は、当業者や黒鉛製造メーカーが「球状化黒鉛」と認識する黒鉛粉末である。
また本発明の球状化窒化ほう素は、当業者が球状であると認識する形状にhBNが積層および/または凝集した粉末である。
【0016】
本発明における「球状」の目安としては、当業者の認識に加えて、例えば以下で説明する「球形度」を挙げることができる。本発明でいう黒鉛および窒化ほう素の球形度は、少なくともある1方向から見たときの、粒子の最大径( D L ) と、これと直交する短径( D S ) との比( D S / D L )により得ることができる。このような球形度は、まず粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、非球状の微粒子が存在しないことを確認した後、任意の微粒子1 0 個についてそれぞれ短径( D S ) と最大径( D L ) を求め、その比( D S / D L ) の平均値を球形度とした。黒鉛および窒化ほう素の球状化度は熱伝導性の異方性を緩和する意味で、少なくともある1方向から見たときの球形度が0.5〜1.0であることが好ましい。
【0017】
本発明の球状化窒化ほう素の製造法は、球状化黒鉛を原料とすることを特徴とする。例えばビーズ状に球状化処理されたカーボンブラックを使用した場合、カーボンブラックは黒鉛として結晶化していないため、生成物も鱗片状のhBNが生成するのみで、球形を残したまま窒化ほう素に変換することはできない。
【0018】
また特許文献5および非特許文献1に記載の窒化ほう素の製造方法においては、使用する炭素原料が、カーボンナノチューブもしくは活性化カーボンであり、いずれも表面積が大きいため、ほう素酸化物が炭素元素と容易に接触し反応させることができる。一方、球状化黒鉛はその粒子径が大きくなるほど表面積は小さくなるため、ほう素酸化物が炭素元素と接触し反応が進行する該方法で、球状化黒鉛を十分に窒化ほう素化できることは予想外の発見であった。またこのようにして得られる窒化ほう素が、その球状の凝集状態をほぼ同粒子径で維持することも予想外の発見であった。
【0019】
原料のほう素酸化物と球状化黒鉛の混合は、ボールミル、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーのような適当な装置を用いて、乾燥状態で互いに混合又はブレンドすることができる。
【0020】
混合/ブレンド工程後の乾燥は150〜250℃の温度で任意に実施される。乾燥操作は、空気中で実施してもよいし、或いは窒素又はアンモニア雰囲気中で実施してもよい。
乾燥時間は、乾燥温度に依存するとともに、乾燥工程を静的雰囲気中で実施するか或いは循環空気又はガス気流中で実施するかに依存する。
【0021】
原料のほう素酸化物と球状化黒鉛は、ほう素酸化物の上に球状化黒鉛を層状に重ねて配置することもでき、ほう素酸化物(B2O3 、B2O2 等)が拡散または輸送により、球状化黒鉛上に到達する構造であればどのような配置でもよく、両原料を非接触の配置としてもよい。上記のほう素酸化物としては、加熱によりほう素酸化物を生成する物質であれば他の物質でもよい。例えば、ほう酸、酸化ほう素、メラミンボレート等の有機ほう酸化合物、ほう酸と有機物の混合物等の物質の固体、液体、さらにはほう素、酸素を含む気体でもよい。これらの物質は、るつぼ内に固定状に保持せずに、球状化黒鉛と接触して流れながら通過するようにしてもよい。
【0022】
また、窒素源は、窒素を含む中性または還元性のガスであればよく、窒素、アンモニア等が手軽で、そのまま、または混合、希釈して用いられる。安価で安全であることから窒素ガスが最も好ましい。
【0023】
用いるるつぼは、原料と反応して障害にならないものならよく、安価で加工性がよいことから黒鉛るつぼが好ましい。BNるつぼも加工性や耐食性の点で優れている。
【0024】
加熱条件については、例えば、窒素気流中で1500℃で30分間加熱すると、B2O3 は、加熱により、ほう素酸化物(B2O2等)として気化または表面拡散により球状化黒鉛に到達し、黒鉛の炭素により還元を受けると同時に窒素と反応してBNを生成する。この反応により、原料の球状化黒鉛の形態を残したまま、るつぼ内に球状化窒化ほう素が得られる。球状化黒鉛の形態を残していることは例えばSEM観察によって確認できる。
【0025】
本発明の方法で得られる球状化窒化ほう素の平均粒子径は、出発物質の球状化黒鉛の平均粒子径とほぼ一致し、粒子径分布も同程度である。平均粒子径および粒子径分布はマイクロトラックによる測定により確認できる。
【0026】
本発明の方法において、球状化窒化ほう素の生成には1600℃以上が必要であり、加熱温度の下限は、好ましくは1700℃以上、さらに好ましくは1800℃以上である。
温度が高すぎるとBNの分解が進むので、上限は2100℃以下、好ましくは2000℃以下である。酸化ほう素を球状化黒鉛と接触させて用いる場合は、高温ではほう素酸化物の蒸発速度および反応速度が速すぎて球状化黒鉛がるつぼから飛散するので、1600℃〜2000℃に設定するのが最も好ましい。
【0027】
焼成炉としては、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉などのバッチ式炉や、ロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪型連続炉などの連続式炉が用いられる。これらは目的に応じて使い分けられ、例えば多くの品種の球状化窒化ほう素を少量ずつ製造するときはバッチ式炉が、一定の品種を多量製造するときは連続式炉が採用される。
【0028】
以上のようにして製造された球状化窒化ほう素は、必要に応じて分級、洗浄、乾燥などの後処理工程を経た後、実用に供される。
【0029】
本発明の球状化窒化ほう素はhBNが球状に凝集してなる粒子であることを特徴とする。hBNの凝集体であることはXRDの回折ピークより確認することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示してさらに詳しく球状化窒化ほう素の製造法について説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、球状化黒鉛は日本黒鉛製CGC100(平均粒子径90μm)を使用した。倍率100倍の電子顕微鏡写真を図1に粒子径分布図を図2に示す。電子顕微鏡写真から計算した球形度は0.79であった。また以下にあげるその他各試薬は特に特記しない限り和光純薬工業(株)製の試薬を用いた。
平均粒子径評価:
100mlビーカーにヘキサメタリン酸ナトリウム(試薬1級)20重量%水溶液15mlを入れ、この水溶液に粒子サンプル60mgを投入し、超音波分散器で40分間分散し、それをレーザー散乱式粒度測定装置器(MICROTRAC HRA[日機装(株)] 9320-X100)のチェンバー内に入れ、測定レンジ0.1〜1000μm、測定時間120秒にて体積分布を測定し、測定される体積分布50%の粒径を平均粒子径とした。
XRD測定:
粉末X線回折装置(PANalytical X'Pert PRO[スペクトリス(株)])を用い、表1に示す条件で測定し、hBNを同定した。
(実施例1)
酸化ほう素100重量部、球状化黒鉛〔日本黒鉛製CGC100(平均粒子径90μm)〕50重量部をヘンシェルミキサーで混合した後、黒鉛製ルツボに仕込み、窒素雰囲気下1800℃まで10℃/分、の昇温速度で加熱し、1800℃で1時間焼成した。得られた焼成物を1N硝酸水溶液にて洗浄した。得られた球状化窒化ほう素の平均粒子径は79μmであり、原料の球状化黒鉛の形状をほぼとどめていた。倍率100倍の電子顕微鏡写真を図3に、粒子径分布図を図4に示す。電子顕微鏡写真から計算した球形度は0.78であった。またXRDの回折ピークを図5に示すが、002、100、101、102、104面の回折ピークが観測されることから、hBNのピークと同定できた。
(実施例2)
実施例1の酸化ほう素をほう酸にし、ほう酸100重量部に対し、球状化黒鉛(日本黒鉛製CGC100(平均粒子径90μm))を25重量部にした以外は同様にして、球状化窒化ほう素を得た。得られた球状化窒化ほう素の平均粒子径は78μmとほぼ実施例1と同様な球状化窒化ほう素であり、原料の球状化黒鉛の形状をほぼとどめていた。倍率100倍の電子顕微鏡写真を図6に示す。電子顕微鏡写真から計算した球形度は0.80であった。またXRDによりhBNと同定できた。
(比較例1)
実施例1の球状化黒鉛をカーボンブラック(東海カーボン製シースト3(平均ビーズ径約1mm))にした以外は同様にして、hBNを合成した。得られたhBNは球状に凝集せず、鱗片状のhBN粒子であった。
【0031】
【表1】
【0032】
本発明によれば、放熱部材の熱伝導性を一段と向上することのできる球状化窒化ほう素を容易に製造することができる。
図2
図4
図5
図1
図3
図6