特許第5673542号(P5673542)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5673542
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】輸送用多層チューブ
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/127 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
   F16L11/12 G
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-529955(P2011-529955)
(86)(22)【出願日】2010年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2010065150
(87)【国際公開番号】WO2011027863
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2009-205450(P2009-205450)
(32)【優先日】2009年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢
(72)【発明者】
【氏名】久保 剛
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−331101(JP,A)
【文献】 特開2003−221217(JP,A)
【文献】 特開2003−227039(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/123531(WO,A1)
【文献】 特開2006−103996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性樹脂を含む外層と
(b)表面抵抗率が10Ω以下となる導電性熱可塑性樹脂を含む内層の少なくとも2層を有し、
前記導電性熱可塑性樹脂中に、炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成している微細な炭素繊維
を含有することを特徴とする燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項2】
前記微細な炭素繊維が、Fe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒を用いた気相成長法により製造され、前記微細な炭素繊維中の灰分が4質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項3】
前記微細な炭素繊維が、100個以下の前記集合体が連結して構成されている微細な炭素短繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項4】
前記微細な炭素短繊維が、ずり応力を加えて短繊維化されて製造されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項5】
前記外層を構成する熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項6】
前記内層を構成する導電性熱可塑性樹脂が、導電性ポリアミドであることを特徴とする請求請1〜5のいずれか1項に記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項7】
前記内層を構成する導電性熱可塑性樹脂が、シュウ酸を含むジカルボン酸成分と、炭素数4〜12のジアミンを含むジアミン成分とから得られるポリアミドを含む導電性ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【請求項8】
前記内層を構成する導電性熱可塑性樹脂が、1,9−ノナンジアミンおよび2−メチル−1,8−オクタンジアミンから実質的になり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン成分を用いて得られるポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂、特にポリアミド樹脂をベースとする燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブであって、微細な炭素繊維を導電性付与材として配合した導電性熱可塑性樹脂を内層に有する、成形加工性と耐燃料油性、帯電防止性に優れた燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
安全性や環境保護の観点から、燃料、薬液、ガス輸送用チューブには強度、柔軟性等の機械的特性とバリア性が求められる。また搬送の際、チューブ内壁との摩擦により発生する静電気が蓄積し、放電(発火)して燃料、薬液、ガスに引火することを防止するため、これらと接する内層に導電性を付与したチューブが用いられる。
【0003】
樹脂に導電性を付与する手段として導電性フィラーを混練分散して導電性樹脂とすることは良く知られており、樹脂に混練する導電性フィラーとしては、一般にイオン導電性の有機系界面活性剤、金属繊維及び粉末、導電性金属酸化物粉末、カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛粉末などが利用され、これを樹脂中に溶融混練し、分散させた導電性樹脂組成物を成形加工することによって10−1〜1012Ω・cmの体積抵抗値を有する成形品を得ることができる。
【0004】
特に炭素質材料を樹脂に添加する方法が最も一般的であり(特許文献1:特開平07−286103号、特許文献2:特開平01−11161)、ポリアミドをはじめとする熱可塑性樹脂においても導電性カーボンブラックを配合することは周知である。
【0005】
しかし、ケッチェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社の登録商標)およびアセチレンブラックに代表されるカーボンブラックは、15質量%以下の配合で高い導電性が得られるが、これらは樹脂への分散制御が難しく、安定した導電性を得るためには独特な配合、混合技術が必要とされる。また充分な導電性が得られたとしても、加工性が著しく低下するのみならず、導電性樹脂組成物の引張り強度、曲げ強度、耐衝撃強度等の物性は、導電性フィラーを含有しない樹脂本来の物性に比べ著しく低下する。
【0006】
また、カーボンブラック以外では、フレーク状の黒鉛粉末およびウイスカー状の炭素繊維等のアスペクト比が高い導電性フィラーがあるが、導電性を発現させるには15質量%を超える量が必要であり、樹脂本来の物性が低下し、複雑形状の成形品を得ようとすると繊維の偏りと方向性が現れ、成形性と導電性が阻害される。また、成形体表面からカーボン粒子や炭素繊維が脱落(スラフ性)しやすい等の問題がある。
【0007】
繊維径の異なる炭素繊維が同質量が配合され場合、繊維径が細い方が繊維間の導電回路網の形成が容易になるため導電性付与に優れる。近年、従来の炭素繊維より繊維径が2〜3桁程細い中空の極細炭素繊維いわゆるカーボンナノチューブが開示され、導電性フィラーとして各種樹脂、ゴム等に配合することも提案され(特許文献3:特開平01−131251、特許文献4:特開平03−74465、特許文献5:特開平02−235945)、従来の導電性フィラーの欠点を解消する有効な導電性フィラーとして考えられている。
【0008】
これらのいわゆるカーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブと総称される極細炭素繊維は、その形状、形態、構造から、
(1)多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)
特公平3−64606、同3−77288
特開2004−299986
(2)カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))
USP 4,855,091
M.Endo, Y.A.Kim etc.:Appl.Phys.Lett.,vol80(2002)1267〜
特開2003−073928
特開2004−360099
(3)プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)
H.Murayama, T.maeda:Nature, vol345[No.28](1990)791〜793
特開2004−300631
の3つのナノ構造炭素材料に大別される。
【0009】
(1)多層カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ長さ方向の導電性はグラファイト網面方向の電子の流れとなるため良好である。一方、カーボンナノチューブ繊維間の導電性は、グラファイト網面方向と垂直となり繊維同士が直接接触することにより電子が流れるが、樹脂中においては、繊維同士の接触がゆるいため繊維自体の電子の流れよりむしろ導電性フィラー表面層からの電子の飛び出しによる電子の流れが重要な役割を果たすとされる。電子の飛出し易さがフィラーの導電性能に関わる。カーボンナノチューブにおいては、グラファイト網面が円筒状に閉じているためπ電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果説)があまり期待できないことが推定される。
【0010】
(2)魚骨状構造、および(3)トランプ状構造の極細炭素繊維は、側周面にグラファイト網面の開放端が露出するため、隣接する繊維間の導電性はカーボンナノチューブに比べ向上する。しかしながら、グラファイト網面が繊維軸方向に対し傾斜あるいは直交して積層した構造であるため、単独の繊維における繊維軸長軸方向の導電性は低下してしまい、組成物全体としての導電性が低下する。
【0011】
また、上記のいわゆるカーボンナノチューブは、樹脂への均一分散が困難であり、カーボンナノチューブの非分散部分は樹脂中に凝集体として残るため、紡糸不能(糸切れ)、成形機吐出部分のフィルター閉塞、耐衝撃性等の成形品の機械的強度、表面外観が損なわれる等の問題があり、満足のできるものではない。このため、樹脂分子量の最適化(特許文献6:特開2001−310994)、変性樹脂、エラストマー、相溶化剤の配合(特許文献7:特開2007−231219、特許文献8:特開2004−230926、特許文献9:特開2007−169561、特許文献10:特開2004−231745)、カーボンナノチューブの表面改質処理(特許文献11:特開2004−323738)等の特別な組成物の配合及び混合、特殊な表面改質処理を必要とし、樹脂の種類、組成等が制約されるという問題があり、更なる改善が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平07−286103号公報
【特許文献2】特開平01−11161号公報
【特許文献3】特開平01−131251号公報
【特許文献4】特開平03−74465号公報
【特許文献5】特開平02−235945号公報
【特許文献6】特開2001−310994号公報
【特許文献7】特開2007−231219号公報
【特許文献8】特開2004−230926号公報
【特許文献9】特開2007−169561号公報
【特許文献10】特開2004−231745号公報
【特許文献11】特開2004−323738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、優れた成形加工性、機械的特性と安定した導電性を有する熱可塑性樹脂を内層に配する燃料、薬液、ガス輸送用チューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の事項に関する。
【0015】
1.(a)熱可塑性樹脂を含む外層と
(b)表面抵抗率が10Ω以下となる導電性熱可塑性樹脂を含む内層の少なくとも2層を有し、
前記導電性熱可塑性樹脂中に、炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成している微細な炭素繊維
を含有することを特徴とする燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0016】
2.前記微細な炭素繊維が、Fe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒を用いた気相成長法により製造され、前記微細な炭素繊維中の灰分が4質量%以下であることを特徴とする項1記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0017】
3.前記微細な炭素繊維が、100個以下の前記集合体が連結して構成されている微細な炭素短繊維であることを特徴とする項1または2記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0018】
4.前記微細な炭素短繊維が、ずり応力を加えて短繊維化されて製造されたことを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0019】
5.前記外層を構成する熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0020】
6.前記内層を構成する導電性熱可塑性樹脂が、導電性ポリアミドであることを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0021】
7.前記内層を構成する導電性熱可塑性樹脂が、シュウ酸を含むジカルボン酸成分と、炭素数4〜12のジアミンを含むジアミン成分とから得られるポリアミドを含む導電性ポリアミド樹脂であることを特徴とする項1〜6のいずれかに記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【0022】
8.前記内層を構成する導電性熱可塑性樹脂が、1,9−ノナンジアミンおよび2−メチル−1,8−オクタンジアミンから実質的になり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン成分を用いて得られるポリアミド樹脂であることを特徴とする項1〜7のいずれかに記載の燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブ。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、熱可塑性樹脂のもつ本来の物性と成形性を維持しながら安定した導電性を有する樹脂組成物を内層に配する燃料、薬液、ガス輸送用多層チューブが得られる。本発明の構成要素である導電性熱可塑性樹脂の内層は、少ない量の微細な炭素繊維の添加により、高い導電性が達成されている。そのため、樹脂本来の性質、例えば成形性や機械的特性が大きく損なわれることなく、燃料輸送用チューブを得ることができる。
【0024】
さらに、本発明の多層チューブでは、燃料や薬液、特にアルコール含有燃料吸収時でも内層の導電性が低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)微細な炭素繊維を構成する最小構造単位(釣鐘状構造単位)を模式的に示す図である。(b)釣鐘状構造単位が、2〜30個積み重なった集合体を模式的に示す図である。
図2】(a)集合体が間隔を隔てて連結し、繊維を構成する様子を模式的に示す図である。(b)集合体が間隔を隔てて連結する際に、屈曲して連結した様子を模式的に示す図である。
図3】製造例Aで製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。
図4】微細な炭素繊維が、ずり応力により微細な炭素短繊維に引き抜かれる様子を模式的に示す図である。
図5】短繊維化された微細な炭素短繊維のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、「微細な炭素短繊維」は「微細な炭素繊維」に包含される概念であり、「微細な炭素繊維」の中でも後述するように繊維長が短い短繊維を意味する。以下の説明では、「微細な炭素繊維」は、通常、短繊維化されていない「微細な炭素繊維」を意味する。また、「微細な炭素繊維」および「微細な炭素短繊維」は、明示的に示さない限り、以下に説明される特定構造の炭素繊維を意味し、公知の構造の炭素繊維を意味しない。
【0027】
また、本発明において、多層チューブの「内層」とは、輸送される燃料、薬液、ガス等と直接接触する最内層のことをいい、「外層」とは、内層の外側に形成される内層以外の層のことをいう。
【0028】
<<多層チューブ>>
本発明の多層チューブは、全体の層数は特に制限されず、熱可塑性樹脂を含む外層と導電性熱可塑性樹脂を含む内層の少なくとも2層を有する。本発明の多層チューブは、さらなる機能の付与、あるいは経済的に有利な多層チューブを得るために、他の熱可塑性樹脂からなる層を1層又は2層以上有していてもよい。
【0029】
本発明の多層チューブは、少なくともその内層が、微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維を包含する)が分散された導電性熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする。本発明の多層チューブの内層に用いられる導電性熱可塑性樹脂組成物では、後述するように微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維を包含する)の優れた分散性のため、「従来の極細炭素繊維」に比べて広範囲で配合量を変化させることができる。微細な炭素繊維の配合量は、目的の導電性が得られる範囲で、例えば、内層の表面抵抗率が、10Ω以下、より好ましくは、10Ω以下になるように調整することができる。また、成形性の低下、成形品の機械的特性の低下を招かない範囲で適宜変更することができる。一般的には、配合量は、組成物総質量に対して、0.1〜40質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%である。
【0030】
本発明の多層チューブの内層に用いられる導電性熱可塑性樹脂組成物では、熱可塑性樹脂に微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維を包含する)を配合することにより、以下のメリットが得られる。成形加工時には、加工が向上し、変形および収縮が抑制される。微細な炭素繊維の優れた分散性により、燃料や薬液に接触した際の帯電が防止され、低温での使用環境においても優れた耐衝撃性を発現する。
【0031】
本発明の多層チューブにおいては、波形領域を有するものであってもよい。波形領域とは、波形形状、蛇腹形状、アコーティオン形状又はコルゲート形状等に形成した領域である。波形領域は、多層チューブ全長にわたり有するものだけではなく、途中の適宜の領域に部分的に有するものであってもよい。波形領域は、まず直管状のチューブを成形した後に、引き続いてモールド成形し、所定の波形形状等とすることにより容易に形成することができる。かかる波型領域を有することにより、衝撃吸収性を有し取り付け性が容易となる。さらに、必要な部品を付加したり、曲げ加工によりL字、U字の形状等にしたりすることが可能である。
【0032】
本発明の多層チューブは、燃料や薬液又はガス等の透過防止性に優れるため、例えば、燃料や薬液、ガス輸送用チューブとして有用であり、また、耐熱性にも優れるため、高温の燃料や薬液、ガス等輸送用チューブとしても有用である。ここで、本発明における高温の燃料や薬液、ガスの輸送とは、50℃以上の状態の燃料、薬液、ガスが、多層チューブ内を該温度以上にて瞬間、あるいは継続的に流動、循環することをいう。
【0033】
燃料および薬液としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール、フェノール系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、二塩化エチレン、パークロロエチレン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、パークロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、尿素溶液、ガソリン、灯油、ディーゼルガソリン、含アルコールガソリン、含酸素ガソリン、含アミンガソリン、サワーガソリン、ひまし油ベースブレーキ液、グリコールエーテル系ブレーキ液、ホウ酸エステル系ブレーキ液、極寒地用ブレーキ液、シリコーン油系ブレーキ液、鉱油系ブレーキ液、パワーステアリングオイル、含硫化水素オイル、エンジン冷却液、ウインドウオッシャ液、医薬剤、インク、塗料等が挙げられる。また、本発明においては、上記例示の薬液を成分とする水溶液も本発明の薬液に内包されるものとする。
【0034】
ガスとしては、フロン−11、フロン−12、フロン−21、フロン−22、フロン−113、フロン−114、フロン−115、フロン−134A、フロン−32、フロン−123、フロン−124、フロン−125、フロン−143A、フロン−141b、フロン−142b、フロン−225、フロン−C318、フロン−502、塩化メチル、塩化エチル、空気、酸素、水素、窒素、二酸化炭素、メタン、プロパン、イソブタン、n−ブタン、アルゴン、ヘリウム、キセノン等が挙げられる。
【0035】
本発明の多層チューブは、フィードホース、リターンホース、エバポホース、フューエルフィラーホース、ORVRホース、リザーブホース、ベントホース、オイルホース、ディーゼルガソリンホース、石油掘削ホース、含アルコールガソリンホース、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ホース、エンジン冷却液(LLC)ホース、リザーバータンクホース、尿素溶液搬送用ホース、冷却水、冷媒等用クーラーホース、エアコン冷媒用ホース、ヒーターホース、ロードヒーティングホース、床暖房ホース、インフラ供給用ホース、消火器及び消火設備用ホース、医療用冷却機材用ホース、インク、塗料散布ホース、その他薬液、ガスホースとして使用することが可能である。
【0036】
特に、過酷な条件下での使用が想定される、エンジン冷却液(LLC)ホース、ディーゼルガソリンホース、石油掘削ホース、含アルコールガソリンホース、尿素溶液搬送用ホース、ヒーターホース、リザーバータンクホース、ロードヒーティングホース、床暖房ホースとして有用である。
【0037】
<多層チューブの製造方法>
本発明の多層チューブの製造方法としては、層の数もしくは材料の数に対応する押出機を用いて、各層を構成する樹脂等を溶融押出し、ダイ内あるいは外において同時に多層化する方法(共押出法)、あるいは一旦単層チューブあるいは、上記の方法により製造された多層チューブを予め製造しておき、外側に順次、必要に応じては接着剤を使用し、樹脂を一体化せしめ多層化する方法(コーティング法)が挙げられる。本発明の多層チューブにおいては、熱可塑性樹脂を溶融状態で共押出成形し、各層を熱融着(溶融接着)して一段階で多層チューブを製造する共押出法により製造されることが好ましい。
【0038】
また得られる多層チューブが複雑な形状である場合や、加熱曲げ加工を施して成形品とする場合は、成形品の残留歪みを除去するために、上記の多層チューブを成形した後、前記チューブを構成する樹脂のうち最も低い融点未満の温度で、0.01〜10時間熱処理して目的の成形品を得ることも可能である。
【0039】
次に、本願発明の多層チューブに用いられる、微細な炭素繊維、微細な炭素短繊維、熱可塑性樹脂等について説明する。
【0040】
<<微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維>>
本発明の組成物中に配合される微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維の代表的な特徴および代表的な製造方法は、次の項目にまとめられる。
【0041】
1. 好ましくは気相成長法により製造される微細な炭素繊維であって、
炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、好ましくは前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さく、
前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体を形成し、
前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成していることを特徴とする微細な炭素繊維。
【0042】
2. 前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2から30であることを特徴とする上記1記載の微細な炭素繊維。
【0043】
3. 含有する灰分が4重量%以下であることを特徴とする上記1または2記載の微細な炭素繊維。
【0044】
4. X線回折法により測定される微細な炭素繊維の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が、2〜4であることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維。
【0045】
5. X線回折法により測定される微細な炭素繊維のグラファイト面間隔(d002)が0.341〜0.345nmであることを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維。
【0046】
6. Fe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒、より好ましくはマグネシウムが置換固溶したコバルトのスピネル型酸化物を含む触媒上に、CO及びHを含む混合ガスを供給して反応させ、微細な炭素繊維を成長させることを特徴とする微細な炭素繊維の製造方法。
【0047】
7. 前記スピネル型酸化物を、MgCo3−xで表したとき、マグネシウムの固溶範囲を示すxの値が、0.5〜1.5であることを特徴とする上記6記載の微細な炭素繊維の製造方法。
【0048】
8. 前記スピネル型酸化物のX線回折測定による結晶格子定数a(立方晶系)が0.811〜0.818nmであることを特徴とする上記6または7記載の微細な炭素繊維の製造方法。
【0049】
9. 前記混合ガス中のCO/Hの容積比が、70/30〜99.9/0.1の範囲であり、反応温度が400〜650℃の範囲であることを特徴とする上記6〜8のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維の製造方法。
【0050】
10. 好ましくは気相成長法により製造される微細な炭素繊維を短繊維化した微細な炭素短繊維であって、グラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で1個ないし数十個連結していることを特徴とする微細な炭素短繊維。
【0051】
11. 前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さいことを特徴とする上記10記載の微細な炭素短繊維。
【0052】
12. 前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2から30であることを特徴とする上記10または11記載の微細な炭素短繊維。
【0053】
13. 含有する灰分が4重量%以下であることを特徴とする上記10〜12のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【0054】
14. X線回折法により測定される微細な炭素繊維の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が、2〜4であることを特徴とする上記10〜13のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【0055】
15. X線回折法により測定される微細な炭素繊維のグラファイト面間隔(d002)が0.341〜0.345nmであることを特徴とする上記10〜14のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【0056】
16. 上記1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維にずり応力を加えて短繊維化して製造される微細な炭素短繊維。
【0057】
17. 上記6〜9のいずれか1項に記載の製造方法により微細な炭素繊維を製造した後、ずり応力を加えてさらに短繊維化することを特徴とする微細な炭素短繊維の製造方法。
【0058】
上記事項を以下に詳細に説明する。
【0059】
微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維は、図1(a)に示すような釣鐘状構造を最小構造単位として有する。釣鐘(temple bell)は、日本の寺院で見られ、比較的円筒形に近い胴部を有しており、円錐形に近いクリスマスベルとは形状が異なる。図1(a)に示すように、構造単位11は、釣鐘のように、頭頂部12と、開放端を備える胴部13とを有し、概ね中心軸の周囲に回転させた回転体形状となっている。構造単位11は、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、胴部開放端の円周状部分はグラファイト網面の開放端となる。なお、図1(a)において、中心軸および胴部13は、便宜上直線で示されているが、必ずしも直線ではなく、後述する図3および図5のように曲線の場合もある。
【0060】
胴部13は、開放端側に緩やかに広がっており、その結果、胴部13の母線は釣鐘状構造単位の中心軸に対してわずかに傾斜し、両者のなす角θは、15°より小さく、より好ましくは1°<θ<15°、更に好ましくは2°<θ<10°である。θが大きくなりすぎると、該構造単位から構成される微細繊維が魚骨状炭素繊維様の構造を呈してしまい、繊維軸方向の導電性が損なわれてしまう。一方θが小さいと、円筒チューブ状に近い構造となり、構造単位の胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。
【0061】
微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維には、欠陥、不規則な乱れが存在するが、このような不規則性を排除して、全体としての形状を捉えると、胴部13が開放端側に緩やかに広がった釣鐘状構造を有していると言える。本発明の微細な炭素短繊維および微細な炭素繊維は、すべての部分においてθが上記範囲を示すことを意味しているのではなく、欠陥部分や不規則な部分を排除しつつ、構造単位11を全体的に捉えたときに、総合的にθが上記範囲を満たしていることを意味している。そこで、θの測定では、胴部の太さが不規則に変化していることもある頭頂部12付近を除くことが好ましい。より具体的には、例えば、図1(b)に示すように釣鐘状構造単位集合体21(下記参照)の長さをLとすると、頭頂側から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点においてθを測定してその平均を求め、その値を、構造単位11についての全体的なθとしてもよい。また、Lについては、直線で測定することが理想であるが、実際は胴部13が曲線であることも多いため、胴部13の曲線に沿って測定した方が実際の値に近い場合もある。
【0062】
頭頂部の形状は、微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維においても同じ)として製造される場合、胴部と滑らかに連続し、上側(図において)に凸の曲面となっている。頭頂部の長さは、典型的には、釣鐘状構造単位集合体について説明するD(図1(b))以下程度であり、d(図1(b))以下程度であるときもある。
【0063】
さらに、後述するように活性な窒素を原料として使用しないため、窒素等の他の原子は、釣鐘状構造単位のグラファイト網面中に含まれない。このため繊維の結晶性が良好である。
【0064】
本発明の微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維においては、図1(b)に示すように、このような釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体21(以下、単に集合体という場合がある。)を形成している。積層数は、好ましくは2〜25個であり、より好ましくは2〜15個である。
【0065】
集合体21の胴部の外径Dは、5〜40nm、好ましくは5〜30nm、更に好ましくは5〜20nmである。Dが大きくなると形成される微細繊維の径が太くなるため、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性能等の機能を付与するためには、多くの添加量が必要となってしまう。一方、Dが小さくなると形成される微細繊維の径が細くなって繊維同士の凝集が強くなり、例えばポリマーとのコンポジット調製において、分散させることが困難になる。胴部外径Dの測定は、集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部外径Dを便宜上示しているが、実際のDの値は、上記3点の平均値が好ましい。
【0066】
また、集合体胴部の内径dは、3〜30nm、好ましくは3〜20nm、更に好ましくは3〜10nmである。胴部内径dの測定についても、釣鐘状構造単位集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部内径dを便宜上示しているが、実際のdの値は、上記3点の平均値が好ましい。
【0067】
集合体21の長さLと胴部外径Dから算出されるアスペクト比(L/D)は、2〜150、好ましくは2〜30、より好ましくは2〜20、更に好ましくは2〜10である。アスペクト比が大きいと、形成される繊維の構造が円筒チューブ状に近づき、1本の繊維における繊維軸方向の導電性は向上するが、構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。一方、アスペクト比が小さいと構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が高くなるため、隣接繊維間の導電性は向上するが、繊維外周面が、繊維軸方向に短いグラファイト網面が多数連結して構成されるため、1本の繊維における繊維軸方向の導電性が損なわれる。
【0068】
微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維は、釣鐘状構造単位および釣鐘状構造単位集合体については、本質的に同じ構成を有しているが、以下ように繊維長が異なる。
【0069】
まず、微細な炭素繊維は、図2(a)に示すように、前記集合体がさらにHead−to−Tailの様式で連結することにより形成される。Head−to−Tailの様式とは、微細な炭素繊維の構成において、隣り合った前記集合体どうしの接合部位が、一方の集合体の頭頂部(Head)と他方の集合体の下端部(Tail)の組合せで形成されていることを意味する。具体的な接合部分の形態は、第一の集合体21aの下端開口部において、最内層の釣鐘状構造単位の更に内側に、第二の集合体21bの最外層の釣鐘状構造単位の頭頂部が挿入され、さらに、第二の集合体21bの下端開口部に、第三の集合体21cの頭頂部が挿入され、これがさらに連続することによって繊維が構成される。
【0070】
微細な炭素繊維の1本の微細繊維を形成する各々の接合部分は、構造的な規則性を有しておらず、例えば第一の集合体と第二の集合体の接合部分の繊維軸方向の長さは、第二の集合体と第三の集合体の接合部分の長さと必ずしも同じではない。また、図2(a)のように、接合される二つの集合体が中心軸を共有して直線状に連結することもあるが、図2(b)の釣鐘状構造単位集合体21bと21cのように、中心軸が共有されずに接合して、結果として接合部分において屈曲構造を生じることもある。前記釣鐘状構造単位集合体の長さLは繊維ごとにおおむね一定である。しかしながら、気相成長法では、原料及び副生のガス成分と触媒及び生成物の固体成分が混在するため、発熱的な炭素析出反応の実施においては、前記の気体及び固体からなる不均一な反応混合物の流動状態によって一時的に温度の高い局所が形成されるなど、反応器内に温度分布が生じ、その結果、長さLにある程度のばらつきが生じることもある。
【0071】
このようにして構成される微細な炭素繊維は、前記釣鐘状構造単位下端のグラファイト網面の開放端の少なくとも一部が、前記集合体の連結間隔に応じて、繊維外周面に露出する。この結果、1本の繊維における繊維軸方向の導電性を損なうことなく、前記π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)によって隣接する繊維間の導電性を向上させることができる。以上のような微細な炭素繊維の構造は、TEM画像によって観察できる。また、微細な炭素繊維の効果は、集合体自体の曲がり、集合体の連結部分における屈曲が存在しても、ほとんど影響がないと考えられる。従って、TEM画像の中で、比較的直線に近い形状を有する集合体を観察して、構造に関する各パラメータを求め、その繊維についての構造パラメータ(θ、D、d、L)としてよい。
【0072】
次に、微細な炭素短繊維は、このようにして構成される微細な炭素繊維をさらに短繊維化して得られる。具体的には、微細な炭素繊維にずり応力を加えることにより、集合体接合部で黒鉛基底面間の滑りを生じ、微細な炭素繊維が前記集合体接合部の一部で切断されて短繊維化される。このような短繊維化により得られる微細な炭素短繊維は、集合体が1個から数十個程度(即ち100個以下、80個程度まで、好ましくは70個程度まで)、好ましくは、1個から20個連結した繊維長さに短繊維化されている。この微細な炭素短繊維の集合体のアスペクト比は2ないし150程度である。混合に適する微細な炭素短繊維の集合体のアスペクト比は2ないし50である。ずり応力を加えても、集合体の炭素SP2結合から成る繊維直胴部分では、繊維の切断が起こらず、集合体よりも小さく切断することはできない。
【0073】
微細な炭素短繊維においても、グラファイト網の端面が露出する結果、1本の繊維における繊維軸方向の導電性を損なうことなく、前記π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)によって隣接する繊維間の導電性は短繊維化前の微細な炭素繊維と同様に良好である。以上のような短繊維化後の微細な炭素短繊維の構造は、TEM画像によって観察できる。また、微細な炭素短繊維の効果は、集合体自体の曲がり、集合体の接合部分における屈曲が存在しても、ほとんど影響がないと考えられる。図7の微細な炭素短繊維は、釣鐘状構造単位集合体が、図に示したように4−a〜4−dの4個連結されており、それぞれのθおよびアスペクト比(L/D)は、4−a:θ=4.8°、(L/D)=2.5、4−b:θ=0.5°、(L/D)=2.0、4−c:θ=4.5°、(L/D)=5.0、4−d:θ=1.1°、(L/D)=5.5である。
【0074】
微細な炭素繊維および炭素短繊維の学振法によるXRDにおいて、測定される002面のピーク半価幅W(単位:degree)は、2〜4の範囲である。Wが4を超えると、グラファイト結晶性が低く導電性も低い。一方、Wが2未満ではグラファイト結晶性は良いが、同時に繊維径が太くなり、ポリマーに導電性等の機能を付与するためには多くの添加量が必要となってしまう。
【0075】
微細な炭素繊維および炭素短繊維の学振法によるXRD測定によって求められるグラファイト面間隔d002は、0.350nm以下、好ましくは0.341〜0.348nmである。d002が0.350nmを超えるとグラファイト結晶性が低くなり、導電性が低下する。一方、0.341nm未満の繊維は、製造の際に収率が低い。
【0076】
微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維に含有される灰分は、4重量%以下であり、通常の用途では、精製を必要としない。通常、0.3重量%以上4重量%以下であり、より好ましくは0.3重量%以上3重量%以下である。尚、灰分は、繊維を0.1グラム以上燃焼して残った酸化物の重量から決定される。
【0077】
また、微細な炭素短繊維は、好ましくは100〜1000nm、より好ましくは100〜300nmの繊維長を有する。このような長さを有し、且つ上述の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が2〜4、且つグラファイト面間隔d002が、0.350nm以下、好ましくは0.341〜0.348nmであるような微細な炭素短繊維は従来存在しなかった新規な繊維である。
【0078】
上記のように、本発明の組成物に含有される微細な炭素繊維は、前述のいわゆるカーボンナノチューブ(1)〜(3)の三つの分類に属さない導電性炭素繊維であり、繊維自体の長さ方向の電子流れは、外側に僅かに傾斜した釣鐘状胴部が担い、また繊維間の電子の流れは釣鐘状胴部の開放端からの電子の飛び出しが担うことが可能であり、これにより樹脂中での導電性能が向上しているものと推定される。
【0079】
さらに、活性な部位である開放端が存在するため、樹脂との親和性が高く、樹脂との混練の際の分散性が向上し、同時に樹脂物性の維持、向上に寄与するものと推察される。
【0080】
また、ファンデルワールス力の弱い力で結合している釣鐘状構造単位の集合体の連結部は、混練における剪断力によりその接合部で容易に分離する。一般に、大量生産を行う方式として現在最も有望とされる触媒気相成長方法では、1μm以上の糸状の長い繊維が複雑に絡み合った凝集体(数μmから1mmの毛玉)で生成する。しかし、本発明で使用される微細な炭素繊維は、剪断力を調節することにより適度な長さに切断されて繊維集合体の短繊維化と開繊が進むことから、特殊な分散技術、分散装置を用いることなく導電性樹脂組成物を得ることができる。
【0081】
また、微細な炭素短繊維は、接合部で繊維が切断されて短繊維化されており、さらに分散性に優れる。
【0082】
次に、微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維の製造方法について説明する。微細な炭素短繊維は、微細な炭素繊維を短繊維化して製造される。
【0083】
<微細な炭素繊維の製造方法>
まず、微細な炭素繊維の製造方法は、次のとおりである。微細な炭素繊維は、触媒を用いて、気相成長法により製造される。触媒としては、好ましくはFe、Co、Ni、Al、MgおよびSiからなる群より選ばれる元素を含む触媒が使用され、供給ガスは、好ましくはCO及びHを含む混合ガスである。最も好ましくは、コバルトのスピネル型結晶構造を有する酸化物に、マグネシウムが固溶置換した触媒を用いて、CO及びHを含む混合ガスを触媒粒子に供給して気相成長法により、微細な炭素繊維を製造する。
【0084】
Mgが置換固溶したコバルトのスピネル型結晶構造は、MgCo3−xで表される。ここで、xは、MgによるCoの置換を示す数であり、形式的には0<x<3である。また、yはこの式全体が電荷的に中性になるように選ばれる数で、形式的には4以下の数を表す。即ち、コバルトのスピネル型酸化物Coでは、2価と3価のCoイオンが存在しており、ここで、2価および3価のコバルトイオンをそれぞれCoIIおよびCoIIIで表すと、スピネル型結晶構造を有するコバルト酸化物はCoIICoIIIで表される。Mgは、CoIIとCoIIIのサイトの両方を置換して固溶する。MgがCoIIIを置換固溶すると、電荷的中性を保つためにyの値は4より小さくなる。但し、x、y共に、スピネル型結晶構造を維持できる範囲の値をとる。
【0085】
触媒として使用できる好ましい範囲として、Mgの固溶範囲は、xの値が0.5〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.5である。xの値が0.5未満の固溶量では、触媒の活性は低く、生成する微細な炭素繊維の量は少ない。xの値が1.5を超える範囲では、スピネル型結晶構造を調製することが困難である。
【0086】
触媒のスピネル型酸化物結晶構造は、XRD測定により確認することが可能であり、結晶格子定数a(立方晶系)は、0.811〜0.818nmの範囲であり、より好ましくは0.812〜0.818nmである。aが小さいとMgの固溶置換が充分でなく、触媒活性が低い。また、0.818nmを超える格子定数を有する前記スピネル型酸化物結晶は調製困難である。
【0087】
このような触媒が好適である理由として、本発明者らは、コバルトのスピネル構造酸化物にマグネシウムが置換固溶した結果、あたかもマグネシウムのマトリックス中にコバルトが分散配置された結晶構造が形成されることにより、反応条件下においてコバルトの凝集が抑制されていると推定している。
【0088】
また、触媒の粒子サイズは、適宜選ぶことができるが、例えばメジアン径として、0.1〜100μm、好ましくは、0.1〜10μmである。
【0089】
触媒粒子は、一般に基板または触媒床等の適当な支持体に、散布するなどの方法により載せて使用する。基板または触媒床への触媒粒子の散布は、触媒粒子を直接散布して良いが、エタノール等の溶媒に懸濁させて散布し、乾燥させることにより所望の量を散布しても良い。
【0090】
触媒粒子は、原料ガスと反応させる前に、活性化させることも好ましい。活性化は通常、HまたはCOを含むガス雰囲気下で加熱することにより行われる。これらの活性化操作は、必要に応じて、HeやNなどの不活性ガスで希釈することにより実施することができる。活性化を実施する温度は、好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。
【0091】
気相成長法の反応装置に特に制限はなく、固定床反応装置や流動床反応装置といった反応装置により実施することができる。
【0092】
気相成長の炭素源となる原料ガスは、CO及びHを含む混合ガスが利用される。
【0093】
ガスの添加濃度{(H/(H+CO)}は、好ましくは0.1〜30vol%、より好ましくは2〜20vol%である。添加濃度が低すぎると円筒状のグラファイト質網面が繊維軸に平行したカーボンナノチューブ様の構造を形成してしまう。一方、30vol%を超えると釣鐘状構造体の炭素側周面の繊維軸に対する傾斜角が大きくなり、魚骨形状を呈するため繊維方向の導電性の低下を招く。
【0094】
また、原料ガスは不活性ガスを含有していてもよい。不活性ガスとしては、CO、N、He、Ar等が挙げられる。不活性ガスの含有量は、反応速度を著しく低下させない程度が好ましく、例えば80vol%以下、好ましくは50vol%以下の量である。また、HおよびCOを含有する合成ガスまたは転炉排出ガス等の廃棄ガスを、必要により適宜処理して使用することもできる。
【0095】
気相成長を実施する反応温度は、好ましくは400〜650℃、より好ましくは500〜600℃である。反応温度が低すぎると繊維の成長が進行しない。一方、反応温度が高すぎると収量が低下してしまう。反応時間は、特に限定されないが、例えば2時間以上であり、また12時間程度以下である。
【0096】
気相成長を実施する反応圧力は、反応装置や操作の簡便化の観点から常圧で行うことが好ましいが、Boudouard平衡の炭素析出が進行する範囲であれば、加圧または減圧の条件で実施しても差し支えない。
【0097】
この微細な炭素繊維の製造方法によれば、触媒単位重量あたりの微細な炭素繊維の生成量は、従来の製造方法に比べて格段に大きいことが示された。この微細な炭素繊維の製造方法による微細な炭素繊維の生成量は、触媒単位重量あたり40倍以上であり、例えば40〜200倍である。その結果、前述のような不純物、灰分の少ない微細な炭素繊維の製造が可能である。
【0098】
この微細な炭素繊維の製造方法により製造される微細な炭素繊維に特有な接合部の形成過程は明らかではないが、発熱的なBoudouard平衡と原料ガスの流通による除熱とのバランスから、前記触媒から形成されたコバルト微粒子近傍の温度が上下に振幅するため、炭素析出が断続的に進行することにより形成されるものと考えられる。即ち、[1]釣鐘状構造体頭頂部形成、[2]釣鐘状構造体の胴部成長、[3]前記[1]、[2]過程の発熱による温度上昇のため成長停止、[4]流通ガスによる冷却、の4過程が触媒微粒子上で繰り返されることにより、微細な炭素繊維構造特有の接合部が形成されると推定される。
【0099】
<微細な炭素短繊維の製造方法>
以上により、微細な炭素繊維を製造することができる。次に、微細な炭素短繊維は、微細な炭素繊維を分離して短繊維とすることで製造することができる。好ましくは、微細な炭素繊維にずり応力を加えることにより製造する。具体的な短繊維化処理方法としては擂潰機、回転ボールミル、遠心ボールミル、遠心遊星ボールミル、ビーズミル、マイクロビーズミル、アトライタータイプの高速ボールミル、回転ロッドミル、振動ロッドミル、ロールミル、3本ロールミルなどが好適である。微細な炭素繊維の短繊維化は乾式でも、湿式でも行うことが可能である。湿式で行う場合、樹脂を共存させて、或は樹脂とフィラーを共存させて行うことも出来る。また短繊維化前の微細な炭素繊維は凝集した毛玉のような状態を構成しているので、このような状態を解きほぐす微小なメディアを共存させると解砕、短繊維化が進みやすい。また、微細なフィラーを共存させることで、微細な炭素繊維の短繊維化と、フィラーの混合および分散とを同時に行うことも出来る。乾式短繊維化における雰囲気は不活性雰囲気も酸化雰囲気も目的によって選択することが出来る。
【0100】
ずり応力を加えることにより容易に微細な炭素繊維が短繊維化する理由は、微細な炭素繊維の構造に由来する。つまり、微細な炭素繊維は、その釣鐘状構造単位集合体がHead−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成しているためである。繊維にずり応力が加わると、繊維は図4の矢印方向の繊維軸方向に引っ張られて、接合部を構成する炭素基底面間で滑りが生じ(図4のA:カタカナの「ハ」形部分)、Head−to−Tail接続部で釣鐘状構造単位集合体が1個から数十個の単位で引き抜かれ、短繊維化が起きる。即ち、Head−to−Tail接合部は同心円状微細炭素繊維のように繊維軸方向に連続した炭素の二重結合で形成されているのではなく、結合エネルギーの低いファンデルワールス力を主体とする結合で形成されているからである。微細な炭素繊維と、これを短繊維化した微細な炭素短繊維の結晶性を炭素層間隔および真比重で比較すると、両者の炭素結晶性に差異は認められない。しかしながら、微細な炭素繊維と比較して、短繊維化後の微細な炭素短繊維は、2〜5%程度表面積が増加する。この程度の表面積の増加は短繊維化に起因するものと考えられ、微細な炭素繊維の短繊維化は微細な炭素繊維の釣鐘状構造単位集合体の炭素結晶性を損なうことなく、釣鐘状構造単位集合体を単にその接合部位で引き抜くように分離したものであることが分かる。
【0101】
<<樹脂成分>>
本発明において、多層チューブの外層もしくは微細な炭素繊維または微細な炭素短繊維が分散される導電性の内層に含まれる熱可塑性樹脂としては、特に限定はされないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル・コポリマー樹脂、エチレン・ビニル・コポリマー樹脂、エチレン・アクリル酸エチル・コポリマー樹脂、アイオノマー等)、ポリビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、スチレン、ABS樹脂等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトレート、ポリカーボネート、液晶ポリマー等)、ポリエーテル系樹脂(ポリオキシメチレン、ポリフェニレン・エーテル、芳香族ポリサルホン、ポリエーテル・ケトン類、ポリフェニレン・サルファイド、ポリエーテル・イミド等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等)、ポリアミド等が挙げられ、ポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等の脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、ナイロン66/6T、ナイロン6T/6I、ナイロンMXD6等の芳香族ポリアミドおよびその共重合体等、シュウ酸および/またはテレフタル酸を含むジカルボン酸成分と、炭素数4〜12のジアミン成分とから得られるポリアミドがより好ましい。これらは、単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。
【0102】
特に微細な炭素繊維または微細な炭素短繊維が分散される導電性の内層においては、高温の燃料や薬液と直接接触することから、用いられる熱可塑性樹脂は、脂肪族ポリアミドおよびその共重合体や芳香族ポリアミドおよびその共重合体が好ましい。
【0103】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、上で例示していない熱可塑性樹脂、エラストマー、生分解性プラスチックなどを混合することができ、これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。
【0104】
本発明における1つの態様として、ジカルボン酸成分としてシュウ酸を用い、ジアミン成分として炭素数4〜12のジアミンを用いて得られるポリアミド樹脂を熱可塑性樹脂として用いる場合が挙げられる。該ポリアミド樹脂は、燃料や薬液の透過拡散性を抑制せしめるのに特に好適である。
【0105】
上記炭素数4〜12のジアミンとしては、炭素数4〜12の脂肪族ジアミン、脂環ジアミン、芳香族ジアミンが好ましく、ノナンジアミン、デカンジアミン、ドデカンジアミンおよびその異性体がより好ましい。これらは単独でも2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上のジアミンを混合して用いる場合として、例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのジアミンとの混合物が上げられる。該混合物においては、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が、1:99〜99:1であり、より好ましくは5:95〜40:60又は60:40〜95:5、特に好ましくは、5:95〜30:70又は70:30〜90:10である。
【0106】
ジカルボン酸成分としてシュウ酸が用いられるときは、シュウ酸源としてシュウ酸ジエステルが用いられることが好ましい。これはアミノ基と反応性を有するものであれば特に制限はなく、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジフェニル等の芳香族アルコールのシュウ酸ジエステル等が挙げられる。
【0107】
上記のシュウ酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールのシュウ酸ジエステル、脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、芳香族アルコールのシュウ酸ジエステルが好ましく、その中でもシュウ酸ジブチル及びシュウ酸ジフェニルが特に好ましい。
【0108】
本発明における別の態様として、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸、好ましくはテレフタル酸を含み、ジアミン成分として、1,9−ノナンジアミンおよび2−メチル−1,8−オクタンジアミンから実質的になり(たとえばジアミン成分の95wt%以上、好ましくは約100wt%)、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミンの混合物を用いて得られるポリアミド樹脂を熱可塑性樹脂として用いる場合が挙げられる。該ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸単位全体に対してテレフタル酸単位を60〜100モル%含有することが好ましい。ジカルボン酸成分として、テレフタル酸と他のジカルボン酸を混合して用いることができ、このとき、テレフタル酸以外のジカルボン酸はジカルボン酸成分全体の40モル%以下であることが好ましい。さらに、上記テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましく、このときジカルボン酸成分全体に対するテレフタル酸の含有率は、75〜100モル%の範囲内であることが好ましく、90〜100モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0109】
<ポリアミド樹脂の製造方法>
本発明に用いるポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及びシュウ酸もしくはテレフタル酸等のジカルボン酸をバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより得ることができる。
【0110】
<付加成分>
本発明の多層チューブに使用される熱可塑性樹脂には、目的とする機能をさらに効果的に発現するために、付加成分を併用することができる。このような付加成分としては、各種顔料、銅化合物などの耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤、フィラー等が挙げられる。
【0111】
顔料としては、体質顔料(硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化アルミニウム等の透明性白色顔料)、黒色顔料(カーボンブラック、マグネタイト等)、白色顔料(二酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化錫、酸化ジルコニウム等)、黒色及び有色顔料(コバルトブルー、チタンイエロー等)が挙げられる。
【0112】
フィラーとしては、導電性フィラー{金属系(銀、銅、ニッケル、ステンレス繊維等)、酸化物系フィラー(ZnO,ITO,ATO、窒化物、炭化物、ホウ化物)、炭素、有機系}、磁性フィラー(フェライト、Sm/Co、Nd/Fe/B等)、圧電性フィラー、熱伝導性フィラー(Ag、h−BN、AlN、Al)、補強性フィラー(ガラス繊維、炭素繊維、MOS、タルク、雲母等)、成形加工性フィラー、耐衝撃フィラー、耐摩耗性フィラー、耐熱性フィラー(粘土鉱物、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等)、難燃性フィラー(ホウ酸亜鉛、赤燐、リン酸アンモニウム、水酸化マグネシウム等)、防音防振性フィラー(鉄粉、硫酸バリウム、雲母、フェライト等)、固体潤滑剤フィラー(黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂粉末、タルク等)、熱線輻射フィラー(ハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、木炭、酸化マグネシウム等)等が挙げられる。
【0113】
<導電性熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の多層チューブの内層に用いられる導電性熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂成分と微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維を包含する)と必要に応じて付加成分等を、公知の混合方法によって混合して調製される。特に、微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維を包含する)は、分散性に優れるため、公知の混練方法、混練機で製造することができる。
【0114】
例えば、熱可塑性樹脂に、微細な炭素繊維および必要に応じて付加成分を加えた後、ロールミル、溶融ブレンダー(バンバリーミキサー、ブラベンダー、コニーダー)、一軸または二軸押出混練機を用いて、溶融または軟化状態の熱可塑性樹脂へ分散させることにより実施できる。微細な炭素繊維および付加成分の供給方法は、一括でもよく多段でも良い。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。なお、実施例中の測定は以下の方法により行った。
【0116】
(1)相対粘度(ηr):
ηrはポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dL)を使用してオズワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0117】
(2)機械物性
[1]引張伸度
SAE J−2260 A.4.1に記載の方法で評価した。
【0118】
[2]低温耐衝撃性
DIN 73378 6.4.6に記載の方法で評価した。
【0119】
[3]破壊圧強度
SAE J−2260 7.1に記載の方法で評価した。
【0120】
(3)耐燃料性
200mmにカットしたホースの片端を密栓し、内部にFuelC(イソオクタン/トルエン=50/50体積比)とエタノールを90/10体積比に混合したアルコールガソリンを入れ、残りの端部も密栓した。次いで試験ホースを60℃のオーブンに入れ、1000時間処理した。処理後のホースについて、上記の方法に従い、引張伸度、低温耐衝撃性、破壊圧強度を測定した。引張伸度については下記の式により、保持率を算出した。
【0121】
(保持率)=(処理後ホースの引張伸度)/(処理前ホースの引張伸度)×100 (%)
【0122】
(4)表面固有抵抗率
SAE J−2260 7.9.3.2に記載の方法で評価した。
【0123】
製造例A:微細な炭素繊維の製造
<製造例A>
イオン交換水500mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕115g(0.40モル)、硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO:分子量256.41〕102g(0.40モル)を溶解させ、原料溶液(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末220g(2.78モル)をイオン交換水1100mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、反応温度40℃で原料溶液(1)と(2)を混合し、その後4時間攪拌した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。
【0124】
これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、43gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8162nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.4:1.6であった。
【0125】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.9gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を550℃に加熱した後、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=95.1/4.9)を原料ガスとして反応管の下部から1.28L/分の流量で7時間流し、微細な炭素繊維を合成した。
【0126】
収量は53.1gであり、灰分を測定したところ1.5重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は3.156、d002は0.3437nmであった。またTEM画像から、得られた微細な炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=7nm、L=114nm、L/D=9.5、θは0から7°であり、平均すると約3°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は4乃至5であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0127】
得られた微細な炭素繊維のTEM像を図3に示す。
【0128】
以上により得られた微細な炭素繊維を直径2mmのセラミックボールミルで所定時間処理して微細な炭素短繊維を調製した。20時間後の微細な炭素短繊維のTEM画像を図5に示す。また、図5のTEM画像から、得られた微細な炭素短繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=10.6〜13.2nm、L/D=2.0〜5.5、θ=0.5°〜10°であった。なお、ここに示すθはTEM画像の繊維軸中心に対して左右の炭素層傾斜の平均値を記載した。集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は10〜20であった。
【0129】
製造例B:ジカルボン酸成分としてシュウ酸を用いるポリアミド樹脂の製造
<製造例B>
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調整装置及びポリマー放出口を備えた内容積が150リットルの圧力容器にシュウ酸ジブチル28.40kg(140.4モル)を仕込み、圧力容器の内部の純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン18.89kg(119.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.34kg(21.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃で4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重縮合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは透明の強靭なポリマーであり、融点235℃、相対粘度は3.20であった。
【0130】
製造例C:ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンおよび2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなるポリアミド樹脂の製造
<製造例C>
1,9−ノナンジアミン15829g(100モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン15829g(100モル)、テレフタル酸32927g(198.2モル)、末端封止剤として安息香酸439.6g(3.6モル)、次亜リン酸ナトリウム−水和物60g(原料に対して0.1質量%)及び蒸留水40リットルをオートクレーブに入れ、窒素置換した。100度で30分間攪拌し、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、オートクレーブは2.2MPaまで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2.2MPaに保ちながら反応させた。次に30分かけて圧力を1.0MPaまで下げ、更に1時間反応させてプレポリマーを得た。これを100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.013KPa下にて10時間固相重合し、融点が265℃、相対粘度が2.80のポリアミド樹脂C1を得た。
【0131】
<材料>
その他、実施例、比較例で使用した材料は次のとおりである。
【0132】
下記(D)〜(F)の樹脂を使用した。
(D)ポリアミド6:相対粘度3.35のポリアミド6樹脂(宇部興産(株)製1022B)
(E)ポリアミド12:UBESTA3030U(宇部興産(株)製、相対粘度2.27)に耐衝撃改良材として、JSR T7712SP(JSR製)をあらかじめ混合し、二軸溶融混練機に供給する一方、該二軸溶融混練機のシリンダーの途中から、可塑剤として、N−ブチルベンゼンスルホン酸アミド(BBSA)を定量ポンプにより注入し、240℃で溶融混練し、溶融混練物をペレット化して、ナイロン12樹脂85重量%、耐衝撃改良材10重量%、可塑剤5重量%よりなるナイロン12樹脂組成物を得た。
(F)接着性樹脂:変性ポリオレフィン樹脂(宇部興産(株)製UBond F1100)
【0133】
<実施例1〜4>
上記に示す(D)ポリアミド6樹脂に、製造例Aと同様にして製造した微細な炭素繊維を所定量配合し、ヘンシェルミキサーに予備混合した後、配合物を二軸溶融混練機により260℃で溶融混練し、溶融混練物をペレット化して導電性ポリアミド樹脂組成物(D−1)を得た。各実施例における微細な炭素繊維の配合量を表1に示す。
【0134】
次に、得られた導電性樹脂組成物(D−1)と(F)接着性樹脂と(E)ポリアミド12樹脂とを使用して、Plabor(プラスチック工学研究所(株)製)3層チューブ成形機にて、(D−1)を押出温度270℃、(F)を押出温度190℃、(E)を押出温度250℃にて別々に溶融させ、吐出された溶融樹脂をアダプターによって合流させ、積層管状体に成形した。引き続き、寸法制御するサイジングダイにより冷却し、引き取りを行い、導電性ポリアミド6樹脂組成物(D−1)からなる(a)層(内層)、(F)接着性樹脂からなる(b)層(接着層)、(E)ポリアミド12樹脂からなる(c)層(外層)としたときの、層構成が(a)/(b)/(c)=0.10/0.05/0.85mmで内径6mm、外径8mmの多層チューブを得た。当該多層チューブの物性測定結果を表1に示す。
【0135】
<比較例1〜2>
(D−1)を微細な炭素繊維のかわりに、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル製EC600JD)を溶融混合したポリアミド樹脂組成物(D−2)に変えた以外は実施例1〜4と同様に評価した。結果を、配合組成とともに表1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
<実施例5>
上記に示す製造例Bのポリアミド樹脂に、製造例Aと同様にして製造した微細な炭素繊維を所定量配合し、ヘンシェルミキサーに予備混合した後、配合物を二軸溶融混練機により270℃で溶融混練し、溶融混練物をペレット化して導電性ポリアミド樹脂組成物(B−1)を得た。
【0138】
次に得られた導電性ポリアミド樹脂組成物(B−1)と(F)接着性樹脂と(E)ポリアミド12樹脂とを使用して、Plabor(プラスチック工学研究所(株)製)3層チューブ成形機にて、(B−1)を押出温度280℃、(F)を押出温度190℃、(E)を押出温度250℃にて別々に溶融させ、吐出された溶融樹脂をアダプターによって合流させ、積層管状体に成形した。引き続き、寸法制御するサイジングダイにより冷却し、引き取りを行い、導電性ポリアミド樹脂組成物(B−1)からなる(a)層(内層)、(F)接着性樹脂からなる(b)層(接着層)、(E)ポリアミド12樹脂からなる(c)層(外層)としたときの、層構成が(a)/(b)/(c)=0.10/0.05/0.85mmで内径6mm、外径8mmの多層チューブを得た。当該多層チューブの物性測定結果を表2に示す。
【0139】
<比較例3〜4>
(B−1)を微細な炭素繊維の替わりに、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル製EC600JD)を溶融混合したポリアミド樹脂組成物(B−2)に変えた以外は実施例5と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0140】
<実施例6>
上記に示す製造例Cのポリアミド樹脂に、製造例Aと同様にして製造した微細な炭素繊維を所定量配合し、ヘンシェルミキサーに予備混合した後、配合物を二軸押出機により320℃で溶融混合し、溶融混合物をペレット化して導電性ポリアミド樹脂組成物(C−1)を得た。
【0141】
次に、得られた導電性ポリアミド樹脂組成物(C−1)と(E)ポリアミド12樹脂とを使用して、Plabor(プラスチック工学研究所(株)製)2層チューブ成形機にて、(C−1)を押出温度310℃、(E)を押出温度250℃にて別々に溶融させ、吐出された溶融樹脂をアダプターによって合流させ、積層管状体に成形した。引き続き、寸法制御するサイジングダイにより冷却し、引き取りを行い、導電性ポリアミド樹脂組成物(C−1)からなる(a)層(内層)、(E)ポリアミド12樹脂からなる(b)層(外層)としたときの、層構成が(a)/(b)=0.10/0.90mmで内径6mm、外径8mmの多層チューブを得た。当該多層チューブの物性測定結果を表2に示す。
【0142】
<比較例5〜6>
(C−1)を微細な炭素繊維のかわりに、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル製EC600JD)を溶融混合したポリアミド樹脂組成物(C−2)に変えた以外は実施例6と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0143】
【表2】
【0144】
表1および表2の実施例、比較例に示すとおり、本発明の特徴である微細な炭素繊維を用いた多層チューブは、ケッチェンブラックを用いたものより、成形性に優れ、なおかつ引張伸度や低温時の衝撃性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明に係わる多層チューブ、内層に安定した導電性を有し、燃料、薬液、ガス等の流体の搬送時に発生する静電気による爆発防止が可能となる。さらに高温下での燃料、薬液、ガスの透過防止性、耐熱性に優れるため、高温下で使用される燃料、薬液、ガス輸送用チューブとして有用である。本発明に係わる多層チューブは、特に、過酷な条件下での使用が想定される、エンジン冷却液(LLC)ホース、ガソリンホース、デーゼルホース、石油掘削ホース、アルコール含有ガソリンホース、尿素溶液搬送用ホース、ヒーターホース、リザーバータンクホース、ロードヒーティングホース、床暖房ホースとして有用である。
【符号の説明】
【0146】
11 構造単位
12 頭頂部
13 胴部
21、21a、21b、21c 集合体
図1
図2
図4
図3
図5