(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施の形態−
以下、図を参照して本発明を実施するための第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明によるセンサレス磁気浮上装置を適用した磁気浮上式ターボ分子ポンプの概略構成を示す断面図である。ターボ分子ポンプは
図1に示すポンプユニット1と、ポンプユニット1を駆動するためのコントロールユニット(不図示)とを備えている。ポンプユニット1に接続されるコントロールユニットには、磁気軸受制御部、モータ6を回転駆動するためのモータ駆動制御部等が備えられている。
【0010】
ロータ30は、5軸制御型磁気軸受を構成するラジアル磁気軸受51,52およびアキシャル磁気軸受53によって非接触支持される。磁気軸受によって回転自在に磁気浮上されたロータ30は、モータ6により高速回転駆動される。モータ6には、例えば、DCブラシレスモータが用いられる。ロータ30の回転数は回転数センサ23によって検出される。
【0011】
ロータ30には、排気機能部として、複数段の回転翼32と円筒状のネジロータ31とが形成されている。一方、固定側には、排気機能部として、軸方向に対して回転翼32と交互に配置された複数段の固定翼33と、ネジロータ31の外周側に設けられた円筒状のネジステータ39が設けられている。各固定翼33は、それぞれ一対のスペーサリング35によって軸方向上下から挟持されている。
【0012】
ベース20には排気ポート22が設けられ、この排気ポート22にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ6により高速回転駆動することにより、吸気口21側の気体分子は排気ポート22側へと排気される。
【0013】
図2は5軸制御型磁気軸受の構成を模式的に示した図であり、ロータ30に設けられたロータシャフト4の軸芯Jがz軸に一致するように示した。
図1に示したラジアル磁気軸受51は、x軸に関する一対の電磁石51xとy軸に関する一対の電磁石51yとを備えている。同様に、ラジアル磁気軸受52も、x軸に関する一対の電磁石52xとy軸に関する一対の電磁石52yとを備えている。また、アキシャル磁気軸受53は、ロータシャフト4の下端に設けられたディスク41をz軸に沿って挟むように対向して配設される一対の電磁石53zを備えている。
【0014】
図3は、
図2に示した磁気軸受を制御する制御装置の一部を示す図であって、5軸の内の1軸、具体的には一対の電磁石51xに関して示したものである。ここで、
図3では、両検波回路66a,66bを通過させた後で差分器67にて差動信号を得ているが、電流検出回路62a,62bからの信号を差分器67にて差動信号を得た後に、検波回路にて検波するようにしても良い(図示せず)。一対の電磁石51xを電磁石51xP、51xMとすると、それらはロータシャフト4を間に挟むように配置されている。電磁石51xPおよび51xMには、電磁石コイル510がそれぞれ巻回されている。本実施の形態は、電磁石コイル510の構成に特徴がある。電磁石コイル510の詳細については後述する。その他の構成については従来のセンサレス磁気浮上装置の場合と同様の内容となっており、ここでは詳細な説明は省略する。
【0015】
電磁石51xPには電磁石駆動回路61aから電磁石電流が供給され、電磁石51xMには電磁石駆動回路61bから電磁石電流が供給される。電磁石駆動回路61a,61bは同一構成となっている。本実施の形態の磁気浮上装置はセンサレス方式の磁気浮上装置であって、電磁石51xP、51xMに供給される電磁石電流には、電磁石51xP、51xMの磁気力によりロータ30を所定位置に浮上させるための磁気浮上制御電流成分と、ロータシャフト4の浮上位置を検出するための搬送波電流成分とが含まれている。搬送波電流成分の周波数帯域は、磁気浮上制御電流成分の周波数帯域よりも高く設定されている。例えば、磁気浮上制御電流成分の周波数帯域を数kHz(1〜2kHz)、搬送波電流成分の周波数帯域を10kHzのように設定する。
【0016】
ロータシャフト4と電磁石51xP、51xMとのギャップGが変化すると電磁石コイル510のインダクタンスが変化するので、本実施の形態の磁気浮上装置では、そのインダクタンス変化を搬送波電流成分の振幅変化として検出し、それをロータシャフト4の浮上位置制御に用いている。電磁石51xP、51xMを流れる電流は電流検出回路62a,62bによって検出される。各電流検出回路62a,62bから出力された電流検出信号は、それぞれ検波回路66a,66bに入力される。各検波回路66a,66bでは電流検出信号から搬送波電流成分を抽出し、その変調信号に基づいて位置信号を生成する。
【0017】
差分器67は、各検波回路66a,66bから出力された位置信号(ギャップ信号)の差分を生成する。例えば、ロータシャフト4が電磁石51xPと電磁石51xMとの中間位置、すなわち磁気軸受けの中心位置に浮上している場合には差分信号はゼロとなる。また、ロータシャフト4が電磁石51xP側に近付いて差分信号が例えばマイナスの値となる場合、反対に電磁石51xMに近付くとプラスの値となる。
【0018】
差分器67から出力された差分信号は、磁気浮上制御回路63にフィードバックされる。磁気浮上制御回路63は、フィードバックされた差分信号と位置指令とに基づいて磁気浮上制御電流成分を制御するための電流指令信号を出力する。加算器65aでは、電流指令信号に、搬送波信号発生回路64で生成された搬送波信号が加算(重畳)される。電磁石駆動回路61aは、加算処理された信号に基づく電磁石電流を電磁石51xPに供給する。一方、反対側の電磁石51xMに関する加算器65bにおいても、磁気浮上制御回路63から出力された電流指令信号と搬送波信号発生回路64で生成された搬送波信号との加算が行われ、加算処理後の信号が電磁石駆動回路61bに入力される。例えば、電磁石51xPに対する電流指令信号が電流を増加させる指令である場合には、電磁石51xMに対する電流指令信号は電流を減少させる指令となる。
【0019】
ところで、従来のセンサレス磁気浮上装置では、電磁石電流を一つの電磁石コイル510に供給し、その電磁石電流に重畳された搬送波電流成分の変調信号を検出しているため、前述したような課題が生じる。そこで、本実施の形態では、電磁石コイル510を磁気浮上制御用の主コイルと浮上位置検出用の副コイルとで構成し、電磁石電流に含まれる磁気浮上制御電流成分は主コイルを流れるようにするとともに、搬送波電流成分は主コイルだけでなく副コイルにも流れるような構成とすることによって、磁気浮上制御への影響を抑えつつ搬送波電流成分を大きくするようにした。
【0020】
まず、搬送波電流成分を大きくする構成について説明する。
図4は、電磁石51xPのコア512に巻回された電磁石コイル510の詳細を示す図である。なお、電磁石51xMの電磁石コイル510も電磁石51xPの場合と同様であり、ここでは電磁石51xPを例に説明する。電磁石コイル510は、従来の主コイル510aに加えて、副コイル510bとコンデンサ511とを直列接続した回路を備えている。コア512には主コイル510aと副コイル510bとが巻回されており、副コイル510bとコンデンサ511との直列回路は、従来の主コイル510aに対して並列に接続されている。
【0021】
副コイル510bの巻数は主コイル510aの巻数と同等以下に設定され、主コイル510aおよび副コイル510bのインダクタンスL
M、L
Sは「L
M≧L
S」のように設定されている。さらに、コンデンサ511の容量Cは、コンデンサ511のインピーダンスが磁気浮上制御電流成分の周波数帯域では主コイル510aのインピーダンスよりも大きく設定され、かつ、搬送波電流成分の周波数帯域では主コイル510aのインピーダンスよりも小さくなるように設定される。すなわち、磁気浮上制御電流成分の周波数をf
1、搬送波電流成分の周波数をf
2としたとき、次式(1)および(2)を満足するように容量Cを設定する。
(1/2πf
1C)>2πf
1L
M …(1)
(1/2πf
2C)<2πf
2L
M …(2)
【0022】
例えば、周波数f
1=1kHzで、周波数f
2=10kHzであって、磁気浮上制御(f
1=1kHz)時の主コイル510aおよび副コイル510bのインピーダンスZ
M1、Z
S1が、Z
M1=Z、Z
S1=0.7Zである場合について考えてみる。上記のようにf
2=10・f
1なので、搬送波電流成分に対する主コイル510aおよび副コイル510bのインピーダンスZ
M2、Z
S2は、Z
M2=10Z、Z
S2=7Zとなる。一方、周波数f
1、f
2のときのコンデンサ511のインピーダンスZ
C1,Z
C2は、Z
C1=10Z
C2の関係を有している。
【0023】
そこで、周波数f
1でのコンデンサ511のインピーダンスZ
C1をZ
C1=5Zのように設定すると、Z
C2=0.5Zとなる。このとき、Z
C1(=5Z)>Z
M1(=Z)であって、Z
C2(=0.5Z)<Z
M2(=10Z)となるので、上述の式(1)、(2)は満足されることになる。
図5は、周波数f
1におけるインピーダンスZ
M1、Z
S1、Z
C1と、周波数f
2におけるインピーダンスZ
M2、Z
S2、Z
C2とを数直線上に示し、それらの大小関係を分かりやすく表示したものである。横軸はインピーダンスをN・Zと表したときのNである。
【0024】
図6(a)は電磁石コイル510の回路図であり、
図6(b)は搬送波電流成分に対する等価回路を示し、
図6(c)は磁気浮上制御電流成分に対する等価回路を示す。磁気浮上制御電流成分の周波数帯域(f1)では、
図5(a)に示すようにコンデンサ511のインピーダンスZ
C1は主コイル510aのインピーダンスZ
M1よりも大きく設定されている。そのため、巻線回路は
図6(c)の等価回路でほぼ表されることができ、磁気浮上制御電流成分はコンデンサ511が設けられている副コイル510bのラインを殆ど流れない。よって、磁気浮上制御の周波数帯域(f1)では、巻線回路の全体のインピーダンスZ
Tは主コイル510aのインピーダンスZ
M(=jωL
M)とほぼ等しくなる。
【0025】
一方、搬送波電流成分の周波数f
2を含む周波数帯域では、
図5(b)に示すようにコンデンサ511のインピーダンスZ
C2は主コイル510aのインピーダンスZ
M2よりも小さく設定されているので、搬送波電流成分は主コイル510aのラインおよび副コイル510bのラインの両方を流れることになる。さらに、搬送波電流成分の周波数帯域ではコンデンサ511のインピーダンスZ
C2は副コイル510bのインピーダンスZ
S2よりも小さいので、搬送波電流成分に対しては
図6(b)に示すような等価回路で考えることができる。
【0026】
なお、
図5を参照すると、f
2=A×f
1の場合、Z
C1<A
2×Z
S1のように副コイル510bのインダクタンスL
Sおよびコンデンサ511の容量Cを設定すれば、Z
C2<Z
S2を満足することが分かる。すなわち、コンデンサ511のインピーダンスを副コイル510bより小さくすることができ、巻線回路全体を
図6(b)に示すような等価回路で考えることができる。また、このように設定することで、式(1)、(2)を満足させつつ、巻線回路全体のインピーダンスをより小さく設定することができる。
【0027】
図6(b)の等価回路の場合、主コイル510aと副コイル510bとの相互インダクタンスをMとすると、巻線回路全体のインピーダンスZ
Tは次式(3)で表すことができる。
Z
T=jω・(L
M×L
S−M
2)/(L
M+L
S−2M) …(3)
【0028】
通常、「L
M・L
S>M
2」、「L
M+L
S>2M」が満足されるので、例えば、次式(4)のように設定した場合、巻線回路全体のインピーダンスZ
Tは式(5)に示すような値となる。
L
M=L、L
S=0.7L、M=0.8L …(4)
Z
T=0.6jωL …(5)
【0029】
式(5)に示すように、本実施の形態では、搬送波電流成分に対する巻線回路全体のインピーダンスZ
Tは、従来の主コイル単独の場合に比べて小さくなる。
図4に示す電流検出回路62aでは、副コイル510bを流れる搬送波電流成分だけでなく主コイル510aを流れる搬送波電流成分も検出され、両方の搬送波電流成分をロータ位置検出に用いることができる。すなわち、巻線全体のインピーダンスの変化から電磁石と浮上対象物との距離を測定することができる。このように、本実施の形態では、電磁石コイル510を流れる搬送波電流成分を従来よりも大きくすることができ、磁気浮上制御回路63にフィードバックされる信号のS/N比を向上させることができる。
【0030】
また、上述したように副コイル510bにはほぼ搬送波電流成分しか流れないので、副コイル510bは、主コイル510aに比べて巻線の太さを細くすることができる。そのため、コア512に副コイル510bを巻くためのスペースを小さくできる。なお、
図4からも分かるように、電磁石の部分では主コイル510aと副コイル510bとの並列回路となっているが、ポンプ本体から大気側に引き出す部分においては、引き出し線は従来と同様に2本となっており真空−大気間の接続を行うためのコネクタを変更する必要がない。
【0031】
なお、
図4に示す電磁石51xPではコの字型のコア512を用いているが、
図7に示すようなリング状のコア50を用いても良い。コア50には内径側に突出する1対1組の磁極50a,50bが4組形成されており、各電磁石51xP,51xM,51yP,51yMはそれぞれ1対1組の磁極50a,50bを用いて構成されている。各磁極50a,50bには、主コイル510aおよび副コイル510bがそれぞれ巻回されている。磁極50aおよび50bの主コイル510aは、破線500で示すような磁束が生じるように直列接続されている。同様に、磁極50aおよび50bの副コイル510bは、破線500で示すような磁束が生じるように直列接続されている。
【0032】
ところで、上述したように、
図4に示す巻線回路の場合には、搬送波帯域においては巻線回路全体のインピーダンスZ
Tが式(3)で表される。そのため、コア512と浮上対象物であるロータシャフト4との距離の変化に対するインピーダンスZ
Tの変化率が、主コイル510aのみを有する従来の構成のインピーダンスの変化率よりも小さくなり、位置検出の感度が低下してしまう。そこで、
図8に示すような巻線回路構成とすることにより、搬送波電流成分を従来よりも大きくし、かつ、感度低下を防止するようにした。
【0033】
図8は、主コイルと副コイルとの間の相互インダクタンスが低減されるような(ほぼゼロとなるような)構成の一例を示したものである。なお、
図4に記載の要素と同一の要素には同一の符号を付した。
図8に示す形態では、主コイルは直列接続された2つの分割主コイル5101,5102で構成され、副コイルは直列接続された4つの分割副コイル5103,5104,5105,5106で構成されている。分割主コイル5101,5102を直列接続したものは
図4の主コイル510aに対応し、分割副コイル5103,5104,5105,5106を直列接続したものは
図4の副コイル510bに対応している。
【0034】
各磁極512a,512bの先端には、先端部分を2分割するように溝が形成されている。その結果、磁極512aの先端には分割磁極5123および5124が形成され、磁極512aの先端には分割磁極5125および5126が形成されている。分割磁極5123には分割副コイル5103が巻回され、分割磁極5124には分割副コイル5104が巻回され、分割磁極5125には分割副コイル5105が巻回され、分割磁極5126には分割副コイル5106が巻回されている。
【0035】
磁極512aに設けられた2つの分割副コイル5103,5104は、実線で示すような磁束710aが形成されるように直列接続されている。すなわち、分割副コイル5103,5104は、先端側から見て電流が互いに逆向きに流れるように巻回されている。分割磁極5123から出た磁束710aは、ロータシャフト4に入った後に分割磁極5124へと入り、磁極512aの中を通って分割副コイル5103へと戻る。言い換えると、磁束710aは、分割磁極5123,ロータシャフト4および分割磁極5124を通り磁極512a内で閉じるような閉ループを形成している。
【0036】
磁極512bに設けられた2つの分割副コイル5105,5106は、実線で示すような磁束710bが形成されるように直列接続されている。すなわち、分割副コイル5105,5106は、先端側から見て電流が互いに逆向きに流れるように巻回されている。分割磁極5125から出た磁束710bは、ロータシャフト4に入った後に分割磁極5126へと入り、磁極512bの中を通って分割副コイル5106へと戻る。言い換えると、磁束710bは、分割磁極5125,ロータシャフト4および分割磁極5126を通り磁極512b内で閉じるような閉ループを形成している。
【0037】
コア512の磁極512aには分割主コイル5101が巻回され、磁極512bには分割主コイル5102が巻回されている。これら2つの分割主コイル5101,5102は、破線で示すような磁束720が形成されるように直列接続されている。分割主コイル5101,5102で形成される磁束720は、分割主コイル5101を出た後に分割副コイル5103,5104を通ってロータシャフト4に入り、その後、分割副コイル5105,5106および分割主コイル5102を通って分割主コイル5101へと戻るような磁路を形成している。
【0038】
分割副コイル5103,5104に入る磁束720の向きは
図8に示すように同一向きであるが、上述したように、分割副コイル5103,5104は電流が互いに逆向きに流れるように巻回されているので、磁束720の変化に対する誘導起電力は分割副コイル5103と分割副コイル5104とでは逆向きとなる。磁束720と分割副コイル5105,5106との関係についても同様である。よって、分割磁極5123,5124の磁路断面積を適切に設定することによって、分割副コイル5103,5104への磁束720の影響をゼロとすることができる。同様に、分割磁極5125,5126の磁路断面積を適切に設定することによって、分割副コイル5105,5106への磁束720の影響をゼロとすることができる。
【0039】
すなわち、
図8の構成では、分割主コイル5101,5102と分割副コイル5103,5104,5105,5106との間の相互インダクタンスMをゼロにすることが可能となる。例えば、磁極512a,512bの先端部分における磁束720の磁束密度が一様である場合には、分割磁極5123,5124の断面積が等しくなり、かつ、分割磁極5125,5126の断面積が等しくなるように各磁極先端部を2分割すれば良い。
【0040】
図8に示す構成の場合、
図6のインダクタンスL
Mで示す主コイルは、
図8の分割主コイル5101,5102の直列回路で置き換えられ、インダクタンスL
Sで示す副コイルは、分割副コイル5103,5104,5105,5106の直列回路で置き換えられる。そして、相互インダクタンスMはM=0となっている。
【0041】
ここで、主コイルのみを設けている従来の構成、
図4に示す構成、および
図7に示す構成のそれぞれに関して、距離の変化に対するインピーダンスZ
Tの変化率を比較する。なお、以下では、インピーダンスZの絶対値(同じ記号Zを使用する)を用いて記載する。インピーダンスZ(絶対値)とインダクタンスLとの関係は、Z=ωL(ωは搬送波周波数×2π)であってインダクタンスLに比例する。ここでは、ωを一定として扱うので、以下では、インピーダンスの変化の代わりにインダクタンスの変化で説明する。
【0042】
次に、目標浮上位置にあるときのロータシャフト4と電磁石51xPとの距離をDとし、その状態からロータシャフト4が電磁石51xPに近付いた場合の距離をD+dn、逆に遠ざかった場合の距離をD+dfとする。ここで、dnは負の値、dfは正の値とする。インダクタンスLは、距離の1乗に逆比例するので、目標浮上位置におけるインダクタンスをL0とすると、距離(D+dn)の場合のインダクタンスLn、および距離(D+df)の場合のインダクタンスLfは、次式(6)、(7)で表せる。
Ln=L0×D/(D+dn) …(6)
Lf=L0×D/(D+df) …(7)
【0043】
このとき、インダクタンスLの距離の変化による変化率ΔLは、次式(8)で表せる。また、自己インダクタンスL1の巻線と自己インダクタンスL2の巻線との間の相互インダクタンスMは、次式(9)で表せる。ここで、結合度kは0〜1の値を取り、kは距離が近い(エアギャップが狭い)と大きくなり、逆に遠くなる(エアギャップが広い)と小さくなる傾向がある。
ΔL=(Ln−Lf)/(Ln+Lf) …(8)
M=k√(L1×L2) …(9)
【0044】
以下では、一例として、L
M=L,L
S= 0.7L、M=0.8Lとしたときの、主コイルだけの場合のインダクタンス、M≠0の場合の主コイル+副コイルのトータルのインダクタンス、M=0の場合のトータルのインダクタンスのそれぞれについて、変化率を計算する。
【0045】
(主コイルのみの場合)
主コイルのみを設けた従来の場合、距離(D+dn)のときのインダクタンスLn
M、および距離(D+df)のときのインダクタンスLf
Mは、式(6)、(7)においてL0をL
Mで置き換えたものとなる。それらの式を式(8)に代入することにより、主コイルのみの場合のインダクタンスの変化率ΔL
Mは式(10)のように表せる。
ΔL
M=(Ln
M−Lf
M)/(Ln
M+Lf
M)
={D/(D+dn)−D/(D+df)}/{D/(D+dn)+D/(D+df)}
=(df−dn)/(2D+df+dn) …(10)
【0046】
ここで、距離(D+dn)および距離(D+df)における結合度kn、kfとしてkn=0.98、kf=0.94を仮定し、D=350×10
−6(m)、df=150×10
−6(m)、dn=−150×10
−6(m)とした場合、式(10)よりΔL
M≒0.43が得られる。
【0047】
(主コイル+副コイルのトータルのインダクタンスの場合)
主コイル+副コイルのトータルのインダクタンスLTは、式(11)のように相互インダクタンスMを含んでいる。なお、式(11)ではL
M=L,L
S= 0.7Lを用いて変形している。また、距離(D+dn)および距離(D+df)における相互インダクタンスMn、Mfは、式(9)およびL
M=L,L
S= 0.7Lを用いると式(12),(13)のように表せる。
LT=(L
M×L
S−M
2)/(L
M+L
S−2M)
=(0.7L
2−M
2)/(1.7L−2M) …(11)
Mn=√(0.7)・kn・L・D/(D+dn) …(12)
Mf=√(0.7)・kf・L・D/(D+df) …(13)
【0048】
式(11)に式(12)のMnを代入することで距離(D+dn)でのインダクタンスLTnが得られ、式(11)に式(13)のMfを代入することで距離(D+df)でのインダクタンスLTfが得られる。そのLTn,LTfを式(8)のLn,Lfに代入することで、トータルのインダクタンスLTの変化率ΔLTが得られる。そして、kn=0.98、kf=0.94、D=350×10
−6(m)、df=150×10
−6(m)、dn=−150×10
−6(m)を用いてΔLTを計算すると、ΔLT≒0.28が得られる。
【0049】
また、相互インダクタンスMがM=0の場合には、式(11)は式(14)のようになるので、距離(D+dn)および距離(D+df)におけるトータルのインダクタンスLTn,LTfは次式(15)、(16)のようになる。その結果、変化率ΔLTは、式(17)に示すように、式(10)と同一となり、ΔLT≒0.43が得られる。
LT=(0.7/1.7)L …(14)
LTn=(0.7/1.7)L・D/(D+dn) …(15)
LTf=(0.7/1.7)L・D/(D+df) …(16)
ΔLT=(LTn−LTf)/(LTn+LTf)
={D/(D+dn)−D/(D+df)}/{D/(D+dn)+D/(D+df)}
=(df−dn)/(2D+df+dn) …(17)
【0050】
このように、トータルのインダクタンスの変化率は、主コイルだけの場合(従来の場合)には0.43であって、
図4のように副コイル510bを設けた場合であってM≠0の場合には0.28に減少する。すなわち、距離の変化に対する感度が低下する。しかし、
図7のような構成にして副コイルと主コイルとの相互インダクタンスMがゼロとなるようにすると、トータルのインダクタンスの変化率は主コイルだけの場合と同じ0.43となり、感度低下を防止することができる。そして、副コイルを設けたことにより搬送波成分を従来よりも大きくすることができ、位置検出のS/N比の向上を図ることができる。
【0051】
なお、
図8に示した例では、
図9(a)に示すように、磁極512a,512bの磁極先端部に形成する溝5120を、ロータシャフト4の軸方向に形成した。しかし、
図9(b)に示すように軸方向に直交する方向に溝5120を形成し、分割磁極5123と分割磁極5124、および分割磁極5125と分割磁極5126とが軸方向に並設されるようにしても良い。
【0052】
−第2の実施の形態−
上述した第1の実施の形態では、本発明をラジアル磁気軸受に適用した場合について説明したが、第2の実施の形態ではアキシャル磁気軸受に適用した場合について説明する。
図10,11はアキシャル磁気軸受53の電磁石53zの構造を説明する図であり、
図10は、
図1のアキシャル磁気軸受53の部分を拡大して示したものである。なお、アキシャル磁気軸受53に設けられている変位センサについては図示を省略した。
【0053】
図10に示すように、ロータシャフト4の下部にはディスク41が設けられ、そのディスク41をアキシャル方向から挟むように一対の電磁石53zが設けられている。電磁石53zには、リング形状に形成された電磁石コイル530と、電磁石コイル530を収納するように形成されたコア(鉄心)531が設けられている。コア531には、ディスク41と対向するする側に磁極534,535が形成されている。電磁石コイル530に電磁石電流を流すと、破線矢印で示すような磁束532が形成される。磁束532はコア531の磁極534からディスク41内に入り、ディスク41内を通った後にコア531の磁極535へと戻る。
【0054】
図11は電磁石53zの構造を示したものであり、
図11(a)は平面図、
図11(b)はB−B断面図である。電磁石53zは円形状を成しており、磁極534および磁極535も円形(同心円)状をしている。磁極534,535は、円形状に並んだ複数個の分割磁極から構成されていおり、それぞれ副コイル536,537が巻回されている。
【0055】
図11に示した例では、磁極534は同一形状をした4つの分割磁極534a〜534dから構成され、磁極535は同一形状をした4つの分割磁極535a〜535dから構成されている。副コイル536は、直列接続された4つの分割副コイル536a〜536dから成る。分割副コイル536a〜536dは、対応する分割磁極534a〜534dにそれぞれ巻回されている。同様に、副コイル537は直列接続された4つの分割副コイル537a〜537dから成り、分割副コイル537a〜537dは対応する分割磁極535a〜535dにそれぞれ巻回されている。さらに、副コイル536と副コイル537とは直列接続されている。
【0056】
図12は、電磁石コイル530と副コイル536,537との接続状態を説明する模式図であり、磁極534,535を周方向に展開して示したものである。アキシャル磁気軸受53の場合も、
図8に示す巻線回路構成と同様の構造を有している。すなわち、電磁石コイル530が主コイル(分割主コイル5101,5102)に対応し、副コイル536,537が副コイル(分割副コイル5103〜5106)に対応している。
【0057】
副コイル536を構成する偶数個の分割副コイル536a,536b,536c,536dは、奇数番目の分割副コイル(536a,536c)と偶数番目の分割副コイル(536b,536d)とが互いに逆巻になっている。そのため、副コイル536によって形成される磁束358は、奇数番目の分割磁極→ディスク41→偶数番目の分割磁極→磁極534→奇数番目の分割磁極のような経路をたどって閉ループを描いている。
【0058】
同様に、副コイル537を構成する偶数個の分割副コイル537a,537b,537c,537dは、奇数番目の分割副コイル(537a,537c)と偶数番目の分割副コイル(537b,537d)とが互いに逆巻になっている。そして、副コイル537によって形成される磁束359は、奇数番目の分割磁極→ディスク41→偶数番目の分割磁極→磁極535→奇数番目の分割磁極のような経路をたどって閉ループを描いている。
【0059】
一方、主コイルである電磁石コイル530によって形成された磁束532は、磁極534(分割磁極534a〜534d)→ディスク41→磁極535(分割磁極535a〜535d)→コア531→磁極534(分割磁極534a〜534d)のような経路で閉ループを描いている。そのため、
図8に示した巻線回路構成の場合と同様に、磁束530の変化に対する誘導起電力は、奇数番目の分割副コイル(536a,536c)と偶数番目の分割副コイル(536b,536d)とでは逆向きとなる。また、磁束530と奇数番目の分割副コイル(537a,537c)および偶数番目の分割副コイル(537b,537d)との関係についても同様である。その結果、分割副コイル536a,536c,536b,536dへの磁束530の影響、および、分割副コイル537a,537c,537b,537dへの磁束530の影響をゼロとすることが可能である。すなわち、電磁石コイル530と副コイル536,537との間の相互インダクタンスをゼロとすることができる。
【0060】
(1)上述したように、本実施の形態では、磁気力により被支持体であるロータ30を磁気浮上させる電磁石(例えば51xP、51xM)と、ロータ30を磁気浮上させるための磁気浮上制御電流成分および該磁気浮上制御電流成分よりも高周波数帯域であってロータ30の浮上位置を検出するための搬送波電流成分を含む電磁石電流を、電磁石に供給する電磁石駆動回路61aと、搬送波電流成分の変調信号を検出してロータ30の浮上位置信号を生成する浮上位置検出回路(電流検出回路62a,62b、検波回路66a,66b、差分器67)と、浮上位置信号に基づいて磁気浮上制御電流成分の電流指令を電磁石駆動回路61aに入力する磁気浮上制御回路63と、を備える。電磁石は、
図8に示すように一対の磁極512a,512bを有するコア512と、コア512に巻回された主コイル(5101,5102)と、コア512の第1の磁極512aに巻回された第1の副コイル(5103,5104)、コア512の第2の磁極512bに巻回された第2の副コイル(5105,5106)およびコンデンサ511の直列回路とを有して、主コイル(5101,5102)と前記直列回路とを並列接続したものである。そして、第1の磁極512aは複数の分割磁極5123,5124に、第2の磁極512bは複数の分割磁極5125,5126にそれぞれ分割されている。さらに、第1の副コイルは、主コイルとの相互インダクタンスがゼロとなるように第1の磁極512aの複数の分割磁極5123,5124の各々に巻回された複数の分割副コイル5103,5104から成り、第2の副コイルは、主コイルとの相互インダクタンスがゼロとなるように第2の磁極512bの複数の分割磁極5125,5126の各々に巻回された複数の分割副コイル5105,5106から成る。
【0061】
その結果、主コイル510aの設定が従来のセンサレス磁気浮上装置やセンサレスでない磁気浮上装置の場合と同様の設定であっても、副コイル510bのラインに搬送波電流成分が流れることにより、搬送波電流成分を従来のセンサレス磁気浮上装置よりも大きくすることができる。
【0062】
さらに、主コイルとの相互インダクタンスがゼロとなるように第1および第2の副コイルを上述のような分割副コイル5104〜5106で構成したので、主コイルによる磁束と副コイルによる磁束とが干渉して位置検出の感度が低下するのを防止することができる。
【0063】
(2)なお、上述した第1の実施の形態では1つの磁極に2つの分割磁極を形成し、第2の実施の形態では1つの磁極に4つの分割磁極を形成したが、分割数はこれらに限らない。すなわち、第1の副コイルや第2の副コイル(例えば、
図12の副コイル536,537)は、分割副コイルと該分割副コイルとは逆巻に巻回された分割副コイルとを同一個数ずつ有すると共に、それらの分割副コイルを交互に直列接続したものであれば良い。
【0064】
(3)また、主コイルのインダクタンスをL
M、磁気浮上制御電流成分の周波数をf
1、搬送波電流成分の周波数をf
2としたとき、コンデンサ511の容量Cは、式「(1/2πf
1C)>2πf
1L
M」および式「(1/2πf
2C)<2πf
2L
M」を満足するように設定するのが好ましい。このような設定とすることにより、磁気浮上制御の周波数帯域では、浮上力に寄与する周波数f
1の磁気浮上制御電流成分は、ほぼ主コイル510aのみに流れ、従来と同じように磁気浮上制御を行うことができる。すなわち、磁気浮上制御への影響を抑えつつ搬送波電流成分を大きくすることができる。
【0065】
(4)さらに、副コイル510bのインダクタンスは、主コイル510aのインダクタンスと同等もしくは小さく設定されているので、副コイル510bの方が搬送波電流成分は大きくなる。
【0066】
(5)また、周波数f
2と周波数f
1の比f
2/f
1をAとしたとき、周波数f
1におけるコンデンサ511のインピーダンスZ
C1および副コイル510bのインピーダンスZ
S1を「Z
C1<A
2・Z
S1」のように設定することで、周波数f2において副コイルコイル(Ls)へのコンデンサCの影響は小さくすることができる。
【0067】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態ではラジアル磁気軸受を例に説明したが、アキシャル磁気軸受に対しても同様に適用することができる。また、ターボ分子ポンプに限らず、様々な装置に用いられるセンサレス磁気浮上装置にも適用することができる。また、制御回路の信号処理はアナログに限らず、デジタル演算処理でも適用できる。