(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アクセルリリース制御手段は、前記ロック制御中もしくは前記ロック位置の保持を継続しているロック状態のときに車両の発進操作が行われたとき、前記アクセルリリース制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動駐車ブレーキ制御装置。
モータ(10)を正回転駆動することにより推進軸(18)を一方向に移動させ、該推進軸(18)の移動に伴って摩擦材(11)を車輪に取り付けられた被摩擦材(12)に向かう方向に移動させることで電動駐車ブレーキ(2)による駐車ブレーキ力を発生させたのち、前記モータ(10)の駆動を停止して前記駐車ブレーキ力を保持することで車輪をロック状態にする通常のロック制御を行うロック制御手段(200)と、
前記モータ(10)を逆回転駆動することにより前記推進軸(18)を前記一方向と逆方向に移動させ、該推進軸(18)の移動に伴って前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)から離れる方向に移動させることで前記電動駐車ブレーキ(2)による駐車ブレーキ力を低減させたのち、前記モータ(10)の駆動を停止して前記駐車ブレーキ力を解除することで車輪をリリース状態にするリリース制御を行うリリース制御手段(300)とを備える電動駐車ブレーキ制御装置において、
前記ロック制御中もしくは前記ロック状態のときに車両の発進操作が行われたときに、前記推進軸(18)を前記ロック状態とされるときのロック位置と前記リリース状態とされるときのリリース位置との間にある待機位置に移動するアクセルリリース制御判定手段(400)と、
車両の発進操作が行われたのち走行に移行できない発進不能であるか否かを判定する発進状態判定手段(530)と、
前記発進状態判定手段(530)にて前記発進不能と判定されなかったときに、前記リリース制御を実行して前記推進軸(18)を前記待機位置から前記リリース位置に移動させる待機解除リリース制御手段(640)と、
前記発進状態判定手段(530)にて前記発進不能と判定されると、発進不能時ロック制御を行い、前記モータ(10)を正回転駆動することにより前記推進軸(18)を前記一方向に移動させて駐車ブレーキ力を発生させる発進不能時ロック制御手段(550)と、を有していると共に、
車速が規定速度閾値を上回った状態が所定の時間閾値以上継続したか否かに基づいて、前記発進不能時ロック制御の実行が不要である不要確定状態であるか否かを判定する不要確定判定手段(620)を備え、
前記待機解除リリース制御手段(640)は、前記発進状態判定手段(530)にて前記発進不能と判定されず、かつ、前記不要確定判定手段(620)にて前記不要確定状態であると判定されたときに、前記リリース制御を実行して前記推進軸(18)を前記待機位置から前記リリース位置に移動させることを特徴とする電動駐車ブレーキ制御装置。
前記不要確定判定手段(620)は、車速が規定速度閾値を上回った状態が所定の時間閾値以上継続していることを第1条件、エンジントルクが予め設定された目標エンジントルクを超えている状態、もしくは、エンジン回転数が予め設定された目標エンジン回転数を超えている状態であり、かつ、車両のクラッチ操作量が予め規定された目標操作量を超えていることを第2条件として、前記第1条件および前記第2条件の両方共に満たしていれば、前記不要確定状態であると判定することを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1つに記載の電動駐車ブレーキ制御装置。
前記不要確定判定手段(620)は、トラクション制御もしくは横滑り防止制御を作動させていないときに、前記車速が規定速度閾値を上回った状態が所定の時間閾値以上継続していれば、前記不要確定状態であると判定することを特徴とする請求項3ないし6のいずれか1つに記載の電動駐車ブレーキ制御装置。
前記不要確定判定手段(620)は、車両旋回中ではないときに、前記車速が規定速度閾値を上回った状態が所定の時間閾値以上継続していれば、前記不要確定状態であると判定することを特徴とする請求項3ないし7のいずれか1つに記載の電動駐車ブレーキ制御装置。
前記不要確定判定手段(620)は、エンジントルクが予め設定された目標エンジントルクを超えていて、かつ、クラッチ操作量が予め設定された目標操作量を超えている状況なのに車速が一定値未満の状態が一定時間以上継続していると、前記不要確定状態であると判定することを特徴とする請求項3ないし8のいずれか1つに記載の電動駐車ブレーキ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキシステムを例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態にかかるEPB制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。また、
図2は、ブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0027】
図1に示すように、ブレーキシステムは、ドライバの踏力に基づいてサービスブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時などに車両の移動を規制するためのEPB2とが備えられている。
【0028】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)5内に発生させ、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0029】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、ESC(Electronic Stability Control)−ECU8にて実行される。例えば、ESC−ECU8からアクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できるようにしている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来より周知となっているため、ここでは詳細については省略する。
【0030】
一方、EPB2は、モータ10にてブレーキ機構を制御することで駐車ブレーキ力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB−ECUという)9を有して構成されている。
【0031】
ブレーキ機構は、本実施形態のブレーキシステムにおいてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系のブレーキ機構は、後輪系のブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいて駐車ブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられているブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下の説明では後輪系のブレーキ機構について説明する。
【0032】
後輪系のブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、
図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0033】
具体的には、ブレーキ機構は、
図1に示すキャリパ13内において、
図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させるとにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させ、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による駐車ブレーキ力を発生させる。
【0034】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0035】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0036】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標ブレーキ力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、その位置に推進軸18を保持することができる。
【0037】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液洩れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。このシール部材22が、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる部材である。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
【0038】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0039】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0040】
このように構成されたブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、駐車ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用のブレーキ機構とすることが可能となる。
【0041】
また、このようなブレーキ機構では、EPB2を作動させたときに、W/C圧が0でブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧される前の状態、もしくは、サービスブレーキ1が作動されることでW/C圧が発生させられていたとしても推進軸18がピストン19に接する前の状態のときには、推進軸18に掛かる負荷が軽減され、モータ10はほぼ無負荷状態で駆動される。そして、推進軸18がピストン19に接している状態でブレーキパッド11にてブレーキディスク12を押圧するときに、EPB2による駐車ブレーキ力が発生させられることになり、モータ10に負荷が掛かり、モータ10に流されるモータ電流値が変化する。このため、モータ電流値を確認することにより、EPB2による駐車ブレーキ力の発生状態を確認することができるようになっている。
【0042】
EPB−ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。このEPB−ECU9が本発明のEPB制御装置に相当する。
【0043】
EPB−ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB−ECU9は、モータ電流値に基づいてロック制御やリリース制御などを実行しており、その制御状態に基づいてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを把握している。そして、EPB−ECU9は、インストルメントパネルに備えられたロック/リリース表示ランプ24に対し、モータ10の駆動状態に応じて、車輪がロック状態となっているかリリース状態になっているかを示す信号を出力している。
【0044】
なお、EPB−ECU9には、車両の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ(以下、前後Gセンサという)25、図示しないクラッチペダルのストロークを検出するペダルストロークセンサ26および横加速度GYを検出する横加速度センサ27の検出信号やエンジンECU28から各種データが入力されるようにしてある。これにより、EPB−ECU9にて、各種演算やデータ入力が行われている。例えば、前後Gセンサ25の検出信号に含まれる重力加速度成分に基づき周知の手法によって停車中の路面の傾斜(勾配)を推定したり、ペダルストロークセンサ26に基づいてクラッチ操作状態を検知したり、横加速度センサ27の検出信号に基づいて横加速度GYを検出したりしている。また、エンジンECU28からのデータに基づいて駆動力やエンジントルクおよびエンジン回転数などが把握できるようになっている。
【0045】
以上のように構成された車両用ブレーキシステムでは、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって停車させられた際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて駐車ブレーキ力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に駐車ブレーキ力を解除するという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時にドライバによるブレーキペダル操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、モータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで駐車ブレーキ力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで駐車ブレーキ力を解除して車輪をリリース状態にする。
【0046】
具体的には、ロック・リリース制御により、駐車ブレーキ力を発生させたり解除したりしている。ロック制御では、モータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の駐車ブレーキ力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の駐車ブレーキ力を発生させる。リリース制御では、モータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている駐車ブレーキ力を解除する。
【0047】
そして、本実施形態では、さらに、このEPB2を利用して坂路でのエンスト時の車両のずり下がりを抑制している。以下、本実施形態にかかる車両用のブレーキシステムで実行されるEPB制御処理の詳細について説明するが、それに先立ち、EPB2による坂路でのエンスト時の車両のずり下がり抑制のための動作について説明する。
【0048】
坂路でのエンスト時に車両のずり下がりを抑制するためには、従来のようにEPB2を通常のリリース状態(リリース位置)で待機しておくのではなく、エンストが検出されたときにより早く駐車ブレーキ力を発生させられるように待機しておく必要がある。EPB2によってより早く駐車ブレーキ力を発生させられるようにするには、EPB2の待機位置、具体的には推進軸18の待機位置をエンスト時の車両のずり下がり抑制のための待機状態(以下、アクセルリリース待機状態という)とすれば良い。
図3は、坂路でのエンスト時の車両のずり下がり抑制のための動作を示した後輪系のブレーキ機構の簡略化断面模式図である。この図を用いて、アクセルリリース待機状態におけるEPB2の待機位置について説明する。
【0049】
図3(a)は、通常のリリース状態のとき、例えばサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させてからそれが解除されたときや、EPB2によって駐車ブレーキ力を発生させてからそれが解除されたときの様子を表している。この状態のときには、推進軸18は、リリース位置となり、推進軸18の先端とピストン19の底部との間、つまり互いの押圧面のクリアランスが通常のリリース状態のときのクリアランスaに保たれた待機位置に位置している。
【0050】
これに対して、坂路において車両のずり下がりが発生し得る場合には、モータ10を駆動して、予め推進軸18をエンスト時の車両のずり下がり抑制のための待機位置に移動させ、リリース位置よりもロック位置側に近づく方向に予め移動させておく。このとき、アクセルリリース待機状態としては、
図3(b)に示すように、推進軸18の先端とピストン19の底部との間のクリアランスがリリース位置のときのクリアランスaよりも小さなずり下がり抑制用のクリアランスbとなる待機位置にすることができる。また、
図3(c)に示すように、推進軸18の先端がピストン19の底部に当接し、かつ、ピストン19およびブレーキパッド11をブレーキディスク12側に若干押し出す状態を待機位置にしても良い。
【0051】
図3(b)のように、クリアランスbとする場合、推進軸18の先端がよりピストン19の底部に近い位置になることから、EPB2の応答性を向上でき、より早くEPB2による駐車ブレーキ力を発生させられる。このため、車両のずり下がり量を低減でき、車両のずり下がりを抑制することが可能となる。
【0052】
また、
図3(c)のように、推進軸18がピストン19に接し、ピストン19を初期位置から移動させてブレーキパッド11をブレーキディスク12側に若干押し出す状態とする場合、EPB2の応答性を向上できるのに加えて、仮にドライバが車両のずり下がりに気付いて急遽サービスブレーキ1を操作したときに、そのサービスブレーキ1の応答性も向上できる。つまり、サービスブレーキ1が操作されたときに、既にブレーキパッド11がブレーキディスク12に近づけられた状態になっていることから、より早くサービスブレーキ力を発生させることが可能となる。
【0053】
ただし、
図3(c)の状態の場合、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスが詰められることになるため、これらが接触する可能性もある。その場合、ブレーキの引き摺り感を与えたり、ブレーキ鳴きが発生する可能性がある。したがって、サービスブレーキ1の応答性の向上とブレーキの引き摺り感やブレーキ鳴きのいずれを重視するかにより、適宜、
図3(b)、(c)の形態を選択すれば良い。本実施形態の場合、
図3(b)の位置を第1待機位置、
図3(c)の位置を第2待機位置として、後述するように路面の傾斜に合せて待機位置を選択している。
【0054】
続いて、本実施形態の車両用のブレーキシステムにおけるEPB−ECU9で実行されるEPB制御処理の詳細について、
図4〜
図16を参照して説明する。
【0055】
図4は、EPB制御処理の全体を示したフローチャートである。この図に示す処理は、例えばイグニッションスイッチがオンされている期間中に所定の制御周期毎に実行され、エンストが発生しても継続的に実行される。
【0056】
ステップ100では、電流モニタ処理を実行する。具体的には、モータ電流値を検出している。そして、この電流モニタ処理によって検出されたモータ電流値(以下、電流モニタ値という)に基づいて、ステップ200のロック制御判定処理、ステップ300のリリース制御判定処理、ステップ400のアクセルリリース制御判定処理、ステップ500のエンスト時ロック制御判定処理、ステップ600の待機解除リリース制御判定処理を行っている。
【0057】
図5は、
図4のステップ200に示すロック制御判定処理の詳細を示したフローチャートである。本処理では、ドライバによるロック操作が為されたときに車輪をロック状態にするためのロック制御を実行する。
【0058】
まず、ステップ210では、ロック制御を行わせるSW操作があったか否かを判定する。この判定は、操作SW23の操作状態を示す信号に基づいて行っている。操作SW23がオンの状態がドライバがロック制御によりEPB2を作動させてロック状態にしようとしていることを意味し、オフの状態がリリース制御によりドライバがEPB2をリリース状態にしようとしていることを意味している。このため、操作SW23がオフからオンに切り替わったことに基づいて、ロック制御を行わせるSW操作があったとしている。ここで否定判定されればそのまま処理を終了し、肯定判定されればステップ220に進む。
【0059】
ステップ220では、モータ駆動をオンし、モータ10を正回転、つまり車輪をロック状態にする方向に回転させる。このモータ10の正回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12側に移動させられる。
【0060】
そして、ステップ230に進み、一定時間を経過していることを条件として、今回の制御周期のときの電流モニタ値が目標ロック電流値を超えたか否かを判定する。モータ電流(電流モニタ値)はモータ10に加えられる負荷に応じて変動するが、本実施形態の場合にはモータ10に加えられる負荷はブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けている押圧力に相当するため、モータ電流が発生させた押圧力と対応した値となる。このため、モータ電流が目標ロック電流値を超えていれば発生させた押圧力により所望の駐車ブレーキ力を発生させられた状態、つまりEPB2によりブレーキパッド11の摩擦面がブレーキディスク12の内壁面にある程度の力で押さえ付けられた状態となる。したがって、電流モニタ値が目標ロック電流値を超えたか否かに基づいて、所望の駐車ブレーキ力が発生させられたことを検知することができる。
【0061】
なお、一定時間とは、ロック制御開始時に発生し得る突入電流が収束すると想定される期間以上かつロック制御に掛かると想定される最小時間未満の期間に設定される。例えば、モータ駆動をオンさせたと同時に図示しないロック制御時間カウンタのカウントアップを開始し、当該カウンタがその一定期間に相当するカウント数になったことに基づいて一定時間が経過したとしている。これにより、突入電流が目標ロック電流値を超えたときに誤って本ステップで肯定判定されてしまうことを防止している。
【0062】
ステップ230で肯定判定されるまではステップ240に進み、例えばロック制御中フラグをセットするなどによってEPB状態がロック制御中であることを示して処理を終了し、ステップ230の処理が繰り返されるようにする。そして、本ステップで肯定判定されるとステップ250に進んでモータ駆動をオフしたのち、ステップ260に進み、例えばロック制御中フラグをリセットすると共にロック状態フラグをセットするなどによってEPB状態がロック状態であることを示す。このようにして、ロック制御判定処理が完了する。なお、このようにロック制御によってロック状態となったときの推進軸18の位置をロック位置とする。
【0063】
図6は、
図4のステップ300に示すリリース制御判定処理の詳細を示したフローチャートである。本処理では、ドライバによるリリース操作が為されたときに車輪をリリース状態にするためのリリース制御を実行する。
【0064】
まず、ステップ310では、リリース制御を行わせるSW操作があったか否かを判定する。この判定は、操作SW23の操作状態を示す信号に基づいて行っている。上記したように、操作SW23がオフの状態がリリース制御によりドライバがEPB2をリリース状態にしようとしていることを意味している。このため、操作SW23がオンからオフに切り替わったことに基づいて、リリース制御を行わせるSW操作があったとしている。ここで否定判定されればそのまま処理を終了し、肯定判定されればステップ320に進む。また、このときに
図5に示したロック状態フラグをリセットすることで、EPB状態がロック状態ではなくなったことを示すようにしている。
【0065】
ステップ320では、モータ駆動をオンし、モータ10を逆回転、つまり車輪をリリース状態にする方向に回転させる。このモータ10の逆回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12に対する離間方向に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12から離間させられる。
【0066】
そして、ステップ330に進み、リリース制御継続時間がリリース制御目標時間を超えたか否かを判定する。リリース制御継続時間とは、リリース制御が開始されてからの経過時間である。例えばステップ320でモータ駆動がオンされると、後述するステップ340で図示しないリリース制御継続時間カウンタをカウントアップし始める。当該カウンタがリリース制御目標時間に相当するカウント数になったことに基づいて、リリース制御目標時間以上になったとしている。また、リリース制御目標時間とは、上記したロック制御処理によって車輪をロック状態としたロック位置から通常のリリース状態のときのリリース位置、つまり
図3(a)に示したように推進軸18の先端とピストン19の底部との間がクリアランスaに保たれた待機位置となるのに掛かると想定される時間である。このリリース制御目標時間は、モータ10の回転数に応じた推進軸18の移動量などに基づいて設定される。
【0067】
そして、ステップ330で肯定判定されるまではステップ340に進み、リリース制御継続時間カウンタのカウントアップを行う。その後、ステップ350に進み、例えばリリース制御中フラグをセットするなどによってEPB状態がリリース制御中であることを示して処理を終了し、ステップ330の処理が繰り返されるようにする。一方、ステップ330で肯定判定されるとステップ360に進んでモータ駆動をオフしたのち、ステップ370に進み、例えばリリース制御中フラグをリセットすると共にリリース状態フラグをセットするなどによってEPB状態がリリース状態であることを示す。このようにして、リリース制御判定処理が完了する。
【0068】
なお、リリース状態フラグは、ロック状態になるとリセットされるようになっており、
図5のステップ260や後述する
図13のステップ550eでEPB状態がロック状態になると同時にリセットされる。
【0069】
図7は、
図4のステップ400に示すアクセルリリース制御判定処理の詳細を示したフローチャートである。本処理では、EPB2をアクセルリリース待機状態にする条件を満たしているか否かを判定し、その条件を満たしているときに、坂路でのエンスト時の車両のずり下がりを抑制するためのアクセルリリース制御を実行させる。
【0070】
まず、ステップ410では、EPB状態がロック状態であるか否かを判定する。これにより、ドライバが坂路で停車中にロック操作を行ったのちに発進させるような状況に加えて、坂路保持制御によって自動的にEPB2がロック状態とされているような状況であるか否かを判定している。坂路保持制御は、ドライバによるロック操作に限らず、坂路での車両のずり下がり防止のために、所定の傾斜以上の路面に車両を停止させたときに自動的にEPB2による駐車ブレーキ力を発生させる制御であり、その場合にも、EPB2によって車輪がロック状態とされる。これらの場合において、発進時に推進軸18をリリース位置まで戻すと、坂路でのエンスト時の車両のずり下がりが大きくなる。したがって、ここで否定判定された場合には、アクセルリリース制御を実行する必要がないとして処理を終了し、肯定判定されればステップ420に進む。
【0071】
ステップ420では、アクセルリリース制御の実行条件を満たしているか否かを判定する。アクセルリリース制御を実行すべき状況は、車両がずり下がり得る坂路においてエンストが発生する可能性がある状況である。このような状況をアクセルリリース制御の実行条件としており、ここでは、アクセル踏み替え判定がオンされ、クラッチを繋ごうとしている状態であって、アクセルの踏み込みが開始され、かつ、ずり下がりが生じ得る坂路であることをその実行条件としている。
【0072】
アクセル踏み替え判定では、ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えられたことを判定しており、踏み替えられたときにアクセル踏み替え判定がオフからオンに変わる。例えば、エンジンECU28で取り扱われているアクセル開度もしくはエンジン回転数に関するデータを入力することによって本判定を行うことができ、アクセル開度がアイドル状態から増加したとき、エンジン回転数がアイドル回転数から増加したときに、アクセル踏み替え判定においてオンと判定される。
【0073】
クラッチを繋ごうとしている状態であるか否かは、クラッチペダルがオンからオフに切り替わったこと、または、クラッチストロークが予め設定されたアクセルリリース許可ストローク量を超えたことに基づいて判定している。クラッチペダルのオンオフについては、クラッチペダルの踏み込み状態を検出するペダルストロークセンサ26の検出信号に基づいて判定でき、クラッチストロークについてもペダルストロークセンサ26の検出信号に基づいて判定できる。クラッチストロークは、クラッチペダルの踏み込みが緩められた量を示しており、クラッチペダルが最大量踏み込まれている状態を0としている。また、アクセルリリース許可ストローク量は、クラッチを繋ごうとしている位置、例えば半クラッチ位置に相当するクラッチストロークに設定されている。
【0074】
アクセルの踏み込みが開始されたか否かは、エンジントルクがアクセルリリース判定トルクを超えているか否かに基づいて判定している。アクセルリリース判定トルクは、アクセルが踏みこまれたと想定されるエンジントルクに設定されている。エンジントルクについては、エンジンECU28で取り扱われていることから、エンジンECU28からエンジントルクに関するデータを入力することで、本判定を行うことができる。
【0075】
なお、本判定および上記したアクセル踏み替え判定については、アクセルが踏み込まれたことが車両発進のためにEPB2のロック状態を解除する条件となるため実施しているが、これらの判定は冗長的に行っているのであり、必ずしも行わなければならない訳ではないし、いずれか一方のみ行うようにしても良い。
【0076】
ずり下がりが生じ得る坂路であるか否かは、前後Gセンサ25の検出信号に基づいて停車中の路面の傾斜を推定できることから、この推定傾斜がアクセルリリース許可勾配を超えているか否かを判定することによって判定している。アクセルリリース許可勾配は、ずり下がりが生じ得ると想定される勾配として予め設定された値である。ただし、車両が発進時にずり下がる状況としては、車両が登坂路において前進しようとする場合に限らず、降坂路において後進しようとする場合にも生じる。このため、アクセルリリース許可勾配は、1速、2速のように前進方向のギアに入っている状態、つまりシフトがバック(R)に入っている状態もしくはギアに入っていない状態においては登坂路に相当する勾配(例えば正の勾配)に設定され、シフトがバック(R)に入っている状態においては降坂路に相当する勾配(例えば負の勾配)に設定される。
【0077】
このようなアクセルリリース制御の実行条件を満たす場合に、ステップ430に進んでEPB2によるアクセルリリース制御処理を実行する。
図10は、アクセルリリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0078】
まず、ステップ430aでは、モータ駆動をオンする。つまり車輪をリリース状態にする方向にモータ10を逆回転させる。このモータ10の逆回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12に対する離間方向に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12から離間させられる。
【0079】
そして、ステップ430bに進み、電流値無負荷判定がオンになっているか否かを判定する。電流値無負荷判定とは、次のステップ430cにおいて行われる判定であり、電流モニタ値が、モータ10が無負荷状態になったときの電流値になったことを判定している。ステップ430aでモータ駆動を開始し始めた当初は、まだ電流無負荷判定がオンになっていないため、まずはステップ430bで否定判定される。
【0080】
その後、ステップ430cに進み、電流無負荷判定を行う。ここでは、電流値に変化がない状態が電流値変化なし確定時間以上継続したか否かを判定している。すなわち、モータ10が無負荷状態になると、電流モニタ値は無負荷電流値となって一定になるため、これが所定時間継続した場合に無負荷状態になったと判定している。ただし、電流モニタ値、すなわちモータ電流生値はノイズなどの影響で多少バラツキがあって値が振れるため、本実施形態では所定周期(ここでは例えば10周期)前のモータ電流生値(n−10)と今回の制御周期のときのモータ電流生値(n)との差が第1の無負荷電流判定電流値に相当する電流振れ値1より小さく、かつ、第2の無負荷電流判定電流値に相当する電流振れ値2より大きい状態であるかを判定するようにしている。
【0081】
図11は、モータ電流の変化と無負荷電流判定のイメージを示した図である。この図に示すように、今回の制御周期でのモータ電流生値(n)と所定周期前のモータ電流生値(n−10)との差が第1、第2の無負荷電流判定電流値(電流振れ値1、2)の間になっていれば無負荷電流値になっていると判定する。なお、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスが殆ど取れていないのに無負荷電流と誤判定することもあり得るため、無負荷電流判定許可電流値以下の場合にのみ本判定が行われるようにすることで、より誤判定をなくすことが可能となる。
【0082】
したがって、ステップ430cで肯定判定されるまではステップ430dに進んで電流値無負荷判定をオフにしたのち、ステップ430eに進み、例えばアクセルリリース制御中フラグをセットすることでアクセルリリース制御中であることを示して処理を終了する。そして、ステップ430cで肯定判定されると、ステップ430fに進み、電流値無負荷判定をオンする。
【0083】
さらに、ステップ430gに進み、待機移動時間カウンタを0にする。待機移動時間カウンタとは、EPB2を所望の待機位置にするまでに掛かる時間をカウントしている。ここでは、待機移動時間カウンタにて、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れた瞬間に為された電流無負荷判定から待機位置までの待機移動時間を計測している。待機移動時間は、待機位置に応じて決まっている値であり、第1待機位置と第2待機位置とで異なった時間となる。ここでは、まだ待機位置が決定されていないことから、待機移動時間カウンタを0にしている。
【0084】
続いて、ステップ430hに進み、現在停車中の路面の傾斜が傾斜大しきい値を超えているか否かを判定する。路面の傾斜については、前後Gセンサ25の検出信号に基づいて求めた推定傾斜を用いている。また、傾斜大しきい値とは、待機位置の設定に用いる判定しきい値であり、現在の傾斜が傾斜大しきい値を超えると傾斜が比較的大きく、それ以下であれば傾斜が比較的小さいことを意味している。このため、路面の傾斜に応じた待機位置となるように、ステップ430hで否定判定された場合には、ステップ430iに進んで移動待機時間しきい値を第1待機位置時間、つまりEPB2の待機位置を第1待機位置にするために必要な待機移動時間に設定する。また、ステップ430jに進んで、アクセルリリース制御後にリリース位置まで推進軸18(ナット)を戻すときの量となる目標ナット戻り量を第1待機位置からの戻り量に設定する。また、ステップ430hで肯定判定された場合には、ステップ430kに進んで移動待機時間しきい値を第2待機位置時間、つまりEPB2の待機位置を第2待機位置にするために必要な待機移動時間に設定する。また、ステップ430lに進んで、目標ナット戻り量を第2待機位置からの戻り量に設定する。
【0085】
このようにして、待機移動時間しきい値が設定されると、ステップ430mに進み、待機時間移動カウンタがステップ430i、430kで設定された待機移動時間しきい値に相当するカウント値に達したか否か、つまり推進軸18が第1待機位置もしくは第2待機位置に至ったか否かを判定する。ここで肯定判定されるまでは、まだ推進軸18が第1待機位置もしくは第2待機位置に至っていないことから、ステップ430nに進んで待機移動時間カウンタをインクリメントして処理を終了する。この場合、次の制御周期以降はステップ430bで肯定判定されることより、再びステップ430mの処理が繰り返し実行され、推進軸18が第1待機位置もしくは第2待機位置に至るまで待機移動時間カウンタのカウントアップが継続される。その後、ステップ430mで肯定判定され、推進軸18が第1待機位置もしくは第2待機位置に至るとステップ430p以降の処理に進む。
【0086】
そして、ステップ430pで待機移動時間カウンタを0に設定したのち、ステップ430pに進んで待機解除リリース制御目標時間を設定する。待機解除リリース制御目標時間は、待機解除リリース制御時に第1待機位置もしくは第2待機位置からリリース位置に戻すまでに掛かる時間であり、目標ナット戻り量/ナット移動速度から演算される。目標ナット戻り量は、上記ステップ430j、430lで設定された値である。ナット移動速度は、モータ10の回転に伴う推進軸18の移動速度のことであり、推進軸18に形成された雌ネジ溝18aのピッチと無負荷時のモータ10の回転速度とを掛けることによって演算される。無負荷時のモータ10の回転速度は、固定値もしくはモータ10に印加される電圧と回転数との特性に基づいて決定することができる。この後、ステップ430rに進んでモータ駆動をオフし、さらにステップ430sに進んでアクセルリリース待機状態フラグをセットするなどによってEPB状態をアクセルリリース待機状態にすると共にアクセルリリース待機状態開始後時間のカウントを開始して処理を終了する。
【0087】
このようにしてアクセルリリース制御処理が終了すると、
図7のステップ440に進み、EPB状態がアクセルリリース待機状態であるか否かを判定する。この判定は、上記した
図10のステップ430sでセットされるアクセルリリース待機状態フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。そして、アクセルリリース待機状態となるまでアクセルリリース制御を継続し、アクセルリリース待機状態になるとアクセルリリース制御判定処理を終了する。
【0088】
図8は、
図4のステップ500に示すエンスト時ロック制御判定処理の詳細を示したフローチャートである。本処理では、車両が正常に発進できずにエンストが発生するような発進不能を検知し、エンスト時にEPB2を作動させて車輪をロック状態にするエンスト時ロック制御を実行させる。
【0089】
まず、ステップ510では、EPB状態がアクセルリリース待機状態であるか否かを判定する。この判定は、上記した
図7のステップ440と同様の方法によって行われる。ここで否定判定されれば、エンスト時ロック制御を実行する必要はないため、ステップ520に進んでエンスト時ロック制御判定をオフにしてそのまま処理を終了し、肯定判定されるとステップ530に進む。
【0090】
ステップ530では、車両の駆動力が一度規定値以上になっており、かつ、その駆動力がストール判定駆動しきい値未満であるか否かを判定する。つまり、駆動力が小さく、エンストし得る程度にしか発生させられていない発進不能の状態か否かを判定している。
【0091】
車両の駆動力については、例えば
図12に示されるクラッチストローク−クラッチ伝達係数の関係を利用して、車両の駆動力=エンジントルク×クラッチ伝達係数の数式に基づいて演算することができる。ストール判定駆動しきい値は、車両の駆動力がエンストし得る程度の大きさしかないことを判定する値であり、例えばエンストしないために必要な駆動力の下限値に設定される。車両の駆動力がストール判定駆動力しきい値未満である場合に即座にエンストが発生すると判定しても良いが、発進操作初期にエンストではないのにエンスト時ロック制御を行うと誤判定してしまわないようにするために、一度、規定の駆動力以上となったことを確認している。規定値については、クラッチを繋ごうとする動作が開始されたことが確認できる程度の値で構わない。
【0092】
このようにしてステップ530で肯定判定されるとステップ540に進み、エンスト時ロック制御判定をオンしてステップ550に進む。なお、ここでは車両の駆動力が一度規定値以上になったことを判定したが、発進操作開始からの操作時間が規定時間以上経過したか否かを判定するようにしても、上記のような誤判定を防止できる。また、クラッチストロークに基づいてクラッチを繋ごうとする動作の開始が確認されたのち、再度クラッチペダルが踏み戻されて発進操作を中断することもある。この場合も発進不能な状態であるため、クラッチストロークが所定の基準値以下になったときにも発進不能と判定し、エンスト時ロック制御を実行するべきとして、ステップ540に進んでエンスト時ロック制御判定をオンさせるようにしても良い。
【0093】
そして、ステップ550に進み、エンスト時ロック制御を実行する。
図13は、エンスト時ロック制御の詳細を示したフローチャートである。本処理では、エンスト時に車両のずり下がりを抑制すべく、EPB2を作動させて車輪をロックさせる動作を行う。
【0094】
まず、ステップ550aでは、モータ駆動をオンする。つまり車輪をロック状態にする方向にモータ10を正回転させる。このモータ10の正回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12側に移動させられる。このとき、上記したようにアクセルリリース制御によってEPB2がアクセルリリース待機状態、つまり推進軸18が第1、第2待機位置となるようにしているため、エンストが検知されると即座に推進軸18によってピストン19およびブレーキパッド11を押圧でき、より早く駐車ブレーキ力を発生させられる。
【0095】
この後、ステップ550bに進み、電流モニタ値が最大目標ロック電流値を超えているか否かを判定する。この判定は、今回の制御周期のときの電流モニタ値が最大目標ロック電流値を超えているか否かの判定としても良いが、ノイズ的に電流モニタ値が大きくなった場合を除外するために、一定時間(制御周期として数周期分)、その状態が継続しているか否かの判定にするのが好ましい。また、最大目標ロック電流値とは、設計値としてEPB2のモータ10に対して流せる電流の最大値を意味している。このようにモータ10に対して最大値の電流を流すことにより、より大きな駐車ブレーキ力を発生させられるようにしている。これにより、車両のずり下がりというドライバのコントロール外の状況においても確実に車両を停止させることができるし、車両の揺れで制動力が低下しても確実に車両を停止させられる。なお、ここでは最大目標ロック電流値としたが、通常のロック状態とするときの電流値よりも大きな値であれば構わない。
【0096】
ここで、ステップ550bで肯定判定されるまではステップ550cに進み、例えばエンスト時ロック制御中フラグをセットするなどにより、EPB状態がエンスト時ロック制御中であることを示して処理を終了する。この場合、エンスト時ロック制御が継続されてモータ駆動がオンされることになる。そして、ステップ550bで肯定判定されると、十分に大きな駐車ブレーキ力が発生させられた状態になったと想定されることから、ステップ550dに進んでモータ駆動をオフしたのち、ステップ550eに進んで例えばエンスト時ロック制御中フラグをリセットすると共にロック状態フラグをセットするなどによってEPB状態がロック状態であることを示す。このようにして、エンスト時ロック制御処理が完了する。
【0097】
このようにしてエンスト時ロック制御処理が終了すると、
図8のステップ560に進み、EPB状態がロック状態であるか否かを判定する。この判定は、上記した
図13のステップ550eでセットされるロック状態フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。そして、ロック状態となるまでエンスト時ロック制御を継続し、ロック状態になるとエンスト時ロック制御判定処理を終了する。
【0098】
図9は、
図4のステップ600に示す待機解除リリース制御判定処理の詳細を示したフローチャートである。本処理では、車両が発進したのちエンストすることなく走行に移行するような正常発進の場合のように、エンスト時ロック制御を実行する必要がない状況であることを検知し、EPB2の待機位置をエンスト時ロック制御のための待機位置からリリース位置に戻すEPB待機解除リリース制御を実行させる。
【0099】
まず、ステップ610では、エンスト時ロック制御判定がオンされているか否かを判定する。これがオンされているときには、まだEPB待機解除リリース制御を実行すべきではないため、ステップ620に進んでエンストロック不要確定判定処理を行う。
【0100】
図14は、エンストロック不要確定判定処理の詳細を示したフローチャートである。エンストロック不要確定判定処理では、エンスト時ロック制御を実行する必要がなく待機位置を維持することが不要となったことが確定したエンストロック不要確定状態になったか否かの判定を行う。エンストロック不要確定状態になった場合、その後にエンスト時ロック制御が行われることはないため、アクセルリリース待機状態を解除して通常のリリース状態に移行しても構わない。このような場合に、アクセルリリース待機状態を継続すると、ブレーキの引き摺りが発生し、車両発進後にブレーキの引き摺りによる異音や振動、ブレーキの過熱を招く恐れがある。したがって、的確にエンストロック不要確定状態であることを判定し、より早期にアクセルリリース待機状態を解除することが望ましい。
【0101】
具体的には、ステップ620aにて、エンストロック不要確定状態となる条件を満たしたか否かを判定する。
【0102】
まず、エンストロック不要確定状態となる第1条件として、車速が規定速度閾値を上回った状態が所定の時間閾値以上継続したことを条件としている。この第1条件は、路面の勾配(傾斜)に応じて設定される。勾配が大きいと、車両が走り出したとしても車速が大きくなければエンストする可能性がある。このため、路面の勾配が大きいほど、規定車速閾値と時間閾値の少なくとも一方が大きくなるようにしている。
【0103】
ここでは、車速が規定速度閾値を上回った状態が所定の時間閾値以上継続したことを表す指標としてエンスト不要確定時間を設定している。そして、上記したアクセルリリース待機状態開始後時間のカウント値(
図10のステップ430s参照)がエンスト不要確定時間を超えたことをエンストロック不要確定状態となる第1条件としている。
【0104】
図15は、エンスト不要確定時間の設定に用いるマップである。この図に示されるように、路面の勾配と車速との関係からエンスト不要確定時間が選択できるようになっている。具体的には、エンスト不要確定時間は、車速が一定である場合には勾配が大きいほど長く設定され、逆に車速が大きいほど短くなるように設定される。すなわち、走行する路面が平坦路に近いほどもしくは車速が大きいほどエンストする可能性が低く、逆に路面の勾配が大きいほどもしくは車速が小さいほどエンストする可能性が高い。このため、路面の勾配や車速に応じてエンスト不要確定時間が設定されるようにしている。制御周期毎に検出される路面の勾配や車速が変化する可能性があるが、本実施形態の場合には、その都度エンスト不要確定時間を更新している。
【0105】
また、本実施形態では、エンストロック不要確定状態となる条件として、第1条件の他の条件も設定してある。以下に示す第1条件以外の条件については、必須条件ではないが、エンストロック不要確定状態を判定する上で、より正確に判定が行えるようにするために条件として採用している。
【0106】
具体的には、第2条件として、エンジントルクが目標エンジントルクを超えていること、エンジン回転数が目標エンジン回転数を超えていること、および、クラッチ操作量に相当するクラッチストロークが目標操作量に相当する目標クラッチストロークを超えていること、の各条件を満たしているか否かを判定している。エンジンECU28で取り扱われているエンジントルクもしくはエンジン回転数に関するデータを入力することによって取得している。また、クラッチストロークについてもペダルストロークセンサ26の検出信号に基づいて取得している。目標エンジントルクや目標エンジン回転数および目標クラッチストロークは、予め実験などに基づいて設定されている。
【0107】
これらの条件を満たしている場合には、ドライバの発進意思がある場合、つまりドライバが車両を発進させたいと考えている程度に適切にアクセルペダルを踏み込んでいるしクラッチペダル操作を行っている場合と想定される。したがって、これらの第2条件もエンストロック不要確定状態となる条件としており、第1条件と第2条件を両方ともに満たしているかを判定するようにしている。これにより、よりドライバの発進意思を考慮してエンストロック不要確定状態であるか否かが判定できる。なお、第2条件として説明した各条件については、ノイズ的に条件を満たす可能性もあるため、このような場合を排除すべく、それぞれの信号のノイズ的変化を排除するようなエンジントルク判定時間、エンジン回転数判定時間、クラッチストローク判定時間、引き摺り判定時間および傾斜判定時間を設定し、それぞれの判定時間を満たした場合にのみ、それぞれの条件を満たしたと判定するようにすると好ましい。なお、エンジントルクとエンジン回転数はどちらか一方のみを見るようにしても良い。
【0108】
上記した第1、第2条件を満たした場合に、エンストロック不要確定状態と判定できるが、既にブレーキの引き摺りが発生しているような場合も考えられる。このような場合にも、アクセルリリース待機状態を解除する方が良い。このため、ブレーキ引き摺り発生状態となる条件として、エンジントルクが目標エンジントルクを超えていて、かつ、クラッチストロークが目標クラッチストロークを超えている状況なのに車速が引き摺り発生車速しきい値未満の状態が引き摺り判定時間以上継続している場合であるか否かを判定している。すなわち、ドライバが車両を発進させたいと考えている程度に適切にアクセルペダルを踏み込んでいるしクラッチペダル操作を行っているのに車速が上がらない場合には、ブレーキ引き摺り発生状態であると考えられる。このため、本条件を満たす場合には、ブレーキ引き摺り発生状態であるとして、第1、第2条件を満たしていなかったとしてもアクセルリリース待機状態が解除されるようにすることで、ブレーキの引き摺りを抑制する。
【0109】
ただし、エンストロック不要確定状態の判定条件やブレーキ引き摺り発生状態の判定条件を満たすか否かにかかわらず、アクセルリリース待機状態を継続する方が好ましい場合もある。例えば、ESC−ECU8がアクチュエータ7に備えられた各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御してトラクション制御(TRC(登録商標))や横滑り防止制御(ESC)を作動している場合、車両状態が安定していないため、エンストに陥ったとき車両が不安定状態になる可能性が高い。また、車両が旋回状態のときにエンストに陥ったときも車両が不安定状態になり兼ねない。これらの場合には、アクセルリリース待機状態を継続する方が良い。これにより、エンストになる可能性が高いのにエンストロック不要確定状態であると判定してしまうことを抑制できると共にエンスト発生時には速やかに制動力が発生して車両が停止し、不安定状態になることを抑制することができる。
【0110】
このため、ステップ620aでは、さらにTRC作動中やESC作動中ではないこと、さらには横加速度センサ27の検出信号に基づいて検出される横加速度GYの絶対値が旋回中ではないと想定される閾値(例えば0.2G)以下であることについても判定している。そして、上記したエンストロック不要確定状態の判定条件やブレーキ引き摺り発生状態の判定条件を満たしつつ、TRC作動中やESC作動中ではなく、かつ、旋回中ではない場合にのみ、エンストロック不要確定判定において肯定判定されるようにしている。
【0111】
この後、ステップ620bに進み、アクセルリリース待機状態開始後時間のカウントをリセットする。そして、ステップ620cに進み、例えばエンストロック不要確定状態フラグをオンすることでエンストロック不要確定状態であることを示し、エンストロック不要確定判定処理を終了する。
【0112】
このようにしてエンストロック不要確定判定処理が終了すると、
図9のステップ630に進み、エンストロック不要確定状態であるか否かを判定する。ここで、エンストロック不要確定状態フラグがオンされていればEPB待機解除リリース制御を実行する必要があるため、肯定判定されてステップ640に進んでEPB待機解除リリース制御を実行し、否定判定されればそのまま処理を終了する。そして、ステップ650でEPB状態がリリース状態と判定されるまでEPB待機解除リリース制御が繰り返された後、EPB状態がリリース状態になると、ステップ660に進んでエンストロック不要確定状態をオフに切替えたのち、待機解除リリース制御判定を終了する。
【0113】
図16は、EPB待機解除リリース制御の詳細を示したフローチャートである。本処理では、エンストすることなく正常に車両が発進できたことから、EPB2の待機位置をエンスト時ロック制御のための待機位置からリリース位置に戻す制御を行う。
【0114】
まず、ステップ640aでは、モータ駆動をオンする。つまり車輪をリリース状態にする方向にモータ10を逆回転させる。このモータ10の逆回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12に対する離間方向に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12から離間させられる。
【0115】
続いてステップ640bに進み、待機解除リリース制御継続時間が待機解除リリース制御目標時間を超えたか否かを判定する。待機解除リリース制御継続時間とは、待機解除リリース制御が開始されてからの経過時間である。例えばステップ640aでモータ駆動がオンされると、後述するステップ640cで図示しない待機解除リリース制御継続時間カウンタをカウントアップし始める。当該カウンタが待機時間リリース制御目標時間に相当するカウント数になったことに基づいて、待機解除リリース制御目標時間以上になったとしている。また、待機解除リリース制御目標時間とは、推進軸18を上記したエンスト時ロック制御処理での待機位置からリリース位置、つまり
図3(a)に示したように推進軸18の先端とピストン19の底部との間がクリアランスaに保たれた待機位置となるのに掛かると想定される時間である。この待機解除リリース制御目標時間は、モータ10の回転数に応じた推進軸18の移動量などに基づいて設定される。
【0116】
そして、ステップ640bで肯定判定されるまではステップ640cに進み、待機解除リリース制御継続時間カウンタのカウントアップを行う。その後、ステップ640dに進み、例えば待機解除リリース制御中フラグをセットするなどによってEPB状態が待機解除リリース制御中であることを示して処理を終了し、ステップ640c、640dの処理が繰り返されるようにする。一方、ステップ640bで肯定判定されるとステップ640eに進んでモータ駆動をオフしたのち、ステップ640fに進み、例えばリリース制御中フラグをリセットすると共にリリース状態フラグをセットするなどによってEPB状態がリリース状態であることを示す。このようにして、待機解除リリース制御判定処理が完了する。
【0117】
以上のようにして、EPB制御処理が終了する。
図17は、上記のようなEPB制御処理を実行した場合のタイミングチャートであり、坂路においてエンストが発生した場合のタイミングチャートである。
【0118】
この図に示すように、時点T1以前は停車前の状態を示しており、リリース状態であって、他の状態にはなっていない。この状態で車両が停止し、坂路において操作SW23が操作されるなどによってロック制御が開始されると、時点T1からロック制御中となる。そして、モータ電流がモニタされ、突入電流が発生した後、時点T2においての電流モニタ値が目標ロック電流値になるとロック制御が完了し、ロック状態となる。
【0119】
そして、時点T3において、ドライバが車両を発進させようとすると、それと同時にアクセルリリース制御が実行される。そして、モータ電流の電流モニタ値を確認し、突入電流が発生した後、時点T4において無負荷状態が判定されて無負荷判定がオンになると、待機移動時間カウンタが待機移動時間しきい値に達するまでモータ駆動を続けたのち、モータ駆動を停止し、アクセルリリース待機状態となる。具体的には、
図18(a)に示すように、通常のリリース状態にする場合には、無負荷状態になってから推進軸18の先端とピストン19の底部との間がクリアランスaとなるまでモータ駆動が行われるが、本実施形態の場合には無負荷状態になってから短時間でモータ駆動が停止されることになる。
【0120】
この状態で時点T5においてエンストが発生すると、エンスト時ロック制御判定をオンする。これにより、エンジンロック制御が開始される。このとき、予めアクセルリリース待機状態となっており、EPB2の待機位置が第1待機位置もしくは第2待機位置とされていることから、エンスト時ロック制御が開始されて直ぐから駐車ブレーキ力を発生させることが可能となる。すなわち、
図18(b)に示すように、通常のリリース状態であれば、クリアランスaに応じた時間だけ無負荷状態を経てからブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧されてモータ電流が上昇することになるが、本実施形態の場合には短時間でモータ電流が上昇し始めることになる。このように、より早くから駐車ブレーキ力を発生させられるため、車両のずり下がりをより抑制することが可能となる。そして、時点T6において、モータ電流の電流モニタ値が最大目標ロック電流値になるとエンスト時ロック制御が完了し、再びロック状態になる。
【0121】
図19および
図20は、坂路においてエンストが発生することなく正常に車両を発進させられた場合のタイミングチャートを示してあり、
図19は、勾配が一定で車速が変化する場合、
図20は、車速が一定で勾配が変化する場合を示している。
【0122】
図19および
図20に示すように、時点T1〜T2において、
図17の時点T3〜T4と同様にアクセルリリース制御が実行され、アクセルリリース待機状態になる。このときに、エンスト時ロック制御判定がオンされていなければエンストロック不要確定判定処理が実行され、上記した
図15に示したマップに基づいてエンスト不要確定時間が設定される。そして、時点T3においてアクセルリリース待機状態開始後時間がエンスト不要確定時間(例えば、5s(=勾配20%で車速5km/h、もしくは、勾配10%で車速5km/hのときの時間))に達すると、その時点でエンストロック不要確定状態がオンになり、待機解除リリース制御が許可される。これにより、時点T4より待機状態リリース制御が実行され、時点T5においてアクセルリリース待機状態が解除されると共にリリース状態となる。
【0123】
なお、
図19では路面の勾配が一定(ここでは20%)で車速が変化しており、
図20では車速が一定(ここでは5km/h)で路面の勾配が変化しているため、制御周期毎にエンスト不要確定時間が更新されることになる。このため、アクセルリリース待機状態開始後時間が更新後のエンスト不要確定時間に達したときに、待機状態リリース制御が実行されることになる。
【0124】
このように、本実施形態の電動駐車ブレーキ制御装置では、坂路で停車したときに、推進軸18の待機位置がリリース位置よりもロック位置側、つまりブレーキパッド11をブレーキディスク12により短時間で押し付けられる第1、第2待機位置となるようにしている。これにより、エンスト時により早く駐車ブレーキ力を発生させられるようにEPB2の応答性を高めることが可能となり、車両のずり下がりを抑制することが可能となる。
【0125】
そして、このように車両のずり下がりを抑制するためにEPB2の応答性を高くした場合において、エンストロック不要確定状態であることを的確に判定し、エンストロック不要確定状態になったときに速やかに待機状態リリース制御が実行されるようにしている。このため、エンスト時ロック制御が不要であることが確定して直ぐにブレーキディスク12とブレーキパッド11との間のクリアランスを通常リリースのときに戻すことが可能となる。したがって、発進時におけるブレーキの引き摺りを抑制することが可能となり、ブレーキの引き摺りによる異音や振動、ブレーキの過熱を抑制できる。
【0126】
また、停車中の路面の傾斜に応じて、第1、第2待機位置を選択できるようにすることで、ブレーキの引き摺り感やブレーキ鳴きがあっても更に早く駐車ブレーキ力を発生させるべき状況であるか否かに応じた待機位置に設定できる。
【0127】
なお、上記説明では、EPB状態がロック状態になった後にアクセルリリース制御を実行する場合について説明したが、坂路で車両が停止したときに、ロック状態の前のロック制御中に車両が再発進しようとしたときにも、アクセルリリース制御を実行することができる。したがって、
図7のステップ410に示したように、EPB状態がロック状態ではなくロック制御中の場合にも、アクセルリリース制御を実行させるようにすると好ましい。また、リリース位置にいるときの発進時に、電動アクチュエータを作動させ、待機位置に移行するようにしても良い。
【0128】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、
図2に示されるようにEPB2としてサービスブレーキ1とEPB2のブレーキ機構が一体化されたものを利用する場合について説明した。しかしながら、これは単なる一例を示したに過ぎず、サービスブレーキ1とEPB2とが完全に分離されたブレーキ構成であっても、本発明を適用することができる。
【0129】
また、上記各実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPB2を例に挙げたが、他のタイプ、例えばドラムブレーキタイプのものであっても構わない。その場合、摩擦材と被摩擦材は、それぞれブレーキシューとドラムとなる。
【0130】
また、上記実施形態では路面の傾斜に応じた待機位置の設定として、第1、第2待機位置が選択できるようにしたが、路面の傾斜に応じて、路面の傾斜と待機移動時間しきい値との関係を示すマップから待機移動時間しきい値を選択するなどにより待機位置を決めるようにしても良い。
【0131】
また、上記各実施形態では、車両の発進不能時に発進不能時ロック制御を行っているが、発進不能時ロック制御を行わない実施形態であっても良い。この場合でも、エンスト等により発進不能となったときにドライバのEPB操作やサービスブレーキの制動操作がなされると、アクセルリリース制御によって待機位置とされることにより、車両の後退量を抑制することができると共に、不要確定状態を判定して速やかにクリアランスを通常のリリースのときに戻すことで、ブレーキの引き摺りを防止することができる。
【0132】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU9のうち、ステップ200の処理を実行する部分がロック制御手段、ステップ300の処理を実行する部分がリリース制御手段、ステップ400の処理を実行する部分がアクセルリリース制御判定手段、ステップ530の処理を実行する部分が発進状態判定手段、ステップ550の処理を実行する部分が発進不能時ロック制御手段、ステップ620の処理を実行する部分が不要確定判定手段、ステップ640の処理を実行する部分が待機解除リリース制御手段に相当する。