【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
(アデニン要求性酵母の取得)
変異型MET30遺伝子を保有するサッカロミセス・セレビシエ1倍体AJ14819株(MATα型
))とサッカロミセス・セレビシエ1倍体AJ14810株(MATa型)を接合させることにより、サッカロミセス・セレビシエ2倍体株を取得した。AJ14819株はセレン酸感受性株であり、2003年10月1日にブダペスト条約に基づき独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国、305-8566 茨城県つくば市東1丁目1-1つくばセンター 中央第6)にFERM BP-8502の受託番号で寄託されている。AJ14180株は、2002年11月1日にブダペスト条約に基づき、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM BP-8229の受託番号で寄託されている。
同2倍体株を胞子形成させ、4分子解析することにより以下の性質を有する菌株を取得した。
A:MATa型1倍体、変異型MET30遺伝子
B:MATα型1倍体、変異型MET30遺伝子
C:MATa型1倍体、野生型MET30遺伝子
D:MATα型1倍体、野生型MET30遺伝子
【0038】
次に、取得した4菌株のMET25遺伝子の発現量を比較した。特開2004-201677実施例1記載の方法に基づき、これら4株のMET25遺伝子発現量を以下のようにして測定した。菌株を各々YPD培地に植菌し(坂口フラスコ500ml容、50ml張り込み)、30℃で振とう培養した。その対数増殖期に集菌し、菌体内に含まれているRNAを回収し、MET25遺伝子の発現を内部標準としてACT1遺伝子を用いて定量した。定量は、PCR5700(Applied Biosystems社)を用い、TaqMan One-Step RT-PCRキット(Applied Biosystems社)を用いて行なった。TaqMan Probe(Applied Biosystems社)に、特開2004-201677実施例1記載のACT1-986T及びMET25-1077Tを、ACT1遺伝子の増幅用に特開2004-201677実施例1記載のACT1-963FとACT1-1039Rを、そして、MET25遺伝子の増幅用にMET25-1056FとMET25-1134Rをプライマーとして用いた。その結果、変異型MET30遺伝子およびセレン酸感受性を有するA株及びB株のMET25遺伝子の発現量は、変異型MET30遺伝子を有しないC株及びD株よりも高いことを確認した。B株にプライベート番号AJ14889及びA株にプライベート番号AJ14890を付した。
【0039】
次に、常法に従いAJ14889株を変異剤MNNG(1-methyl-3-nitro-1-nitrosoguanidine)で生存率5〜10%になる条件で処理した後、YPDプレートにスプレッドし30℃で約1週間培養した。出現したコロニーの中から赤色に発色する菌株を選択した。次に、得られた菌株につき、常法に従い、アデニン要求性の相補テストを行った。その結果、ADE1遺伝子変異によるアデニン要求性酵母N1株及びADE2遺伝子変異によるアデニンリーキー変異酵母N2株を取得した。(N1株およびN2株は、2008年12月23日、ブダペスト条約に基づきRussian
National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 モスクワ 117545, ロシア)にそれぞれVKPM Y-3218、VKPM Y-3219で国際寄託されている。)
【0040】
<実施例2>
(強い赤色発色を指標とした高GSH蓄積変異体のスクリーニング)
次に、常法に基づきADE1遺伝子に変異を有するY-3218株を変異剤MNNGで生存率5〜10%になる条件で処理した後、PGC又はYPDプレートにスプレッドし30℃で約1週間培養した。出現したコロニーの中から、Y-3218株よりもより赤く発色する菌株を選択し、GSH含量をAJ14889株(親株)およびY-3218株と比較した。選択した株、AJ14889株およびY-3218株をそれぞれ5mlのYPD液体培地に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。50mlのYPD液体培地にそれぞれの株の得られた培養物を植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。それぞれの株のGSH含有量を承保に従って測定した結果、AJ14889株に比べY-3218株のGSH含量は高かった(表1)。選択した株(計180株)のうち7株がY-3218株よりGSH含量が高いことがわかった(表1)。
【0041】
【表1】
【0042】
ADE2遺伝子変異株Y-3219株を用いて同様の検討を行った。常法に基づきY-3219株を変異剤MNNGで生存率5〜10%になる条件で処理した後、PGC又はYPDプレートにスプレッドし30℃で約1週間培養した。出現したコロニーの中から、別途スポットしていたY-3219株よりもより赤く発色する菌株を選択し、GSH含量をAJ14889株(親株)およびY-3219株と比較した。YPD寒天培地よりコロニーをストリークし、選択した株、AJ14889株およびY-3218株をそれぞれ5mlのYPD液体培地に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。50mlのYPD液体培地にそれぞれの株の得られた培養物を植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。それぞれの株のGSH含有量を承保に従って測定した結果、AJ14889株よりもY-3219株のGSH含量が高いことがわかった。選択した株(計118株)のうち10株がY-3218株よりGSH含量が高いことがわかった(表2)。
【0043】
【表2】
【0044】
表1、表2に示すようにアデニン要求性による酵母の赤色の発色を指標としてGSH含量
が向上した酵母を単離することが可能であった。
【0045】
<実施例3>
(GSH高含量の白色コロニーの単離)
野生型の酵母は赤色ではなく、白色〜クリーム色である。そこで、発明者らは赤色の発色度合いを指標にスクリーニングした酵母から通常の色のコロニーを形成する株の取得を検討した。まず、実施例2と同様にY-3219株をMNNGで変異処理し、PGC培地またはYPD培地に播いてより赤色の強い株を得た。その結果、実施例2と同様に表3のY-3219-20株が得られた。次に、Y-3219-20株をMNNGで、生存率5〜10%になるように変異処理を行い、PGCプレートにスプレッドし、30℃で約1週間培養した。出現したコロニーの中から、3つの白コロニー(Y-3219-20-52、Y-3219-20-53、Y-3219-20-56)と1つの赤コロニー(Y-3219-20-1)を選抜し、それらのGSH含量を測定し、Y-3219株、Y-3219-20株と比較した。すなわち、得られた株と、Y-3219株及びY-3219-20株を5mLのYPD液体培地に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。次に、50mlのYPD液体培地にそれぞれの株の得られた培養物を植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。それぞれの菌体内のGSH量を常法に従って測定した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
白色の菌株を試験株を用いて遺伝解析した。その結果、GSH含量が減少したY-3219-20-52株ではアデニン要求性を失っていた。一方、高いGSH含量を維持したY-3219-20-56株では、ADE2遺伝子変異に加えて、ADE4遺伝子も変異していた。Y-3219-20-53株では、ADE2遺伝子変異に加えて、ADE8遺伝子も変異していた。この結果より、赤色コロニーを形成するアデニン要求性の株はADE4遺伝子またはADE8遺伝子が変異することで、通常の白色コロニーを形成する株になり得ることがわかった。
Y-3219-20-56株は、2008年12月23日、ブダペスト条約に基づきRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 モスクワ 117545, ロシア)にVKPM Y-3256で国際寄託されている。
【0048】
<実施例4>
(アデニン不充足による高GSH蓄積)
アデニン充足度合いとGSH含量との関係について検討した。Y-3256株を500ml容坂口フラスコ中の50mlのYPD培地(D-glucose 20g/L、Bact Peptone 20g/L、Yeast Extract 10g/L)で30℃、120rpmで24時間振とう培養し、得られた培養物を、500ml容坂口フラスコ中の異なる濃度のアデニン(最終アデニン濃度0mg/L、10mg/Lまたは20 mg/L)を加えた50mlのYPD培地に、初期吸光度660nm=0.1になるように植菌し、30℃、120rpmで振とう培養した。その結果、GSH量経時変化は表4の通りであった。
【0049】
【表4】
【0050】
これらの結果から、アデニン要求性Y-3256株のGSH含量は培地中のアデニン量に反比例していることが明らかとなった。なお、YPD培地には微量のアデニンが含まれているため、アデニン添加量なし(Ade 0mg/L)の場合でもY-3256株は生育可能である(YPD培地のアデニン含量は約10mg/Lであった)。
【0051】
(Jar Fermentor評価)
Y-3256株をJar Fermentorで培養し、GSH含量の経時変化を評価した。YPD寒天培地より菌株細胞を拾い、50mlのYPD培地を含む750ml容三角フラスコ3つに植菌し、30℃、250rpmで20時間振とう培養した。得られたシード培養液(120ml)を3L容Jar-Fermentor中の1.2Lのメイン培地(YPD培地)に植菌し、30℃、攪拌速度1,100rpmで培養した。この時の通気量は1/1vvmに設定し、pHはアンモニア水により6.0に制御した。培養0hr〜24hrの間は1.5ml/hrの速度で、24hr以降は1.8ml/hrの速度で流加培地を連続フィードした。なお、このとき使用した流加培地の組成は、1LあたりGlucose600g、Bacto-yeast extract 10g、corn
extract 10g、Bacto-peptone 10g、(NH
4)
2SO
4 0.274g、KH2PO4 0.11g、KCl 0.732g、MgSO
4 0.466g、CuSO
40.0012g、ZnSO
4 0.014g、MnSO
4 0.00334g、NaMoO
40.00012g、KCl 0.002g、H
3BO
30.00004g、CoSO
4 0.0001g、CaCl
2 0.28g、FeSO
4 0.2g、Biotine 0.05mg、riboflavin 0.2mg、thiamine 0.5mgである。
この時のY-3256株のGSH含量変化は
図1の通りであった。
【0052】
<実施例6>
(2倍体株の取得及び培地組成の検討)
常法に基づき、Y-3219-20-53株の自己2倍体化を試みた。実験の条件は以下のとおりである。Y-3219-20-53株を常法により、生存率5〜10%になるような条件で変異剤MNNGで処理し、YPD寒天培地に100〜200個のコロニーが出現するようにスプレッドした。30℃で5日間培養後、アデニンを添加したSD寒天培地及びYPD寒天培地にレプリカした。YPD寒天培地では生育可能であるが、アデニンを添加したSD寒天培地では生育できない菌株を選抜した。アデニン以外の栄養要求性を調べ、栄養要求性が異なるY-3219-20-53-aux1株及びY-3219-20-53-aux2株を取得した。Y-3219-20-53-aux1株をアデニンを添加したSD寒天培地に縦方向の直線になるようにストリークし、Y-3219-20-53-aux2株を同じアデニンを添加したSD寒天培地に横方向の直線になるようにストリークした。但し、この時縦方向の直線と横方向の直線が1点で交差するように行った。このアデニンを添加したSD寒天培地を30℃で20日間培養し、交差点に出現するコロニーを選択した。この様にしてアデニン要求性の2倍体株であるD1-3株を取得した。本菌株は、2008年12月23日、ブダペスト条約に基づきRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 モスクワ 117545, ロシア)にVKPM Y-3309で国際寄託されている。なお、D1-3株をアデニンを添加したSD寒天培地にストリークし、30℃で2日間培養したところ、コロニーが出現したことから、D1-3株はアデニン以外の栄養要求性が付与されていないことが確認できた。
また、アデニン非要求性の対象区として、AJ14889株とAJ14890株を接合させることによ
り2倍体Dip株を取得した。
D1-3株及びDip株を、5mlのYPD液体培地を入れた試験管に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。得られた培養物を、表5に示す組成の各培地50mlに植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。各菌体内のGSH含量を測定した。その結果は表6に示すとおりである。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
このようにいずれの培地においてもアデニン要求性によってGSH含量が増加していた。
【0056】
<実施例7>
(アデニン要求性のγ−グルタミルシステイン高含有酵母の育種及びγ−グルタミルシステイン含量向上効果の評価)
実施例3にて取得したY-3256株のグルタチオン合成酵素をコードするGSH2遺伝子を破壊することによりγ−グルタミルシステインを蓄積する1倍体株を取得した。GSH2遺伝子破壊カセットを構築するために、プライマー17〜22を用い、S. cerevisiae(野生株)のゲノムDNAおよびプラスミドpFA6a-KanMX6(Chiara et al., Yeast 2000, 16:1089-1097)を鋳型にしてPCRを行った(
図2)。詳細な条件は以下のとおりである。
【0057】
まず、GSH2のORFから約400bp上流の領域をX2180-1B(S. cerevisiae 野生型株:ATCCにて受託番号ATCC204505で入手可能)のゲノムDNAを鋳型に、GSH2-up-Fプライマー(配列番号17)およびGSH2-up-Rプライマー(配列番号18)を用いて増幅し、GSH2上流フラグメントを得た。GSH2上流フラグメントは、GSH2-up-FプライマーおよびGSH2-up-Rプライマーの配列に基づき、その一方の末端側にBpiI制限部位を有し、もう一方の末端側に後述するフュージョンPCR用のcon1部位を有する。
また、GSH2のORFから約300bp下流の領域をX2180-1BのゲノムDNAを鋳型に、GSH2-down-Fプライマー(配列番号19)およびGSH2-down-Rプライマー(配列番号20)を用いて増幅しGSH2下流フラグメントを得た。GSH2下流フラグメントは、GSH2-down-FプライマーおよびGSH2-down-Rプライマーの配列に基づき、その一方の末端側にBpiI制限部位を有し、もう一方の末端側にフュージョンPCR用のcon2部位を有する。
KanMX遺伝子をpFA6a-KanMX6プラスミドを鋳型に、マーカーFプライマー(配列番号21
)とマーカーRプライマー(配列番号22)を用いてPCR増幅した。このPCRで増幅されたKanMX遺伝子は、マーカーFプライマーおよびマーカーRプライマーの配列に基づき、その一方の末端側にcon1部位を有し、もう一方の末端側にcon2部位を有する。
これらのPCRの条件は次のとおりである。DNAポリメラーゼの混合物(Pfu:Taq=1:10;Fermentas, Lithuaniaより入手可能)をそれぞれの反応に用いた。PCRは94℃30秒、50℃30秒、68℃3分のサイクルを30回繰り返した。
【0058】
得られた3フラグメントをフュージョンPCRで結合させてGSH破壊カセットを構築した。GSH2上流フラグメントとKanMX遺伝子フラグメントを鋳型に用い、GSH2-up-FプライマーとマーカーRプライマーを用いてフュージョンPCRを行った。GSH2上流フラグメントとKanMX遺伝子フラグメントはいずれも末端にcon1部位を有するため、フュージョンPCRを行うことにより、これらが連結されたGSH2上流-KanMXフラグメントが得られる。このフュージョンPCRは前記と同様のDNAポリメラーゼの混合物を用いた。PCRは、94℃30秒、61℃30秒、68℃4.5分のサイクルを5回、次いで94℃30秒、50℃30秒、68℃4.5分のサイクルを25回繰り返した。
次に、GSH2上流-KanMXフラグメントとGSH2下流フラグメントを鋳型に用い、GSH2-up-FプライマーとGSH2-down-Rプライマーを用いてフュージョンPCRを行った。GSH2上流-KanMXフラグメントとGSH2下流フラグメントはいずれも末端にcon2部位を有するため、GSH2上流-KanMXフラグメントとGSH2下流フラグメントが連結され、GSH2破壊カセットが得られる。このフュージョンPCRは前記と同様のDNAポリメラーゼの混合物を用いた。PCRは、94℃30秒、61℃30秒、68℃5.3分のサイクルを5回、次いで94℃30秒、50℃30秒、68℃5.3分のサイクルを25回繰り返した。
【0059】
プライマーの配列は以下のとおりである。
(1) GSH2-up-F, CCGAAGACCTTCGTTTGGTGTTATGGT (配列番号17)
(2) GSH2-up-R, GAGAGGGGGGGGGTGGGGGGAAGGTGGATAGTGTGCC (配列番号18)
(3) GSH2-down-F, CCTCCTCCCCCCGCCCACGGCAGGATTCGGATGTTTG (配列番号19)
(4) GSH2-down-R, CGAAGACTCAGTACGAGCATTACGCAA (配列番号20)
(5) Marker-F, 5’-CCCCACCCCCCCCCTCTCTACCGTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATACTGGATGGCGGCGTTAG-3’ (配列番号21)
(6) Marker-R, 5’-GTGGGCGGGGGGAGGAGGTACCGTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATGTTTAGCTTGCCTCGTCC-3’ (配列番号22)
【0060】
GSH2破壊カセットを用いてY-3256株を形質転換し相同組み換えを起こさせた、得られた形質転換体をG418(50μg/ml)を含有するYPD寒天培地にスプレッドした。出現したコロニーから、GSH2遺伝子が破壊された菌株であるN8△GSH2株を取得した。
同菌株を500ml容坂口フラスコ中の50mlのYPD培地(D-glucose 20g/L、Bact Peptone 20g/L、Yeast Extract 10g/L)に植菌し、30℃、120rpmで24時間振とう培養後、得られた培養物を、異なる濃度のアデニン(最終アデニン濃度0mg/L、10mg/L、20mg/L)を添加した500ml容坂口フラスコ中のYPD培地50mlに初期吸光度660nm=0.1になるように植菌し、30℃、120rpmで振とう培養した。γ−グルタミルシステイン濃度を常法に従い測定した。表7にγ−グルタミルシステインの経時変化を示す。γ−グルタミルシステイン濃度はアデニン要求性の付与により高められ得ることがわかった。
【0061】
【表7】
【0062】
<実施例8>
(擬似的なアデニン要求性条件を作り出す培地での評価)
常法に従い、AJ14889株を変異剤MNNGで生存率が約10%になる条件で処理した後、表8に記載の成分および150mg/Lのメチオニンを含むmin-met(+)-biotin(-)プレートに、1プレートあたりのコロニー数が350個以下になるようにスプレッドした。30℃で8〜10日間培養した後、30枚のプレートに出現したコロニーの中から、薄いピンク色から赤色に発色しているコロニーを106株ピックアップした。
次に、AJ14889株(親株)及び選抜した菌株を各々YPD培地に植菌し菌体内のGSH含量を測定した。具体的には、YPD培地で培養した選抜した菌株とAJ14889株をそれぞれ、5mlのYPD液体培地を入れた試験管に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。そして、750ml容の三角フラスコに50mlのYPD培地を入れたメイン培地に前培養液を、600nmでの吸光度が0.1になるように植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間及び48時間培養した。その結果、選択された106株中8株は、24hr時又は48hr時にAJ14889株よりもGSH含量が上回っていた(表9)。選択した108株中8株がGSH含量が向上した菌株であったことから、本方法は非常に効率的なスクリーニング方法であることが示された。
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
次に、上記8株より選択した89-6株、89-28株、89-31株について、生育とGSH含量をAJ14889株と比較した。これらの株は、600nmでの吸光度が0.3となるように植菌したことを除いては、前述のように培養した。生育は乾燥菌体重量(DCW)の変化に基づいて測定した。表10に示すように、選択した3株は、24hr時及び48hr時において生育が親株とほぼ同等で、GSH含量は親株を上回っていた。
【0066】
【表10】
【0067】
また、この3株に予期しない栄養要求性が付与されていないか検証するために、AJ14889株及びこの3株をSD培地に植菌し、その生育の有無を調べた。具体的には、YPD寒天培地で培養しておいた菌株を、5mlのSD培地を入れた試験管に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で、それぞれ24時間および48時間培養した。その結果、選択した3株はSD培地でAJ14889株とほぼ同等の生育を示し(表11)、これら3株に予期しない栄養要求性は付与されていないことが示された。
【0068】
【表11】