(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のドライブトレインの軸に接続されたモータで前記車両のエンジンを模したトルクを発生させるドライブトレイン試験システムにおいて、前記モータを駆動するためのモータ発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成装置であって、
前記モータの回転数に応じて前記モータ発生トルク指令信号の値に対する制限値を算出する制限値算出手段と、
直流信号を生成する直流信号生成手段と、
交流信号を生成する交流信号生成手段と、
前記直流信号と前記交流信号と合成しモータ発生トルク指令信号を生成する合成手段と、を備え、
前記交流信号生成手段は、前記直流信号の値と所定の基本振幅との和から前記制限値を減算することにより余剰振幅を算出する余剰振幅算出手段と、前記基本振幅から前記余剰振幅を減算して得られる振幅の交流信号を生成する発信手段と、を備え、前記余剰振幅算出手段及び前記発信手段を用いることによって前記モータ発生トルク指令信号の値が前記制限値を超えないような振幅の交流信号を生成すること特徴とするトルク指令生成装置。
車両のドライブトレインの軸に接続されたモータで前記車両のエンジンを模したトルクを発生させるドライブトレイン試験システムにおいて、前記モータを駆動するためのモータ発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成装置であって、
前記モータの回転数に応じて前記モータ発生トルク指令信号の値に対する制限値を算出する制限値算出手段と、
直流信号を生成する直流信号生成手段と、
交流信号を生成する交流信号生成手段と、
前記直流信号と前記交流信号と合成しモータ発生トルク指令信号を生成する合成手段と、を備え、
前記交流信号生成手段は、基本交流信号を生成する基本信号生成手段と、前記基本交流信号の値に所定の振幅減衰係数を乗算することにより交流信号を生成する乗算手段と、前記モータ発生トルク指令信号の最大値と前記制限値との偏差がなくなるように前記振幅減衰係数を決定する余剰振幅制限手段と、を備え、前記基本信号生成手段、前記乗算手段、及び前記余剰振幅制限手段を用いることによって前記モータ発生トルク指令信号の値が前記制限値を超えないような振幅の交流信号を生成すること特徴とするトルク指令生成装置。
車両のドライブトレインの軸に接続されたモータで前記車両のエンジンを模したトルクを発生させるドライブトレイン試験システムにおいて、前記モータを駆動するためのモータ発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成装置であって、
前記モータの回転数に応じて前記モータ発生トルク指令信号に対する正及び負のトルク制限基本値を算出する基本値算出手段と、
前記正及び負のトルク制限基本値を補正し正及び負のトルク制限値を算出する補正手段と、
直流成分及び交流成分を含む基本信号から前記正のトルク制限値より大きな値及び前記負のトルク制限値より小さな値を切り捨てることによって発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成手段と、を備え、
前記補正手段は、前記基本信号に前記正及び負の何れか一方の符号のトルク制限基本値に対して余剰が生じた場合には、他方の符号のトルク制限基本値を絶対値が小さくなる方へ補正することを特徴とするトルク指令生成装置。
前記補正手段は、前記基本信号に前記正及び負の何れか一方の符号のトルク制限値に対して余剰が生じた場合には、前記基本信号の直流成分の値と前記基本信号の一方の符号側の極値との和から一方の符号のトルク制限基本値を減算して得られる値を他方の符号のトルク制限基本値に加算することによって、当該他方の符号のトルク制限基本値を補正することを特徴とする請求項5に記載のトルク指令生成装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでモータを直接的に駆動するモータ駆動装置は、実際に用いられるモータ固有の発熱特性や機械的強度等を考慮して、特定の許容範囲内で運転している。これは、トルク指令生成装置から送信されたモータ発生トルク指令信号の値が、例えば上記許容範囲を超えるようなものであった場合には、モータ発生指令信号から許容範囲を超える余剰分を強制的に切り捨てることによって実現される。試験システムに用いられるモータ駆動装置の多くは、モータやシステムを構成する装置を保護するためにこのようなトルクリミット機能が実装されている。
図13を参照して、トルクリミット機能によって生じ得る弊害について詳細に説明する。
【0006】
図13は、トルク指令生成装置からモータ駆動装置へ入力されるモータ発生トルク指令信号の具体的な例を示す図である。
図13において、細実線はトルク指令生成装置において生成されるモータ発生トルク指令信号の時間変化を示す。このモータ発生トルク指令信号は、より具体的には、500[Nm]の直流信号と、1000[Nm]の加振振幅及び10[Hz]の加振周波数で特徴付けられた交流信号とを合成することによって生成される。この直流成分と交流成分を含むトルク指令信号は、最大値が1500[Nm]となり、最小値が−500[Nm]となり、平均値が500[Nm]となる。
【0007】
ここで、モータ駆動装置では、1000[Nm]で指定される最大トルク上限値から−1000[Nm]で指定される最大トルク下限値までの間にモータの発生トルクを制限する場合について検討する。この場合、モータ駆動装置では、トルク指令信号のうち最大トルク上限値1000[Nm]を超える余剰分が強制的に切り捨てられるため、細実線で示すトルク指令信号は、実質的には太破線で示すような信号に制限されてしまう。
【0008】
この場合、
図13において太一点鎖線で示すように、最大トルク上限値によって切り捨てられた分だけ平均の発生トルクが当初予定の500[Nm]から低下してしまう。したがって、モータ駆動装置において切り捨てが生じた場合、平均トルクがずれてしまい、必要な加速度又は減速度(以下、「加速度等」という)を達成できなくなる。また、切り捨てによってトルク指令信号は正弦波からひずみ波に変形してしまうため、加振力(加振振幅)も意図していた大きさから低下する。
【0009】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、限られたモータトルクの範囲内で、必要な加速度等を確保しながら加振力を最大化できるようなモータ発生トルク指令を生成するドライブトレイン試験システムのトルク指令生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するため本発明は、車両のドライブトレイン(例えば、後述の供試体W)の軸に接続されたモータ(例えば、後述の入力側動力計2)で前記車両のエンジンを模したトルクを発生させるドライブトレイン試験システム(例えば、後述の試験システム1)において、前記モータを駆動するためのモータ発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成装置(例えば、後述のトルク指令生成装置6(
図2),6B(
図6),6C(
図10)等)を提供する。前記トルク指令生成装置は、前記モータの回転数に応じて前記モータ発生トルク指令信号の値に対する制限値を算出する制限値算出手段(例えば、後述の最大トルク演算部633(
図2),665(
図6)等)と、直流信号を生成する直流信号生成手段(例えば、後述の直流成分リミッタ635(
図2)、及び直流成分演算部661(
図6)等)と、交流信号を生成する交流信号生成手段(例えば、後述の
図2の最大トルク演算部633、限界振幅演算部634、暫定値演算部636、余剰振幅演算部637、交流成分リミッタ638及び正弦波発信器639、
図6の交流成分演算部662、乗算部663及び減衰係数演算部666、並びに
図10の減衰係数演算部666C等)と、前記直流信号と前記交流信号と合成しモータ発生トルク指令信号を生成する合成手段(例えば、後述の合算部640(
図2),664(
図6)等)と、を備え、前記交流信号生成手段は、前記モータ発生トルク指令信号の値が前記制限値を超えないような振幅の交流信号を生成する。
【0011】
(2)この場合、前記交流信号生成手段は、前記直流信号の値と所定の基本振幅との和から前記制限値を減算することにより余剰振幅を算出する余剰振幅算出手段(例えば、後述の
図2の暫定値演算部636及び余剰振幅演算部637等)と、前記基本振幅から前記余剰振幅を減算して得られる振幅の交流信号を生成する発信手段(例えば、後述の
図2の正弦波発信器639)と、を備えることが好ましい。
【0012】
(3)この場合、前記交流信号生成手段は、前記交流信号の周波数に応じた限界振幅を算出する限界振幅算出手段(例えば、後述の
図2の限界振幅演算部634)をさらに備え、前記発信手段は、前記基本振幅から前記余剰振幅を減算して得られる振幅と前記限界振幅とのうち小さい方の振幅の交流信号を生成することが好ましい。
【0013】
(4)この場合、前記交流信号生成手段は、基本交流信号を生成する基本信号生成手段(例えば、後述の
図6の交流成分演算部662)と、前記基本交流信号の値に所定の振幅減衰係数を乗算することにより交流信号を生成する乗算手段(例えば、後述の
図6の乗算部663)と、前記モータ発生トルク指令信号の最大値と前記制限値との偏差がなくなるように前記振幅減衰係数を決定する余剰振幅制限手段(例えば、
図8の余剰振幅制御器671)と、を備えることが好ましい。
【0014】
(5)この場合、前記交流信号生成手段は、前記モータ発生トルク指令信号の周波数成分を検出する周波数成分検出手段(例えば、後述の
図10の周波数成分検出部672)と、前記モータ発生トルク指令信号の周波数に応じた限界振幅を算出する限界振幅算出手段(例えば、後述の
図10の限界振幅比算出部673)と、前記限界振幅算出手段によって算出された限界振幅に対する前記周波数成分検出手段によって検出された振幅の比を複数の異なる周波数毎に算出する限界比算出手段(例えば、後述の
図10の限界振幅比算出部673)と、前記限界比算出手段によって算出された複数の比のうち最も大きな比が所定の目標値になるように前記振幅減衰係数を決定する限界振幅制限手段(例えば、後述の
図10の限界振幅制御器675)と、を備えることが好ましい。
【0015】
(6)上記目的を達成するため、本発明は、車両のドライブトレインの軸に接続されたモータで前記車両のエンジンを模したトルクを発生させるドライブトレイン試験システムにおいて、前記モータを駆動するためのモータ発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成装置(例えば、後述の
図4のトルク指令生成装置6A)を提供する。前記トルク指令生成装置は、前記モータの回転数に応じて前記モータ発生トルク指令信号に対する正及び負のトルク制限基本値(UpperLim_bs,LowerLim_bs)を算出する基本値算出手段(例えば、後述の
図4の基本値演算部653)と、前記正及び負のトルク制限基本値を補正し正及び負のトルク制限値(UpperLim,LowerLim)を算出する補正手段(例えば、後述の
図4の補正演算部654)と、直流成分及び交流成分を含む基本信号(Tdr_i)から前記正のトルク制限値より大きな値及び前記負のトルク制限値より小さな値を切り捨てることによって発生トルク指令信号(Tdr_o)を生成するトルク指令生成手段(例えば、後述の
図4のトルクリミッタ655)と、を備え、前記補正手段は、前記基本信号に前記正及び負の何れか一方の符号のトルク制限基本値に対して余剰が生じた場合には、他方の符号のトルク制限基本値を絶対値が小さくなる方へ補正する。
【0016】
(7)この場合、前記補正手段は、前記基本信号(Tdr_i)に前記正及び負の何れか一方の符号のトルク制限値に対して余剰が生じた場合には、前記基本信号の直流成分の値と前記基本信号の一方の符号側の極値との和から一方の符号のトルク制限基本値を減算して得られる値(L_cor,U_cor)を他方の符号のトルク制限基本値に加算することによって、当該他方の符号のトルク制限基本値を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明では、直流信号と交流信号とを合成することによってモータ発生トルク指令信号を生成する。特に本発明では、モータの回転数に応じてこのモータ発生トルク指令信号の値に対する制限値を算出するとともに、モータ発生トルク指令信号の値がこの制限値を超えないような振幅の交流信号を生成する。このように、トルク指令生成装置において、制限値を超えないようなモータ発生トルク指令信号を生成することにより、その後モータ駆動装置において、意図しない態様で強制的に切り捨てられてしまい、平均トルクが意図した大きさからずれてしまうのを防止できる。また本発明では、モータ発生トルク指令信号の値がモータ回転数に応じた制限値を超えないようにする際、加速度等と関連付けて設定される直流信号ではなく、加振力と関連付けて設定される交流信号の振幅を抑制するので、振幅の抑制に伴って平均トルクがずれるのを防止できる。また、平均トルクがずれるのを防止することにより、必要な加速度等を確保しながら加振力を最大化できるようなモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0018】
(2)本発明では、直流信号の値と所定の基本振幅の値との和から制限値を減算することによって余剰振幅を算出する。この余剰振幅とは、交流信号の振幅を上記基本振幅とした場合に生成されるモータ発生トルク指令信号のうち制限値を超えてしまう余剰分に相当する。本発明では、基本振幅から上記余剰振幅を減算して得られる振幅の交流信号を生成することにより、モータ発生トルク指令信号の値が制限値を超えるのを防止できる。また本発明では、フィードバックループによらずに余剰振幅を算出し、この余剰振幅を利用してモータ発生トルク指令信号を生成する。すなわち、本発明ではオープンループ構造によって制限値を超えないようなモータ発生トルク指令信号を生成するので、交流信号の周波数や基本振幅を変化させた場合、この変化に対し速やかに追従させることができる。
【0019】
(3)本発明のように交流成分が重畳されたモータ発生トルク指令信号を利用して交流成分による加振を行う場合、周波数が高くなるとモータでは渦電流損失が発生し発熱しやすくなる。本発明では、上記制限値とは別に、交流信号の周波数に応じた限界振幅を算出し、制限値を超えないように算出された振幅(基本振幅−余剰振幅)とこの限界振幅とを比較し、小さい方の振幅の交流信号を生成する。これにより、モータの回転数から定められた運転範囲内(すなわち、制限値によって定められる運転範囲内)でありかつモータの加振周波数から定められた運転範囲内(すなわち、限界振幅によって定められる運転範囲内)に適切に制限されたモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0020】
(4)本発明では、基本交流信号を生成し、この基本交流信号の値に、モータ発生トルク指令信号の最大値と制限値との偏差がなくなるように決定された振幅減衰係数を乗算することによって交流信号を生成する。このように、基本交流信号の値に振幅減衰係数を乗算することでモータ発生トルク指令信号が制限値を超えないような交流信号を生成することにより、基本交流信号を単なる正弦波だけでなく高次の周波数成分を伴うひずみ波とすることもできる。したがって、モータの回転数から定められた運転範囲内で、実エンジンの燃焼波形に近いひずみ波のモータ発生トルク指令信号を生成できる。また、本発明では、上記(2)の発明と異なり、モータ発生トルク指令信号の交流成分の縮減にフィードバックループが伴う。このため本発明では、交流成分の振幅を変化させる機能を有するモジュール(例えば、後述の共振抑制制御器)をこのフィードバックループ内に含めることができる。
【0021】
(5)本発明では、周波数成分検出手段によってモータ発生トルク指令信号の周波数成分を検出し、さらに上記限界振幅に対する周波数成分検出手段によって検出された振幅の比を複数の異なる周波数毎に算出する。そして、これら周波数毎に算出された比のうち最も大きな比が所定の目標値になるように振幅減衰係数を決定することにより、モータ回転数から定められた運転範囲内でありかつモータの周波数から定められた運転範囲内に適切に制限されたモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0022】
(6)本発明では、モータの回転数に応じて正(例えば、駆動方向)及び負(例えば、吸収方向)のトルク制限基本値を算出し、これら基本値を補正することによって正及び負のトルク制限値を算出する。そして、基本信号からこれらトルク制限値を超える値を切り捨てることによって発生トルク指令信号を生成する。このように、トルク指令生成装置において、制限値を超えないようなモータ発生トルク指令信号を生成することにより、その後モータ駆動装置において、意図しない態様で強制的に切り捨てられてしまい、平均トルクが意図した大きさからずれてしまうのを防止できる。また本発明では、基本信号に正及び負の何れか一方の符号のトルク制限基本値に対して余剰が生じた場合には、この余剰が生じた方とは反対の符号のトルク制限基本値を、その絶対値が小さくなる方へ、すなわち振幅がより制限される方へ補正する。これにより、基本信号に正及び負の何れか一方の符号で余剰が生じた場合には、一方の符号側のみを切り捨てるのではなく他方の符号側も切り捨てられるので、切り捨てに伴い平均トルクがずれるのを防止できる。また、平均トルクがずれるのを防止することにより、必要な加速度等を確保しながら加振力を最大化できるようなモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0023】
(7)本発明では、基本信号に正及び負の何れか一方の符号のトルク制限基本値に対して余剰が生じた場合には、基本信号の直流成分の値と基本信号の上記一方の符号側の極値との和から上記一方の符号側のトルク制限基本値を減算して得られる値を他方の符号側のトルク制限基本値に加算することによって、このトルク制限基本値を補正する。これにより、正及び負の何れか一方側で余剰が生じた場合には、基本信号は、正と負の両側で対称に余剰分が切り捨てられる。これにより、モータ発生トルク指令信号の交流成分の振幅に比例した加振力の低下と平均トルクのずれの両方を最小限にできる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るトルク指令生成装置6が組み込まれたドライブトレインの試験システム1の構成を示すブロック図である。なお
図1には、FF駆動方式の車両の変速機を供試体Wとした試験システム1の例を示すが、本発明はこれに限るものではない。供試体WはFR駆動方式の車両の変速機でもよい。
【0026】
試験システム1は、供試体Wの入力軸S1と同軸に連結された入力側動力計2と、この入力側動力計2に対し電力を供給するインバータ3と、入力側動力計2の回転数(角速度)を検出する回転検出器4と、この回転検出器4の検出値等に基づいてモータ発生トルク指令信号を生成するトルク指令生成装置6と、供試体Wの出力軸S2の両端にそれぞれ連結された出力側動力計7,8と、を備える。
【0027】
回転検出器4は、入力側動力計2の回転数を検出し、検出値に略比例した信号をトルク指令生成装置6に送信する。以下では、入力側動力計2の回転数を、「モータ回転数」という。
【0028】
インバータ3は、図示しない直流電源から供給された直流電力を交流電力に変換し、入力側動力計2に供給する。トルク指令生成装置6は、回転検出器4によって検出されたモータ回転数に基づいて入力側動力計2を駆動するためのモータ発生トルク指令信号を生成し、インバータ3に入力する。このトルク指令生成装置6の詳細な構成については、後に各実施例において説明する。
【0029】
試験システム1では、入力側動力計2によって実エンジンを模したトルクを発生させ、このトルクを供試体Wの入力軸S1に入力しながら、供試体Wの変速出力を出力側動力計7,8によって吸収することにより、供試体Wの耐久性能や品質などが評価される。
【実施例1】
【0030】
次に、上記実施形態におけるトルク指令生成装置の実施例1について図面を参照しながら説明する。
図2は、本実施例のトルク指令生成装置6の構成を示すブロック図である。
トルク指令生成装置6は、図示しない外部の演算装置からベーストルク、加振周波数、及び加振振幅に対する指令値が入力されると、これらの入力に応じたモータ発生トルク指令信号を生成し、インバータ3へ入力する。トルク指令生成装置6によって生成されるモータ発生トルク指令信号は、基本的には、ベーストルクとなる直流信号と、加振周波数及び加振振幅に応じた周波数及び振幅の正弦波信号とを合成したものとなっている。ただし、以下で説明するように、直流信号及び正弦波信号の振幅には所定の制限が設けられている。ここで、ベーストルクとは、実エンジンを模して動力計で発生させるトルクのうち、エンジンのトルク脈動成分を除いた成分に相当し、加振周波数及び加振振幅とは、上記トルク脈動成分の周波数及び振幅に相当する。以下、トルク指令生成装置6においてモータ発生トルク指令信号の値を算出する具体的な手順を説明する。
【0031】
最大トルク演算部633は、回転検出器によって検出されたモータ回転数に基づいて予め定められたマップを検索することにより、モータ発生トルク指令信号に対する制限値となる最大トルクの値を算出する。以下で説明するように、トルク指令生成装置6では、最大トルク演算部633によって算出された最大トルク値を超えないようにモータ発生トルク指令信号を生成する。
図2に例示するマップによれば、入力側動力計の発熱特性や機械的強度等を考慮して、最大トルク値は、モータ回転数が高くなるほど小さな値に設定される。
【0032】
限界振幅演算部634は、外部から入力された加振周波数に基づいて予め定められたマップを検索することにより、モータ発生トルク指令信号の交流成分の振幅に対する制限値となる限界振幅を算出する。以下で説明するように、トルク指令生成装置6では、その交流成分の振幅が限界振幅演算部634によって算出された限界振幅を超えないようにモータ発生トルク指令信号を生成する。入力側動力計は、加振周波数が高くなるほど小さなトルクで減磁する点を考慮して、限界振幅は、
図2に例示するマップに示すように加振周波数が高くなるほど小さくなるように設定される。
【0033】
直流成分リミッタ635は、外部から入力されたベーストルクに対する指令値と、最大トルク演算部633によって算出された最大トルク値のうち、何れか小さい方を確定直流成分値とする。後に詳述するように、直流成分リミッタ635によって算出された確定直流成分値は、モータ発生トルク指令信号の直流成分値となる。したがってこの直流成分リミッタ635は、モータ発生トルク指令信号の直流信号を生成する機能を有する。
【0034】
暫定値演算部636は、確定直流成分値と外部から入力された加振振幅に対する指令値とを合算することにより直交合算値を算出する。この直交合算値は、交流成分に対して制限を施す前のモータ発生トルク指令信号の暫定値に相当する。
【0035】
余剰振幅演算部637は、直交合算値から最大トルク値を減算することにより余剰振幅を算出する。この余剰振幅は、モータ発生トルク指令信号の値が最大トルク値を超えないようにするために、交流成分から除くべき振幅に相当する。したがって、直交合算値から最大トルク値を減算して得られる値が負である場合、交流成分の振幅を制限する必要はないことを意味するので、この場合は余剰振幅を0とする。
【0036】
交流成分リミッタ638は、外部から入力された加振振幅から余剰振幅を減算して得られる振幅と、限界振幅演算部634によって算出された限界振幅とを比較し、小さい方を確定交流振幅とする。正弦波発信器639は、交流成分リミッタ638によって算出された確定交流振幅及び加振周波数の正弦波を生成する。
【0037】
合算部640は、直流成分リミッタ635によって算出された確定直流成分値と、正弦波発信器639によって生成された正弦波の値とを合算することにより、モータ発生トルク指令信号の値を算出する。正弦波発信器639によって生成される正弦波の振幅は、上記交流成分リミッタ638の機能により余剰振幅が除かれている。したがって、合算部640によって生成されるモータ発生トルク指令信号は最大トルク値以下に制限される。また、正弦波発信器639によって生成される正弦波の振幅は、交流成分リミッタ638の機能により限界振幅以下に制限される。したがって、合算部640によって生成されるモータ発生トルク指令信号の交流成分の振幅は限界振幅以下に制限される。
【0038】
以上説明した実施例1によれば、以下の効果を奏する。
(1)実施例1では、モータ発生トルク指令信号の値が、モータ回転数に応じて算出された最大トルク値を超えないような振幅の交流信号を生成する。これにより、生成したモータ発生トルク指令信号がインバータにおいて意図しない態様で強制的に切り捨てられてしまい、平均トルクが意図した大きさからずれてしまうのを防止できる。また実施例1では、モータ発生トルク指令信号の直流成分ではなく交流成分の振幅を抑制するので、平均トルクがずれるのを防止できる。また、平均トルクがずれるのを防止することにより、必要な加速度等を確保しながら加振力を最大化できるようなモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0039】
(2)実施例1では、外部から入力された加振振幅から余剰振幅演算部637によって算出された余剰振幅を減算して得られる振幅の正弦波を生成することにより、モータ発生トルク指令信号の値が最大トルク値を超えるのを防止できる。また
図2に示すように、実施例1ではオープンループ構造によって最大トルク値を超えないようなモータ発生トルク指令信号を生成するので、ベーストルク、加振周波数、及び加振振幅に対する指令値などを変化させた場合、この変化に対し速やかに追従させることができる。
【0040】
(3)実施例1では、最大トルク値とは別に、限界振幅演算部634によって加振周波数に応じた限界振幅を算出する。そして、交流成分リミッタ638では、外部から入力された加振振幅から余剰振幅を減算して得られる振幅と、上記限界振幅とを比較し、小さい方を確定交流振幅とする。これにより、最大トルク値によって定められる運転範囲内でありかつ限界振幅によって定められる運転範囲内に適切に制限されたモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0041】
以上説明した実施例1では、直流成分リミッタ635等が直流信号生成手段に相当し、合算部640が合成手段に相当し、最大トルク演算部633、限界振幅演算部634、暫定値演算部636、余剰振幅演算部637、交流成分リミッタ638及び正弦波発信器639が交流信号生成手段に相当する。より詳しくは、最大トルク演算部633が制限値算出手段に相当し、限界振幅演算部634が限界振幅算出手段に相当し、暫定値演算部636及び余剰振幅演算部637が余剰振幅算出手段に相当し、交流成分リミッタ638及び正弦波発信器639が発信手段に相当する。
【実施例2】
【0042】
次に、上記実施形態におけるトルク指令生成装置の実施例2について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施例2の説明において、実施例1と同じ構成については、同じ符号を付し詳細な説明は省略する。
【0043】
図3は、本実施例のトルク指令生成装置6Aの構成を示すブロック図である。
トルク指令生成装置6Aは、波形生成器61Aと、共振抑制制御器62Aと、トルク制限器63Aと、を備える。トルク指令生成装置6Aでは、波形生成器61Aによって一次的なトルク指令信号を生成し、これを共振抑制制御器62A及びトルク制限器63Aに入力し、これらの処理を経たものを最終的なモータ発生トルク指令信号とし、インバータ3へ入力する。
【0044】
波形生成器61Aは、図示しない外部の演算装置からベーストルク指令値、加振周波数指令値及び加振振幅指令値が入力されると、これらの入力に応じたトルク指令信号を生成する。波形生成器61は、ベーストルク指令値に比例したレベルの直流信号と、加振周波数指令値及び加振振幅指令値に応じた周波数及び振幅の正弦波信号とを合成することによってトルク指令信号を生成する。
【0045】
共振抑制制御器62Aは、波形生成器61Aによって生成されたトルク指令信号に対し、入力側動力計2及び供試体Wなどからなる機械系の共振点付近における振幅を減衰させることにより、加振周波数による機械系の加振に伴って生じる共振現象を抑制する。トルク制限器63Aは、上記共振抑制制御器を経たトルク指令信号に対し、
図4に示す処理を施すことによってモータ発生トルク指令信号を生成し、インバータ3へ入力する。
【0046】
図4は、本実施例のトルク指令生成装置6Aのトルク制限器63Aにおいてモータ発生トルク指令信号の値を算出する具体的な手順を示すブロック図である。
【0047】
直流成分演算部651は、加振周波数から求められる1周期の間におけるトルク指令信号の直流成分の値を算出する。以下では、トルク指令信号を”Tdr_i”で示し、直流成分演算部651によって算出されたトルク指令信号の直流成分値を”Tdr_i_DC”で示す。ピーク値演算部652は、加振周波数から求められる1周期の間におけるトルク指令信号の最大値及び最小値を算出する。以下では、ピーク値演算部652によって算出されたトルク指令信号の最大値を”V_upper”で示し、最小値を”V_lower”で示す。
【0048】
基本値演算部653は、回転検出器によって検出されたモータ回転数に基づいて予め定められたマップを検索することにより、モータ発生トルク指令信号の値に対する制限値の基本値となる正及び負の最大トルク基本値を算出する。以下では、正の最大トルク基本値を最大トルク基本上限値といい”UpperLim_bs(≧0)”で示す。また、負の最大トルク基本値を最大トルク基本下限値といい”LowerLim_bs(<0)”で示す。
図2の最大トルク演算部633と同様に、これら最大トルク基本上限値及び下限値を決定するマップは、入力側動力計の発熱特性や機械的強度を考慮して設定される。より具体的には、例えば最大トルク基本上限値はモータ回転数が高くなるほど正側で小さな値に設定され、最大トルク基本下限値はモータ回転数が高くなるほど負側で小さな値に設定される。
【0049】
補正演算部654は、トルク指令信号の直流成分値Tdr_iDC、最大値V_upper、及び最小値V_lowerに基づいて、上記最大トルク基本上限値UpperLim_bs及び下限値LowerLim_bsを、その絶対値が小さくなる方へ補正することによって、正の最大トルク上限値及び負の最大トルク下限値を算出する。以下では、最大トルク上限値を”UpperLim(≧0)”で示し、最大トルク下限値を”LowerLim(<0)”で示す。以下、補正演算部654による補正の具体的な手順について説明する。
【0050】
補正演算部654は、下限補正値演算部654aによって算出された正の下限補正値L_cor(>0)を最大トルク基本下限値LowerLim_bsに加算したものを最大トルク下限値LowerLimとし(下記式(1)参照)、上限補正値演算部654bによって算出された負の上限補正値U_cor(<0)を最大トルク基本上限値UpperLim_bsに加算したものを最大トルク上限値UpperLimとする(下記式(2)参照)。
LowerLim=LowerLim_bs+L_cor (1)
UpperLim=UpperLim_bs+U_cor (2)
【0051】
下限補正値演算部654aは、下記式(3)に示すように、トルク指令信号の最大値V_upperと直流成分値Tdr_i_DCとの和から、最大トルク基本上限値UpperLim_bsを減算して得られる値を下限補正値L_corとする。ここで、負の最大トルク基本下限値LowerLim_bsをその絶対値が小さくなる方へ補正するため、下限補正値L_corは正の値になるように制限する。すなわち、下記式(3)の右辺の値が負になった場合には、下限補正値L_corは0とする。
L_cor=V_upper+Tdr_i_DC-UpperLim_bs (3)
【0052】
上限補正値演算部654bは、下記式(4)に示すように、トルク指令信号の最小値V_lowerと直流成分値Tdr_iDCとの和から、最大トルク基本下限値LowerLim_bsを減算して得られる値を上限補正値U_corとする。ここで、正の最大トルク基本上限値UpperLim_bsをその絶対値が小さくなる方へ補正するため、上限補正値U_corは負の値になるように制限する。すなわち、下記式(4)の右辺の値が正になった場合には、上限補正値U_corは0とする。
U_cor=V_Lower+Tdr_i_DC-LowerLim_bs (4)
【0053】
トルクリミッタ655は、トルク指令信号Tdr_iから、補正演算部654によって算出された最大トルク上限値UpperLimより大きな値及び最大トルク下限値LowerLimより小さな値を切り捨てることによってモータ発生トルク指令信号Tdr_oを生成する。
【0054】
図5は、実施例2のトルク制限器によって生成されるモータ発生トルク指令信号の具体的な例を示す図である。
図5において、細実線はトルク指令信号Tdr_iを示し、太破線は実施例2のトルク制限器によって得られるモータ発生トルク指令信号Tdr_oを示す。より具体的には、トルク指令信号Tdr_iには、500[Nm]の直流信号(Tdr_i_DC=500)と、2000[Nm]の加振振幅及び10[Hz]の加振周波数で特徴付けられた交流信号(Tdr_i_AC=2000*sin(10*2πt))とを合成することによって得られたものを用いた。また、最大トルク基本上限値UpperLim_bsは2000[Nm]とし、最大トルク基本下限値LowerLim_bsは−2000[Nm]とした。
【0055】
図5に示すように、細実線で示すトルク指令信号には正の最大トルク基本上限値UpperLim_bsに対して500[Nm]の余剰が生じる。この場合、
図4の補正演算部654の機能によって、余剰が生じたUpperLim_bsとは反対の符号の最大トルク基本下限値LowerLim_bsに1000[Nm]の下限補正値L_corを加算したものが最大トルク下限値LowerLimとなる。このため、トルク指令信号Tdr_iは、
図5に示すように、正側で生じた余剰分と同じ分だけ負側でも切り捨てられる。したがって、トルク指令信号Tdr_iとモータ発生トルク指令信号Tdr_oとでは、平均トルクは500[Nm]のまま維持される。
【0056】
以上説明した実施例2によれば、以下の効果を奏する。
(4)実施例2では、モータ回転数に応じて最大トルク基本上限値UpperLim_bs及び下限値LowerLim_bsを算出し、これら基本値を補正することによって最大トルク上限値UpperLim及び下限値LowerLimを算出する。そして、トルク指令信号Tdr_iからこれら制限値UpperLim,LowerLimを超える値を切り捨てることによってモータ発生トルク指令信号Tdr_oを生成する。これにより、生成したモータ発生トルク指令信号がインバータにおいて意図しない態様で強制的に切り捨てられてしまい、平均トルクが意図した大きさからずれてしまうのを防止できる。また実施例2では、また、平均トルクがずれるのを防止することにより、必要な加速度等を確保しながら加振力を最大化できるようなモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0057】
(5)実施例2では、トルク指令信号Tdr_iに正及び負の何れか一方の符号の制限値(UpperLim_bs.LowerLim_bs)に対して余剰が生じた場合には、トルク指令信号Tdr_iの直流成分値Tdr_i_DCと、トルク指令信号Tdr_iの上記一方の符号側の極値(V_Upper,V_Lower)との和から上記一方の符号側の制限値(UpperLim_bs.LowerLim_bs)を減算して得られる値を他方の符号側の制限値(UpperLim_bs.LowerLim_bs)に加算することによって、この制限値(UpperLim_bs.LowerLim_bs)を補正する。これにより、正及び負の何れか一方側で余剰が生じた場合には、
図5を参照して説明したように、トルク指令信号Tdr_iは、正と負の両側で対称に余剰分が切り捨てられる。これにより、モータ発生トルク指令信号Tdr_oの交流成分の振幅に比例した加振力の低下と平均トルクのずれの両方を最小限にできる。また、実施例2によれば、
図5に示すように制限されたモータ発生トルク指令信号は矩形波に近くなるため、実施例1と比較して交流成分の実効値を増加できる
【0058】
以上説明した実施例2では、基本値演算部653が基本値算出手段に相当し、補正演算部654が補正手段に相当し、トルクリミッタ655がトルク指令生成手段に相当する。
【実施例3】
【0059】
次に、上記実施形態におけるトルク指令生成装置の実施例3について図面を参照しながら説明する。
図6は、本実施例のトルク指令生成装置6Bの構成を示すブロック図である。
トルク指令生成装置6Bは、一次的なトルク指令信号を生成する燃焼模擬波形生成器61Bと、燃焼模擬波形生成器61Bによって生成されたトルク指令信号に以下で説明する制限処理を施すことによりモータ発生トルク指令信号を生成するトルク制限器63Bと、を備える。
【0060】
燃焼模擬波形生成器61Bは、実エンジンの発生トルクを模した波形の信号をトルク指令信号として発生する。
図7は、燃焼模擬波形生成器61Bによって生成されるトルク指令信号の一例を示す図である。燃焼模擬波形生成器61Bでは、より実エンジンに近い試験を行うため、直流信号と複数の周波数成分を含んだ交流信号とを合成することによって生成したひずみ波をトルク指令信号として出力する。
【0061】
図6に戻って、トルク制限器63Bは、トルク指令信号の直流成分の値を算出する直流成分演算部661と、トルク指令信号の交流成分の値を算出する交流成分演算部662と、所定の振幅減衰係数を乗算することにより交流信号の振幅を減衰させる乗算部663と、振幅を減衰させた交流信号と直流信号とを再び合成しモータ発生トルク指令信号を生成する合算部664と、モータ発生トルク指令信号の値に対する制限値となる最大トルク値を算出する最大トルク演算部665と、振幅減衰係数を算出する減衰係数演算部666と、を含んで構成される。以下、これらの機能について具体的に説明する。
【0062】
直流成分演算部661は、トルク指令信号の最も低次の周波数から求められる1周期の間におけるトルク指令信号の直流成分の値を算出する。交流成分演算部662は、トルク指令信号の値から直流成分演算部661によって算出された直流成分の値を減算することにより、トルク指令信号の交流成分の値を算出する。
【0063】
最大トルク演算部665は、回転検出器によって検出されたモータ回転数に基づいて予め定められたマップを検索することにより、モータ発生トルク指令信号に対する制限値となる正の最大トルク上限値及び負の最大トルク下限値を算出する。なお、これら最大トルク上限値及び下限値を決定するマップは、実施例2において
図4を参照して説明した基本値演算部653と同じものが用いられるので、詳細な説明を省略する。
【0064】
減衰係数演算部666は、モータ発生トルク指令信号の値が最大トルク演算部665によって算出された最大トルク上限値以下でありかつ最大トルク下限値以上となるように、後に
図8を参照して説明する手順にしたがって振幅減衰係数を算出する。
【0065】
乗算部663は、減衰係数演算部666によって算出された振幅減衰係数を交流成分演算部662によって算出された交流成分の値に乗算し、これを減衰交流成分値とする。
【0066】
合算部664は、直流成分演算部661によって算出された直流成分値と乗算部663によって算出された減衰交流成分値とを合算することにより、モータ発生トルク指令信号の値を算出する。上記振幅減衰係数は、減衰係数演算部666の機能によりモータ発生トルク指令信号の値が最大トルク上限値から最大トルク下限値の範囲内になるように決定される。したがって、合算部664によって生成されるモータ発生トルク指令信号は最大トルク上限値から最大トルク下限値の範囲内に概ね制限される。
【0067】
図8は、減衰係数演算部666における振幅減衰係数を算出する具体的な手順を示すブロック図である。
【0068】
ピーク値演算部667は、トルク指令信号の最も低次の周波数から求められる1周期の間におけるモータ発生トルク指令信号の最大値及び最小値を算出する。乗算部668a,668bは、正の最大トルク上限値及び負の最大トルク下限値に1より小さな所定のマージン係数(例えば、0.95)を乗算する。
【0069】
偏差演算部669は、モータ発生トルク指令信号の最大値から最大トルク上限値を減算して得られる駆動側の余剰振幅と、最大トルク下限値からモータ発生トルク指令信号の最小値を減算して得られる吸収側の余剰振幅とのうち、何れか大きい方を余剰振幅とする。
【0070】
乗算部670は、トルクの次元を有する余剰振幅に所定の係数を乗算することにより、無次元化された偏差を算出する。余剰振幅制御器671は、乗算部670によって算出された偏差が無くなるような振幅減衰係数を算出する。この余剰振幅制御器671には、定常偏差を0にする積分器を内蔵した制御器が用いられる。
【0071】
以上説明した実施例3によれば、実施例1の(1)の効果に加え、以下の効果を奏する。
(6)実施例3では、モータ発生トルク指令信号の最大値(又は最小値)と最大トルク上限値(又は下限値)との偏差がなくなるように振幅減衰係数を決定し、これをトルク指令信号から抽出された交流成分値に乗算することによってモータ発生トルク指令信号の交流成分を決定する。これにより、燃焼模擬波形生成器61Bによって生成する基本交流信号を
図7に示すようなひずみ波とすることができる。したがって、モータ回転数から定められた運転範囲内で、実エンジンの燃焼波形に近いひずみ波のモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0072】
図9は、
図6に示す実施例3のトルク指令生成装置6Bのうち、モータ発生トルク指令信号の交流成分の振幅の決定に係るモジュールのみを抽出した図である。
図9に示す実施例3と、
図3に示す実施例2とを比較して明らかなように、実施例3のトルク指令生成装置6Bは、モータ発生トルク指令信号の交流成分を縮減させる振幅減衰係数の演算はフィードバックループを伴う。このため実施例3では、
図9に示すように、交流成分の振幅を変化させる機能を有する共振抑制制御器62Aをこのフィードバックループ内に含めることができる。
【0073】
以上説明した実施例3では、最大トルク演算部665が制限値算出手段に相当し、直流成分演算部661が直流信号生成手段に相当し、合算部664が合成手段に相当し、交流成分演算部662、乗算部663及び減衰係数演算部666が交流信号生成手段に相当する。より詳しくは、交流成分演算部662が基本信号生成手段に相当し、乗算部663が乗算手段に相当し、余剰振幅制御器671が余剰振幅制限手段に相当する。
【実施例4】
【0074】
次に、上記実施形態におけるトルク指令生成装置の実施例4について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施例4の説明において、実施例3と同じ構成については、同じ符号を付し詳細な説明は省略する。
【0075】
図10は、本実施例の減衰係数演算部666Cの構成を示すブロック図である。実施例2のトルク指令生成装置6Cは、実施例3のトルク指令生成装置6Bと減衰係数演算部666Cの構成が異なる。実施例4の減衰係数演算部666Cは、実施例3の余剰振幅制御器671に加え限界振幅制御器675を備え、これら2つの制御器671,675で算出した2つの係数のうち小さい方を振幅減衰係数とする点が実施例3と異なる。以下、
図10を参照して実施例3から追加された機能について説明する。
【0076】
周波数成分検出部672は、燃焼模擬波形生成器61B(
図6参照)から送信されたトルク指令信号の周波数に関する情報に基づいて、トルク指令信号の周波数成分を検出する。
図7に示すように、トルク指令信号は、直流成分に加えて複数の周波数の交流信号を重ね合わせて生成される。周波数成分検出部672は、
図11に示すように、トルク指令信号の周波数成分を検出し、次数ごとの振幅(B1,B2,…Bn)を算出する。
【0077】
限界振幅比算出部673は、
図12に示すようなマップに基づいて次数ごとの限界振幅(A1,A2,…An)を算出する。この限界振幅を決定するマップには、実施例1において
図2を参照して説明した限界振幅演算部634と同じものが用いられるので、詳細な説明を省略する。限界振幅比算出部673は、算出した限界振幅(A1、A2,…An)に対する周波数成分検出部672によって算出された振幅(B1,B2,…Bn)の比を次数毎に算出し、これを限界振幅比(B1/A1,B2/A2,…Bn/An)とする。
【0078】
最大比選択部674は、次数ごとに算出された限界振幅比(B1/A1,B2/A2,…Bn/An)から最も大きな比を選択する。
図12に示す例によれば、2次周波数の限界振幅比(B2/A2)が最も大きい。したがって、この場合、2次の周波数成分の振幅が1以下となるように振幅減衰係数を決定することにより、全ての周波数成分を限界振幅より小さくできる。
【0079】
限界振幅制御器675は、最大比選択部674によって選択された最も大きな限界振幅比が、所定の目標値(例えば、1)になるように振幅減衰係数を算出する。この限界振幅制御器675は、余剰振幅制御器671と同様に、限界振幅比と目標値との定常偏差を0にする積分器を内蔵した制御器が用いられる。
【0080】
最小値選択部676は、余剰振幅制御器671によって算出された係数と限界振幅制御器675によって算出された係数のうち小さい方、すなわち交流信号の振幅がより強く制限される方を振幅減衰係数とする。
【0081】
以上説明した実施例4によれば、実施例1の(1)及び実施例3の(6)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0082】
(7)実施例4では、周波数成分検出部672によってモータ発生トルク指令信号の周波数成分を検出し、さらに限界振幅に対する周波数成分検出部672によって検出された振幅の比(限界振幅比)を周波数の次数毎に算出する。そして、これら次数毎に算出された限界振幅比のうち最も大きな比が1になるように振幅減衰係数を決定する。これにより、モータ回転数から定められた運転範囲内でありかつモータの周波数から定められた運転範囲内に適切に制限されたモータ発生トルク指令信号を生成できる。
【0083】
以上説明した実施例4では、周波数成分検出部672が周波数成分検出手段に相当し、限界振幅比算出部673が限界振幅算出手段及び限界比算出手段に相当し、限界振幅制御器に相当する。