特許第5673728号(P5673728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5673728多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5673728
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150129BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   C08J5/18CFG
   C08L79/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2013-97677(P2013-97677)
(22)【出願日】2013年5月7日
(62)【分割の表示】特願2008-526765(P2008-526765)の分割
【原出願日】2007年7月23日
(65)【公開番号】特開2013-147670(P2013-147670A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2013年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2006-200149(P2006-200149)
(32)【優先日】2006年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(72)【発明者】
【氏名】吉永 利宗
(72)【発明者】
【氏名】福永 謙二
(72)【発明者】
【氏名】星野 治利
【審査官】 大熊 幸治
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5119596(JP,B2)
【文献】 特許第5119597(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 79/08
C08G 73/10− 73/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)と、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの表面張力γrandに比べて、少なくとも一方のフィルム表面の表面張力γが|γ−γrand|>0.3mN/mであり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルム(但しポリイミド非対称膜は除く)。
ここで、溶解度パラメータSPA 及びSPBとは、各ポリイミド成分の化学構造についてFedorsの方法に従い求めたものであり、
ィルムの表面張力γrand及びγとは、Zismanプロットから、外挿によりcosθが1になる表面張力(臨界表面張力)を求めたものであり、
クロ相分離を生じていないとは、ポリイミドフィルム中に、最大径が1μm以上の、異種のポリイミドが相分離して、異種のドメインを含むマクロな相分離構造がないことを意味する。
【請求項2】
ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)と、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005であり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルム(但しポリイミド非対称膜は除く)。
ここで、弾性率Erand及びEとは、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気にて調湿された試験片フィルムを、歪速度50%/分にて引張試験を行い、初期弾性率を測定し、これを弾性率としたものであり、
クロ相分離を生じていないとは、ポリイミドフィルム中に、最大径が1μm以上の、異種のポリイミドが相分離して、異種のドメインを含むマクロな相分離構造がないことを意味する。
【請求項3】
ポリイミドAのガラス転移温度TgA とポリイミドBのガラス転移温度TgB との差の絶対値|TgB −TgA |が20℃以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)と、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005であり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルム(但しポリイミド非対称膜は除く)。
ここで、弾性率Erand及びEとは、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気にて調湿された試験片フィルムを、歪速度50%/分にて引張試験を行い、初期弾性率を測定し、これを弾性率としたものであり、
クロ相分離を生じていないとは、ポリイミドフィルム中に、最大径が1μm以上の、異種のポリイミドが相分離して、異種のドメインを含むマクロな相分離構造がないことを意味する。
【請求項4】
ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上であり、且つポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)と、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005であり、全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの表面張力γrandに比べて、少なくとも一方のフィルム表面の表面張力γが|γ−γrand|>0.3mN/mであり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルム(但しポリイミド非対称膜は除く)。
ここで、溶解度パラメータSPA 及びSPBとは、各ポリイミド成分の化学構造についてFedorsの方法に従い求めたものであり、
性率Erand及びEとは、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気にて調湿された試験片フィルムを、歪速度50%/分にて引張試験を行い、初期弾性率を測定し、これを弾性率としたものであり、
ィルムの表面張力γrand及びγとは、Zismanプロットから、外挿によりcosθが1になる表面張力(臨界表面張力)を求めたものであり、
クロ相分離を生じていないとは、ポリイミドフィルム中に、最大径が1μm以上の、異種のポリイミドが相分離して、異種のドメインを含むマクロな相分離構造がないことを意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルム及びその製造方法に関する。本発明のポリイミドフィルムは、例えば、フィルムの表面層においてフッ素原子含有ポリイミドの割合が制御されていること、その表面張力が、原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムの表面張力に対して大幅に改質されたものであること、さらに、その機械的性質が、原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムの機械的性質に対して大幅に改質されたものであることなどを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性や機械的特性を有するため種々の産業分野で広く利用されている。ポリイミドを実際の応用に供するに際して、しばしばその表面の接着性や濡れ性などの表面特性の改質が問題になる。このため、コロナ放電処理、プラズマ処理、サンドプラスト処理、ケミカルエッチング処理などによって、ポリイミドフィルムの表面を改質する方法が提案されている。例えば、特許文献1にはポリイミドフィルム表面を放電処理する方法が開示されている。特許文献2には減圧プラズマ処理したポリイミドフィルムを用いた金属箔膜付きポリイミドフィルムが開示されている。特許文献3にはポリイミドフィルムに表面改質剤を塗布する表面改質法が提案されている。
【0003】
一方、特許文献4には、特定の化学組成によって接着強度を改良したポリイミドフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−1160号公報
【特許文献2】特開2005−125721号公報
【特許文献3】特開2003−192811号公報
【特許文献4】特開2005−146074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムに対して、フィルム表面の性質やフィルムの機械的な性質が改質された多成分ポリイミドフィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)とポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの表面張力γrandに比べて、少なくとも一方のフィルム表面の表面張力γが|γ−γrand|>0.3mN/mであり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0007】
また、本発明は、ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)とポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005であり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0008】
また、本発明は、ポリイミドAのガラス転移温度TgA とポリイミドBのガラス転移温度TgB との差の絶対値|TgB −TgA |が20℃以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)とポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005であり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0009】
また、本発明は、ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上であり且つポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上である、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Aと呼ぶこともある)とポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物(ポリイミド成分Bと呼ぶこともある)とからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率Eの比がE/Erand>1.005であり、全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの表面張力γrandに比べて、少なくとも一方のフィルム表面の表面張力γが|γ−γrand|>0.3mN/mであり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0010】
さらに、本発明は、フッ素原子を含む多成分ポリイミドで形成されたポリイミドフィルムであって、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子濃度(ΦS )と、フィルム全体の平均のフッ素原子濃度(f)との比(ΦS /f)が1.3〜3であることを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0011】
また、本発明は、フッ素原子を含む多成分ポリイミドで形成されたポリイミドフィルムであって、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子濃度(ΦS )と、全原料成分をランダム重合して得られるフィルム表面のフッ素原子濃度(ΦS , rand)との比(ΦS /ΦS , rand)が1.1〜2.6、好ましくは1.2〜2.4であることを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0012】
また、本発明は、ケイ素原子を含む多成分ポリイミドで形成されたポリイミドフィルムであって、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のケイ素原子濃度(ΦS )と、全原料成分をランダム重合して得られるフィルム表面のケイ素原子濃度(ΦS , rand)との比(ΦS /ΦS , rand)が1.1〜4であることを特徴とするポリイミドフィルムに関する。
【0013】
また、本発明は、フィルムの厚みが10μm未満10nm以上の極薄フィルムであることを特徴とする前記のポリイミドフィルムに関する。
【0014】
さらに、本発明は、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物をポリイミド成分Aとし、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物をポリイミド成分Bとし、前記ポリイミド成分Aの数平均重合度をNA とし、前記ポリイミド成分Bの数平均重合度をNB としたときに、
(工程1)ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとを、NA とNB とが下記数式1を満たす組合せで混合して多成分ポリイミドの混合溶液を調製し、
数式1
2.35×NA -2.09 <NB <450×NA -1.12
(工程2)前記多成分ポリイミドの混合溶液をさらに重合イミド化反応させ、次いで、
(工程3)前記多成分ポリイミドからなるフィルム状物から溶媒を除去する
ことを特徴とする多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
ここで、NA 及びNB は、ポリイミド原料である未反応のテトラカルボン酸成分とジアミン成分の重合度をそれぞれ0.5として算出する。
【0015】
また、本発明は、ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上であることを特徴とす前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上であることを特徴とする前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、ポリイミドAのガラス転移温度TgA がポリイミドBのガラス転移温度TgB より20℃以上高いことを特徴とする前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、ポリイミドAが化学構造にフッ素原子を含むことを特徴とする前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0019】
また、本発明は、ポリイミドBが化学構造にフッ素原子を含まないことを特徴とする前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0020】
また、本発明は、ポリイミドBが、引張破断伸びが4%以上であることを特徴とする前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0021】
また、本発明のポリイミドAが化学構造にケイ素原子を含むことを特徴とする前記の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0022】
また、本発明は、ポリイミドBが化学構造にケイ素原子を含まないことを特徴とする前記のポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マクロ相分離を生じさせることなく多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムを得ることができる。このポリイミドフィルムは、原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムに対して、フィルム表面の性質やフィルムの機械的な性質が大幅に改質されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】:本発明のNAとNBの組合せを説明するためのグラフである。
図2】:実施例1で得られたポリイミドフィルム断面のTEM像である。
図3】:比較例1で得られたポリイミドフィルム断面のTEM像である。
図4】:比較例4で得られたポリイミドフィルム断面のTEM像である。
図5】:比較例5で得られたポリイミドフィルム断面のTEM像である。
図6】:実施例6でガラス板上に流延し乾燥させて得たフィルムの深さ方向のフッ素原子をdSIMSで分析した結果である。
図7】:比較例6でガラス板上に流延し乾燥させて得たフィルムの深さ方向のフッ素原子をdSIMSで分析した結果である。
図8】:実施例1で得られたポリイミドフィルム断面のFE−SEM像である。
図9】:比較例1で得られたポリイミドフィルム断面のFE−SEM像である。
図10】:実施例10で得られたポリイミドフィルム断面のFE−SEM像である。
図11】:比較例10で得られたポリイミドフィルム断面のFE−SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の、繰返し単位の異なるポリイミドAとポリイミドBとの2つのポリイミド成分からなる多成分ポリイミドによって形成されたポリイミドフィルムの製造方法を、ポリイミドAが化学構造にフッ素原子を含むものであり且つポリイミドBが化学構造にフッ素原子を含まないものである場合について説明する。
【0026】
本発明において、『ポリイミド成分』とは、ポリイミドの原料成分(未反応のテトラカルボン酸成分、未反応のジアミン成分)、及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物からなる。ここで、前記重合イミド化物は重合度が大きなポリマーのみを意味しない。ポリイミドの原料成分を重合イミド化したときに反応初期に生成するモノマーや重合度の低いオリゴマーなどを含む。すなわち、重合イミド化反応物は、モノマー(テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが各1分子の計2分子でイミド化反応したもの)、及び/又はポリマー(テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが計3分子以上でイミド化反応したもの)からなる。
【0027】
本発明において、重合イミド化反応物の重合度はそこに含まれるポリイミドの繰返し単位数によるものとした。即ち、モノマーの重合度は1であり、ポリマーの重合度は>1である。一方、ポリイミドの原料成分の重合度は、繰返し単位を持たないので、0.5と定義した。数平均重合度は前記のように定義した重合度から算出される。
【0028】
ポリイミド成分Aは、ポリイミドAの原料成分(未反応のテトラカルボン酸成分、未反応のジアミン成分)及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物からなる。そして、ポリイミド成分Bは、ポリイミドBの原料成分(未反応のテトラカルボン酸成分、未反応のジアミン成分)及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物からなる。
【0029】
ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとを、いずれも未反応のテトラカルボン酸成分とジアミン成分の状態(重合度はいずれも0.5)で混合して重合イミド化反応させた場合、両成分が著しくランダム性を帯びて結合したランダム共重合体を主成分とするポリイミドが生成する。本発明では、この様にして重合イミド化反応して得られたポリイミドを全ポリイミド原料(全原料成分)がランダム重合したポリイミドと見なす。このポリイミドからなる溶液を基材上に流延して塗膜(フィルム状物)を形成し次いで溶媒を乾燥除去してポリイミドフィルムを得た場合には、得られるポリイミドフィルムの表面層にフッ素原子含有ポリイミドが偏在することはなく、表面層の化学組成はフィルム全体の平均の化学組成とほぼ同じものになる。
【0030】
ポリイミドAとポリイミドBとを別々に重合イミド化反応し、いずれも重合度が大きいポリイミドの状態で混合する場合、均一な混合溶液を調製することは通常困難である。前記混合溶液をごく短時間ほぼ均一な状態にできることもあるが、均一な状態を長時間維持させてポリイミドフィルムを安定的に製造することは容易ではない。重合度が大きい複数のポリイミドからなる混合溶液を基材上に流延して塗膜を形成し次いで溶媒を除去する場合、溶媒を除去する過程において、僅かであっても化学的性質の違いによる両ポリイミド間の反発的相互作用によってマクロ相分離が急速に進行する。ここでマクロ相分離とは異種のポリイミドが相分離して、最大径が0.1μm以上しばしば1μm以上のサイズの異種ドメインを含むマクロな相分離構造が形成されることをいう。マクロ相分離構造は透過電子顕微鏡(以下TEMと呼ぶこともある)像を観察することによって、明瞭な界面を有する異種ドメインとしてTEM像中に観察される。マクロ相分離が生じるとフィルム内部に生じたマクロな異種ドメイン構造のために、フィルムは濁った色調のものになり易く、安定してフィルムを得るのが容易ではなくなる。また濁ったフィルムは、フィルムの反対側を透かして見ることが困難なため、実用に供するに当りしばしば不適切なものとなる。
すなわち、本発明のポリイミドフィルムはマクロ相分離が生じていないものである。マクロ相分離を生じていないとは、最大径が1μm以上のドメインがないこと、好ましくは最大径が0.1μm以上のドメインがないことを意味する。この結果、本発明のポリイミドフィルムは、目視では濁りが観察されない。濁りの尺度として、ヘイズ値を用いることが出来る。本発明のポリイミドフィルムでは、このヘイズ値が、好ましくは50%未満、より好ましくは30%以下、特に4%以下である。
【0031】
本発明の製造方法は、前記多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、溶液キャスト法などの方法によってポリイミドフィルムを製造する製造方法であり、溶媒を乾燥除去する過程の異種ポリイミド間の相分離によって、フィルムの断面方向(膜の表面に垂直な方向)に沿って見たときにフッ素原子含有ポリイミドをより多く含んだ表面層が形成されることを特徴とする。なお、本発明では、溶媒を乾燥除去する過程で異種ポリイミド間の相分離を行うのであるから、多成分ポリイミドの混合溶液が、少なくとも目視で均一に溶解していることが適当であり、多成分ポリイミドの混合溶液が相分離するものは、本発明の製造方法においては好適ではない。
【0032】
本発明の製造方法において、より好ましい態様は、所定の重合度とブロック共重合体を含む多成分ポリイミドの混合溶液を調製し、前記多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、溶液キャスト法などの方法によってポリイミドフィルムを製造する製造方法である。このような多成分ポリイミドの混合溶液を基材上に流延して塗膜(フィルム状物)を形成し次いで前記塗膜から溶媒を乾燥除去すると、この過程ではマクロ相分離は発生せず、ミクロ相分離というべき相分離が進行する。ここでは異種ドメインを含む相分離構造(マクロ相分離)は見られない。数nm〜0.1μm程度の微細なドメインが形成されていると思われるが、全体としてはドメインの境界が不明確となって、異種のポリイミドが完全には相分離しない曖昧な領域を多く含む構造が形成される。この相分離の過程で、フィルムの面内方向(膜の表面に平行な方向)に沿って見たときにはポリイミド組成のマクロな乱れを生じさせないで、フィルムの断面方向(膜の表面に垂直な方向)に沿って見たときにフッ素原子含有ポリイミドをより多く含んだ表面層が形成される。すなわち、本発明のより好ましい態様は、多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法において、異種ポリイミド間にミクロな相分離を生じさせながら且つ前記相分離がマクロ相分離に至らないように異種ポリイミド間の相分離を制御することによって、マクロ相分離の進行に伴うフィルムのマクロな不均一化を生じさせないで、ポリイミドフィルムの表面層と内部(ここで内部とはフィルム表面からの距離が10nm程度以上の深さにある部分をいう)のそれぞれの化学的・物理的性質を異なるものにすることができる改良されたポリイミドフィルムの製造方法である。
【0033】
本発明の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法は、例えば化学構造にフッ素原子を含むポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物をポリイミド成分Aとし、前記ポリイミド成分Aの数平均重合度をNA とし、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物をポリイミド成分Bとし、前記ポリイミド成分Bの数平均重合度をNB として、次の工程1〜工程4からなることを特徴とする。
(工程1)ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとを、NA とNB とが下記数式2を満たす組合せで混合して成分ポリイミドの混合溶液を調製する
【0034】
数式2
2.35×NA -2.09 <NB
(工程2)前記多成分ポリイミドの混合溶液をさらに重合イミド化反応させる
(工程3)前記多成分ポリイミドの混合溶液をフィルム状に成形する
(工程4)成形された多成分ポリイミドの混合溶液からなるフィルム状物から溶媒を乾燥除去する
【0035】
なお、工程1の、より好ましい態様においては、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとを、NA とNB とが下記数式1を満たす組合せで混合して成分ポリイミドの混合溶液を調製する。
【0036】
数式1
2.35×NA -2.09 <NB <450×NA -1.12
【0037】
ここで、化学構造にフッ素原子を含むポリイミドAは、原料成分であるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分の少なくとも一方がフッ素原子を含有したものである。
【0038】
ポリイミドAをなすフッ素原子を含有したテトラカルボン酸成分としては、特に限定するものではないが、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4',5,5'−ビフェニルテトラカルボン酸、4,4'−(ヘキサフルオロトリメチレン)−ジフタル酸、4,4'−(オクタフルオロテトラメチレン)−ジフタル酸、及びそれらの二無水物、及びそれらのエステル化物などを挙げることができる。特に、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、その二無水物(以下、6FDAと略記することもある)、及びそのエステル化物が好適である。
【0039】
ポリイミドAをなすフッ素原子を含有したジアミン成分としては、特に限定するものではないが、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2−トリフルオロメチル−p−フェニレンジアミンなどを挙げることができる。
【0040】
これらのフッ素原子を含有した原料成分は単独でもよいが、異なる2種の混合物でもよく、フッ素原子を含有しないモノマー成分と組合せても構わない。また、ポリイミドAをなす原料成分は、テトラカルボン酸成分又はジアミン成分のいずれかがフッ素原子を含有する原料成分を主成分(50モル%以上通常55モル%以上)とすることが好適である。
【0041】
ポリイミドAをなすフッ素原子を含有したテトラカルボン酸成分を主成分とした際に組合せるジアミン成分は、公知のポリイミドで採用される芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンを好適に用いることができる。例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン(以下、MPDと略記することもある)、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DADEと略記することもある)、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド(以下、TSNと略記することもある。なお、通常のTSNは、2,8−ジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシドを主成分とし、メチル基の位置が異なる異性体2,6−ジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,6−ジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシドなどを含む混合物である。)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3'−ジヒドロキシ−4,4'−ジアミノジフェニル、3,3'−ジカルボキシ−4,4'−ジアミノジフェニル、3,3'−ジカルボキシ−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジアミノジフェニル、ジアミノナフタレン、2,4−ジメチル−m−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノ安息香酸(以下、DABAと略記することもある)、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン(以下、MASNと略記することもある)、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンなどの芳香族ジアミンが好適である。
【0042】
また、ポリイミドAをなすフッ素原子を含有したジアミン成分と組合せるテトラカルボン酸成分としては、特に限定するものではないが、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタリンテトラカルボン酸、ビス(ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(ジカルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(ジカルボキシフェニル)プロパン、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2'3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、それらの二無水物、及びそれらのエステル化物を挙げることができる。特に3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAと略記することもある)が好適である。
【0043】
ポリイミドBをなす原料成分としては、得られるポリイミドBからなるフィルムが、引張強度100MPa以上好ましくは150MPa以上、且つ引張破断伸び10%以上好ましくは15%以上のものが好適に用いられる。化学構造にフッ素原子を含むポリイミドは比較的に機械的強度が低いことから、ポリイミドBをなすモノマー成分においては、テトラカルボン酸成分及びジアミン成分のいずれにも少なくとも主成分としてはフッ素原子を含まないこと、好ましくはフッ素原子を全く含まないことが、得られるポリイミドフィルムの機械的特性が優れるので好適である。
【0044】
ポリイミドBのテトラカルボン酸成分としては、特に限定するものではないが、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタリンテトラカルボン酸、ビス(ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(ジカルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(ジカルボキシフェニル)プロパン、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2'3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、それら二無水物、及びそれらのエステル化物を挙げることができる。特に3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好適である。
【0045】
これらのテトラカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、異なる2種類以上の混合物を用いてもよく、更にその混合物にはフッ素原子含有テトラカルボン酸成分を少量含んでも構わない。例えば、s−BPDA1モル部に対して0.3モル部以下の6FDAを組合せて用いても構わない。
【0046】
ポリイミドBのジアミン成分としては、前記ポリイミドAをなす原料成分の説明において、例示したジアミンを好適に用いることができる。
【0047】
本発明の製造方法の工程1では、数式2を満たす数平均重合度NA とNB とを、好ましくは数式1を満たす数平均重合度NA とNB とをそれぞれが有する、化学構造にフッ素原子を含むポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物からなるポリイミド成分Aと、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物からなるポリイミド成分Bとを混合して多成分ポリイミドの混合溶液を調製する。数式1、数式2を満たすNA とNB との組合せの範囲を図1のグラフで説明すると、数式2を満たす領域は、直線NB =2.35×NA -2.09 よりも右上の領域である。また数式1を満たす領域は、前記領域のうちで更に直線NB =450×NA -1.12 よりも左下の領域(斜線領域として示された領域)である。なお、ポリイミドの原料成分(未反応のテトラカルボン酸成分、未反応のジアミン成分)の重合度を0.5と定義したから、NA 及びNB は当然0.5以上である。
【0048】
次いで、工程2では、この多成分ポリイミドの混合溶液をさらに重合イミド化反応させる。この結果、前記ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとがさらに重合イミド化反応した混合物であって、少なくともポリイミド成分Aからなる重合体と、ポリイミド成分Bからなる重合体に加えて、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとが互いの末端で結合したジ又はマルチブロック共重合体を含有し且つ適当な重合度を持った多成分ポリイミドの混合液を得ることができる。
ここで、ジブロック共重合体とは、ポリイミド成分Aからなるブロックとポリイミド成分Bからなるブロックの各1個が互いの末端で結合した共重合体をいい、マルチブロック共重合体は前記ジブロック共重合体の末端に前記2種のブロックが更に1個以上結合した共重合体をいう。ジ又はマルチブロック共重合体には、ポリイミド成分Aからなるブロックが連続して結合した部分やポリイミド成分Bからなるブロックが連続して結合した部分も存在し得る。
【0049】
前記図1のグラフを参照して説明する。
工程1で図1のA領域のNA とNB との組合せからなる多成分ポリイミドの混合溶液を調製し、工程2でさらに重合イミド化反応すると、生成ポリマーを平均して見たときに、ポリイミド成分Aのみからなるブロックやポリイミド成分Bのみからなるブロックが形成されず、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bが平均化されたランダム性が極めて高い共重合体(ランダムコポリイミド)しか得ることができない。
【0050】
工程1で図1のB領域のNA とNB との組合せからなる多成分ポリイミドの混合溶液を調製し、工程2でさらに重合イミド化反応すると、ブロック共重合体を含む多成分ポリイミドの混合液を得ることができるかも知れないが、その重合度が大きくなるために、各ポリイミド間の反発的相互作用が大きくてマクロ相分離が生じやすくなる。このため、図1B領域では、マクロ相分離が起こり易くなり、ポリイミドフィルム表面のフッ素原子濃度を高くして表面を改質する本発明の効果を達成できるが、フィルムの面内方向(膜の表面に平行な方向)に沿って見たときにはポリイミド組成のマクロな乱れを生じ易いために、前記効果、例えば表面張力の制御を行うことはできるが十分でない場合がある。
【0051】
数式1を満たすNA とNB の組合せ範囲内(図1のグラフに斜線領域)では、少なくともポリイミド成分Aからなる重合体と、ポリイミド成分Bからなる重合体に加えて、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとが互いの末端で結合したブロックを有するジ又はマルチブロック共重合体を含有し且つ適当な重合度を持った多成分ポリイミドの混合液を得ることができる。この多成分ポリイミドは、反発的相互作用によるマクロ相分離を抑制することが可能であり、ミクロ相分離というべき制御された相分離を可能にする。この結果、フィルムの面内方向(膜の表面に平行な方向)に沿って見たときにはポリイミド組成のマクロな乱れを生じさせないで、フィルムの断面方向(膜の表面に垂直な方向)に沿って見たときにフッ素原子含有ポリイミドをより多く含んだ表面層を形成することができるので、ポリイミドフィルムの表面の制御をより好適に行うことができる。
【0052】
本発明の工程1は、前記数式1、又は数式2を満たす数平均重合度NA とNB とをそれぞれが有する、化学構造にフッ素原子を含むポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物からなるポリイミド成分Aと、ポリイミドBの原料成分及び/又前記原料成分の重合イミド化反応物からなるポリイミド成分Bとを混合して多成分ポリイミドの混合溶液を調製する工程である。この工程は前記多成分ポリイミドの混合溶液を得ることができれば具体的方法は特に限定されない。ポリイミドAの原料成分とポリイミドBの原料成分とをそれぞれ独立に必要に応じて重合イミド化反応によって調製した後でそれらを均一になるように混合して多成分ポリイミドの混合溶液を得ることもできる。また、工程1の多成分ポリイミドの混合溶液が、いずれか一方のポリイミド成分が原料成分(未反応のテトラカルボン酸成分、未反応のジアミン成分)の場合には、一方のポリイミド成分の原料成分を所定の数平均重合度になるように重合イミド化反応した溶液を調製し、次いで前記溶液に他方のポリイミド成分である未反応のテトラカルボン酸成分とジアミン成分を加えても構わない。特にポリイミドBをより高分子量化することがフィルムの機械的強度を向上させるうえで好適なので、工程1で先ずポリイミドBをなす原料成分を極性溶媒中で重合イミド化反応して適当な重合度のポリイミドBを生成し、これにポリイミドAをなす原料成分を添加して多成分ポリイミドの混合溶液を調製する方法が好都合である。
【0053】
ポリイミドを得る重合イミド化反応について説明する。重合イミド化反応は、極性溶媒中テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、所定の組成比で、120℃以上好ましくは160℃以上、且つ好ましくは使用する溶媒の沸点以下の温度範囲で、ポリアミド酸を生成すると共に脱水閉環反応を行わせてイミド化することによって好適に行われる。所定の重合度を達成するためにより低温の反応温度を採用してもよい。アミド酸結合が残ると交換反応によってポリイミドのブロック性が損なわれることがあるので、重合イミド化反応では少なくともイミド化率は40%以上であることが好ましく、実質的にイミド化を完了させることがより好ましい。
【0054】
重合イミド化反応において、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との組成比を近づけて反応すると比較的高分子量(数平均重合度が大きい)のポリイミドを合成することができる。最初に比較的高分子量のポリイミドを調製する場合には、テトラカルボン酸成分1モル部に対してジアミン成分が0.95〜0.995モル部又は1.005〜1.05モル部、特に0.98〜0.995モル部又は1.005〜1.02モル部の範囲の組成比で反応して、比較的高分子量のポリイミド成分を調製するのが好ましい。
【0055】
例えば、テトラカルボン酸成分として6FDAを用い、ジアミン成分としてTSNを用いた場合、6FDA1モル部に対してTSNを1.02モル部となる組成で190℃にて30時間脱水閉環反応を行った場合、数平均分子量が15000〜25000程度(数平均重合度が20〜40程度)のポリイミドを合成することができる。また6FDA1モル部に対してTSNを1.005モル部となる組成で190℃にて30時間脱水閉環反応を行った場合、数平均分子量が30000〜40000程度(数平均重合度が40〜60程度)のポリイミドを合成することができる。
【0056】
例えば、テトラカルボン酸成分として6FDAを用い、ジアミン成分としてDABAを用いた場合、6FDA1モル部に対してDABAを1.02モル部となる組成で190℃にて30時間脱水閉環反応を生じせしめた場合、数平均分子量が15000〜25000程度(数平均重合度が25〜45程度)のポリイミドを合成することができる。また6FDA1モル部に対してDABAを1.005モル部となる組成で190℃にて30時間脱水閉環反応を生じせしめた場合、数平均分子量40000〜50000程度(数平均重合度が70〜90程度)のポリイミドを合成することができる。
【0057】
一方、テトラカルボン酸成分1モル部に対してジアミン成分が0.98モル部以下又は1.02モル部以上の組成比で反応することにより、比較的低分子量(数平均重合度が小さい)のポリイミド成分を調製することもできる。
【0058】
工程1で得られる多成分ポリイミドの混合溶液は、テトラカルボン酸成分の総モル数に対するジアミン成分の総モル数の組成比((ジアミン成分の総モル数)/(テトラカルボン酸成分の総モル数))が0.95〜0.99又は1.01〜1.05モル部、より好ましくは0.96〜0.99又は1.015〜1.04モル部の範囲内となるようにすることが、工程2の結果得られる多成分ポリイミドの混合溶液の数平均分子量や溶液粘度が好適になるので好ましい。
【0059】
本発明の工程2は、工程1で得られた数式2、好ましくは数式1を満たすNA とNB の組合せのポリイミドA成分とポリイミドB成分とからなる多成分ポリイミドの混合溶液をさらに重合イミド化反応させて、少なくともポリイミド成分Aからなる重合体と、ポリイミド成分Bからなる重合体に加えて、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとが互いの末端で結合したジ又はマルチブロック共重合体を含有し且つ適当な重合度を持った多成分ポリイミドの混合液を得る工程である。
【0060】
本発明の工程2は、工程1で得られる多成分ポリイミドの混合溶液をさらに重合イミド化反応することに特徴があり、前述の重合イミド化反応の方法を好適に採用することができる。
【0061】
工程1及び工程2の結果得られる多成分ポリイミドの混合溶液に外観上明らかな濁りが生じた場合には、均一なポリイミドフィルムを得ることができない。したがって、前記工程1及び工程2の多成分ポリイミドの混合溶液では、多成分ポリイミドを均一に溶解する極性溶媒が用いられる。ここで均一に溶解するとは、溶液内部に可視光を散乱する程度のサイズを持ったマクロ相分離したドメインが存在せず、外観上明らかな濁りがない状態を言う。可視光を散乱しない程度のサイズのミクロ相分離したドメインは存在してもよく、分子鎖レベルで均一になることを必須の要件とはしない。
【0062】
このような極性溶媒として、特に限定はないが、フェノール、クレゾール、キシレノール等のようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に有するカテコール類、3−クロルフェノール、4−クロルフェノール(以下、PCPと略記することもある)、4−ブロムフェノール、2−クロル−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などのフェノール系溶媒、または、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、あるいはそれらの混合物が好適である。
【0063】
本発明の工程2の重合イミド化反応は、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとが互いの末端で結合したジ又はマルチブロック共重合体を生成させることができれば特に限定されるものではない。通常は多成分ポリイミド混合溶液の数平均分子量が好ましくは2倍以上より好ましくは5倍以上になる程度まで重合イミド化反応を行えば、ジ又はマルチブロック共重合体を好適に生成させることができる。工程2の重合イミド化反応によって得られる多成分ポリイミドの混合溶液の数平均重合度は20〜1000好ましくは20〜500より好ましくは30〜200が好適である。数平均重合度が低過ぎると、混合溶液の溶液粘度が低すぎて工程3が困難になり、得られるポリイミドフィルムの機械的強度が低下するので好ましくない。数平均重合度が高過ぎると、マクロ相分離し易くなり、また溶液粘度が高くなり過ぎて工程3が困難になるので好ましくない。
【0064】
工程2で得られる多成分ポリイミドの混合溶液の溶液粘度(回転粘度)は、溶液を所定のフィルム状物にし更にその形状を安定化するために要求される特性である。本発明においては、多成分ポリイミドの混合溶液の溶液粘度を、100℃において20〜17000ポイズ、好ましくは100〜15000ポイズ、特に200〜10000に調製するのが好適である。
【0065】
好適な多成分ポリイミドの混合溶液の数平均重合度及び好適な溶液粘度は、工程1で得られる多成分ポリイミドの混合溶液のテトラカルボン酸成分の総モル数に対するジアミン成分の総モル数の組成比((ジアミン成分の総モル数)/(テトラカルボン酸成分の総モル数))を0.95〜0.99又は1.01〜1.05モル部、より好ましくは0.96〜0.99又は1.015〜1.04モル部の範囲内にして、工程2の重合イミド化反応によって容易に得られる。
【0066】
なお、工程1及び工程2の多成分ポリイミドの混合溶液のポリマー濃度は、通常5〜40重量%好ましくは8〜25重量%より好ましくは9〜20重量%である。
【0067】
本発明の工程3は、前記工程2で得られた多成分ポリイミドの混合溶液をフィルム状に成形する工程である。この工程は、多成分ポリイミドの混合溶液をフィルム状に成形できればどのような方法でも構わないが、例えば基材上に溶液を流延して塗膜を形成する方法でもよく、基材を用いないで単に所定のスリット幅から押し出して溶液をフィルム状に成形する方法でも構わない。基材を用いない場合には押し出したフィルム状物が自己支持性を有する必要があるので、溶液を高粘度に調製する必要が生じる。また、基材上に溶液を流延して塗膜を形成し、その後で溶媒の一部を乾燥除去してフィルム状物が自己支持性を有するようになった時点で基材から剥離しても構わない。
【0068】
本発明の工程4は、工程3で成形した多成分ポリイミドの混合溶液からなるフィルム状物から溶媒を乾燥除去して、ポリイミドフィルムを得る工程である。溶媒を乾燥除去する条件は、ポリイミド溶液の塗膜から溶媒を乾燥除去するときに通常用いられる圧力及び温度条件が好適に採用できる。例えば、加熱処理は、いきなり高温で加熱処理して最高熱処理温度まで温度を上げてもよいが、140℃以下の比較的低温で溶媒を乾燥除去し次いで最高加熱処理温度まで温度を上げてもよい。最高加熱処理温度は200〜600℃好ましくは250〜550℃より好ましくは280〜450℃の温度範囲とし、この温度範囲で0.01〜20時間好ましくは0.01〜6時間より好ましくは0.01〜5時間加熱処理することが好適である。また、この加熱処理は、窒素ガス中などの不活性雰囲気下で行われてもよく、さらに、溶媒を乾燥除去する際には減圧状態にして乾燥除去を促進させてもよい。
【0069】
本発明においては、工程4において多成分ポリイミドと溶媒の乾燥除去に伴って相分離するときに、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとが互いの末端で結合したジ又はマルチブロック共重合体が互いに非相溶なポリイミド成分Aからなる重合体とポリイミド成分Bからなる重合体との一種の界面活性剤的な機能をすることで、あるいは別の表現をすれば、ポリイミド成分Aからなるドメインとポリイミド成分Bからなるドメインとの界面に前記ジ又はマルチブロック共重合体が分布することで、異種ドメイン間の反発的相互作用を遮蔽して、マクロ相分離を抑制し、望ましいミクロ相分離を生じさせる。
【0070】
フッ素原子含有ポリイミドは、フッ素原子を含有しないポリイミドよりも、通常は溶解性が高いので、ポリイミドフィルムの表面層には析出し難いと考えられる。しかし、フッ素含有ポリイミドは表面自由エネルギーが低いために熱力学的にはフィルム表面により多く分布することによりフィルム表面のエンタルピーを低下することができる。本発明の工程4で、ポリイミドフィルムの表面層にフッ素含有ポリイミドがより高い割合で存在するのは、この熱力学的理由に拠っていると推定できる。
【0071】
本発明によって得られるポリイミドフィルムの一つの態様は、フッ素原子含有ポリイミドを含む多成分のポリイミドからなり、フィルム表面層にフッ素含有ポリイミドをより高い割合で存在させて得られたポリイミドフィルムである。厚み方向の部位によって含まれる各ポリイミドの割合が変化しているという意味においてフィルム表面近傍が傾斜構造を有するポリイミドフィルムといえる。
【0072】
このような傾斜構造が得られることは、ダイナミック二次イオン質量分析法(以下dSIMSと略記する場合もある)を用いて知ることができる。この方法は、O2 + イオンをフィルム表面に照射して、フィルムのスパッターエッチングを行って、各エッチング深さにおいてスパッターされてきた二次イオンを質量分析することにより深さ方向の分析を行う方法である。本発明の製造方法によって製造されたジ又はマルチブロック共重合体を含有し且つ適当な重合度を持った多成分ポリイミドの混合液を、ガラス板上に流延して塗膜を形成し次いで溶媒を乾燥除去して得られたポリイミドフィルムについて、フィルム表面から内部に向かってフッ素濃度の深さ方向分析を行った結果を図6(Atomica dynamic SIMS4000を用い、照射電流15nA/μm2 にてO2 +イオンを試料表面に照射して測定したフッ素原子分布の深さプロファイル。なお図の横軸は、サンプル表面に被せた厚みが既知の重水素化ポリスチレンカバー層をスパッターエッチングするのに要した時間から平均のエッチング速度を算出し、サンプルをスパッターエッチングした時間をサンプル表面からの深さに換算して表示したものである。)に示す。ここでは、表面から150nm以下の深さのフィルム内部におけるフッ素濃度の値に対して、フッ素濃度の高い領域が表面から50nm程度の深さに及んで観察される。
【0073】
一方、フッ素原子含有ポリイミドを含む多成分ポリイミドの全原料成分組成と同一の原料成分組成を用いて通常の重合イミド化法によってランダム共重合ポリイミド溶液を調製し、そのポリイミドの溶液をガラス板上に流延して塗膜を形成し次いで溶媒を乾燥除去して得られたポリイミドフィルムについての同様の分析結果を図7に示す。ここでは、フィルム表面付近のフッ素濃度分布に大きな傾斜構造は観察されない。
【0074】
すなわち、フッ素原子含有ポリイミドを含む多成分ポリイミドの全原料成分組成と同一の原料成分組成を用いて通常の重合イミド化法によってランダム共重合ポリイミド溶液を調製し、そのポリイミド溶液からポリイミドフィルムを得た場合には、フッ素原子濃度比φS /fが1.0程度である。
【0075】
一方、本発明のポリイミドフィルムは、表面層にフッ素原子含有ポリイミドがより多く存在するために、X線光電子分光で測定した少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子濃度φS と、フィルム全体の平均のフッ素原子濃度fとの比φS /fが1.3以上好ましくは1.3〜3、より好ましくは1.4〜2.6の範囲のものである。
また本発明のポリイミドフィルムは、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子濃度φSと、全原料成分をランダム重合して得られるフィルム表面のフッ素原子濃度ΦS , randとの比(ΦS /ΦS , rand)が1.1〜2.6、好ましくは1.2〜2.4の範囲のものである。
【0076】
さらに本発明のポリイミドフィルムは、表面張力が制御されたものである。すなわち、フィルムを形成している全ポリイミド原料成分がランダムに結合したポリイミドに較べて、表面層にフッ素原子含有ポリイミドがより多くの割合で存在している。このため、フィルム表面の特性は、このフッ素原子含有ポリイミドの影響をより多く受ける。その結果の一つとして、フィルム表面の表面張力を好適に制御することができる。すなわち、本発明のポリイミドフィルムにおいて、一つの態様は、ポリイミドAが極性基を持たないか或いは少なくとも親水性が高い極性基を持たない場合であって、この場合には、ポリイミドフィルム表面の表面張力が、フィルムを形成している全ポリイミド原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムの表面張力に対して、好ましくは10%以上低い。別の一つの態様は、ポリイミドAが極性基特に親水性が高い極性基を持つ場合であって、この場合には、ポリイミドフィルム表面の表面張力が、フィルムを形成している全ポリイミド原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムの表面張力に対して、好ましくは10%以上高い。
【0077】
前記極性基は、前記のとおり親水性が高いものが好ましく、特に限定されないが、例えば−COOH、−OH、−SO3 H、−SO3 NH4 、−NHR1 、−NR2 R3 (ここで、R1 、R2 、R3 はそれぞれ独立にアルキル基、またはアリール基)などの置換基、またはこれらの置換基を含むアルキル基、またはアリール基などを特に好適に挙げることができる。
【0078】
以上、ポリイミドAが化学構造にフッ素原子を含み且つポリイミドBが化学構造にフッ素原子を含まない2つのポリイミド成分からなる多成分ポリイミドによって形成されたポリイミドフィルムの場合について説明した。
しかしながら、本発明は、多成分ポリイミドの分子構造(鎖構造)に適度なブロック性を持たせることにより、フィルム中にミクロ相分離ともいうべき相分離状態を生じさせることを通して、ポリイミドフィルムの性質を改良するものであるため、ポリイミドAとポリイミドBが異なる繰返し単位からなる(相溶しない)組合せであれば、化学構造にフッ素原子を含む多成分ポリイミドに限定されない。
本発明は、フッ素原子の代わりにケイ素原子を含む多成分ポリイミドでも好適に適用できる。
さらに、本発明は、ポリイミドが化学構造にフッ素原子やケイ素原子を含まない多成分ポリイミドの組合せであっても、繰返し単位が相違し、相互に、相溶性が低くいものや、弾性率やガラス転移温度等で特徴付けられる機械的性質が異なるものを用いれば、好適に適用することができる。
そして、以下説明するこのようなポリイミドAとポリイミドBとの組合せは、先に説明してきた、ポリイミドAが化学構造にフッ素原子を含むものであり且つポリイミドBが化学構造にフッ素原子を含まないものである場合においても成立している。
【0079】
すなわち、本発明は、ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上、好ましくは0.6〜5MPa1/2である場合、ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上、好ましくは1.08〜400である場合、ポリイミドAのガラス転移温度TgA とポリイミドBのガラス転移温度TgB との差の絶対値|TgB −TgA |が20℃以上、好ましくは24〜300℃である場合などに好適に適用できる。
【0080】
溶解度パラメータは、各ポリイミドの相溶性の一つの尺度である。ポリイミドAとポリイミドBの溶解度パラメータの差が小さいほどポリイミドAとポリイミドB間の相溶性が高く、この溶解度パラメータの差が大きいほどポリイミドAとポリイミドB間の相溶性が低いといえる。ポリイミドの溶解度パラメータは、Fedorsの方法(参照:R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.14(1974)147)、van Krevelenらの方法(参照:D.W.van Krevelen,P.J.Hoftyzer,Properties of Polymers,Their Estimation and Correlation with Chemical Structure,2nd ed.,Elsevier,NY(1990))等に従って好適に得られる。
本発明において、ポリイミドAとポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |は、0.5MPa1/2 以上、好ましくは5MPa1/2以下であり、より好ましくは0.6〜5MPa1/2 である。|SPB −SPA |が小さすぎると、ポリイミドA成分とポリイミドB成分間のミクロ相分離が進行しなくなる。一方、|SPB −SPA |が大きすぎるとポリイミドA成分とポリイミドB成分間のマクロ相分離を抑制することが困難になる。
【0081】
本発明において、ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EAは、1.05以上、好ましくは400以下であり、より好ましくは1.08〜400である。機械的性質の差が小さすぎる(EB /EA が極めて1に近い)と、フィルムの機械的性質が改良されない。機械的性質の差が大きすぎる(EB /EA が非常に大きい)と、フィルムに変形が加えられた際にポリイミドA成分からなる相とポリイミドB成分からなる相の界面に応力が集中し、界面剥離を生じやすくなるため好ましくない。
なお、弾性率は温度に依存するが、上記の比EB /EAはフィルムが使用に供される温度、通常は室温における値が好適に用いられる。
【0082】
本発明において、ポリイミドAのガラス転移温度TgA とポリイミドBのガラス転移温度TgB との差の絶対値|TgB −TgA |は、20℃以上、好ましくは300℃以下である。特にポリイミドBより弾性率の低いポリイミドAのガラス転移温度TgA が前記ポリイミドBのガラス転移温度TgB より20℃以上、特に24〜300℃低いことが好ましい。
なお、ポリイミドのガラス転移温度の実測による決定が熱分解の影響などにより困難な場合、原子団寄与法などの物性推算手法による推算値を代用することもできる。例えばBiceranoの方法(参照:J.Bicerano,Prediction of Polymer Properties,3rd ed.,Marcel Dekker,NY(2002))等をガラス転移温度の見積に好適に用いることができる。
【0083】
前述のとおり、本発明の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法は、化学構造にフッ素原子を含む多成分ポリイミドに限定されない。
フッ素原子の代わりにケイ素原子を含む多成分ポリイミドでも好適に適用できる。
また、ポリイミドAが化学構造にフッ素原子やケイ素原子を含まない多成分ポリイミドの組合せであっても、繰返し単位が相違し、ポリイミドAとポリイミドBとの相溶性が低くいものや、弾性率やガラス転移温度等で特徴付けられる機械的性質が異なるものを用いた場合には好適に適用することができる。
具体的には、ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上、好ましくは5MPa1/2以下、より好ましくは0.6〜5MPa1/2 である場合、ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上、好ましくは400以下、より好ましくは1.08〜400である場合、ポリイミドAのガラス転移温度TgA とポリイミドBのガラス転移温度TgB との差の絶対値|TgB −TgA |が20℃以上、好ましくは300℃以下、より好ましくは24〜300℃である場合などに好適に適用できる。
【0084】
すなわち、ポリイミドAの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物をポリイミド成分Aとし、前記ポリイミド成分Aの数平均重合度をNA とし、ポリイミドBの原料成分及び/又は前記原料成分の重合イミド化反応物をポリイミド成分Bとし、ポリイミドAとポリイミドBとが、それぞれ前記のような場合において、
(工程1)ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとを、NA とNB とが下記数式1を満たす組合せで混合して多成分ポリイミドの混合溶液を調製し、
数式1
2.35×NA -2.09 <NB <450×NA -1.12
(工程2)前記多成分ポリイミドの混合溶液をさらに重合イミド化反応させ、次いで、
(工程3)前記多成分ポリイミドからなるフィルム状物から溶媒を除去することによって好適に本発明のポリイミドフィルムを得ることができる。
【0085】
本発明において、前記ポリイミドAが化学構造にフッ素原子を含み、好ましくは前記ポリイミドBが化学構造にフッ素原子を含まないものであり、さらに好ましくは前記ポリイミドBは、引張破断伸びが4%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは10〜100%である。
また、本発明において、多成分ポリイミドの中で、ポリイミドA成分の占める割合は、好ましくは15〜85重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
【0086】
また、本発明において、前記ポリイミドAが化学構造にケイ素原子を含むものであり、好ましくは前記ポリイミドBが化学構造にケイ素原子を含まないものであってもよい。
化学構造にケイ素原子を含むポリイミドAとしては、特に限定するものではないが、例えば、ケイ素を含有するジアミンであるα,ω−ビス(2−アミノエチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノフェニル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジフェニルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、或いは前記化合物のエーテル基がフェニレン基に置き換わった化合物、1,3−ビス(2−アミノエチル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラフェニルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、1,4−ビス(2−アミノエチルジメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルジメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニルジメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノプロピルジフェニルシリル)ベンゼン1,4−ビス(4−アミノブチルジメチルシリル)ベンゼン等と、テトラカルボン酸成分であるピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタリンテトラカルボン酸、ビス(ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(ジカルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(ジカルボキシフェニル)プロパン、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2'3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、それら二無水物、及びそれらのエステル化物を、縮合重合イミド化したものを挙げることができる。
【0087】
本発明において、前記ポリイミドA、Bが化学構造にフッ素原子及びケイ素原子を含まないものであってもよい。すなわち、本発明において、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とは、繰返し単位が相違し、相互に、相溶性が低くいものや、弾性率やガラス転移温度等で特徴付けられる機械的性質が異なる多成分ポリイミドの組合せであればよく、従来公知のポリイミドで採用されるものを好適に用いることができる。
【0088】
前記ポリイミドAは、そのガラス転移温度TgA が前記ポリイミドBのガラス転移温度TgB より20℃以上、特に24〜300℃低いことが好ましい。
【0089】
本発明の多成分ポリイミドからなるポリイミドフィルムの製造方法などによって好適に得られる本発明のポリイミドフィルムには、以下のような特徴を持った態様がある。
【0090】
ポリイミドAの溶解度パラメータSPA とポリイミドBの溶解度パラメータSPB との差の絶対値|SPB −SPA |が0.5MPa1/2 以上、好ましくは0.6〜5MPa1/2 である、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの表面張力γrandに比べて、少なくとも一方のフィルム表面の表面張力γが|γ−γrand|>0.3mN/m、好ましくは0.4mN/m≦|γ−γrand|≦10mN/mであり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とする。
【0091】
また、ポリイミドAのフィルムの弾性率EA とポリイミドBのフィルムの弾性率EB との比EB /EA が1.05以上、好ましくは1.08〜400である、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005、好ましくは1.01≦E/Erand≦1.5であり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とする。
【0092】
また、ポリイミドAのガラス転移温度TgA とポリイミドBのガラス転移温度TgB との差の絶対値|TgB −TgA |が20℃以上、好ましくは24〜300℃である、ポリイミド成分Aとポリイミド成分Bとからなる多成分ポリイミドで形成されたフィルムであって、
全原料成分をランダム重合して得られるフィルムの弾性率Erandに比べて、その弾性率EがE/Erand>1.005、好ましくは1.01≦E/Erand≦1.5であり、且つフィルムにマクロ相分離が生じていないことを特徴とする。
【0093】
また、フッ素原子を含む多成分ポリイミドで形成されたポリイミドフィルムであって、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子濃度(ΦS )と、フィルム全体の平均のフッ素原子濃度(f)との比(ΦS /f)が1.3〜3、好ましくは1.4〜2.6であることを特徴とする。
また、フッ素原子を含む多成分ポリイミドで形成されたポリイミドフィルムであって、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子濃度(ΦS )と、全原料成分をランダム重合して得られるフィルム表面のフッ素原子濃度(ΦS , rand)との比(ΦS /ΦS , rand)が1.1〜2.6、好ましくは1.2〜2.4であることを特徴とする。
【0094】
また、ケイ素原子を含む多成分ポリイミドで形成されたポリイミドフィルムであって、X線光電子分光(XPS)で測定した少なくとも一方のフィルム表面のケイ素原子濃度(ΦS )と、全原料成分をランダム重合して得られるフィルム表面のケイ素原子濃度(ΦS , rand)との比(ΦS /ΦS , rand)が1.1〜4、好ましくは1.2〜3.4であることを特徴とする。
【0095】
本発明のポリイミドフィルムは、前述のように、フィルム表面の性質のみならず、フィルムの機械的な性質が改質されたものである。これは、ポリイミドフィルムの表面及び内部における各ポリイミド成分の空間的分布や凝集状態が制御された結果もたらされたものと考えられる。すなわち、本発明のポリイミドフィルムは、破断面のモルホロジーが示す微小な粒子の直径、あるいは微小な枝状物の長手方向と垂直な方向における断面径をFE−SEM像上で計測し、その平均値を凝集構造の特徴的なサイズλとした時に、好ましくはλが50nm以下のものである。
【0096】
本発明において、ポリイミドの溶解度パラメータ、及びフィルムの表面張力は、次のようにして測定(決定)したものである。
ポリイミドの溶解度パラメータの測定方法:Accelrys社製Materials Studio(ver. 4.0)のSynthiaモジュールを使い、各ポリイミド成分の化学構造についてFedorsの方法に従い求めた。ランダムコポリイミドについては、該ランダムコポリイミドを構成する各ホモポリイミド成分iについて、上記Fedorsの方法で求めた溶解度パラメータを、ランダムコポリイミド中における各ホモポリイミド成分iの体積分率ψiを乗じて足し合わせ平均することにより見積もった。
フィルムの表面張力の測定方法:表面張力が既知で且つその値の異なる種々の試験用混合液を用い、フィルム上に形成したこれらの液滴の接触角(θ)を23℃において測定し、種々の試験用混合液の表面張力に対してcosθをプロットしたZismanプロットから、外挿によりcosθが1になる表面張力(臨界表面張力)を求め、この臨界表面張力の値を用いた。
【0097】
また、前記ランダムコポリマーとは、ポリイミドA及びポリイミドBの全原料成分(未反応のテトラカルボン酸成分とジアミン成分)を一斉に混合して重合イミド化反応(ランダム重合)せしめることによって得られる多成分ポリイミドのことである。
なお、ポリイミドフィルムがポリイミドA及びポリイミドB以外の第3成分を含む場合、ランダムコポリマーからなるフィルムの表面張力γrandは、同じ量の第3成分を加えたランダムコポリマーからなるフィルムの表面張力である。
【0098】
ここで、前記ポリイミドフィルムの弾性率は、次のようにして測定したものである。
ポリイミドフィルムの弾性率:温度23℃、相対湿度50%の雰囲気にて調湿された試験片フィルムを、歪速度50%/分にて引張試験を行い、初期弾性率を測定し弾性率として用いた。
なお、ポリイミドフィルムがポリイミドA及びポリイミドB以外の第3成分を含む場合、ランダムコポリマーからなるフィルムの弾性率Erandは、同じ量の第3成分を加えたランダムコポリマーからなるフィルムの弾性率である。
本発明によるポリイミドフィルム中におけるポリイミドA成分とポリイミドB成分の割合は、ポリイミドフィルム中におけるポリイミドA成分の重量WAとポリイミドB成分の重量WBとから算出されるポリイミドA成分の重量分率wA=WA/(WA+WB)×100(%)の値が、好ましくは15〜85%、より好ましくは20〜80%である。ポリイミドA成分の量が上記の範囲より少なくなると、ポリイミドA成分による物性の改良効果が十分得られなくなるため好ましくない。またポリイミドA成分の量が上記の範囲より多くなると、逆にポリイミドB成分による物性の改良効果が十分得られなくなるため好ましくない。
【0099】
本発明のポリイミドフィルムは、何れも、フィルムの厚みが10μm未満10nm以上の極薄フィルムであってもよい。
【実施例】
【0100】
本発明において採用した各種測定方法について以下に説明する。
【0101】
(重合度の測定)
本発明において、重合度は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定または赤外分光法などによるイミド化率の測定によってあらかじめ数平均重合度と溶液粘度との対応を調べておき、反応溶液の溶液粘度の測定によって数平均重合度を知ることができる。なお、イミド化率が90%以上のものが対象の場合には、GPC測定法によって求め、イミド化率が90%未満の場合には、赤外分光法によるイミド化率測定法から求めた。
本発明においてGPC測定は以下のようにして行った。日本分光工業株式会社製800シリーズHPLCシステムを用い、カラムはShodex KD−806Mを1 本、カラム部温度は40℃、検出器は未知試料用としてインテリジェント紫外可視分光検出器(吸収波長350nm)、標準物質用として示差屈折計(標準物質はポリエチレングリコール)を使用した。溶媒は塩化リチウム及びリン酸を各々0.05モル/L含むN−メチル−2−ピロリドン溶液を使用し、溶媒の流速は0.5mL/分、サンプルの濃度は約0.1%とした。データの取り込み及びデータ処理はJASCO−JMBS/BORWINを用い行なった。データの取り込みは2回/秒行ない、試料のクロマトグラムを得た。一方、標準物質として分子量82,250、28,700、6,450、1,900のポリエチレングリコールを使用し、これらのクロマトグラムからピークを検出し、保持時間と分子量の関係を示す校正曲線を得た。未知試料の分子量解析は、校正曲線から各保持時間における分子量Mi を各々求め、また、各保持時間におけるクロマトグラムの高さhi の合計に対する分率Wi =hi /Σhi を求め、それらをもとに数平均分子量Mnは1/{Σ(Wi /Mi )}から、重量平均分子量MwはΣ(Wi ・Mi )から求めた。
【0102】
数平均重合度Nは、重合時の仕込み割合に応じて平均化したモノマー単位分子量<m>で数平均分子量Mnを除して求めた。
【0103】
数式3
N=Mn/<m>
【0104】
なお、モノマー単位分子量<m>は下記のとおり求めた。すなわち、複数種のテトラカルボン酸成分(分子量m1,i 、仕込みモル比R1,i 、但し、ΣR1,i =1、i=1,2,3,・・・,n1 )、複数種のジアミン成分(分子量m2,j 、仕込みモル比R2,j 、但し、ΣR2,j =1、j=1,2,3,・・・,n2 )を仕込んだ場合のモノマー単位分子量<m>は下記の式に従って求めた。
【0105】
数式4
<m>=(ΣR1,i m1,i +ΣR2,j m2,j )−36
なお、ポリイミド成分の一部については、N−メチル−2−ピロリドンへの溶解性が乏しいため用いる溶媒を変更し、CF3COONaを0.01モル/L含むヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてGPC測定を行った。このとき、カラムはShodex HFIP−LG+HFIP−806Mを2本、カラム部温度は40℃、検出器はRI−8011、標準物質用として示差屈折計を使用した。溶媒の流速は0.8mL/分、サンプルの濃度は約0.1%とした。標準物質として分子量1,400,000、820,000、480,000、260,000,127,000、67,000、34,500、15,100、6,400、2,400、960のポリメチルメタクリレートを使用し、これらのクロマトグラムからピークを検出し、保持時間と分子量の関係を示す校正曲線を得た。未知試料の分子量解析は、N−メチル−2−ピロリドン溶媒を用いる場合と同様に、校正曲線から各保持時間における分子量Mi を各々求め、また、各保持時間におけるクロマトグラムの高さhi の合計に対する分率Wi =hi /Σhi を求め、それらをもとに数平均分子量Mnは1/{Σ(Wi /Mi )}から、重量平均分子量MwはΣ(Wi ・Mi )から求めた。
【0106】
(イミド化率の測定による重合度の測定)
赤外分光法によるイミド化率の測定はパーキンエルマー社製スペクトラムワンを用い、全反射吸収測定法−フーリエ変換赤外分光法(ATR−FTIR)によって行った。イミド化率pI の算出は、イミド結合のC−N伸縮振動(波数約1360cm-1)の吸光度Aを芳香核C=C面内振動(波数約1500cm-1)の吸光度AI を内部標準として規格化した値(A/AI )を、190℃にて5時間熱処理した後の試料について先と同様にして求めたC−N伸縮振動の吸光度AS を芳香核C=C面内振動の吸光度ASIを内部標準として規格化した値(AS /ASI)で除して求めた。
【0107】
数式5
pI =(A/AI )/(AS /ASI)
なお、吸収バンドの吸光度は、吸収バンドの両側の谷を結んだ線をベースラインとしたピーク強度とした。
ここで得られたイミド化率の値から、さらに下記式により数平均重合度Nを求めた。
【0108】
数式6
N=(1+r)/(2r(1−pI )+(1−r))
ここでrはポリイミドのテトラカルボン酸成分の総モル数に対するジアミン成分の総モル数の組成比であり、ジアミン成分がテトラカルボン酸成分より多い場合その逆数を取るものとし(即ちどの場合においてもrは1以下)、pI はイミド化率である。
【0109】
(X線光電子分光による緻密層表面のフッ素原子濃度の測定)
本発明において、フッ素原子含有ポリイミドが緻密層に存在する割合は、X線光電子分光(以下、XPSまたはESCAと略記する場合もある)で緻密層表面のフッ素原子濃度φS を調べることにより知ることができる。
ここで、特定元素jの原子濃度φj は、ポリイミドに含まれる検出可能な(水素原子とヘリウム原子は検出できない)各元素の原子数をNi (下付きの添え字は元素の種類を表す)とし、特定の元素jの原子数をNj として、下記数式で表されるものである。
【0110】
数式7
φj =Nj /ΣNi
(ここで、ΣNi はポリイミドに含まれる検出可能な全元素の原子数の和を示す。)
【0111】
XPSの測定は、X線をポリイミド非対称膜の緻密層表面に照射し、ポリイミドに含まれる各々の元素の各軌道にある電子を真空中に放出させ、放出された電子(光電子)の運動エネルギーに対する光電子の強度(光電子スペクトル)を測定することによって行われる。本発明においては、照射するX線として、ポリイミド表面の損傷などを抑制するために、XPSに不必要なX線成分を除去した単色化AlKα線が好適に利用される。
また、光電子の運動エネルギーEk から電子の物質原子中における束縛エネルギーEb が、下記数式で求められる。
【0112】
数式8
Eb =hν−Ek −W
(ここで、hνは照射X線のエネルギー、Wは光電子を検出した分光器の仕事関数である。)
この束縛エネルギーの値は、元素と電子軌道によりほぼ決まった値をとるので、照射X線のエネルギーを適当に選択すれば、原理的には全元素の検出が可能なはずである。しかしながら、各軌道の電子がX線によって励起される確率(光イオン化断面積)が小さい水素とヘリウムに関しては、実際には観測できない。
ポリイミドに含まれる特定の元素jのl軌道からX線照射によって放出された光電子の強度Ij は下記数式で示される。
【0113】
数式9
Ij =Nj σj l λj l Aj l
(ここで、Nj は単位体積当りの元素jの原子数、σj l は元素jのl殻に対する光イオン化断面積、λj l は元素jのl殻から放出された電子がポリイミド中を走行する際の非弾性散乱平均自由行程、Aj l は元素jのl殻から放出された電子に対する装置関数、Rはポリイミド非対称膜の表面粗さ係数である。)
光イオン化断面積σj l 、非弾性散乱平均自由行程λj l の値は公知である。Aj l は装置と測定条件から決まる値である。Rの値はサンプルによって異なるが、強度比を取ると消える値であるため、後述する原子濃度の算出には必要ない。
【0114】
本発明において、ポリイミドに含まれる特定の元素jの原子濃度φj は、測定された光電子の強度Ij を用いて下記数式で求めた。
【0115】
数式10
φj =(Ij /Sj )/Σ(Ii /Si )
(ここで、Sj =σj l λj l Aj l であり、Sj は元素iに対する相対的な感度を表しており、Σ(Ii /Si )はポリイミドに含まれる検出できる全ての元素iについて光電子の強度を前記の相対感度で除した値の和を表している。)
なお、相対感度Sj は原子濃度が既知である基準物質等を用いて別途決定することができる。相対感度Sj として、XPSの装置メーカーなどから提供されている相対感度S'j を便宜的に用いることがあるが、本発明においては、単一組成からなる、換言すれば1種類のテトラカルボン酸成分と1種類のジアミン成分からなるホモポリイミド(原子濃度が既知)を用いて相対感度を決定した。
すなわち、単一組成のポリイミド(1種類のテトラカルボン酸成分と1種類のジアミン成分からなるホモポリイミド)からなるサンプルについては、表面原子濃度φs,j の値と該ポリイミドにおける平均の原子濃度の値fj がほぼ一致することが期待されるが、表面原子濃度φs,j を求める際に用いる相対感度Sj として、XPSの装置メーカーなどから提供されている相対感度係数を装置関数で補正した相対感度S'j をそのまま用いた場合、φs,j とfj の間にしばしばズレが生じる。これは前記相対感度S'j が、ポリイミド以外の他の標準物質を用いて実験的に決められた値であることによる。このためポリイミド材料の表面原子濃度を求める際の相対感度Sj は、単一組成のホモポリイミドからなるサンプルを用いたときの表面原子濃度φs,j と平均の原子濃度fj が一致するように、S'j を補正した値を用いた。すなわち、本発明の相対感度Sj は、下記数式で示される。
【0116】
数式11
Sj =S'j ×αj
(ここでαj は元素jについて、他の標準材料を用いて決定された相対感度S'j をポリイミド材料に適用するために使用する補正係数である)
本発明においては前記補正係数を元素ごとに測定して求め、その補正係数で補正した相対感度Sj を用いた。
本発明において、光電子の強度Ij は、XPS測定の結果得られる光電子スペクトルについて、光電子ピークの面積から求めた。光電子ピークのうち、比較的に光イオン化断面積の大きい遷移に関するものが好適に利用される。通常は光イオン化断面積の値が炭素1s軌道の値の10%より高い遷移に関する光電子ピークが好適に利用される。本発明では、フッ素に関しては1s軌道からの光電子ピークを好適に利用でき、例えば炭素に関しては1s軌道、窒素に関しては1s軌道、酸素に関しては1s軌道、硫黄に関しては2p軌道から放出された光電子ピークを好適に利用できた。
また、光電子スペクトルは、光電子が試料から真空中へ脱出する過程で非弾性散乱を起こすことにより生じたバックグラウンドを含んでいる。このため、原子濃度の決定に利用する各光電子ピークについて、前記のバックグラウンドを差し引いた後に求めた残りの面積をIj とした。
【0117】
更に、本発明のXPSの測定において、ポリイミド非対称膜が中空糸の場合、照射径を中空糸径より細く絞ったX線が使用される。中空糸径が30μm以上概略100μm程度以上であるため、照射径として100μmφ程度以下が好適に採用され、更に20μmφ程度が好適に採用された。
また、光電子の放出によりポリイミド表面が帯電するため、電子線照射などによる試料表面電荷の中和が好適に採用された。
XPSの測定においては、試料表面から測った光電子の取り出し角度(エミッション角)θに応じて、XPSで測定される厚みが変化する。XPSで検出される光電子の95%は試料表面から測った厚み3λj l sinθの範囲から放出されたものである。θの値には、測定が可能な範囲であれば特に制限はないが、45°などが好適に利用される。分析される厚みとしては試料表面から数nmの厚みの範囲となる。このためXPSで測定された原子濃度は表面から数nmの厚みの範囲における表面原子濃度φs,j である。
一方、膜全体を形成した多成分のポリイミドに含まれる元素jについての平均の原子濃度fj は下記数式で示される。
【0118】
数式12
fj =Σmk nk /Σmk Nk
(ここでnk はモノマーkに含まれる元素jの原子数であり、モノマーkがテトラカルボン酸又はその無水物の場合で元素jが酸素の場合、ポリイミド重合時に縮合水として脱離する酸素原子の数を除いた数であり、Nk はモノマーkに含まれるX線光電子分光で検出可能な全原子数であり、モノマーkがテトラカルボン酸又はその無水物の場合、ポリイミド重合時に縮合水として脱離する酸素原子の数を除いた数であり、mk は膜を形成した多成分のポリイミド中におけるモノマーkのモル分率であり、Σは多成分のポリイミドに含まれる全てのモノマーkについて和を取ることを示す)
本発明において、膜全体における平均のフッ素原子濃度(f)は、前記数式に基づいて算出されたものである。
【0119】
(表面張力の測定)
本発明においてポリイミドフィルムの表面張力測定は、表面張力の異なる種々の試験用混合液を用い、フィルム上にこれらの液滴を形成させ、その液滴の接触角(θ)を測定し、種々の試験用混合液の表面張力とcosθとの関係、すなわちZismanプロットからcosθが1になる表面張力(臨界表面張力)を、外挿により求める方法で行った。
具体的に説明すれば、測定装置はクルス自動接触角計DSA20装置を使用した。測定温度は23℃で行った。測定表面はフィルム形成時の空気に曝した表面とし、和光純薬工業株式会社製ぬれ張力試験用混合液(表面張力の異なる種々の混合液)を乗せ、各々の液滴の接触角を測定した。液滴の接触角評価方法として、静置した液滴の完全な輪郭を一般円錐曲線式でフィッティングすることによって、3相の接点での傾斜を基準線における曲線式の導関数として求め、これによって接触角を決定する方法を用いた。接触角は、まず試験用混合液を5μL 乗せ30秒後に測定した。次いで試験用混合液をさらに5μL 増やして接触角を測定し、これを繰り返し合計量30μLまで求めた。試験用混合液の液適量と接触角との関係から液適量が0μLの接触角を求め、これを試験フィルム表面におけるその試験用混合液の接触角(θ)とした。表面張力の異なる種々の液体を用いて、同様にフィルム表面における各々の接触角(θ)を求め、試験用混合液の表面張力とcosθとの関係、すなわちZismanプロットから試験フィルムの表面張力(臨界表面張力)を求めた。
なお、原料組成をランダム重合して得られたポリイミドフィルムの表面張力をγrandとして、本発明で得られたポリイミドフィルムの表面張力をγとしたときの、表面張力の変化δは、δ=γ−γrandで求めた。
【0120】
(ガラス転移温度の測定)
本発明においてガラス転移温度Tgは、レオメトリックスサイエンティフィック社製固体粘弾性アナライザーRSAIIIを用い、各ポリイミド成分からなるフィルムについて、損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を測定し、tanδのピーク位置の温度として求めた。前記tanδ曲線の測定は、サンプルを予め120℃で10分間保持した後、窒素気流下で、−150℃から450℃まで3℃刻みで各温度において、測定周波数10Hzにて、フィルムの貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"を測定し求めた。
上記測定でtanδ曲線に明確なピークが観察されない一部のホモポリイミドについては、Biceranoの方法に従いAccelrys社製Materials Studio(ver. 4.0)のSynthiaモジュールを用いて、ガラス転移温度の推算値Tgcalcを求め、参考値として代用した。ランダムコポリイミド成分についてTgcalcを推算する場合については、ランダムコポリイミドを構成する各ホモポリイミド成分iについて上記Biceranoの方法で求めたTgcalc,i、及びランダムコポリイミド中における各ホモポリイミド成分iの重量分率wiを用い、次のFoxの式を使って見積もった。
【0121】
数式13
ランダムコポリイミドのTgcalc=1/[Σ(wi/Tgcalc,i)]
【0122】
(回転粘度の測定方法)
ポリイミド溶液の溶液粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75sec-1)を用い温度100℃で測定した。
【0123】
(ポリイミドフィルムの作製)
ポリイミド溶液は、溶液粘度が100℃で50〜1000ポイズになるように調製し、400メッシュ金網を用いて濾過し、引き続き100℃で静置により脱泡した。このポリイミド溶液を50℃でガラス板上に0.5mmまたは0.2mmのドクターナイフを用いて流延し、オーブン中100℃で3時間加熱し溶媒を蒸発させ、更にオーブン中300℃で1時間加熱処理をおこないポリイミドフィルムを得た。
【0124】
(フィルムの機械的性質の測定)
ポリイミドを幅約2mmに切り出して得られた短冊状試験片を、紙枠にエポキシ接着剤で固定したものをサンプルとして、引張り試験を行った。試験フィルムの断面積は、サンプルの厚さをデジタルダイヤルゲージを用いて測定し、幅を光学顕微鏡像上にて測定し、算出した。引張試験は、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気にて、有効長20mm、引張り速度10mm/分にて行い、初期弾性率(単に弾性率と書くこともある)、破断強度、破断伸びを測定した。
(フィルムの濁りの測定)
フィルムの濁りの有無は目視にても判定できるが、フィルムのヘイズ値を用いて判定した。日本分光工業株式会社製V−570紫外可視近赤外分光光度計を用い、積分球(日本分光工業株式会社製ISN−470)測定を行うことにより、各フィルムについて全光線透過率Tt、散乱光線透過率Tdを測定し、ヘイズ値Th=Td/Tt×100(%)を求めた。このヘイズ値が50%より大きいフィルムを、濁りありと判定した。例えば、後述する実施例3、比較例3のフィルムはヘイズ値が4%未満なのに対して、比較例4、比較例5のフィルムはヘイズ値がそれぞれ61%、87%であった。従って実施例3、比較例3は濁りなし、比較例4、比較例5のフィルムは濁りありと判定した。
(凍結破断面のノジュールサイズの測定)
フィルムを液体窒素温度に冷却し、予めフィルムの一部に導入した切れ込みから瞬時に破断して、フィルムの凍結破断面を得た。この凍結破断面に、極薄い導電膜をコーティングした後、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて破断面の形態を観察した。フィルムの破断は、フィルム中における多成分ポリイミドの多数の分子鎖の空間的な配置がつくる構造(これ以降、単に高次構造と呼ぶこともある)の内で相対的に脆弱な部分を通して進行するため、破断面には前記高次構造の特徴を反映した凹凸の形態(これ以降、単に破断面のモルホロジーと呼ぶこともある)が出現する。この破断面のモルホロジーは1nm〜100nm程度のサイズを有する微小な粒子、あるいは微小な枝状物ともいうべき構造(これ以降、この構造をノジュールと呼ぶこともある)が集合したように見える高次構造を示した。高次構造はポリイミド分子鎖の空間的な配置によるのであるから、多成分ポリイミドの分子構造(鎖構造)がブロック性を有する場合と、ランダム共重合体である場合とで前記高次構造は異なり、またミクロ相分離とも言うべき相分離状態が生じている場合と生じていない場合、あるいはマクロ相分離が生じている場合それぞれにおいて前記高次構造は異なる。なお、破断面のモルホロジーが示す微小な粒子の直径、あるいは微小な枝状物の長手方向と垂直な方向における断面径をFE−SEM像上で計測し、その平均値を凝集構造の特徴的なサイズλとした。
【0125】
(実施例1)
ポリイミドAとして2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(以下、6FDAと略記することもある)とジメチル−3,7−ジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド(以下、TSNと略記することもある)からなるホモポリイミド(6FDA−TSN)、ポリイミドBとして3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAと略記することもある)とTSNからなるポリイミド(s−BPDA−TSN)を選んだ。
この場合、ポリイミドAの溶解度パラメータSPA は24.33MPa1/2、ポリイミドBの溶解度パラメータSPB は25.38MPa1/2であり、|SPB −SPA |=1.05MPa1/2であった。
またポリイミドAの弾性率EA は3.80GPa、ガラス転移温度TgA (参考値)は371℃であり、ポリイミドBの弾性率EB は5.07GPa、ガラス転移温度TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=1.33、|TgB −TgA |>29℃であった。
s−BPDA12.36gとTSN11.38g(酸二無水物1モル部に対してジアミンが0.988モル部、B/A=0.988)を、溶媒のパラクロロフェノール(以下、PCPと略記することもある)171gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で30時間重合イミド化し、ポリマー濃度が11.5重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、75であった。このポリイミド溶液へ2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(以下、6FDAと略記することもある)12.44gとTSN8.30g(酸二無水物1モル部に対してジアミンが1.081モル部)を溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で8時間重合イミド化し、回転粘度が2306ポイズ、ポリマー濃度が18重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、40であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは25μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例1)の表面張力γrandと比較して、その差|γ−γrand|が5.0mN/mであった。またこのフィルムの弾性率Eは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例1)の弾性率Erandと比較して、その比E/Erandが1.019であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例1)のフッ素原子濃度φs,randと比較して、その比(φs/φs,rand)が2.2であった。
また、このポリイミドフィルム凍結破断面のFE−SEMを用いて観察し、ノジュールサイズをもとめた。(図8
【0126】
(比較例1)
s−BPDA12.36gと6FDA12.44gとTSN19.68gを、溶媒のPCP191gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で16時間重合イミド化し、回転粘度が2195ポイズ、ポリマー濃度が18重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、44であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは25μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この例は原料組成が実施例1とほぼ同じであるが、φs/fが1.05であり、低いものであった。またこのフィルムの弾性率、破断強度は、実施例1のフィルムのそれらより低いものであった。
また、このポリイミドフィルム凍結破断面のFE−SEMを用いて観察し、ノジュールサイズをもとめた。(図9
【0127】
(実施例2)
ポリイミドAとして6FDAと3,5−ジアミノ安息香酸(以下、DABAと略記することもある)からなるホモポリイミド(6FDA−DABA)、ポリイミドBとしてs−BPDAとTSNからなるポリイミド(s−BPDA−TSN)を選んだ。
この場合、SPA は24.31MPa1/2、SPB は25.38MPa1/2であり、|SPB −SPA |=1.07MPa1/2であった。
またEA は3.87GPa、TgA (参考値)は275℃であり、EB は5.07GPa、TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=1.31、|TgB −TgA |>125℃であった。
s−BPDA12.36gとTSN11.38gを、溶媒のPCP154gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で30時間重合イミド化し、ポリマー濃度が12.6重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、75であった。このポリイミド溶液へ6FDA12.44gとDABA4.61gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で5時間重合イミド化し、回転粘度が2120ポイズ、ポリマー濃度が18重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、78であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例2)と比較して|γ−γrand|が4.6mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例2と比較して、その比E/Erandが1.136であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例2)と比較して、その比(φs/φs,rand)が2.3であった。
【0128】
(比較例2)
s−BPDA12.36gと6FDA12.44gとTSN11.81gとDABA4.37gを、溶媒のPCP175gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で26時間重合イミド化し、回転粘度が1655ポイズ、ポリマー濃度が18重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、44であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは29μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この例は原料組成が実施例2とほぼ同じであるが、φs/fが1.04であり、低いものであった。またこのフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例2のフィルムのそれらより低いものであった。
【0129】
(実施例3)
ポリイミドAとして6FDAとTSN、DABA(TSNとDABAのモル比85/15)からなるランダムコポリイミド(6FDA−TSN−DABA)、ポリイミドBとしてs−BPDAとTSNからなるポリイミド(s−BPDA−TSN)を選んだ。
この場合、SPA は24.33MPa1/2、SPB は25.38MPa1/2であり、|SPB −SPA |=1.05MPa1/2であった。
またEA は3.82GPa、TgA (参考値)は335℃であり、EB は5.07GPa、TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=1.33、|TgB −TgA |>65℃であった。
s−BPDA12.36gとTSN11.35gを、溶媒のPCP165gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で35時間重合イミド化し、ポリマー濃度が11.9重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、77であった。このポリイミド溶液へ6FDA12.44gとTSN5.21gDABA1.73gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で8時間重合イミド化し、回転粘度が1618ポイズ、ポリマー濃度が18重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、41であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは26μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例3)と比較して|γ−γrand|が6.8mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例3と比較して、その比E/Erandが1.038であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例3)と比較して、その比(φs/φs,rand)が2.0であった。
【0130】
(比較例3)
s−BPDA12.36gと6FDA12.44gとTSN16.73gとDABA1.64gを、溶媒のPCP185gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で13時間重合イミド化し、回転粘度が2623ポイズ、ポリマー濃度が18重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、37であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは28μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この例は原料組成が実施例3とほぼ同じであるが、φs/fが1.23であり、低いものであった。またこのフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例3のフィルムのそれらより低いものであった。
【0131】
(比較例4)
ポリイミドAとして6FDAとTSN、DABA(TSNとDABAのモル比5/3)からなるホモポリイミド(6FDA−TSN−DABA)、ポリイミドBとしてs−BPDAとTSN、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DADEと略記することもある)(TSNとDADEのモル比9/1)からなるポリイミド(s−BPDA−TSN−DADE)を選んだ。なおDADEの量は僅少であるため、実施例3の組成の組合せとほぼ同じものである。
6FDA27.32gとTSN10.29gとDABA3.42gを溶媒のPCP162gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で110時間重合イミド化し、ポリマー濃度が19.3重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、30であった。
s−BPDA52.66gとTSN46.00gとDADE3.73gを、溶媒のPCP419gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で25時間重合イミド化し、ポリマー濃度が18.7重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、63であった。
次に前記ポリイミドA溶液92g及び前記ポリイミドB溶液100gをセパラブルフラスコに秤り取り混合した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で3時間重合イミド化し、回転粘度が1618ポイズ、ポリマー濃度が18.8重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、76であった。このNA、NBは本発明の範囲からはずれるものである。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度は、実施例3のフィルムのそれらより低いものであった。
このフィルムはマクロ相分離を示し濁ったものとなった。
【0132】
(比較例5)
ポリイミドA、ポリイミドBは比較例4と同じ化学構造を選んだ。
6FDA26.65gとTSN10.49gとDABA3.49gを溶媒のPCP161gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で40時間重合イミド化し、ポリマー濃度が19.3重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、44であった。
s−BPDA52.66gとTSN46.00gと4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DADEと略記することもある)3.73gを、溶媒のPCP419gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で25時間重合イミド化し、ポリマー濃度が18.7重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、66であった。
次に前記ポリイミドA溶液90g及び前記ポリイミドB溶液100gをセパラブルフラスコに秤り取り混合した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに温度130℃で3時間攪拌混合し、回転粘度が2753ポイズ、ポリマー濃度が19重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、56であった。このNA、NBは本発明の範囲からはずれるものである。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは30μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度は、実施例3のフィルムのそれらより低いものであった。
このフィルムはマクロ相分離を示し濁ったものとなった。
【0133】
(実施例4)
ポリイミドAとして6FDA、s−BPDAとTSN、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン(以下MASNと略する場合もある)、DABA(6FDAとs−BPDAのモル比4/3、TSN、MASN、DABAのモル比4/2/1)からなるランダムコポリイミド(6FDA−s−BPDA−TSN−MASN−DABA)、ポリイミドBとしてs−BPDAとTSNからなるポリイミド(s−BPDA−TSN)を選んだ。
この場合、SPA は24.77MPa1/2、SPB は25.38MPa1/2であり、|SPB −SPA |=0.61MPa1/2であった。
またEA は4.17GPa、TgA (参考値)は343℃であり、EB は5.07GPa、TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=1.21、|TgB −TgA |>57℃であった。
s−BPDA6.36gとTSN6.07gを、溶媒のPCP171gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で27時間重合イミド化し、ポリマー濃度が6.4重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、57であった。このポリイミド溶液へs−BPDA6.36gと6FDA12.79gとTSN8.10gとMASN3.67gとDABA1.12gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で19時間重合イミド化し、回転粘度が1507ポイズ、ポリマー濃度が18重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、50であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは34μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と比較して|γ−γrand|が4.9mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例6と比較して、その比E/Erandが1.055であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と比較して、その比(φs/φs,rand)が1.2であった。
【0134】
(実施例5)
ポリイミドAとして6FDAとTSN、MASN、DABA(TSN、MASN、DABAのモル比1/2/1)からなるランダムコポリイミド(6FDA−s−BPDA−TSN−MASN−DABA)、ポリイミドBとしてs−BPDAとTSNからなるポリイミド(s−BPDA−TSN)を選んだ。
この場合、SPA は24.34MPa1/2、SPB は25.38MPa1/2であり、|SPB −SPA |=1.04MPa1/2であった。
またEA は3.76GPa、TgA (参考値)は279℃であり、EB は5.07GPa、TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=1.35、|TgB −TgA |>121℃であった。
6FDA23.10gとTSN3.66gとMASN6.62gとDABA2.03gを溶媒のPCP153gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で6時間重合イミド化し、ポリマー濃度が18重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、4.9であった。
s−BPDA21.18gとTSN20.25gを、溶媒のPCP177gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で0.5時間重合イミド化し、ポリマー濃度が18重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、6.0であった。
次に前記ポリイミドA溶液88g及び前記ポリイミドB溶液110gをセパラブルフラスコに秤り取り混合した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で19時間重合イミド化し、回転粘度が1376ポイズ、ポリマー濃度が18重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、57であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは30μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と比較して|γ−γrand|が5.0mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例6と比較して、その比E/Erandが1.175であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と比較して、その比(φs/φs,rand)が1.7であった。
【0135】
(実施例6)
ポリイミドA、ポリイミドBは実施例5と同じ化学構造を選んだ。
s−BPDA12.36gとTSN11.35gを、溶媒のPCP165gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で27時間重合イミド化し、ポリマー濃度が11.8重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、76であった。このポリイミド溶液へ6FDA12.44gとTSN2.08gとMASN3.77gとDABA1.16gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で30時間重合イミド化し、回転粘度が911ポイズ、ポリマー濃度が18重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、45であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは36μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と比較して|γ−γrand|が8.1mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例6と比較して、その比E/Erandが1.113であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と比較して、その比(φs/φs,rand)が2.0であった。
【0136】
(比較例6)
s−BPDA12.71gと6FDA12.79gとTSN14.17gとMASN3.67gとDABA1.12gを、溶媒のPCP191gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で73時間重合イミド化し、回転粘度が1190ポイズ、ポリマー濃度が18重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、49であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは34μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この例は原料組成が実施例6とほぼ同じであるが、φs/fが1.25であり、低いものであった。またこのフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例4、5、6の各フィルムのそれらより低いものであった。
【0137】
(実施例7)
ポリイミドAとしてs−BPDAと2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(以下、HFBAPPと略記することもある)からなるホモポリイミド(s−BPDA−HFBAPP)、ポリイミドBとしてs−BPDAと1,4−ジ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPEQと略記することもある)、DADE(TPEQ、DADEのモル比3/2)からなるランダムコポリイミド(s−BPDA−TPEQ−DADE)を選んだ。
この場合、SPA は22.67MPa1/2、SPB は23.80MPa1/2であり、|SPB −SPA |=1.13MPa1/2であった。
またEA は2.59GPa、TgA は260℃であり、EB は3.49GPa、TgB は284℃であった。従ってEB/EA=1.34、|TgB −TgA |=24℃であった。
s−BPDA4.61gと2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(以下、HFBAPPと略記することもある)8.30gを、溶媒のPCP171gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で8時間重合イミド化し、ポリマー濃度が6.7重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、18.2であった。このポリイミド溶液へs−BPDA18.45gと1,4−ジ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPEQと略記することもある)11.23gとDADE5.13gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で4時間重合イミド化し、回転粘度が1190ポイズ、ポリマー濃度が19重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、39であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは29μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例7)と比較して|γ−γrand|が1.9mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例7と比較して、その比E/Erandが1.083であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例7)と比較して、その比(φs/φs,rand)が2.0であった。
【0138】
(比較例7)
s−BPDA23.07gとHFBAPP8.30gとTPEQ11.23gとDADE5.13gを、溶媒のPCP191gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で3時間重合イミド化し、回転粘度が1246ポイズ、ポリマー濃度が19重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、41であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度は、実施例7のフィルムのそれらより低いものであった。
【0139】
(実施例8)
ポリイミドA、ポリイミドBは実施例7と同じ化学構造を選んだ(ポリイミドAとポリイミドBの比率が異なる)。
s−BPDA6.92gとHFBAPP12.44gを、溶媒のPCP180gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で15時間重合イミド化し、ポリマー濃度が9.3重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、22.5であった。このポリイミド溶液へs−BPDA16.15gとTPEQ9.82gとDADE4.49gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で4時間重合イミド化し、回転粘度が1897ポイズ、ポリマー濃度が19重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、44であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例8)と比較して|γ−γrand|が0.9mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例8と比較して、その比E/Erandが1.078であった。
このフィルム表面のフッ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例8)と比較して、その比(φs/φs,rand)が1.8であった。
【0140】
(比較例8)
s−BPDA23.07gとHFBAPP12.44gとTPEQ9.82gとDADE4.49gを、溶媒のPCP191gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で3時間重合イミド化し、回転粘度が1079ポイズ、ポリマー濃度が19重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、37であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例8のフィルムのそれらより低いものであった。
【0141】
(実施例9)
ポリイミドAとしてs−BPDAと1,4−ビス(3−アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン(以下、ADBと略記することもある)からなるホモポリイミド(s−BPDA−ADB)、ポリイミドBとしてs−BPDAとTSNからなるホモポリイミド(s−BPDA−TSN)を選んだ。
この場合、SPA は20.71MPa1/2、SPB は25.38MPa1/2であり、|SPB −SPA |=4.67MPa1/2であった。
またEA は0.02GPa、TgA は125℃であり、EB は5.07GPa、TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=330、|TgB −TgA |>275℃であった。
s−BPDA14.12gとTSN13.43gを、溶媒のPCP126.1gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で15時間重合イミド化し、ポリマー濃度が17.0重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、57であった。このポリイミド溶液へs−BPDA3.53gと1,4−ビス(3−アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン(以下、ADBと略記することもある)3.78gを溶媒のPCP33.6gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で5時間重合イミド化し、回転粘度が930ポイズ、ポリマー濃度が17重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、31であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは19μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例9)と比較して|γ−γrand|が8.6mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例9と比較して、その比E/Erandが1.077であった。
このフィルム表面のケイ素原子濃度φsは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例9)のそれと比較して、その比(φs/φs,rand)が3.3であった。
【0142】
(比較例9)
s−BPDA17.65gとTSN13.43gとADB3.78gを、溶媒のPCP159.7gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で17時間重合イミド化し、回転粘度が781ポイズ、ポリマー濃度が17重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、49であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは26μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この例は原料組成が実施例9とほぼ同じであるが、φs/fが2.2であり、低いものであった。またこのフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例9のフィルムのそれらより低いものであった。
【0143】
(実施例10)
ポリイミドAとしてs−BPDAと2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(以下、BAPPと略記することもある)からなるホモポリイミド(s−BPDA−BAPP)、ポリイミドBとしてs−BPDAと2,2'−ジメチルー4,4'−ジアミノジフェニル(以下、m−ToLと略記することもある)からなるホモポリイミド(s−BPDA−m−ToL)を選んだ。
この場合、SPA は22.67MPa1/2、SPB は23.42MPa1/2であり、|SPB −SPA |=0.75MPa1/2であった。
またEA は2.52GPa、TgA は260℃であり、EB は6.53GPa、TgB は330℃であった。従ってEB/EA=2.59、|TgB −TgA |=70℃であった。
s−BPDA5.88gと2,2'−ジメチルー4,4'−ジアミノジフェニル(以下、m−ToLと略記することもある)4.33gを、溶媒のPCP53.8gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で12時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、51であった。このポリイミド溶液へs−BPDA5.88gと2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(以下、BAPPと略記することもある)8.37gを溶媒のPCP76.7gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で5時間重合イミド化し、回転粘度が751ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、68であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは20μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例10)と比較して|γ−γrand|が6.6mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例10と比較して、その比E/Erandが1.032であった。
また、このポリイミドフィルム凍結破断面のFE−SEMを用いて観察し、ノジュールサイズをもとめた。(図10
【0144】
(比較例10)
s−BPDA11.77gとm−ToL4.33gとBAPP8.37gを溶媒のPCP130.5gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で17時間重合イミド化し、回転粘度が552ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、50であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは20μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度は、実施例10のフィルムのそれらより低いものであった。
また、このポリイミドフィルム凍結破断面のFE−SEMを用いて観察し、ノジュールサイズをもとめた。(図11
【0145】
(実施例11)
ポリイミドAとポリイミドBは実施例10と同じ化学構造を選んだ(ポリイミドAとポリイミドBの比率が異なる)。
s−BPDA8.24gとm−ToL6.06gを、溶媒のPCP75.3gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で13時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、56であった。このポリイミド溶液へs−BPDA3.53gとBAPP5.02gを溶媒のPCP46.1gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で4時間重合イミド化し、回転粘度が460ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、42であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例11)と比較して|γ−γrand|が1.5mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例11と比較して、その比E/Erandが1.100であった。
【0146】
(比較例11)
s−BPDA11.77gとm−ToL6.06gとBAPP5.02gを溶媒のPCP121.4gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で19時間重合イミド化し、回転粘度が580ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、53であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは29μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例11のフィルムのそれらより低いものであった。
【0147】
(実施例12)
ポリイミドAとポリイミドBは実施例10と同じ化学構造を選んだ(ポリイミドAとポリイミドBの比率が異なる)。
s−BPDA3.53gとm−ToL2.60gを、溶媒のPCP32.3gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で15時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、50であった。このポリイミド溶液へs−BPDA8.24gとBAPP11.72gを溶媒のPCP107.4gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で5時間重合イミド化し、回転粘度が420ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、39であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは28μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例12)と比較して|γ−γrand|が2.4mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例12と比較して、その比E/Erandが1.064であった。
【0148】
(比較例12)
s−BPDA11.77gとm−ToL2.60gとBAPP11.72gを溶媒のPCP139.7gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で17時間重合イミド化し、回転粘度が550ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、50であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは24μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度は、実施例12のフィルムのそれらより低いものであった。
【0149】
(実施例13)
ポリイミドAとしてs−BPDAとDADEからなるホモポリイミド(s−BPDA−DADE)、ポリイミドBとしてs−BPDAとm−ToLからなるホモポリイミド(s−BPDA−m−ToL)を選んだ。
この場合、SPA は24.12MPa1/2、SPB は23.42MPa1/2であり、|SPB −SPA |=0.70MPa1/2であった。
またEA は2.94GPa、TgA は300℃であり、EB は6.53GPa、TgB は330℃であった。従ってEB/EA=2.22、|TgB −TgA |=30℃であった。
s−BPDA3.53gとm−ToL2.60gを、溶媒のPCP32.3gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で11時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、49であった。このポリイミド溶液へs−BPDA8.24gとDADE5.72gを溶媒のPCP73.4gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で3時間重合イミド化し、回転粘度が508ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、46であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは24μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例13)と比較して|γ−γrand|が4.0mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例13と比較して、その比E/Erandが1.090であった。
【0150】
(比較例13)
s−BPDA11.77gとm−ToL2.60gとDADE5.72gを溶媒のPCP105.7gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で13時間重合イミド化し、回転粘度が470ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、45であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例13のフィルムのそれらより低いものであった。
【0151】
(実施例14)
ポリイミドAとポリイミドBは実施例10と同じ化学構造を選んだ(ポリイミドAとポリイミドBの比率が異なる)。
s−BPDA8.24gとBAPP11.72gを、溶媒のPCP107.4gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で15時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、52であった。このポリイミド溶液へs−BPDA3.53gとm−ToL2.60gを溶媒のPCP32.3gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で5時間重合イミド化し、回転粘度が630ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、58であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは21μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例14)と比較して|γ−γrand|が2.5mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例14と比較して、その比E/Erandが1.155であった。
【0152】
(比較例14)
s−BPDA11.77gとm−ToL2.60gとBAPP11.72gを溶媒のPCP139.7gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で14時間重合イミド化し、回転粘度が621ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、56であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは26μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度は、実施例14のフィルムのそれらより低いものであった。
【0153】
(実施例15)
ポリイミドAとして3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(以下、ETDAと略記することもある)とBAPPからなるホモポリイミド(ETDA−BAPP)、ポリイミドBとしてETDAとm−ToLからなるホモポリイミド(ETDA−m−ToL)を選んだ。
この場合、SPA は22.68MPa1/2、SPB は23.42MPa1/2であり、|SPB −SPA |=0.74MPa1/2であった。
またEA は3.15GPa、TgA は204℃であり、EB は3.42GPa、TgB は285℃であった。従ってEB/EA=1.08、|TgB −TgA |=80℃であった。
ETDA4.65gとm−ToL3.25gを、溶媒のPCP41.7gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で12時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、51であった。このポリイミド溶液へETDA10.86gとBAPP14.66gを溶媒のPCP137.4gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で4時間重合イミド化し、回転粘度が577ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、52であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは39μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例15)と比較して|γ−γrand|が3.0mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例15と比較して、その比E/Erandが1.234であった。
【0154】
(比較例15)
ETDA12.41gとm−ToL2.60gとBAPP11.72gを溶媒のPCP143.3gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で17時間重合イミド化し、回転粘度が595ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、54であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは34μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例15のフィルムのそれらより低いものであった。
【0155】
(実施例16)
ポリイミドAとしてs−BPDAとBAPPからなるホモポリイミド(s−BPDA−BAPP)、ポリイミドBとしてs−BPDAと3,3'−ジメチルー4,4'−ジアミノジフェニル(以下、o−ToLと略記することもある)からなるホモポリイミド(s−BPDA−o−ToL)を選んだ。
この場合、SPA は22.67MPa1/2、SPB は23.42MPa1/2であり、|SPB −SPA |=0.75MPa1/2であった。
またEA は2.52GPa、TgA は260℃であり、EB は6.35GPa、TgB は400℃以上であった。従ってEB/EA=2.52、|TgB −TgA |>140℃であった。
s−BPDA4.41gと3,3'−ジメチルー4,4'−ジアミノジフェニル(以下、o−ToLと略記することもある)3.25gを、溶媒のPCP40.4gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で8時間重合イミド化し、ポリマー濃度が15重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、48であった。このポリイミド溶液へs−BPDA10.3gとBAPP14.66gを溶媒のPCP134.3gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で5時間重合イミド化し、回転粘度が616ポイズ、ポリマー濃度が15重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、56であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは35μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例16)と比較して|γ−γrand|が6.8mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例16と比較して、その比E/Erandが1.042であった。
【0156】
(比較例16)
s−BPDA11.77gとo−ToL2.60gとBAPP14.66gを溶媒のPCP139.7gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で17時間重合イミド化し、回転粘度が651ポイズ、ポリマー濃度が15重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、60であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは27μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断伸びは、実施例16のフィルムのそれらより低いものであった。
【0157】
(比較例17)
ポリイミドAとしてs−BPDAとTPEQからなるホモポリイミド(s−BPDA−TPEQ)、ポリイミドBとしてs−BPDAとDADEからなるホモポリイミド(s−BPDA−DADE)を選んだ。
この場合、SPA は23.63MPa1/2、SPB は24.12MPa1/2であり、|SPB −SPA |=0.49MPa1/2であり、このポリイミドAとポリイミドBは相溶性が高い組合せとなっている。
またEA は3.46GPa、TgA は280℃であり、EB は3.54GPa、TgB は290℃であった。従ってEB/EA=1.03、|TgB −TgA |=10℃であり、このポリイミドAとポリイミドBは機械的性質の差が小さい組合せとなっている。
s−BPDA20.16gとDADE2.00gを溶媒のPCP138gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で2時間重合イミド化し、引き続きTPEQ17.54gを溶媒のPCP20gと共に添加し3時間重合イミド化し、ポリマー濃度が19重量%のポリイミドA溶液を得た。このポリイミドAの数平均重合度NA を前記GPC測定方法によって測定したところ、51であった。
s−BPDA6.04gとDADE4.21gを、溶媒のPCP134gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で11時間重合イミド化し、ポリマー濃度が19重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、44であった。
次に前記ポリイミドA溶液137g及び前記ポリイミドB溶液49gをセパラブルフラスコに秤り取り混合した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに温度130℃で3時間攪拌混合し、回転粘度が1990ポイズ、ポリマー濃度が19重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、45であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは24μmであった。得られたフィルムの特性を測定、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例19)と比較して|γ−γrand|が0.2mN/m以下しかなく、弾性率Eは、同じく比較例19と比較して、その比E/Erandが0.986でしかなかった。
【0158】
(比較例18)
ポリイミドA及びポリイミドBとして比較例17と同じ化学構造のものを選んだ。
s−BPDA6.04gとDADE4.21gを、溶媒のPCP131gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で15時間重合イミド化し、ポリマー濃度が6.7重量%のポリイミドB溶液を得た。このポリイミドBの数平均重合度NB を前記GPC測定方法によって測定したところ、46であった。このポリイミド溶液へs−BPDA14.10gとTPEQ12.28gとDADE1.40gを溶媒のPCP20gと共に添加した。この多成分ポリイミドの混合溶液を、さらに反応温度190℃で3時間重合イミド化し、回転粘度が1786ポイズ、ポリマー濃度が19重量%の多成分ポリイミドの混合溶液を得た。この多成分ポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、43であった。
この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは26μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
このフィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例19)と比較して|γ−γrand|が0.2mN/m以下でしかなく、弾性率Eは、同じく比較例19と比較して、その比E/Erandが1.003でしかなかった。
【0159】
(比較例19)
s−BPDA20.14gとTPEQ12.28gとDADE5.61gを、溶媒のPCP151gと共にセパラブルフラスコ中にて反応温度190℃で3時間重合イミド化し、回転粘度が1042ポイズ、ポリマー濃度が19重量%のポリイミド溶液を得た。このポリイミドの数平均重合度を前記GPC測定方法によって測定したところ、36であった。この多成分ポリイミドの混合溶液を用いて、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.5mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは24μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
【0160】
(実施例17)
実施例10で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、上記に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは3μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この極薄フィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなる極薄フィルム(比較例20)と比較して|γ−γrand|が2.4mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例20と比較して、その比E/Erandが1.170であった。
【0161】
(比較例20)
比較例10で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは4μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例17のフィルムのそれらより低いものであった。
【0162】
(実施例18)
実施例12で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは5μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この極薄フィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなる極薄フィルム(比較例21)と比較して|γ−γrand|が6.7mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例21と比較して、その比E/Erandが1.175であった。
【0163】
(比較例21)
比較例12で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは6μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例18のフィルムのそれらより低いものであった。
【0164】
(実施例19)
実施例16で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは4μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この極薄フィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなる極薄フィルム(比較例22)と比較して|γ−γrand|が3.7mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例22と比較して、その比E/Erandが1.314であった。
【0165】
(比較例22)
比較例16で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いてフィルムを製造し、フィルムの厚さは4μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。またこのフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例19のフィルムのそれらより低いものであった。
【0166】
(実施例20)
実施例15で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは7μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。
この極薄フィルムの表面張力γは、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなる極薄フィルム(比較例23)と比較して|γ−γrand|が3.6mN/mであり、弾性率Eは、同じく比較例23と比較して、その比E/Erandが1.089であった。
【0167】
(比較例23)
比較例15で製造した多成分ポリイミドの混合溶液を用い、実施例17に示したポリイミドフィルムの作製方法に従い0.2mmのドクターナイフを用いて極薄フィルムを製造し、フィルムの厚さは7μmであった。得られたフィルムの特性を測定し、その結果を表に示した。またこのフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びは、実施例20のフィルムのそれらより低いものであった。
【0168】
(比較例24)
A=1.7、NB=0.5とした以外は実施例2と同様にしてポリイミドフィルムを得た。このフィルムの弾性率Eは4.10GPaしかなく、ポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例2)と比較して、その比E/Erandが0.901でしかなかった。
【0169】
(比較例25)
A=0.5、NB=7.0とした以外は実施例4と同様にしてポリイミドフィルムを得た。このフィルムの弾性率、破断強度、破断伸びはポリイミドAとポリイミドBのランダムコポリイミドからなるフィルム(比較例6)と略同じものであった。
【0170】
以上の実施例と比較例の結果について、実施例1〜8と比較例1〜8を表1に、実施例9と比較例9を表2に、実施例10〜16と比較例10〜19を表3に、実施例17〜20と比較例20〜23を表4に示した。なお、表中B/Aは、ジアミン成分(B)とテトラカルボン酸成分(A)のモル比を示す。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【0174】
【表4】
【0175】
本発明によれば、表面が改質された多成分ポリイミドフィルムを得ることができる。このポリイミドフィルムは、例えば、フィルムを形成している全ポリイミドの原料成分がランダムに結合したポリイミドフィルムに対して、表面張力が大幅に改質されたものである。
図1
図6
図7
図2
図3
図4
図5
図8
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図10
図11