【発明が解決しようとする課題】
【0003】
斯かるラックピニオン式ステアリング装置においては、ハンドルの回転操作と連動してラックバー5の往復移動を円滑に行わせるべく、鉄系焼結金属あるいは合成樹脂からなるラックガイド6が用いられている。
【0004】
鉄系焼結金属からなるラックガイド6は、ラックバー5からの荷重に対して十分な機械的強度を有する反面、ラックバー5との間の摺動摩擦抵抗が大きいためステアリング系の効率が低下し操舵性に問題を残している。
【0005】
また、合成樹脂からなるラックガイド6は、ラックバー5との間の摺動摩擦抵抗を低減させることができる反面、機械的強度に劣ること、成形収縮などによる寸法のバラツキを生じて寸法精度よく成形し難い上に、成形後の寸法精度を保持し難いこと、さらには、ギヤケース1内に組込まれた後、温度上昇による温度の影響を受けて熱膨張、収縮を来し、熱変形、クリープを生じてラックバー5を長期に亘って円滑に支承し難い、などの問題がある。
【0006】
上記した問題点に鑑み、自己潤滑性を有する合成樹脂あるいは合成樹脂層を具備した複合部材を使用して摺動片9を形成し、斯かる摺動片9を
図10及び
図11に示すようにラックバー5を支承する摺動面側に配して、この摺動片9と鉄系焼結金属あるいはアルミニウム合金からなるラックガイド基体10とを組合せてラックガイド6としたものが提案されている。
【0007】
図10及び
図11に示すラックガイド6は、ハンドルの回転操作と連動してラックバー5の往復移動を円滑に行わせることができることから、近年においては賞用されている。
【0008】
ところで、上記のいずれのラックガイド6でも、ギヤケース1の円筒部11内でのラックガイド6の摺動機能を確保する必要上、ラックガイド6の外周面12とギヤケース1の円筒部11の内周面13との間に20〜50μm程度の摺動隙間(クリアランス)が設けられる。
【0009】
しかしながら、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dが比較的小さい場合には、斯かる摺動隙間(クリアランス)に起因して次のような問題が発生することが確認された。すなわち、ピニオン3とラック歯4との噛合で生じる歯のねじれやラックバー5両端の車輪からの作用によりラックガイド6にラジアル方向の負荷が作用すると、ラックガイド6が該ラックガイド6をラックバー5に向って押圧するコイルばね7との接触部位を支点として大きく回転(首振り)し、その際にラックガイド6がギヤケース1の円筒部11の内周面13に衝突して衝突音を発生すること、またラックガイド6の大きな回転により、ラックバー5のラック歯4がピニオン3から離れ、ラックガイド6が当該ラックガイド6の底面14と蓋部材8との間の隙間分だけ移動し、ラックバー5のラック歯4とピニオン3の歯面間に隙間を生じ、ラックガイド6への負荷方向が逆転する時に、コイルばね7のばね力によってラックバー5が元の位置に戻され、その際にラックバー5のラック歯4とピニオン3の歯とが衝突して衝突音を発生すること、などである。
【0010】
上記したラックガイド6がギヤケース1の円筒部11の内周面13に衝突して発生する衝突音及びラックバー5のラック歯4とピニオン3の歯とが衝突して発生する衝突音は、自動車を運転する者に不快感を与えることになる。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、ラックガイドにラジアル方向の負荷が作用した場合でも、ラックガイドのギアケースの円筒部の内周面への衝突による衝突音及びラックバーのラック歯とピニオンの歯との衝突による衝突音の発生を極力小さくすることを可能とし、運転者に不快感を与えることのないラックピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様のラックピニオン式ステアリング装置は、ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛合するラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支承するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとを具備しており、ここで、ラックガイドは、ラックバーの外周面に摺動自在に当接してラックバーを摺動自在に支持する凹面と、該凹面を挟んで相対向する立壁部とを有しており、ラックガイドの外周面は、ギヤケースの筒状の内周面に摺動自在に接するようになっており、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dは0.6以上であることを特徴とする。
【0013】
第一の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、外周面でギヤケースの筒状の内周面に摺動自在に接するようになっているラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dが0.6以上であるので、ラックガイドにラジアル方向の負荷が作用してラックガイドが該ラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとの接触部位を支点として回転(首振り)しても、その回転角度(首振り角度)を小さくすることができるので、衝突音の発生を極力小さくすることができる。
【0014】
また、ラックガイドの回転角度(首振り角度)を小さくして、ラックバーから離れる方向のラックガイドの移動量(沈み込み量)を小さくすることができるので、ラックバーのラック歯とピニオンの歯との衝突による衝突音を極力小さくすることができ、運転者に不快感を与えることはない。
【0015】
なお、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dが0.6よりも小さい場合には、上記効果が生じ難いことが確かめられた。
【0016】
ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dは、好ましい例では、本発明の第二の態様の装置のように、0.7以上であり、また回転角度(首振り角度)をより小さくする観点からは、比H/Dは、大きければ大きいほど好ましいのであるが、装置の小型化の観点等から、好ましくは、本発明の第三の態様の装置のように、2.0以下であり、より好ましくは、本発明の第四の態様の装置のように、1.5以下である。
【0017】
本発明の第五の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第一から第四のいずれかの態様の装置において、 ラックガイドの立壁部の夫々は、少なくともラックバーの軸心を通ると共にラックガイドの摺動方向に直交する平面の部位まで延設されている。
【0018】
第五の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、ラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとの接触部位を支点とするラックガイドの回転(首振り)を生じ難くできる。
【0019】
本発明の第六の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第一から第五のいずれかの態様のその装置において、ラックガイドは、ギヤケースの筒状の内周面の両端間に位置している。
【0020】
第六の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの上記の特定の比H/Dによる効果を更に確実に得ることができる。
【0021】
本発明の第七の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第一から第六のいずれかの態様のその装置において、ラックガイドは、一方の端部に凹面座を有するラックガイド基体と、このラックガイド基体の凹面座に嵌着された摺動片とを具備しており、ラックバーを摺動自在に支持する凹面は、摺動片に設けられており、立壁部は、ラックガイド基体に設けられている。
【0022】
斯かる第七の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、摺動片はラックガイド基体の凹面座に嵌着されて、その耐圧強度が高められているので、ラックバーを長期に亘って円滑に支承でき、ラックバーの外周面との摺動においては摩擦抵抗が大幅に低減され、ラックバーの往復移動を円滑に行わせることができる。
【0023】
本発明の第八の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第七の態様のその装置において、ラックガイド基体はアルミニウム合金又は鉄系焼結金属から形成されている。
【0024】
第八の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、特に、アルミニウム合金は、軽量であること、加工が容易であることに加えて安価であることから、ラックガイド自体の大幅なコストダウンを図ることができる。
【0025】
本発明の第九の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第七又は第八の態様のその装置において、摺動片は、薄鋼板と該薄鋼板上に一体に被着形成された多孔質金属焼結層と該金属焼結層に含浸被覆されていると共に自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂層とからなり、合成樹脂層は、ラックバーを摺動自在に支持する凹面を形成している。
【0026】
第九の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、摺動片に設けられた凹面は、自己潤滑性及び耐摩耗性を有した合成樹脂層で形成されているので、ラックバーの外周面との摺動においては摩擦抵抗が大幅に低減され、ラックバーの往復移動を更に円滑に行わせることができ、しかも、合成樹脂層に摩耗が生じた場合でも、凹面には多孔質金属焼結層中に含浸された合成樹脂が露出するため、摺動摩擦抵抗の低減は長期に亘って維持される。
【0027】
多孔質金属焼結層に含浸被覆される合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はこれに鉛、ポリイミド樹脂などの充填材を含有したポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂又はこれに潤滑油剤を含有させた含油ポリアセタール樹脂等の自己潤滑性、耐摩耗性に優れた合成樹脂を使用し得る。
【0028】
本発明の第十の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第七又は第八の態様の装置において、摺動片は、ラックガイド基体の凹面座に着座する凸面及びラックバーを摺動自在に支持する凹面の夫々が自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂からなる。
【0029】
第十の態様のラックピニオン式ステアリング装置において、合成樹脂としては、例えば、ポリアセタール樹脂又はこれに潤滑油剤を含有させた含油ポリアセタール樹脂等の自己潤滑性、耐摩耗性に優れた合成樹脂を挙げることができる。