【0018】
さらに、NaNO3に代えて、酸化物であるNa2SO4、Na2CO3、KNO3、K2SO4のうちいずれか一種以上を20質量%以下含む
酸化物であるNa
2SO
4、Na
2CO
3、KNO
3、K
2SO
4は、比較的高温でAlと反応して発熱剤として作用する。このため、これら酸化物は、ドロスの温度が低下し易い状態で使用される灰絞り用フラックスとして必須の成分ではないが、高温状態のドロスの保温を目的として、NaNO
3に代えて20質量%以下であれば含有していてもよい。
これら酸化物を20質量%以下含む場合の各フラックス成分等の具体的な範囲は、NaNO
3:25〜35質量%、酸化物であるNa
2SO
4、Na
2CO
3、KNO
3、K
2SO
4のうちいずれか一種以上を20質量%以下、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNa
2SiF
6、AlF
3、K
3AlF
6のうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNO
3のうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO
3全体の90質量%以上である。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
灰絞り用フラックスの最適な成分を決定するために、表1に示す9種類のフラックスを10gずつ準備した。なお、これらフラックスについては、粒径が0.5〜1.5mm未満である通常のフラックス粉末を使用している。次に、ADC12組成相当の配合インゴットを8kg準備して、内面に離型剤を塗布した#30黒鉛坩堝に挿入し、丸型電気炉にこの#30坩堝を設置した。インゴットを800℃で溶解した後、760℃まで溶湯温度を下げ、小型の回転脱ガス装置を使用して、Arガス流量:2L/min、ローター回転数500rpmの条件下で、6分間の脱ガス脱滓処理を行った。
【0021】
脱ガス脱滓処理の終了後、溶湯表面に浮上した滓を撹拌棒にて掻き集め、溶湯上の滓の上に10gのフラックスを振りかけた。このフラックス散布直後に、フラックスの反応性を赤熱の程度によって目視評価し、赤熱した場合を良好(○)、やや赤熱した場合をやや良好(△)、殆ど赤熱しなかった場合を不良(×)とした。また、フラックスの発熱持続性の評価については、フラックス散布後、30秒以上の赤熱が認められた場合を良好(○)、10〜30秒未満の赤熱が認められた場合をやや良好(△)、殆ど赤熱しなかった場合を不良(×)とした。フラックスの反応性および発熱持続性についての評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の評価結果から、以下のようなことが考察された。反応性の良好なフラックスを得るためには、NaNO
3を25質量%以上含んでいることが必要であると考えられた。そして、No.1,No.4〜No.9のフラックスの成分は、本願発明で規定するフラックスの成分範囲内であり、フラックスの反応性、発熱持続性の評価とも、良好(○)又はやや良好(△)であった。これに対して、No.2,No.3のフラックスの成分は、NaNO
3が25質量%未満であったため、本願発明で規定するフラックスの成分範囲外であり、フラックスの反応性、発熱持続性の評価とも、不良(×)であった。さらにこれらの結果から、反応性の良好な灰絞り用フラックスとして、表1に記載のNo.9のフラックスの成分、即ち、NaCl:20質量%、Na
2SiF
6:25質量%、NaNO
3:30質量%、AlF
3:15質量%、Na
2SO
4:10質量%の成分を、次に紹介する実施例2に使用するフラックスの成分として抽出した。
【0024】
〔実施例2〕
実施例1において抽出した上記No.9のフラックス成分において、NaNO
3について粒径が0.5〜1.5mm未満である通常のフラックス粉末を使用した場合(以下、「小粒径品」という。)、NaNO
3について粒径が2.0〜4.0mmである通常のフラックス粉末よりもサイズの大きいものを使用した場合(以下、「大粒径品」という。)で、フラックスの発熱持続性がどのように変化するのかを調査した。なお、小粒径品、大粒径品とも、NaNO
3以外のフラックスについては、粒径が0.5〜1.5mm未満である通常のフラックス粉末を使用している。
まず、小粒径品、大粒径品の二種類のフラックスをそれぞれ300gずつ準備して、それぞれのフラックスを3等分して、100gずつに分けておいた。
次に、ADC12組成相当の配合インゴットを500kg準備して、内面に離型剤を塗布した黒鉛坩堝電気炉に挿入し加熱した。インゴットを800℃で溶解した後、760℃まで溶湯温度を下げ、回転脱ガス装置を使用して、Arガス流量:20L/min、ローター回転数500rpmの条件下で、10分間の脱ガス脱滓処理を行った。
【0025】
脱ガス脱滓処理の終了後、溶湯表面に浮上した滓を撹拌棒にて掻き集め、そのアルミニウムを含んだ滓の塊を、予め準備しておいた300℃に予熱済みのセラミックスボード上に載せ、100gのフラックスを滓の上から振りかけた。このフラックス散布直後に、フラックスの反応性を赤熱の程度によって目視評価し、赤熱した場合を良好(○)、やや赤熱した場合をやや良好(△)とした。また、フラックスの発熱持続性の評価については、フラックス散布後、30秒以上の赤熱が認められた場合を良好(○)、10〜30秒未満の赤熱が認められた場合をやや良好(△)とした。フラックスの反応性および発熱持続性についての評価結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2の評価結果から、以下のようなことが考察された。小粒径品の場合には、NaNO
3の粒径が0.5〜1.5mm未満であったため、NaNO
3粒子の比表面積が比較的大きく、ドロスの急激な温度上昇によって、NaNO
3粒子が減耗して急速に消滅してしまい、発熱剤としての効果を持続することができなかったと考えられた。
大粒径品の場合には、NaNO
3の粒径が2.0〜4.0mmであったため、NaNO
3粒子の比表面積が比較的小さく、ドロスの急激な温度上昇によっても、NaNO
3粒子が直ぐには消滅してしまわずに、発熱剤としての効果を持続することができたと考えられた。
【0028】
この試験結果から、NaCl:20質量%、Na
2SiF
6:25質量%、NaNO
3:30質量%、AlF
3:15質量%、Na
2SO
4:10質量%の成分を有する灰絞り用フラックスにおいて、NaNO
3の粒径を比較的大きく調整した大粒径品は、発熱持続性に優れているということが判明した。
【0029】
本発明者らは、アルミニウムドロスからアルミニウムを分離、回収するための灰絞り用フラックスであって、NaNO
3:25〜55質量%、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNa
2SiF
6、AlF
3、K
3AlF
6のうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNO
3のうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO
3全体の90質量%以上であることを特徴とする灰絞り用フラックスを完成させた。
【0030】
このような成分のフラックスとすることにより、硝酸塩であるNaNO
3は、比較的低温でメタル分と反応して発熱し、加熱されたドロス内で、塩化物は、介在物同士の吸着・凝集を促進するとともに、フッ化物は、メタル分と介在物との分離性を良くしてドライな滓を生成し、メタル分が回収される。しかも、硝酸塩であるNaNO
3のうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO
3全体の90質量%以上であるため、発熱反応の持続時間が長くなり、圧搾機や金属回収装置におけるドロスの温度低下を防止することができる。