特許第5673776号(P5673776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5673776-灰絞り用フラックス 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5673776
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】灰絞り用フラックス
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/10 20060101AFI20150129BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20150129BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   C22B9/10 101
   C22B7/04 A
   C22B21/00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-222532(P2013-222532)
(22)【出願日】2013年10月25日
【審査請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】吉川 勝
(72)【発明者】
【氏名】安部 綾二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀紀
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−267234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/10
C22B 7/04
C22B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムドロスからアルミニウムを分離、回収するための灰絞り用フラックスであって、NaNO:25〜55質量%、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であることを特徴とする灰絞り用フラックス。
【請求項2】
アルミニウムドロスからアルミニウムを分離、回収するための灰絞り用フラックスであって、NaNO:25〜35質量%、酸化物であるNaSO、NaCO、KNO、KSOのうちいずれか一種以上を20質量%以下、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であることを特徴とする灰絞り用フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの溶湯から排出されたドロス灰を圧搾機によってメタル分を絞る際に使用される灰絞り用フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム又はアルミニウム合金を溶解炉で溶製したり、保持炉において鎮静保持した際に、酸化物、窒化物等のいわゆる非金属介在物が浮上分離して発生するドロス灰を圧搾機や金属回収装置等によって絞り、ドロス灰に含まれるメタル分を回収することが行われてきた。その際にドロス灰にフラックスを散布することによって、メタル分の回収を促進することが行われてきた。
【0003】
特許文献1には、多孔板またはスリットを形成した容器底板上にアルミニウムの融点以上とされたドロスを収容し、該ドロスに対し圧下力と共に振動を作用せしめて前記ドロス中の溶融金属アルミニウムの酸化被膜を破ると共に空気の分離性を改善し、アルミニウム液滴および空気からなる流動成分を排除すると共にドロス中酸化アルミなどの固形分高密度化を図る技術が記載されている。特許文献1には、アルミニウムドロスから金属アルミニウムを回収する従来技術として、容器に収容したドロスにフラックスを加え、アルミニウムを酸化発熱させ、酸化した皮膜を弱くすると共に溶融金属アルミニウムの流動性を高め、このようなアルミニウムを機械的に攪拌することにより酸化皮膜を破り、メタル同士を結合させて大きくなったアルミニウム液滴を容器下部に沈降させて分離する技術が紹介されている。
【0004】
特許文献2には、溶解炉中のアルミニウム溶湯から分離および排出された滓を、炉外にて攪拌処理し、滓からアルミニウム分を分離および回収するための方法であって、前記排出された滓を容器内に収容し、フラックスの添加によって滓を加熱するとともに滓の攪拌を行って、アルミニウム分と滓とを分離することを含み、前記フラックスが、KNO:20〜30wt% 、AlF:20〜30wt% を含有し、残部がKClからなる滓からアルミニウム分を分離および回収するための方法が紹介されている。これによると、フラックスの発熱によって滓を加熱するとともに、処理される滓の温度が、Al溶湯温度以下の低温であっても、Al分と滓との分離効率を高めることが可能となるとのことである。
【0005】
特許文献3には、回転撹拌体をポット底部から離れた状態で回転・上下動可能に構成し、ポット底部の出湯口に、回転撹拌体から独立して開閉可能な開閉栓を配設した金属回収装置が提唱されている。これによると、アルミドロスの装入と同時、あるいは装入後の撹拌中においては、アルミドロスを所定の高温域まで温度上昇させるために、Na、F、Clを主成分とする発熱剤(フラックス)や、練り灰を適量投入することが紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開07−216471号公報
【特許文献2】特開2000−309832号公報
【特許文献3】特開2006−206937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、ドロス灰からメタル分を回収する装置において、種々のフラックスを適量投入、散布することで、フラックスの発熱によりドロスを加熱し、さらにメタルとドロスとの分離を促進することが行われてきた。しかしながら、上述のような圧搾機や金属回収装置において、ドロスからメタル分を回収するには、20〜30分程度の時間を要する場合が多い。したがって、たとえ適量のフラックスを散布していたとしても、処理中のドロス温度の低下が激しく、処理の最終段階において、効率よくメタル分を回収することができない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、従来から用いられてきたフラックスの各成分の調整を行うとともに、その成分の中で特に発熱剤として使用される硝酸ソーダの粒径を従来のものよりも大きくして、その発熱効果の持続性を向上させた灰絞り用フラックスを完成させた。
【0009】
本発明の灰絞り用フラックスは、その目的を達成するため、アルミニウムドロスからアルミニウムを分離、回収するための灰絞り用フラックスであって、NaNO:25〜55質量%、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であることを特徴とする。さらに、NaNOに代えて、酸化物であるNaSO、NaCO、KNO、KSOのうちいずれか一種以上を20質量%以下含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0010】
このような成分のフラックスとすることにより、硝酸塩であるNaNOは、比較的低温でメタル分と反応して発熱し、加熱されたドロス内で、塩化物は、介在物同士の吸着・凝集を促進するとともに、フッ化物は、メタル分と介在物との分離性を良くしてドライな滓を生成し、メタル分が回収される。しかも、硝酸塩であるNaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であるため、発熱反応の持続時間が長くなり、圧搾機や金属回収装置におけるドロスの温度低下を防止することができる。また、NaNO以外の酸化物を含む場合には、これら酸化物が比較的高温でメタル分と反応して発熱するため、ドロスの温度低下を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2の試験に使用したフラックスの外観写真
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように、ドロス灰からメタル分を回収する装置において、種々のフラックスを適量投入、散布することで、フラックスの発熱によりドロスを加熱し、さらにメタルとドロスとの分離を促進することが行われてきた。しかしながら、たとえ適量のフラックスを散布していたとしても、処理中のドロス温度の低下が激しく、処理の最終段階において、効率よくメタル分を回収することができない、という問題があった。
本発明者等は、アルミニウムドロスからアルミニウム分を分離、回収するための灰絞り用フラックスとして、各種の塩化物、フッ化物および酸化物を含む灰絞り用フラックスについて鋭意検討を重ねてきた。その過程で、比較的低温で発熱剤として作用するNaNOの粒径を従来のものより大きくすることで、フラックスの発熱効果を持続させることが可能であることを見いだし、本願発明に到達した。
以下に、その詳細を説明する。
【0013】
以下に、各成分の限定理由を述べる。
NaNO:25〜55質量%
NaNOは、融点308℃、沸点が380℃であるため、非常に低い温度であってもAlと反応して発熱剤として作用する。このため、NaNOは、ドロスの温度が低下し易い状態で使用される灰絞り用フラックスには、必要不可欠な成分であり、比較的高い含有量で配合されている。NaNOの含有量が25質量%未満である場合、特に温度が低下したドロスにおける発熱が十分ではなく、塩化物の溶融塩化が促進されず、フッ化物の反応も鈍くなるため、メタル分の回収率が低下する。NaNOの含有量が55質量%を超えると、発熱量は増加するものの、ドロスの温度が急激に上昇してしまい、メタルの酸化が促進されるとともに、他のフラックス成分である塩化物やフッ化物の含有量も少なくなるため、結果的にメタル分の回収率が低下する。
【0014】
NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上
上記のようにNaNOは、比較的低温で作用する発熱剤として使用され、ドロスの温度が低下し易い状態で使用される灰絞り用フラックスには、必要不可欠な成分であり、比較的高い含有量で配合されている。前述のように、NaNOは、融点308℃、沸点が380℃であるため、非常に低い温度であってもAlと反応して発熱剤として作用し、その分減耗も激しい。灰絞り用フラックスとして使用される場合、メタル回収装置における処理時間にもよるが、最低でも20分間程度は、発熱剤としての効果を持続させる必要がある。本願発明において、好ましいNaNOの粒径の範囲規定は、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上である。このようにNaNOの粒径の範囲を規定することによって、NaNO粒子の比表面積を小さくすることができ、ドロスの急激な温度上昇によって、全てのNaNOが短時間のうちに減耗することを防止できる。このため、本願発明の灰絞り用フラックスは、長時間発熱を持続させる、いわゆる発熱持続性に優れている。より好ましいNaNOの粒径の範囲規定は、NaNOのうち粒径が2〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上である。
【0015】
酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、
NaCl、KClのような塩化物は、NaNOのような発熱剤によりドロスの温度が上昇することによって、フッ化物と反応して溶融塩化が進み、フラックスの濡れ性が改善され、介在物同士の吸着・凝集が促進されるので、灰絞り用フラックスには、必要不可欠な成分である。塩化物の含有量が10質量%未満であると、フッ化物等との溶融塩化も進まず、フラックスの濡れ性が改善されないため、介在物同士の吸着・凝集が促進されず、メタルの回収率が低下する。塩化物の含有量が50質量%を超えると、フッ化物の含有量が低下して、滓とメタル分との分離が促進されず、メタルの回収率が低下する。したがって、好ましい塩化物の含有量は10〜50質量%の範囲である。より好ましい塩化物の含有量は15〜45質量%の範囲である。さらに好ましい塩化物の含有量は20〜40質量%の範囲である。
【0016】
NaSiF、AlF、KAlFのようなフッ化物は、滓のドライ化に寄与する。反応時に発熱反応して、塩化物を溶融させる効果がある。また塩化物溶融塩の表面張力を小さくし、塩化物による介在物除去を促進させる効果があり、メタル分と滓との分離性を良くし、ドライな滓を生成することができる。フッ化物が10質量%未満である場合、滓とメタル分との分離が促進されず、メタルの回収率が低下する。フッ化物の含有量が50質量%を超えると、塩化物の含有量が低下して、フラックスの濡れ性が低下して、介在物同士の吸着・凝集も促進されず、メタルの回収率が低下する。したがって、好ましいフッ化物の含有量は10〜50質量%の範囲である。より好ましいフッ化物の含有量は15〜45質量%の範囲である。さらに好ましいフッ化物の含有量は20〜40質量%の範囲である。
【0017】
以上のことを勘案すると、本願発明において、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含むことが必要であるといえる。
【0018】
さらに、NaNOに代えて、酸化物であるNaSO、NaCO、KNO、KSOのうちいずれか一種以上を20質量%以下含む
酸化物であるNaSO、NaCO、KNO、KSOは、比較的高温でAlと反応して発熱剤として作用する。このため、これら酸化物は、ドロスの温度が低下し易い状態で使用される灰絞り用フラックスとして必須の成分ではないが、高温状態のドロスの保温を目的として、NaNOに代えて20質量%以下であれば含有していてもよい。
これら酸化物を20質量%以下含む場合の各フラックス成分等の具体的な範囲は、NaNO:25〜35質量%、酸化物であるNaSO、NaCO、KNO、KSOのうちいずれか一種以上を20質量%以下、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上である。
【0019】
残部不可避的不純物からなり、
本発明において、SiO、Fe、P、Al粉、MgCl、NHCl、遊離酸、有機物、水分等の不可避的不純物をそれぞれ3%未満含有していても、本発明の効果を阻害することはない。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
灰絞り用フラックスの最適な成分を決定するために、表1に示す9種類のフラックスを10gずつ準備した。なお、これらフラックスについては、粒径が0.5〜1.5mm未満である通常のフラックス粉末を使用している。次に、ADC12組成相当の配合インゴットを8kg準備して、内面に離型剤を塗布した#30黒鉛坩堝に挿入し、丸型電気炉にこの#30坩堝を設置した。インゴットを800℃で溶解した後、760℃まで溶湯温度を下げ、小型の回転脱ガス装置を使用して、Arガス流量:2L/min、ローター回転数500rpmの条件下で、6分間の脱ガス脱滓処理を行った。
【0021】
脱ガス脱滓処理の終了後、溶湯表面に浮上した滓を撹拌棒にて掻き集め、溶湯上の滓の上に10gのフラックスを振りかけた。このフラックス散布直後に、フラックスの反応性を赤熱の程度によって目視評価し、赤熱した場合を良好(○)、やや赤熱した場合をやや良好(△)、殆ど赤熱しなかった場合を不良(×)とした。また、フラックスの発熱持続性の評価については、フラックス散布後、30秒以上の赤熱が認められた場合を良好(○)、10〜30秒未満の赤熱が認められた場合をやや良好(△)、殆ど赤熱しなかった場合を不良(×)とした。フラックスの反応性および発熱持続性についての評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の評価結果から、以下のようなことが考察された。反応性の良好なフラックスを得るためには、NaNOを25質量%以上含んでいることが必要であると考えられた。そして、No.1,No.4〜No.9のフラックスの成分は、本願発明で規定するフラックスの成分範囲内であり、フラックスの反応性、発熱持続性の評価とも、良好(○)又はやや良好(△)であった。これに対して、No.2,No.3のフラックスの成分は、NaNOが25質量%未満であったため、本願発明で規定するフラックスの成分範囲外であり、フラックスの反応性、発熱持続性の評価とも、不良(×)であった。さらにこれらの結果から、反応性の良好な灰絞り用フラックスとして、表1に記載のNo.9のフラックスの成分、即ち、NaCl:20質量%、NaSiF:25質量%、NaNO:30質量%、AlF:15質量%、NaSO:10質量%の成分を、次に紹介する実施例2に使用するフラックスの成分として抽出した。
【0024】
〔実施例2〕
実施例1において抽出した上記No.9のフラックス成分において、NaNOについて粒径が0.5〜1.5mm未満である通常のフラックス粉末を使用した場合(以下、「小粒径品」という。)、NaNOについて粒径が2.0〜4.0mmである通常のフラックス粉末よりもサイズの大きいものを使用した場合(以下、「大粒径品」という。)で、フラックスの発熱持続性がどのように変化するのかを調査した。なお、小粒径品、大粒径品とも、NaNO以外のフラックスについては、粒径が0.5〜1.5mm未満である通常のフラックス粉末を使用している。
まず、小粒径品、大粒径品の二種類のフラックスをそれぞれ300gずつ準備して、それぞれのフラックスを3等分して、100gずつに分けておいた。
次に、ADC12組成相当の配合インゴットを500kg準備して、内面に離型剤を塗布した黒鉛坩堝電気炉に挿入し加熱した。インゴットを800℃で溶解した後、760℃まで溶湯温度を下げ、回転脱ガス装置を使用して、Arガス流量:20L/min、ローター回転数500rpmの条件下で、10分間の脱ガス脱滓処理を行った。
【0025】
脱ガス脱滓処理の終了後、溶湯表面に浮上した滓を撹拌棒にて掻き集め、そのアルミニウムを含んだ滓の塊を、予め準備しておいた300℃に予熱済みのセラミックスボード上に載せ、100gのフラックスを滓の上から振りかけた。このフラックス散布直後に、フラックスの反応性を赤熱の程度によって目視評価し、赤熱した場合を良好(○)、やや赤熱した場合をやや良好(△)とした。また、フラックスの発熱持続性の評価については、フラックス散布後、30秒以上の赤熱が認められた場合を良好(○)、10〜30秒未満の赤熱が認められた場合をやや良好(△)とした。フラックスの反応性および発熱持続性についての評価結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2の評価結果から、以下のようなことが考察された。小粒径品の場合には、NaNOの粒径が0.5〜1.5mm未満であったため、NaNO粒子の比表面積が比較的大きく、ドロスの急激な温度上昇によって、NaNO粒子が減耗して急速に消滅してしまい、発熱剤としての効果を持続することができなかったと考えられた。
大粒径品の場合には、NaNOの粒径が2.0〜4.0mmであったため、NaNO粒子の比表面積が比較的小さく、ドロスの急激な温度上昇によっても、NaNO粒子が直ぐには消滅してしまわずに、発熱剤としての効果を持続することができたと考えられた。
【0028】
この試験結果から、NaCl:20質量%、NaSiF:25質量%、NaNO:30質量%、AlF:15質量%、NaSO:10質量%の成分を有する灰絞り用フラックスにおいて、NaNOの粒径を比較的大きく調整した大粒径品は、発熱持続性に優れているということが判明した。
【0029】
本発明者らは、アルミニウムドロスからアルミニウムを分離、回収するための灰絞り用フラックスであって、NaNO:25〜55質量%、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であることを特徴とする灰絞り用フラックスを完成させた。
【0030】
このような成分のフラックスとすることにより、硝酸塩であるNaNOは、比較的低温でメタル分と反応して発熱し、加熱されたドロス内で、塩化物は、介在物同士の吸着・凝集を促進するとともに、フッ化物は、メタル分と介在物との分離性を良くしてドライな滓を生成し、メタル分が回収される。しかも、硝酸塩であるNaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であるため、発熱反応の持続時間が長くなり、圧搾機や金属回収装置におけるドロスの温度低下を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、従来から用いられてきたフラックスの各成分の調整を行うとともに、その成分の中で特に発熱剤として使用される硝酸ソーダの粒径を従来のものよりも大きくして、その発熱効果の持続性を向上させた灰絞り用フラックスが提供される。
【要約】
【課題】アルミニウムドロスからアルミニウムを効率良く分離、回収するための灰絞り用フラックスを提供する。
【解決手段】NaNO:25〜55質量%、酸化物以外の成分として、塩化物であるNaCl、KClのうちいずれか一種以上と、フッ化物であるNaSiF、AlF、KAlFのうちいずれか一種以上を合計で45〜75質量%含み、残部不可避的不純物からなり、NaNOのうち粒径が1.5〜5mmであるものがNaNO全体の90質量%以上であることを特徴とする灰絞り用フラックス。さらに、NaNOに代えて、酸化物であるNaSO、NaCO、KNO、KSOのうちいずれか一種以上を20質量%以下含んでいてもよい。
【選択図】なし
図1