【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
ハロゲンイオンを0.5グラム/リットル(g/L)以上300g/L以下の濃度範囲内で含む酸濃度0.1重量%以上80重量%以下の酸水溶液を用い、処理温度30〜80℃の条件でアルミニウム合金材の表面をエッチング処理して、前記アルミニウム合金材の表面の一部又は全面に凹凸部に起因した複数の凹状部を形成すると共に、これらの凹状部のうちの一部又は全部において、凹状部の開口縁部の一部分又は全体から開口幅方向中心に向けて雪庇状に突き出した突出部を形成し、次いで、アルカリ溶液を用いたアルカリ処理、酸溶液を用いた酸処理、及び超音波を用いた超音波処理から選ばれた1つ又は2つ以上のアルミ片除去処理を行って前記突出部の一部をアルミ片として除去することにより形成されるアルミニウム合金製のアルミ形状体であ
り、そのアルミ形状体の厚さ方向断面において、空間側からアルミ形状体の凹凸部に向けて厚さ方向に延びる多数の観察ラインを互いに0.1μmの間隔で引いた際に、前記雪庇状の突出部に基づいて空間−アルミ−空間を通過する前記観察ラインが、1観察断面(100μm幅)当たり150本以上800本以下であることを特徴とするアルミ・樹脂射出一体成形品製造用のアルミ形状体である。
【0011】
また、本発明は、ハロゲンイオンを0.5グラム/リットル(g/L)以上300g/L以下の濃度範囲内で含む酸濃度0.1重量%以上80重量%以下の酸水溶液を用い、処理温度30〜80℃の条件でアルミニウム合金材の表面をエッチング処理して、前記アルミニウム合金材の表面の一部又は全面に凹凸部に起因した複数の凹状部を形成すると共に、これらの凹状部のうちの一部又は全部において、凹状部の開口縁部の一部分又は全体から開口幅方向中心に向けて雪庇状に突き出した突出部を形成し、次いで、
アルカリ溶液を用いたアルカリ処理、酸溶液を用いた酸処理及び超音波を用いた超音波処理から選ばれた1つ又は2つ以上のアルミ片除去処理を行って前記突出部の一部をアルミ片として除去する
ことにより、前記アルミニウム合金材の厚さ方向断面において、空間側からアルミニウム合金材の凹凸部に向けて厚さ方向に延びる多数の観察ラインを互いに0.1μmの間隔で引いた際に、前記雪庇状の突出部に基づいて空間−アルミ−空間を通過する前記観察ラインが、1観察断面(100μm幅)当たり150本以上800本以下であるアルミ形状体を製造することを特徴とするアルミ・樹脂射出一体成形品製造用のアルミ形状体の製造方法である。
【0012】
[アルミ形状体、アルミ・樹脂射出一体成形品について]
本発明において、アルミ形状体を形成するためのアルミニウム合金材としては、具体的には、純Al系の1000系、Al−Cu系の2000系、Al−Mn系の3000系、Al−Si系の4000系、Al−Mg系の5000系、ADC5、及びADC6、Al−Mg−Si系の6000系、Al−Zn−Mg系の7000系、Al−Fe系の8000系、Al−Si−Mg系のADC3、Al−Si−Cu系のADC10、ADC10Z、ADC12、及びADC12Z、Al−Si−Cu−Mg系のADC14等の材質からなる材料を所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等が挙げられる。
【0013】
また、本発明において、アルミ形状体の表面の凹凸部に起因してこのアルミ形状体の表面に形成される複数の凹状部は、その開口縁部が無端の周縁部であるような穴状又は孔状のもの(無端開口縁部を有する凹状部)であってもよく、また、開口縁部が両端部を有するようなスリット状又は溝状のもの(有端開口縁部を有する凹状部)であってもよく、更には、これら無端開口縁部を有する穴状又は孔状のものと有端開口縁部を有するスリット状又は溝状のものとが混在していてもよい。
【0014】
そして、アルミ形状体の複数の凹状部については、好ましくはその一部又は全部において、凹状部の開口縁部の一部分又は全体から開口幅方向中心に向けて雪庇状に突き出した突出部が形成されているのがよく、これによって、凹状部はその開口幅がその内部の幅寸法より狭くなり、このような凹状部内に進入して固化した樹脂成形体の嵌入部は凹状部との間で互いに脱離不能な係止構造を形成し、アルミ形状体の凹状部か樹脂成形体の嵌入部のいずれか一方又は双方が破壊されない限り脱離することがなく、アルミ形状体と樹脂成形体との間の密着強度や気密性がより向上する。
【0015】
更に、このようにアルミ形状体表面の複数の凹状部においてその一部又は全部の開口縁部に上記の如き雪庇状の突出部が形成されていると、これらの凹状部内には樹脂成形体の嵌入部が必ずしも密着状態で嵌合している必要はなく、例えばアルミ形状体と樹脂成形体との間の線膨張係数の差と環境温度に基づいて、これらアルミ形状体と樹脂成形体との間に不可避的な極微小な隙間が発生したとしても、これらアルミ形状体と樹脂成形体との間には優れた密着強度や気密性が維持される。
【0016】
本発明のアルミ形状体において、その凹状部に形成される雪庇状の突出部は、好ましくは、そのアルミ形状体の厚さ方向断面において、空間側からアルミ形状体の凹凸部に向けて厚さ方向に延びる多数の観察ラインを互いに0.1μmの間隔で引いた際に、前記雪庇状の突出部に基づいて空間−アルミ−空間を通過する観察ラインが、1観察断面(100μm幅)当たり150本以上800本以下、好ましくは200本以上790本以下、より好ましくは250本以上780本以下であるのが良い。この前記雪庇状の突出部に基づく観察ラインの本数が150本未満である場合には、前記雪庇状の突出部が少ないため、樹脂射出成形を行った際に、この凹状部内に進入して固化する樹脂成形体の嵌入部が少なくて係止構造の形成が十分でなく、アルミ形状体と樹脂成形体の密着強度及び気密性の低下や、樹脂成形体の嵌入部の脱離が起こる場合があるため好ましくなく、一方、800本を超える場合には、アルミ形状体表面のアルミ片除去処理が十分でないため、アルミ形状体の露出面からの粉塵の発生や、アルミ形状体と樹脂成形体との間の樹脂接合面における樹脂ゲート近傍での密着強度及び気密性の低下が起こる場合があるため好ましくない。
【0017】
また、アルミ形状体表面の複数の凹状部は、その一部又は全部において、内部の壁面に少なくとも1つ以上の内部凹状部が形成された二重凹状部構造を有していてもよく、また、内部の壁面に少なくとも1つ以上の内部突起部が形成された内部凹凸構造を有していてもよく、更に、これら二重凹状部構造や内部凹凸構造が並存していてもよい。アルミ形状体の複数の凹状部の一部又は全部において、このような二重凹状部構造や内部凹凸構造が存在することにより、アルミ形状体の凹状部と樹脂成形体の嵌入部とは互いにより強固に接合し、アルミ形状体と樹脂成形体との間のより優れた密着強度や気密性が発揮される。
【0018】
本発明のアルミ形状体においては、その表面の性状が、JISZ 0237に準拠し、2kgのローラーを用いて2kgの荷重下に行った粘着テープ・粘着シート試験法において、テープに付着したアルミ片の付着量が100μg/cm
2以下であって、テープに付着したアルミ片のサイズがその最大値で50μm以下であることが好ましい。このアルミ片の付着量とサイズが、前記の範囲を超える場合には、アルミ形状体表面のアルミ片除去処理が十分でないため、アルミ形状体の露出面からの粉塵の発生や、アルミ形状体と樹脂成形体との間の樹脂接合面における樹脂ゲート近傍での密着強度及び気密性の低下が起こる場合があるため好ましくない。
【0019】
[アルミ形状体、アルミ・樹脂射出一体成形品の製造方法について]
本発明において、このようなアルミ・樹脂射出一体成形品を製造する際には、先ず、表面に複数の凹状部を有するアルミ形状体を形成するが、その方法としては、例えば、アルミニウム合金材にエッチング処理を施して表面の一部又は全面に凹凸部を形成し、この凹凸部に起因して複数の凹状部を有するアルミ形状体を形成する方法が挙げられる。
【0020】
そして、このアルミニウム合金材にエッチング処理を施して、開口幅及び深さが所望の大きさを有する複数の凹状部を形成したり、あるいは、凹状部の一部又は全部の開口縁部に開口幅方向中心に向けて突出する雪庇状の突出部を形成する等するためには、エッチング液として比較的酸化力の弱い酸水溶液を用い、また、このような比較的酸化力の弱い酸水溶液中に、アルミニウム合金材の表面に形成されている酸化皮膜を溶解するために、ハロゲンイオンを所定の濃度で含むエッチング液を用いることが必要である。
【0021】
この目的で用いられる、酸水溶液として、具体的には、酸濃度0.1重量%以上80重量%以下の塩酸水溶液、リン酸水溶液、希硫酸水溶液、酢酸水溶液等や、酸濃度5重量%以上30重量%以下のシュウ酸水溶液等を挙げることができ、また、これらの酸水溶液中にハロゲンイオン導入のために添加されるハロゲン化物としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等の塩化物や、フッ化カルシウム等のフッ化物や、臭化カリウム等の臭化物等を挙げることができる。そして、このエッチング液中におけるハロゲンイオン濃度については、0.5グラム/リットル(g/L)以上300g/L以下であればよい。
【0022】
なお、本発明においては、前記の目的で用いられるエッチング液には、その調製時に不可避的に混入することがある極微量のマンガンイオン以外に、マンガンイオンは実質的に含まれていないことが望ましい。マンガンイオンが存在する条件下でアルミニウム合金材のエッチング処理を行うと、エッチングによる溶解量が低減して充分な凹凸部が得られなくなることがあり、このような場合には、後述するようなアルミ片除去処理を行っても、前記所望の表面形状を有するアルミ形状体が得られず、また、アルミ形状体に樹脂成形体を接合しても、十分な密着強度及び気密性は得られない。
【0023】
本発明において、上記のエッチング液を用いてアルミニウム合金材の表面をエッチング処理する際の処理条件については、使用するエッチング液の種類、酸濃度、ハロゲンイオン濃度等や、アルミ形状体に要求される複数の凹状部の数や大きさ等によっても異なるが、通常、塩酸水溶液の場合には浴温30〜80℃、浸漬時間1〜30分間、リン酸水溶液の場合は浴温30〜80℃で浸漬時間1〜5分間、硫酸水溶液の場合には浴温40〜80℃で浸漬時間2〜8分間、シュウ酸水溶液の場合には浴温50〜80℃で浸漬時間1〜3分間、酢酸水溶液の場合には浴温50〜80℃で浸漬時間1〜3分間の範囲であるのがよい。浴温度については、30℃未満では溶解反応が起こらないか、あるいは、溶解速度が遅くなって十分な大きさ(開口部及び深さ)を有する凹状部の生成に長時間を要し、また、80℃を超える場合はエッチング液の揮発が進むため生産性が低下し、また、溶解反応が急激に進行して凹状部の開口部及び深さの制御が困難となる。浸漬時間については、1分未満では凹状部の開口幅及び深さの制御が難しく、逆に30分を超える場合は生産性低下の原因となる。
【0024】
本発明において、上記の如くアルミニウム合金材にエッチング処理を施して凹状部を有するアルミ形状体を形成する際には、必要により、このエッチング処理前のアルミニウム合金材の表面に、脱脂や表面調整、表面付着物・汚染物等の除去を目的として、酸水溶液による酸処理、及び/又は、アルカリ溶液によるアルカリ処理からなる前処理を施してもよい。
【0025】
ここで、この前処理に用いる酸水溶液としては、例えば、市販の酸性脱脂剤で調製したもの、硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸等の鉱酸や酢酸、クエン酸等の有機酸や、これらの酸を混合して得られた混合酸等の酸試薬を用いて調製したもの等を用いることができ、また、アルカリ水溶液としては、例えば、市販のアルカリ性脱脂剤により調製したもの、苛性ソーダ等のアルカリ試薬により調製したもの、又はこれらのものを混合して調製したもの等を用いることができる。
【0026】
上記の酸水溶液及び/又はアルカリ水溶液を用いて行なう前処理の操作方法及び処理条件については、従来、この種の酸水溶液又はアルカリ水溶液を用いて行なわれている前処理の操作方法及び処理条件と同様でよく、例えば、浸漬法、スプレー法等の方法により行うことができる。
【0027】
本発明においては、上記の通りのエッチング処理を行って、アルミ形状体表面の一部又は全面に複数の凹凸部を形成するとともに、これら凹凸部のうちの一部又は全部において、凹状部の開口縁部の一部分又は全体から開口幅方向中心に向けて雪庇状に突き出した突出部を形成した後、これら突出部の先端部分等の比較的弱い部分をアルミ片としてある程度除去するアルミ片除去処理を施す必要がある。このアルミ片除去処理を施すことにより、前記アルミ形状体表面の凹凸部が、他の物との接触等した際においても破断して粉塵となることを可及的に抑制できるばかりでなく、このアルミ形状体の表面に熱可塑性樹脂を射出成形した場合等においても、その樹脂接合面における樹脂ゲート近傍での密着強度の低下や気密性の低下を効果的に防止することができる。
【0028】
そして、前記アルミ片除去処理の方法としては、アルカリ溶液を用いたアルカリ処理、又は酸溶液を用いた酸処理による方法が好ましく、具体的には、アルカリ処理の場合には、濃度が1g/L以上100g/L以下、好ましくは10g/L以上50g/L以下の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムから選ばれた少なくとも1種以上のアルカリ水溶液であるのがよく、また、酸処理の場合には、濃度が1g/L以上1500g/L以下、好ましくは10g/L以上1450g/L以下のリン酸溶液や、濃度が1g/L以上300g/L以下、好ましくは50g/L以上200g/L以下の硫酸、硝酸、シュウ酸、塩酸、クロム酸、ケイ酸、酢酸、及びフッ酸溶液から選ばれた少なくとも1種以上の酸溶液であるのがよい。
【0029】
また、このアルミ片除去処理の処理条件については、アルカリ処理の場合には、浴温20〜80℃で浸漬時間2分間以下、好ましくは0.5〜2分間であるのがよく、また、酸処理の場合には、浴温20〜80℃で浸漬時間10分間以下、好ましくは0.5〜10分間であるのがよい。通常、使用する処理液の濃度や浴温が高いほどアルミ片除去処理の効果が顕著になり、短時間処理が可能になるが、浴温については、20℃未満では溶解速度が遅くて十分なアルミ片除去処理ができず、また、80℃を超える浴温では溶解反応が急激に進行してアルミニウム片を除去する処理の制御が困難になる。
【0030】
また、本発明における前記アルミ片除去処理については、超音波を用いた超音波処理によって行うのがよく、アルミニウム合金材の形状等にもよるが、市販の超音波洗浄機(出力50〜1600W、周波数が20〜1000kHz程度)を好適に使用することができる。超音波処理の条件については、浴温0〜80℃、好ましくは20〜50℃で処理時間0.1〜120分間、好ましくは1〜10分間が良く、洗浄液については、水、有機溶剤、アルカリ溶剤、界面活性剤、又は乳化剤等が好適に使用可能である。
【0031】
そして、アルミニウム合金材の表面に上記の前処理を施した後や、凹状部を形成するためのエッチング処理を施した後や、また、前記アルミ片除去処理を施した後は、必要により水洗処理をしてもよく、この水洗処理には工業用水、地下水、水道水、イオン交換水等を用いることができ、製造されるアルミ形状体に応じて適宜選択される。更に、水洗処理が施されたアルミニウム合金材については、必要により乾燥処理が行われるが、この乾燥処理についても、室温で放置する自然乾燥でよいほか、エアーブロー、ドライヤー、オーブン等を用いて行う強制乾燥でもよい。
【0032】
次に、本発明のアルミ・樹脂射出一体成形品を得るには、以上のようにして得られたアルミ形状体を射出成形用金型内にセットし、この金型内に溶融した所定の熱可塑性樹脂を射出して固化させる、いわゆるアルミ形状体を用いた熱可塑性樹脂の一体成形により、目的のアルミ形状体と樹脂成形体との射出一体成形品を製造する。本発明において、特に好ましい射出一体成形品は、アルミ形状体と、アルミ形状体の一部の表面に熱可塑性樹脂を射出成形して突合せ状態に接合された樹脂成形体とを含む射出一体成形品である。
【0033】
本発明のアルミ・樹脂射出一体成形品においては、前記アルミ・樹脂形一体成形品の樹脂側からアルミ形状体側に向けて厚さ方向に延びる多数の観察ラインを互いに0.1μmの間隔で引いた際に、樹脂−アルミ−樹脂からなる積層部を通過する前記観察ラインについて、1観察断面(100μm幅)当たりの積層部存在比率が15%以上80%以下、好ましくは20%以上79%以下、より好ましくは25%以上78%以下であるのがよく、積層部存在比率が15%未満だと、樹脂が抜けやすくなり,接合性が低下するという問題が生じる。一方、80%以上だと、アルミ形状体表面のアルミ片除去処理が十分でないため、アルミ形状体の露出面からの粉塵の発生や、アルミ形状体と樹脂成形体との間の樹脂接合面における樹脂ゲート近傍での密着強度及び気密性の低下が起こる問題が生じる。
【0034】
ここで、本発明のアルミ・樹脂射出一体成形品を製造するための熱可塑性樹脂については、各種の熱可塑性樹脂を単独で用いることができるが、本発明のアルミ・樹脂射出一体成形品に求められる物性、用途、使用環境等を考慮すると、熱可塑性樹脂としては、好ましくは、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶性樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクティックポリスチレン樹脂等やこれらの熱可塑性樹脂の2種以上の混合物が挙げられ、また、アルミ形状体と樹脂成形体との間の密着性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、反り等)、電気的性質等の性能をより改善するために、より好ましくは、これらの熱可塑性樹脂に繊維状、粉粒状、板状等の充填剤や、各種のエラストマー成分を添加するのがよい。
【0035】
また、熱可塑性樹脂に添加される充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維、アスベスト繊維、硼素繊維等の無機質繊維充填剤や、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維充填剤や、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、炭酸カルシウムを始めとする無機粉体類等の粉状充填剤や、ガラスフレーク、タルクやマイカ等の珪酸塩類等の板状充填剤等が例示され、熱可塑性樹脂100重量部に対して250重量部以下で添加される。この充填剤の添加量が250重量部を超えると、流動性が低下しアルミ形状体の凹部へ進入し難くなり良好な密着強度を得られなかったり、機械的特性の低下を招くという問題が生じる。
【0036】
また、熱可塑性樹脂に添加されるエラストマー成分としては、ウレタン系、コアシェル型、オレフィン系、ポリエステル系、アミド系、スチレン系等のエラストマーが例示され、射出成形時の熱可塑性樹脂の溶融温度等を考慮して選択され、また、熱可塑性樹脂100重量部に対して30重量部以下の範囲で使用される。このエラストマー成分の添加量が30重量部を超えると、更なる密着強度向上効果が見られず機械的特性の低下等の問題が生じる。このエラストマー成分の配合効果は、熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いた場合に特に顕著に現れる。
【0037】
更に、本発明のアルミ・樹脂射出一体成形品を製造するための熱可塑性樹脂には、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の添加剤、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、可塑剤、潤滑剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を、要求される性能に応じて適宜添加することができる。
【0038】
本発明において、アルミ形状体を射出成形用金型内にセットして行う熱可塑性樹脂の射出成形については、用いられる熱可塑性樹脂に求められる通常の成形条件を採用し得るものであるが、射出成形時に溶融した熱可塑性樹脂がアルミ形状体の凹状部内に確実に進入して固化することが重要であり、金型温度やシリンダー温度を熱可塑性樹脂の種類や物性、更には成形サイクルの許す範囲で比較的高めに設定するのが好ましく、特に金型温度については、下限温度を90℃以上にする必要があるが、上限は、使用する熱可塑性樹脂の種類に応じて、100℃から当該熱可塑性樹脂の融点又は軟化点(エラストマー成分が添加される場合にはどちらか高い方の融点又は軟化点)より20℃程度低い温度までの範囲であるのがよい。また、下限金型温度は、熱可塑性樹脂の融点から140℃以上低くならないように設定するのが好ましい。