(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
活性エネルギー線硬化型コーティングワニス全量中、光重合開始剤(B)がそれぞれ一化合物につき0.01〜5.0重量%の範囲で含有し、さらに光重合開始剤(B)全量として1.0〜15.0重量%含有することを特徴とする請求項1記載の食品・医療パッケージ用活性エネルギー線硬化型コーティングワニス。
【背景技術】
【0002】
従来、カルトン紙、各種書籍印刷物、フォーム用印刷物等の各種包装用印刷物、各種プラスチック印刷物、シール・ラベル用印刷物、金属印刷物など種々の印刷物を得るため、平版(湿し水を使用する通常の平版および湿し水を使用しない水無し平版)、凸版、凹版、孔版印刷など種々の印刷方式が採用されており、これら印刷には各々の印刷方式に適したインキが使用されているが、特にカルトン紙をはじめとした各種紙器、各種書籍印刷物、シール・ラベル用印刷物に関しては印刷物の高品質化や意匠保護のためインキの印刷後コーティングワニスの塗工がしばしば行れる。
【0003】
コーティングワニスのひとつに活性エネルギー線硬化型コーティングワニスが知られている。活性エネルギー線硬化型コーティングワニスはアクリルエステル化合物のような活性エネルギー線硬化性を有する不飽和化合物を構成成分として含有しており、活性エネルギー線照射とともに瞬時に硬化し、上記不飽和化合物の3次元架橋反応による強靭な皮膜を形成する。それに加えて、その硬化性から印刷直後での後加工が可能であることより、生産性向上および意匠保護のため耐摩擦性が求められる包装用パッケージ印刷の分野における使用が多い傾向にある。
【0004】
また、包装用パッケージ印刷においては食品包装用分野の占める割合が多い。当分野では特にパッケージの意匠性に関する印刷品質の向上に加え、昨今の安全志向の高まりから食品内容物に対する被覆組成原料の移行について議論の対象となる傾向が増加している。それら被覆組成原料の移行が議論対象となる傾向は、一般に安全対応意識が高いレベルにある欧米市場においてが当然高い傾向にあるが、昨今ではスイス連邦において世界初となる食品包装用印刷インキあるいはコーティングワニスに関する法規制「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」が施行され、欧州全体だけでなく日本を含めた他の先進国をはじめ、新興国などにもその影響が広く波及している。
本法規制の内容としては、インキあるいはコーティングワニスに原料について一定の毒性や環境ホルモンの疑いが報告されている物質を使用禁止とした上で、さらに使用される個々原料についても食品内容物への移行制限量を厳しく制限するものである。その移行制限量はppbオーダーと非常に微量でありインキ設計上では大変厳しいものであるといえるが、一方、世界市場全体における大手食品メーカーあるいは食品パッケージメーカーはそれぞれ自社規制として「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」と同水準の規制を設定し運用を始めている傾向にあり、本レベルの低移行性が食品包装用インキ全般に求められるようになってきている。特にコーティングワニスに関しては、インキと比較して印刷物における膜厚が大きく、また印刷物の最表面を構成することが多いことから構成原料の移行に対するリスクが大きいといえる。
【0005】
低移行性、低臭性あるいは低滲み出し性を目的としては、特許文献1、2、3をはじめ種々の観点から研究が行われている。すなわち特許文献1では光重合開始剤または増感剤とポリエステル樹脂とを化学結合させることにより硬化反応後の光重合開始剤または増感剤の移行や溶出、揮発を低減させている。また特許文献2については活性エネルギー線硬化型インキ中の光重合開始剤または増感剤の選定により臭気、移行性の低減を狙っている。さらに特許文献3については、増感剤として用いられるチオキサントン骨格をベースとした新規な光重合開始剤を用いることで高硬化性と低滲み出し性の両立を達成している。
【0006】
しかしながら特許文献1〜3の、その低移行、低臭、低滲み出し性評価における試験条件を見てみると、特許文献1は印刷物上にフィルム基材を乗せ、温度70℃、圧力100kgf/cm
2で5時間プレスし、フィルムに移行した未反応開始剤および増感剤の量を紫外可視吸光光度計で測定するものであり、特許文献2は同様に印刷物上にフィルム基材を乗せ、温度60℃、圧力100kg/cm
2で24時間放置した後、フィルムを蒸留水へ浸漬(温度25℃、24時間)して未反応開始剤および増感剤あるいは未反応モノマー、オリゴマーの量を紫外可視吸光光度計で測定している。また特許文献3は印刷物上に未印刷の白紙を乗せ、温度60℃、圧力15g/cm
2で24時間放置した後、開始剤および増感剤の量を測定している。
特許文献1、3はフィルム上での紫外吸収スペクトルの測定でありppbオーダーの定量測定は困難であるうえに、特許文献3に関しては加圧条件と放置時間が比較的軽微である。さらに特許文献2は印刷物からインキ原料が移行していると想定されるフィルムを、蒸留水にて抽出しているが、「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」をはじめとした規制レベルの内容では実際の食品包装内容物を想定し高濃度のアルコール水溶液を用いるのが適当であり、また温度と放置時間についても市場要求レベルを満たしているとはいえない。加えて、一般に活性エネルギー線硬化型インキに用いるラジカル重合性モノマーあるいはオリゴマーの多くは光吸収波長を有しておらず特許文献2のような紫外可視吸光光度計での検出は困難である。
特許文献1、3に関しては主に光重合開始剤または増感剤の移行低減に関するものであり、架橋反応に関係するもう一方の主成分であるラジカル重合性モノマーあるいはオリゴマーの移行低減については触れていない。
【0007】
このように、世界全体に広がる食品・医薬包装材への安全性意識の高まりを受け、「Swiss Ordinance (RS817.023.21)」をはじめとした規制水準を満たす活性エネルギー線硬化型インキあるいはコーティングワニス組成物が求められているが、実際の製品がおかれる製造・保管状況を全体的に包括可能な試験条件の設定確立には至っていない。
【0008】
一般に、被覆組成原料の低移行、低臭、低滲み出しを向上させる目的として化合物の高分子量化が行なわれているが、主要インキあるいはコーティングワニス含有成分である(メタ)アクリレートモノマーに関しては一分子におけるアクリレート分子当量が増加するため重合反応率の低下が伴う。また活性エネルギー線硬化型インキあるいはコーティングワニス中の(メタ)アクリレートモノマーをアクリレート基数の多いもので構成することで硬化性の向上を実現できるが、反面架橋密度が大きすぎると皮膜の割れ耐性が低下するといった弊害が発生する。また、特に印刷物の最外層を形成する活性エネルギー線硬化型コーティングワニスにおいては、パッケージ印刷後の型抜き、罫線付け、箔押し、などといった後加工工程を実施するうえでの機械ラインに対する適切な滑り性(ライン適性)が重要となってくる。したがって、食品パッケージ印刷物においては、食品内容物に対する被覆組成原料の移行抑制による市場環境が求める水準の安全性の確保と、高硬化性や帯電防止性などの付与でパッケージ印刷物の製造効率向上を両立させることが必要である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、
(メタ)アクリレート化合物(A)と、
光重合開始剤(B)とを含有し、下記(1)〜(5)を特徴とする活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物に関する。
(1)(メタ)アクリレート化合物(A)が、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上、かつ重量平均分子量500〜2000の化合物のみで構成される。
(2)(メタ)アクリレート化合物(A)が、(メタ)アクリレート分子当量120〜200の(メタ)アクリレート化合物(a1)を含有し、(メタ)アクリレート化合物(A)全量中、(メタ)アクリレート化合物(a1)が50重量%以上である。
(3)前記(メタ)アクリレート化合物(a1)が、分子内に1以上のエチレンオキサイド付加体を有する。
(4)光重合開始剤(B)が、重量平均分子量300〜2000の化合物のみで構成される。
(5)光重合開始剤(B)が、活性エネルギー線硬化型コーティングワニス全量中、0.1〜15.0重量%の範囲で含有される。
【0015】
本発明の活性エネルギー線硬化型コーティングワニスは、印刷後、200〜420nmの紫外線を発生する高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプの紫外線照射に対し、効率的な硬化が得られると共にその印刷物が帯電防止性を有するように設計されている。
【0016】
なお、本発明における活性エネルギーとは、硬化反応の出発物質が基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことを表し、本発明における活性エネルギー線とは、紫外線や電子線をさす。
【0017】
本発明において、主要コーティングワニス含有成分である(メタ)アクリレート化合物(A)が印刷物からの外部移行抑制を達成するためには、下記記載の重量平均分子量を有し、且つ200〜420nmの紫外線を発生する高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプの紫外線照射に対し効率的な光重合反応が行なわれる必要がある。
【0018】
本発明において、(メタ)アクリレート化合物(A)は、移行性の観点から重量平均分子量500以上であり、且つ硬化性の観点から重量平均分子量2000以下である必要がある。
ただし、重量平均分子量500未満又は2000を超える光重合開始剤が、後述する移行試験において、100ppb以下の検出、あるいは検出されない程度に微量含まれる場合を排除するものではない。
【0019】
本発明において、活性エネルギー線硬化型コーティングワニスを印刷して得られる印刷物は、型抜きなどの後加工工程において良好な製造効率が得られるように良好なライン適性が必要となる。すなわち、印刷物上の活性エネルギー線硬化型コーティングワニスの皮膜表面が帯電防止性を有することが必要となる。
【0020】
本発明において、印刷物表面に帯電防止性を付与することを目的として、活性エネルギー線硬化型コーティングワニス中の(メタ)アクリレート化合物についてエチレンオキサイド付加体を有する(メタ)アクリレート化合物が使用される。一般的に(メタ)アクリレート化合物に対して皮膚刺激性の低減や粘度調整などの目的でアルキレンオキサイドを付加することが知られているが、その中でエチレンオキサイド付加体は対象となる多くの(メタ)アクリレート化合物を高極性化することができ、一定量以上のエチレンオキサイド付加によって疎水性(メタ)アクリレート化合物の水溶化も可能である。一方でプロピレンオキサイドなどのC3以上のアルキレンオキサイド付加では(メタ)アクリレート化合物の親水性化は得られない。さらにプロピレンオキサイド付加においては(メタ)アクリレート化合物の反応性の劣化が大きい傾向にある。
【0021】
本発明において、(メタ)アクリレート化合物(a1)として、
エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、
エチレンオキサイド変性ジグリセリンテトラアクリレート、
エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、
エチレンオキサイド変性ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、
が挙げられる。これらは系中において単独で使用しても2以上併用してもよい。
【0022】
また、本発明において、(メタ)アクリレート化合物(A)は、硬化性の観点から、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上である。具体的には、トリメチロールプロパントリカプロラクトネートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、等が例示されるがこれに限るものではない。この中で硬化性と市場汎用性を考慮するとジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの選択が好ましい。
【0023】
さらに本発明の(メタ)アクリレート化合物(A)としては、脂肪族アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートがある。脂肪族アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートモノマーとして脂肪族アルコール化合物のモノまたはポリ(1〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体(アルキレンオキサイドとして例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイド、ヘキシレンオキサイド他、以下同様)モノまたはポリ(1〜10)(メタ)アクリレートがある。
【0024】
アルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートのうち、1分子あたりのアクリレート官能基数が3以上のものとして、
グリセリンポリ(2〜20)アルキレン(C3〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールエタンポリ(2〜20)アルキレン(C3〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールヘキサンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールオクタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
【0025】
ペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールプロパンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
【0026】
ジトリメチロールエタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールブタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールヘキサンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールオクタンポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート、
【0027】
ジペンタエリスリトールポリ(5〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体ペンタ(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2〜C20)オキサイド付加体ヘキサ(メタ)アクリレート、
【0028】
トリペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2 〜C20)オキサイド付加体ヘキサ(メタ)アクリレート、
トリペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2 〜C20)オキサイド付加体ヘプタ(メタ)アクリレート、
トリペンタエリスリトールポリ(2〜20)アルキレン(C2 〜C20)オキサイド付加体オクタ(メタ)アクリレート等が例示されるがこれに限るものではない。
【0029】
本発明においては、(メタ)アクリレート化合物(A)が、(メタ)アクリレート分子当量120〜200の(メタ)アクリレート化合物(a1)を含有し、(メタ)アクリレート化合物(A)全量中、(メタ)アクリレート化合物(a1)が50重量%以上であることが必要である。かかる範囲とすることで、高硬化性と印刷皮膜の柔軟性を両立するとともに、エチレンオキサイド付加体による皮膜の高極性化で帯電防止性の付与を実現することができるという点で好適である。
【0030】
本発明において、主要コーティングワニス含有成分である光重合開始剤が印刷物からの外部移行抑制を達成するためには、重量平均分子量が300以上であり、且つ200〜420nmの紫外線を発生する高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプの紫外線照射に対し効率的な光重合反応が行なわれる必要がある。すなわち、重量平均分子量に関しては移行性の観点から300以上、且つ硬化性の観点から2000以下である必要があり、さらに高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプが特に高い光強度を発する波長領域に対して、大きなモル吸光係数を有する光重合開始剤が必要となる。
【0031】
活性エネルギー線硬化型コーティングワニスにおいては、高硬化性に加えて低黄変性が求められる。一般的に活性エネルギー線硬化型インキあるいはコーティングワニスに使用されることの多い光重合開始剤としては、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノアルキルフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チオキサントン化合物、ベンゾフェノン化合物が挙げられるが、特にコーティングワニスに対しては黄変性の高いα-アミノアルキルフェノン化合物やチオキサントン化合物の使用は難しい。またアシルフォスフィンオキサイド化合物はモル吸光係数が小さく単独では表面硬化性に劣る。さらにベンゾフェノン化合物はポリマータイプでない限り移行性が高く、食品・医薬包装資材用の活性エネルギー線硬化型コーティングワニスへの使用は難しいうえ、ポリマータイプのベンゾフェノン化合物では溶解性が劣るため添加上限量が低下するため硬化性面で不十分である。一方で、α-ヒドロキシアルキルフェノンは比較的高いモル吸光係数と低黄変性を有しており、重量平均分子量の比較的大きな化合物を選択することで低移行性を達成することも可能である。
主なα-ヒドロキシアルキルフェノン化合物のモル吸光係数を表1に示す。本発明において、モル吸光係数の単位(l/mol・cm)中「l」は、体積の単位であるリットルを表している。
【0033】
本発明において、光重合開始剤(B)としてα-ヒドロキシアルキルフェノン(b1)が挙げられるが、さらにα-ヒドロキシアルキルフェノン(b1)として、重量平均分子量がそれぞれ300以上であり低移行性に優れることに加え、高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプの主要発光波長のひとつである254nm近辺に高いモル吸光係数を有することで反応効率に優れる、すなわち未反応物質としての残存リスクが小さいといった観点から、
2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、
または
オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]
が好ましい。
これらは単独あるいは併用されてもよいが、低黄変性を阻害しない、あるいは後述する移行試験において検出されない程度量で下記の光重合開始剤を含んでいてもよい。
【0034】
さらに、本発明においては、活性エネルギー線硬化型コーティングワニス全量中、光重合開始剤(B)をそれぞれ一物質につき0.01〜5.0重量%の範囲で含有し、さらに光重合開始剤(B)全量として1.0〜15.0重量%含有することが好ましい。かかる範囲であれば、硬化性と移行性を両立することが可能となる。
【0035】
本発明において光重合開始剤(B)以外に、低黄変性を阻害しない、あるいは後述する移行試験において検出されない程度量で使用される光重合開始剤としては、水素引き抜き型として、ベンゾフェノン、p−メチルベンゾフェノン、p―クロルベンゾフェノン、テトラクロロベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイルー4’−メチルージフェニルサルファイド、2−イソプロピルチオシサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、アセトフェノン・アリールケトン系開始剤、4,4‘−ビス(ジエチルアニノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノアセトフェノン・ジアルキルアミノアリールケトン系開始剤、チオキサントン、キサントン系・そのハロゲン置換・多環カルボニル系開始剤などが挙げられる。
【0036】
また、開裂型光重合開始剤として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α―アクリルベンゾイル・ベンゾイン系、ベンジル、2−メチルー2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパンー1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノー1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン、ベンジルメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシー2−メチルー1−フェニルプロパンー1−オン、1−(4−イソプロピルフェニルー2−ヒドロキシー2−メチルプロパンー1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルー(2−ヒドロキシー2−プロピル)ケトン、4−(2−アクロイルーオキシエトキシ)フェニルー2−ヒドロキシー2−プロピルケトン、ジエトキシアセトフェノンなどがある。
【0037】
また、光重合開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン・脂肪族アミン、4,4‘−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジブチルエタノールアミンなどが挙げられる。
【0038】
本発明において、塗工性や耐摩擦性など皮膜物性の点から、樹脂・オリゴマーを併用することができる。樹脂・オリゴマーとして樹脂の例としては、ポリエステル樹脂や、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、石油樹脂、ウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、分子内にラジカル重合性二重結合を持たないアミノ樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0039】
さらに該コーティングワニスには、必要に応じて以下に示すようなその他の添加剤を使用することが可能である。
【0040】
例えば、耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性を付与する添加剤としては、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、およびシリコーン化合物などの合成ワックス等を例示することができる。
【0041】
例えば、コーティングワニスの保存安定性を付与する添加剤としては、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p −メトキシフェノール、t −ブチルカテコール、t −ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1−ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p −ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−p −ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ−p −ニトロフェニルメチル、N−(3−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o−イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等の重合禁止剤が例示される
【0042】
その他、要求性能に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤等の添加剤を添加することができる。
【0043】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型コーティングワニスにおいて、タルクやシリカに代表される体質顔料を一定量含有することでマット感を付与することのできるマットワニスとして使用することができる。
【0044】
本発明における基材(D)とは、商業印刷用紙(アート紙、コート紙、上質紙、マットコート紙)、厚紙(ボール紙、ミルクカートン紙、ケント紙、ダンボール紙)、アルミ蒸着紙、合成紙(ユポ紙)等であって、厚みが2.0mm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中「部」、「%」はそれぞれ重量部、重量%を表す。
【0046】
重量平均分子量は東ソー(株)製ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(HLC8020)で、溶媒をテトラヒドロフラン、ポリスチレンを検量線用標準サンプルとして測定した。
【0047】
以下に示す処方により活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物を作成した。
【0048】
活性エネルギー線硬化型コーティングワニスの製造方法は、温度50℃で加温し攪拌溶解する。
【0049】
<実施コーティングワニスの作成>
(メタ)アクリレート化合物としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと、エチレンオキサイド変性(n=4)ペンタエリスリトールテトラアクリレートと、エチレンオキサイド変性(n=4)ジグリセリンテトラアクリレートと、エチレンオキサイド変性(n=4)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートと、エチレンオキサイド変性(n=6)トリメチロールプロパントリアクリレートと、さらに光重合開始剤として、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オンと、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]と、重合禁止剤としてハイドロキノン(精工化学(株)製)を表2の組成(部)に従ってバタフライミキサーを用いて攪拌混合し、温度50℃にて光重合開始剤と重合禁止剤が完全に溶解させることで実施例
1〜48、52、53および参考実施例49〜51、54〜56の活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物を作成した。
【0050】
<比較コーティングワニスの作成>
(メタ)アクリレート化合物としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと、エチレンオキサイド変性(n=3)(n=9)トリメチロールプロパントリアクリレートと、プロピレンオキサイド変性(n=3)トリメチロールプロパントリアクリレートと、プロピレンオキサイド変性(n=4)ジグリセリンテトラアクリレートと、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートと、トリメチロールプロパントリアクリレート、さらに光重合開始剤として、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オンと、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンと、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンと、2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)- 2-ベンジル-1-ブタノンと、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドと、2,4,6−トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドと、2,4-ジエチルチオキサントンと、ベンゾフェノンと、重合禁止剤としてハイドロキノン(精工化学(株)製)を表3の組成(部)に従ってバタフライミキサーを用いて攪拌混合し、温度50℃にて光重合開始剤と重合禁止剤が完全に溶解させることで比較例1〜45の活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物を作成した。
【0051】
得られた実施例
1〜48、52、53、参考実施例49〜51、54〜56、比較例1〜45の活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物をミルクカートン紙すなわちPEコート紙(トーエーパックカートン:北越製紙(株)製)にRIテスターを用いて0.0003g/cm
2展色し、「硬化性」と「黄変性」について評価した。また、同様にしてアート紙(特菱アートN:三菱製紙(株)製)にRIテスターを用いて0.0003g/cm
2展色し、「割れ性」を評価した。それらの結果をあわせて表2〜3に示す。なお、RIテスターとは、紙やフィルムにインキあるいはコーティングワニスを展色させる試験機であり、インキあるいはコーティングワニスの転移量や印圧を調整することができる。
【0052】
<硬化性の評価>
メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)あるいは高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度80m/分の条件にて紫外線照射を行い、表面を綿布で擦って目視による綿布への着色の有無を「硬化性」として評価し、下記評価基準に基づいて評価を行った。上記の照射出力、照射距離条件下において、コンベア速度80m/分での照射光量は、高圧水銀ランプおよび/またはメタルハライドランプを複数本使用して印刷を行なうオフセット枚葉印刷機によるパッケージ印刷物の製造工程に対して、標準レベルを満たした照射光量といえる。
(評価基準)
○:着色なし、実用性あり。
△:微かに着色あり、実用性あり。
×:着色あり、実用性なし。
【0053】
<黄変性の評価>
メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)あるいは高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度60m/分の条件にて紫外線照射を行い、得られた印刷物上のコーティングワニスにおける黄着色の程度を目視にて比較評価した。
(評価基準)
○:黄着色なし、実用性あり。
△:若干黄着色あり、実用性あり。
×:黄着色あり、実用性なし。
【0054】
<割れ性の評価>
メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)あるいは高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度60m/分の条件にて紫外線照射を行い、得られた印刷物に対して、印刷面を外側にして180°折り曲げた後のコーティングワニス皮膜の状態を目視にて評価した。
(評価基準)
○:皮膜の割れなし、実用性あり。
△:若干皮膜の割れあり、実用性あり。
×:皮膜の割れあり、実用性なし。
【0055】
<移行性の評価>
以下いずれかの基材100cm2へ実施例
1〜48、52、53、参考実施例49〜51、54〜56、比較例1〜45の活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物をRIテスターを用いて0.0003g/cm2展色し、メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)照射装置を使用し、照射出力160W/cm、照射距離10mm、コンベア速度80m/分の条件にて紫外線照射を行い、
同面積のPPフィルム(シーダムアクア、厚み0.2mm:シーダム(株)製)を重ねて0.02kg/cm2の荷重付加にて25℃・50%環境条件下、10日間放置した。その後、PPフィルムをエタノール100ml中へ60℃・50%環境条件下、10日間浸漬し、得られたエタノールをWaters製LC-MS(高速液体クロマトグラフ質量分析
計)にて分析を行なった。エタノール中に存在する(メタ)アクリレート化合物と光重合開始剤がそれぞれ100ppb未満の濃度であれば低移行性良好(○)、100ppb以上の濃度で検出が確認された場合低移行性に欠ける(×)と評価した。
(評価基準)
○:検出量100ppb未満、移行性良好
×:検出量100ppb以上、低移行性不良
基材:それぞれ厚み2.0mm以下である商業用印刷用紙(アート紙、コート紙、上質紙、マットコート紙)、厚紙(ボール紙、ミルクカートン紙、ケント紙、段ボール紙)、アルミ蒸着紙、合成紙(ユポ紙)
【0056】
<帯電防止性の評価>
実施例
1〜48、52、53、参考実施例49〜51、54〜56、比較例1〜45の活性エネルギー線硬化型コーティングワニス組成物を、小森コーポレーション社製枚葉印刷機リスロン26(コーター機付き)を用いて、PEコート紙(トーエーパックカートン:北越製紙(株)製)上へ印刷を行なった。得られた印刷物を再度印刷機の基材供給部へ設置し、毎時10000枚の速度にて紙通し試験を行って基材が印刷機中を良好に通過するか検証した。基材が帯電するなどして適切な移動方向や間隔が保てなくなった場合、印刷機のライン上で基材が止まってしまう。紙通し試験開始から1000枚問題なく基材を通過させることができた場合、ライン適性良好(○)とし、1000枚未満で基材が止まってしまった場合、ライン適性不良(×)と評価した。(評価基準)
○:1000枚通過、ライン適性良好
×:1000枚未満で停止、ライン適性不良
【0057】
表2〜3の結果より本発明の実施例によれば、(メタ)アクリレートモノマーと光重合開始剤の両者において、印刷物からの外部移行抑制が得られており、食品・医薬包装用インキに対して市場環境が求める水準の安全性を達成すると共に、高硬化性による良好な生産性と、印刷物への帯電防止効果の付与による良好なライン適性を同時に提供することができる。
【0058】
【表2-1】
【0059】
【表2-2】
【0060】
【表3-1】
【0061】
【表3-2】
本願は、主要コーティングワニス含有成分である(メタ)アクリレート化合物と光重合開始剤の両者において印刷物からの外部移行抑制を達成すると共に、コーティングワニスに求められる低黄変性に加え、特に、高硬化性と印刷物への帯電防止効果の付与によって良好なライン適性を同時に実現する活性エネルギー線硬化型コーティングワニスを提供することを目的とする。