【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<基材>
基材として、組成がWC(bal.)−Co(8質量%)−TaC(0.25質量%)−Cr
3C
2(0.9質量%)であり、WCの平均粒径:0.6μm、硬度:93.4HRAである超硬合金製のインサート式ラジアスエンドミルを準備した。
なお、WCは炭化タングステンを、Coはコバルト原子を、TaCは炭化タンタルを、それぞれ表す。
【0036】
<成膜装置>
成膜には、アークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いた。
成膜装置に設けられた真空容器の内部は、真空ポンプにより排気され、その後、供給ポートよりガスが導入されるようになっている。真空容器内に設置された各基材は、バイアス電源と電気的に接続されており、独立して各基材に負圧のDCバイアス電圧を印加することができる。
真空容器内には基材を回転させるための基材回転機構が設けられている。この基材回転機構は、プラネタリー、プラネタリー上に配置されたプレート状治具、プレート状治具上に配置されたパイプ状治具を備えており、プラネタリーが毎分3回転の速さで回転するとともに、プレート状治具およびパイプ状治具はそれぞれ自公転する。
【0037】
硬質皮膜で基材を被覆する場合、ターゲットの外周および背面に永久磁石を配備し、20.2mTの平均磁束密度を発生するカソード(以下、C1と記載する。)を用いた。
ここで、比較例2では、背面に永久磁石を配備し、15.1mTの平均磁束密度のカソード(以下、C2と記載する。)を用いた。
また、メタルボンバード処理を行う場合、ターゲットの外周にコイル磁石を配備したカソード(以下、C3と記載する。)を用いた。
【0038】
<成膜工程>
真空容器内を8×10
−3Pa以下に真空排気した。その後、真空容器内に設置したヒーターにより基材を加熱し、真空排気を行った。基材の加熱温度は、サンプル工具ごとに変化させた。そして、真空容器内の圧力を8×10
−3Pa以下とした。その後、Arプラズマによるクリーニングを行い、引き続いてメタルボンバード処理として、Tiボンバード処理を行って中間皮膜を形成した。次に、真空容器内のガスを窒素に置き換え、真空容器内の圧力を5Paとした。成膜温度とバイアス電圧とを変化させて、カソードに150Aの電流を供給し、基材の表面に膜厚が約2μmの硬質皮膜を被覆した。
以上のようにして、基材の表面に中間皮膜と硬質皮膜とを被覆した被覆切削工具(サンプル工具)を作製した。
なお、比較例1以外は、硬質皮膜の被覆前に、8×10
−3Pa以下になるように真空排気して、C3に150Aのアーク電流を供給し、Tiボンバード処理を実施した。
なお、比較例1、8、9では、以下のように被膜形成した。
・比較例1では、Arプラズマによるクリーニングの後、メタルボンバード処理をせずに、硬質皮膜を被覆した。
・比較例8では、Arプラズマによるクリーニングの後、メタルボンバード処理をせずに、中間皮膜としてTiNを被覆した。
・比較例9では、Arプラズマによるクリーニングの後、メタルボンバード処理をせずに、中間皮膜としてCrNを被覆した。
【0039】
【表1】
【0040】
<組成分析>
株式会社日本電子製の電子プローブマイクロアナライザー装置(型番:JXA−8500F)を用いて、サンプル工具の硬質皮膜の組成を、波長分散型電子プローブ微小分析(WDS−EPMA)により測定した。組成は、5点を測定し、測定値を平均して求めた。
測定条件は、加速電圧:10kV、照射電流:5×10
−8A、取り込み時間:10秒、分析領域直径:1μm、分析深さ:略1μmとした。
【0041】
<硬度測定>
株式会社エリオニクス製のナノインデンテーション装置(型番:ENT−1100a)を用いて、サンプル工具の硬質皮膜の硬度を測定した。硬質皮膜の硬度を測定するために、インサートを5度傾けて鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さが層厚の略1/10未満となる領域を選定した。このとき、略1/5程度でも、基材の影響はなかった。
硬度は、10点を測定し、測定値の平均値を求めて硬度とした。
測定条件は、押込み荷重:49mN、最大荷重保持時間:1秒、荷重負荷後の除去速度:0.49mN/秒とした。また、測定前には、標準試料である単結晶Siを測定し、その硬さが12GPaであることを確認した。
【0042】
<X線回折>
X線回折を用い、サンプル工具の硬質皮膜の結晶構造を評価した。具体的には、株式会社リガク製のX線回折装置(型番:RINT2500V−PSRC/MDG)を用い、管電圧:40kV、管電流:300mA、X線源:Cukα(λ=0.15418nm)、2θ:30°〜70°の測定条件にて実施した。そして、(200)面のピーク強度から半価幅を測定した。
【0043】
<TEM観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察を行い、サンプル工具の中間皮膜又は硬質皮膜を評価した。具体的には、日本電子株式会社製の電界放出型透過電子顕微鏡(型番:JEM−2010F型)を用い、加速電圧:120V、入射電子量:5.0pA/cm
2の条件下、TEM解析を実施した。TEM解析は、中間皮膜又は硬質皮膜をそれぞれ、膜面に垂直な面で切断した場合の切断面を観察することにより行った。
制限視野回折パターンは、カメラ長:100cm、制限視野領域:φ750nmで実施した。制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルからhcp構造及びfcc構造のピーク強度を求めた。各試料について硬質皮膜の基材側と表面側の2カ所で制限視野回折パターンを測定した。
中間皮膜の組成は、付属のUTW型Si(Li)半導体検出器を用いてビーム径1nmで分析した。ナノビーム回折は、カメラ長を50cmとし、ビーム径を2nm以下として分析した。
なお、比較例3のサンプル工具については、Al含有量が少ない硬質皮膜のため、硬質皮膜のTEM解析は実施していない。比較例4、10のサンプル工具については、X線回折でもhcp構造のピーク強度が確認されているため、硬質皮膜のTEM解析は実施していない。比較例5のサンプル工具については、本願発明の硬質皮膜とは膜種が異なるAlCrNであるため、硬質皮膜のTEM解析は実施していない。
【0044】
図4に、本発明例1のサンプル工具の透過電子顕微鏡写真(2,000,000倍)を示す。図中の矢印1が示すポイントが基材、矢印2が示すポイントが中間皮膜、矢印3が示すポイントが硬質皮膜である。
図6のEDSスペクトル分析結果および
図5のナノビーム回折パターンから、
図4の矢印1は、WCであることが確認された。
図9のEDSスペクトル分析結果から、
図4の矢印3は硬質皮膜であることが確認された。
図8のEDSスペクトル分析結果から、中間皮膜は、WとTiが含まれていることが確認された。また、
図7のナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けが可能であった。EDSスペクトル分析およびナノビーム回折パターンから、中間皮膜はWおよびTiを含有した炭化物であることが確認された。
中間皮膜は、金属(半金属を含む)元素の含有比率(原子%)でWを最も多く含有し、次いでTiを多く含有していた。なお、WおよびTi以外には硬質皮膜の成分であるAl、Nを含有していた。また、母材成分であるCoも僅かに含有していた。
【0045】
<切削試験>
被削材をSKD11として切削試験を行った。切削条件は以下の通りである。
<切削試験の条件>
・工具:高硬度材加工用インサート式ラジアスエンドミル
φ12×R2×3枚刃(日立ツール株式会社製)
・カッター型番:ASRM−1012R−3−M6
・インサート型番:EPHN0402TN−2
・切削方法:底面切削
・被削材:SKD11(60HRC)
・切込み:軸方向0.15mm、径方向6mm
・刃数:1
・主軸回転数:1856min
−1
・テーブル送り:742mm/min
・一刃送り量:0.4mm/tooth
・切削油:エアーブロー
・切削距離:25m
【0046】
【表2】
【0047】
表2に皮膜の特性結果を示す。
図10に、本発明例1〜5のサンプル工具に対して行った切削試験後の刃先の観察写真(100倍)を示す。また、
図11に、本発明例6〜8のサンプル工具に対して行った切削試験後の刃先の観察写真(100倍)を示す。
本発明例1〜8のサンプル工具は、比較例2のサンプル工具よりも、Al含有量が多いが、硬質皮膜の母材側及び表面側でAlNのhcp構造が少ないことが確認された。本発明例のサンプル工具はいずれも、切削試験に引き続いて切削加工が可能なレベルの損傷状態であった。
【0048】
本発明例1のサンプル工具と本発明例4、8のサンプル工具との比較から、中間皮膜の膜厚が好ましい範囲の中でも、中間皮膜の膜厚が2nmよりも厚膜の方が、より優れた耐久性を示すことが確認された。
本発明例1のサンプル工具と本発明例5のサンプル工具との比較から、中間皮膜の膜厚が好ましい範囲にある本発明例のサンプル工具中でも、硬質皮膜の基材側および表面側で同一の結晶面に起因するピーク強度が最大強度を示す方が、皮膜損傷が少なく、より優れた耐久性を示すことが確認された。
本発明例1のサンプル工具と本発明例6のサンプル工具の比較から、「Ih×100/Is」の値がより小さい方が、優れた耐久性を示すことが確認された。本発明例1のサンプル工具と本発明例7のサンプル工具との比較から、(200)面の半価幅が小さい方が、優れた耐久性を示すことが確認された。
【0049】
比較例は、いずれも工具損傷が大きくなり、引き続いて切削加工を行うことは不可能であった。
図12に、比較例1〜6のサンプル工具に対して行った25m切削試験後の刃先の観察写真(100倍)を示す。また、
図13に、比較例7〜10のサンプル工具に対して行った25m切削試験後の刃先の観察写真(100倍)を示す。
比較例1のサンプル工具は、硬質皮膜の「Ih×100/Is」の値は小さいが、中間皮膜が形成されていないため、基材と硬質皮膜との密着性が十分なく、工具損傷が大きくなった。
比較例2のサンプル工具は、本発明例のサンプル工具よりも、ターゲット表面付近の磁束密度が小さいカソードを用いて硬質皮膜を被覆したので、硬質皮膜に含まれているhcp構造のAlNが多くなり、工具損傷が大きくなった。
比較例3のサンプル工具は、硬質皮膜に含まれるAl含有量が少ないため、工具損傷が大きくなった。
比較例4のサンプル工具は、硬質皮膜を被覆する際に基材に印加するバイアス電圧が小さいため、X線回折でもhcp構造のAlNに起因するピーク強度が確認された。そのため、工具損傷が大きくなった。
比較例5のサンプル工具は、硬質皮膜にAlCr系の窒化物を形成したので、工具損傷が大きくなった。
比較例6のサンプル工具は、基材のクリーニングを目的として短時間のTiボンバード処理を実施したため、本発明例のサンプル工具のような中間皮膜は確認されなかった。そのため、基材と硬質皮膜との密着性が十分なく、工具損傷が大きくなった。
比較例7のサンプル工具は、中間皮膜の膜厚が厚くなり過ぎて、基材と硬質皮膜の密着性が十分なく、工具損傷が大きくなった。
比較例8のサンプル工具と比較例9のサンプル工具は、窒化物の中間皮膜を設けたため、基材と硬質皮膜の密着性が十分なく、工具損傷が大きくなった。
比較例10のサンプル工具は、硬質皮膜のTiの含有量が少ないため、X線回折でもhcp構造のAlNに起因するピーク強度が確認された。そのため、工具損傷が大きくなった。
【0050】
(実施例2)
実施例1において、成膜工程での成膜条件を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、基材の表面に中間皮膜と硬質皮膜とを被覆した被覆切削工具(サンプル工具)を作製した。
被削材をS50Cとして添加元素の効果を確認するため、本発明例20〜23及び比較例20のサンプル工具に対して、切削試験を行った。切削条件は以下の通りである。成膜条件を表3に、作製したサンプル工具の物性を表4に、それぞれ示す。
【0051】
<切削試験の条件>
・工具:高送りラジアスミル
φ63×4枚刃(日立ツール株式会社製)
・カッター型番:ASRT5063R4
・インサート型番:WDNW140520
・切削方法:底面切削
・被削材:S50C(220HB)
・切込み:軸方向1.0mm、径方向42mm
・刃数:1
・主軸回転数:1516min
−1
・テーブル送り:2274mm/min
・一刃送り量:1.5mm/tooth
・切削油:エアーブロー
・切削距離:4m
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
図14に、切削試験後のすくい面の損傷状態を観察した電子顕微鏡観察写真(40倍)を示す。図中の白く見える部分が摩耗した箇所を示す。硬質皮膜がWを含有することにより、クレータ摩耗が抑制されることが確認できる。本発明例のサンプル工具はいずれも、実施例1の高硬度鋼および高炭素鋼において、優れた切削性能を示すことが確認された。また、画像解析ソフトにより、摩耗した白く見える部分の面積率を測定した結果を表5に示す。
本発明例のサンプル工具の中でも、Wを一定量含有した本発明例22、23のサンプル工具は、クレータ摩耗が顕著に抑制されることが確認された。
【0055】
【表5】
【0056】
(実施例3)
実施例2で使用した本発明例20〜23のサンプル工具、比較例20のサンプル工具を用意し、被削材をSKD11(60HRC)として、実施例1よりも工具負荷がより大きくなる条件を選定して切削試験を行い、評価した。切削条件を以下に示す。切削試験の結果は、表6に示す。
【0057】
<切削試験の条件>
・工具:高送りラジアスミル
φ32×5枚刃(日立ツール株式会社製)
・カッター型番:ASRS2032R−5
・インサート型番:EPMT0603TN−8
・切削方法:底面切削
・被削材:SKD11(60HRC)
・切込み:軸方向0.5mm、径方向22mm
・刃数:1
・主軸回転数:796min
−1
・テーブル送り:159mm/min
・一刃送り量:0.2mm/tooth
・切削油:エアーブロー
・逃げ面摩耗幅が0.25mmに到達したときを工具寿命とした。
【0058】
【表6】
【0059】
本発明例のサンプル工具は、高硬度鋼の高能率加工において、工具寿命に達する距離が比較例のサンプル工具に比べて2倍以上となった。特に、より好ましい範囲でWを含有する本発明例21、22のサンプル工具は、工具寿命に達する距離が長くなり耐久性が優れる結果となった。
【0060】
(実施例4)
実施例1において、表1、表3の条件にて硬質皮膜が被覆された被覆切削工具(本発明例1〜8、21〜23、及び比較例1〜9のサンプル工具)を用い、以下の条件でNi基超耐熱合金に対して切削試験を行ない評価した。切削試験の結果は、表7に示す。
【0061】
<切削試験の条件>
・工具:ソリッドエンドミル
φ10×2枚刃(日立ツール株式会社製 HES2100)
・基材:WC(bal.)−Co(11質量%)−TaC(0.4質量%)−Cr
3C
2(0.9質量%)、WC平均粒径0.6μm、硬度92.4HRAの超硬合金
・切削方法:側面切削
・被削材:重量%で、Ni−19%Cr−18.7%Fe−3.0%Mo−5.0%(Nd+Ta)−0.8%Ti−0.5%Al−0.03%Cの組成を有するNi基合金(時効硬化処理済み)
・切込み:軸方向6mm、径方向0.3mm
・切削速度:40m/min
・一刃送り量:0.04mm/tooth
・切削油:水溶性切削油
・切削距離:0.2m
【0062】
【表7】
【0063】
本発明例では、Ni基超耐熱合金の切削加工において、比較例よりも優れた耐久性を示すサンプル工具が得られた。特に、Wを好ましい範囲で含有した本発明例21、22のサンプル工具は、摩耗幅が少ない傾向にあった。本発明における硬質皮膜がWを含有することで、幅広い被削材において、より優れた耐久性を示すことが確認された。
【0064】
日本出願2013−068602の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。