【文献】
Branka Davovic, et al., Journal of Cellular Physiology, Apr.2009, 1, pp14-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、従来のDANCE含有弾性線維再生剤に比べ、弾性線維の再生能が一層高められた再生剤を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、LTBP−4を含むLTBP−4含有弾性線維再生剤を用いれば、血清の存在の有無にかかわらず、優れた作用が発揮されることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
詳細には、LTBP−4はDANCEと結合すること;ヒト皮膚線維芽細胞培養におけるLTBP−4遺伝子のノックダウンによって、血清存在下でも弾性線維が形成されなくなること;この培養系に組換えLTBP−4を添加すると極めて多量の弾性線維が形成されること;LTBP−4による上記弾性線維形成作用は、DANCEとの併用により相乗的に促進されることが判明した。血清存在下の線維芽細胞培養系において弾性線維形成の促進作用が確認されたのはLTBP−4が初めてであり、従来のDANCE含有弾性線維再生剤には見られなかった顕著な知見である。また、LTBP−4とDANCEの併用により、血清存在下のみならず無血清存在下における弾性線維の形成が飛躍的に促進されたことは、従来の予想を遥かに超える知見である。
【0021】
本明細書において、「弾性線維再生剤」における「再生」には、弾性線維の劣化・断裂などによって失われた弾性線維を再生(新生)可能な状態にすることを意味し、再生には形成も含まれる。よって、弾性線維の形成が充分でないものの形成促進も含まれる。
【0022】
(本発明の弾性線維再生剤)
本発明の弾性線維再生剤は、有効成分として少なくともLTBP−4を含んでおり、好ましくは、DANCEおよび/または公知のLTBP−4発現増強因子若しくはDANCE発現増強因子を更に含んでいる。特許文献2に記載のDANCE含有弾性線維再生剤(従来例)は、LTBP−4を含んでいない点で、本発明のLTBP−4含有弾性線維再生剤と相違する。本発明の再生剤は、以下に詳述するように、例えば、医薬、培養細胞用試薬、人工組織などに適用することができる。
【0023】
本発明に用いられるLTBP−4は、配列番号1に記載の塩基配列(GenBankアクセッション番号AF051344)若しくはそのオルソログ、またはこれらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)に由来するポリペプチドをいう。LTBP−4のオルソログは特に限定されず、例えば任意の動物、好ましくは哺乳動物に由来するものであり得る。哺乳動物としては、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウスなどが挙げられる。LTBP−4は分泌タンパク質であり、プロセシングによりシグナル配列(例えば、MAGGVRLLWVSLLVLLAQLGPQPGLG)が除去され得る。本発明の方法では、LTBP−4としては、シグナル配列が除去されたもの、シグナル配列が除去されていないもののいずれでも使用できるが、シグナル配列が除去されたものが好ましい。また、LTBP−4変異体は、弾性線維の再生を可能とするものであれば特に限定されず、例えば、配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし且つLTBP−4をコードするDNAに由来するポリペプチドが挙げられる。
【0024】
本発明の再生剤は、DANCEを更に含んでいても良い。後記する実施例で実証したように、無血清下で、LTBP−4およびDANCEを両方含有する再生剤を用いると、LTBP−4単独またはDANCE単独の再生剤を用いた場合に比べて、弾性線維の再生が飛躍的に促進されたことから、DANCEを更に含む上記再生剤は、弾性線維の再生に極めて有用である。本発明に用いられるDANCEについては、特許文献1および2に詳細に記載されており、特許文献1の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列またはその均等物などが用いられる。あるいは、特許文献2に記載のように、プロセシングによりシグナル配列(特許文献2の配列番号1に記載のアミノ酸配列における1〜23番目のアミノ酸配列に相当)が除去されたものを用いても良い。あるいは、DANCEは特許文献1に記載のようにDANCE特異的プロテアーゼによって切断されることが確認されており、特許文献2に記載のDANCE変異体を用いることもできる。
【0025】
本発明の再生剤は、LTBP−4発現増強因子(LTBP−4誘導因子)及び/又はDANCE発現増強因子(DANCE誘導因子)を更に含んでいてもよい。本発明では、LTBP−4の発現を増強することが知られている公知のLTBP−4発現増強因子及び/又はDANCE発現増強因子を用いることができ、例えば、TGFβなどのLTBP−4発現増強因子;ナンテンカズラエキス、シカクマメエキス、フィチン酸及びその生理学的に許容される塩、並びにL−ヒドロキシプロリン及びその生理学的に許容される塩等のDANCE発現増強因子;LTBP−4発現ベクター若しくはDANCE発現ベクター、またはLTBP−4誘導因子発現ベクター若しくはDANCE誘導因子発現ベクター(詳細は後記する。)などが挙げられる。上記TGFβとしては、代表的にTGFβ−1などが例示される。
【0026】
本発明の再生剤は、上記有効成分のほか、薬学的に許容されるその塩を含んでいてもよい。具体的には、上記有効成分がカルボキシル基などの酸性基を有する場合には、上記有効成分の塩として、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ−ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩などが挙げられる。また、上記有効成分がアミノ基などの塩基性基を有する場合には、上記有効成分の塩として、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0027】
あるいは、本発明の再生剤は、上述した薬学的に許容される塩の溶媒和物または水和物を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の再生剤は、上記の有効成分のみから構成されていても良いが、例えば、医薬などに用いる場合は医薬上許容される任意の担体(添加剤)を含んでいても良い。「医薬上許容される担体」は特に限定されず、常法のものであれば、無機物質若しくは有機物質、または固体若しくは液体の任意のものを用いることができる。ここで、医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤;クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤;カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、これらに限定する趣旨ではない。これらは、有効成分100質量部に対し、おおむね、1質量部から90質量部の割合で配合することができる。
【0029】
本発明に係る再生剤の投与形態は限定されず、治療目的などに応じて、経口投与および非経口投与のいずれかを任意に選択することができる。経口投与および非経口投与の投与形態は、医薬的に許容されるものであれば特に限定されない。
【0030】
このうち、経口投与に好適な剤型としては、例えば、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量のリガンドを溶解させた液剤;有効量のリガンドを固体や顆粒として含んでいるカプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤);サッシェ剤または錠剤;適当な分散媒中に有効量のリガンドを懸濁させた懸濁液剤;有効量のリガンドを溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等が挙げられる。そのほか、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤等も挙げられる。これらは常法に従って製剤化される。また、錠剤や顆粒剤などは、周知の方法でコーティングされていても良い。
【0031】
経口投与用の固形製剤を製造する方法は特に限定されず、常法を適用すれば良い。具体的には、例えば、有効成分と、賦形剤成分(例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸など)とを混合して散剤とするか、さらに必要に応じて、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて、湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする方法が挙げられる。また、錠剤を製造するには、これらの散剤又は顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの散剤、顆粒剤、又は錠剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸− メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤としても良いし、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、上記の散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0032】
一方、非経口的な投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、例えば、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤、水性および非水性の無菌の懸濁液剤、点滴剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤等が挙げられる。これらの製剤は、常法の添加剤を含んでいても良い。例えば、注射液剤は、抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤、保存剤等を含んでいても良く、懸濁液剤は、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等を含んでいても良い。
【0033】
これらは常法に従って製剤化される。例えば注射液剤は、上記の有効成分を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて、塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖などの等張化剤などに溶解させてもよい。また、注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適切な水性媒体に溶解させて調製することもできる。あるいは、高分子などで被覆した徐放製剤を脳内に直接投与することも可能である。また、懸濁液剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0034】
より詳細には、例えば、注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて上記の等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用時、溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化させ、注射剤用乳剤とすることもできる。
【0035】
また、直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの坐剤用基材と共に加湿して溶解し、型に流し込んで冷却するか;あるいは、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
【0036】
また、皮膚用外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加え、必要に応じて加湿して練合し、軟膏剤とするか;あるいは、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合した後、ポリアルキルなどの不織布に展延してテープ剤とすれば良い。
【0037】
また、本発明の再生剤は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として用いることもできる。この徐放性製剤は、体内から速やかに除去されることを防止可能な、薬剤的に受容可能な公知の担体を用いて調製することができる。具体的には、例えば、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生物分解性または生物適合性ポリマーを用いることができる。これらのポリマーは公知であり、常法に基づき、当業者によって容易に調製することができる。あるいは、薬剤的に受容可能な他の担体として、リポソームの懸濁液なども使用することができる。上記リポソームは特に限定されず、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物などが挙げられる。これは、使用に適したサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製した後、逆相蒸発法によって精製して得られる。
【0038】
本発明に係る再生剤の投与量は、有効成分の種類や活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢などを考慮して適宜選択すれば良いが、通常、成人1日あたり有効成分の含有量として約0.05〜約100mg/kgとすることが好ましい。
【0039】
なお、本発明の再生剤を医薬用途に用いる場合、キットの形態で用いても良い。具体的には、医薬組成物を構成する異種の構成成分を、予め、別々の容器またはパック中に包装しておき、使用直前に混合して使用する態様が挙げられる。これにより、各種構成成分の機能を失うことなく、長期間の貯蔵が可能になる。使用可能な容器としては、各種構成成分の活性を長期間有効に持続でき、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないようなものが挙げられる。上記容器としては、例えば、封着されたガラスアンプルが挙げられ、これは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。このガラスアンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は構成成分を保持するために通常用いられる他の適切な材料などから構成される。あるいは、他の適切な容器として、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトルや、内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材などが挙げられる。上記容器の形態は特に限定されず、例えば、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、またはこれらの類似物が挙げられる。上記容器は無菌のアクセスポートを有していても良く、例えば、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどが挙げられる。
【0040】
上記のキットは、上記医薬を使用するための使用説明書(添付文書)を含んでいても良い。上記使用説明書の形態は限定されず、例えば、紙又は他の材質上に印刷されたものでも良いし、あるいは、FD、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体であっても良い。使用説明書には、すべての詳細な説明が記載されている必要は必ずしもなく、例えば、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0041】
本発明の再生剤は、弾性線維の再生が所望される状態又は疾患、例えば、肺気腫、血管損傷、皮膚弛緩症、創傷、弾性線維劣化(例えば、加齢又は紫外線により引き起こされるもの)、肌荒れ、動脈硬化、大動脈瘤、加齢黄斑変性症、会陰ヘルニア、肛門ヘルニア、脳底動脈瘤、消化管運動障害、褥瘡などの予防、治療又は改善に有用である。また、本発明の再生剤は、皮膚のたるみやしわの予防や改善といった美容目的のために有用である。また、本発明の再生剤は、弾性線維の再生能を有する細胞の培養用試薬などとしても有用である。
【0042】
本発明の再生剤を用いれば、LTBP−4、好ましくはLTBP−4とDANCEの両方を含む人工弾性線維を提供することができる。ここで、「人工弾性線維」とは、in vitroにおいて再生された弾性線維を意味する。上記の人工弾性線維は、培養に使用されたLTBP−4、および/または培養に使用された弾性線維再生能を有する細胞が由来する動物に対して異種動物由来の成分を含まないものであっても良い。すなわち、上記の人工弾性線維は、動物由来の生体成分について、単一の動物種に由来する成分のみからなるものであり得る。本発明の方法によって、このような人工弾性線維を提供することが初めて可能となった。従って、本発明の人工弾性線維は、同種異系移植などの同種移植で好適に用いられ得る。また、弾性線維再生能を有する細胞として、移植が所望される個体由来の細胞を用い、且つ異種動物由来成分が一切混入していない培地を用いることで、同種同系移植に好適に用いられる弾性線維が得られる。
【0043】
上記の人工弾性線維はまた、LTBP−4とDANCE以外の弾性線維構成成分(例えば、エラスチン、リシルオキシダーゼ(LOX)、リシルオキシダーゼ様1−4(LOXL1−4)、LTBP2、フィブリリン1−3、EMILIN1及び2、MAGP1及び2)、並びにその他の成分(例えば、betaig−h3、67kDエラスチン結合タンパク質)を含み得る。
【0044】
また、本発明の再生剤を用いれば、弾性線維を含む人工組織を提供することができる。弾性線維を含む人工組織としては、例えば人工皮膚、人工血管(例えば、人工動脈)、人工肺、人工子宮、人工腸管などが挙げられるが、人工皮膚及び人工血管が好ましい。これらの人工組織は、公知の方法により作製することができる(例えば、Long,J.L.et al.(2003)、Matrix biology22(4):339−50、Muraguchi,T.et al.,(1994)、Plastic and Reconstructive Surgery 93(3):537−44を参照)。
【0045】
(弾性線維の再生方法)
本発明に係る弾性線維の再生方法は、上記の弾性線維再生剤を、線維再生能を有する細胞に接触させて弾性線維を再生するところに特徴がある。接触方法には、in vitro、in vivoの両方が含まれる。本発明の再生方法は、LTBP−4を含有する弾性線維再生剤を用いたこと以外は、前述した特許文献2に記載の再生方法と実質的に同じである。詳細には以下のとおりである。
【0046】
上記「弾性線維再生能を有する細胞」とは、弾性線維構成成分を分泌し、且つLTBP−4の存在下で培養されることによって弾性線維の再生(新生、形成)を可能とする細胞をいう。上記「弾性線維再生能を有する細胞」は、任意の動物に由来する細胞であり、好ましくは哺乳動物に由来するものである。哺乳動物としては、前述した、LTBP−4のオルソログが由来するものと同様のものが挙げられる。
【0047】
上記「弾性線維再生能を有する細胞」は、遺伝子非導入細胞又は遺伝子導入細胞のいずれであっても良い。このうち「遺伝子非導入細胞」としては、弾性線維が存在する組織、例えば皮膚、血管(例、動脈)、肺、子宮、心臓、腎臓、膵臓、精巣、卵巣、小腸、結腸、軟骨組織に由来する細胞が挙げられる。「遺伝子非導入細胞」はまた、線維芽細胞、平滑筋細胞、上皮細胞、内皮細胞などの細胞であり得る。好ましくは、皮膚線維芽細胞又は血管平滑筋細胞が用いられる。「遺伝子非導入細胞」はまた、初代培養細胞、初代培養細胞から誘導された細胞株、幹細胞などの未分化細胞の培養によって得られる細胞であっても良い。このような細胞は、公知の方法により調製できる。例えば、Current Protocols in Cell Biology,John Wiley&Sons,Inc.(2001);機能細胞の分離と培養,丸善書店(1987)などを参照することができる。
【0048】
また、上記「遺伝子導入細胞」としては、1又は2以上の遺伝子がその発現が可能なように導入されたものが挙げられる。導入対象である細胞が、弾性線維再生能を有していない、あるいは十分に有していない細胞の場合、弾性線維構成成分及び/又は弾性線維の形成を促進する他の因子を発現可能なベクターを上記細胞に導入することにより、弾性線維再生能を獲得した細胞、あるいは弾性線維再生能が改善された細胞が作製できる。勿論、前述した「弾性線維構成成分」及び/又は弾性線維の形成を促進する「他の因子」を発現可能なベクターを導入し、その弾性線維再生能をより向上させてもよい。上記の「弾性線維構成成分」や「他の因子」は特に限定されず、細胞の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。具体的には、「弾性線維構成成分」としては、例えば、エラスチン、リシルオキシダーゼ(LOX)、リシルオキシダーゼ様1−4(LOXL1−4)、LTBP2及び4、フィブリリン1−3、EMILIN1及び2、MAGP1及び2などが挙げられ、また、弾性線維の形成を促進する「他の因子」としては、バーシカン(versican)V3、ヒアルロニダーゼなどが挙げられる。なお、上記「他の因子」を発現可能なベクター及び該ベクターの細胞への導入方法としては、後述するLTBP−4発現ベクターおよびDANCE誘導因子発現ベクターと同様のものを用いることができる。
【0049】
本発明の再生方法は、細胞との接触方法がin vitroである場合、上述した「弾性線維再生能を有する細胞」(以下、単に「細胞」と略記する場合がある。)に本発明の弾性線維再生剤を接触させて培養を行う工程を含む。培養培地中に播種する上記細胞の密度は特に限定されず、サブコンフルエント又はコンフルエントになるように播種すれば良い。
【0050】
培養方法は、LTBP−4の存在下で上記細胞を培養できる方法であれば特に限定されず、例えば、(1)LTBP−4を添加した培地での培養、(2)LTBP−4誘導因子を添加した培地での培養、(3)LTBP−4発現ベクターおよび/またはLTBP−4誘導因子発現ベクターを導入した細胞の培養、(4)LTBP−4発現細胞および/またはLTBP−4誘導因子発現細胞と、上記「弾性線維再生能を有する細胞」との共培養などが挙げられる。
【0051】
上記(1)の場合、培地に添加されるLTBP−4は、天然タンパク質又は組換えタンパク質のいずれであっても良い。LTBP−4は、公知の方法によって調製・精製することができる。
【0052】
代表的なLTBP−4の調製方法としては、例えば、(a)LTBP−4含有する生体試料(例えば、血液)からLTBP−4を回収する方法、(b)宿主細胞(例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にLTBP−4発現ベクターを導入することによって形質転換体を作製し、当該形質転換体によって産生されるLTBP−4を回収する方法、(c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどを用いる無細胞系によりLTBP−4を合成する方法、などが挙げられる。
【0053】
また、代表的なLTBP−4の精製方法としては、例えば、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、抗LTBP-4抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法、などが挙げられる。
【0054】
培地に添加されるLTBP−4の量は、弾性線維の再生を可能とする限り特に限定されないが、例えば培養培地中での最終濃度が、好ましくは0.1〜100μg/mL、より好ましくは0.5〜50μg/mL、更に好ましくは1〜20μg/mLとなるように添加することが推奨される。
【0055】
上記(2)の場合、培地に添加されるLTBP−4誘導因子は、LTBP−4の発現を誘導できるものである限り限定されないが、例えばTGFβ(例えば、TGFβ1)などが挙げられる。LTBP−4誘導因子がタンパク質である場合、天然タンパク質又は組換えタンパク質(LTBP−4と同様に調製可能)を使用できる。培地に添加されるLTBP−4誘導因子の量は、弾性線維の再生を可能とする程度の量のLTBP−4を誘導するものである限り特に限定されないが、例えばLTBP−4誘導因子としてTGFβを用いた場合、培養培地中での最終濃度が、好ましくは0.5〜1000ng/mL、より好ましくは1〜100ng/mL、更に好ましくは5〜40ng/mLとなるように添加することが推奨される。
【0056】
上記(3)の場合、上記細胞に導入される発現ベクターは、LTBP−4またはLTBP−4誘導因子を発現可能なベクターであっても良い。これらの発現ベクターは、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、目的とする細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、目的の細胞で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーターなどのウイルスプロモーター;およびβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーターなどの哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。プロモーターはまた、線維芽細胞特異的プロモーター(例えば、コラーゲンプロモーター)、平滑筋細胞特異的プロモーター(例えば、SM22プロモーター、α−平滑筋アクチンプロモーター)などの、弾性線維再生能を有する細胞に特異的なプロモーターであってもよい。
【0057】
発現ベクターは、好ましくは目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシンなどの薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子など)を更に含有することもできる。発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは特に制限されないが、例えば、プラスミドベクター、並びにレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターが挙げられる。
【0058】
発現ベクターの上記細胞への導入方法は特に限定されず、公知の方法、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション法、リポソーム、陽イオン性脂質などの脂質を使用する方法などによって行われ得る。また、発現ベクターの一部又は全てが、弾性線維の形成能を有する細胞のゲノムに組み込まれていても、組み込まれていなくてもよい。発現ベクターの細胞内ゲノムへの組込みは特に限定されず、公知の方法、例えばレトロウイルスを使用する方法、相同組換えを可能とするターゲティングベクターを使用する方法などが用いられ得る。
【0059】
上記(4)の場合、培地中で上記「弾性線維再生能を有する細胞」と共存させる細胞は、LTBP−4またはLTBP−4誘導因子を発現可能な発現細胞である限り特に限定されない。この発現細胞としては、例えば、LTBP−4またはLTBP−4誘導因子の発現ベクターの宿主細胞への導入により得られる細胞、LTBP−4またはLTBP−4誘導因子を発現する天然細胞が挙げられる。LTBP−4を発現する天然細胞としては、LTBP−4発現組織(例えば、心臓、腎臓、膵臓、精巣、卵巣、小腸、結腸、軟骨、動脈、肺、子宮、皮膚)由来の細胞を使用できる。LTBP−4誘導因子を発現する天然細胞としては、例えば、LTBP−4誘導因子としてTGFβを意図する場合には、白血球、骨、胎盤、脾臓、小腸、結腸、肝臓、腎臓、心臓、脳、骨髄、軟骨などの組織由来の細胞を使用できる。LTBP−4またはLTBP−4誘導因子の発現細胞はまた、初代培養細胞、初代培養細胞から誘導された細胞株、幹細胞などの未分化細胞の培養により得られる細胞(例えば、分化細胞)、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などであり得る。LTBP−4またはLTBP−4誘導因子の発現細胞はまた、弾性線維再生能を有する細胞と同種動物由来の細胞であっても良い。
【0060】
共培養の方法としては、例えば、上記「弾性線維再生能を有する細胞」とLTBP−4またはLTBP−4誘導因子の発現細胞とを物理的に接触させて培養する方法が挙げられる。あるいは、これら細胞が同じ培養系に存在するが物質の行き来が可能な隔壁により隔てられて細胞自体の物理的接触ができない状態で培養しても良く、このような方法も包含される。具体的には、例えば、通常の細胞培養に用いられるフィルター(例えば、カルチャーインサート)を用いて両細胞を隔てて培養する方法が挙げられる。
【0061】
本発明の再生方法に用いられる培地は特に限定されず、MEM培地、DMEM培地、RPMI1640培地などを使用できる。培地には、アミノ酸、ビタミン、脂質、抗生物質、緩衝剤などの、培地に通常添加される成分を更に添加してもよい。培地の好ましいpHは、例えば約6〜8であり、より好ましくは約6.5〜7.5である。好ましい培養温度は、例えば約30〜40℃であり、より好ましくは約37℃である。好ましい培養期間も特に限定されず、培地などの培養条件に応じて充分な量の弾性線維が得られるように適宜調整すれば良い。
【0062】
上記培養は、無血清培地中、および血清培地(例えば5%以下、3%以下又は1%以下の血清を含有)中のいずれで行なっても良い。例えば、未同定成分の混入の防止、感染リスクの軽減などを考慮すれば、無血清培地で行うことが好ましい。また、異種動物由来成分を除去し、アレルギー反応を抑制するなどの観点から、培養に用いられるLTBP−4、弾性線維再生能を有する細胞、および必要に応じて添加される他の成分は、同種動物に由来するもので統一することが好ましい。
【0063】
上記培養で用いられる培地はまた、弾性線維を効率的に形成させるため、LTBP−4とDANCE以外の弾性線維構成成分(例えば、エラスチン、リシルオキシダーゼ(LOX)、リシルオキシダーゼ様1−4(LOXL1−4)、LTBP2、フィブリリン1−3、EMILIN1及び2、MAGP1及び2)、及び/又は弾性線維の形成を促進する他の因子(例えば、バーシカン(versican)V3、ヒアルロニダーゼ)、並びに/あるいはその他の成分(例えば、betaig−h3、67kDエラスチン結合タンパク質)を含むことができる。
【0064】
培養は、二次元培養または三次元培養で行っても良い。二次元培養または三次元培養は、公知の方法により行うことができる。例えば、三次元培養に関する技術については、Long,J.L.et al.(2003)、Matrix biology 22(4):339−50、Muraguchi,T.et al.,(1994) Plastic and Reconstructive Surgery 93(3):537−44を参照することができる。
【0065】
弾性線維が再生されたか否かは、公知の方法によって確認することができる。例えば、培養物の一部を採取し、抗LTBP−4抗体、抗エラスチン抗体などの弾性線維構成成分に対する抗体を用いて免疫染色することにより確認することができる。
【0066】
(LTBP−4発現増強因子又は弾性線維再生剤のスクリーニング方法)
本発明には、LTBP−4を指標として用い、LTBP−4又はLTBP−4をコードするmRNAの発現状況を解析することによって、LTBP−4発現増強因子又は弾性線維再生剤をスクリーニングする方法も包含される。すなわち、LTBP−4又はLTBP−4をコードするmRNAの発現の有無や発現量を公知の方法によって測定することにより、弾性線維再生の有無や弾性線維再生能を間接的に評価することができる。
【0067】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、被験物質のLTBP−4発現増強能や弾性線維再生能を評価するのに好適に用いられる。具体的には、被験物質と細胞を接触させ、必要に応じて培養後、被験物質と接触させた試験群のLTBP−4又はLTBP−4をコードするmRNAの発現量と、被験物質と接触させていない対照群(コントロール)のLTBP−4又はLTBP−4をコードするmRNAの発現量とを比較検討し、対照群に比べてLTBP−4又はLTBP−4をコードするmRNAの発現が有意に認められたり、発現量が増加していれば、当該被験物質はLTBP−4発現増強能や弾性線維の再生能ありと評価することができる。
【0068】
あるいは、上記のスクリーニング方法は、更にDANCE又はDANCEをコードするmRNAの発現の有無や発現量を公知の方法によって測定する工程を、更に包含しても良い。本発明の弾性線維再生剤は、好ましくはLTBP−4とDANCEの両方を含むものだからである。このようにLTBP−4とDANCEの両方を指標として用いることにより、両方の発現増強能を有する物質のスクリーニングや、LTBP-4発現増強因子とDANCE発現増強因子とを含む弾性線維再生剤のスクリーニングを有効に行なうことができる。
【0069】
LTBP−4若しくはLTBP−4をコードするmRNA、またはDANCE若しくはDANCEをコードするmRNAの発現状況を解析する方法は特に限定されず、常法を用いることができる。例えば、LTBP−4またはDANCEに特異的な抗体を使用し、ELISAなどの免疫学的測定法によりLTBP−4またはDANCEの存在又は量を測定する方法;リアルタイムPCR法やコンペティティブPCR法などの方法を用いて細胞内の特定mRNA量を定量する方法などが代表的に例示される。上記方法に用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれでも良く、市販品を用いることができる。
【0070】
以下、LTBP−4を例に挙げ、代表的な解析方法を記載するが、これに限定する趣旨ではない。
【0071】
<リアルタイムPCR法>
線維芽細胞を6ウエルプレートに播種し、サブコンフレントの状態まで培養した後、被験物質を溶解させた培地を各ウエルに添加する。添加後48時間培養し、線維芽細胞を溶解し、細胞内全RNAの抽出・精製を行なう。その後、mRNAに相補的なDNA(cDNA)を逆転写酵素を用いて合成し、このcDNAを鋳型として目的領域をPCRで増幅し、リアルタイムモニタリング用試薬を用いて増幅産物の生成過程をリアルタイムでモニタリングし、解析する。上記方法に用いられるLTBP−4に特異的なプライマーとしては、例えばApplied Biosystemsから提供される28種のプライマーが挙げられる。具体的には、ヒトの肺細胞を用いた場合、下記2種類のプライマーAまたはプラマーBを用いることができる。
プライマーA:
フォワード:5’−TGGCTGAGCCCTACGAGG−3
リバース:5’−CAGACTAAGCGGGCTGCAG−3’
フォワード:5’−GTGGAGCTGCCCTGTGTG−3’
リバース:5’−CCTGGTCTCGGAAGAGCTG−3’
プライマーB:
フォワード:5’−CCCGCTCCGTTTATACAATG−3
リバース:5’−AGGAAACCGTCCGGAC−3’
【0072】
<QuantiGene(PANOMICS社製)を用いる方法>
線維芽細胞を培養プレートなどに播種し、サブコンフレントの状態まで培養した後、被験物質を溶解させた培地を各ウエルに添加する。その後、培養した細胞のライセートを回収し、LTBP−4のmRNAに相補的な配列を持つキャプチャープローブを固定相とするウエルに添加する。反応後、非特異的な結合を洗浄し、固定相プローブに結合した目的遺伝子のmRNAに対し、更に相補的配列を有するプローブとそれに対するラベルプローブを反応させ、基質を用いて発色反応させる。遺伝子発現量は、発色強度や発色の有無により評価する。
【0073】
<Quantigene Plexを用いる方法>
この方法は、蛍光色素で標識したマイクロビーズを担体として使用し、これらのマイクロビーズにmRNAに相補的な配列を持つキャプチャープローブを固定して蛍光色素の配合比率を読み取ることによって当該プローブを特定する方法である。
【0074】
具体的には、線維芽細胞を培養プレートなどに播種し、サブコンフレントの状態まで培養した後、被験物質を溶解させた培地を各ウエルに添加する。その後、培養した細胞のライセートを回収し、LTBP−4のmRNAに相補的な配列を持つキャプチャープローブを固定した蛍光マイクロビーズと反応させる。反応後、非特異的な結合を洗浄し、キャプチャープローブに結合した目的遺伝子のmRNAに対し、更に相補的配列を有するプローブとそれに対するラベルプローブを反応させ、蛍光基質を用いて発色反応させる。その後、Luminex100にて、蛍光マイクロビーズに結合したラベルプローブの蛍光強度、またはラベルプローブに結合した蛍光マイクロビーズの蛍光強度を測定する。
【0075】
<ELISA法>
ELISA法は、直接吸着法とサンドイッチ法のいずれも適用することができる。直接吸着法は、LTBP−4に対する抗体がモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれか一方のみしかない場合に有用であり、一方、LTBP−4に対する抗体が複数ある場合は、より特異的なサンドイッチ法が有用である。
【0076】
このうち直接吸着法(ダイレクトELISA法)は、例えば以下のようにして行なう。まず、被験物質を溶解させた培地中で培養した線維芽細胞の上清(または細胞溶解物)をPBSで希釈し、この懸濁液をウエルに添加し、4℃で一晩固定相に吸着させる。その後、PBSなどを用いてウエルを洗浄し、抗LTBP−4抗体溶液を各ウエルに添加し、室温で1時間反応させる。その後、PBSなどを用いてウエルを洗浄し、二次抗体溶液を添加して室温で1時間反応させ、反応後の蛍光強度または発色強度を測定する。
【0077】
また、サンドイッチELISA法は、例えば以下のようにして行なう。まず、抗LTBP−4モノクローナル抗体溶液を各wellに添加し、4℃で一晩固定相に吸着させる。その後、PBSなどを用いてウエルを洗浄し、被験物質を溶解させた培地中で培養した線維芽細胞の上清(または細胞溶解物)をPBSで希釈し、この懸濁液を各ウエルに添加し、室温で1時間反応させる。その後、PBSなどを用いてウエルを洗浄し、抗LTBP−4ポリクローナル抗体溶液を各ウエルに添加し、室温で1時間反応させる。その後、PBSなどを用いてウエルを洗浄し、二次抗体溶液を添加して室温で1時間反応させ、反応後の蛍光強度または発色強度を測定する。
【0078】
<Luminex100を用いる方法>
この方法は、2種類の蛍光色素で標識したマイクロビーズを担体として使用し、これらのマイクロビーズにプローブを固定して蛍光色素の配合比率を読み取ることによって当該プローブを特定する方法である。上記方法の原理は、サンドイッチELISA法と同じである。
【0079】
具体的には、LTBP−4に特異的なモノまたはポリクローナル抗体を結合させた蛍光ビーズ(ビーズ1)を、被験物質を溶解させた培地中で培養した線維芽細胞の上清(または細胞溶解物)と反応させる。反応後、PBSなどを用いて洗浄し、上記のビーズとは異なる、LTBP−4に特異的なモノまたはポリクローナル抗体を結合させた蛍光ビーズ(ビーズ2)と更に反応させる。反応後洗浄し、Luminex100にて、ビーズ1に結合したビーズ2の蛍光強度、またはビーズ2に結合したビーズ1の蛍光強度を測定する。
【0080】
<直接的な測定>
セルカルチャーまたは培養プレートなどに線維芽細胞を播種した後、被験物質を添加して培養する。その後、細胞を固定化し、BSAなどのブロッキング剤を用いてブロッキングを行う。その後、PBSなどを用いて洗浄した後、LTBP−4に特異的なモノまたはポリクローナル抗体を一定時間反応させ、PBSなどを用いて洗浄を行う。次に二次抗体反応後、蛍光強度または発色強度を顕微鏡またはIN cell Analyzer(セルファンクションイメージャー)などの機械を用いて測定する。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切に改変を行なって実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0082】
1.組換えLTBP−4、および組換えDANCEの作成
ヒトLTBP−4 cDNA(GenBankアクセッション番号:AF051344)の全コーディング領域をPCR法によってクローニングし、カルボキシル末端にFLAGタグと6xHisタグをつけてpEF6ベクター(Invitrogenから購入)にサブクローニングした。この発現ベクターを293T細胞にトランスフェクションし、Blasticidin耐性遺伝子をマーカーとしてヒトLTBP−4安定発現細胞株を作成した。上記LTBP−4安定発現細胞株の無血清培養上清からNi−NTA agarose(Qiagen)を用いて組換えLTBP−4を精製し、SDS−PAGEで展開してCoomasie−Blue(CBB)で染色した後、透析によって脱塩した。
【0083】
上記と同様にして組換えDANCEを精製し、SDS−PAGEで展開してCBBで染色した後、透析によって脱塩した。ここでは、ヒトDANCE cDNA(GenBankアクセッション番号:AF112152)の全コーディング領域をPCR法によってクローニングした。
【0084】
図1に、精製した組換えLTBP−4(約180kD)および組換えDANCE(約58kD)をCBB染色した写真を示す。
【0085】
2.血清存在下での実験
(1)まず、LTBP−4が血清存在下におけるヒト皮膚線維芽細胞による弾性線維の形成に必須であることを実証するため、以下の実験を行なった。
【0086】
(実験材料)
継代用培地として、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、Invitrogenから購入)、10%ウシ胎仔血清(FBS、JRH Bioscienceから購入)、2mMのグルタミン、100units/mLのペニシリン、100g/mLのストレプトマイシンを用いた。なお、弾性線維の形成に当たっては、DMEM/F12(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Ham’s Nutrient Mixture F12、Invitrogenから購入)、10%FBS、2mMのグルタミン、100units/mLのペニシリン、100g/mLのストレプトマイシンを弾性線維形成培地として用いた。
【0087】
ヒト皮膚線維芽細胞は、前述した特許文献2と同様、京都大学附属病院形成外科から提供されたものを用いた。
【0088】
弾性線維の蛍光免疫染色には、1次抗体として抗エラスチンポリクローナル抗体(Elastin Products Companyから購入)と抗DANCEモノクローナル抗体10A(DANCE遺伝子欠損マウスに組換えDANCEを免疫して作製したもの)を用い、2次抗体としてAlexa488−抗ウサギIgG抗体(Invitrogenから購入)、Alexa546−抗マウスIgG抗体(Invitrogenから購入)を用いた。
【0089】
(実験方法)
24ウエルプレートの底にMicroscope Cover Glass(Fisherbrandから購入)を置き、その上にヒト線維芽細胞を1ウエルあたり7.5×10
4個播種し、上記の継代用培地にて37℃、5%CO
2で培養した。培養3日目にPBSで洗浄した後、培地を上記の弾性線維形成培地に換え、引き続き、37℃、5%CO
2で2週間培養した。
【0090】
2週間の培養後、弾性線維の蛍光免疫染色を行なった。詳細には、1mLのPBSを用いて3回洗浄した後、100%メタノールを用い、−20℃で30分間固定した。更にPBSを用いて洗浄した後、2%BSAを含むPBSを用い、室温で30分間ブロッキングした後、上記の1次抗体と室温で1時間以上インキュベートした。次いで、PBSで洗浄し、上記の2次抗体と室温で1時間インキュベートした。PBSで洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で10分間固定し、再びPBSで洗浄した後、DAPI含有のVectashield(Vector labolatoriesから購入)にてスライドガラス上にサンプルをマウントした。観察は蛍光顕微鏡DMIRE2(Leica)を用いて行った。
【0091】
これらの蛍光免疫染色写真を
図2(最上段、コントロールを参照)に示す。
図2の最右欄には、参考のため、抗エラスチンポリクローナル抗体および抗DANCEモノクローナル抗体10Aの染色結果を合成したものを示している。
図2より、いずれの抗体を用いたときも弾性線維の形成が確認された。すなわち、血清存在下でヒト皮膚線維芽細胞を培養すると、抗エラスチン抗体および抗DANCE抗体の両方で染色される弾性線維が形成されることが分かった。
【0092】
次に、RNA干渉を用いた遺伝子ノックダウンによりLTBP−4をノックダウンした細胞を用い、上記と同様にして蛍光免疫染色を行なって弾性線維の形成を調べた。遺伝子ノックダウンは、RNAiMAX(Invitrogenから購入)のプロトコールに従い、LTBP−4遺伝子に対するStealth Select siRNA(Invitrogenから購入)をヒト皮膚線維芽細胞培養に導入して行なった。次いで、上記と同様にして2週間培養を行い、弾性線維の蛍光免疫染色を行なった。
【0093】
これらの蛍光免疫染色写真を
図2(LTBP−4ノックダウンを参照)に示す。
図2より、いずれの抗体を用いたときにも弾性線維の形成は殆ど確認できず、エラスチンのみならず、DANCEの線維状沈着も消失した。すなわち、LTBP−4をsiRNAでノックダウンすると弾性線維の形成が見られなくなることが分かった。
【0094】
以上の実験結果より、LTBP−4は、血清存在下でのヒト線維芽細胞による弾性線維の形成に必須であることが確認された。
【0095】
(2)次に、組換えLTBP−4は、血清存在下におけるヒト皮膚線維芽細胞による弾性線維の再生能を有することを調べた。
【0096】
上記(1)の方法でLTBP−4をsiRNAでノックダウンした後、組換えLTBP−4を10μg/mLの濃度で弾性線維形成培地に加え、2週間培養した。培養後、上記(1)と同様にして弾性線維の蛍光免疫染色を行なった。
【0097】
これらの蛍光免疫染色写真を
図2(LTBP−4ノックダウン+リコンビナントLTBP−4を参照)に示す。
図2より、LTBP−4をsiRNAでノックダウンした後に組換えLTBP−4を加えると、いずれの抗体を用いたときにも、ノックダウンした場合に比べて多くの弾性線維が形成された。すなわち、LTBP−4ノックダウンによって抑制されていた弾性線維の再生能が、組換えLTBP−4の添加によって回復することが分かった。
【0098】
更に非常に興味深いことに、組換えLTBP−4を添加すると、ノックダウンしないコントロールに比べても、遥かに多くの弾性線維が形成された。このとき、細胞由来のDANCEもエラスチンと同様に線維状沈着が回復していることも確認された。このようにLTBP−4の弾性線維再生作用は、血清自体による作用を遥かに超える、極めて強いものであることが判明したことから、本発明のLTBP−4含有再生剤は、弾性線維の再生に極めて有用であるこが強く示唆された。
【0099】
3.無血清存在下での実験
以下では、組換えLTBP−4単独、組換えDANCE単独、およびこれらの両方を用い、無血清培地でヒト皮膚線維芽細胞を培養したときの弾性線維の形成能を比較検討した。
【0100】
ここでは、血清を含まない上記弾性線維形成培地、すなわち、DMEM/F12、2mMのグルタミン、100units/mLのペニシリン、100g/mLのストレプトマイシンを用い、ヒト線維芽細胞を1ウエルあたり7.5×10
4個播種し、上記の無血清培地にて37℃、5%CO
2で2週間培養した。その後、上記(1)と同様にして、抗エラスチン抗体を用いて蛍光免疫染色を行なった。その結果、無血清培地下では、弾性線維の形成は殆ど見られなかった(
図3の「No protein」を参照)。
【0101】
次に、上記の無血清培地に組換えDANCEを2μg/mLの濃度で添加し、上記と同様にして2週間培養し、蛍光免疫染色を行った。その結果、組換えDANCEの添加により、弾性線維の形成が若干観察された(
図3の「DANCE 2μg/mL」を参照)。
【0102】
同様に、上記の無血清培地に組換えLTBP−4を20μg/mLの濃度で添加し、上記と同様にして培養し、蛍光免疫染色を行った。その結果、組換えLTBP−4の添加により、やはり、弾性線維の形成が若干観察された(
図3の「LTBP−4S 20μg/mL」を参照)。
【0103】
次に、上記の無血清培地に組換えDANCE2μg/mLと組換えLTBP−420μg/mLを同時に加え、上記と同様にして培養し、蛍光免疫染色を行った。その結果、これらを同時に添加すると、それぞれを単独で添加した場合に比べ、遥かに多くの弾性線維が形成された(
図3の「DANCE 2μg/mL+LTBP−4S 20μg/mL」を参照)。
【0104】
以上の実験結果より、無血清培地下では、DANCEとLTBP−4は協調的に働いて弾性線維の形成を促進することが確認された。
【0105】
4.DANCEとLTBP−4との結合
ここでは、DANCEとLTBP−4の相互作用を調べるため、以下の共免疫沈降実験を行なった。
【0106】
まず、全長DANCEのカルボキシル末端にFLAGタグをつけたDANCEと、全長LTBP−4のカルボキシル末端にMycタグをつけたLTBP−4を、それぞれpEF6ベクターに組み込んだ。Lipofectamine Plus(Invitrogenから購入)を用い、これらを別々に293T細胞にトランスフェクションした後、無血清培地で2日間培養し、上清中にDANCE−FLAGとLTBP−4−Mycを分泌させた。このようにして得られた培養上清を混合して氷上に1時間静置し、抗FLAGアガロース(Sigmaから購入)で免疫沈降(IP)した。免疫沈降物をSDS−PAGEで展開し、抗Myc抗体および抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロットで検出した。
【0107】
その結果を
図4に示す。
図4中、上図は抗Myc抗体で検出した結果を;中図は抗FLAG抗体で検出した結果を示し;下図は、免疫沈降前の溶液を抗Myc抗体で検出した結果を示している。
図4より、抗FLAGアガロースで免疫沈降したDANCE−FLAGには、LTBP−4−Mycが結合した。なお、ベクターレーンではLTBP−4−Mycが検出されないことから、抗FLAGアガロースへのLTBP−4−Mycの結合はDANCE-FLAGを介した特異的結合であることが分かる。上記の実験結果より、LTBP−4はDANCEと直接結合して弾性線維再生能を発揮することが強く示唆された。
【0108】
(分子メカニズムの考察)
上述した一連の実験結果(特に、LTBP−4のノックダウンによりエラスチンのみならずDANCEの線維状沈着も消失したのに対し、これに組換えLTBP−4を添加すると、エラスチンのみならずDANCEの線維状沈着も増加したという実験結果)は、DANCEが、弾性線維を構成するミクロフィブリル上に沈着するためにはLTBP−4が必須であることを強く示唆している。すなわち、LTBP−4による弾性線維再生の分子メカニズムとしては、まず、ミクロフィブリルにLTBP−4が沈着し、このLTBP−4を目印にしてDANCEが誘導され、LTBP−4の上にDANCEが結合し、更にDANCEにエラスチンが結合しているというモデルが考えられる。上述したDANCEとエラスチンの直接結合、およびここで示したDANCEとLTBP−4の直接結合はこのモデルを強く支持するものである。
【0109】
このモデルに従えば、LTBP−4とDANCEのいずれか一方が不足する領域では、弾性線維の形成が制限される。実際のところ、ヒト皮膚線維芽細胞の無血清培養では、組換えLTBP−4の単独添加、または組換えDANCEの単独添加では弾性線維再生作用は僅かしか見られなかったのに対し、これらを両方添加すると、相乗的に多くの弾性線維が形成された。弾性線維再生への応用においては、投与部位によってはLTBP−4とDANCEの両方が不足していることもあり得るため、組換えLTBP−4単独よりも、組換えLTBP−4と組換えDANCEのカクテルの方が治療的効果を期待できることが示唆される。