【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1のMBE装置の構成を示した図である。実施例1のMBE装置は、
図1のように、内部が10
-8Pa程度の超真空に保持される真空容器1と、真空容器1の内部に設けられ、基板3を保持し、基板3の回転、加熱が可能な基板ステージ2と、基板3表面に分子線(原子線)を照射する分子線セル4A〜Cと、基板3表面に窒素ラジカルを供給するラジカル源5と、を備えている。実施例1のMBE装置は、超真空中に加熱して保持された基板3表面に、分子線セル4A〜CによってIII 族金属の原子線を、ラジカル源によって窒素ラジカルを照射することで、基板3表面にIII 族窒化物半導体を結晶成長させる装置である。
【0024】
分子線セル4A〜Cは、III 族金属材料を保持する坩堝、坩堝を加熱するヒータ、シャッターを有し、坩堝を加熱してIII 族金属の蒸気を発生させて原子線を形成し、原子線をシャッターによって開閉することで原子線量を制御可能としている。分子線セル4A〜Cは、たとえば分子線セル4AがGa、分子線セル4BがIn、分子線セル4CがAlの原子線を生成する。他に、n型不純物(たとえばSi)や、p型不純物(たとえばMg)の分子線を基板3に照射する分子線セル4を設けてもよい。
【0025】
図2は、ラジカル源5の詳細な構成を示した図である。また、
図3は、
図2でのA−Aにおける断面図である。
【0026】
図2、3のように、ラジカル源5は、SUSからなり、窒素ガスが供給される供給管10と、供給管10に接続する熱分解窒化ホウ素(PBN)からなる円筒状のプラズマ生成管11を有している。プラズマ生成管11の内径は24mmであり、長さは90mmである。プラズマ生成管11の供給管10接続側とは反対側の開口には、直径5mmの孔が開けられたオリフィス板19が配置されている。
【0027】
プラズマ生成管11の外側であって、供給管10とプラズマ生成管11との接続部近傍には、円筒形のCCP電極13が配置されている。CCP電極13は、その内部に中空部13aを有している。また、CCP電極13には給水管16および排水管17が接続されており、CCP電極13の中空部13aと給水管16および排水管17の管内とが連続している。給水管16からCCP電極13の中空部13aへと冷却水を導入し、排水管17より冷却水を排出することが可能な構造となっており、冷却水を還流させてCCP電極13を冷却可能となっている。
【0028】
CCP電極13の内部には、プラズマ生成管11の外周に沿って等間隔に6個の永久磁石14が配置されている。永久磁石14はSmCoからなる。また、これらの永久磁石14は、CCP電極13の中空部13aに露出している。そのため、CCP電極13の中空部13aに冷却水を還流させてCCP電極13を冷却する際、永久磁石14は冷却水と直接接触する。これにより、CCP電極13の加熱によって上昇する永久磁石14の温度を効率的に抑えることができる。
【0029】
プラズマ生成管11の外側であって、CCP電極13よりも下流側(供給管10側とは反対側)には、プラズマ生成管11の外周に沿って巻かれたコイル12を有している。コイル12は中空のステンレス管を3回半巻いたものであり、そのステンレス管内部に冷却水を通して冷却できる構造となっている。
【0030】
CCP電極13とコイル12には高周波電源(図示しない)が接続されており、供給管10は接地されている。高周波電源によって高周波電力をCCP電極13、コイル12にそれぞれ印加することで、プラズマ生成管11内部であって外周にコイル12が配置された領域に誘導結合プラズマを、プラズマ生成管11内部であって外周にCCP電極13が配置された領域に容量結合プラズマを、それぞれ形成することができる。
【0031】
供給管10とプラズマ生成管11との接続部における供給管10の開口には、供給管10側に向かって、セラミックからなる寄生プラズマ防止管15が挿入されている。寄生プラズマ防止管15の内径は1mm、外径は供給管10の内径にほぼ等しい。この寄生プラズマ防止管15の挿入により、供給管10の内壁は寄生プラズマ防止管15に覆われ、CCP電極13と供給管10の内壁との間で寄生プラズマが発生してしまうのが防止される。
【0032】
寄生プラズマを効果的に防止するためには、寄生プラズマ防止管15の挿入長は、供給管10の内径の10倍以上とすることが望ましい。より望ましくは、供給管10の内径の20〜50倍である。
【0033】
これらのプラズマ生成管11、コイル12、CCP電極13は、円筒状の筐体18に納められている。筐体18は、ラジカル照射側が開口している。その開口近傍には、イオンを除去するための電極、あるいは磁石(いずれも図示しない)を配置してもよい。
【0034】
ラジカル源5は、プラズマ生成管11内部に供給管10から窒素ガスを供給し、コイル12およびCCP電極13への高周波電力の印加によって、プラズマ生成管11内部に誘導結合プラズマと容量結合プラズマとをそれぞれ生成し、容量結合プラズマを誘導結合プラズマに注入することによって高密度の窒素ラジカルを生成する構成である。
【0035】
ここで、ラジカル源5では、供給管10に寄生プラズマ防止管15が挿入されており、CCP電極13と供給管10の内壁との間での放電により供給管10内部に寄生プラズマが生じてしまうのを防止している。この寄生プラズマ防止管15を挿入したことにより、容量結合プラズマがプラズマ生成管11内部にのみ生成され、容量結合プラズマのプラズマ密度が向上する。そのため、生成される窒素ラジカル密度も向上する。
【0036】
また、容量結合プラズマは、6個の永久磁石14によるカプス磁場によって、プラズマ生成管11の中心部に収縮して偏在する。窒素分子の分解能を高めるために高いガス圧力とする場合、誘導結合プラズマは通常はハイブライトモードではなく、ローブライトモードとなる。ハイブライトモードとは、プラズマ生成管11の中心部にプラズマが形成された状態であり、ラジカル密度が高い状態である。一方、ローブライトモードとは、プラズマ形状がプラズマ生成管11の内壁に沿って形成され、中心部のプラズマ密度が低い状態であり、ラジカル密度が低い状態である。しかし、中心部に偏在した容量結合プラズマを誘導結合プラズマに注入することで、ローブライトモードのプラズマ形状が変動し、中心部でのプラズマ密度の低下が補償される。その結果、高いガス圧力の場合であっても、中心部のプラズマ密度が向上し、誘導結合プラズマのみを生成する場合に比べて非常に高いラジカル密度を実現することができる。また、容量結合プラズマ中に多く存在する高エネルギーな電子により、窒素ガスの分子から原子への分解能が高まるとともに、その生成された原子状ラジカルの内部エネルギーが向上する。
【0037】
また、永久磁石14は、CCP電極13の中空部13aに冷却水を還流させることで直接冷却することができ、永久磁石14の温度上昇を抑制して永久磁石14の消磁を効果的に防止することができる。そのため、プラズマ生成管11の中心部にCCPプラズマが偏在する状態を長時間維持することができ、その結果、長時間にわたって高密度なラジカルの生成を維持することができる。
【0038】
実施例1のMBE装置では、上記のように生成される窒素ラジカルの密度が高いラジカル源5を備えているため、III 族窒化物半導体の成膜速度が従来のMBE装置に比べて向上している。また、内部エネルギーの高い窒素ラジカルを照射することができるので、結晶表面における窒素の表面マイグレーション機能を高めることができる。すなわち、窒素元素が結晶表面で十分に動き、成長サイトに到達する確率が向上し、結晶性の向上や、層間界面の急峻性の向上を図ることができる。また、基板6の温度を低減することができ、これによりさらなる結晶性の向上を図ることができる。また、ラジカル源5は長時間にわたって窒素ラジカルを生成できるため、III 族窒化物半導体の成膜も長時間安定して行うことができる。
【0039】
図4は、実施例1のラジカル源によって発生させた窒素ラジカルの密度を、真空紫外吸光分光法によって測定し、窒素ラジカルの密度と窒素ガスの流速との関係を調べた結果である。従来の誘導結合プラズマによって発生させるラジカル源では、窒素ラジカルの密度はおよそ1×10
11cm
-3であるのに対し、実施例1のラジカル源を用いると、窒素ガス流速が5〜35sccmの範囲において1×10
11cm
-3よりも高い密度であることがわかる。特に窒素ガス流速が15〜25sccmの範囲では、1×10
12cm
-3以上の密度であり、従来のラジカル源に比べて10倍以上の密度の窒素ラジカルが生成されていることがわかる。
【0040】
図5は、基板3の温度を840℃、圧力を1×10
-4Torr、窒素ガス流速を15sccmとし、Gaフラックスを変化させた場合のGaNの成膜速度を測定した結果を示したグラフである。GaNの成膜速度は、Gaフラックスを2×10
-6torrとした場合には700nm/h、4×10
-6torrとした場合には1400nm/hであった。従来のMBE装置では、GaNの成膜速度は500nm/h程度であったが、実施例1のMBE装置では、ラジカル源5の生成する窒素ラジカルの密度が高いため、従来のMBE装置に比べて約3倍の成膜速度を実現することができた。