【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例および比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0096】
〔実施例1〕
生理活性ペプチド テリパラチド(Teriparatide)を有する融合タンパク質の製造
実施例1では、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるTeriparatide(34アミノ酸残基)(Teri)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、酵素的切断に使用されるアミノ酸配列としてproTEVプロテアーゼ認識配列を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0097】
(1)Teriparatide分泌発現プラスミドpPKK50TEV-Teriの構築
(i)プロインスリン遺伝子の全合成と、C. glutamicum ATCC13869の細胞表層タンパク質CspBのシグナル配列を用いたプロインスリン分泌発現プラスミドpPKPInsの構築
プロインスリン(以下、PIns と表記する)のアミノ酸配列は既に決定されている(Genbank Accession No. NP_000198.1)。この配列とC. glutamicumのコドン使用頻度を考慮して、<配列番号9>〜<配列番号16>に示したDNAを合成した。これらのDNAを鋳型とし、<配列番号17>と<配列番号18>に示したDNAをプライマーとして用いて、PInsをコードする遺伝子をPCR法によって増幅し、<配列番号19>に示した約0.3kbpのDNA断片を得た。
このDNA断片をクローニングベクターpHSG398(タカラバイオ社製)のSma I部位に挿入する事によりpHSG-PInsを得た。このpHSG-PInsを鋳型にして、<配列番号17>と<配列番号18>に示したDNAをプライマーとして用いて、PIns遺伝子領域をPCR法によって増幅し、約0.3kbpのPIns遺伝子断片を得た。
【0098】
一方、C. glutamicumの細胞表層タンパク質であるCspBをコードしている遺伝子の塩基配列は既に決定されている(Mol. Microbiol., 9, 97-109(1993))。この配列を参考にして、WO01/23591に記載のpPKPTG1(pPKPTG1は、プロトランスグルタミナーゼ(プロ構造部付きトランスグルタミナーゼ)の分泌発現用ベクターであって、C. glutamicum ATCC13869株由来のcspB遺伝子のプロモーター、同プロモーターの下流に発現可能に連結されたC. glutamicum ATCC13869株由来のCspBのシグナルペプチド30アミノ酸残基をコードするDNA、および同シグナルペプチドをコードするDNAの下流に同シグナルペプチドとの融合タンパク質として発現するよう連結された放線菌Streptoverticillium mobaraense由来のプロトランスグルタミナーゼ遺伝子を有する)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号21>に示したプライマーを用いて、C. glutamicum ATCC13869株由来のCspBのプロモーター領域とシグナルペプチドをコードする領域をPCR法にて増幅し、約0.7kbpのDNA断片を得た。
【0099】
更に、増幅した両DNA断片(PIns遺伝子断片と、プロモーター領域とシグナルペプチドをコードする領域の断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号18>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合した約0.9kbpのDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号18>のプライマーには制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインしてある。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。このDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpnI部位に挿入することによって、pPKPInsを得た。
挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、塩基配列の決定はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130 ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0100】
(ii)C. glutamicum ATCC13869の細胞表層タンパク質CspBの成熟タンパク質N末端の1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 17, 20, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400, 440アミノ酸残基を融合したプロインスリンの分泌発現プラスミドの構築
上述の通り、C. glutamicumの細胞表層タンパク質であるCspBをコードしている遺伝子の塩基配列は既に決定されている(Mol. Microbiol., 9, 97-109(1993))。C. glutamicumにおいてCspBは細胞表層に局在し、S-layerと呼ばれる層を形成しているが、その局在にはC末端側の疎水性に富んだアミノ酸残基領域が関与している事が知られている(Mol. Microbiol., 9, 97-109(1993))。この配列を参考にして、<配列番号20>と<配列番号22>に記載のプライマーを合成し、常法に従って(斉藤、三浦の方法[Biochem. Biophys. Act., 72, 619(1963)])調製したC. glutamicum ATCC13869の染色体DNAを鋳型として、CspBをコードする遺伝子のプロモーターを含む5'-上流域(以下、CspBプロモーター領域ともいう)、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基およびCspB成熟タンパク質のN末端440アミノ酸残基をコードする領域をPCR法にて増幅した。なお、CspB成熟タンパク質のN末端440アミノ酸残基とは、C. glutamicum ATCC13869のCspB成熟タンパク質全長469アミノ酸(配列番号3)からC末端側の疎水性領域である29アミノ酸を除いたものである。PCR反応にはPyobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。
【0101】
次に、C. glutamicumの細胞表層タンパク質CspBの成熟タンパク質N末端のアミノ酸残基をそれぞれ1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 17, 20, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400, 440残基融合させたプロインスリンを分泌発現させるプラスミドを構築する目的で、上記にて増幅したPCR反応産物を鋳型とし、それぞれ<配列番号20>と<配列番号23>、<配列番号20>と<配列番号24>、<配列番号20>と<配列番号25>、<配列番号20>と<配列番号26>、<配列番号20>と<配列番号27>、<配列番号20>と<配列番号28>、<配列番号20>と<配列番号29>、<配列番号20>と<配列番号30>、<配列番号20>と<配列番号31>、<配列番号20>と<配列番号32>、<配列番号20>と<配列番号33>、<配列番号20>と<配列番号34>、<配列番号20>と<配列番号35>、<配列番号20>と<配列番号36>、<配列番号20>と<配列番号37>、<配列番号20>と<配列番号38>、<配列番号20>と<配列番号39>、<配列番号20>と<配列番号40>、<配列番号20>と<配列番号41>、<配列番号20>と<配列番号42>、<配列番号20>と<配列番号43>、<配列番号20>と<配列番号44>、<配列番号20>と<配列番号45>、<配列番号20>と<配列番号46>、<配列番号20>と<配列番号47>、<配列番号20>と<配列番号48>に示した各合成DNAをプライマーとして、CspBプロモーター領域、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基およびCspB成熟タンパク質のN末端の1, 2, 3, 4, 5, 6,7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 17, 20, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400, 440アミノ酸残基をコードする領域をPCR法にてそれぞれ増幅した。一方、前記(i)で構築したプラスミドpPKPInsを鋳型とし、<配列番号17>と<配列番号49>に示した合成DNAをプライマーとして、PIns遺伝子領域をPCR法にて増幅し、PIns遺伝子断片を得た。
【0102】
更に、増幅させた両DNA断片(CspBプロモーター領域、ならびにCspBシグナルペプチドおよび成熟CspBのN末端の1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 17, 20, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400, 440アミノ酸残基をコードする領域の断片と、PIns遺伝子断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号49>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号49>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号23>〜<配列番号48>のプライマーは、CspB成熟タンパク質のN末端をコードする領域とPIns遺伝子との融合遺伝子を構築するためにPInsのN末端側のアミノ酸配列をコードする配列を含んでいる。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPKK1PIns, pPKK2PIns, pPKK3PIns, pPKK4PIns, pPKK5PIns, pPKK6PIns, pPKK7PIns, pPKK8PIns, pPKK9PIns, pPKK10PIns, pPKK11PIns, pPKK12PIns, pPKK13PIns, pPKK14PIns, pPKK15PIns, pPKK17PIns, pPKK20PIns, pPKK50PIns, pPKK100PIns, pPKK150PIns, pPKK200PIns, pPKK250PIns, pPKK300PIns, pPKK350PIns, pPKK400PIns, pPKK440PInsを得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、塩基配列の決定はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130 ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0103】
(iii)プラスミドpPKK17Xa-Pins及びpPKK50Xa-PInsの構築
前記(ii)で構築したpPKK17PInsおよびpPKK50PInsを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号50>、<配列番号20>と<配列番号51>に示した各合成DNAをプライマーとして、CspBプロモーター領域、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基およびCspB成熟タンパク質のN末端17または50アミノ酸残基をコードする領域に、さらにFactor Xaプロテアーゼにより認識されるIEGRをコードする領域が付加された断片をPCR法にてそれぞれ増幅した。一方、前記(i)で構築したプラスミドpPKPInsを鋳型とし、<配列番号52>と<配列番号49>、<配列番号53>と<配列番号49>に示した各合成DNAをプライマーとして、PIns遺伝子領域をPCR法にて増幅し、PIns遺伝子断片を得た。更に、増幅させた両DNA断片(CspBプロモーター領域、ならびにCspBシグナルペプチド、成熟CspBのN末端17または50アミノ酸残基(QETNPT)、およびIEGRをコードする領域の断片と、PIns遺伝子断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号49>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号49>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号50>と<配列番号51>のプライマーはIEGRをコードする塩基配列とPIns遺伝子との融合遺伝子を構築するためのPInsのN末端側のアミノ酸配列をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPKK17Xa-PIns, pPKK50Xa-PInsを得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、塩基配列の決定はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0104】
(iv)CspB成熟タンパク質のN末端アミノ酸配列とプロインスリン配列との間にFactor XaプロテアーゼもしくはProTEVプロテアーゼの認識配列を挿入した融合プロインスリンの分泌発現プラスミドの構築
ある目的タンパク質を、当該目的タンパク質以外のアミノ酸配列と融合させた形で発現させる場合、目的タンパク質のアミノ酸配列と、融合させたアミノ酸配列との間に特定の基質特異性の高いプロテアーゼ認識配列を配位する事により、発現した融合タンパク質を特定のプロテアーゼで切断し、簡便に目的タンパク質を得る方法が広く知られている。一方、基質特異性の高いプロテアーゼとして、Factor XaプロテアーゼやProTEVプロテアーゼなどが知られており、それぞれタンパク質中のIle-Glu-Gly-Arg(=IEGR)(配列番号7)およびGlu-Asn-Leu-Tyr-Phe-Gln(=ENLYFQ)(配列番号8)の配列を認識して各配列のC末端側を特異的に切断する。よって、例えば、CspB融合PInsにおいて、CspB成熟タンパク質のN末端アミノ酸残基をコードする塩基配列とプロインスリンをコードする塩基配列との間にFactor Xaプロテアーゼの認識配列(IEGR)もしくはProTEVプロテアーゼの認識配列(ENLYFQ)をコードする塩基配列を挿入した融合PIns遺伝子を構築し、融合PInsを分泌発現させる事によって、これらのプロテアーゼを用いて、簡便に融合PInsからPInsを得る事が可能となる。
【0105】
前記(ii)構築したpPKK6PInsを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号54>、<配列番号20>と<配列番号55>に示した各合成DNAをプライマーとして、CspBプロモーター領域、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基およびCspB成熟タンパク質のN末端6アミノ酸残基(QETNPT)をコードする領域に、さらにFactor Xaプロテアーゼにより認識されるIEGRまたはProTEVプロテアーゼにより認識されるENLYFQをコードする領域が付加された断片をPCR法にてそれぞれ増幅した。一方、前記(i)で構築したプラスミドpPKPInsを鋳型とし、<配列番号52>と<配列番号49>、<配列番号53>と<配列番号49>に示した各合成DNAをプライマーとして、PIns遺伝子領域をPCR法にて増幅し、PIns遺伝子断片を得た。更に、増幅させた両DNA断片(CspBプロモーター領域、ならびにCspBシグナルペプチド、成熟CspBのN末端6アミノ酸残基(QETNPT)、およびIEGRまたはENLYFQをコードする領域の断片と、PIns遺伝子断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号49>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号49>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号54>のプライマーはIEGRをコードする塩基配列とPIns遺伝子との融合遺伝子を構築するためのPInsのN末端側のアミノ酸配列をコードする配列がデザインされており、<配列番号55>のプライマーはENLYFQをコードする塩基配列とPIns遺伝子との融合遺伝子を構築するためのPInsのN末端側のアミノ酸配列をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPKK6Xa-PIns, pPKK6TEV-PInsを得た。
【0106】
同様に、前記(ii)で構築したpPKK17PInsおよびpPKK50PInsを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号50>、<配列番号20>と<配列番号51>に示した各合成DNAをプライマーとして、CspBプロモーター領域、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基およびCspB成熟タンパク質のN末端17または50アミノ酸残基をコードする領域に、さらにFactor Xaプロテアーゼにより認識されるIEGRをコードする領域が付加された断片をPCR法にてそれぞれ増幅した。一方、前記(i)で構築したプラスミドpPKPInsを鋳型とし、<配列番号52>と<配列番号49>、<配列番号53>と<配列番号49>に示した各合成DNAをプライマーとして、PIns遺伝子領域をPCR法にて増幅し、PIns遺伝子断片を得た。更に、増幅させた両DNA断片(CspBプロモーター領域、ならびにCspBシグナルペプチド、成熟CspBのN末端17または50アミノ酸残基(QETNPT)、およびIEGRをコードする領域の断片と、PIns遺伝子断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号49>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号49>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号50>と<配列番号51>のプライマーはIEGRをコードする塩基配列とPIns遺伝子との融合遺伝子を構築するためのPInsのN末端側のアミノ酸配列をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPKK17Xa-PIns, pPKK50Xa-PInsを得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、塩基配列の決定はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0107】
(v)ヒト成長ホルモンhGH遺伝子の全合成とC. glutamicumにおけるヒト成長ホルモンhGH分泌発現プラスミドの構築
ヒト成長ホルモン(human growth hormone;hGH)のアミノ酸配列は既に決定されている(Genbank Accession No. CAA23779.1)。この配列のうちN末端のシグナル配列26残基を除いた成熟型hGHのアミノ酸配列とC. glutamicumのコドン使用頻度を考慮して、<配列番号56>〜<配列番号69>に示したDNAを合成した。これらのDNAを鋳型とし、別途合成した<配列番号70>と<配列番号71>に示したDNAをプライマーとして用いて、hGH遺伝子をPCR法によって増幅し、<配列番号72>に記した約0.6kbpのDNA断片を得た。このDNA断片をクローニングベクターpHSG398(タカラバイオ社製)のSmaI部位に挿入する事によりpHSG-hGHを得た。このpHSG-hGHを鋳型にして、<配列番号70>と<配列番号71>に示したDNAをプライマーとして用いて、hGH遺伝子領域をPCR法によって増幅し、約0.6kbpのhGH遺伝子断片を得た。次にWO01/23591記載のpPKSPTG1(pPKSPTG1は、プロトランスグルタミナーゼ(プロ構造部付きトランスグルタミナーゼ)の分泌発現用ベクターであって、C. glutamicum ATCC13869株由来のcspB遺伝子のプロモーター、同プロモーターの下流に発現可能に連結されたC. ammoniagenes ATCC6872株由来のCspA(SlpA)<Genbank Accession No. BAB62413.1>のシグナルペプチド25アミノ酸残基をコードするDNA、および同シグナルペプチドをコードするDNAの下流に同シグナルペプチドとの融合タンパク質として発現するよう連結されたS. mobaraense由来のプロトランスグルタミナーゼ遺伝子を有する)、およびWO01/23591記載のpPKPTG1(C. glutamicum ATCC13869株由来のCspBのプロモーター領域とシグナルペプチドをコードするDNAを含む)を鋳型として、<配列番号20>と<配列番号73>、または<配列番号20>と<配列番号74>に示したプライマーを用いて、C. glutamicum ATCC13869由来CspBのプロモーター領域、およびC. ammoniagenes ATCC6872株由来CspAまたはC. glutamicum ATCC13869株由来CspBのシグナルペプチドをコードする領域をPCR法にて増幅し、それぞれ約0.7kbpのDNA断片を得た。更に、増幅させた両DNA断片(hGH遺伝子断片と、CspBプロモーター領域および各シグナルペプチドをコードする領域の断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号71>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したそれぞれ約1.2kbpのDNA断片を得た。なお、配列番号<配列番号20>と<配列番号71>のプライマーには制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号73>、<配列番号74>の各プライマーは各シグナルペプチドをコードする領域とhGH遺伝子との融合遺伝子を構築するためのhGHのN末端アミノ酸残基をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPS-hGH, pPK-hGHを得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、全ての塩基配列の決定はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130 ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0108】
(vi)C. glutamicum ATCC13869の細胞表層タンパク質CspBのシグナルペプチドおよび成熟タンパク質N末端アミノ酸残基、ならびにFactor Xaプロテアーゼ認識配列を融合したヒト成長ホルモンhGHの分泌発現プラスミドの構築
前記(iv)で構築したpPKK6Xa-PIns、pPKK17Xa-PIns、pPKK50Xa-PInsのそれぞれを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号75>、<配列番号20>と<配列番号76>、<配列番号20>と<配列番号77>のそれぞれに示した各合成DNAをプライマーとして、CspBプロモーター領域、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基、CspB成熟タンパク質のN末端アミノ酸残基(6、17、50残基)、およびFactor Xaプロテアーゼ認識配列(IEGR)をコードする領域をPCR法にて増幅した。一方、前記(v)で構築したプラスミドpPS-hGHを鋳型とし、<配列番号70>と<配列番号71>に示した合成DNAをプライマーとして、hGH遺伝子領域をPCR法にて増幅した。更に、増幅させた両DNA断片(CspBプロモーター領域、ならびにCspBシグナルペプチド、成熟CspBのN末端アミノ酸残基、およびIEGRをコードする領域の各断片と、hGH遺伝子断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号71>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号71>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号75>、<配列番号76>、<配列番号77>の各プライマーはFactor Xaプロテアーゼ認識配列(IEGR)をコードする領域とhGH遺伝子との融合遺伝子を構築するためのhGHのN末端アミノ酸残基をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPKK6Xa-hGH, pPKK17Xa-hGH, pPKK50Xa-hGHを得た。
【0109】
(vii)Teriparatide分泌発現プラスミドpPKK6Xa-Teriの構築
ヒトの副甲状腺ホルモンPTHの成熟体のアミノ酸配列は既に決定されている(Genbank Accession No. AAA60215.1)。このヒトの副甲状腺ホルモンPTHのN末端1-34残基までのペプチドは、骨粗鬆症薬としての生理活性を有するペプチドTeriparatideとして知られている。このTeriparatideのアミノ酸配列とC. glutamicumのコドン使用頻度を考慮して、<配列番号78>と<配列番号79>に示したDNAを合成した。このDNAを鋳型とし、別途合成した<配列番号80>と<配列番号81>に示したDNAをプライマーとして用いて、<配列番号82>に記したTeriparatide遺伝子をPCR法によって増幅した。このDNA断片をクローニングベクターpHSG398(タカラバイオ社製)のSma I部位に挿入する事によりpHSG-Teriを得た。このpHSG-Teriを鋳型にして、<配列番号80>と<配列番号81>に示したDNAをプライマーとして用いて、Teriparatide遺伝子領域をPCR法によって増幅した。次にWO01-23591記載のpPKSPTG1(C. glutamicum ATCC13869株由来のCspBのプロモーター領域と、C. ammoniagenes ATCC6872株由来のCspA(SlpA)シグナルペプチドをコードするDNAを含む)、およびWO01/23591記載のpPKPTG1(C. glutamicum ATCC13869株由来のCspBのプロモーター領域とシグナルペプチドをコードするDNAを含む)を鋳型として、<配列番号20>と<配列番号83>もしくは<配列番号20>と<配列番号84>に示したプライマーを用いて、C. glutamicum ATCC13869由来CspBのプロモーター領域、およびC. ammoniagenes ATCC6872株由来CspAまたはC. glutamicum ATCC13869株由来CspBのシグナルペプチドをコードする領域をPCR法にて増幅した。更に、増幅させた両DNA断片(Teriparatide遺伝子断片と、CspBプロモーター領域および各シグナルペプチドをコードする領域の断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号81>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合したそれぞれ約0.8kbpのDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号81>のプライマーには制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号83>と<配列番号84>の各プライマーは各シグナルペプチドをコードする領域とTeriparatide遺伝子との融合遺伝子を構築するためのTeriparatideのN末端アミノ酸残基をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、それぞれpPS-Teri, pPK-Teriを得た。
【0110】
次に、上記pHSG-Teriを鋳型にして、<配列番号85>と<配列番号81>に示したDNAをプライマーとして用いて、Teriparatide遺伝子領域をPCR法によって増幅した。また、前記(vi)で構築したpPKK6Xa-hGHを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号86>、に示したプライマーを用いて、CspBプロモーター領域、ならびにCspBのN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基、CspB成熟タンパク質のN末端6アミノ酸残基、およびFactor Xaプロテアーゼ認識配列(IEGR)をコードする領域をPCR法にて増幅した。更に、増幅させた両DNA断片(Teriparatide遺伝子断片と、CspBプロモーター領域、ならびにCspBシグナルペプチド、CspB成熟タンパク質のN末端6アミノ酸残基、およびIEGRをコードする領域の断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号81>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、両DNA断片が融合した約0.8kbpのDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号81>のプライマーには制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号85>のプライマーはFactor Xaプロテアーゼ認識配列(IEGR)をコードする領域とTeriparatide遺伝子との融合遺伝子を構築するためのFactor Xaプロテアーゼ認識配列(IEGR)をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774に記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、pPKK6Xa-Teriを得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、全ての塩基配列の決定はBigDyeR Terminator v3.1Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130 ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0111】
(viii)Teriparatide分泌発現プラスミドpPKK50TEV-Teriの構築
前記(iii)で構築したプラスミドpPKK50Xa-PInsを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号87>に示した各合成DNAをプライマーとしてCspBのプロモーター領域を含む5’-上流域とN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基と成熟細胞表層タンパク質のN末端側50残基とproTEVプロテアーゼにより認識されるアミノ酸配列ENLYFQをコードする領域をPCR法にて増幅した。一方、前記(vii)で構築したプラスミドpPKK6Xa-Teriを鋳型とし、<配列番号88>と<配列番号89>に示した合成DNAをプライマーとしてTeriparatide遺伝子領域をPCR法にて増幅した。更に、増幅させた各DNA断片(CspBプロモーターとCspBシグナルペプチドならびにCspBのN末端アミノ酸配列50残基とアミノ酸配列ENLYFQをコードする領域の断片と、Teriparatide遺伝子断片)を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号89>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、各DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号89>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号88>のプライマーはENLYFQをコードする塩基配列とTeriparatideとの融合遺伝子を構築するためのTeriparatideのN末端側のアミノ酸配列をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、プラスミドpPKK50TEV-Teriを得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、塩基配列の決定はBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0112】
(2)pPKK50TEV-Teriを用いた融合タンパク質CspB50TEV-Teriparatide(略して50-Teri)の分泌発現
(1)で構築したpPKK50TEV-Teriを用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム 1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的の融合タンパク質50-Teriのバンドを確認した。
一方、得られた形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMMTG液体培地(グルコース 120 g、塩化カルシウム2 g、硫酸マグネシウム七水和物 3 g、硫酸アンモニウム 3 g、リン酸二水素カリウム 1.5 g、硫酸鉄七水和物 0.03 g、硫酸マンガン五水和物 0.03g、チアミン塩酸塩 450 μg、ビオチン 450 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH6.7に調節)を1L容量のジャーファーメンターに300mL張り込み、アンモニアガスを添加してpH6.7に維持しながら、30℃で3日間、通気攪拌培養を行なった。
【0113】
(3)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
培養終了後、培養液をマイクロチューブに移し、遠心機を用いて12000 Gで10分間遠心し、菌体を分離した。得られた遠心上清を、細孔径0.22 μmの除菌フィルターでろ過し、得られたろ液を「菌体除去済み培養液」(「工程(1)で得られた溶液」に相当)とし、-80℃で凍結保存した。
【0114】
(4)pH変化に伴う融合タンパク質(50-Teri)の沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した主に無機塩からなる沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.4、pH6.6、pH3.8、pH1.7の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH6.6、pH3.8及びpH1.7の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。沈殿溶解液のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.3、pH8.3、pH8.1、pH7.8であった。上記、沈殿が発生したpH範囲と、生じた沈殿が中性付近で可逆的に速やかに再溶解したことを考慮すると、工程(2)において見られた沈殿現象は、一般的に不可逆であるタンパク質の酸変性現象とは全く異なる現象であることがわかった。
上記操作により得られたpH7.4、pH6.6、pH3.8、pH1.7の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、50-Teriのバンドを確認することで、pH変化に伴う50-Teriの沈殿および可溶化を分析評価した。なお、還元SDS-PAGEはAny kD
TM ミニプロティアン(登録商標) TGX
TM プレキャストゲル(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて行い、SYPRO(登録商標)Ruby(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)で染色することで、融合タンパク質50-Teriのバンドを検出した。続いて、各pHでのバンドの濃さをソフトウェア・Multi Gauge (FUJIFILM社製)を用いて数値化し、以下の計算式により各pHでの50-Teriの回収率を算出した。
【0115】
回収率(%)=[工程(4)で得られた溶液における融合タンパク質のバンドの濃さ/{工程(4)で得られた溶液における融合タンパク質のバンドの濃さ+工程(3)の固体分離後の溶液における融合タンパク質のバンドの濃さ}]×100
なお、後述の実施例及び比較例でも還元SDS-PAGEによって回収率計算を行う場合は、実施例1と同様にして実施した。
【0116】
算出されたpH7.4、pH6.6、pH3.8、pH1.7の「pH調節済み培養液」の50-Teri回収率は、それぞれ1%、95%、99%、99%であった。
図1−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。この図から、工程(2)において見られた沈殿現象は、タンパク質がその等電点において溶解度が最も小さくなる等電点沈殿現象とは全く異なる現象で有ることがわかった。
図1−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質50-Teriのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.4の「pH調節済み培養液上清」に存在していた50-Teriは、pH6.6、pH3.8及びpH1.7で検出されず、代わりに「沈殿溶解液」で検出された。
【0117】
〔実施例1−2〕
生理活性ペプチドTeriparatideを有する融合タンパク質50-Teriの製造および目的タンパク質Teriparatideの製造
実施例1−2では、実施例1と同様に、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるTeriparatide(34アミノ酸残基)(Teri)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、酵素的切断に使用されるアミノ酸配列としてproTEVプロテアーゼ認識配列を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0118】
(1)Teriparatide分泌発現プラスミドpPKK50TEV-Teriの構築
実施例1の(1)に記載の手順に従い構築した。
【0119】
(2)pPKK50TEV-Teriを用いた融合タンパク質の分泌発現
実施例1の(2)に記載の手順に従い、pPKK50TEV-Teriで形質転換したC. glutamicum YDK010株を培養した。
【0120】
(3)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1の(3)に記載の手順に従い実施した。
【0121】
(4)pH変化に伴う融合タンパク質50-Teriの沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した主に無機塩からなる沈殿を分離した。8本のマイクロチューブのそれぞれに、0μL、5μL、10μL、15μL、20μL、30μL、40μL、50μLの0.5 M 硫酸水溶液と、50μL、45μL、40μL、25μL、30μL、20μL、10μL、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清600μLずつを分注して、容量をすべて650μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.9、pH7.6、pH7.3、pH7.1、pH6.6、pH4.9、pH4.1、pH3.7の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH7.1、pH6.6、pH4.9、pH4.1、pH3.7の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.0、pH8.0、pH8.0、pH8.0、pH8.0、pH7.9、pH7.7、pH7.6であった。
上記操作により得られたpH7.9、pH7.6、pH7.3、pH7.1、pH6.6、pH4.9、pH4.1、pH3.7の「pH調節済み培養液上清」と「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGE及び逆相HPLCに供し、pH変化に伴う50-Teriの沈殿および可溶化を分析評価した。なお、50-Teri回収率の算出は逆相HPLCを用いて以下の計算式により行った。
回収率(%)=[工程(4)で得られた溶液における融合タンパク質の量/{工程(4)で得られた溶液における融合タンパク質の量+工程(3)の固体分離後の溶液における融合タンパク質の量}]×100
各融合タンパク質の量は、逆相HPLCにおける該当ピークエリアから定量した。具体的には、既知物質(IGF-1)を用いた検量線作成を行い、各測定サンプルの該当ピークエリアをこの検量線に当てはめることで、融合タンパク質の量を算出した。逆相HPLC条件を以下に示す。
System: ウォーターズアライアンスPDAシステム一式
Column: YMC-Triart C18 φ4.6 x 100mm, 粒子径5μm, 細孔径12nm
Column temp.: 30 ℃
Mobile phaseA: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 10% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Mobile phaseB: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 80% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Flow rate: 1.0 mL/min
Detection: 220 nm
Injection volume: 30 μL
【0122】
pH7.9、pH7.6、pH7.3、pH7.1、pH6.6、pH4.9、pH4.1、pH3.7の「pH調節済み培養液」の50-Teri回収率は、それぞれ0%、0%、0%、63%、95%、96%、98%、100%であった。算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係図を
図1−2Aに示す。
図1−2Bに、各「pH調節済み培養液」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図と、融合タンパク質50-Teriのバンド部分を抽出した図を示す。
pH7.9、pH7.6、pH7.3、pH7.1の「pH調節済み培養液上清」に存在していた50-TeriはpH6.6、pH4.9、pH4.1、pH3.7で検出されなかった一方、対応する「沈殿溶解液」で著量検出された。
【0123】
また、pH4.9の「pH調節済み培養液上清」と「沈殿溶解液」を逆相HPLC分析に供し、それぞれに含まれる融合タンパク質50-Teri及び不純物等を比較した結果、「pH調節済み培養液上清」中には培養液由来の不純物(例えば保持時間0分から5分のピーク群)が大量に検出されたのに対して、「沈殿溶解液」中には目的とする融合タンパク質50-Teri以外の不純物ピークがほとんど検出されなかった(
図1−2C)。このことから、本発明の沈殿による融合タンパク質の固液分離が粗精製プロセスとして採用可能であることがわかった。
【0124】
(5)融合タンパク質50-Teriの酵素的切断及び目的タンパク質Teriparatideの取得
上記(4)において、pH4.9に調節した「pH調節済み培養液」から得た沈殿物である融合タンパク質50-Teriを20mM Tris HCl緩衝液(pH5.0)で洗浄し、沈殿物に付着した培養液を除去した。次に、沈殿物を6M尿素+20mM Tris HCl緩衝液(pH8.0)で溶解し「沈殿溶解液」を調製した。この「沈殿溶解液」に超純水を加えることで10倍希釈したのちにProTEVプロテアーゼ(融合タンパク質中のアミノ酸配列:ENLYFQを認識。プロメガ社。V6102)を添加することで、融合タンパク質を、自己組織化能を有するタンパク質を含むCspB50TEVと目的タンパク質Teriparatideとに酵素的に切断し、酵素切断液を得た。
この酵素切断液を逆相HPLCで分析したところ、Teriparatideと思われるピークを検出した(
図1−2D)。
続いて、酵素切断液中に生じた物質がTeriparatideであることを確認するために、「酵素切断液」を逆相HPLCに供し、上記で示した逆相HPLC条件における保持時間18.6分付近の溶出液を取得することでTeriparatideと思われる物質を精製した。この精製物質をN末端アミノ酸配列分析及び質量分析に付し、標品Teriparatide(BACHEM, cat# H-4835)と対比した。
N末端アミノ酸配列分析は、エドマン分解法を基にしたプロテインシーケンサーPPSQ-10(島津製作所製)を用い、島津製作所推奨の方法(取扱い説明書)にしたがって行った。
質量分析は、MALDI−TOF−MS法を基にしたAXIMA−TOF2(島津製作所製)を用いて、島津製作所推奨の方法(取扱い説明書)にしたがって行った。
N末端アミノ酸分析結果について、精製物質のN末端側10アミノ酸残基は、標品TeriparatideのN末端側10アミノ酸残基と一致していた。
質量分析の結果について、精製物質を供した測定では4118.9の測定質量(測定誤差は±0.1%)が検出され、標品Teriparatideを供した測定では4118.1の測定質量(測定誤差は±0.1%)が検出された(
図1−2E)。つまり、精製物質と標品Teriparatideの測定質量が一致しており、精製物質が目的タンパク質のTeriparatideであることがわかる。本実施例で得られたTeriparatideの純度を、逆相HPLCを用いて検出したピーク面積を基に、以下の式を用いて算出したところ、94%であった。
純度 (%)=(Teriparatideのピーク面積/すべてのピーク面積の合計)x100
なお、逆相HPLCは以下の条件で実施した。
System: ウォーターズアライアンスPDAシステム一式
Column: YMC-Pack C8 φ4.6 x 100mm, 粒子径5μm, 細孔径30nm
Column temp.: 30 ℃
Mobile phaseA: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 10% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Mobile phaseB: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 80% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Flow rate: 1.0 mL/min
Detection: 220 nm
Injection volume: 30 μL
これらの結果より、精製物質がTeriparatideであること、及び、融合タンパク質から目的タンパク質を取得できることを確認した。
【0125】
〔実施例2〕
生理活性ペプチドBivariludin(ビバリルジン)の一部を有する融合タンパク質(CspB50Lys-Bivalirudin18(略して50-Biva18)の製造および目的タンパク質Bivalirudin18(略してBiva18)の製造
実施例2では、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるBivariludin(ビバリルジン)の一部(18アミノ酸残基)(Biva18)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0126】
(1)C. glutamicumにおけるBiva18分泌発現プラスミドpPKK50Lys-Biva18の構築
トロンビン阻害活性を持つ抗血液凝固薬として知られている生理活性ペプチドBivariludinは、N末端にD体のフェニルアラニン残基を持つ全長20残基からなるペプチドである。
このN末端のD-フェニルアラニン残基とL-プロリン残基を除いた18残基のペプチド(=Biva18)のアミノ酸配列とC. glutamicumのコドン使用頻度を考慮して、Biva18遺伝子を含む<配列番号90>を全合成した。
次に、実施例1(1)(iii)に記載のプラスミドpPKK50Xa-PInsを鋳型として、<配列番号20>と<配列番号91>に示した各合成DNAをプライマーとしてCspBのプロモーター領域を含む5’-上流域とN末端のシグナルペプチド30アミノ酸残基と成熟細胞表層タンパク質のN末端側50残基とリジン残基をコードする領域をPCR法にて増幅した。更に、増幅させた
DNA断片(CspBプロモーターとCspBシグナルペプチドならびにCspBのN末端アミノ酸配列50残基とリジン残基をコードする領域の断片)と、Biva18遺伝子断片である<配列番号90>を鋳型に、<配列番号20>と<配列番号92>に記載のDNAをプライマーとして用いたPCR法により、各DNA断片が融合したDNA断片を得た。なお、<配列番号20>と<配列番号92>のプライマーは制限酵素Kpn Iの認識配列がデザインされており、<配列番号91>のプライマーはCspBのN末端アミノ酸配列50残基とリジン残基をコードする塩基配列とBiva18との融合遺伝子を構築するためのBiva18のN末端側のアミノ酸配列をコードする配列がデザインされている。PCR反応にはPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。これらのDNA断片を制限酵素Kpn I処理後に、特開平9-322774記載のpPK4のKpn I部位に挿入することによって、プラスミドpPKK50Lys-Biva18を得た。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの融合遺伝子が構築されていることを確認した。なお、塩基配列の決定はBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)と3130ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。
【0127】
(2)pPKK50Lys-Biva18を用いた融合タンパク質CspB50Lys-Bivalirudin18(略して50-Biva18)の分泌発現
(1)で構築したpPKK50Lys-Biva18用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質Bivalirudin18のバンドを確認した。
一方、得られた形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMMTG液体培地(グルコース 120 g、塩化カルシウム2 g、硫酸マグネシウム七水和物 3 g、硫酸アンモニウム 3 g、リン酸二水素カリウム1.5 g、硫酸鉄七水和物 0.03 g、硫酸マンガン五水和物 0.03g、チアミン塩酸塩 450 μg、ビオチン 450 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH6.7に調節)をを1L容量のジャーファーメンターに300mL張り込み、アンモニアガスを添加してpH6.7に維持しながら、30℃で3日間、通気攪拌培養を行なった。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質バンドを確認した。
【0128】
(3)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0129】
(4)pH変化に伴う融合タンパク質50-Biva18の沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した主に無機塩からなる沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.8、pH4.7、pH2.9、pH1.6の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH2.9、pH1.6の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。分離した沈殿に、pH調節済み培養液上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.3、pH8.3、pH8.1、pH7.8であった。
上記操作により得られたpH7.8、pH4.7、pH2.9、pH1.6の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、融合タンパク質50-Biva18のバンドを確認することで、pH変化に伴う融合タンパク質50-Biva18の沈殿および可溶化を評価した。
pH7.8、pH4.7、pH2.9、pH1.6の「pH調節済み培養液」の算出された50-Biva18回収率は、それぞれ3%、5%、65%、63%であった。
図2−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図2−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質50-Biva18のバンド部分と、回収率を示す。
pH7.8及びpH4.7で「pH調節済み培養液上清」に存在していた50-Biva18はpH2.9、pH1.6で薄いバンドとなり、代わりに「沈殿溶解液」で濃いバンドとして検出された。
【0130】
次に、上記と同様の操作により、
図2−Aから求めた回収率10%を達成するpH(工程(2)で用いることのできるpHの上限値)であるpH値:約4.5よりも低いpH3.0の「pH調節済み培養液」を調製し、遠心分離に付した。得られた「pH調節済み培養液上清」と「沈殿溶解液」を逆相HPLC分析に供し、それぞれに含まれる融合タンパク質50-Biva18及び不純物等を比較した結果、「pH調節済み培養液上清」中には培養液由来の不純物(例えば保持時間0分から10分のピーク群)が大量に検出されたのに対して、「沈殿溶解液」中には目的とする融合タンパク質50-Biva18以外の不純物ピークがほとんど検出されなかった(
図2−C)。
なお、逆相HPLCは以下の条件で実施した。
System: ウォーターズアライアンスPDAシステム一式
Column: YMC-Triart C18 φ4.6 x 100mm, 粒子径5μm, 細孔径12nm
Column temp.: 30 ℃
Mobile phaseA: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 10% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Mobile phaseB: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 80% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Flow rate: 1.0 mL/min
Detection: 220 nm
Injection volume: 30 μL
【0131】
(5)融合タンパク質50-Biva18の酵素的切断及び目的タンパク質Biva18の取得
上記(4)において、pH3.0に調節した「pH調節済み培養液」から得た沈殿物である融合タンパク質50-Biva18をpH3.0の硫酸溶液で洗浄し、沈殿に付着した培養液を除去した。次に、沈殿物を50 mM 炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)で溶解し「沈殿溶解液」を調製した。この沈殿溶解液に、Trypsin(融合タンパク質中のアミノ酸配列:Lysを認識。SIGMA-ALDRICH社。T-303-10G)を添加することで、「酵素切断液」を得た。この酵素切断液を逆相HPLCに供したところ、酵素添加前に見られた融合タンパク質50-Biva18のピークは検出されず、代わりに新たなピークが検出されたことから、切断反応が良好に進行したことがわかった(
図2−D)。
続いて、酵素切断液中に生じた物質がBiva18であることを確認するために、「酵素切断液」を逆相HPLCに供し、保持時間5分付近の溶出液を取得することでBiva18と思われる物質を精製した。
この精製物質を質量分析に供し、質量を測定した結果、monoisotopic m/z で1935.8の測定質量(測定誤差は±0.1%)が検出された。一方、Biva18のアミノ酸配列から計算されるmonoisotopic m/z理論値は、Biva18の配列をMS-Isotope (http://prospector.ucsf.edu/prospector/cgi-bin/msform.cgi?form=msisotope)に入力することで取得した結果、1935.9であり、精製物質で検出された測定質量1935.8(測定誤差は±0.1%)と一致することを確認した(
図2−E)。つまり、精製物質が目的タンパク質のBiva18であることが確認された。
本実施例で得られたBiva18の純度を、逆相HPLCを用いて検出したピーク面積を基に、以下の計算式を用いて算出したところ、92%であった。
純度(%)=(Biva18のピーク面積/すべてのピーク面積の合計)x100
なお、逆相HPLCは以下の条件で実施した。
System: ウォーターズアライアンスPDAシステム一式
Column: YMC-Triart C18 φ4.6 x 100mm, 粒子径5μm, 細孔径12nm
Column temp.: 30 ℃
Mobile phaseA: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 10% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Mobile phaseB: 10 mM 酢酸アンモニウム水溶液, 80% アセトニトリル水溶液, pH7.0
Flow rate: 1.0 mL/min
Detection: 220 nm
Injection volume: 30 μL
これらの結果より、精製物質がBiva18であること、及び、融合タンパク質から目的とするタンパク質を取得できることを確認した。
次に逆相HPLCに代わり、「酵素切断液」を強陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーに供し、Biva18を精製した。
<クロマトグラフィー条件>
カラム:強陰イオン交換樹脂(HiTrap Q FF, 1 mL, GE healthcare)
A buffer (binding) 25 mM リン酸Na水溶液, pH7.0
B buffer (elution) 250 mM リン酸Na水溶液, pH7.0
流速:1 mL/min
検出:280 nm
サンプル通液量:0.3 mg-Biva18 (酵素切断液 250 μL + A buffer 750 μLで調製)
グラジエント溶出:linear gradient, 0-100%B over 20 Column Volumes (CV)
強陰イオンクロマトグラフィーの結果、酵素切断液中に含まれるBiva18はすべて樹脂に吸着し、続くグラジエント溶出において、95%B付近の溶出液を取得することでBiva18を精製した(
図2−F)。得られたBiva18の純度を、逆相HPLCを用いて検出したピーク面積を基に、前述の計算式を用いて算出したところ、83%であった(
図2−G)。
【0132】
〔実施例3〕
プロインスリンを有する融合タンパク質CspB50TEV-Proinsulin(略して50-PIns)の製造
実施例3では、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるインスリンのプロタンパク質であるプロインスリン(86アミノ酸残基)(PIns)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0133】
(1)pPKK50PInsを用いた融合タンパク質50-PInsの分泌発現
実施例1(1)(ii)に記載のプラスミドpPKK50PIns用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた各形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質バンドを確認した。
【0134】
(2)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0135】
(3)pH変化に伴う融合タンパク質50-PInsの沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.8、pH4.8、pH4.0、pH2.0の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH4.8、pH4.0、pH2.0の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」(「工程(4)で得られた溶液」に相当)を得たが、pH2.0で生じた沈殿の一部は不溶であった。「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.3、pH8.3、pH8.3、pH8.3であった。
上記操作により得られたpH7.8、pH4.8、pH4.0、pH2.0の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、50-PInsのバンドを確認することで、pH変化に伴う50-PInsの沈殿および可溶化を評価した。
算出されたpH7.8、pH4.8、pH4.0、pH2.0の「pH調節済み培養液」の50-PIns回収率は、それぞれ1%、54%、58%、60%であった。
図3−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図3−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質50-PInsのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.8で「pH調節済み培養液上清」に存在していた50-PInsはpH4.8、pH4.0、pH2.0で薄いバンドとなり、代わりに「沈殿溶解液」で濃いバンドとして検出された。
【0136】
〔比較例1〕
自己組織化能を有するタンパク質を用いない、プロインスリンの製造
比較例1では、目的タンパク質としてプロインスリン(86アミノ酸残基)(PIns)を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。しかし、自己組織化能を有するタンパク質は用いなかった。
【0137】
(1)pPK-PInsを用いたプロインスリンの分泌発現
実施例1(1)(i)に記載のプラスミドpPKPIns用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた各形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質バンドを確認した。
【0138】
(2)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0139】
(3)pH変化に伴うプロインスリン(PIns)の沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.5、pH4.6、pH4.0、pH2.2の「pH調節済み培養液」を得た。pH2.2の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌したが、pH2.0で生じた沈殿の一部は不溶であった。得られた「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.4、pH8.3、pH8.3、pH8.1であった。
上記操作により得られたpH7.5、pH4.6、pH4.0、pH2.2の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、PInsのバンドを確認することで、pH変化に伴うPInsの沈殿および可溶化を評価した。
pH7.5、pH4.6、pH4.0、pH2.2の「pH調節済み培養液」のPIns回収率は、それぞれ7%、6%、0%、7%であった。
図4−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図4−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質PInsのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.5で「pH調節済み培養液上清」に存在していたPInsはpH4.6、pH4.0、pH2.2でも検出され、「沈殿溶解液」では検出されなかった。
【0140】
〔実施例4〕
プロインスリンを有する融合タンパク質の製造
実施例4では、目的タンパク質としてプロインスリン(86アミノ酸残基)(PIns)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から250アミノ酸残基からなる配列CspB250を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0141】
(1)pPKK250PInsを用いた融合タンパク質CspB250TEV-Proinsulin(略して250-PIns)の分泌発現
実施例1(1)(ii)に記載のプラスミドpPKK250PIns用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた各形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質バンドを確認した。
【0142】
(2)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0143】
(3)pH変化に伴う融合タンパク質250-PInsの沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.8、pH4.4、pH3.0、pH1.7のpH調節済み培養液を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。各「pH調節済み培養液」は白濁せず、目視による沈殿生成は確認できなかった。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心したところ、pH4.4以下の「pH調節済み培養液」で沈殿(「工程(3)で分離した固体」に相当)を確認した。これらpH変化により生成した沈殿を遠心分離後、得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、pH調節済み培養液上清とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、すべてpH8.3であった。
上記操作により得られたpH7.8、pH4.4、pH3.0、pH1.7の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、250-PInsのバンドを確認することで、pH変化に伴う250-PInsの沈殿および可溶化を評価した。
算出されたpH7.8、pH4.4、pH3.0、pH1.7の「pH調節済み培養液」の250-PIns回収率は、それぞれ7%、66%、70%、74%であった。
図5−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図5−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液の上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質250-PInsのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.8で「pH調節済み培養液上清」に存在していた250-PInsはpH4.4、pH3.0、pH1.7で薄いバンドとなり、代わりに「沈殿溶解液」で濃いバンドとして検出された。
【0144】
〔実施例5〕
プロインスリンを有する融合タンパク質の製造
実施例5では、目的タンパク質としてプロインスリン(86アミノ酸残基)(PIns)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から17アミノ酸残基からなる配列(CspB17)を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0145】
(1)pPKK17PInsを用いた融合タンパク質CspB17TEV-Proinsulin(略して17-PIns)の分泌発現
実施例1(1)(ii)に記載のプラスミドpPKK17PIns用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた各形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質バンドを確認した。
【0146】
(2)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0147】
(3)pH変化に伴う融合タンパク質17-PInsの沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.8、pH4.6、pH3.7、pH2.0の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH2.0の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解したが、pH2.0で生じた沈殿の一部は不溶であった。得られた「沈殿溶解液」(「工程(4)で得られた溶液」に相当)のpHはいずれも中性付近で、すべてpH8.5であった。
上記操作により得られたpH7.8、pH4.6、pH3.7、pH2.0の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、17-PInsのバンドを確認することで、pH変化に伴う17-PInsの沈殿および可溶化を評価した。
pH7.8、pH4.6、pH3.7、pH2.0の「pH調節済み培養液」の17-PIns回収率は、それぞれ9%、46%、43%、45%であった。
図6−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図6−Bに、pH調節済み培養液のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質17-PInsのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.8で「pH調節済み培養液上清」に存在していた17-PInsは、pH4.6、pH3.7、pH2.0で、「沈殿溶解液」でも濃いバンドとして検出された。
【0148】
〔実施例6〕
プロインスリンを有する融合タンパク質の製造
実施例6では、目的タンパク質としてプロインスリン(86アミノ酸残基)(PIns)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から6アミノ酸残基からなる配列(CspB6)を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0149】
(1)pPKK6PInsを用いた融合タンパク質CspB6TEV-Proinsulin(略して6-PIns)の分泌発現 実施例1(1)(ii)に記載のプラスミドpPKK6PIns用いて、WO01/23591記載のC. glutamicum YDK010株を形質転換した。得られた各形質転換株を、25 mg/lのカナマイシンを含むMM液体培地(グルコース 120 g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4 g、硫酸アンモニウム 30 g、リン酸二水素カリウム1 g、硫酸鉄七水和物 0.01 g、硫酸マンガン五水和物 0.01 g、チアミン塩酸塩 200 μg、ビオチン 500 μg、DL−メチオニン 0.15 g、炭酸カルシウム 50 g、水で1LにしてpH7.5に調節)で、それぞれ30 ℃で72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して得られた培養上清を還元SDS-PAGEに供してからCBB R-250(バイオラッド社製)にて染色を行い、目的のタンパク質バンドを確認した。
【0150】
(2)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0151】
(3)pH変化に伴う融合タンパク質6-PInsの沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、5、10、30 μLの0.5 M 硫酸水溶液と30、25、20、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて130μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.6、pH4.6、pH3.5、pH1.8の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH1.8の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解したが、pH1.8で生じた沈殿の一部は不溶であった。得られた「沈殿溶解液」(「工程(4)で得られた溶液」に相当)のpHはいずれも中性付近で、すべてpH8.5であった。
上記操作により得られたpH7.6、pH4.6、pH3.5、pH1.8の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、6-PInsのバンドを確認することで、pH変化に伴う6-PInsの沈殿および可溶化を評価した。
算出されたpH7.6、pH4.6、pH3.5、pH1.8の「pH調節済み培養液」の6-PIns回収率は、それぞれ3%、34%、31%、45%であった。
図7−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図7−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質6-PInsのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.6で「pH調節済み培養液上清」に存在していた6-PInsは、pH4.6、pH3.5、pH1.8で、「沈殿溶解液」でもバンドとして検出された。
【0152】
〔実施例7〕
Teriparatideを有する融合タンパク質の製造
実施例7では、実施例1と同様、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるTeriparatide(34アミノ酸残基)(Teri)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、酵素的切断に使用されるアミノ酸配列としてproTEVプロテアーゼ認識配列を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
但し、融合タンパク質を含む溶液のpH調節に塩酸を用いた(実施例1では硫酸を使用)。
【0153】
(1)Teriparatide分泌発現プラスミド(pPKK50TEV-Teri)の構築
実施例1と同様に実施した。
【0154】
(2)pPKK50TEV-Teriを用いた融合タンパク質の分泌発現
実施例1と同様に実施した。
【0155】
(3)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様。
【0156】
(4)pH変化に伴う融合タンパク質(TerとCspB50との融合タンパク質(50-Teri))の沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、3.5、5、10 μLの1M 塩酸水溶液と10、6.5、5、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて110μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.9、pH7.0、pH5.3、pH3.1の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH7.0以下の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.5、pH8.5、pH8.4、pH8.3であった。
上記操作により得られたpH7.9、pH7.0、pH5.3、pH3.1の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、50-Teriのバンドを確認することで、pH変化に伴う50-Teriの沈殿および可溶化を評価した。
算出されたpH7.9、pH7.0、pH5.3、pH3.1の「pH調節済み培養液」の50-Teri回収率は、それぞれ2%、80%、100%、99%であった。
図8−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図8−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液の上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質50-Teriのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.9で「pH調節済み培養液上清」に存在していた50-TeriはpH7.0、pH5.3、pH3.1で検出されず、代わりに「沈殿溶解液」で検出された。
【0157】
〔実施例8〕
Teriparatideを有する融合タンパク質の製造
実施例8では、実施例1と同様、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるTeriparatide(34アミノ酸残基)(Teri)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、酵素的切断に使用されるアミノ酸配列としてproTEVプロテアーゼ認識配列を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
但し、融合タンパク質を含む溶液のpH調節に酢酸を用いた(実施例1では硫酸を使用)。
【0158】
(1)Teriparatide分泌発現プラスミド(pPKK50TEV-Teri)の構築
実施例1と同様に実施した。
【0159】
(2)pPKK50TEV-Teriを用いた融合タンパク質CspB50TEV-Teriparatide(略して50-Teri)の分泌発現
実施例1と同様に実施した。
【0160】
(3)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0161】
(4)pH変化に伴う融合タンパク質50-Teriの沈殿および可溶化
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。4本のマイクロチューブのそれぞれに、0、2、4、10 μLの10%酢酸水溶液と10、8、6、0μLのMilliQ水を添加し均一にした後に、得られた遠心上清100 μLずつを分注し、容量をすべて110μLに調製した。
これらを撹拌後、10分間静置することで、pH7.9、pH6.8、pH5.0、pH4.3の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。pH6.8以下の「pH調節済み培養液」は白濁し、沈殿生成を確認した。これら「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清をそれぞれ別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。「沈殿溶解液」のpHはいずれも中性付近で、それぞれpH8.5、pH8.3、pH8.1、pH7.9であった。
上記操作により得られたpH7.9、pH6.8、pH5.0、pH4.3の「pH調節済み培養液上清」と、「沈殿溶解液」を還元SDS-PAGEに供し、50-Teriのバンドを確認することで、pH変化に伴う50-Teriの沈殿および可溶化を評価した。
pH7.9、pH6.8、pH5.0、pH4.3の「pH調節済み培養液」の回収率は、それぞれ2%、95%、99%、98%であった。
図9−Aに、算出した回収率と「pH調節済み培養液」のpHとの関係を示す。
図9−Bに、「pH調節済み培養液」のpHと、「pH調節済み培養液上清」及び対応する「沈殿溶解液」の各電気泳動図における融合タンパク質50-Teriのバンド部分と、回収率を示す。
pH7.9で「pH調節済み培養液上清」に存在していた50-TeriはpH6.8、pH5.0、pH4.3で検出されず、代わりに「沈殿溶解液」で検出された。
【0162】
〔実施例9〕
Teriparatideを有する融合タンパク質の製造
実施例9では、実施例1及び実施例1−2と同様、目的タンパク質として生理活性ペプチドであるTeriparatide(34アミノ酸残基)(Teri)を用い、自己組織化能を有するタンパク質としてCspB成熟タンパク質のN末端から50アミノ酸残基からなる配列(CspB50)を用い、酵素的切断に使用されるアミノ酸配列としてproTEVプロテアーゼ認識配列を用い、宿主として、コリネ型細菌であるC. glutamicumを用いた。
【0163】
(1)Teriparatide分泌発現プラスミド(pPKK50TEV-Teri)の構築
実施例1と同様に実施した。
【0164】
(2)pPKK50TEV-Teriを用いた融合タンパク質CspB50TEV-Teriparatide(略して50-Teri)の分泌発現
実施例1と同様に実施した。
【0165】
(3)培養液からの菌体除去と、菌体除去済み培養液の保存
実施例1と同様に実施した。
【0166】
(4)pH変化に伴う融合タンパク質50-Teriの沈殿および可溶化と純度向上評価
凍結保存した菌体除去済み培養液を25℃で解凍し、遠心機を用いて12000 Gで1分間遠心し、凍結保存中に生成した沈殿を分離した。マイクロチューブに50 μLの0.5M 硫酸水溶液と得られた遠心上清600 μLを添加した。
これを撹拌後、10分間静置することで、pH3.7の「pH調節済み培養液」を得た(「工程(2)で得られた溶液」に相当)。このpH3.7という値は、実施例1及び実施例1−2の結果に基づき「回収率を10%以上にするpH」として採用したものである。この「pH調節済み培養液」を、遠心機を用いて12000 Gで5分間遠心し、pH変化により生成した沈殿を分離した(「工程(3)で分離した固体」に相当)。得られた遠心上清を別のマイクロチューブに移し、「pH調節済み培養液上清」とした(「工程(3)の固体分離後の溶液」に相当)。残った沈殿に、除いた遠心上清と同じ容量の緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH8.5)を添加し、撹拌すると、沈殿は速やかに溶解し、「沈殿溶解液」を得た(「工程(4)で得られた溶液」に相当)。「沈殿溶解液」のpHは中性付近で、pH7.4であった。このpH7.4という値は、実施例1及び実施例1−2の結果に基づき「工程(2)で得られた溶液のpHよりも0.1以上高く、かつ、12以下のpH」として採用したものである。
菌体除去済み培養液(操作前)と、上記操作により得られた「沈殿溶解液」とを逆相HPLCに供して50-Teri及びその他のピーク面積を求め、下記計算式を用いて純度を算出し対比することにより、上記操作に伴う50-Teriの純度向上を評価した。
純度 (%)=(50-Teriのピーク面積/すべてのピーク面積の合計)x100
なお、逆相HPLCは以下の条件で実施した。
System: ウォーターズアライアンスPDAシステム一式
Column: YMC-Pack C8 φ4.6 x 100mm, 粒子径5μm, 細孔径30nm
Column temp.: 30 ℃
Mobile phaseA: 10 mM 酢酸アンモニウム, 10% アセトニトリル, pH7.0 (pH無調整)
Mobile phaseB: 10 mM 酢酸アンモニウム, 80% アセトニトリル, pH7.0 (pH無調整)
Flow rate: 1.0 mL/min
Detection: 280 nm, 220 nm
Injection volume: 30 μL
各溶液の逆相HPLCの分析結果を
図10−A及び10−Bに示す。
図10−Aは、280 nmの波長で検出したピークを示し、
図10−Bは、220 nmの波長で検出したピークを示す。
280 nmの波長で検出した場合、菌体除去済み培養液における50-Teriの純度が11%であるのに対し、沈殿溶解液における50-Teriの純度は46%へと向上した(
図10−A)。同様に、220 nmの波長で検出した場合、菌体除去済み培養液における50-Teriの純度が46%であるのに対し、沈殿溶解液における50-Teriの純度は73%へと向上した(
図10−B)。
このことから、本発明に従う上記操作が、50-Teriを回収できるだけでなく純度も向上させることがわかった。