(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、環境影響負荷を低減させるために、一度使用したビットを再利用することが求められている。ビットを再利用するには、その健全性をチェックする必要がある。健全として評価する場合、超硬チップ周辺の強度のチェックが考えられる。ビットの強度は、超硬チップ自体の強度と、この超硬チップと母材の接合界面、すなわち、ろう付面における接合強度のうちの低い方の強度で決定することができる。これらの強度を比較すると、ろう付面の接合強度が低くなるのが一般的であることから、ろう付面の接合強度を評価できれば、ビットを再利用できるかどうかが判断できる。
【0003】
超硬チップと母材などの部材同士のろう付面を検査する方法として、超音波探傷検査が知られている。超音波探傷検査は、超音波探触子から超音波を送信して、ろう付面で反射させ、反射した超音波(エコー)を受信波として超音波探触子で取り込み、ろう付面の状況を計測することで、傷や空隙などの接合不良箇所を発見する。ところで、超音波探傷検査では、探傷面(ろう付面)への入射角度や、探傷面の焦点距離からの位置関係が異なると、探傷位置ごとに受信波の測定値精度が異なってしまうため、適切な評価を行うことができない。そこで、超音波の探傷面への入射角度を一定にし且つ探傷面で焦点距離が合うようにするために、超音波探触子の位置や向きを適宜変化させる方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
探傷対象物の表面と探傷面が平行でない場合、特許文献1のような超音波探傷方法では、超音波探触子の向きや探傷対象物との距離を変化させる必要があるが、これは煩雑な設定であり多くの手間を要する。また、前記の超音波探傷方法では、探傷面に焦点距離を合わせるために、超音波探触子と探傷対象物表面との距離が異なっているので、水中における超音波の減衰効果が一定ではない。さらに、前記の超音波探傷方法では、探傷対象物表面から探傷面までの物質内における超音波伝播距離の相違による減衰効果の違いも考慮されていない。そのため、前記の超音波探傷方法では、探傷面全体にわたって一様な評価(同じ精度での欠損箇所判定)を与えることができないという問題もある。
【0006】
このような観点から、本発明は、超音波探触子の移動が容易であり、探傷面全体にわたって同等の精度で探傷を行えるビット検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するための請求項1に係る発明は、使用されたビットの超硬チップと母材とのろう付面を検査するビット検査方法であって、実際に使用された前記超硬チップを模擬した超硬チップサンプルを同一材質で形成するか、あるいは使用されたビットから超硬チップを母材から分離して超硬チップサンプルを準備する準備工程と、前記超硬チップサンプルの背面を探傷面として超音波探傷検査を行うサンプル検査工程と、前記サンプル検査工程で得られたエコー値に基づいて、基準エコー値を選定する基準エコー値選定工程と、各測定点において測定されたエコー値を前記基準エコー値に変換する補正係数を、前記基準エコー値を前記エコー値で除して算出する補正係数算出工程と、実際に使用されたビットに対してろう付面を探傷面として超音波探傷検査を行う超音波探傷検査工程と、前記超音波探傷検査工程で得られた各測定点の測定エコー値に、対応する前記補正係数を乗じて補正エコー値を算出する補正工程と、前記補正エコー値に基づいてろう付状態の良否を判定する判定工程と、を備えたことを特徴とするビット検査方法である。
【0008】
このような方法によれば、超硬チップサンプルをサンプル検査することによって探傷面であるろう付面全体にわたる測定点の補正エコー値を得られるので、探傷面全体にわたって同等の精度で探傷検査を行うことができる。また、超音波探触子の動作は、サンプル検査と本検査とで同一条件で行うだけでよく、難しい動きをする必要はないので、制御が容易になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビット検査方法によれば、超音波探触子の移動を容易に行えるとともに、探傷面全体にわたって同等の精度で探傷を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るビット検査方法は、トンネル掘削機などで使用されたビットの超硬チップと母材とのろう付面を超音波探傷検査して、ビットが再利用可能か否かを判定するための発明である。以下、ビット検査方法を、添付した図面を参照しながら説明する。なお、
図1および
図4において、紙面左右方向をX軸方向、紙面垂直方向をY軸方向、紙面上下方向をZ軸方向とする。
【0012】
図4に示すように、ビット1は、地山を掘削する超硬チップ10を備えている。超硬チップ10は、炭化タングステンとコバルトなどの粉末を混合・圧縮成形し、焼結等して得られた超硬合金からなる。超硬チップ10は、例えば銀ろうを用いて母材20にろう付されている。母材20は、例えば炭素鋼やニッケルやクロム、モリブデン、マンガン等を含む合金鋼からなる。超硬チップ10は、厚さが一定ではなく、その表面11と背面12(母材20との接合面)とが平行でない(非平行である)場合が多い。超硬チップ10の表面11は、地山と接触して磨耗する場合もあるが、概ね平面状(断面で見ると直線状)になっている。
【0013】
超音波探傷検査は、超音波が異なる物質面において反射するという性質を利用して行うものである。具体的には、水中にビット1と超音波探触子2を浸けて、超音波探触子2から超音波を送信する。送信された超音波は、水中を伝播し、超硬チップ10の表面11側から内部に入って超硬チップ10内を伝播し、ろう付面(接合面)3で反射する。反射した反射波(エコー)は、超硬チップ10内を伝播し、超硬チップ10の表面11側から水中に戻り水中を伝播したのちに、超音波探触子2で取り込まれる。そして、取り込まれたエコー値からろう付面3の状況を計測することで、ろう付面3の傷や空隙などの接合不良箇所を発見する。詳しくは、超硬チップ10内を伝播した超音波が正常なろう付面に達した場合は、銀ろうがあるので反射強度が小さくなり、超音波が傷や空隙がある部分に達した場合は、空気があるので反射強度が大きくなる。この反射波の違いを読み取ることで、空隙等の状況を判断する。
【0014】
超音波は、水中や超硬チップ10内で減衰するが、複数の測定点で測定を行う場合、測定点ごとに水中での伝播距離や超硬チップ10内での伝播距離が異なることがある。この場合、超音波の減衰量が異なるため、そのままでは同一の精度で測定することができない。
【0015】
そこで、本実施形態に係るビット検査方法は、
図1に示すように、実際に使用された超硬チップを模擬して形成した超硬チップサンプル、あるいは使用されたビットから超硬チップを母材から分離して準備された超硬チップサンプルを用いて超音波探傷検査を行い、その検査で得られたエコー値より補正係数を算出しておき、この補正係数によって実測したエコー値を補正することを特徴とする。
【0016】
具体的には、ビット検査方法は、準備工程と、サンプル検査工程と、基準エコー値選定工程と、補正係数算出工程と、超音波探傷検査工程と、補正工程と、判定工程と、を備えている。
【0017】
(準備工程)
準備工程は、実際に使用されたビット1の超硬チップ10を模擬した超硬チップサンプル15を同一材質で形成するか、あるいは使用されたビットから超硬チップを母材から分離して超硬チップサンプルを準備する工程である(本実施形態では、超硬チップサンプル15を新たに形成している)。超硬チップサンプル15は、超硬チップ10と同等の厚さ寸法を備えており、表面の傾斜角度も同一のものであるのが好ましい。なお、超硬チップ10の形状が多数にわたる場合は、多数の超硬チップ10の厚さ寸法の平均値を求めて、その平均値を備えた形状の超硬チップサンプルを形成してもよい。つまり、「模擬した」とは、同一形状のものと、多数の超硬チップ10の形状に近似した形状のものの両方を含んでいる。なお、使用されたビットから超硬チップを母材から分離して超硬チップサンプルを準備する場合は、複数のビット1の中から平均的な形状のものを選択して、高周波誘導加熱などにより超硬チップ10と母材20を分離し、残ったろう材を研磨などによって取り除いて準備する。
【0018】
(サンプル検査工程)
サンプル検査工程は、超硬チップサンプル15の背面17を探傷面として超音波探傷検査を行う工程である。サンプル検査工程では、後に行われる超音波探傷検査工程にて行う超音波探傷検査(以下、「本検査」という場合がある)と同一の条件で、超音波探傷検査を行う。つまり、本検査と同一の超音波探触子2を用いて、超音波探触子と超硬チップサンプル15の表面16との距離、超音波探触子の向き、測定点Pなどを本検査と同一にしてサンプル検査を行う。また、超音波探傷を行う水槽の水温も同じにしておく。本実施形態の説明上では測定点P(以下、区別が必要な場合は「P
A,P
B,P
C」とする)を3つとした例を挙げて説明する。3つの測定点P
A,P
B,P
Cは、超硬チップサンプル15の厚さが変化するX軸方向に間隔をあけて設定されている。超硬チップサンプル15の厚さ寸法が厚い方から、測定点P
A,P
B,P
Cの順で設定されている。測定点P
Bは、測定点P
A,P
Cの中間点である。測定点P
Bにおいて、超音波探触子2の焦点が超硬チップサンプル15の背面17に合うようになっている。
【0019】
なお、本実施形態の説明では、ビット1の断面を用いて平面的に説明しているが、表面16はX,Y,Z軸の三次元で傾斜して拡がっているので、実際は、多数の測定点が設定されている。
【0020】
(基準エコー値選定工程)
基準エコー値選定工程は、サンプル検査工程で得られたエコー値に基づいて、基準エコー値を選定する工程である。
図2にサンプル検査工程で得られたエコー値の分布状態と、前記エコー値を色彩化処理して画像表示した図を示す。
図2の(b)に示すように、測定点P
Bにおいて、超音波探触子2の焦点が超硬チップサンプル15の背面17に合っているので、測定点P
Bにおけるエコー値がピーク点となっている。測定点P
Bにおけるエコー高が最も大きくなり(ここでのエコー高を100%とする)、焦点距離からずれるにしたがってエコー高は小さくなっている。ここで基準エコー値E
bは、基本的にエコー高の平均値とする。
【0021】
(補正係数算出工程)
補正係数算出工程は、各測定点Pにおいて測定されたエコー値E(a)を、基準エコー値E
bに変換する補正係数を算出する工程である。補正係数は、基準エコー値E
bを、各測定点P(a点)におけるエコー値E(a)で除して算出する。つまり、補正係数は、E
b/E(a)で表される。各エコー値E(a)に補正係数E
b/E(a)を乗じると、補正エコー値は、基準エコー値E
bの値となる(
図3の(b)参照)。そして、この補正エコー値を色彩化処理して画像表示すると、
図3の(a)に示すように、一色で表示される。なお、超硬チップの厚みが同じでもエコー値がばらつくことがあるため、同じ厚みにおけるエコー値の平均値をその厚みの基準エコー値として補正係数を算出し、補正係数を超硬チップの厚みの関数として与えることも可能である。
【0022】
このように、サンプル検査を行って算出した補正係数には、焦点距離や減衰効果に関する補正情報が含まれており、同一の条件下で行われるろう付面の超音波探傷検査において、全ての誤差を補正することができる。
【0023】
(超音波探傷検査工程)
超音波探傷検査工程は、複数の測定点Pにおいてろう付面3を探傷面として超音波探傷検査を行う工程である。本工程では、水槽(図示せず)内にビット1と超音波探触子2を漬けて、水中で超音波探傷を行う。水槽内には、ビット1を設置する設置台(図示せず)が設けられている。設置台は、設置角度が調整可能になっており、超硬チップ10の表面11が上向きで且つ水平になるように、ビット1が設置される。
図4に示すように、超音波探触子2は、基準厚さ寸法を有する位置(測定点P
B)に対応するろう付面3が超音波探触子2の焦点に合うとともに、超音波がろう付面3に直角に入射するように設置される。
【0024】
超音波探触子2は、超硬チップ10の表面11に沿って移動させる。これによって、超音波探触子2と超硬チップ10の表面11との距離を一定にしている。このようにしたことで、他の測定点Pにおける測定と比較して、超音波の水中での伝播距離が等しくなるので、測定点Pごとの超音波の水中での減衰量が一定となり、補正対象から外すことができる。本実施形態では、超硬チップ10の表面11が水平になっているので、超音波探触子2は水平に移動すれば、超硬チップ10の表面11に沿って移動することとなり、移動の制御が容易になる。超音波探触子2は、X,Y,Z軸の各方向に移動可能な走査装置(図示せず)に吊り下げされており、水平面に沿って移動可能になっている。なお、本発明においては、サンプル検査と本検査とが同一の条件であれば、超音波探触子2の移動経路は限定されるものではなく、必ずしも超音波探触子2を超硬チップ10の表面11に沿って移動させなくてもよい。
【0025】
(補正工程)
次に、補正工程を行う。補正工程は、超音波探傷検査工程で得られた各測定点Pの測定エコー値に、対応する補正係数を乗じて補正エコー値を算出する工程である。補正工程では、各測定点P(a点)におけるエコー値に補正係数E
b/E(a)を乗じて補正エコー値が算出されるので、補正エコー値は、超音波の減衰効果および距離振幅特性の効果を排除し,ろう付状況のみに依存した値となる。
【0026】
(判定工程)
判定工程は、補正エコー値に基づいてろう付面3のろう付状態の良否を判定する工程である。判定工程では、各測定点Pでの補正エコー値を比較して、反射強度が大きくなっている部分を空隙部分Sと判定する。補正エコー値の比較は、エコー値を二値化して行えば、容易である。また、
図5に示すように、補正エコー値の比較は、数値をモニター信号に変換し色彩化処理して画像表示すれば、視覚的に判定しやすくなる。空隙部分Sは、正常な部分と色分けしたり輝度を変えたりして表示される。空隙部分Sが一定割合未満であれば、再利用可能と判定し、一定割合以上であれば、再利用不可であると判定する。
【0027】
以上説明したビット検査方法によれば、超硬チップサンプル15をサンプル検査することによって、本検査において探傷面である超硬チップ10のろう付面3全体にわたる測定点Pの補正エコー値を得られる。したがって、探傷面全体にわたって同等の精度で探傷検査を行うことができる。
【0028】
また、超音波探触子2を超硬チップ10の表面11に沿って移動させているので、各測定点Pにおける水中での超音波伝播距離が等しく超音波の減衰効果が一定である。これによって、補正要因を少なくできるので、検査精度をより一層高めることができる。
【0029】
さらに、超音波探触子2の動作は、サンプル検査と本検査とで同一条件で行えばよく、超音波探触子2は直線状に移動させることができる。したがって、超音波探触子2は、難しい動きをする必要はないので、制御が容易になる。
【0030】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、前記実施形態では、超硬チップサンプル15を一つ形成してサンプル検査を行っているが、磨耗した超硬チップ10の形状のばらつきが大きい場合には、複数の超硬チップサンプルを形成してサンプル検査を行ってもよい。このようにすれば、超音波探傷検査の精度をより一層高めることができる。